仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.13[青く燃える]

「ど……どういう事だよ、これ」

 

 雨がぽつぽつと降り始めている事も気にかけず、鋼作が言った。

 彼も琴奈も陽子も、目の前で起きた出来事に、ただただ戸惑っていた。

 味方のはずの文彦が殴られ、車椅子から転げ落ちたというだけの理由ではない。その彼の懐から、敵であるジェラスアジテイターが使用しているはずのトランサイバーとフラッド・ツィートのマテリアプレートが飛び出したからだ。

 

「何がどうなってんだよ!?」

「どうして御種さんがそんな物を持ってるんですか!?」

 

 鋼作と琴奈が叫ぶ。唐突に突き付けられた事実を受け入れられず、半ば錯乱したように。

 それらの道具を見れば、既に答えは決まっているのだ。

 御種 文彦の正体はCytuberのヴァンガードであり、ジェラスアジテイター。つまりは、ホメオスタシスの敵だという事だ。

 

「お前らももう分かってんだろうが。こいつは裏切り者だ、ストライプと同じように姿を変えて俺たちの前に現れたんだよ」

「いや、けど……!」

 

 これだけ言っても鋼作たちが納得しないのには、ひとつ理由がある。

 文彦の脚だ。彼は改造手術を受けてアプリドライバーの運用試験の際、両脚に重傷を負ってしまい、二度と歩けなくなっているはずなのだ。

 しかしヴァンガードはしっかりと二本の脚で歩いている。この二人がどうしても、同一人物として結びつかないのだ。

 それが分かったのか、鷹弘はまずその点について説明する。

 

「こいつの脚が動かねェってのは多分マジだ。ただし、それはトランサイバーを付けていない間だけだがな」

「……どういう意味ですか?」

 

 鋼作と陽子はそれだけでも何となく察する事ができたが、琴奈は首を傾げた。そこで、鷹弘は補足する。

 

「思い出してみろ、戦いに負けたストライプがガキの姿に戻ったろ? トランサイバーは使用者の肉体を瞬間改造するシステム……つまり、ストライプの異常な巨体は、トランサイバーの機能でそのまま肉体が変化してるって事だ」

「じゃあ、まさか!?」

「そうだ……こいつも同じようにトランサイバーで自分の体を改造して、脚を動かしてんだよ」

 

 確かにその方法であれば、脚が動かないという前提は覆る。

 文彦は切れた口内から流れる血を拭いながら、鷹弘の姿を見上げた。

 

「ひとつ聞かせて欲しいなぁ。どうして正体が分かったんだ?」

「理由は幾つかあるが、まずひとつはあんたが車椅子のまま図書館の屋上に来ていた事だ」

 

 それを聞いて、陽子は「あっ!」と声を上げた。

 

「確かに、あの時はエレベーターが全部動かなかったはずだわ! そんな状態じゃ車椅子で屋上まで行けるはずがない! ゲートを通して車椅子ごと移動しない限り……!」

「そうだ……だが、それだけじゃこいつがヴァンガードとまでは断定できなかった」

 

 もしかしたら階段を使わないルートがあるかも知れないしな、とも鷹弘は言い足した。

 そしてその上で、彼がヴァンガードであるという真実に至った理由を口にする。

 

「フォトビートルにも記録されてると思うが……こいつは、アズールの姿を見た時に『ある言葉』を口走った。覚えてるか?」

「ある言葉……?」

 

 あの時は鋼作も琴奈も陽子も、戦況の分析があったのと新しいアズールの姿に目を奪われていて、そこまで気にかける余裕がなかった。

 そこで、フォトビートルを操作して当時の映像を再生する事にした。

 

『変身、できただと!?』

『バカな……!?』

 

 鉛色に染まったアズールを見て、鷹弘、文彦の順に言葉を発している。

 何がおかしいのか、三人共すぐには理解できなかった。だが、直後の自分たちの反応を見て、気付いた。

 鷹弘以外のメンバーは、V2アプリの使用を目撃するのは初めてのはずだ。だから、調整ミスで変身が失敗する可能性などそもそも考えてもいない。

 だからこそ、鋼作も琴奈も陽子も、普段と違うアズールに戸惑いはしているが、テスト前のプレートのリンクチェンジが成功して安堵している。

 故に文彦の反応がおかしいのだ。リンクチェンジの成功を目撃した際に、困惑してあまつさえ「バカな」などと口にするなど。

 

「この反応は、失敗する事が分かってねェとあり得ねェよ」

「た、確かに……」

 

 鋼作が同意し、琴奈も頷く。彼らにもようやく、文彦=ヴァンガードの図式に確信が持てたようだ。

 皮肉な事に、鷹弘がV2アプリの使用に失敗し、翔が暴走したお陰でこの真実に辿り着く事ができたのである。

 続けて、鷹弘は文彦の行動について振り返る。

 

