ヴェインコマンダーを打倒し、ジェラスアジテイターと会敵した二日後の事。
鷹弘は市街にデジブレインが現れたという連絡を受け、トライマテリアラーを駆り現場へ急行していた。
厄介な事に、場所は人通りの多い繁華街の中心だ。そのため、鷹弘は出動する前にリボルブ デュエルリンカーへと変身して向かっている。
ホメオスタシスのエージェントたちによって、既に住民の避難は完了している。徐々に出現地点へと近付き、リボルブはそこに人に似た影を見つけて目を細めた。
「いたな」
敵は、例のガンブライザーを装着したデジブレインだ。
どうやらシオマネキのデータを元にしているらしく、全身に刺々しい濃い赤色の甲殻を纏っており、頭部には触覚のようなものと、多数の蟹の脚が髪のようにして生えている。
右腕が鉄製の巨大な白い糸切り鋏と化しており、左手はシオマネキよろしく小さな蟹のハサミのようだ。
よく見れば右腕の鋏には、血のように赤いものが付着している。リボルブは既に被害者が出てしまったのかと焦るが、どうやらそうではないらしい。
血に見えたそれが液体ではなく、鋏に絡まっているだけの、ただのほつれた赤い糸だったからだ。
「ドウシテ私ヲ見捨テタノ……?」
観察を続けていると、虚空を睨んでいたそのデジブレイン、フィドラークラブ・デジブレインが呟き始めた。
片方のハサミが大きい特徴を持つシオマネキはオスのはずだが、このデジブレインの中身の人間はどうやら女性らしい。
「アンナニズット一緒ダッタノニ、私ノ何ガ駄目ダッタノ? 私トアナタハ、運命ノ赤イ糸デ結バレテイルッテ……言ッテクレタノニ」
ザクッ、ザクッとフィドラークラブは地面を鋏で掘り始める。その巨大で鋭利な刃は、レンガどころか鋼鉄のマンホールですら容易く斬り裂くようだ。
「ドウシテ他ノ女ヲ見テルノ? アナタノ運命ノ赤イ糸、ソノ女ニアルノ? ダッタラソンナモノ……」
そしてリボルブの姿を見つけると、そちらへ向かって真っ直ぐに歩いて行く。
彼女の眼は嫉妬に狂って病んでおり、相手が誰なのか、自分が何をしているのかさえ理解していないようだ。
「全部断チ斬ッテヤル!! ソシタラアナタニ繋ガル糸ハ私ダケ!! ソウスレバアナタハ私ダケヲ見テクレル、私ダケヲォォォッ!!」
「ごちゃごちゃうるせェんだよ」
リボルブはうんざりした様子で発砲する。だが、その一撃は鋏の刃によって両断された。
「何っ!?」
「彼ハ私ノモノヨ……私ノ……ワワタタタタシシシノオオオオオッ!」
リボルブラスターで連射するも、その度に鋏によって弾丸を斬り裂かれ、防がれる。
奇声を上げて右手の鋏を振り上げながら、フィドラークラブはそのまま疾走して距離を詰めて来た。
流石にやすやすと受けられるような攻撃ではないと判断し、リボルブは地を蹴って下がり、別のマテリアプレートに入れ替える。
《ユー・ガット・メイル!》
「リンクチェンジ……!」
《
「こいつでどうだ!」
《チェンジ! マシンガン・アタッチメント!》
自身の周囲に出現したジェイル・ターレットと共に、リボルブは射撃攻撃による制圧を開始する。
嵐のように飛び来る弾丸を前に、フィドラークラブ・デジブレインは両腕で顔を覆い隠し、自身の甲殻を以て身を守る。
弾丸が通らない。しかも、怯む事なく一歩一歩近付いているのを見たリボルブは、舌打ちしながらプレートを抜き取って、リボルブラスターに装填する。
《フィニッシュコード!》
「喰らいやがれ……!」
《
必殺技が発動し、無数の弾丸がフィドラークラブに襲いかかる。
しかし、シオマネキのデジブレインの甲殻は、その攻撃すら防ぎ切った。
「なんだと!?」
「シェアアアアッ!」
「くっ!」
大鋏を振るい続けるフィドラークラブ。その一撃はついに、リボルブの左側頭部を僅かに裂いた。
「ぐっ……テメェ!」
腹を蹴りつけて、リボルブはもう一度距離を取る。だが、背には喫茶店の外壁が。
もう後がない。ウィジェットから別のアプリを取り出したリボルブの背に、上空から声がかかる。
「よう。苦戦してるなぁ」
見上げると、そこには奇怪な文字で埋め尽くされたカソックを纏う男が、外壁の上に座っていた。
リボルブは忌々しそうにその名を叫ぶ。
「ヴァンガード!」
直後、フィドラークラブの大鋏が襲いかかって来る。リボルブはそれを避けつつ、手に取ったアプリで姿を変えた。
《
「何の用だコラァッ!」
目の前のフィドラークラブに怒りをぶつけるように、リボルブは叫ぶ。
すると、その様子をニヤニヤと眺めながら、ヴァンガードが「怖い怖い!」とおどけてみせる。
「俺はそのデジブレインの暴れぶりを見に来ただけだぜ。争う気はねぇよ」
