リボルブがジェラスアジテイターを撃退した後。
鋼作は、琴奈と共に地下研究施設の休憩室にいた。
アシュリィも先程までここで一緒にいたのだが、すぐに仮眠室で眠る翔の様子を見に行ってしまった。
二人は沈黙したまま、缶ジュースを飲んだり机と睨み合ったりしている。
「……あたしたちに、できる事ってないのかな」
不意に琴奈がそんな事を口走った。鋼作は一度琴奈の方を見て、すぐに首を横に振る。
「何ができるんだ? 俺たちにマテリアプレートを作る技術はない。作ったとしても、V2以上のものはできないぜ。作れるとしたら、それは……」
「御種さんだけ、かぁ」
そのV2アプリですら、翔と鷹弘の命を奪うための劇毒。ヴァンガード、即ち御種 文彦が仕掛けた罠だったのだ。
暴走どころか死ぬ危険性がある以上、最早あの力に頼る事はできない。
かと言って、現状維持するのも危険ではある。まだクイーンの対策として作られたギガント・エクス・マギアによるギガントリンカーという切り札があるとは言え、それもキングに対処するために使ってしまった。
つまり、ホメオスタシスは既に手の内を全て晒してしまっているのだ。さらに現状は翔も鷹弘も動けないため、対策を練る時間も与えてしまう事になる。
これでは不利なのは自分たちの方だ。それが分かっているからこそ、二人共焦っているのだ。
「じゃあどうすればいいの? 結局のところ今の私たちにできるのは、あの二人をサポートするメカを作る事だけ」
「そのメカだって、ヴェインとの最終決戦ともなれば役に立つかどうか分からない……せめて響がいてくれたら……」
はぁ、と鋼作も琴奈も溜め息を漏らす。
変身できず他の戦闘要員のように訓練も受けていない以上、戦いでは足止め程度にしか役立てない。だから二人は他の形で力になろうとしていたのだが、今ではそれさえできずにいる。
自分たちには、もう仮面ライダーを助ける事ができないのだろうか。鋼作も琴奈も、そんな風に考えつつあった。
だが、そんな折。何者かが休憩室の扉を開く。
「うん? どうしたお前ら、辛気臭い顔してよ」
「刑事さん……」
電特課の警部補、安藤 宗仁が欠伸をしながらやって来た。
鋼作と琴奈は打ち明けた。文彦が裏切り者であった事、響が消息不明となった事、彼が仕組んだ罠で翔も鷹弘も死にかけた事、自分たちに彼らを助けられないか考えていたという事を。
宗仁は鋼作たちの話を、神妙な面持ちで腕を組みながら聞いている。
特に、文彦が証拠を隠滅していた張本人だと知った時は、険しい顔で嘆いていた。脚の動かない彼が、ホメオスタシスと電特課の連携を強めるために奮闘していたのだと思い込んでいた宗仁にとって、この事実は重くのしかかっているようだ。
「そりゃあ……災難だったな、お前らも」
組んだ腕を解き、宗仁は言った。その彼自身もまた、苦しんでいる様子だった。
「悪いニュースばかりだし何もできないしで、お互い嫌になるよな。警察もできる事と言やぁ、避難誘導と調査と、後は……市民に不安を与えないよう情報の流出を防ぐくらいだ」
「……私たち、どうすれば良いんでしょう」
「分かんねぇよ。こっちももうじき電特課を立ち上げたトップが戻って来るけどな、その人がいたところで何ができるやら」
立ち上がって自販機からエナジードリンクの『キバッてGO!』を選んだ宗仁は、一気にそれを呷り、一息ついてから二人の方を振り返る。
「どっちにしろ、やれる事をできる限りやるしかねぇだろ。俺たちゃ仮面ライダーにはなれないんだ」
「そりゃそうですけど」
「道具に色んな使い道があるように、人間の技術や才能には色んな活かし方がある。薬にもなりゃあ毒にもなるさ……アイツは、文彦は活かし方を間違えたみたいだけどな」
空になったエナジードリンクの小瓶をゴミ箱に入れ、宗仁は再び二人の向かい側の席に座る。
「俺たちはそれを薬にすりゃ良いんだよ。あいつらにとって最適な状況を作りゃ良いんだ」
「刑事さん、簡単に言うけど私たちはその活かし方が分からなくて……」
琴奈が呆れた顔で反論しようとした、その時。鋼作は突然に「あっ!」と声を上げ、両手をパンッと叩いた。
何事か分からず慌てる琴奈、そんな彼女の両肩を掴み、鋼作は声を大きく張る。
「そうだよその手があるじゃねえかよ! ちっくしょう、なんで今まで思い付かなかったんだ!」
「え、何? どうしたのよ鋼作?」
「分かんねぇか? 薬も毒も元は同じなんだ! だったら俺たちのやる事は決まってんだろ!?」
その言葉を聞いてもまだ琴奈と宗仁は合点が行っていないようだったが、琴奈の方はすぐにその意図を理解して鋼作同様に声を張り上げた。
鋼作はすぐに取り掛かりたいようで、琴奈に真意が伝わると急いだ様子で休憩室から出て行った。
「なんだぁ? お前らなんか思いついたのか?」
「はい、お陰様で! 多分徹夜になると思いますけど! 相談に乗ってくれてありがとうございます!」
「何をするのか知らんが、まぁ頑張れよ」
明るさを取り戻して笑顔で退室する琴奈の姿を見て、釣られるように宗仁も微笑みながら二人の背に手を振るのであった。
※ ※ ※ ※ ※
同日、深夜。
真夜中の帝久乃市を、小さな影がひとつ徘徊していた。
虚ろな瞳を真っ直ぐに前へと向けている彼は、Cytuberの一人である栄 進駒だ。
