危ない危ない。
遅いですが、クリスマス版です、どうぞ。
あっ、そうだ(唐突)季節系の幕間は時系列が飛んでいるのでそこはご注意を。この時期にこういう話があったんだよ、的な感じで書いているのでご了承ください。
ある病院の、病室の1つ。そこにはSAOに囚われ、意識の戻らぬ灰色の髪の少年と、それを見つめる少女がいた。少女はどこか憂いを感じさせる視線を少年に向けていた。彼女の名は桐ヶ谷直葉。すぐ隣に眠る少年、天城柊の数少ない友人だ。彼女らは小学生の時のある出来事がきっかけで友達と呼べる関係になっていた。だが、直葉の方はそれ以上の感情を抱いていた。
「柊君……」
ぎゅっ、と柊の手を握る。冷たい手のひらに、確かな熱が伝わってくる。が、彼の温かさを感じられても、その心は満たされなかった。
このまま、好きになった人と接することが出来なくなるなんて、絶対に嫌だ。
心の中で、そう呟く。想いを捨てることは出来ず、さりとて吐露することも出来ない。
暫く悶々としていると、病室の扉が開き、誰かが入ってきた。
「直葉さん、そろそろ……」
声の主は美遊。彼女もイリヤスフィールと一緒にこの病院に来ていた。
「あっ、もうそんな時間かぁ。……また来るね、柊君」
最後に名残惜しそうに柊を見つめ、美遊を連れて直葉は病室を後にした。
胸の内で渦巻く感情は、未だに消えることはなかった。
12月25日。言わずと知れたクリスマスの日。49層主街区広場の中央には煌びやかな装飾が施されたクリスマスツリーが置かれ、また街全体にもキラキラと光るオーナメントが飾り付けられている。
イベントボス《背教者ニコラス》との戦闘を終えたエミヤたちは、今日という日をのんびりと過ごしていた。
「くそー!あっちを見てもこっちを見てもリア充ばっか!こんにゃろう、爆発しやがれぇ!」
実年齢=彼女いない歴であるクラインが怨嗟にも似た叫声を上げる。無理もない。そういった経験皆無なのだから仕方ないといえばそうだろう。求めど求めど出会いすらない人生への悲嘆を込めて、彼は再度吠えた。
「羨ましい、羨まし過ぎるぜ……!」
「全く、そんなだからモテないんじゃないのか」
「うるせー!こちとらお前みたいに余裕なんて持てねーんだよ、このモテ男め!」
個人的な感情たっぷりの叫びと共に、クラインはエミヤにヘッドロックを仕掛ける。
「ちょ、おま、離せって……!」
エミヤの言葉も聞かず、ギリギリと絞める力を強めるクライン。
「へへっ、非リアの怨みを知りやがれ!」
「んなこと言ったってな──」
とその時、力を強め過ぎたのか、紫色のエフェクトと共に、エミヤとクラインの体が弾かれるようにノックバックした。
「うわっ!」
「おわっ!?」
体勢を崩した2人は、そのままベンチから転げ落ちる。
「はぁ、お前、
「くぅ……そういや、そんなのあったな……」
当たりどころが悪かったのか、クラインが尻を摩りながら立ち上がる。
「やれやれ……って、今何時だ?」
いきなりの暴挙に呆れつつ、エミヤが視界の端に表示された時刻を確認する。
「げ、時間経ってたな……そろそろ行かないと」
「行くって、何処にだよ?」
訝しげに尋ねるクラインに、余裕のなさげな口調で話す。
「ちょっと、はじまりの街にな」
はじまりの街。文字通り、そこでSAOの全てが始まった。広場に集められた1万人のプレイヤー、茅場のチュートリアルと同時に突きつけられた死の切っ先。今も、このことを忘れることはない。
そんな最下層にある街には、とある用事があった。
「珍しいな、おめぇがそんなとこに行くなんてよ」
「ま、用事があるんだよ」
座る体勢を直したばかりだったが、立ち上がったエミヤは「じゃあな」
と言い、その場を去った。
「……虚しいなぁ」
真っ白な雪のように、クラインの嘆きは降り積もるばかりであった。
降りしきる雪を眺めながら、2人の女性が会話をしていた。
「クリスマス、ねぇ。一緒に過ごす人が友達だけのあたしたちには無縁の行事よね」
「……それは、友達じゃ不満ってこと?」
「じょーだんよ、冗談。……でも、やっぱりカップルとかって憧れるわよねー」
膨れる赤髪のプレイヤー、レインを茶化すように、ピンク髪のプレイヤー、リズベットが笑いながら誤魔化すが、後半から沈むような発言になってしまう。
