美遊兄が行く仮想世界   作:花火先輩

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祝、水着沖田さん実装!(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ←今更
しかしながら120連で宝具レベル3とか確率壊れちゃ^~う
巫山戯るな!巫山戯るな!馬鹿野郎!


っ最新話
……どうぞ。

そう言えば、今日でこの小説書いて丁度1年経ちますね。1年で11話だけとか完結するんですかね……?



第9話 双剣、来たる

 

 

 よく、現実世界のことを気にかけてしまう。お母さんは、どうしているだろうか。SAOに囚われたわたしを、どう思っているんだろう。

 わたしは、お母さんのことが心配だ。今も1人で生活しているんだなと考える度に、胸が苦しくなる。だから、一刻も早く、このゲームをクリアしなければならない。それに、何処かにいるであろう妹のことも気になる。彼女は今、どうしているのかな。毎日毎日、これらのことが気になって気になって仕方がない。

 

 

 ──彼も、そうなのかもしれない。両親がいて、妹たちがいて。きっと、わたしと同じ、ううん、それ以上に気にかけているのかも。時々、彼はすごく悲しげな表情をするときがある。それを見る度に、彼が抱えている想いの重さが分かる気がする。

 エミヤ君。わたしが、ベータテストで出会い、成り行きでパーティーを組み、そのままパートナーになった人。普段は人を避ける性格なのに、彼とは何故か親しくなれた。惰性などではない。きっとわたしは、彼に惹かれたのかもしれない。強くて、優しくて、それに……かっこいい……。でもその裏には自分じゃ計り知れない程のナニカを孕んでいる。時折、その片鱗が出るときがあり、普段とのギャップに驚かされる。一体、どんな人生を送れば、そんなモノを抱えてしまうのだろうか。すっごく気になるけど、SAOではリアルの詮索はタブーであるという暗黙の了解がある。

 最近、エミヤ君を意識してしまうことがある。時々彼のことを考えていることもあったりする。こういうのを、恋っていうのかな。それはまだ分からない。好きかどうかって言われても、答えることが出来ないかもしれない。今はそれでもいい。いずれ、分かるときが来るかもしれないから。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 6月20日、午前8時。

 いつものようにアラームによって叩き起された俺は、のろのろとベッドから起き上がる。

「くぁぁ……」

 デカい欠伸をしつつ、おぼつかない操作でウインドウの装備欄を弄り、寝間着から戦闘用の装備に着替える。ふと思ったのだが、ここ最近、いや、このゲームが始まってからずっと宿で寝泊まりしていた。アインクラッドも着実に攻略されていっているし、そろそろ自分の家、つまりプレイヤーホームを持ってもよいのではないかと考える。

 しかしながら、家と言うのはほとんどがべらぼうに高いものばかりだ。普通のやつでもウン十万とかザラである。なので、おいそれと買える代物ではないのだが、やっぱり宿だけでは不便な部分も多々ある。先ず、キッチンがないのが大問題だ。料理スキルはもう600位まで上がっているので、調理スペースが欲しいところだ。キッチンのある宿なんてないかなと新しい層に来て直ぐに虱潰しに調べているが、アパートとかマンションとかじゃあるまいし、そんなものは存在しなかった。無念。かといって一軒家を見繕ったりもしているけどイマイチピンと来ない。まぁ、今必要ってわけでもないし、別にいいか、と判断しよう。

「さて、何をするかな……」

 今日はこれと言った予定があるわけでもない。なので、適当に街を散策しようかと考えていた。

 まあなんと言うか、暇だ。やることがない。リアルの休日にはゲーム、勉強、美遊やイリヤと遊ぶ、の3択が基本だったのだが、この世界ではいずれの選択肢もなかった。携帯ゲームでもあれば、という思考が頭を過ぎる。

 ──まさか、ゲームの中でゲームをしたくなるときが来るなんて思わなかった。我ながら度し難いな、と思いつつ、街をぶらぶらと歩く。

「ん?」

 目を向けると、1人のプレイヤーが新聞を売っていた。娯楽の少ないここでは、新聞は貴重な情報源となる。定期的に買うやつも少なくないし、俺もそのうちの1人だ。

 全く、朝からご苦労なこった。あの新聞に朝刊も夕刊もないってのに。

 とりあえず購入する。500コルとちょっとぼったくってないかと思っても可笑しくない値段だったが、それに見合った、価値のある情報を期待しよう。しかし書かれていたのはいつもとさほど変わらぬもの。攻略状況、狩場、プレイヤーホームなどのことばかりだ。やはり価格と情報量が釣り合ってなかった。それでも目を引くものもあったりするわけで。