「なんだと!?」
「それにしても、女の嫉妬ってのは怖いねぇ。ちょっと好きな男が別の女と話してるだけで、ここまでキレるんだからよ」
「テメェがデジブレインに変えたせいでこうなったんだろうが! フザけんな!」
くつくつと、さも面白おかしそうに笑うヴァンガード。それを見て、リボルブはより苛立ちを募らせ、目の前のフィドラークラブの顔面を殴り抜ける。
「違う違う。そいつは、その他の女ってのが羨ましくなったのさ。だから俺が背中を後押して、その"羨望"を吐き出させてやったんだよ!」
「後押しだと?」
「そうさ。つまりぃ、この負の感情と殺意そのものはこいつの心に元々あったモンって事だぁ。俺はガンブライザーでちょーっとキッカケを与えてやっただけ……なんも悪い事したつもりはないねぇ」
「……」
リボルブの手が止まる。その直後、フィドラークラブ・デジブレインはリボルブの胸に大鋏を突き立てた。
ヴァンガードはそれを見てほくそ笑むが、コートの上を突いているのを見ると、その笑い顔はすぐに消える。
何故なら、ダンピールリンカーのコートは防刃仕様。刺さる事はないのだ。
「だからなんだってんだよ……」
《バーサーキング!》
ダンピールバンカーの十字架を押し込み、リボルブは獣の如く吼える。
「テメェが人の心を弄んだ事に変わりはねェッ!!」
「ギャッ!?」
リボルブは全身に漲るパワーに身を任せ、目の前のデジブレインの顔面を全力で殴りつけ、さらに右腕を引っ掴んで手刀で腕ごと鋏を叩き折った。
「アァァァッ!? 私ノ、私ノ腕ェェェ!?」
「さっきからうるせェな」
怒りと沸き立つ闘争心のまま、リボルブはさらにフィドラークラブの顔面に拳を撃ち込み、アプリドライバーのマテリアプレートをさらに押し込んだ。
一方攻撃を受け尻餅をつき、先程までとはまた違う錯乱状態になったフィドラークラブ・デジブレインは、立ち上がって鋏を失った腕で殴りかかって来る。
《フィニッシュコード!》
「テメェは引っ込んでろ!」
《
そのヤケクソな一撃に、リボルブ必殺の回し蹴りがカウンターヒット。
横腹を深く抉るように命中し、近くの肉屋のシャッターに叩き込まれて大の字に倒れた。
これでデジブレインとしての姿は消滅し、代わりに例のガンブライザーを巻いた体中包帯だらけの女子高生が残されるのだった。
「次はテメェだ……ヴァンガードォ!」
「おぉおぉおぉ、血気盛んだねぇ。そんなにリベンジしたいのか?」
「ったり前だクソ野郎がァ!」
バーサーキングを解除し、リボルブラスターでヴァンガードの眉間を狙って容赦なく撃つ。
だがその銃撃を手に持った錫杖で逸らし、地に降り立ったヴァンガードは、リボルブには目もくれずにガンブライザーを回収。
そして、そのまま「ゲート」と音声入力し、歪む空間の中へ逃亡を図る。
当然、リボルブは怒りをぶつける。
「逃げんてじゃねェぞコラァ!」
「悪いが俺は小心者でねぇ。砂粒みたいな確率を拾って起きたマグレだとしても、ストライプを倒したお前らを警戒してんのさ」
「何ィ!?」
「『100%! こりゃもう確実に勝てる!』……ってぇ戦いが大好きなのよ、俺は。そんなワケで、じゃあーな」
発砲するが、もう遅い。ヴァンガードはおどけ調子のまま、開いたゲートを使って去ってしまう。
取り残されて変身を解除した鷹弘はやり場のない怒りを堪えるように、拳を握り込む。
「ナメやがって……」
直接ヴァンガードの変異した姿であるジェラスアジテイターと交戦した鷹弘には、自分と彼の間には明確な力の差があると感じ取っていた。
自分がストライプとの戦いで疲弊していた事を抜きにしても、ヴァンガードの能力の正体を見抜く事ができておらず、しかも向こうは四つの内一つしか能力を使っていない。
これが大差でなくて何なのか。つまり、自分はまた見逃されたのだ。
そんなもやもやとした気分の鷹弘のマテリアフォンに、着信が入る。
陽子からだった。鷹弘はマテリアフォンを手に取り、通話を行う。
「どうした?」
『そっちは終わったわよね? 鷲我会長が呼んでるわ、響くんが入院してる例の病院に来てくれる?』
「親父が? ……分かった、すぐ行く」
『お願い。さて、次は御種先輩ね……』
どうやら陽子は次々に連絡を回しているらしい。
一体何の用事なのか。鷹弘は不思議に思いながら、その場を後にするのであった。
※ ※ ※ ※ ※
その後、病院にて。
先に着いた翔とアシュリィ、それから琴奈・鋼作・陽子は、響の病室で他のメンバーの到着を待っていた。
時間がかかりそうだと思ったためか、アシュリィはふと陽子へと質問を投げかける。
