今回は初めての三人称視点です。
ガバガバなところが多々あるとは思いますが、そこは優しく指摘してくれると有難いです。
後今回は短め。
先輩たちに触発されてSAOを購入したはいいが、まさかこんなことになるとは思わなかった。デスゲーム。生き地獄とは正にこのことを指すのだろう。GMからの宣告を受けて、この世界はその有り様をがらりと変えた。閉じこもる人がいれば、錯乱して自殺する人もいた。けれども僕はそんな状況でも冷静を保っていられた。現実だろうが仮想だろうが関係ない。命のやり取りなんて既に慣れていたから。それに、こんな所で死ぬ訳にもいかない。死んではいけない。そうなってしまったら、今まで先祖たちが積み重ねてきたモノが全て崩れ去ってしまうからだ。
1500年。それが僕の家系の歴史。受け継いできた魔術の全てが僕の体に刻まれている。
魔術刻印。呪いであり、家宝でもある神秘。それを若くして継いだ僕は、少なくともこのゲームがクリアされるまで生きなければならない。曾祖父の代から根源への到達は諦められたものの、一族が遺した歴史をおいそれと捨てることは許されない。だから僕は生きる。それが義務というものだ。
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7月30日。リアルでは夏休み真っ盛りなこの時期だが、ここでは例外というもの。そんなものは存在しない。その気になればずっと休むことも出来るが。しかしながら、ログアウト不可のこの現状では、殆どの人が何かしらのアクションを起こしている。街に篭ったままだと宿と飯で金は減るし、尽きればそれこそ死活問題だ。否、別に死ぬことはないが、やはり仮想世界だろうと人間は人間。3大欲求には勝てっこない。SAOに於いても、食欲と睡眠欲は働く。腹が減ったり、眠くなったりするものだ。性欲……はどうだろうか。そもそもこのゲームでは基本、"そういうこと"は出来ないようになっている(但し、現在では、の話だが)。それは《ハラスメント防止コード》と言うものがあるからだ。これがある限り、異性に対して卑猥な行為をすると相手の選択によっては黒鉄宮の牢に強制的にぶち込まれることになる。
「ぅん……」
と、ここにも己が欲求に突き動かされて眠りについていた者が1人。
まずは寝袋から出る。人によってはサナギから成虫になる蝶のようにも見えなくはない……かもしれない。そして一通りの準備を済ませて何時ものレベリングと洒落込む。
彼のプレイヤーネームはヒイラギ。リアルネームは天城柊。アインクラッドで初めてエクストラスキルの《大鎌》を獲得したプレイヤーだ。
彼は見かけに依らず、両手用の重い武器を得意とする。外見は華奢だが着痩せするタイプのようで、エミヤやキリト曰く、脱げば中々のものらしい。
やがて獲物を見つけ、やや白く濁った眼球をモンスターに向ける。
ヒイラギの1.5倍はある体高の猿人だ。《ドランクエイプ》の名を持つこの猿人は、《迷いの森》で出現する中では最強クラスのモンスターだ。一撃が重い代わりに機動力は低く、攻撃パターンさえ読めれば楽に倒せる相手なのだが、その欠点を埋める要素が《スイッチ》である。スイッチは何もプレイヤーだけの技術ではなく、人型やそれに近いカタチを持ったモンスターなら複数体いれば使用してくる。
棍棒を振りかぶって雄叫びを上げる猿人を見て、彼も目深に被ったフードを浅く被り直す。
振り下ろされる棍棒を後方へのステップで回避し、一気に前進。助走を十分につけて大鎌スキルの突進技《デスアサルト》をヒットさせる。
横薙ぎを避け、続いて連続攻撃を仕掛ると、あっという間に敵のHPをレッドゾーンにまで減少させた。
とここで、追撃を阻止するようにもう1匹のドランクエイプがスイッチしてくる。後ろに注目すると、1匹目が壺の中の回復薬を飲んでいる。
こうなってしまえば、傷ついた端から前衛を交代して後衛が回復、という無限ループになってしまうので、何としても止めなければならない。
辺りを見回し、岩の上に倒れた樹木を発見すると、ヒイラギはそこに向かって猛然とダッシュした。木を利用してジャンプし、更に猿人の肩に乗ってもう一度跳ぶ。壺の液体をぐびぐびと呷っているエイプの首目掛けて、単発技《ネックハント》を放ち頭を切断する。この技は首狩りの名の通り、頸部に当てると確定でクリティカルになる変わったソードスキルだ。狙いにくいが、命中すれば大ダメージを狙える。
急所の首を断たれ、ポリゴンの粒となって霧散した猿人に目もくれずに次の標的へと怒涛の連撃を仕掛ける。ものの数十秒で体力を半分まで削るが、今度は3匹目が前に出てきた。せめて後ろに下がることだけは避けたいと考えたのか、ヒイラギは先程の猿人の両足を《ツイン・スウィープ》2連撃で断ち切る。迫り来る棍棒を難なくいなし、ソードスキルで確実に仕留める。そのまま、1人だけになって慌てふためく敵に《テリブルクロウ》5連撃で切り倒した。