「あのクエスト、まだクリアされていないのか」

 それは、前に紙面の大部分を占めるまでに話題を呼んでいた30層の高難易度クエだ。未だにクリアされてないとは、一体どれだけ鬼畜なのか。

「そうだ、それをやろう」

 そうと決まれば、直ぐに準備に取り掛かろう。ウインドウをいじるだけの簡単なお仕事なので、歩きながらでも出来る。そうやって簡略化されているのもSAOの利点の1つだ。

 

 

「というわけで、30層に行こう」

「いいけど、達成出来るかなぁ」

「ま、何とかなるさ」

 急な申し出にも彼女は了承してくれた。俺と同じく暇してたのだろうか。もしかしてレインもボッ──

「今、失礼なこと考えてなかった?」

「え、いや、そんなことないです」

「本当かなぁ?」

 俺の曖昧な返事にぷぅ、と頬を膨らませる。その仕草が、妙に可愛く感じてしまう。やっぱり、変に彼女を意識している節がある。なまめかしい格好でもされたらまともに直視出来ないと思う。

 頭の中からその思考を排除せんと、必死にスイッチを切り替える。今だけはそれは忘れておかなくてはならない。戦闘に支障をきたすからだ。

 30層に着いた頃には、心構えは既に変わっていた。基本、戦いには私情は挟まないようにしているためだ(例外あり)。ともあれ、これから対峙する強敵に対する興奮を覚えながら、村への道のりを歩いていく。

 

 

 

 

 その村は、外周部に近いこともあってか、到着するのにそれなりの時間を要した。現在の時刻が10時で、出発したのが9時。実に1時間かかっている。

「何気にここに来るの初めてだな」

「攻略の時も寄らなかったからねぇ」

 この村に足を踏み入れるのはこれが初だ。さして行く必要もなかったところだから放っていたのだ。

「えっと……マップだと、村長さんの家ってあっちだよね」

「あー、多分そうだと思う」

 初めて故に、構造を全く把握出来ていない。しかも無駄に広いし、余計分からなくなる。とまあ、マップデータを見つつ村長の屋敷と思しき建物を発見し、クエスト受注のキーとなる話を聞くことにした。

 

 

「「お邪魔しまーす」」

 入ると、奥に初老の男性が鎮座していた。彼がこの村の長だろう。

「おお、旅の剣士よ、このような辺境の村に何か御用ですかな?」

「……その、近くの洞窟にいる幽霊のことを知りたいのですが」

 男の穏やかな声に、しっかりと識別出来るようにはっきりと応える。

 早口言葉や曖昧な会話だとNPCが認識してくれないからだ。

「ふむ、そなたたちもあの噂を聞きつけてきたか。では1つ、お話ししますかな」

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「長かった……」

「ホントだね……」

 屋敷を出たのは、約2時間半後だった。長ったらしいにも程がある。始めの村が出来た経緯とか聞く必要性もないことを聞かされた後に本題に入るのだから随分と時間が経ってしまった。

「まあこれでフラグが立ったわけだ。さっさと終わらせよう」

「そうだね。……直ぐに終わる気がしないけど……」

「そこは……何とかなる、かも」

 釈然としない俺の言葉に、レインがふふっ、と笑う。何が可笑しいのか、と言おうとしたが、微笑む姿が可愛らしくて、つい口を噤んでしまう。そんな俺は、代わりに目を逸らすことしか出来なかった。

 

 

 その洞窟は、かなり近くにあった。歩いて5分位の場所だったので、寄り道でもしない限り直ぐに着ける距離だ。

 中は至って普通で、何か特徴があるわけでもない。出現するモンスターは虫系が多めと、これまた普遍的な洞穴だ。虫が苦手な人もいるだろうが、俺にとってはデカけりゃ獣と相違ない。

 分かれ道はなく、ただ真っ直ぐに道が続くだけ。なので、進む分にはそれほど苦にはならなかった。

 しばらく歩くと、だだっ広いホールのようなところに出た。

 そこには、悠然と屹立するやや半透明な人間が。

「いた……!」

「あれが……」

 言いながら、思わずたじろぐ。少々離れた位置からでも、ヤツの放つ圧が認識出来る。だが、ここで立ち止まるのはいけない。そう思い、意を決して話し掛ける。

「……あんたが、噂のゴーストか」

 それに応じてか、頭上の!マークが?マークに変化し、クエストが進行したことを示す。

「いかにも。俺は、俺を打ち倒す者を求めるためにここにいる」

 近づいてみると、男の容姿がはっきりと見える。青を基調とした胸当て、思わず見蕩れてしまいそうになる顔つき、そして特に目を引く一対の双剣。

 片方は長く、真紅に染まった剣。もうひと振りはやや短く、黄色い剣。その両方は、1部が紫色の布に巻かれている。一目見ても業物だと

 分かる。しかしこの双剣、何処かで──?