ホメオスタシスに正体を晒してしまっている以上、本来ならば進駒がこの姿で歩くのは危険が大きい。そもそも子供なので、警察に見つかれば補導は避けられないだろう。
それでも彼が出歩くのは、ある目的のためだ。
「……あいつらで良いか」
進駒が見つめる先にあるのは、コンビニだ。それも、出入り口の付近にバイクを駐車し、座り込んでたむろしている者たちがいる場所。
彼らは着崩したワイシャツに学生ズボンという装いで、いかにも不良といった装いだ。それでも進駒は物怖じせず、近付いていく。
すると、暗がりの中に小さく動くものを見つけた彼らは興味を持ったようで、面白半分に進駒の方へと歩いて行った。
「おいガキ! ここはお前の遊び場じゃねーぞ!」
「ギャハハ、止めとけよビビってチビるんじゃねぇ?」
品のない笑い声を不愉快そうに聞きながら、彼らに視認できないギリギリの距離で、進駒はトランサイバーに手を伸ばした。
《
「オラ、何とか言って……み……え?」
完全に姿が見える位置まで来た時、不良たちは目を見張った。子供だと思っていた影が、突然250cmほどの巨人に変わったのだ。
あまりの出来事に驚き、先頭に立っていた少年が腰を抜かして尻餅をつく。
「ヒィッ!? な、なんだ……お前!?」
「……こいつは違うな」
ストライプは先頭の少年の頭を掴んで、草むしりでもしているかのように無造作に放り投げる。
そして他の不良たちを順々に見て行き、その中の一人、獅子の鬣を思わせる派手な金髪だが他の面々に比べると体格の小さな少年に目をつける。
彼の姿を見たストライプは満足そうに「決まりだ」と呟いて、その腕を取って持ち上げた。
「ぎゃあああっ、助けてくれぇ!」
「ひぃぃぃ! 逃げろ! 逃げろぉ!」
「お、おい!? 待ってくれよ、助けてくれよぉ!」
涙ぐむ少年を放って、他の不良たちは逃げ出した。
しかしその退路を、突如出現したベーシック・デジブレインが塞ぐ。瞬く間に少年たちが感情を捕食され、何も感じず何の感情も発さない人形のようになって倒れてしまった。
その姿を見た金髪の少年はさらに恐怖するが、ストライプは腕を掴んだままゆっくりと彼を地面に下ろした。
「どうだい? 今の力、すごいだろう?」
「ヒ、許して……許してくれ……」
「落ち着きなよ。君、同じ力を欲しいとは思わないかい?」
自慢気に言いながら、ストライプは懐から一枚のマテリアプレートとガンブライザーを取り出し、少年に見せつける。
「君さぁ。あのリーダーみたいに強くなりたいんだろ?」
「お、俺が……?」
「だって、その髪型。本当は弱くて体も小さいのに、外面だけは強く見せて……自分の力を誇示してるつもりなんだろ? そのくせリーダーの影に隠れている。でも、ボクなら本当の力を与えられる。見た目だけじゃない、君の欲望をそのまま反映した……本物をね」
その言葉に、少年は息を呑みながらも「本当か?」と訊ねる。
「勿論さ。欲しいだろ?」
「お、俺は……欲しい! 誰も俺をバカにしねぇ力が、本当の俺が!」
「そうかそうか」
ストライプはしたり顔で、素早くガンブライザーを少年の腰に装着させ、マテリアプレートを起動した。
《
「その"虚栄"、利用させて貰うよ!」
翌日、明朝。
翔はホメオスタシスの仮眠用個室のベッドの上で、地下研究施設内の騒ぎ声を耳にして目を覚ました。
隣には、ずっと看病して疲れてしまったらしいアシュリィが、翔の左手を握ったまま椅子の上で眠っている。驚きつつも翔はベッドから出て、彼女を起こした。
「アシュリィちゃん、大丈夫?」
「んー……?」
「えっと、何か向こうが騒がしいから。一緒に行こう?」
「んー……」
寝惚けながら、アシュリィは翔の服の袖を掴み、彼の案内に従って歩き始めた。
そして翔は道の途中で陽子を発見し、話しかける。
「滝さん!」
「あれ、翔くん!? 体はもう大丈夫なの?」
「はい! それより、この騒ぎは?」
「それが……」
陽子が答えようとしたその時、翔と陽子のN-フォンから、突然奇妙な電子音が鳴り響く。
見れば、画面には大きく『
どうやら電子機器をジャックされているらしく、この研究施設どころか帝久乃市内のあらゆるモニターや端末にこのライブ映像が流れているようだ。
『愚かなるホメオスタシスの諸君。見ているかな?』
「ストライプ!?」
『そろそろ気付いてる頃だと思うが……ボクは今、手駒を使って何人もの帝久乃市の住民を精神失調症に陥れている』
地下研究所内がさらに騒然とする。陽子が部下たちに事実確認を行ったところ、実際に患者が急増し始めていたようだ。
さらに、彼らの行動を嘲笑うかのようにストライプは続ける。
『彼らの思念は、サイバー・ラインにあるボクの領土を強固にするための素材になっている。解放して欲しければボクを倒すしかないよ』
「なんて事を……!」
『ボクの領土である
「世界が変わる……?」
ストライプが濁った眼でありながら恍惚とした笑みで言い放った言葉を、翔が反復する。
それにどういう意味があるのかは分からない。だが、酷く嫌な予感がしたのだ。
『楽しみにしているよ』
映像が消え、元の画面に戻った。
まさか向こうから、それもこんな大胆な形で宣戦布告を叩きつけて来るとは。驚きつつも、翔はその場を去ろうとする。
