現在コロナが流行っているので、むやみに外に出ずに家でハーメルンの小説、見よう!(提案)
なんならこの作品を見てもええんやで。
そして感想、評価もぶち込んでくれると幸いです。
そういえば、読み上げ機能なるものが追加されたみたいですね。
普通に驚きました。
魔術師は科学を忌避する。そうなった時期は定かではないが、魔術で出来ることを態々科学で代用する真似を彼らはしない。
しかし、中には現実の最新技術を取り入れ、これを有効活用する魔術師も存在する。"魔術師殺し"はその1人であるし、彼の冠位人形師もまた、そういった者たちの中に属する。
「……ふむ」
優雅に紅茶を啜るキリシュタリア・ヴォーダイムも、ある程度の科学技術を良しとする者である。
あまり見ることのない新聞を読み、その中に興味を引く内容を見つけた彼は、より細かくその記事を見ることにした。
『日本のVRMMO、ソードアート・オンラインにて1万人のプレイヤーがログアウト不可に』
ゲームとは全く無縁のヴォーダイムだが、それが何を意味しているかは理解出来た。
仮想といえども、1つの世界を確立させた茅場なる人物を彼は個人的に知っていた。時計塔所属の魔術師に、同名の者がいたからだ。魔術師は、普通は自分の研究を明かさない。茅場もその例に漏れないのか、彼が何をしていたかは全く知らない。少なくとも、《
ソードアート・オンラインといえば、知り合いが嬉々とした声色でこちらに連絡してきたことをヴォーダイムは思い出していた。
その知り合いが捲し立てていたゲームこそがSAOであったのだ。
彼は数少ない友人の安否を調べていた。少なくとも無事であることは確認出来ていたが、それでも心配であることは変わりなかった。
普遍的な魔術師にはない感情だが、ヴォーダイムにとっては大切で尊いモノなのだった。
「……柊。我が友よ。君は今、一体どうしているのだろうね」
誰にも届かぬ小さな音。遥か極東の地に向けて呟かれた声は、確かな重みを含んでいた。
10月下旬。現在、アインクラッドの攻略は42層に達したばかりだ。先に主街区の転移門をアクティベートしに行った血盟騎士団に続く形で俺たちも新たな層を進んでいた。
見た感じは、崩落した石造りの建物やオブジェが散乱したフィールドだ。これと似たようなテーマの層は幾つかあったが、ここは何処とも異なる、ある種の退廃的な雰囲気を醸し出していた。
「何だか、初めて見る感じのフィールドだね」
「そうだな。なんて言うか、世紀末っぽい見た目だよな」
「あはは。……でも、言い得て妙かもね」
火山灰らしきものが僅かに積もった荒野を歩きながら、俺とレインは他愛もない会話を交わしていた。
この層のテーマは、簡単に言えば《荒廃した遺跡群》と言ったところか。バイオームで表すならばステップ気候に近いし、散りばめられた灰と残骸がいかにもな風景を演出していた。かといって極度に荒れているわけでもなく、人によっては廃れているかそうでないかがハッキリと分かれるような、曖昧な様相であった。つまり、どう捉えればいいのか解らない、というのが俺の見解だった。こういうどっちつかずなものも、茅場が設計したデータなのだろうか。プレイヤーたちにこういった意味不明なわだかまりを抱かせるのも、ヤツの思惑の1つなのではないか。そう考えると、何だか弄ばれている感覚に陥って胸がざわざわする。
「どうかした?」
上目遣いの彼女がこちらを見上げている。視界がそれ1色で染められて、無駄に思考を巡らせていたアタマが一気に覚醒する。
「ああいや、別に何事もなかった」
我ながらバカっぽい発言をしたなと思いながらも、顔は無意識にそっぽを向いていた。ただでさえ特上の部類に入るレインの顔をあんな至近距離で見せられたらそりゃ顔を背けたくもなる。
「……ふぅん、ヘンなエミヤ君」
そんな俺の心情を知る由もないレインは煮え切らないような表情を浮かべて前を向いた。