「検査ってどうなったの?」
「あぁ、翔くんの? 昨日終わって、実は私もまだ結果を聞いてないのよ。途中で会長が検査を代わったから」
「ふぅん……じゃあ、それは」
そう言ってアシュリィが指差したのは、陽子の持つアタッシュケースだ。
すると陽子はニヤニヤと笑いながら、人差し指を唇に当てて「ひ・み・つ」と言ってウィンクした。
そんな会話をしていると、次に到着したのは刑事の安藤 宗仁、その次がZ.E.U.Sグループ会長の静間 鷲我。さらにその後に鷹弘がやって来た。
「これで全員か?」
「いえ、まだあと一人……」
鷹弘の質問に翔が答えた、その直後。
「ごめんごめん、遅れた!」
病室の扉が開かれ、最後のメンバーである御種 文彦が車椅子で到着した。
その姿を見た陽子が、呆れ気味に息を吐く。
「御種先輩、電話も出なかったし遅れるし……どうしたんですか一体?」
「いやぁ、ちょっと新しいマテリアプレートのアイディアを閃いちゃってさ。それで会長、話というのは?」
促され、鷲我は咳払いをしつつ「うむ」と言って、翔の顔を見た後で語り始めた。
「実は、少し前に彼とある約束をしていたんだ。一度集まって、私の知る事を話そうと。だからこの機会に私は、君たちに真実を全て明かす事にした」
「真実?」
「アプリドライバーやマテリアフォンの事、それから――デジブレインの誕生の秘密だ」
「えっ!?」
途端に翔が驚く。アシュリィの持つマテリアフォンと似た道具から、そこまで話が飛ぶとは思っていなかったのだ。
さらに、よく見ると鷹弘は翔とはまた違った驚きを見せていた。というよりも、どこか慌てているように見える。
「親父、いいのか?」
「彼らは知っておくべきだ」
鷲我の強い意志の宿る眼差しが、鷹弘の双眸を捉える。
すると鷹弘も逡巡の後に頷き、今度は翔たちの方へ視線を向ける。
翔には、その眼がこれから語る事実を聞く覚悟を問いているように見えた。その視線を受け、翔もゆっくりと頷く。
一方、宗仁はまだ得心が行っていないようだった。
「俺や文彦は随分前からその話を知ってるぜ? なんで集めたんだ?」
「それでも一応再確認しておくべきだろう。それに、他に話しておく事もあるからね……電特課からも報告もあるのではないか?」
「まぁ、そりゃあそうだな」
「……さて、私も覚悟は決まった。話すとしよう。ヤツらがいかにして生まれたのか、そして……私の罪について」
鷲我の『罪』という言葉に、翔や鋼作に琴奈も意図を掴みかねていた。
しかし、思えば翔たちはデジブレインが如何にして生まれたのか、疑問に思った事はあっても教わった事がなかった。
すると鷲我は、簡潔かつ真っ先にひとつの事実を全員に伝える。それこそが、彼の犯した大罪。
「デジブレインを世に生み出したのは、私なんだ」
「……え……?」
予想だにしなかった解答に、翔たちが絶句する。
確かにZ.E.U.Sの、シズマテクノロジーの技術力を考えれば不可能な話ではない。むしろ納得さえできる。
だが、だとしたら何故、怪人などを生み出してしまったのか。何故Z.E.U.Sの管理を外れ、人を襲っているのか。
その質問をする前に、表情から翔たちが何を思ったのか悟ったように、鷲我は話を続けた。
「もう22年も前の話になる。父の会社であるシズマテクノロジーの社員として働いていた私は、ある時現実世界とは異なる場所、電脳世界とも呼ぶべき空間を発見した……今と違って何も存在しない、不毛な世界だったがね」
「それが、サイバー・ライン……? 20年以上も前からあるんですか……!?」
「あるいは、我々が知るよりも遥かに昔からその世界は存在していたのかも知れない。ともかく……画面を通してその世界の観察を続け、次第に私はその世界を自分の手で開拓してみたいと思うようになった」
そこで言葉を区切った後、鷲我は両目を閉ざす。
懺悔をしているか、それともその当時の出来事を回想しているのか。ともかく、彼はもう一度口を開いた。
「私はその世界に向け、まずは石ころのデータを出力した。その次は、見た目だけだが草木だ。海を作りもした。空も。最初は何もなかったその場所が面白い具合に発展し始めたんだ、まるで神にでもなった気分だったよ。段々楽しくなってきて……ある時いつものようにその世界を覗いてみると、私はその世界にひとつの命が誕生している事に気が付いた」
「……もしかして、それが?」
おずおずと訊ねるアシュリィ。鷲我は頷き、話の続きを始める。
「それこそが原初の情報生命体だ。現在のデジブレインとテクネイバーの祖先とも言うべき存在……私は偶発的に生まれたそれに、自分の名前に因んで『アクイラ』と名付けた」