「最初から俺たちを始末するのが目的でV2アプリを作っていたあんたは、俺がまんまとダメージを受けたのを見てしめしめと思ったはずだ。このまま俺を殺せるし……俺の失敗が、そのままアズールの失敗にも結びつくんだからな。恐らく、俺をあの場から逃しちまったのだけは想定外だったろう」

「……」

「そして俺が図書館に到着してすぐに、あんたもゲートを通じてやって来た。俺にトドメを刺して、恐らくV2アプリを使うであろうアズールを、ヴェインと協力して確実に抹殺するために。だが、俺に逃げられて急ぐあまり、あんたは図書館の状態をロクに確認しなかった」

「……ああ。その通り、だ!」

 

 叫んだ文彦は、地面に転がっているトランサイバーに大きく手を伸ばした。

 だがその動きを予期していた鷹弘は、それよりも速くトランサイバーに狙いをすまし、マテリアガンで撃って文彦の手から遠ざけた。

 

「クッ!?」

「やらせると思ってんのか」

 

 鷹弘はそのまま、照準を文彦の体に定めた。強い怒りを孕んだ眼差しは、次に文彦が大きく動けば必ず撃つと語っていた。

 さらに鷹弘は銃口を突き付けたまま、文彦への追及を続ける。

 

「あんたが響を連れ去ったのも事実だろうな。思えば響があんな簡単に拐われる、それ自体がおかしいんだよ……知らないヤツが病室に来て、無警戒でいるはずがないからな」

「……そうか! ホメオスタシスのエージェントとして見知った仲だし、脚が動かないなら尚更怪しまれずに済むって事か!」

「警察が手に入れた証拠品や調査データ、それを消したのもあんただろ。トランサイバーやガンブライザーもだ、あんたが向こう側で開発に携わっているんだとしたら……!」

 

 鷹弘は次々に文彦の真実と罪を暴き、数えていく。

 その途中で、陽子は鷹弘の隣に立って、涙ながらに「どうして!?」と叫んだ。

 これまで彼と一緒に戦って来た陽子には、どうしても信じられず、耐え切れなかったのだ。

 御種 文彦が裏切り者であるという事実に。

 

「どうして私たちを裏切ったんですか!? 私たちは同じホメオスタシスの仲間じゃなかったんですか!?」

「……」

「答えて下さい、御種先輩!」

「……クッ……」

 

 身を震わせ、俯く文彦。地面に手を付き、頭を垂れる。

 そして再び顔を上げた時。

 

「ヒャァハハハハハ!」

 

 彼は、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。

 全員が驚いて動きを止め、その瞬間に文彦がパチンと指を弾く。

 すると、トランサイバーから突然に数体のベーシック・デジブレインが飛び出し、トランサイバーを文彦の方に放り投げた。

 

「ハァイハイ、ありがとよ」

 

 文彦はそれをキャッチし、左腕に装着。

 デジブレインたちが鷹弘に撃たれフォトビートルに頭を抉られて消えるのを見届けながら、リューズの部分を左に回した。

 

Roger(ラジャー)! アバターモード!》

 

 その音声が流れると同時に、文彦の全身がモザイクで泡立ち、服装が変わって顔にも変化が起きる。

 瞳の色が緑に染まり、瞳孔が蛇のように縦に割れたのだ。さらに脚ももう動くらしく、ゆらりと立ち上がった。

 服は今までのヴァンガードと同じく文字で埋め尽くされた奇妙なカソックだが、顔だけは本来の文彦とほとんど同じだった。

 

「ゲートを開いていたのか、いつの間に!?」

「お前らが来る前からだ……俺を追い詰めたつもりだろうが、残念だったなぁ。俺は慎重なんだよ」

 

 頬を歪め、文彦――ヴァンガードは鷹弘を見下ろす。その姿を見て、また陽子は「どうして」と消え入るような声で言う。

 

「昔言ってたじゃないですか、ヒーローに……正義の味方になるって。そのために力が必要なんだって。あの言葉はなんだったんですか……あの時の先輩は、先輩の正義はどこに行ってしまったんですか!?」

「あぁ? さっきからうざってぇなぁぁぁ~」

 

 ニタニタと笑いながら、バキン、とヴァンガードは地面に落ちた眼鏡を踏み壊した。

 

「大体お前ら、自分の尺度で正義を語ってんじゃねぇよ。世界の平和だとか人類を救うだとかぁ? なんでそんな超下らねぇ思想ばかりが正義って言い切れんだよ?」

「それ、どういう……」

「俺はなぁ、絶対的な力が欲しかったんだよ! それさえありゃあ、俺はあらゆる存在の頂点に立つ事ができる! 例のアクイラも、完成する前に滅ぼされなけりゃこの世の支配者になっていた! そして今では、それを滅ぼした仮面ライダーこそがこの世を支配する正義だ! 俺はその力を羨んだ、その力が欲しかった! なのにそこにいる親の七光りの静間も、ただゲームが上手いってだけの響ってぇカスも! そしてあのクソガキの翔も! 俺より先にその力を手に入れやがって! 目障りなんだよ!」