話しているうちにかなりの距離を歩いたのか、目的の主街区は既に目の前に迫っていた。
石造りの門が俺たちを出迎える。聳え立つソレは、なかなかどうして立派なものだった。街の中も石の建造物が目立ち、無機質な印象を与えている。華美に走らず質実剛健で、ファンタジーで言うところの所謂《城塞》を思わせる街であった。名前も《シタデル》と、全面的にそれを意識していた。
直ぐそこにある広場は《街開き》ということもあってか、大勢のプレイヤーでごった返していた。1つ下の41層でスタンバっていた者、物見遊山に来た者など、それぞれの目的は異なれど、彼らは新たな層の開拓という瞬間を待ちわびていたことには変わりなかった。
「やっぱり、いつ見ても街開きは賑やかですなぁ」
「そりゃそうだろな。着実に攻略が進んでる証でもあるんだから」
「もう、エミヤ君ってばそんな風な言い方ばっかり」
突然、レインがそう言って頬を膨らませた。
「いや、でも実際そうだろう」
「そうだけど……もっとこう、ロマンチックな言い回しとかないの?」
ロマンチック、と来たか。生憎と、俺にその言葉は似合わないし、やたらキラキラした言い方なんて出来るはずもなかった。
「……例えば?」
「ええ!?……例えば……ええっと~……」
頭を抱えて思索し始めるレイン。うーんうーん、と唸っていたが、何も思いつかなかったのか、程なくして考えることをやめたようだ。
「……分かんない」
「結局分からないのか……」
変に肩透かしを食らった気分になって、急に脱力感が全身を支配した。
「──でも、どう言おうが、皆が喜んでいるのは変わりないんじゃないのか?」
そう、言い方など始めからどうでもいいのだ。俺たち攻略組がアインクラッドを攻略し、新たな層が解放されて、ゲームクリアに1歩近づくことにプレイヤーたちが歓喜することは変わらないのだから。
「……うん。そうだね、そうかもしれないね」
「……」
妙に感傷的な雰囲気になって、そのまま俺たちは黙り込んでしまう。いつもなら与太話の1つや2つくらい交わすのだが、今はどうもそんな気にはならなかった。
「……とりあえず、近くの宿でも取っとくか……?」
この状況をどうにかしようと、無理矢理話題を変えようと試みたものの、言った後でおかしな発言をしてしまったかもしれないと実感した。
が、そんな俺の考えとは裏腹に、彼女はくすくすと笑ってその提案を受け入れた。
それで、少々陰鬱気味だった空気は途端に消えてくれた。
さっきの陰気は何処へやら。俺たちは足取りも軽やかに、マップに示された宿へと歩いていった。
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ふと、半ば無意識に瞼が開かれた。
──そこは、1周まわって清々しく思える程の"黒"に染まった空間だった。
周囲には何もない。
ただ、1面の闇が、この場所を覆い尽くしていた。
なんでか、ここに立っているだけで胸が張り裂けそうな感覚に陥ってしまう。
それがもどかしくて、どうにか自分を誤魔化して1歩進もうとした、そのとき。
足首から下の感覚がないことに、気が付いた。
「っっっっ!?」
慌てて下を向く。
そこには、ナニカに浸かった自分の足があった。
深い漆黒に染まったソレは際限なく広がって、更に俺を呑もうとしていた。
どろどろぐちゃぐちゃとした感触が気持ち悪い。
何かしようにも、足はカカシになったかのように全く動かない。
動かせるのは上半身だけ。だが、それだけで現状を打破することは到底敵わなかった。
「──どうした、ものか」
呟いて、思索を巡らせる。
巡らせ、巡らせて、巡らせようと、した。
した、のだ。──それを。
激しい頭痛が、文字通りに横槍を入れた。
「っ、ああ──!?」
ざくん、と長槍で抉るように打ち込まれた鋭痛は俺の思考回路を一瞬で粉々にした。