「なるほど。それを自分の分身みたいに思ったって事ですね」
納得した様子で、琴奈は興味深そうに話に耳を傾けている。
鷲我はその言葉に同意しつつも、どこか申し訳なさそうに「傲慢な話かも知れないがね」と呟いた。
「私はまず、対話を試みた。最初アクイラは言語を理解していなかったのだが……驚いた事に、たった二・三度私が言葉を入力しただけで、我々の言語を理解し、学習したのだ。そうして我々はアクイラと言葉を交わし続け、様々な事を学ばせ続けた。すると最初は水が満たされた球体のようだったアクイラの姿も、現実世界のデータを得て徐々に変わり始めた。ある時は鳥、またある時は猫、更に次は犬……とね」
「まるでデジブレインみたいですね」
翔の言葉に鷲我も同意する様子を見せる。
デジブレインには、現実世界の様々なデータを得て姿を変える特性がある。今までに戦ったスタッグビートルやカメレオンなども、生物のデータを元にしているのだ。
アクイラにもその特性があり、さらにこれが原初の情報生命体だと言うなら、それは確かにデジブレインの先駆けと言えるかも知れない。
「そうして私はアクイラに様々な事を覚えさせていく過程で、ある時この生命体に感情というものが存在するのかどうか……それが気になった」
感情、という言葉を聞いて、全員の表情が変わる。
それはデジブレインには存在しないと考えられていたものであり、仮面ライダーにとっての動力源となるものだからだ。
「そもそも私は、電力や原子力に代わる物として感情をエネルギーに転換する研究を行っていたからね。もしもアクイラにそれがあるなら、何かヒントになるのではないかと思ったのだが……少し脱線したかな、話を戻そう」
咳払いをしつつ、鷲我は再度真剣な面持ちで語り始める。
「案の定、アクイラは感情という言葉そのものを知らなかった。だから私は、思いつく限りの感情を教え続けた。楽しい、嬉しい、清々しい。思えば正の感情ばかり覚えさせていたかも知れないな……そして、それが良くなかったのだろう」
「良くなかった……?」
「いつものように学習させている途中……ほんの少し私は居眠りをしてしまった。そして寝惚け半分にPCの画面を見て、驚いた……いや、恐怖したよ。心底ね……」
「一体、何が?」
全員が息を呑む。鷲我の表情がこれまで以上に深刻なものであり、彼の組んだ腕に力が入っているのを見たからだ。
「アクイラは私が眠っている間に、私のPCの権限を掌握し……自ら学習を始めていたのだ」
「なっ!?」
驚きの声を発したのは鋼作だ。
それもそのはず、今でこそ人工知能の自己学習機能など珍しくもないが、20年前の時点でそこまでの事ができるはずがないのだ。
しかもそれは、あくまで人間がある程度の知識を与えた上で成り立つもの。断じて、人工知能の側がPCをジャックして自ら知識を調べ漁って学習するなどあってはならない。
その上、鷲我の語る悪夢のような出来事は、それで終わりではなかった。むしろ、これが始まりとさえ言える。
「アクイラは私が教える事のなかった負の感情を学んでいた。憎しみ、嘆き、嫌悪……さらに今度は、そうした感情によって起こる人々の争い、諍いの歴史、血塗られた兵器……酷く嫌な予感がしたので私は学習を中断させようと何度も試みたし、消去しようとした事すらあったが、アクイラは止まらなかった。既にアクイラは、現実世界にいる私では手が出せない程の自己進化を遂げていたのだ」
「なんてヤツだ……!」
「そしてアクイラが負の感情の学習を終えた時、ある姿に変わった。今でもその瞬間はハッキリと覚えている」
「ある、姿?」
「……私だよ、私自身だ。彼は正と負の感情全ての知識を手にした事で、人間の姿を完全に模倣したんだ」
震える声のまま、絶句する面々の前でさらに鷲我は独白する。
「そして感情の学習をマスターしたアクイラは……突然、何かの設計図のようなものを作り始めた。その当時アクイラはまだ私を信用していたようなので、すぐに教えてくれたよ……その携帯端末とベルトのようなものが、現実世界へ顕現するための装置であり、人間を支配するための兵器であるという事を!」
ドクンッ、と翔の心臓が飛び跳ねる。
まさか。まさか、その兵器とは。
アシュリィも同じ可能性に思い至ったようで、彼女の方を見ると、ポケットの中から例のマテリアフォンに似た端末を取り出していた。
そして鷲我の「そうだ」という肯定により、その想像は確信となる。
「それこそがアクイラの生み出そうとしていた兵器の片割れ……『デジタルフォン』だ!」
「これが……人間を支配する兵器!?」