「あはは……そうだね」
リズベットの言葉に、レインが照れたような笑みを浮かべた。
「もう、そーゆーあんたは既にお相手がいる癖に」
「ふぇっ!?な、なんのことかなぁ?」
詰め寄ったリズベットに、レインが慌てふためく。ここのところ、レインはある人物のことを引き出すと、可笑しいくらいにわたわたするのだ。彼女はその人物のことを明確に意識し始めた頃なので、むべなるかな、と思われる。
「惚けても無駄よ。《錬鉄の英雄》と《紅の戦乙女》のコンビ、名付けて《比翼連理》!もう中層でもウワサになってるわよぉ?」
「も、もー!リズっちーーー!」
皮肉たっぷりに発せられた言葉に対し、レインがポカポカとリズベットの肩を叩く。
「そ、それに、わたしとエミヤ君はまだそこまでの関係じゃありませんー!」
「へええー。"まだ"ってことは、いずれはそれ以上の関係になりたいってことねー」
「っっっっっ!?!?!?!?」
リズベットがそう言った途端にレインが顔を真っ赤にして、何を想像しているのかあわあわと口をぱくぱくさせている。さすがに大袈裟であるが、心なしか湯気まで立っているように見える。
「きゅぅ~~~……」
そして、ぱたりとその場にへたり込んでしまった。
「あー……ちょっとやり過ぎたかな……」
その元凶たるレインの親友は頭を掻き、バツの悪そうな笑みを浮かべていた。
暫くして漸く立ち直ったレインを見て、リズベットは彼女に聞きたい疑問をぶつけることにした。
「ねぇ、あんた、この前クリスマスプレゼントがどうとかって言ってなかったっけ?」
「……うん。はじまりの街にいる子供たちにプレゼントを送ろうと思っているんだけど、何を送ればいいか分からなくて」
「んー……大抵はゲームとかおもちゃとかだけど……生憎、どっちもSAOには存在しないしねぇ……」
互いに悩む2人だが、唐突に何かを思い付いたのか、リズベットがパチンと指を鳴らす。
「そうだ、ぬいぐるみとかいいんじゃない?」
その案に、レインもハッとなって顔を上げる。
「あっ、それいいかも」
「後は日用品とか服とか……新しい武具もいいわね」
言って、可視化させたウインドウをレインに見せる。ストレージには、様々な武器がズラリと並んでいた。が、しかし。
「リズっちの作るものじゃプロパティが高すぎるよ~……」
「あらら、確かにそうね」
うっかりしてたわ、と舌を出しながら軽く笑っている。
武器や防具を扱うには、ある程度のステータスが必要となる。特に、より強いモノならば尚更だ。ステータスの中でも最も関わってくるのは筋力パラメーターである。低ければ満足に武器を振るえないし、逆に高ければ使える幅が広がる。かといって、敏捷の方を蔑ろにしてはいけないのだが。
「それで、結局何をプレゼントすればいいかな?」
「そうね……子供たちが喜びそうなものが無難ね。例えば……これとかこれとか」
そう言って、リズベットがアイテム欄を操作する。鍛冶屋をやっている彼女だが、鍛治系のアイテム以外にも色々なものが詰まっている。
「後、イベントボスからドロップしたアイテムとかも贈ろうかな」
背教者ニコラスの討伐報酬の中には、沢山の装備や結晶アイテム、果ては食材まで入っていた。1種のクリスマスプレゼントと言えよう。
レインのストレージはそういった武具や道具でごちゃごちゃになっていた。
「あっ、それ良さげじゃない?」
リズベットが指さしたのは、可視化されたウインドウの1点。そこにあるアイテム名をタップし、実体化させた。
出てきたのは、クリーム色のセーター。これもドロップ品の1つだ。
「うん、この時期寒いからピッタリかも」
因みに、今日の気温は有志の調べによると最低でマイナス2度らしい。
「あっ、いいもの見つけたわ」
レインが覗き込むと、リズベットのアイテム欄の1番奥の方に、見慣れない剣がしまってあった。
「下積み時代の時に打ったものなんだけど、これならレベル10~20位のプレイヤーでも難なく扱えると思うわ」
「要求する筋力値もそんなに高くないし……うん、いいと思うよ」