──痛い。
蝕む痛みが、片隅に仕舞っていた記憶を強制的に想起させる。
──苦しい。
押し寄せる記憶は濁流の如く。
過去の出来事を否応なしに直視させられる。
──辛い。
始めに幼少期。
何の変哲もない、普遍的当たり障りない日常が突然粉微塵に崩壊して炎に包まれた街と共にここで衛宮士郎という存在は1度死んでそして衛宮切嗣に命を救われそこからは彼の助手として世界各地を巡り巡ってここで一旦ばっさりと区切られていく。
──今になって何故。
月日は流れて、訪れた街の名は冬木市といってそこで漆黒の闇が街を包んで全てが平等に崩れ去って何もかもが壊れると思われたが、何処からか発せられた神々しい光が闇を消し去って急いで光の発生源へと向かって──
──こんなものを見せられて。
そして、俺は邂逅した。
最後の神稚児、朔月美遊に。
──そんなの解っている。
──時が経ち、切嗣が死んで彼の理想を受け継いで数年が経過した。
特筆すべき出来事はなく、ただ普通の生活を友人のジュリアンと後輩の桜と……そして美遊と過ごしていた。
少なくとも、それは俺にとっては幸せなものだった。
口の悪い親友。
慕ってくれる後輩。
守るべき妹。
それらの存在が、俺の心を繋ぎ止めていた。
──ああ、本当に。
そんな日々がずっと続いていれば良かったのに。
平穏は何の前触れもなく終わりを迎えた。
朔月家に現れるジュリアンと金髪の少女そして他の誰か。
そのときに受けた無数の剣の感触は未だに忘れることはなく同時に味わった喪失感もまた同じく。
全てががらんどうになったまま俺は悲壮な決意を抱き、しかし美遊を救う手立ては皆無に等しくそのまま1ヶ月が過ぎて。
──忘れられる、はずがない。
また、失った。
桜。日常の象徴。俺がただの衛宮士郎でいられた場所。
余りに唐突で、余りに無惨だった。
このとき漸く果てを知った。
だと言うのに俺自身がまだ残っていて遥か彼方に向かってがむしゃらに
呼びかけて。
そうして俺は──
ここに、誓いを立てたんだ。
1秒一瞬が無限に思える中で間隙なく戦いを繰り広げた。
下した
その全てと戦い、全てを討ち倒した。
最後の敵は、正しく最強の英霊だった。
英雄王ギルガメッシュ。無限の財を持つ王の中の王。
敵うわけがなかったが、俺にとってはそれで良かった。
時間さえ稼げれば勝ち負けなどどうでも良かったのだ。
そうして俺たちは、
──世界を、越えたんだ。
頭痛が漸く治まってきた。引き出された記憶は余り思い出しくないものだった。
悪趣味にも程がある。こんなもの、夢ならさっさと覚めて欲しい。
そう思った矢先に、足を何かが握るような感覚に囚われた。
「な────」
それを見た。
原型を留めていない顔が、僅かに残った眼光が、俺の視界に飛び込んで来る。
『死ニタクナイ……死ニタクナイ……』
桜の兄。
そいつが、俺の足を掴んでいる。
「っ、はな──」
離せ。そう言おうとしたが。
ガッ、と。今度は逆の足に触覚が反応する。
『アア……私ハ誰……?イイエ私ハ……私ハメディア……魔女メディア……』
今度はキャスター。
正確にはアトラム・ガリアスタ。
怨嗟の声をあげて、瞳のない目線で俺を見据えている。
冷や汗が頬を伝うのを感じる。
言いようのない感情が全身を支配する。
右手首が握られる。
居たのは、ライダーのカードを操る間桐雁夜。
『桜チャン……俺ハ……』
慟哭にも似た、悲痛な声が耳に届く。
……やめろ。そんな声を、俺に聞かせるな。
次に、腰に手が回される。
加えて、抵抗出来ないまま、間髪入れずに左腕を掴まれる。
『ソラウ……ソラウ……』
『ジュリ、アン……』
ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。
ザカリー・エインズワース。
どちらも、俺がこの手で葬った者たち。
「、っ」