これから大規模な戦いが始まる、その準備を始めるためだ。
だが、そんな翔の腕をアシュリィが掴む。
「行くの? そんな体で?」
「……兄さんと約束したんだ、全部自分の手で勝ち取るって。それに、ここで何もしなかったら兄さんを見つけた時に顔向けできないよ」
微笑みながらそう言った翔は、再び出動に向けて歩き出そうとする。
だがアシュリィは掴んだ手を離さない。代わりに翔の顔を真っ直ぐに見据えて、言い放った。
「私も付いて行く」
これには翔も面食らい、危険な戦いになる事に間違いないので拒否しようという考えが頭をよぎるが、アシュリィの眼差しは本気だ。
翔は唸った後、アシュリィの眼を見つめ返してから一度だけ頷いて、マテリアガンを手渡した。
眼光に射竦められたわけではない。ただ、彼女の本気を受け止めたかったのだ。
「ただし、危ないと思ったらすぐに逃げる事。いいね?」
「うん」
強く頷くアシュリィを見て微笑み、続いて翔は陽子の方を見る。
彼女も特に止めるつもりはないらしく、同じく頷いていた。それを受けて翔は改めて、アシュリィを連れてサイバー・ラインへ向かう準備を進めるのであった。
準備を終えて司令室へ翔・アシュリィ・陽子が集まると、鷹弘から各員に作戦の概要が伝えられる。
まず、街にいるベーシック・デジブレインについて。これは、仮面ライダーを動員せずとも対処が可能なので、陽子が戦闘部隊のエージェントを率いて指揮を取り、各自で街への被害を最小限に抑えつつ戦う。電特課も専用の武装で既に戦闘を行っているため、これと連携する事となった。
次にサイバー・ライン側について。こちらには、当然ながら翔と鷹弘の二人とアシュリィが向かう。そして状況次第という事にはなるが、ヴェインの相手はこれまで戦って来た経験から翔が担当し、鷹弘は他の駒を相手にする事となった。
そのため、翔が持っているマテリアプレート、ギガント・エクス・マギアは一時的に鷹弘が扱う運びとなった。
「ん? おい、いつもの二人はどうした?」
作戦会議を終えようとした鷹弘に言われ、翔は鋼作と琴奈の話だとすぐに理解するが、首を横に振る。
翔自身、彼らが今どこで何をしているのか知らないのだ。
陽子も認識していないようで、アシュリィに関しては翔のいた仮眠室から二人が出て以降見ていないという。
「まァいい、あいつらの事は後だ。それよりもお前」
「はい?」
「もう動けるんだろうな」
「……勿論です」
「そうかい。じゃあ、試してみるか」
司令室の椅子から立ち上がり、正面から翔と睨み合う。
息を短く吸った直後、鷹弘は翔の顔面を目掛けて凄まじい速度で拳を突き出し、翔はそれを右手で掴んで止めた。
すると鷹弘はフッと笑い、翔も微笑んで拳を開放した。
「今のが見えるんなら問題ねェ。行くぞ」
「はい!」
こうして翔と鷹弘はアシュリィ及び陽子を伴い、司令室を出てそれぞれの持ち場へと向かう事となった。
駐車場に繋がる地下道で、陽子はそのままマシンマテリアラーで部下たちと共に現場へと走る。
一方の翔たちは、まずは自分たちのマシンを呼び出す事になった。
《パルスマテリアラー!》
《トライマテリアラー!》
「ところで、ゲートなしでどうやってサイバー・ラインへ行くんですか?」
「ああ、まだ教えてなかったか。マテリアフォンに搭載されてんのは帰還用のバックドアだけじゃねェ、直接向こうへ乗り込むためのゲートを作る機能もある」
こんな風にな、と言って鷹弘はバックドアと同じ扉のマークのアイコンをタッチする。
するとストライプやヴァンガードがゲートを開いた時と同様、しかし翔や鷹弘の眼の前の空間だけが歪んで、まるでそこにトンネルでもできたかのようにその歪みが大穴と化した。
《ゲート!》
「このゲートは入ればすぐに閉じるし、一方通行だからこれを使ってデジブレインが来る事もない。バックドアを使う時には再起動して、この場所まで脱出する事もできる」
「なるほど……」
「じゃあ行くぞ。待たせたら何しでかすか分かんねェからな」
アシュリィが翔の後ろに乗ったのを確認して、二人はゲートに目掛けてマシンを走らせた。
三人がゲートを潜り抜けると、そこは以前翔が訪れた事のある場所だった。
初めてガンブライザーを使ったデジブレインと邂逅した時に辿り着いた、あの中世ヨーロッパの城のようなものがある世界。空は変わらず、黒く濁っている。
今彼らがいる場所は城から離れており、地面に突き刺さった矢や黒煙が上がっている、戦禍の爪痕が残った平地だ。城はそこより遠くの森を抜けた丘の上に見える。
「そういえばずっと聞き忘れてたんですけど」
サイバー・ラインに到着してすぐに、翔が鷹弘へとある質問を投げかける。
「最初に僕がサイバー・ラインに来た時は、こんな風景じゃなくてもっと現代的だったと思うんですけど、もしかしてサイバー・ラインにも色んな場所があるんですか?」
「実を言うと今までは俺たちもよく分かってなかったんだが、Cytuberの連中を見てようやく推測を立てる事はできた」
トライマテリアラーを走らせながら、鷹弘が言う。
「ストライプのヤツが言ってたろ? 『領土を強固にする』とかなんとか。つまり、あいつらは各々が専用の領土を持ってんだ、って事はゲートを作る時にその場所と自分の領土と繋げてるはずだ」