「えっ……何を、言って……?」

「まだ分かんねぇのかぁ? 俺はな、力を手に入れるためにホメオスタシスを利用していただけなんだよ! 正義とは『力』! 世界に蔓延るクズ共を制し万物を統べる、絶対にして圧倒的な最強の力だぁ……力を持つ者こそが究極の正義に、支配者になる! それこそが俺の目指すものだ! 裏切りだの何だの、それ自体がそもそも筋違いなんだよ! 俺の味方は最初から俺だけだ、それ以外は利用するための道具でしかねぇのさ!」

 

 力強く拳を握って熱弁するヴァンガード、その手には鷹弘と同じくマテリアガンが握られている。

 銃口が自分に向けられているのを見て、鷹弘は眉をしかめて懐からそっとマテリアフォンを取り出した。

 

「つまり、最初からあんたは力の虜だったって事か。だからCytuberになったんだな。実験の失敗を恨んでるのかと思ったぜ」

「プロトアプリドライバーの運用試験では確かに脚を失った。だがそんなものはどうとでもできる、その点に関しちゃ感謝してるのさ……お陰で強力なリンクナーヴが身体に生成されたからなぁ」

「……最後の質問だ。響をどこにやった」

「サイバー・ラインだよ。ただし、普通に送り込んだワケじゃない」

 

 得意げに言い放ち、マテリアガンを持ったままヴァンガードは両腕を大きく広げる。

 

「ヤツはマテリアフォンを持っていたからなぁ。ちょいと騙くらかして、バックドアを消してやったよ」

「えっ……!?」

「今頃もうデジブレインに襲われて野垂れ死んでるかもなぁ~? 目障りなヤツが消えてくれて清々したぜ、ヒャァハハハハハ!」

 

 その言葉に鋼作も琴奈も絶句し、陽子は地に膝をついて涙を流した。

 バックドアはサイバー・ラインから帰還するための手段だ。それを消したとなれば、それは生還が絶望的となったという事になる。

 響が本当に連れ去られたのもショックだが、文彦がそんな人殺しに等しい所業を笑いながら平気でできてしまうという事実が衝撃的だった。

 彼らの知る御種 文彦という人間など、最初から幻想に過ぎなかったのだ。

 

「……フ、フフフ、ハハハハハ……」

 

 そしてそれを聞かされた鷹弘は、突如として笑い始める。

 三人だけでなくヴァンガードもその姿に訝しみ、鷹弘を注視した。

 

「正直に言うと……まだ少し迷ってたんだよ、あんたには負い目があったからな。だがもう吹っ切れた」

「あぁん?」

「テメェに容赦する理由は、これで全部消えた。こっちこそ感謝するぜ、遠慮なく叩きのめしてやるよ」

《ドライバーコール!》

 

 マテリアフォンのアイコンをタッチし、アプリドライバーが呼び出される。

 鷹弘はさらにデュエル・フロンティアを取り出し、起動してアプリドライバーにセット。

 彼の言葉を聞いて、ヴァンガードは「フン」と鼻で笑いながら自らもフラッド・ツィートを起動してトランサイバーに装填した。

 

「叩きのめすだぁ? できると思ってんのか、お前如きがよ?」

《アイ・ハヴ・コントロール! アイ・ハヴ・コントロール!》

「やってやる……相手が誰だろうと、俺がブッ潰す!」

《ユー・ガット・メイル! ユー・ガット・メイル!》

 

 二人が睨み合う中、雨足が強くなり始める。

 そして鷹弘は怒りに満ちた雄叫びを上げ、ヴァンガードはそれを迎え撃つかのような余裕の笑みで音声入力を行う。

 

「変……身!」

背深(ハイシン)

Alright(オーライ)! マテリアライド! デュエル・アプリ! 孤高のガンマン、インストール!》

Roger(ラジャー)! マテリアライド! ツィート・アプリ! 惑いの言霊、トランスミッション!》

 

 光と共に鷹弘がリボルブに変わり、ヴァンガードの全身がモザイクに包まれジェラスアジテイターへと変貌する。

 リボルブは拳を振り上げ、跳躍。ジェラスも同じく拳を振り被り、迎え撃った。

 

「オラァァァッ!」

「ヒャァハハハ!」

 

 二人の拳は互いの顔面に命中し、両者とも雨に濡れた地面を転がる。

 しかしすぐに立ち上がり、リボルブはリボルブラスターとマテリアガンを抜いてジェラスを撃つ。

 