そこで、俺が泥の中に引き摺られていることを今更認識した。
気づいたときには下半身の感覚が消え失せていて、見ると腰から下が泥沼に浸かっている。
それは、正に地獄と言ってもいい。
今までに殺した者たちが恨み節をあげながら俺に同じ苦しみを味わせようとしているのだから。
左腕を振りほどき、天に向かって手を伸ばす。
だがそれは、虚しく空を切るだけで。
体は徐々に、泥の中に消えていく。
「……やめろ」
無性に、有り得ない程の恐怖に駆られる。
悪寒が髄を這い回り、汗が残った上半身を伝う。
この体が完全に呑まれたらどうなるのか。
そう思うと、とてもじゃないが正気でいられることは出来なかった。
「……やめろ」
掠れる声をあげるも、尚も侵食は止まらない。
一体どうなる。何が起こる。
解らない。俺はこれから何をされてどうなってしまうんだ。
届かない。伸ばした手も、なけなしの声も。
「……やめろ────!!!」
そこで漸く、俺の意識はブツンと途絶えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「っ、あ──は、あ──」
ガバッ、と勢いよく起き上がる。
額に手を当て、あの出来事を思い起こす。
……どうやら、夢だったようだ。
ただの夢だと言うのに、なんとも惨いものを見せられた。
恐怖心が未だに抜けない。
今も肩で息をしているし、寝巻きは冷や汗で濡れている。
「……エミヤ君?」
突然、そんな甘い音がおぼつかない聴覚を刺激した。
その声にハッとなって、顔を上げ周りを見渡す。
俺以外に誰もいないはずの部屋に、誰かが入っていた。
次第にぼやけていた瞳の焦点が定まり、目の前の像がはっきりと映しだされる。
ああ。よく見知った顔だ。キリトと並ぶ、俺の1番の相棒。燃えるような赤髪はサービス開始初日に見た茶髪に戻っているが、声の主が誰かは
すぐに分かった。
「──あ……レ、イン……?」
開ききった瞳孔が彼女を見据える。
憂いに満ちた眼差しが、揺れる俺の視線と交じり合う。やがて俺の状態を認識したのか、レインが駆け足でこちらに寄ってきた。
「大丈夫!?何かあったの?」
彼女の眼に俺の顔が映る。我ながら無惨な表情だ。今の感情を全面に押し出したかのような姿が、なんとも醜く感じる。
しかし。そんなことは、あの悪夢で味わった恐怖に呆気なく潰された。
思い返すだけで体中が寒気と虚脱感に囚われていく。
「汗もすごいし、一体──」
「っ……!」
瞬間。俺は無意識にレインの体を抱いていた。
「──きゃあっ!?ちょ、ちょっと──」
体が震える。悪寒が抜けない。恐怖が止まらない。人肌の温もりを少しでも感じたくて、衝動も何もないままに彼女の腰に両腕を回した。
上から驚愕と困惑を孕んだ声が響くが、今はそれを聞く余裕すらない。
ただ、自らの魂を犯す恐怖心を沈めるために、この手だけは離したくなかった。
「……夢……。酷い、夢を見たんだ……」
熱いモノが頬を流れる。悪夢から覚めたことへの安堵か、はたまた怖気付いて感情に押し潰されたためか。
──両方だった。
現でなくて本当によかった。
それと、単純に、怖かったのだ。自分が彼らに与えた痛みと苦しみと死への情動が、こんなにも惨く恐ろしいものだったなんて。そんなの、知る由もなかった。だが今になって、嫌という程身を以て思い知らされた。
ちょっとやそっとじゃ怖がることなどないと自負していたものの、その心は驚く間もなく簡単に崩れ去っていた。
「……そう。なら、無理しないでお姉さんの胸でお泣き?しばらく貸してあげるから……」
「、っ……」
柔らかな声が降りかかる。
添えられた手で頭を撫でられたが、悪感情など湧くはずもなく、今はこれをただただ甘受するだけであった。
人間、誰だって恐怖することはあるんです。士郎も例に漏れないと自分は思っています。だって人間だもの。
次回、「集いし英雄」