その後も狩りを続け、何度目かの戦闘を終えると、ヒイラギの周囲をエフェクトが舞い、ファンファーレが鳴り響く。どうやら、レベルアップしたようだ。それを確認したヒイラギは3つ得たポイントを筋力に2ポイント、敏捷に1ポイント割り振る。
「さて、と。3日ぶりに街の宿屋にでも泊まろうかな」
数日間、ずっとこの森の安全エリアで寝泊まりしていたヒイラギは、さすがに寝袋の感触に飽き飽きして来た頃だった。快適な寝心地を求めるべく、主街区に帰還しようとしたとき、ヒイラギはあるものを発見した。
「……あれ、こんなところにワープゾーンなんてあったっけ」
いつの間にか、エリアの端に到達していたようだった。迷いの森はその名に偽りのない構造になっている。具体的には、無数のエリアが碁盤目状に並んでおり、ひとつのエリアに一定時間居ると、四方の隣接エリアとの繋がりがランダム変化していまうという厄介極まりない設定だ。故に、森の攻略には主街区の道具屋に売っている地図アイテムが必須となる。それがなければ、運に頼るしかない。
強制転移を回避すべく、全力ダッシュで転送ゾーンに飛び込むと、木々が鬱蒼と生い茂るどこにでもあるエリアとは異なり、かなり開けた場所に出た。更に視線を上げると、眼前には超巨大なモミの木が立っていた。
「デカいな……」
何らかのイベント関連かと連想し、巨木の目の前に立つヒイラギだが、何かが起こる様子はなかった。試しに鎌で切り付けてみても紫色の小さな窓に《Immortal Object》と表示されるだけだ。つまり、この木は絶対に倒れないことになる。
「いいや、帰ろう」
特に変わった様子はない、と断定したヒイラギは、今度こそ帰路に着く。時折地図と睨めっこしつつ、出口に向かって走る。途中、何度か戦闘になったが、難なく突破し、漸く迷いの森を出ることが出来た。
ここまでにかかった時間は1時間強。手慣れたプレイヤーでも脱出にこれほどの時間を要するのがあのダンジョンの恐ろしいところだ。
「夕方、か」
そう言って、ヒイラギは眉を動かした。森では木々が邪魔をして上手く空が見えなかったが、実はかなりの時間が経っていた、ということに驚いていたのだ。
ここから主街区まではそれなりの距離がある。徒歩でざっと45分くらいかかる程に遠く、離れているのだ。街で借りられる馬を用いれば時間を短縮出来るが、その手の動物を操るには《騎乗》スキルが必要であり、習得してないと思うように操作することが出来ない。というかそのスキル自体取得しているプレイヤーの数は圧倒的に少ない。
馬もないので、仕方なく何時ものように歩きで街に向かっていたヒイラギは、視線の端にあるものを捉えた。1人の女性プレイヤーと、黄金の一角を持った牛型モンスターが複数。あのモンスターは《ゴールデンホーン》の名前を持ち、その名の通りの特徴的な金角は商人に売ればそれなりの額になる代物だ。
「ん?あの人は……」
ヒイラギが目先の人物に焦点を当てると、その姿が《ディテール・フォーカス・システム》によって細部まで写し出される。このシステムはプレイヤーが注目した風景やオブジェクトをより細かく見せると言うものである。これに関しては、全ての景色をリアルに再現するとリソースを使い果たしてしまうため、このシステムが採用されている。
写された人物は、銀髪青眼の、赤のコートにその身を包んだ少女だ。手には喑赤色の剣が握られている。表情からして劣勢なのは明らかだ。
数では不利だと判断した彼は、助太刀に向かうことを決めた。
木にぶら下がった
「!?」
「ブモォッ!?」
ヒイラギという闖入者に、双方が驚愕する。それに構うことなく、《デビルズクロウ・スクエア》を頭部に叩き込む。計4回の斬撃によって、牛の硬い皮膚諸共その首を切断した。牛の消滅に目もくれず、地面に立つと同時に少女の方へと向き直る。
「あ、あなたは……」
「話は後にしよう。今は、アレを倒すことに専念すべきだよ」
少女の言葉を遮り、ヒイラギが口を開く。
「……確かに、そうですわね。では、あなたはあちらの3頭をお願いしますわ」
「OK。的確に行こう」
そう言って、ヒイラギは流れるような連撃で敵を圧倒していく。たちまち1匹目を撃破し、次の獲物に目を向ける。突進を回避し、角振り回しを弾く最中にちらりと少女の方を見やる。最前線に近い層にソロで戦っているからか、彼女の実力は相当なものだ。加えて、敵のHPを吸収するあの剣のお陰で体力面も問題ない。今もモンスターの攻撃によって減ったHPが敵を倒すとみるみる内に回復していく。