「なるほど……あっ! という事は、兄さんって今はヴァンガードの領土に!?」
「可能性の話だがな。それに、あくまでサイバー・ラインはひとつに繋がっているはずだ。領土の間を移動する事もできる、だとしたら響のヤツが別の領土に移動しているってェ事も考えられるぜ」
「でもそうだとしても、兄さんを探すのならまず真っ先にヴァンガードから当たってみるのが良さそうですね」
翔の言葉に鷹弘が頷いた、その直後。
バイクとトライクで城を目指して疾走する二人の間を、火矢が割って入った。
敵襲だ。ポーン・デジブレインが二体、砦の上から弓矢で翔らを狙っているのだ。
さらにスタッグビートル・デジブレインとスパロー・デジブレインとベーシック・デジブレインが群れて砦から飛び出し、向かって来る。城へ辿り着く前の前哨戦と言ったところだろう。
「面倒くせぇ、軽く蹴散らすぞ!」
「はい!」
二人はマテリアフォンを操作してアプリドライバーを呼び出し、素早くマテリアプレートを装填、そしてマテリアフォンをかざして変身した。
「変身!」
「変……身!」
《奇跡の大魔法、インストール!》
《監獄のサバイバー、インストール!》
翔は仮面ライダーアズール マジックリンカーに、鷹弘は仮面ライダーリボルブ ジェイルリンカーとなった。
そして迫り来る矢はアシュリィがマテリアガンで撃ち落とし、二人はマシンを走らせながら同時に必殺技を放つ。
《フィニッシュコード!
「そぉりゃああああああっ!」
《フィニッシュコード!
「くたばりやがれェェェッ!」
アズールの周囲に四色の魔法陣が展開され、そこから無数の火炎弾と水圧弾と風の刃と岩石弾が発射される。さらにリボルブの方からは、フロント部のガトリング砲と両隣を走るジェイルターレットからの制圧射撃。
必然、前方から迫っていたデジブレインたちはその攻撃を全て受けて爆発四散し、砦も一瞬で半壊。
生き残った二体のポーンは、あっという間にアズールとリボルブが轢き潰して木っ端微塵にした。
そしてそのまま喜ぶ暇もなく、アズールとリボルブは先程まで砦だったものを通過し、城を目指して走り抜ける。
「……この程度じゃ相手にならないね」
凄まじい光景に目を丸くしながら、アシュリィが言う。だが、鷹弘は首を横に振った。
「油断大敵だ。この先、城に入った後も何が起こるか俺にも分かんねェからな」
「その通りですね、気を引き締めて……!?」
突如、二人の頭上に影が差し込んだかと思うと、巨大な金属製の脚が目の前に降って来た。
マントを羽織った巨大ロボット、チェスキング・デジブレインだ。城のある丘へと登らせないために、ストライプが仕掛けて来たのだ。
リボルブが目で合図を出し、アズールはそれに従って全力でパルスマテリアラーを走らせる。
「取らせて貰うぜ、
《ギガント・エクス・マギア!》
言いながら、リボルブは起動したマテリアプレートをアプリドライバーに装填し、マテリアフォンをそこに向けて振り下ろした。
「リンクチェンジ……!」
《巨大なる破壊神、インストール!》
リボルブはギガス・テクネイバーと合身し、胸に獅子の頭部、背中に隼の翼を持って長い尻尾を生やしている、ギガントリンカーとなった。
アズールと違ってボディカラーは赤となっており、紫色の装甲が全身をプロテクトしている。
「行くぞオラァッ!」
早速とばかりにリボルブは鳥神モードにチェンジし、巨大な隼の姿となってキングに向かって突進する。
しかし前回の戦いの結果を踏まえてキングもパワーアップしているらしく、ほんの少し仰け反る程度のダメージしか与えられなかった。
それはリボルブも想定済みだ。キングも手を出せない上空から射撃し続けて、反撃を許さずに飛び回る。背中に装備されたバズーカも使って、一方的に攻撃し続ける。
だが、キングもただやられるばかりではない。背中のマントの下に手を伸ばしたかと思うと、そこから剣……ではなく、柄と鍔のみで構成された刀身のない物体を取り出した。
そして何やらスイッチを押すと、その鍔から輝く刀身が伸び出て、ギガントリンカーの翼を溶かして傷をつけた。
「くっ!?」
ビームブレードだ。左翼を傷つけられてバランスが狂ってしまったリボルブは、墜落する前に巨神モードに変形してキングの背後に着地。そのままギガントストロンガーを抜き取り、振り向きざまにキングへと叩きつけた。
無論、今のキングはそれをやすやすと受けて簡単に潰されるほど弱くない。左拳でハンマーを殴って受け止め、ビームブレードを突き出した。また、見ればキングの口部が光り始めている。荷電粒子砲をチャージしているのだ。
ここで退くわけにはいかない。リボルブはそう思って、あえて一歩前進して、キングの右肩に滑るようにギガントストロンガーを振り下ろして、頭には頭突きを食らわせる。
ビームが右の脇腹を僅かに溶断するが、そんな事はもはや関係ない。キングはハンマーを喰らった衝撃でビームブレードを取り落し、さらにそれが地面に落下する前にリボルブが拾い上げ、口部から胸部を縦に薙いだ。
そうして斬られた装甲の隙間にリボルブが両手の指を突っ込み、そのまま掴んで一息に装甲を引き剥がす。
これで内部は剥き出しだ。リボルブはギガントリンカーの内部でアプリドライバーのプレートを押し込み、必殺を発動する。
《フィニッシュコード!