『……ん?ソイツは、セイバークラスのディルムッド・オディナか』

(──知っているのか)

 オルタにしては珍しく、驚いたような口調で話す。

『ああ、アレとはカル──、いや、同じ戦場で共闘したことがあってな。……にしても、かなり似すぎているように見えるな』

(へぇ……そうだったのか)

 ディルムッド・オディナ。フィオナ騎士団における最強格の騎士。二振りの魔槍、魔剣を持つ、妖精王と海神に育てられた男。異性を魅了する黒子を持ち、その顔は《魔貌》とも称されたという程にイケメンだったそうな。しかしその顔は主君たるフィン・マックールの婚約者、グラニアを惚れされてしまい、尚且つゲッシュによって駆け落ちを強制されてしまう。彼は姫の愛を受け入れて出奔し、結果、フィンは激昴するが、紆余曲折を経て騎士団への復帰を許された。

 ある日ディルムッドは妻の忠告を聞き入れずに激情の細波(ベガ・ルタ)必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)を携えて狩りへと赴き(因みに普段は破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)憤怒の波濤(モラ・ルタ)を装備している)、そこで異父弟の化身である魔猪に襲われ致命傷を負う。彼は癒しの力を持つフィンに助けを求めるが、フィンは彼を見殺しにする。それが、ディルムッド・オディナの最期であったという。

 そんな英雄と面識があったのは意外だった。英霊の座には時間の概念がないとか聞いた覚えがあるが、それと関係があるのだろうか。

「それで、どういうことだよ、自分を倒すやつを探しているって」

「……俺はもうじき消える存在。なので最後に強き者と戦い、己が未練を晴らしたいのだ。私に勝利した暁には、我が魔剣を譲渡しよう」

 この質問に答えてくれるかは正直賭けだったが、それは杞憂に終わった。というか、NPCにしてはやけに感情的だ。AIと比べてもさほど変わらないと思う程に。

「しかし、その前に貴殿らの力量を測りたい。この近くの森に猪がいる。それを打倒して欲しいのだ。達成したならば、俺と1戦交えることを約束しよう」

 新聞に書いてあった通りの流れだ。ここまでは、の話だが。

「……自分で倒せばいいのに」

 レインがやや小さい声で呟く。確かに、俺たちがやるより早く済みそうではある。

「いや、猪は、その……苦手でな」

 と、生前の逸話を意識した発言が飛ぶ。囁きに近い声だったのに、よく聴こえるもんだ。まあ、自分を殺した相手に挑む人なんてそうそういない。

「な、なるほど。わかった、行ってくる」

「ああ、武運を祈る」

 承諾すると同時に、?マークが点滅。これでクエストが1段階進んだことになる。

 

 

 ダンジョンを出て少し移動し、指定された森の中を歩いていた俺たちだが。

「……あれか」

「……あれ、だよね……」

 思っていたよりも早く、標的を捉えることが出来たは良い。しかし、なんと言うか、まあ。

「■■■……」

 これは予想外だった。

「何だこのINOSHISHI!?」

「何で猪だけローマ字なの……?」

 見上げた先には、小山くらいの大きさを誇る巨大猪がそびえ立っていた。いやそれなりには大きいんだろうなー、とは予測していたが、実物を見た瞬間に度肝を抜かれてしまった。