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

 

 だがジェラスも既に動いていた。銃撃が来る事を予期し、倒れた瞬間にはもうエフェクトを発動させていたのだ。

 掌から『壁』の文字が飛び出すと、地面にぶつかって破裂。巨大な石造りの壁が迫り上がり、銃弾を防いだ。

 

「チッ!」

《ジェイル・プラネット!》

「リンクチェンジ……!」

《監獄のサバイバー、インストール!》

 

 通じないと見るや、リボルブは即座に戦術を切り替える。

 壁を出そうとも高威力の無数の銃弾で押し切れる、ジェイルリンカーだ。

 リボルブラスターをマシンガンモードに変え、壁の向こう側にいるであろうジェラスを撃つ。さらに、ジェイルターレットがその攻撃を補佐する。

 

「……何!?」

 

 だが、ジェラスは既にその場からいなくなっていた。驚いて周囲を見回すと、ジェラスは離れた電灯の上に立ち、再びリボルブに掌とマテリアガンを向けている。

 掌から文字が飛び出した。あの爆発攻撃が来る。

 それを理解して、リボルブは文字を良く見ずにリボルブラスターで撃ち抜いた。

 直後、爆発ではなく閃光がリボルブの視界を奪い尽くした。

 

「ぐあっ!?」

「甘いんだよなぁ!!」

 

 リボルブの行動を読んだ罠だったのだ。

 光で目が眩んでいる間に、今度は爆発が彼の体を襲う。

 ジェイルリンカーでは勝てないと判断し、リボルブは次のマテリアプレートを装填した。

 

《高貴なるスレイヤー、インストール!》

「オオオオオッ!」

《バーサーキング!》

 

 ダンピールリンカー。バーサーキング状態になり盾で爆破を防ぎながら、電灯に乗っているジェラスに向かって突進する。

 それでもジェラスは狼狽しない。冷静に同じボタンを押し、文字を掌から射出した。

 

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

 

 発射したのは『雷』の文字。盾で防いだ瞬間、リボルブの全身を電流が駆け巡る。

 

「があああ!?」

 

 堪らずバーサーキングを解き、リボルブは立ち止まって膝をついた。

 電灯から飛び降た後マテリアガンで撃ち、引き金を引きながら前へと歩んでジェラスは嘲弄する。

 

「そんなボロボロの体で良くやる気になったな。俺との戦いとV2アプリでのダメージが残ってんだろ、なのに勝てる気でいるのかぁ? 相変わらずバカな野郎だぜ」

「んだとォ……!!」

「戦いは勝たなきゃ意味がねぇ。だから俺は100%勝つ戦いしかしないし、そのためなら手段を選ばねぇ! お前らに致死のV2アプリを渡した時のように……そして響をサイバー・ラインに送った時のようになぁ!」

「それがァ……それが仮にも仮面ライダーを目指した男がやる事かァァァッ!!」

《神託のレンジャー、インストール!》

 

 またもリボルブはリンクチェンジを行う。今度は遮断能力を持つオラクルリンカーだ。

 この力を使う事で、リボルブは視界から遮断されその場から姿を消した。

 だが、ジェラスは尚も余裕を見せつけている。まだ策があるようだが、リボルブは止まらない。姿を消したまま、背後からオラクルナイフを突き立てようとした。

 

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

 

 その瞬間、ジェラスは右の掌から『爆』の文字を浮遊させ、直後に左掌からは『散』の文字を発射。

 すると『散』の文字を受けた『爆』の文字は分裂してジェラスの周囲に散らばり、360度全方位に爆撃を行った。

 

「がっ!?」

 

 後ろから迫っていたリボルブも、当然その攻撃を受ける。背後で地面に転がった彼を見て、ジェラスは勝ち誇ったように高笑いした。

 

「何をしようと無駄なんだよ! お前が持つアプリのデータも戦闘も、俺は既に全部手の内を見てんだ! 攻略法が分かってて負けるヤツがどこにいる、そんな事も分かんねぇかこのカスが!」

「くっ……!」

「さぁて、これで終いならそろそろ嬲るのはやめだ。殺してやるよ、望み通りになぁ」

 

 マテリアガンをマテリアエッジに切り替え、ジェラスはゆらりと歩いて行く。

 だが、手の内を尽く読まれようとも、リボルブは諦めてはいなかった。

 

「負けて、たまるかよ」

「あぁん?」

「まだ何も……終わってねェッ!」

《ブルースカイ・アドベンチャー!》

 

 その音声を聞いて、鋼作たちはおろかジェラスまでもが驚愕した。

 翔が持っているはずのマテリアプレート、それがリボルブの手の中にあったのだ。

 

《ユー・ガット・メイル! ユー・ガット・メイル!》

 