便利だなぁ、と心の中でぼやきつつ、続く2匹目も難なく倒す。
「……ん」
それに合わせてか、最後の敵が猛烈な勢いで突進してくる。スキルの硬直が解除されると、ヒイラギは避けの姿勢ではなくただ正面で棒立ちしている。
「これが止まるんじゃねぇぞってやつかな?」
「
「No。心配ないよ」
モンスターの方に顔を向けると、下げていた鎌を再び構える。猶予は3秒程だ。
「
突然の詠唱。ヒイラギの口から英語の羅列が紡がれる。このゲーム内では魔術の使用は不可能だが、彼は己を奮い立たせるためにこれを行う。そして、彼は先の詠唱をコンマ数秒で読み終える。熟達した魔術師ならばこれくらいは朝飯前である。
──1秒。
牛が徐々に距離を詰めてくる。
──2秒。
それを見て、ヒイラギは腕に込める力を強める。
──そして、3秒。
突撃が当たる前に、彼は鎌を振り下ろし、溜めた力を一気に解放した。
パワーの乗った一撃を食らった牛は、頭上にちかちかと点滅する光を取り巻きながら転倒する。今のヒイラギの攻撃によってスタンしたのだ。
「なっ!?有り得ませんわ!斬撃武器でスタンを取るなんて……!」
「まぁ、それはこの鎌の効果かな」
彼の装備している鎌の固有名は《プライド・シン》。傲慢の罪を意味する名だ。この武器には頭部に攻撃を加えると、低確率でスタンの状態異常を与えるという特殊効果がある。
「さて、Finishだ」
倒れた敵に近づき、ヒイラギは止めの一撃を食らわせる。一瞬の硬直の後に、モンスターはその姿を霧散させた。
「ふぅ、何とか倒せたね。怪我はなかったかな?」
「当然ですわ。それと、別に助けを求めたわけでもないのですけど」
「そう言ってる割には、結構苦戦してたみたいだけど?」
「うっ……そ、それは……」
ヒイラギの鋭い指摘に、少女が言葉を濁す。
「……ですが、私にはこの《フィンスタニス》がありますのよ。あの数ならば十分に対処出来ましたわ」
だが、少女の方も負けじと反撃する。
「《ゴールデンホーン》は瀕死になると仲間を呼ぶ。一斉に召喚されたら囲まれて
「……ッ、余計なお世話ですわ!今や《フィンスタニス》は私の半身。手放す訳には行きませんの」
最後のヒイラギの言葉に、少女が即座に反応する。彼女は、あの剣に相当な愛着を持っているのだろう。
「更に上の層に行くのなら、そうも言ってられなくなるよ。ましてや、頼れるフレンドや命を預けるに値する仲間がいないソロなら尚更だ」
「命を預けれる仲間?必要のないものですわ。戦場で頼れるのは己の力のみ。確かに、信頼出来る仲間がいれば心強いでしょう。ですが、頼ってはなりません」
その発言に、ヒイラギは肩を落とす。
「命とは己が責任を持つもの……。間違いじゃないけど、誰かに頼ることも大事だよ。──1つ言っておくよ、サーニャさん。そんな考えを持ったままだと、死ぬよ」
サーニャと呼ばれた少女は、ヒイラギの冷酷な声に一瞬肩を震わせる。
「ッ、本当にそうなるかなど、分からないのではなくて?」
「いや、分かるさ。僕には、それが視えている。信じるか信じないかは君次第さ。別に、ただのお節介だと流してもいい。……じゃ、僕はこれで。人探しをしているからね。この新聞の絵を頼りに」
言って、ヒイラギはサーニャに向けて新聞を放り投げ、主街区へと向かっていった。
「……そんなこと、私自身が1番分かっておりますわ」
彼が去った後、地面に落ちた大きめの紙を拾い、なんとなしに眺めていると、あるひとつの画像に目が留まる。
「こ、これは……!?」
そこには、攻略組トッププレイヤー特集に載ったあるプレイヤーの記事が書かれていた。
「……虹架。あなた、ここにいたのですね」
ぽつりと漏れた声は、誰にも届くことはなかった。
サーニャ参上。個人的に出したかった人物の1人。後、前回でヒイラギがグレイちゃんと勘違いされてましたね。これに関しては自分のややこしい文のせいですね。申し訳ありません。ではまた次回。
評価、感想、お待ちしてナス!
ここから簡易的キャラ紹介。
プレイヤーネーム:ヒイラギ
本名:天城柊
1500年続く魔術師一族の後継者。既に刻印を受け継いでいる。一族の最も得意とする魔術は血液魔術。血を触媒とし、操作、増血、血を用いた強化など用途は多岐に渡る。戦闘向け出ないこの魔術だが、彼の手にかかれば実戦でも十分に使えるものとなる。士郎や和人を先輩と呼び慕う。桐ヶ谷直葉とは同級生かつ友達同士。灰系統の服を何時も着ているが、特に理由はないし、好きな色というわけでもない。
因みに好きな色はブラッドカラー。鮮紅色だと尚良い。
人の営みとありのままの自然が好き。後動物に好かれる。