武器のスペックは、素材に使われるインゴット、各種鍛治スキルの値、後はランダム要素によって左右される。つまり、今リズベットが手に取っている剣は初期の頃に作成したものと思われる。
「それと、こういうのも悪くないんじゃない?」
更に取り出したのは、今となっては季節外れもいいとこのアロハシャツ。一体何処で手に入れたのか。
「誰にあげればいいのかな……」
リズベットの微妙なチョイスに困惑するレインだが、それが良いのか悪いのかが分かっていない模様。今までに誰かに何かをプレゼントする機会がなかったので、仕方ないと言えるものだ。
「これはどうかな?」
「こっちも中々──」
そうして、キャッキャウフフしながらクリスマスプレゼントを選別していた、その時だった。
「お前たちは間違っている!」
「へっ!?」
「だ、誰!?」
いきなり響いた何者かの声に、咄嗟に身構え、周りを見渡す2人。しかし、視界を巡らせても声の主の姿が見えることはなかった。
「無闇矢鱈と自己主張し、自分好みのものを押し付ける……そんなものは、サンタではない!」
声は尚も響き渡る。やや低めのその声は、明らかに彼女らに向けられたものだろう。
「サンタとは世を忍び影から影に渡り歩く、姿無きウォッチメン!見るがいい、これが正しいサンタの姿だ!とう!」
何かを蹴る音。上を見れば、そこに居たのは空中に舞う何者かの人影。
華麗に着地したその容姿は、純白のダンサー風衣装に、目元を覆う黒い謎マスクといった可笑しいと言っても過言ではない珍妙な格好だった。
そして何よりも──
「俺が、俺たちがサンタムだ!」
「グハッ!?」
「何やってるのエミヤ君ーーーー!?」
その正体が、彼女らのよく知る人物であったことが、1番の驚きだった。
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「……悪い、どうかしてたみたいだ。まだ記憶がハッキリしてないと言うか……」
先程の気勢は何処へ行ったのか、エミヤの言葉は全くもって覇気のないものであった。
あまり身に覚えがないらしく、頭を抱えながら弁明している。
「その、サンタの服装で街を歩いてた時、たまたますれ違ったエギルに"そんな装備で大丈夫か?"と言われて。つい、"1番いいヤツを頼む"と……」
訂正。しっかりと覚えていたようだ。あの彼からは想像も出来ないボケっぷりである。良い方向に人が変わった、と言うべきか。
キリト曰く、だんだんと性格が変わっている、だそうな。
「どっかで聞いたことのある台詞ね……」
「えっと、間違いは誰にでもあることだから……」
2人に対して間違っていると言ったエミヤだが、彼の行いが最も間違いであることは明白だった。
「それで?あんたはどうしてそんな変な格好でここにいるわけ?」
「へ、変……。いや、俺はみんなにそれぞれの好みを聞いて、それを基にプレゼントを集めてたんだけど」
「「あっ」」
エミヤの言葉を聞いて、何かに気づいたレインとリズベット。
彼女らは、贈り物をする人たちの趣味嗜好を聞いていなかったのだ。確かにそれは、痛恨のミスと呼べるものだった。自分が選んだものが、必ずしも相手に喜ばれるとは限らない。故に、事前の聞き込みはとても重要なのだ。
「その手があったか~……」
「すっかり忘れてたよ~……」
「……やれやれ」
呆れつつ、黒のマスクを外す。因みにそれ以外の装備は元に戻していた。
「リクエストされたヤツはほとんど手に入れたんだ。けど、後1つが厄介でさ」
「なんでよ?」
リズベットの疑問に、エミヤがウインドウを弄りながら応える。
「これを見てくれ」
アイテム欄から取り出したのは、小さな小箱だった。開くと水晶球が内包されており、表示されたメニューを手早く操作すると水晶が何かを映し出す。
1つの層を丸ごと映すそのアイテムの名は《ミラージュ・スフィア》。その精巧さはいつものマップとは比較にならない。それもそのはず、これは街や山、森の木々1つ1つに至るまでを描写するという割ととんでもない代物だからだ。
「この辺に稀に出てくるレアモンスターからドロップするアイテムをリクエストされてな。これが大変なんだ」
「そのアイテムって?」
「パーティー全員の獲得経験値とコルが増加するお守りらしい。けど制約があって、その効果が適用されるのはレベル30までなんだ」