 体毛の殆どが血の色に染まり、本来の赤や青の毛は申し訳程度にしか残っていない。口にある立派で大きな牙は金色に輝き、根元にルーン文字が刻まれている。

「な、なあ。コイツって、そこまで強くないんだよな」

「う、うん。攻撃も単調だって書いてあったし、大丈夫……かな」

 やや頼りない声が耳に届く。自分も人のことを言えないが、こんな巨大魔猪(もの)を見せられたらたとえ仮想でも驚く。

「さて、と。んじゃあ──」

 行くか、と発しようとするが、言い終わる前に目の前の敵がこちらに突進してきた。

「ええ!?」

「そりゃないぞ……」

 コイツに兵法やら何やらはないのか、と内心毒づきながら俺たちはあちらに向かって突貫するのだった。

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 場面は変わり、再び先程の洞窟へ。

「何か、呆気なかったね……」

「ああ、とんだ肩透かしを食らっちまったな」

 あの猪は、図体はでかいが動きが単純で、対処出来るのにそう時間は掛からなかった。まあ前哨戦みたいなものなのだから強さとしてはこれが適切なのだろう。

「言われた通り、倒して来たぞ」

 程なくして、奥の大広間に到着するや否や討伐報告をする。

 それを受けて、向こうに佇む剣士の頭上にある?マークが再度点滅。クエストの進行度がシフトしたことの証だ。

「うむ。貴殿らの顔を見れば分かるとも。では約束通り、俺との決闘を認めよう。準備が出来たなら、声を掛けて欲しい」

 さすがに、今すぐとはならないようだ。時間まで与えてくれるとは、かなり良心的なクエストではなかろうか。しかし、行く前に準備の全てを整えてあるので、猶予は不要だ。というか、さっさと戦いたいと思うまである。忠実に再現した偽物であろうと、相手はあのディルムッド・オディナ。そんな強者と戦えるのは願ってもないことだ。

「いや、こっちは準備万端だ。今始めよう」

 一応レインに目線で確認を取り、了承したことを確かめてから言葉を発する。

「む、そうか。では──」

 その言葉が紡がれると同時に、NPCを示すイエローのカーソルが、瞬時にブラッドカラーへと変化した。更に、1本のHPバーと名前が表示される。《ディルムッド・ザ・ゴーストナイト》、それが彼の固有名。

「「……ッ!?」」

 それだけで、ここら一帯の空気がピン、と張り詰めた。いや、そんなんじゃ生温い。ここに居るだけでこの身が切り裂かれそうになる。それ程までの剣呑な空気が、この空間を支配していた。

『気を付けろ。ヤツの跳躍力には注意を払っておけ』

 頭の中に響く声にも接する余裕もない。しかし、折角の忠告だ。有難く受け取っておくとしよう。

 目の前の男が双剣を抜く。それを視認し、此方も咄嗟に腰に差した自らの得物を抜刀する。

 

 

「──行くぞ」

 瞬間、彼のいた地面が轟音と共に爆ぜた。

「なっ……!?」

 視界から一瞬で消えた敵を探すが、何処にも見当たらない。

 加えて、突然のことで頭が混乱してしまっている。アイツは注意しろ、とは言ったが、まさかここまでとは思わなかった。

 だが、そんな思考を遮る靄を晴らすかのように。

「上だよ!」

 相棒(パートナー)の声が俺を我に返らせた。

 正確には斜め寄り。角度からしてざっと60から70度の位置。足を曲げ、壁に張り付く双剣士。何を、と思う間もなく、2度目の爆音が耳朶を叩く。

 そして、矢の如く飛来して来る偉丈夫。いや、矢などではない。あんなの、さながら人間ミサイルだ。

 何としても食らうまいと、横に跳んで回避する。

 そのコンマ数秒後、ドリルのように両の剣が地盤を抉る。それにより、土煙が辺りを覆う。

「くっ、だ、大丈夫か!?」

「うん、わたしなら平気。そっちは?」

「ああ、俺も問題ない」

 とりあえず、互いの生存を確認する。生きているようで何よりだ。

「ほう、虚をついたつもりなのだがな。よく躱したものだ」

 煙が晴れ、ディルムッド・オディナが姿を現す。賞賛しているつもりなのだろうが、こっちは応える暇もない。

「フッ!」

 俺の方を向いた騎士が距離を詰めて来る。およそ50メートルくらいまで退避していたのだが、ヤツはそれを一瞬で踏破した。

 ぞくり、と全身に悪寒が走る。本能に従い、素早く剣の腹を自身の前に向ける。

「くぁっ……!」

 直後、剣を介して響く衝撃によって体が吹き飛ばされる。

 蹴りだ。瞬間的な加速によって威力がブーストされたソレは、俺を紙のようにぶっ飛ばしたのだ。

 地面に激突すると同時にHPバーが2割程削がれる。蹴り一発でここまで削るとは、有り得ないパワーだ。

「くっ……」

 起き上がろうとするが、間髪入れずに追撃が飛んでくる。

「うわぁっ!?」

 それを仰向けのまま転がり、紙一重のところで避ける。

 ──なんてヤツだ。動きの一つ一つが速すぎる。今までのように、完全に目で追うことは出来ない。さっきの回避も、半ば直感によるものだ。心眼を以てすればまだ余裕が出来るだろうが、多大な集中力を要するのであまり使える場面がない。