「オラァァァッ!」
赤く輝く拳が、キングの胸部から背中まで貫通し、王の駒を爆散せしめた。
これでストライプ側の持つ脅威がひとつ消えた。しかし、未だにクイーンが姿を見せないのは不可解だ、とリボルブは思う。
「……まさか、城の方の護りに使ってんのか?」
仮にその通りだとすれば、アズールが危ない。すぐに城の方へ行き、ギガントリンカーで援護するべきだ。
だが、今まさに救援に動こうとした、その時だった。
ギガントリンカーのカメラアイの前で、爆発が起こった。
「くっ!? これは!」
リボルブは爆発が起きる前、しっかりと攻撃の正体を見ていた。あの『爆』の文字を。
敵は地上だ、文字の飛び出して来た方向を見下ろせばそこに彼はいた。昨日倒したばかりの、あのジェラスアジテイターが。
「よぉ、また会いに来てやったぜ」
「ヴァンガードォッ!」
地上のジェラスへと、リボルブはローキックを繰り出す。その攻撃に対してジェラスは、地面に『壁』の文字を叩きつけて石壁を出す事で防御を試みる。
結果として蹴りを完全に防ぎ切る事はできなかったものの、ダメージを抑える事はできた。
続いてジェラスは『矢』の文字を右掌から出した後、左の掌からは『巨』の文字を繰り出してぶつけ、文字を巨大な矢へと変えて攻撃する。
「ぐあっ!?」
これによってリボルブは転倒。そして、この巨体でジェラスと戦うのは不利と判断し、別のマテリアプレートをウィジェットから抜き取って装填した。
《
「リンクチェンジ……!」
《神託のレンジャー、インストール!》
ギガス・テクネイバーが分離し、ジェラスの追撃からリボルブを守る。その間にリボルブはステルス・テクネイバーを纏ってオラクルリンカーへと姿を変えるのであった。
そしてギガスが時間を稼いでいる間に遮断能力で姿を消すと、リボルブラスターをスナイパーモードに変え、右の側頭部を狙って射撃する。
攻撃は命中するが、ダメージはまだ浅い。慎重に戦闘を進めるため、リボルブは一度森の中に身を隠した。
何しろ前回は勝てたとはいえ、自分の手の内を全て知られているのだ。純粋に性能差もある以上、迂闊に攻め込むのは危険と言える。
「ククク、なるほどねぇ? 少しは学習したようじゃないか」
上辺だけは感心した、しかし明らかに見下した態度でジェラスは言い放つ。そして、ついにトランサイバーのファーストコード以外のボタンを起動した。
《
「それなら炙り出してやるよ、文字通りになぁ!」
そう言ったジェラスの掌からは、今までとは異なる『ボォッ』『メラメラ』という擬音の文字が出現した。
しかも、今回は泡や風船のように破裂しない。ジェラスはそれを粘土のように捏ねて形を整えていき、柄が短く刃が大きい無骨な斧を作る。
そしてその斧を草の生い茂った地面に向かって振るうと、まるで先程の擬音が実際に聞こえそうなほどあっという間に刃先から勢い良く炎が燃え拡がった。
「うおっ!?」
これにはたまらずリボルブも飛び出した。このまま木の後ろに隠れていては、自分の体が燃えてしまうのだ。
出て来たリボルブを見て、ジェラスは楽しそうに笑う。
「ヒャハハハ! どうした、まさかあの時の俺が全力だったとでも思ってたのかぁ?」
「手の内を全部見せてねェのは気付いてたさ。だが、だったらなんで最初から本気を出さねェんだ」
リボルブの質問に、ジェラスは肩をすくめる。
「分かんねぇのか、お前如きに本気を出すまでもないって事が」
「昨日はそれで負けてんだから世話ねェな」
「ハッ! あんな奇策が二度も通じると思うかぁ? この俺に、よぉ!」
ジェラスが斧を振り上げ、それを見計らってリボルブがドライバーのマテリアプレートを素早く入れ替えた。
「リンクチェンジ……!」
《高貴なるスレイヤー、インストール!》
「ラァッ!」
斧をダンピールバンカーで受け止め、リボルブは気迫と共に斬撃と炎から身を守る。
だがジェラスが斧を持つ手に力を込める度、その刃からは火花のように炎が噴き出した。
「くっ……!」
「ヒャハハハハハ! お前じゃ俺に勝てないって事……嫌ってくらいに教えてやるぜぇ!!」
同じ頃。
意外にもすんなりと城内に侵入できたアズールとアシュリィは、シャンデリアや絨毯などの豪奢な装飾がなされた廊下を、警戒しながら奥へ奥へと進んでいた。
途中で見回りのベーシック・デジブレインを見つければ、アズールが身を潜めて背後から首を斬り落とす。
しかし、ポーンやナイトなどのストライプ直属の配下とは、未だに会敵できていない。
「うーん、進駒くんは一体どこだろう?」
恐らく最上階にいるはずなのだが、一向に姿が見えない。先程から階段を登り続けているのに、次の階段が見当たらない。
マップでもあれば手っ取り早いのだが。アズールがそんな事を思っていると、そのマフラーをアシュリィが引っ張った。
「どうしたの?」
「あれ」
クイクイとマフラーを引きながらアシュリィが指し示したのは、巨大な銅像だ。
王冠を被った男性と、同じく王冠を被った妊婦。見た事のない像だが一体これがどうしたのだろう、とアズールが思った直後に、その像にある違和感を察知した。
この像の顔が、どちらも日本人的なのだ。この西洋の城内に飾るには、どこか場違いではないだろうか?