 リボルブは、その音声を聞きながらアプリドライバーに装填し、マテリアフォンをかざして叫んだ。

 

「変……身!」

Alright(オーライ)! マテリアライド! ブルースカイ・アプリ! 蒼穹の冒険者、インストール!》

 

 ウォリアー・テクネイバーの銀色の装甲がリボルブの体に合着し、赤いパワードスーツをプロテクトする。

 仮面ライダーリボルブ ブルースカイリンカー。マテリアプレートを使ってリンクチェンジした、リボルブの姿だ。

 全身からカタルシスエナジーが迸り、青い閃光がリボルブの体を包み込んだ。

 想定外の姿にジェラスも一度は驚くが、すぐに落ち着きを取り戻した。

 

「だからどうしたってんだ? 俺はアズールの戦闘データも閲覧済みだ……今更そんな虚仮威しが通じるワケねぇだろうが!」

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

「大人しく負けろ、このカスがぁ!」

 

 ジェラスの左右の掌から、高速で『槍』の文字が飛び出す。

 エフェクトを発動する時点でその行動を読んでいたリボルブは、ブルースカイリンカーの特殊能力で突風を巻き起こし、その文字を逆方向に押し返す。

 それさえもジェラスは見切っていた。右方向にステップしつつ、さらにもう一度エフェクトを発動しようとトランサイバーに手を伸ばした。

 だが、逆風はジェラスの想像を超えて強く吹き、その場に押し留めた。

 

「なっ!?」

 

 必然的に、文字はジェラスの胴に命中。弾けた場所から槍が飛び出し、ジェラスの体を後方へ吹き飛ばした。

 

「ぐう!?」

「オラァァァッ!」

《アズールセイバー!》

 

 右手にリボルブラスター、左手にアズールセイバーを構え、リボルブは飛翔してジェラスを追撃する。

 銃撃をジェラスが壁の生成で防げば、飛翔して頭上から剣で直接斬り込む。

 その剣撃をマテリアエッジで辛うじて凌ぐと、今度は超至近距離からの銃撃が胴体に命中する。

 反撃とばかりに蹴りを繰り出そうとすればそれも読まれており、飛翔と凄まじいスピードで距離を取られた上、最接近して頭突きを食らわされる。

 

「どういう事だ、性能はサイバーノーツの方が上のはず!?」

 

 そんなジェラスの困惑ごと吹き飛ばすように、リボルブはその顔面に拳を何度も打ち込んだ。

 

「そんなもん知ったこっちゃねェよ! ひとつだけ分かってんのはなァ……これは俺一人の力じゃねェって事だ!!」

 

 再度エフェクトを発動しようとしたジェラスの右手に、リボルブラスターの弾丸が命中。ジェラスが怯む隙をついて、リボルブはアズールセイバーで再び斬りかかった。

 だが、ジェラスもただやられるばかりではない。倒れ込むと見せかけ、素早くトランサイバーのボタンを押し込んだ。

 

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

「喰らえ!」

 

 風で押し戻すにはあまりにも遅く、そして接近しすぎた。リボルブは『爆』の文字を受けて地に膝をつき、さらにジェラスの蹴りを受けた。

 

「ぐ……ガハッ!?」

「鷹弘!?」

 

 陽子が声を上げ、鋼作たちも心配そうに見守る。

 爆撃や蹴りのダメージ自体は然程でもないはずだが、リボルブは激痛と疲労感に苛まれている。

 ただでさえV2アプリのダメージが残っている状態なので当然ではあるが、それに加えて平時よりも遥かに高いカタルシスエナジーの増幅が、より肉体に負担をかけているようだ。

 

「貰った! お前も、あの翔とかいう邪魔くさいガキも……纏めて死なせてやるよ! 『ファイナルコード』!」

Roger(ラジャー)!》

 

 ジェラスは、三つ見誤っていた。

 と言ってもリボルブのダメージの事ではない、既に限界に近いのは事実だ。

 ジェラスにとって想定外なのは、この状態でもリボルブの速撃ちは衰えない事。

 加えて、今この距離は、リボルブラスターの射程内であるという事。

 そしてリボルブ――静間 鷹弘は、一度見ているジェラスのこの必殺技の対策を、既に組み立てていたという事だ。

 

「貰った」

 

 リボルブの声と共に、パァンと銃声が雨空の下に響き渡り、データの銃弾がジェラスの手に命中する。

 文字を生み出す掌、その『爆』の文字を破裂させて。

 

「なっ……」

 

 瞬間、ジェラスの掌に爆発が起こる。それも一度や二度ではなく、文字が出てくる度に無数の爆発が連鎖し続け、大爆発となった。

 結果として、ジェラスは自分で自分の必殺技を受ける事になってしまったのだ

 