 それでも──勝つためならば、如何なる手段を用いてでもやるしかない。

 

 

 剣士が狙いをレインに変える。一撃すら入れてないので、ヘイトがどちらかに向けられていない状況だ。標的を変更したのはそのためだろうと推測する。

「ハァッ!」

 敵の紅い剣が煌々と輝く。ソードスキル発動のサインなのだが──

「いや、アイツ二刀持ちだろ!?」

 通常、ソードスキルと言うのは、1つのみ武器を把持している場合に使用出来る設定となっている。二刀流を再現しても、剣技は構えを取ってもシステムアシストが発生しない。故に基本は装備する武器は1つだけが当たり前なのだ。しかし、視線の先の男はシステムの縛りを無視している。彼にのみ許された特権なのか、はたまた別の何かであるのか。

 

 

 赤剣を肩に担ぐような予備動作(プレモーション)と共に、敵がレインに肉薄する。というか、その構えにも驚かされた。何せ、あのモーションはどのソードスキルにも当てはまらないものだからだ。

 直後、嵐の如き剣閃が彼女を襲った。

「きゃあっ!?」

 煌めく刃が縦横無尽に攻め立て、怒涛の連続攻撃が押し寄せる。その数、何と7連撃。

 時折ガードしきれずにヒットしてしまい、視界の左上に表示されているレインのHPバーが減少する。

 そんな連撃数の剣技など、今まで見たことも聞いたこともない。片手剣のスキルであることは間違いないとは思うが、少なくとも俺は習得していない。であれば、未だに会得されていないソードスキルなのか──

「片手剣7連撃、《デッドリー・シンズ》」

 その疑問を見透かすように、ディルムッドがご丁寧に教えてくれた。それも、わざわざ追撃を止めてまで、だ。

「より上位のスキルってことか」

「ああ、剣の技量をより高めた者しか習得出来ぬ技だ」

 言葉から察するに、スキルの熟練度をもっと上げないといけないのだろう。低く見積もったとしても700は必要になるかもしれない。

「さて、続きと行こう」

 そして、またもや地面を強く蹴って突撃して来る。倒れ込むギリギリの状態で剣を左腰に添えるモーションは《レイジスパイク》だ。やはり驚異的な速さを誇るエネミーなので、基本技であろうと油断は出来ない。

 だが、このままやられっぱなしという訳にもいかない。

「……ッ!」

 無音の気合いと共に、《ホリゾンタル・スクエア》を発動する。1撃目で突進を相殺し、そのままの勢いで正方形の軌跡を描く。それにより、ヤツのHPが目に見えて削られた。体勢が崩れたままの男に、先程の勢いを殺さずにもう一度同様の剣技を使用する。

 敵は後退せずに、技後硬直(ポストモーション)が終わるや否や、《スネークバイト》を繰り出してくる。それを見て、此方も同じ技で迎え撃つ。

 刃と刃がぶつかる度に火花が散り、耳をつんざく金属音が響き渡る。

 技を終え、短めの硬直から解放され、1度下がろうとするが。

 

 

「いいや、まだ逃がさん」

 全く振るわれていなかった左の黄剣が、光を発した。

 3連撃、《シャープネイル》が魔獣のツメを思わせる鋭さで俺の体を引き裂いた。

「ぐぁっ……!」

 有り得ない現象に惚けていたせいでまともに食らってしまい、一気にHPが半分以下に減る。

「ソードスキルの……連鎖!?」

 これにはレインも驚いたようで、驚愕の声をあげている。

 まあ無理もない。あんな芸当なんて出来る筈がないのだから。いやしかし、二刀流でソードスキルが使えるのならば理論上は可能なのかもだが、それでも肉入りのプレイヤーがやるのなら、それこそ並の集中力では実現出来ないだろう。

「……スイッチ!」

 まだ不快感が残る体を無理矢理動かして、全力で後退すると同時に敵の後ろにいるパートナーに合図を送り、やや値段の張る上等なポーションを飲む。

 それに反応したレインが棒立ちの姿勢から転じて即座に攻撃を仕掛ける。

 技後の硬直が終わらず、無防備な姿を晒した剣士に《バーチカル・スクエア》を放つ。幸運なことにその全てがクリティカルヒットし、敵のHPが半分を切った。どうやら体力は異常に高い、という訳ではなさそうだ。