ははぁ、とレインが感嘆する。そのような装備があるとは思わなかったのだろうか。
「けど、かなりやばいわね……」
「まあな。でも肝心のレアモンスが出ないから、ちょっと手伝ってくれないか?」
エミヤの頼みに、女子2人はこれを快諾した。
「じゃ、早速行こう。場所は42層だな」
エミヤがリズベットにパーティー申請を送り、彼女が目の前に現れたメニューのOKボタンをタッチする。それと同時に、エミヤとレインの視界の端に新しい仲間のHPバーが表示された。
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42層は、フィールドのあちこちに遺跡やその残留物が散乱されている。主街区はというと、全体的に石造りで、防衛区画が存在する、他にない構造だ。
さて、エミヤたち一行が目指しているのは、層の北西部に位置する石のオブジェクトが特に多く設置されている場所だ。そこに例のモンスターが生息している。と言ってもほとんど出ないが。
目的地に到着した瞬間、石像のオブジェが突然動き出し、同時にカーソルが表された。エミヤ、レインには白に見えるが、彼らよりレベルが低いリズベットにはやや薄い赤色に見えている。
「うわわっ、何よコイツ!?」
「《ストーンウォーリアー》って言うモンスターだ。ここら辺じゃそれなりに強いから注意しろよ」
「了解……って、あれ何?」
「あれ?……あれ!?」
リズベットが指さした方向に居たのは、金色に輝く招き猫のようなmobだった。驚きを隠せない様子のエミヤは盛んに目をごしごししているが、眼前の光景が変わることはない。
「い、いきなり遭遇したの?」
「ああ、確率はとんでもなく低いはずなんだけど……」
彼らの視線に気づいたのか、招き猫は巧みに石像の頭に乗っかってしまった。
「……逃げられる前に倒そう」
「うん!」
「ええ!」
各々の武器を構える。それに次いで、敵がソードスキルを繰り出した。
突進と共に上段に振り上げた大振りの剣が一気に振り下ろされる。両手剣の上位ソードスキル《アバランシュ》だ。威力が高く、生半可なガードでは衝撃を殺しきれずに隙が生じるし、相手側は突進によって距離が開くため実質隙があまりないスキルだ。
タゲられたエミヤは、落ち着いてその攻撃を回避した。モンスター相手だとその手の読みは比較的しやすい傾向にある。というのも、敵のAIはプレイヤーとの距離や一挙手一投足によって決められる。意図的に誘導さえすれば自らの望んだ行動をさせることも可能だ。
「硬い敵ならあたしの出番ね!」
リズベットが意気揚々と躍り出る。その勢いでメイス系の《シャッター・ゴング》を叩き込む。敵のHPが2割程削られ、それと共にノックバック効果も発生する。
「スイッチ!」
合図を受けてエミヤが前に出る。剣では硬い石の体躯に対して不利だが、それを解消するのはやはりパワーだ。
肩に担いだ赤い剣が更に紅色に染まる。ロケットのように突貫し、力を込めた腕を前に突き出した。瞬間、轟音が辺りに響く。《ヴォーパル・ストライク》の一撃がHPを半分まで持っていった。
「やば……」
その威力に驚くリズベットだが、自分にターゲットが向けられたことを認識すると、咄嗟に盾を構えた。
直後、盾越しに重い衝撃が2回に渡って届く。両手剣2連撃《カタラクト》を受けきったリズベットは、お返しと言わんばかりにメイスで太い腕をぶっ叩いた。
右腕を押さえて痛そうな呻きをあげる石像に、レインがトドメを刺しにかかる。右水平斬りで胴を斬り、刃を90度回転させて深く突き入れる。体を反転させて、食い込んだ剣を一息に振り下ろす。3連撃ソードスキル《サベージ・フルクラム》。
敵の体が爆散すると同時に、頭に乗っかっていた招き猫が情けなく落下する。
そこで初めてカーソルと名前が表示される。名は《ラッキー・キャット》。そのまんまである。
「あいつ、逃げる気か!」
動かない足という短所をジャンプすることで解消した猫は、見た目にそぐわぬ素早さで戦線から離脱していく。
だが、簡単に逃がす程彼らは甘くない。何せ、子供たちの笑顔がかかっているのだから!