「ぎ、ギアアアアア!?」

「言ったはずだぜ……テメェも今日からザコの仲間入りだ、ってなァ!」

 

 全身から黒煙を噴き出しながら、今度はジェラスが地に跪き、逆にリボルブは立ち上がった。

 形勢逆転、リボルブの反撃が始まる。まずリボルブは、Oracle Squad(オラクル・スクアッド)のプレートをリボルブラスターに装填した。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! オラクル・マテリアルカノン!》

「グガッ!?」

 

 データの弾丸がジェラスの顔面に直撃し、地面を舐めさせる。

 ジェラスも立ち上がって反撃に転じようとするが、遅い。既にリボルブは殲血のダンピールをアズールセイバーにセットし、必殺を発動していた。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! ダンピール・マテリアルスラッシュ!》

「ドアアア!?」

 

 剣を振り抜いて斬り上げ、上空へと吹き飛ばすリボルブ。さらに続けざまにリボルブラスターへジェイル・プラネットを装填、銃口を真上に向けて追撃を行う。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! ジェイル・マテリアルカノン!》

「ギャアアア!?」

「さ、三連撃……!!」

 

 琴奈が唖然とする。

 以前アズールが三つの武器で同時に必殺を放った事があるが、その時程ではないにしろ、リボルブの身体には凄まじい負荷がかかっているはずだ。

 しかし、リボルブは手を止める様子を見せない。闘志を衰えさせる事なく、今度はデュエル・フロンティアのマテリアプレートをアズールセイバーに挿入した。

 そして悲鳴を上げながらジェラスが地面に落ちてきたタイミングで、リボルブは必殺を発動した。

 

「オラァァァッ!」

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! デュエル・マテリアルスラッシュ!》

「クッ、そう何度も食らって……!?」

 

 斬撃が来ると踏んでいたジェラスは、顔を上げて瞠目した。

 青い炎を纏い、アズールセイバーが飛んで来たのだ。リボルブはあろう事か、必殺を発動した武器を高速で投擲したのだ。

 

「ヌオオオ!?」

 

 予想外の攻撃にジェラスは完全には対応できず、アズールセイバーを掴んで止めようとするも、刃先が胴に命中する。

 しかもそれだけではなかった。既にリボルブが飛翔し、マテリアプレートを押し込んで、ジェラスの方に向かっている。

 

《フィニッシュコード!》

「御種ェェェッ!!」

Alright(オーライ)! ブルースカイ・マテリアルバースト!》

「これで決別する! テメェとも、テメェに感じていた友情とも!」

 

 リボルブのキックが、アズールセイバーの柄に命中。刃先が押し込まれると同時に、衝撃とエネルギーがジェラスの身に亀裂を入れた。

 

「クウウウッ!?」

「オオオオオッ……ガ、ハッ!?」

 

 瞬間、リボルブの仮面の隙間から、血が溢れ出た。

 肉体の限界だ。五連続の必殺発動という負荷に、ついに耐えきれず吐血してしまったのだ。

 ジェラスは安堵し、勝利を確信する。最早これで抵抗はできないだろうと考え、今度こそ自分の必殺技で決着をつけようと。

 だが。

 

「グ、ォラアアアアアッ!!」

「何っ!?」

 

 変身が解除されないまま、リボルブはブルースカイ・アドベンチャーを抜き取り、リボルブラスターに装填した。

 

《フィニッシュコード!》

「バカな、限界の身体でなぜ動ける……!?」

「俺たちに……仮面ライダーに、限界はねェッ!!」

Alright(オーライ)! ブルースカイ・マテリアルカノン!》

「くたばりやがれェェェェェッ!!」

 

 リボルブはそのままジェラスに向けて、青い炎の弾丸を放つ。

 防御する間もなく弾丸を受けたジェラスは、変異が解除されて地面を転がる事となった。地面に着地したリボルブも、その瞬間に変身が解けてしまう。

 ヴァンガードは驚きつつ、疲弊した様子で立ち上がる。

 

「油断、しすぎたか……まさかお前に一杯食わされるとはなぁ」

「逃がすと……思ってんのか」

 

 口元に付いた血を手の甲で拭いながら、鷹弘はヴァンガードを睨む。

 それを見たヴァンガードは余裕を見せつけるかのように唇を釣り上げ、トランサイバーに「ゲート」と音声入力した。

 

「立っているのもやっとの男が、随分と強気だなぁ。悪いが俺は勝てない勝負はしない主義でね、逃げさせてもらうよ」

「待ちやがれ……クソッ!」

 

 止めようと前へ踏み出した鷹弘だが、全身に走る激痛に呻き声を上げる。

 それでも尚、足を引き摺りながら前に向かうものの、ヴァンガードは大きくバックステップし、ゲートを通ってその場から去ってしまった。

 追跡は失敗だ。途端に、鷹弘の体から力が抜けて行く。

 