確かに何か不思議な感じがして、思わずアズールは像に触れた。
直後、アズールもアシュリィも目を見張る。目の前の像から、人間の声が聞こえて来たのだ。
『父さん、母さん! ボク、チェスの大会で優勝したんだ! トロフィーも賞金も貰っちゃった! 凄いでしょ!』
「この声……進駒くん?」
『お金は二人にあげるね! ボクはおこづかいで十分だから!』
像に触れていると、頭の中に三人家族の団欒する姿が映像として流れ込んできた。アシュリィも同じのようだ。
声が消え、映像も途切れる。そして、目の前にあったはずの銅像もいつの間にか消失し、その場所には代わりに先程まで存在しなかったはずの登り階段が出現した。
「今のは、進駒くんの記憶?」
「なんか……だいぶ印象違うね」
アズールが同意する。以前に出会った進駒少年は目つきが悪く高圧的な態度が目立っていたが、像に触れている間に見た彼は年相応の子供という印象だ。
何より、優勝を両親に自慢こそしていたものの、自分を天才と称している様子もなかった。
「とりあえず、道もできたし先に進むしかなさそうだね」
「……うん」
アズールはアシュリィを連れ、階段を駆け上がっていく。その途中で、再び二人の脳内に栄 進駒とその両親の話している光景が、記憶が流れ込む。
よく見れば、両親の顔は銅像の男女のものと全く同じだった。
『優勝したり、一番になったら父さんも母さんも喜んでくれて、すごく気持ちいい。よし決めた! ボク、チェスの世界でトップになるよ!』
希望に満ち溢れた、眩しい記憶。だが、二人が次の段を踏み出すと、その記憶に陰りが差し込んだ。
それは大事な大会の決勝戦。進駒が最後に参加し、準優勝となった大会。それを見たアズールもアシュリィも思わず「えっ?」と声を上げる。
決勝戦の時間になっているというのに、進駒は何故か眠ってしまっているのだ。
彼の手の中には、両親が買ってきた大福がある。そしてぐっすりと睡眠している進駒を見て、その両親はほくそ笑んでいるのだ。
『どうして……どうして起こしてくれなかったの!?』
目を覚ました進駒は当然、両親に詰め寄る。すると両親が幼い彼に返したのは、赤の他人であるアズールにとっても衝撃的かつ恐ろしい答えだった。
なぜ両親は起こさなかったのか、なぜそもそも進駒は眠ってしまったのか。その答えは、彼の両親が大福に睡眠薬を仕込んで、優勝させないためなのだ。
次の対戦相手である青年はとある有力な政治家の息子で、進駒の両親を「優勝を買いたい」と大金で釣ったのだ。優勝賞金よりも遥かに高い金額で。
それを聞いて、進駒はもちろん衝撃を受けた。優勝できなかった事ではない。両親は自分がチェスで結果を出したからこそ喜んでいるのだと思っていたからだ。だからこそチェスの世界で一番を目指していたのに。結局、両親は金の事しか見ていなかったというわけだ。
事もあろうに進駒の両親は、自分の子供の幼い心を、自らの手でズタズタに引き裂いたのだ。
『じゃあ父さんも母さんも、お金のために、ボクを裏切って……うわあああああっ!? ふざけるな、ふざけるなぁぁぁっ!!』
「……そういう事だったのか……」
二人の脳内には、怒りのあまり涙して両親に掴みかかる進駒の姿が映っている。
しょせん進駒は非力な子供。掴みかかって来た彼を両親は突っぱねて、罵声さえ浴びせている。その光景に、アシュリィは静かに怒りを燃やして目を細め、アズールも強く拳を握り込んだ。
だが、そこから先へ進んだ時だった。陰っていた上階へ続く階段が、さらに深い闇で覆われた。
『欲しくはありませんか? 誰にも邪魔されず、栄光を勝ち得る事のできる世界が。あなた様の素晴らしい才覚を誰もが認め、称賛する世界が』
「この声は!?」
『私めならば、あなた様にその機会を差し上げる事ができます。それを活かせるかどうかはあなた様次第となりますが』
確かスペルビアと名乗った男だ、とアズールは思った。
『もしも私めと道を共にして世界を創造するというのであれば、相応の代償を頂きたい。あなた様にとって大切な何かを……さぁ、あなた様は何を犠牲になさいますか?』
『ボクの……大切なもの……』
記憶の中で、進駒は指差した。母親、それから父親を。
『契約成立でございますね、これは素晴らしい。それでは……あなた様の"傲慢"なる悪意、プロデュースさせて頂きます』
スペルビアが両親の頭に手をのばすと、二人は魂が抜けたようにその場に倒れ込んだ。その様子を眺めて、進駒は昏い眼で泣きながら笑っている。
進駒の記憶の映像は、ここで完全に途切れた。
これは進駒のトラウマであり、彼がCytuberとなるに至ったルーツの記憶だったのだ。彼はこの出来事が起きて以来、ずっとスペルビアの言葉に従って人間の心を奪い続けていたのだろう。
「……終わらせなきゃ」
「え?」