アシュリィが手に持ったそれを眺め、恐怖に顔をひきつらせる。翔は心配した様子で、彼女の横顔を見つめた。
しかし話はまだ終わっていない。鷲我はさらに、アクイラについて語り始める。
「幸いにもアクイラが兵器を完成させるまでには猶予があった。だから私はその兵器の設計図を参考にして、全く別の……人間の感情を動力とするシステムを構築した。それがマテリアフォンとアプリドライバーだ、当時はまだ現在の完成品には程遠いし危険な代物だったが……基礎はほぼアクイラが完成させていた事と、ある人物が協力してくれたお陰で、間に合わせる事ができた」
「ある人物、ですか?」
「翔くん。君も良く知っている男だ。あらゆる難事件・怪事件を解決に導き、特にサイバー犯罪に対して凄まじい実績を持つ男……」
「……まさか!」
「ヤツの名は『電脳探偵』天坂 肇。君たち兄弟の育ての父にして、最初の仮面ライダーだ」
この事実には翔も響も目を剥いた。
自分たちが父と慕っていた人物が、まさかこれ程深くデジブレインと関わっていたとは。その上、自分たちより遥かに昔から仮面ライダーだったと来ている。
「ヤツは見事にプロトアプリドライバーとプロトマテリアフォンを使いこなしていた。そして、当時まだ試作段階の戦闘用AIだったスカル・テクネイバーもね」
「どうなったんですか? その……戦いの行方は」
「結論から言うと我々はアクイラを倒す事ができた、粉々に砕け散ったよ。簡単な話ではなかったがね……だから、実物のデジタルフォンが存在するはずはないのだが……」
そう言って鷲我はすぐ「そういえば」と付け加えて、ピンと人差し指を立てる。
「アクイラは消滅の寸前、少々気になる事をしていた」
「気になる事?」
「恐らく途中から我々の行動に気付いたのだろう。兵器の具現化よりも、別の事を優先していた……何をしているのかは一目で分かったよ。新たな情報生命体をその手で生み出していたのだ」
「……それがデジブレイン……!?」
「私はそう思っている。確認できただけでも六か七体……尤も、それらは我々が確認した時にはほとんど卵のような状態で、完成する前に倒した事でアクイラと共に消えてしまったよ」
鷲我はそこで言葉を区切ると、また沈黙する。
壮絶な話だ。そこまで古くからデジブレインとの戦いの歴史が始まっていたとは、翔たちには想像もできなかった。
「それから年月を経て、また情報生命体が出現した。理由は分からないが、恐らく……事前にアクイラが作っていた例の七体以外に、デジブレインが現存していたのだろう」
「どうしてそう思うんですか? 他の人が作ったかも知れないのに?」
琴奈の質問に、鷲我は確信めいた目つきで首を横に振る。それはない、と。
そして、その理由を語り始めた。
「デジブレインはアクイラにしか生み出せない。あの卵の状態のデジブレインも、アクイラ自身が蓄積したデータの一部から産み落としたものだ。アクイラと同じようにサイバー・ラインで自然発生したならまだしも、全く同じものを一から人間に作れるはずがない。テクネイバーでさえ、研究当時のアクイラの解析データを基に作ったのだから」
「……ちょっと待てよ。じゃあまさか、アクイラはそのテクネイバーからヒントを得て、デジブレインを生み出したのか!?」
「……私も同じ結論だ」
鷲我は鋼作の言葉に首肯する。
これがデジブレイン誕生の秘密。そして、静間 鷲我の犯した罪であり、鷹弘が受け継いで背負い続けて来た責務。
今なお人々を苦しめているデジブレインを倒し続けるためにホメオスタシスを立ち上げたのは、せめてもの彼の贖罪なのだろう。
翔が椅子に座ったり、琴奈が深く息を吐いて各々受け止めた事実を噛み砕いている中、鋼作は静かに鷲我を睨んでいた。
「あんたの尻拭いって事かよ、響や……翔がやってる事は」
「鋼作さん?」
「ふざけんなよ! 響がこうして入院してんのも、翔が変身して無茶やって痛い思いしてんのも! 元を辿ればあんたのせいって事じゃねえか! なのにあんたはこの二人や自分の息子に戦いを押し付けて、何のつもりなんだよ!」
叫びながら、鋼作は怒りのままに鷲我の胸倉に掴みかかる。
それを見た鷹弘は止めに入ろうとするものの、鷲我が手で制した。
彼の怒りをその身で受け止めながら、鷲我は「すまない」と謝罪の言葉を述べる。
「君の言う通りだ、翔くんと響くんにも、本当に申し訳ない。本来ならば私が前に出て戦わなければならない事だ」
「分かってんならなんで!」
「できる事ならそうしたかった。だが……私には、アプリドライバーを扱う適性がなかった……」
「適性……?」