「ハッ──!」
腰のポーチからピックを取り出し、投剣スキルの《シングルシュート》を発動させる。エミヤ自身の人並み外れた脅威の命中率をもってすれば、あの程度の敵など造作もないこと。見事、後頭部にヒットした。当然である。
それにより派手に転倒した猫をリズベットがかち割って、この戦いは終了した。
「あっ、なんかドロップしたわ!……ええと、《幸運のお守り》?」
「それが目的のアイテムだな」
「トレードすればいいのね?」
「ああ、頼む」
リズベットの提示したトレードウインドウには、先程のお守りがあった。エミヤは別に何もあげなくてもいいのだが、少なくともこの世界の彼は
故に彼は、今戦った石像が落とした石頭を送ることにした。
「別に必要ないんだけど……まあいいわ」
双方、OKボタンを押して交換を承諾する。システム的には、これでトレードは成立することになる。
「終わった?……じゃあ帰ろっか」
「そうね。あまり長居したくないし」
レベル的にもちょっと危ういしね、と付け加え、からからと笑うリズベット。
戻ろうとする2人だが、エミヤはまだ立ち止まったままだった。
「どうしたの、エミヤ君?」
「ああいや、2人は先に帰っていてくれないか。俺はまだやることがあるから」
「そう?なら、先に行ってるね」
帰路につく2人を見送って、エミヤはふぅ、と息をつく。
「さて、依頼したヤツは……っと」
いつの間にかきていた誰かからのメッセージを確認し、とある場所に向かって歩いていった。
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クリスマスの夜は、例外なく賑わうものだ。あちこちで飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎである。
その中で、エミヤたちはクラインがリーダーを務める《風林火山》のギルドホームにてパーティーを開いていた。
「よし、出来たぞー!」
「「おおっ、待ってました!」」
料理スキルを持つエミヤ、アスナ、レインが作った料理がテーブルに並べられる。その匂いに釣られて、キリトとクラインがすぐさま飛びついてきた。
「元気なヤツらだな」
エミヤはそう言って、並べられた沢山の料理を取っていく。
「ん、我ながらいい出来だな」
「おーい!こっちの料理なくなったぞー!」
「おう……って早いな!?」
キリトの呼び掛けに、驚愕しつつも応じたエミヤは、そそくさと厨房に引っ込んでいった。
「アスナ、悪いけど追加でまた作ってくれないか」
「もうなくなったの?」
「ああ、キリトとクラインがよく食うからな……」
「あはは……」
苦笑いし、メニューから食材をオブジェクト化して調理を始めるアスナを見て、エミヤも再びエプロンを装着、そして壁に掛けられたフライパンを手に持った。
「えいや」
恐ろしく早い動作で、クラインの皿にある肉をヒイラギが瞬時に横取りしていた。
「だーっ!?ヒイラギおめぇ!オレの肉取りやがったなぁ!」
「はて、なんのことやらもぐもぐ」
「誤魔化し切れてねーじゃねーか!」
「ほらほら、喧嘩はやめろって」
それを見たエミヤが2人を制止して出来たての料理をテーブルに置く。
「おお、そうだ。エミヤおめぇ、ちょっと来るのが遅かったみてぇだけど、なんかあったのかよ」
「いや、寄る所があって」
「へぇ。おめぇが寄り道なんて珍しいな」
エミヤはパーティーが始まる前にある人物の元に顔を出していた。依頼した品が出来上がったので、取りに行っていたのだ。
それを説明すると、クラインとヒイラギの顔が悪戯っぽい笑みで歪んだ。
「おうおう、なんだ、誰かにプレゼントか?」
「ふむ……あの子たちへのものでないとすると……一体誰なんでしょうかね」
「む、別にいいだろ。それに、2人には関係ない」
何とか言い逃れしようとするエミヤだが、そうは2人が卸さなかった。
「ったく、冷てぇな。教えてくれよ~、エミヤよ」
「確かに、興味がありますね」