「彼を止めなきゃいけない。僕が、絶対に」
決意を固めて拳を握り込み、アズールはそう言った。アシュリィも頷いて、再び彼と共に階段を駆けていく。
そうして二人が辿り着いたのは、赤い絨毯が広がる最上階の王の間だ。奥には玉座があり、そこには当然ストライプがふんぞり返って待ち構えている。
「やぁ、アズール。お友達の仮面ライダーは一緒じゃないのかい?」
「……うん。僕が君を止めに来た」
「そんなのは無理だね。リボルブと一緒ならともかく、君一人でボクを倒せるワケがない。それともあの奇妙なプレートを使うのかい、暴走するリスクを冒して?」
「止めるさ。必ず」
仮面越しに伝わる静かだが力強い気迫と、真っ直ぐな視線。
それを受けたストライプは苛立った様子で立ち上がって、マテリアプレートを取り出して起動。トランサイバーへと装填して、音声入力を行う。
「
《モノトーンウォーズ、トランスミッション!》
「やれるものならやってみろよ、こいつらを倒した後でさぁ!!」
《
《
《
変異した直後、ヴェインコマンダーは一気に三つのエフェクトを発動させ、護りを固める。
砦で倒されて修復されたものも含めてポーンが八体、ナイトが二体、ルークとビショップも二体でクイーンが一体と、完全な布陣だ。
敵はそれだけではない。ベーシック・デジブレインも無数に湧き出し、さらに見慣れた姿のデジブレインもいる。あのシャモ型のデジブレインに、ブルドッグ型やサーバルキャット型、ロバ型の固体だ。
しかし、どうやらガンブライザーで作ったデジブレインはいないらしい。アズールは戦力をフルに揃えて来ると考えていたのだが、これはどういう事なのか。
訝しむアズールの様子に気付いたのか、ヴェインは嘲笑いながらその不在の理由を明かした。
「彼なら、ついさっき現実世界に送ったよ」
「なっ!?」
「中々優秀な能力の持ち主でねぇ、ここを護るよりは向こうの侵攻に回した方がいいと思ったのさ。君たちがここにいるって事は……フフッ、一体誰が護るんだろうねぇ!?」
「……アシュリィちゃん、隠れてて」
仮面の中で翔が歯を軋ませ、前方のデジブレインたちを睨みつけながらウィジェットからアプリを取り出し、起動する。
《ワンダーマジック!》
「すぐに終わらせる!」
《奇跡の大魔法、インストール!》
マジックリンカーに切り替えたアズールは、即座にマジックワンドを手に取って炎の魔法をチャージする。
《ワン・チェイン! ツー・チェイン! スリー・チェイン! フォー・チェイン!》
「撃たせるな、行けっ!」
ベーシック・デジブレインたちが一斉に走り出し、チャージの隙を狙って攻撃を仕掛ける。チェス系デジブレインたちも陣形を整え、徐々に進軍を始めているのが見えた。
しかしアズールは焦らず、限界まで魔法をチャージし続ける。
《エイト・チェイン! ナイン・チェイン! フル・チェイン!》
「今だ!」
《イッツ・ア・マジック! フル・チェイン・ファイア!》
トリガーから指を離し、眼前の魔法陣から十の巨大な火炎弾が射出され、ベーシック・デジブレインを焼き滅ぼした。
だが、魔法攻撃の対策を積んだヴェインの駒たちに、その炎は通用しない。アズールもそれを理解しているので、すぐに戦い方を変える。
「リンクチェンジ!」
《クロガネ・ザ・ライトニング、インストール!》
「行くぞ!」
《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》
分身と本体を合わせて十二人のアズールが、敵陣へと向かう。まず真っ先に狙うのは二体のビショップ、他の駒の強化能力と光のバリアは厄介極まりないのだ。
アズールセイバーとシノビソードの二刀流で、一体につき六人ずつがチェスビショップ・デジブレインの首に剣を突き立てる。
シノビリンカーは攻撃能力が低いとは言え、カタルシスエナジーを高めて全力疾走した十二人が一斉に集中攻撃するとなれば、その威力は段違いに上がる。刀剣がバリアを貫き、二体のビショップの首を斬り落とした。
「くっ、だが懐に飛び込んだのが運の尽きだ! 総員かかれっ!」
ルークの大鎚のような拳がアズールの背へと向かい、ポーンたちやナイトの武器が分身たちの体を貫かんとする。
だがアズールもそれは読んでおり、既にシノビソードのシュリケンフリッカーに指を伸ばしていた。
《フリック・ニンポー! カワリミ・エフェクト!》
ドロン、とアズールが姿を消した。またこの手か、と思いつつ、駒たちに警戒させつつヴェインは周囲を注視する。
恐らく……いや、必ずどこかから不意打ちを仕掛けてくるはずだ。ヴェインはそう思いながら、シャモたちにも自分の傍を見張るよう指示を飛ばす。
直後、キィッと頭上のシャンデリアが揺れた。そこで、ヴェインは気付く。
「上っ!?」
「貰った、覚悟!」
《フィニッシュコード!