「……ドライバーを使う者には、リンクナーヴの他に備えていなければならないものがある。いや、できなければならないものと言うべきか」
沈痛な面持ちで、鷲我は言う。その声は先程までと同じく、酷く落ち込んでいる。
「自分の心の中にある葛藤や、目の前にある壁を壊して前に進むという強い意思、感情の爆発……即ち、ブレイクスルーだ」
ブレイクスルー。それを聞いた翔には思い当たるものがあった。
最初に変身したあの時、確かに自分は響や鋼作や琴奈を守るため、そしてデジブレインという壁を壊すために感情を爆発させた。しかしまさか、それが変身のための引き金になっていたなどとは夢にも思わなかった。
とはいえ、感情エネルギーをカタルシスエナジーに変換するという性質を考えれば自然な話ではある。強い感情を引き出す事ができなければ、戦いはおろか変身すらままならないのだから。
「自分が使う事も想定していたのだが、戦う覚悟が足りなかったのか……私にはアプリドライバーを起動する事すらできなかった。そしてデジブレインが再度出現した頃には、自ら戦うにはあまりにも歳を重ねてしまっていた……」
「だから、今からトレーニングもできる若い人材の育成に尽力したって事か?」
「……すまない」
再び頭を下げ、謝罪する鷲我。鋼作は胸倉を両手で掴んだまま、何も言えなくなった。
すると、そこへ鷹弘が二人の間に割って入る。
「やめろ。親父はもうホメオスタシスの責任者じゃない、リーダーは俺だ。それに俺は戦いに望んで参加したんだ、強制されたワケじゃない。責めるのなら俺にしろ」
「だからって……」
「……頼む。親父を責めないでくれ」
悲しげな瞳で見つめ、懇願する鷹弘。
それがリーダーとしての言葉であると同時に、鷲我の息子としての立場から来るものである事を理解して、鋼作の手は自然と緩んでいた。
その鋼作の肩に、ポンと手を乗せ微笑む翔。そして鷲我と鷹弘に「責める気なんて最初からありませんよ」とした上で、自分の意思を告げる。
「僕は自分で望んで戦いに身を投じる事にしたんです。だから、もう謝らないで下さい」
「翔の言う通りです。俺も自らこの道を選んだ、会長は何も悪くない……それに、会長は会長自身の戦い方で、ずっと償い続けているじゃないですか」
翔に続く形で、響が優しく言葉をかける。鷲我は改めて二人に向かって頭を下げ、ただ「ありがとう」と感謝を述べるのであった。
結局、何故デジタルフォンがここに存在し、何故それをアシュリィが持っているのか、鷲我にさえ確実な事は分からなかった。
しかしこれがアシュリィの記憶に繋がる可能性は間違いなくあり、何としてもデジブレインに渡してはならないという事は、ここにいる全員の共通認識となった。こんな話を聞かされた事もあって、アシュリィはデジタルフォンを、一度ホメオスタシスに預ける事に同意する。
そして鷲我は、再び翔の方を見やって「君にはもうひとつだけ話しておくべき事がある」と言う。
「検査の結果の事だ。単刀直入に事実を言うが、君には旧式手術の痕跡があった」
それを耳にして目の色を変えたのは、鷹弘と陽子と響、そして文彦だ。
勿論、文彦の脚の原因を知っている鋼作と琴奈も目を剥いている。何が起こっているのか分かっていないのは、翔とアシュリィだけだ。
中でも特に驚いているのは、手術の概要を知っている鷹弘と文彦である。
「旧式だと!? 親父、確かなのか!?」
「ああ。しかも、痕跡から見て施術されたのは最近の話ではない。10年以上前、下手をすれば彼が生まれて一年未満だ」
「……なんてこった……」
愕然とする鷹弘。翔は未だに状況が飲み込めず、困惑している。
「あの、旧式手術と今の手術って何が違うんですか?」
「……まず、今と違ってそもそもが極めて危険な方式なんだ。カタルシスエナジーの制御チップが導入されていないからね」
そう言ったのは、身を以てその危険性を知らされた文彦だ。
文彦が自分の両足を手でさすりながら語る姿に、流石の翔も何を言っているのか理解を示した。
さらに鷲我は、旧式手術の概要を語る。
「今の手術は両手首・両足首にナノマシンを注入する方式だが、旧式はそれとは大きく異なる。簡潔に説明すると……切開して、脊椎の辺りに小型の機器を埋め込むんだ。インプラント式と言えば良いだろうか」
「……えっ!?」
「この機器が、まずは脳にリンクナーヴを体に形成するための仮想器官を作り、その器官がリンクナーヴを全身へと隅々まで蔓延させる……そういう仕組になっている」
その施術内容を初めて聞いた全員が、絶句した。
何より恐ろしいのは、この施術を産まれて間もない子供に対して行っているという事だ。