「チッ……ここまで、かよ」

 

 鷹弘の体が前へと倒れかける。その背を陽子が抱き止め、鋼作と琴奈が両手を掴んだ。

 

「鷹弘っ!」

「ったく、翔に無茶すんなとか言っておいて……あんたも滅茶苦茶するよな」

「でも……ありがとうございます、静間さん」

 

 三人に支えられてやっと立ち上がった鷹弘は、自分の手の中にあるブルースカイ・アドベンチャーのマテリアプレートに視線を落とす。

 これを手にした時に見た青い光は、もう失われている。

 翔が自分に手を貸してくれたのだろうか。今となっては何も分からないが、そうでなければ鷹弘はとっくに戦闘不能になっていた。そう考えるしかないのだろう。

 

「……返しに行かねェとな。あいつも仮面ライダーなんだ」

「鷹弘、どうかした?」

「なんでもねーよ」

 

 フッと微笑みながら、鷹弘は陽子の肩を借りて医務室へと向かう。

 いつの間にか、暗闇を裂くように、雨雲の切れ間から光が差し込んでいた。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 リボルブの奮闘によって撃退された後。

 再び現実世界に戻ったヴァンガードは、帝久乃市内の作業倉庫とはまた別の隠れ家にやって来ていた。

 ホメオスタシスも電特課も把握しておらず、ある人物以外は他の誰も知らない秘密のアジトだ。痛む脇腹を押さえながら、ヴァンガードはやっとの思いでソファーに寝そべる。

 

「やれやれ、随分手酷く……やられたな」

 

 そう独りごちると、ヴァンガードはあるものを取り出して机の上に放り出した。

 

「こいつと戦闘データを持ち帰れたんだ、良しとするか」

 

 ストライプが使っていたガンブライザーとCytube Dreamのマテリアプレートだ。医務室から出た後に、こっそり持ち出しておいたのだ。

 すると、それを見通していたかのように、この場所を知る唯一の人物が目の前に出現した。

 

「お帰りなさいませ、ヴァンガード様」

「よぉスペルビアP(プロデューサー)、相変わらず神出鬼没だねぇ」

 

 マテリアプレートとガンブライザーを回収するスペルビアを見て、ヴァンガードはソファーに足を投げ出し、ひらひらと手を振りながらそう言った。

 スペルビアはにこやかに、ヴァンガードに一礼する。そして同時に、ボロボロになったヴァンガードの姿を訝しんだ。

 

「あなた様の正体を知った上、そこまでの傷を負わせるとは。中々侮れないようですねぇ、仮面ライダーも」

「思ったよりやるぜ。ちょいと遊びすぎた」

 

 ヴァンガードはくつくつと笑いながら「だが」と付け加え、半身を起こした。

 

「まだ全力を出し切ったワケじゃねぇ……次に戦う時は俺が勝つさ」

「それはそれは、その時を楽しみにしておくと致しましょう」

 

 そう言ってスペルビアは背を向け、指を弾こうとした寸前、背中を見せたまま「ところで」とヴァンガードに語りかけた。

 

「何か、良からぬ事を考えてはいませんか?」

「ハッ! 何を今更……俺は悪い事しか考えてねぇぜ」

 

 その言葉を受けて、スペルビアは含み笑いと共に両手を大きく広げて振り向き、一礼した。

 

「あなたは実に面白い人だ、これからも期待させて頂きますよ。では、失礼致します」

 

 パチンッ、と指を弾くと、スペルビアの姿はその場から消失する。

 彼がいなくなったのを確認して、しばらくしてからヴァンガードは溜め息混じりに立ち上がり、作業机の戸棚の鍵を開いた。

 その棚の中には、ある物が入っていた。

 銀色のベルトのバックルに、携帯端末――まだ基盤が剥き出しで不完全な部分も多いようだが、アプリドライバーとマテリアフォンだ。

 

「あぁ、きっと面白くなるさ……」

 

 PCを操作してアプリドライバーとマテリアフォンの設計図を表示し、戸棚の奥からさらに二つの板状の物体を取り出すヴァンガード。

 マテリアプレートだ。まだ名前は入力されていないが、その形状は翔たちに与えたV2アプリに酷似していた。

 

「こいつらが完成したら、もっと面白い事になるぜ。俺にとってなぁ」

 

 邪悪な笑顔を顔一面に貼り付け、ヴァンガードは作業に取り掛かるのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「ぐすっ……ひくっ、うう……うぇえええ……」

 

 サイバー・ラインにて。

 暴走したアズールに敗北したストライプ、栄 進駒は、自らの居城の中を歩いて一人啜り泣いていた。

 先の戦闘も合わせての二連敗。さらに彼は八歳の少年なので、無理もない話である。

 