見れば、ロボットリンカーとなって重量が増したアズールが、アズールセイバーを片手にシャンデリアごと落下して来ていた。
シャンデリアが近くにいたポーンやナイトたちを、一体を残してまとめて押し潰し、雷光をまとう剣がヴェインに迫る。いかにサイバーノーツでも、上空から迫るロボットリンカーの一撃を受ければただでは済まない。
その一閃は、見事に総大将であるヴェインを斬り裂く――はずだった。
「……え?」
手応えはあったもののアズールが斬り捨てた敵は、ヴェインではなかった。
いつの間にか入れ替わっていたのだ、彼の駒であるルークと。
ルークが消滅するのを目の当たりにしながら、アズールはすぐに自分の迂闊に気が付いた。これはチェスの特殊ルールのひとつ、キャスリングと呼ばれるものだ。
「そうだ。これはボクの能力じゃない……ルークが持つ、ボクを護るための力だよ。一回きりしか使えないけどね」
さらに、とヴェインは一体残ったポーンに向かって指示を飛ばす。
「ポーン。プロモーション・クイーン」
その指示によって、ポーンの全身がモザイクに覆われ、姿が書き換わっていく。
ヴェインが持つ最強の駒、多腕の女王チェスクイーン・デジブレイン。その難敵が、今アズールの眼の前に二体並んだ。
「これもチェスのルールのひとつ、プロモーションだ。ポーンを別の駒に置き換える……さて、今の不意打ちは中々だったけど」
近くにいた軍鶏がキックを繰り出し、アズールはそれを辛うじて腕で防ぎ、後退する。
残る敵はルーク一体・クイーン二体に、シャモ・ブルドッグ・サーバルキャット・ロバのデジブレインが一体ずつ、そしてヴェイン自身。
状況は最悪だ。それを確信して、ヴェインは嘲笑う。
「君に崩せるかい? この布陣」
「……崩してみせる」
「ハハッ! 強気なところ悪いけど、それじゃあ冥土の土産にもっと悪いニュースを教えてあげようか」
アズールを見下ろして、ヴェインは両手を大きく広げながら、四体の動物型デジブレインを一体ずつ指し示した。
「鶏に犬、猫にロバ。何か思い当たるものはない?」
「え……?」
困惑するアズール。すると、後ろに控えていたアシュリィが、苦しそうに眼帯のついた右目を押さえてポツリと呟いた。
「……ブレーメンの音楽隊……?」
「へぇ、君は知ってるんだね。その通りだ、彼らはボクらの中でもリーダー格のハーロットっていうCytuberの調整を受けてね……ブレーメンズ・デジブレインっていう固体になったんだ」
まさか、とアズールは口に出す。
つまりこれらは別々のデジブレインではなく、四体合わせてひとつの存在という事だったのだ。
「それがどういう事かというと。四体全員を倒さないと、ブレーメンズ・デジブレインは永遠に消滅しないって事なのさ!」
「なんだって……!?」
「ハハハハハッ! 一体を相手にするのにも困窮している君たちじゃ、こいつらには一生勝てないんだよ!」
ヴェインの高笑いが、王の間に木霊する。
これでアズールは全ての望みが絶たれ、諦めるだろうとヴェインは思っていた。
だが。
それでもアズールは剣を握る手を固くし、デジブレインたちに切っ先を向けた。
「何故諦めない」
ヴェインが苛立たしげに訊ねる。すると、アズールは力強く、真っ直ぐにヴェインを見据えて答える。
「街に住む皆を、そして君を救うためだ」
「……は?」
意表を突かれたかのように、ヴェインが驚愕の声を発する。
それに構わず、アズールは続けた。
「君の望みって、こんな事だったかい? ただ自分の才能を周りに認めさせたかっただけなの?」
「な……」
「そんな世界に変えたって、本当に大事な人は喜ばないんじゃないかな?」
アズールの質問は、柔らかい口調で差し出された。しかし、その言葉は。彼にとって、何よりも鋭い凶器となった。
わなわなと肩を震わせ、ヴェインは癇癪を起こしたように喚き、叫ぶ。
「知った風な口をっ!! よくもっ!! このボクに向かってぇぇぇっ!! 許さんぞぉぉぉっ!!」
二体のクイーンの猛撃が、アズールを襲う。
最初の内はアズールも冷静に攻撃を剣で捌いていたものの、やはり手数の違いはどうする事もできず、メイスを胸に叩き込まれて一気にアシュリィの傍に吹き飛ばされた。
その強大な一撃は、アズールの変身を解くまでに至った。これで完全に手詰まりだ。
「ぐ、くっ」
「もういい……お前は処刑する」
息を荒げながら、ヴェインが言い放つ。クイーンが一体、ゆっくりと翔の方へと歩いて来る。
そんなクイーンに、アシュリィはマテリアガンを撃っているが、当然効くはずがない。彼女を無視して、クイーンは大きく足音を立てて歩み寄る。
万事休す。それでも翔の眼は、諦めていなかった。
「これで終わりだ、仮面ライダァァァーッ!!」
クイーンが、全ての腕を大きく振り上げた。