 後ろを振り向いた剣士が両腕をクロスする。それに応じてか、左右の剣が赤と黄色の光を湛える。ってか、何故か射程が光によって伸びている。

 交差した腕を振り抜き、強烈な剣撃を放つ。

「うわぁっ!」

 何とか防御に成功したレインだが、衝撃により大きく後方に飛ばされてしまう。

 HPが粗方回復したのを確認して、合図なしのスイッチを仕掛ける。それを察知した剣士が即座に襲い掛かってくる。

 激しい剣戟の応酬の中、相手の強さをつくづくと感じていた。俺の攻撃を先読みしてのカウンターやフェイントなど、常人では真似出来ぬ技術だ。正直に言って賞賛に値する。

「まだだ、断ち斬るッ!」

 やがて、剣戟の調べを途切れさせ、2つの剣を大上段に構え、そして振り下ろした。その刃に閃光を奔らせて。

「う、おおぉぉっ!」

 叫びと共に、敵の技を迎え撃つべく《バーチカル・スクエア》を繰り出す。斬り下ろされる剣を2連撃でその威力を減衰させ、3回目で鍔迫り合いに持ち込む。ここからは力勝負だ。鍛え上げた筋力パラメーターにものを言わせ、何とか拮抗する。だがこのままでは弾かれてしまう。なので──

「レインッ!」

「任せて!」

 回復を終えたレインに背後から強襲してもらうことにした。明らかに騎士道に反する行為だが、戦闘において事の善悪などなく、ただ勝つのみである。

 結果、彼女の《ソニックリープ》は面白いようにヒットし、体力を大きく削る。

「ぐうっ……!」

 剣士が苦悶の声をあげ、姿勢がぐらりと崩れる。その隙を逃さず、一気に力を込めて辛くも競り勝つことに成功する。

 そして最後の4連撃目の垂直斬りが敵の体を捉えた。

 それに少し遅れて、剣士が後ろへと退く。

「……よもやここまでとは……ならばオレも、本気を出さねばならないな」

「な……」

 なんてこった。まだ全力じゃなかったってのか。それでこの強さなんて、ホントに鬼畜ゲーだ。

 

 

 目の前の敵がゆったりと動く。左半身を前に、右腕は体に寄せて剣を肩に添えている。

(今度は何をする気だ?)

 と、俺の思考と重なるように、紅の刃が更に濃いレッドに染まる。今のは予備動作だったのか。それに、《デッドリー・シンズ》とやらと同様、まだ見たことのないモーションだ。

「ぬんっ!」

 直後、掛け声と共にカタチを持った暴威が俺を襲った。

 それを見て防御の体勢を取る。それのコンマ数秒後、突き出された剣が激突し、絶大な衝撃が全身を叩き、吹き飛ばしによる本日何度目かの浮遊感を味わう。

「ぐ、あぁぁぁぁっ!」

 またしても俺の知らないソードスキルが放たれた。今までのどの技よりも重く、そして鋭い一撃だった。咄嗟のガードが間に合ったのは僥倖だった。お陰でHPは半分削れるくらいで済む。いや、満タン近くからここまで減らすなど、最早チート級の威力だ。これほどのパワーを持つ剣技だ。突進技、或いは単発重攻撃系のスキルだろうか。

「エミヤ君!」

 仰向けになって倒れ込んだ俺の下にレインが駆け寄ってくる。

「参ったな……まさかあんなソードスキルがあったなんて……」

 まだ残る鈍い痛みに顔を顰めつつ、上体を起こす。

「あっ、待って!」

 そう言うと、彼女は腰のポーチからあるものを取り出す。それはピンク色の、手のひらサイズの結晶だった。それを左手に持ち、右手を俺の胸に当てて「ヒール!」と叫ぶ。すると、俺のHPが端まで一気に回復する。

「お、おい、貴重な回復結晶だろ?こんなところで使っても──」

「いいの!また補充すればいいんだから」

 俺の言葉を遮り、有無を言わさぬ勢いで捲し立てる。こういう時に限って「女性って凄いな」などと場違いなことを思ってしまうのは何故だろう。

「そりゃあ、そうだけどさ」

 しかし回復結晶が貴重なのは本当だ。何せちびちびと回復していくポーションとは違って即時治癒が可能だからである。それと、結晶アイテムは軒並み高額なのが殆どだ。中でも回廊結晶(コリドークリスタル)は1番値の張る代物で、現時点では10万は下らない。