これだけでも十分衝撃的な話なのだが、翔の耳により恐ろしい事実が突き付けられる。
「こんなもの、赤子相手にやれば確実に死ぬ。ましてや当時は……デジブレインが復活していない時期だ」
「それって……じゃあ一体誰が、何のために僕に手術を!?」
「……犯人は狂っているとしか言いようがない。科学者として怒りすら感じる」
鷲我は拳を固く握り込んで震わせる。幸運にも翔の命が助かっているから良いものの、普通なら翔は生きてさえいないのだ。
しかも、デジブレインがいない以上この施術にさしたる意味はない。こんな無意味な事に命――しかも赤子の命を天秤にかけるなど、決してあってはならない事だ。
気を取り直して、鷲我は握った拳を解いて話を続けた。
「君が制御チップを無視して本来ならあり得ない量のカタルシスエナジーを発生させられるのは、この旧式手術が影響しているのだと考えている」
「どうしてです?」
「この仮想器官とリンクナーヴで、カタルシスエナジーをチップそのものに流し込み、無意識の内にリミッターを解除していたのだろう。旧式のリンクナーヴならそれも不可能ではないからね」
「ふーむ、そういうものなんですね」
分かったような分からないような、などと呟きつつ、翔は頷いている。
他の面々はそれで納得していたようだが、一方で鷹弘はまだ何かが引っ掛かっていた。
確かに鷲我の出した結論には納得できる部分がある。現行方式での手術も施してあるので、異常な量のカタルシスエナジーもそれが影響しているのだろう。
だが、本当にそれで全てが説明できるだろうか? そもそも、一歩間違えば死ぬ程の手術を幼少時代にされ、生きている事そのものが異常だというのに。
しかし、この問題に関しては鷹弘にも結論を出す事はできない。考えるのを諦め、鷹弘は話の続きに耳を傾ける。
「……それから、例のガンブライザーというものについてだ。アレは我々の作るどの技術とも違う」
「同じベルト型なのにですか?」
「ああ。そもそもあのマテリアプレートに封入されているのはテクネイバーではなく、デジブレインだ」
琴奈の疑問に答えながら、鷲我は陽子と共にホログラムの資料を投影する。
それは、ガンブライザーとマテリアプレート《
「見たまえ。このガンブライザーは、Cytube Dreamに封入されたデジブレインを人間に寄生させ、犠牲者から溢れ出す特定の感情……欲望を貪らせて実体化させるのだ」
「しかも生体データを取り込んで肉体のコントロール権を掌握した上で、犠牲者のカタルシスエナジーを無理矢理引き出させてるから、ゲートがなくてもその場に残り続ける事ができるのよ……」
「恐ろしい発明だ。しかも、犠牲者からは寄生された時の一切の記憶が失われる。口封じの必要すらないというワケだ」
「一体誰がこんなものを……」
陽子の問いに、鷲我は頭を振る。会長である彼にさえ、心当たりはなかった。
ホメオスタシス製でないとすれば、考えられる可能性は二つ。
一つ目、アクイラが事前に作っていたものを、今Cytuberが使っているという可能性。これは鷲我がその存在を認知していなかったので怪しいラインだが、デジタルフォンの例もある以上無視できない。
二つ目はCytuberの中に、マテリアプレートやそれを利用する技術を持つ者がいるという可能性。マテリアプレートがホメオスタシス独自の技術である以上可能性は限りなく低いのだが、何者かが盗んだのなら不可能ではない。
よって、まずはホメオスタシスのPCにハッキングされた形跡がないかどうかを調べ、見つかればそこから調査に乗り出すという方針になった。
そしてその話に関連して、宗仁は「報告があるぜ」と挙手した。
「例のストライプってヤツの素顔についての話だ。行方不明者のリストを真っ先に洗ってみたら、ビンゴだ」
カサッ、とこちらは紙の資料をテーブルに放る。そこには、彼の名前や経歴が記されていた。
大人が参加する強豪ぞろいのチェス大会に何度も参加し、何度も優勝・準優勝を重ねている天才児。
学園での成績も体育含めトップで、交友関係も広かったという。素行に問題などもなく、教師陣からの評判も良い。
「家の方は特に裕福じゃないが貧しいって事もない。ただ、家族構成について調べて分かったんだが……こいつの両親も行方不明になってやがる」
「それって、やっぱりサイバー・ラインに?」
「多分な。ある日を境に足取りが忽然と消えてんだ、この街じゃそう考えるのが自然だ」
「ある日というのは?」
翔が訊ねると、宗仁は「まぁそこまで意味のある話とは思えんが」と前置きした上で、報告を続ける。