「ボクは負けたらいけないんだ……勝って、勝って……一番にならなきゃいけないんだ……なのに……」

 

 自分に言い聞かせるように呟きながら、進駒は歩き続ける。

 そして、玉座の後ろにあるチェス盤の上に手を置く。すると彼の指紋を認証して、隠し扉が音を立てて開き、進駒はその中へと入っていく。

 最奥の間には、巨大な黒いキングと白いクイーンの駒が隣同士に並んでいた。それは単なる駒ではなく、一部がガラスになっており、中に人の姿が見えた。

 キングの方には男性、クイーンの方には女性が入っており、双方とも中で管状の機械に繋がれ、苦悶の表情のまま意識を失っているようだ。

 

「父さん……母さん……」

「恋しくなりましたか? 彼らの事が」

 

 そんな声が、進駒の背後から聞こえた。

 声の主は孔雀の仮面を付けた男、スペルビアだ。手に持ったガンブライザーを、進駒へと見せびらかしている。

 

「それは!?」

「ヴァンガード様が奪い返して下さいましたよ。尤も、あの方はもうホメオスタシス側には戻れないでしょうが」

 

 そう言って、スペルビアは進駒に向かってガンブライザーを放り渡した。見事にキャッチした進駒は、それを持って俯いている。

 

「それで、どうなのです? 自分の両親が、帰る家が恋しいですか?」

「まさか」

 

 涙を拭った進駒は、意識を失っている両親に憎しみに満ちた眼差しを送っている。

 

「こいつらは親でありながら、目先の欲に駆られて天才であるボクの人生を狂わせ、道を閉ざしたクズだ。恋しいワケがありませんよ……こいつらをこうして閉じ込めているのは、苦しむ姿を眺めて心を落ち着けるためです」

「そうですか、それは良かった」

「……でも、今は少し怖いんです」

 

 訝しむようにスペルビアが進駒の顔を見る。

 進駒は震えながら、地面を見つめて自分の体を抱えた。

 

「アズールのあの新しい力……あまりにも計算外だ、ボクが一撃でやられてしまうなんて! クイーンたちをフルに使って、ボク自身も前に出て、ようやく倒せるかどうか……」

「おやおやおや。あなた様からそのように弱気な発言が飛び出すとは」

「弱気にもなりますよ! 幸いにも向こうは力を制御できていないようでしたが、もしもまたアレで攻めてこられたら……!」

 

 進駒が叫ぶと、スペルビアは彼の肩に手を置いて顔を近づけ、微笑みながら「大丈夫ですよ」と語りかける。

 そのスペルビアの瞳を間近で見て、進駒は小さく悲鳴を上げた。

 同心円状に広がる、外側から黄・緑・赤・青・橙・藍・紫の七色の層で構成された瞳。それでいて中央にある瞳孔は、光を吸い取り奪い尽くすかのような、どこまでも深い暗黒だ。

 

「あなた様は、まだトランサイバーの機能を全て使ったワケではないのでしょう?」

「え……」

「『ビーストモード』ですよ」

 

 瞳に見入っていた進駒が、ビクッ、と身を震わせる。

 

「アレを使えば仮面ライダー共など、最初から物の数ではない。違いますか?」

「は、え……しかし……アレは、その……ボクにもまだ制御不能で……」

「おやおや、今更そんな事を気にする必要などありますか?」

 

 スペルビアはさらに瞳を近づけ、進駒の怯え切った目を覗き込む。

 

「仮面ライダーとホメオスタシスさえ止めてしまえば、あなた様の願いを阻む者はいなくなります。ならば、制御不能であろうが何であろうが、手段を選んでいる場合ではないのでは?」

「う……あ……で、でも……」

「また負けてもよろしいのですか? あの時のように?」

 

 息の荒かった進駒の顔が強張り、怯えが徐々に消えていく。

 呼吸も徐々に整い始め、未だに戸惑ってはいるものの、進駒は一度だけ頷いた。

 唇を固く結び、輝きを失った瞳で静かに隠し部屋の外へ向かって行く。

 

「そうだ、ボクは勝たなきゃいけない……勝つんだ!!」

Roger(ラジャー)! アバターモード!》

「かかって来いホメオスタシス……ボクの総力を以て迎え撃つ!!」

 

 偽りの鎧を纏い、居城の主は玉座に腰を下ろす。

 その様子を満足気に眺めて、スペルビアは数度頷いた。

 

「それでよろしい」

 

 スペルビアは城主に背を向け、頬を大きく歪める。

 その瞳には、ありとあらゆる命を見下す、邪悪な思念と底知れない欲望が宿っていた。

 

「私から見れば、あなた様も所詮はただの駒……利用されるだけの、居場所のない空っぽの人間なのですからね」

 

 パチンッ、と右手で指を弾き、スペルビアはその場から姿を消した。

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