「ふむ、相棒のためならば希少な道具でさえ使うことを惜しまないか。なるほど、貴殿らは相当仲が良いのだな」

「えっと……そう、ですね」

 剣士の言葉にレインが何故か顔を赤くして答える。妙にあたふたしているが、照れているのか。

「……回復もしたし、そろそろ行くぞ」

 余計なことを考えるのを止めて、ゆっくりと立ち上がる。既に敵は瀕死。だが、手負いの者程手強いと言うので、ここで決着をつけたいところだ。

「ああ、来るがいい」

 短い会話を済ませ、互いに体を動かす。そして再び始まる斬撃のぶつけ合い。下手にソードスキルを撃てば隙を晒してしまい反撃される可能性が高い。故に、今はシステムに頼らず、己の闘争本能に身を任せて自分の持つ技量の全てを以て立ち向かう。

 何も考えずに、無心で剣を振り続ける。そうでなければまともに太刀打ち出来ない。敵も本気だ。なら俺も相応の力を示すのが当たり前だ。届かぬかもしれないが、それでも俺は自身の勝ちをイメージした。現実で至らないのであれば想像の中で勝てばいい。勝利できるモノを幻想する。そのために今まで培ってきた技と数多の英霊たちの術理を駆使し、ようやく互角の勝負に持ち込んだ。だがこれで終わらせない。勝ちたい、ではなく勝つのだ。

 数分にも及ぶ剣舞の果てに、双方の剣が弾かれ、両者に隙が生じる。俺も、剣士も後ろに跳び、間髪入れずに次のモーションに入る。

 

 

 あちらは先程の単発技の動き。対して此方はカウンター気味に構える。恐らくこれが最後の攻防。それを意識し、感覚を極限まで研ぎ澄ませる。やがて周囲の風景から色彩が消え、眼前の剣士のみを視認するに至る。

「フッ!」

 声と共に、敵の姿が掻き消える……ように見えた。実際は物凄い速さで突進しているだけだ。僅かに遅れて、俺もソードスキルを発動させる。

 ヤツの腕が伸び、刃の切っ先が向けられる。本来ならばガードするしかない脅威の技。されど今となっては向こうの動きがコマ撮りのようにはっきりと見て取れる。動作に限らず、知覚の加速によって時間そのものが緩やかに感じる。1秒、一瞬でさえ分単位に思えてくる程に。

 

 

 間合いが数メートルになったところで、左腕を前に差し出す。同時に、首を右に傾ける。その間もなく剣が腕を貫き、半ばから斬り落とされる。視界端のHPバーの下に部位欠損アイコンが表示されるが、気にする必要はない。

「───!」

 レインが何か叫んでいるが、それが俺の耳に届くことはない。ただ、目の前の敵に集中するのみだ。

「くっ……」

 腕を落としただけでは勢いは止まらず、続けて心臓部の少し上辺りに突き刺さる。更にバーがぐいっと減少し、赤の危険域にまで達する。

「ぐ……おおぉぉぉぉおッ!!」

 裂帛の気合いと共に、右の剣を横に薙ぐ。腹のど真ん中で止められた刃を90度回転させ、埋まりかけた刀身を深く押し込む。続いてくるりと体を前後反転。刺さった剣を担ぎ、持ち上げ──

「はああああぁぁぁ!!」

 雄叫びを乗せて放たれた縦斬りが、剣士の腰から上を斬り裂く。

 3連撃、《サベージ・フルクラム》が敵のHPを余さず刈り取った。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 辺りを静寂が包む。さっきまでの雰囲気が嘘のようだ。互いの地面を踏み鳴らす音も、金属音も何もない。まるで嵐が過ぎ去ったあとみたいだ。

 やがて、剣士が背中越しに言葉を発した。

「……見事。まさか、本当にオレを倒すとは……。貴殿らの絆の力、しかと我が身に刻まれた」

「「……」」

 何も言うことはない。勝利の余韻がまだ抜けないでいた。

「では約束通り、この双剣を託そう。どうか受け取って欲しい。これを持つのは、貴殿らこそ相応しい」

 その言葉と同時に、彼の手から剣が消え、ストレージに新たな装備が追加される。

「《封印の赤剣》と……」

「《封印の黄剣》……」

 どうやら双剣はそれぞれの片割れを2人が持つ、という仕様のようだった。俺が赤、レインが黄色の剣を手に入れた。しかし、封印、とは一体どういうことなのだろうか。

「その名の通り、その武器には封印が施されている。これを解くには、45層、61層、85層にて解封の試練を達成しなければならない」

 それは恐らく、剣に巻かれた紫の布のことだろう。試しに布を解こうとするが、どんなに力を入れてもびくともしない。やはり、正規の方法でないと無理だということか。

「だが試練はどれもかなりの難度を誇る。それに、そこに至るまでの道のりは長く険しいだろう。中でも《天柱の塔》は特に過酷だと聞くからな」

 布を引っ張ったりして四苦八苦していると、剣士が徐ろに口を開いた。それに、彼の台詞の中に懐かしいワードが入っていた。

《天柱の塔》。3~9層のエルフたちが口にしていた、彼ら特有の迷宮区の呼び名。ディルムッドは妖精王の子なので、その単語を知ってていても可笑しくはないのかもしれない。