「この進駒って坊主が最後に参加した大会で、準優勝を飾った日だ」
「うーん、確かに意味があるとは……」
「ともかく俺からは以上だぜ」
宗仁が捜査情報の資料を片付け、捜査情報を共有を終える。
最後に挙手し、報告をするのは響だ。と言っても、彼は入院していたので情報などの報告ではない。
では、何かと言うと……。
「明日に無事退院する事になった。皆ありがとう、今度こそ力を合わせて戦おう!」
グッと拳を掲げるガッツポーズを見せながら響が言い、翔と鋼作・琴奈が彼を囲んで喜びと祝いの言葉を浴びせる。
その無邪気な彼らの様子を見て、陽子が微笑みながら「じゃあ」とアタッシュケースを手渡した。
「ちょっと速いけど、退院祝い。持っておいて」
「中を見ても?」
「良いわよ、どうぞ」
ガチャリ、とロックを外してアタッシュケースの中を見る響。
そこに入っていたのは、アプリドライバーとマテリアフォンの一式だ。
「これは……!」
「兄さん用にもう一基、って事ですか!?」
響と翔の二人が、まるでクリスマスプレゼントを貰った子供のように顔を上げる。
すると陽子は「私からじゃないけどね」とニヤついて言いながら、隣でそっぽを向いている鷹弘を見る。
「じゃあ、これ静間さんが?」
驚いたのは翔だ。鷹弘は何度か翔にアプリドライバーを返すように迫っていた事があったので、響が退院するとなれば彼も黙っていないかも知れない、と思っていたのだ。お役御免になるかも知れないと。
しかし、鷹弘はこっそり陽子に三つ目のアプリドライバーの生産を任せていた。これは一体どういう事なのか。
その理由は、他でもない鷹弘自身が語った。
「響は入院生活で腕が鈍ってる可能性もある、そうなりゃ誰かがサポートしねェとマズい。お前は一応、ヴェインコマンダーを撃退した実績もある……それを正当に評価して、とりあえずサポート役にお前を任命してやっただけだ」
「あ……ありがとうございます!」
「……勘違いすんなよ! お前がバカな真似したらアプリドライバーを返して貰うって話は、まだ終わってねェからな!」
プイと顔を背けながら、鷹弘はそう言って会話を打ち切る。
響はアプリドライバーをアタッシュケースにしまい、鷹弘と陽子に向けて頭を下げる。
「ありがとうございます。翔共々、期待に添えられるように頑張ります」
「……フン。今後俺たちは、例の栄って小僧をサイバー・ラインで追う事になる……まァ、ブランクを埋められるよう頑張んな」
こうして、響の見舞いを兼ねた現状報告は終わりを迎えるのであった。
が、帰ろうとする翔と鷹弘を、呼び止める者が一人いた。
「ちょっといいかい?」
御種 文彦だ。
翔はアシュリィと、そして鷹弘と共に、文彦の前に立つ。
そして訝しみながら、車椅子に座っている文彦に要件を訊ねた。
「どうかしたんスか?」
「僕らが何か……?」
文彦は上機嫌な様子で、鞄の中からある物を取り出す。
それは、マテリアプレートだ。しかし今までのマテリアプレートと異なり僅かに横に長く、一枚は青、もう一枚は赤のクリアパーツで構成されている。
また、表面にはそれぞれ《ブルースカイ・アドベンチャー》と《デュエル・フロンティア》の文字が表記されているが、それらの横に金字で『
「なんですかこれ!?」
「V2……!?」
翔がブルースカイ・アドベンチャーV2を、鷹弘がデュエル・フロンティアV2をそれぞれ手に取る。
すると文彦は得意げに笑い、それらのマテリアプレートの詳細を語る。
「これは僕が開発した、マテリアプレートの『
「けど、いつの間にニューバージョンの開発を?」
驚いた様子で翔が訊ねると、文彦は「僕にはこれくらいしか力になれないからね」と淋しげな微笑みを見せる。
「本当は僕も変身して戦いたいんだけど、こんな状態だからね。君たちが羨ましいよ」
「御種さん……」
「だからさ、戦えない代わりにこういう形で力になろうと思ってね! きっとこれは切り札になるはずだよ、使ってくれ!」
「……ありがとうございます! 是非使わせて頂きます!」
受け取ったマテリアプレートをポケットに入れ、翔は文彦に頭を下げる。
鷹弘も、文彦に一礼して手にしたプレートを大事そうに鞄の中にしまった。
「Cytuberって連中が何人いようと関係ねェ。俺たちが必ず勝ちますよ、あんたの力を借りて」
「フフッ、楽しみにしてるよ」
鷹弘からの尊敬の籠もった眼差しを受け、文彦は満面の笑みを浮かべる。
こうして、今度こそ彼らは解散する事になった。必ずCytuberやデジブレインを打ち倒し、平和を取り戻せると信じて。
――その翌日、彼らの身に悲劇が降りかかるとは知らずに。