「今のお前らの言葉で絶対に言わないと誓ったぞ」
後ろで騒いでいる男たちとは別に、女性陣の方は比較的静かだった。
「今年もそろそろ終わりですわね」
「うん。長いようで、短く感じたね」
一段落ついたレインと、彼女の幼馴染であるサーニャが隅っこで言葉を交わしていた。
ある出来事を経て、サーニャの態度は以前と比べて柔らかくなっていた。彼女はツンツンであったが、今は所謂ツンデレ状態である。
それもこれも、エミヤとレインの存在あってこそのことだろう。
「色々ありましたわ。貴女と再開し、エミヤさんと出会い──その他にも、大勢の人と関わりを持った。こんなこと、生まれて初めてですわ」
「そうだね。わたしも、サーニャちゃんとまた会えて嬉しかったよ」
ふふっ、と2人が微笑む。
と、急に何かを思い出したかのように、サーニャがピクン、と体を震わせる。
「あっ、そろそろ時間ですわ」
時刻は既に午後11時を示していた。パーティーが始まったのが9時くらいなので、ざっと2時間経過したことになる。
「そっかぁ、早いなあ」
「途中で抜け出すのはアレですが、仕方ありません」
じゃあ行こっか、と言ったレインは、向こうにいるエミヤを呼びに行った。
ギルドホームを出て、エミヤ、レイン、サーニャの3人が転移門に向かって歩いていた。
全員サンタの服に身を包んでいるが、1人だけ例外がいた。
「そのマスク、まだ付けてるの?」
「悪いか。俺はこれが気に入ったんだ」
「サンタ服に合いませんわね」
あの時の黒いマスクをエミヤは未だに着用していた。エギルから言い値で買ったそれに余程愛着が湧いたらしい。
因みに、昼頃の彼の錯乱の理由は不明であった。
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第1層の東7区にあ位置する教会に着いて、何事もなくクリスマスプレゼントを配り終えた頃には、みんなはそれぞれの宿やホームに戻りつつあった。
エミヤとレインの2人は、最前線の49層の宿屋に向かっていた。
広場にある巨大なクリスマスツリーも、明日にはなくなっているだろう。それと同時に、クリスマスから年末の雰囲気へと変わっていくかもしれない。
不意に、エミヤがツリーの前で立ち止まる。
「ああ、ええと、ちょっと渡したいものがな」
「?わたしに?」
「まあ、こういうのはシチュエーションが大事だと思って……はい、これ」
そう言ってエミヤが取り出したのは、装飾が施された箱だった。
その中を開けると──
「……マフラー?」
中には、赤系色のマフラーが入っていた。彼女にはぴったりの色合いだろう。そのために彼は、わざわざ時間を割いてまで素材集めから依頼までこなしていた。
「アシュレイさん謹製のヤツなんだ、これ」
「ええっ!?あのアシュレイさん!?」
アシュレイとは、このアインクラッドで初めて《裁縫》スキルをコンプリートした知る人ぞ知るカリスマのお針子だ。最高級の素材持ち寄りでないと作成してくれないので、その人物が作った服飾はどれも素晴らしい出来である。
「これを、本当に……?」
「ああ、……受け取ってくれるか?」
その言葉に、レインはいっぱいの笑顔を浮かべて、感謝の意を示した。
「うん、大切に使うね!」
装飾の光が、2人を照らす。その顔は、どちらも喜びに満ちていた。
そして大晦日。年越し蕎麦を食べ終えたエミヤとレインは、第10層にある神社にいた。
彼らは、何を願ったのだろうか。ゲームクリアか、将来の夢か、はたまた別の何かか。
──さて、年越し蕎麦には、こういう意味も付けられている。
『末永く、"そば"に居られますように』
それを踏まえて、彼は言った。来年もよろしく、と。
そして、彼女は言った。こちらこそ、よろしくお願いします、と。
2人は手を繋いで歩く。
彼らの歩む道は、きっと過酷に満ちているだろう。
けれど、この2人ならば───
この小説を読んで下さる皆様、ありがとうございます。では良いお年を。
そして、来年もこの小説をよろしくお願いします。