「しかし、オレを打ち倒した貴殿らならばこの先の道も乗り越えられるだろう。その双剣も、必ず力になってくれる」

 喋り終えると、剣士の体がポリゴンを散らして半透明になる。既に彼の体力はゼロ。そろそろ消える頃合いであろう。

「あっ……幽霊さん、体が……」

「当然の結果さ。今は意志力で現界を保っているに過ぎない。貴女の嘆きは分かるが、これも運命(さだめ)なのだ」

「それで、いいのか?」

「ああ。最期に、強き者たちと戦えた。それだけで、オレはもう満足した。……未練はない。これからは、天から貴殿らの旅路を見届けるとしよう」

 俺の言葉に、笑みを浮かべて返す。戦士だからか、その辺りはやけにさっぱりとしていた。仮想世界と現実の彼はただの赤の他人だ。掲げる想いも、信念も違う。なのに俺は、ケルト神話のディルムッドもあれ位にさばさばしているのだろうと思っていた。

「……そうか、悔いは……ないのか」

 そう言う俺はどうか。前世での悔恨は捨ててきたと言ったが、実際はどうだろう。残らないと言えば嘘になる。あの選択は本当に正しいのか。もしかして間違っていたんじゃないのか。そう思った時もあった。だが、新たな生を受けたこの世で、美遊の幸せそうな顔を見ていると、きっとこの願いは、選択は、決して間違いなんかじゃない。そう確信した。今はそう信じている。

「うむ。……さて、もう別れの時間だ。長いようで、とても短かったな……。本当に、心の踊るひと時だった」

「お前……」

「では、さらばだ。貴殿らの道行きに、どうか幸多からんことを……」

 そう言い残して、朧気な光と共に、その体は無数のポリゴンとなって爆散していった。

 残った光の粒が消える完全に消えるまで、俺たちは天井を見上げていた。

「……行っちゃったね」

「……そうだな」

 残滓が霧散し、元の静けさと薄暗い雰囲気に戻る。勝ったという実感はあるのに、己の精神がそれを反映出来なかった。クエスト達成を示すウインドウを消し、レインの方へと向き直る。

「……帰るか」

「うん」

 あまりにも短い対話を済ませ、出口を目指して歩き始める。

「──そうだ、今日はレストランじゃなくて、何か作ろうか」

「本当!?ふふっ、今日はどんな料理を作るのか、楽しみですなぁ」

「ああ、期待しておいてくれ」

 外へ出て、空を見上げる。

 沈みゆく太陽に照らされた夕焼け空を見ると、()の剣士が彼方から俺たちを見守っているような気がした。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 34層のとある場所で、1人の少年が岩に座って橙色の空を眺めていた。

 灰色の髪に、同色のフードと装備品。そして背には仰々しい大鎌を背負っている。

「……んむ」

 ボソボソの黒パンを咀嚼し、飲み込む。あいも変わらず味気のない小麦粉の風味にやや顔を顰めつつ立ち上がる。

「帰ろっか」

 3分の1程に減った黒パンをひと息に食し、先にある獣道へと進む。

「何時になったら会えるのかなぁ」

 ぼそっと口にした言葉は、誰にも聞こえることなく──

 

 

 

 

 

「……和人先輩と士郎先輩に」

 ただ、森の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 




ひとつの事柄のもっと先のことを考えてしまう現象なんなのよ。何故かアリシゼーション編とかどうしようって度々思ってしまうのです。なんでさ。
存続はできるだけ約束しますので今後ともよろしくお願いします。
さて現時点での士郎とレインの絆レベルは6の手前といったところでしょうか。8でゲーム内結婚、10でリアルに発展、と言う設定にしています。
9月になったらギル祭ですね(多分)。林檎の貯蔵は十分か。
ではまた。


次タイトルは『灰の死神(グレイマン)』です。

感想、評価オナシャス!センセンシャル!





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