「ヒャハハハハッ! ホラホラどうしたぁ!?」
アズールが城内で戦闘を行っている頃。リボルブも、ジェラスアジテイターとの激しい戦いを繰り広げていた。
ジェラスは森の中で炎を吹き出す斧を片手に、リボルブを追い詰めている。
リボルブの方はというと、銃で応戦しながら逃げ回っている。攻撃が通じないわけではないのだが、ダンピールリンカーのバーサーキングでも相手のパワーに押されてしまうのだ。
そのため、今はデュエルリンカーにリンクチェンジして、城の方に向かって逃走している。城内の狭い廊下ならば、あの大斧も使えないだろうという判断だ。
途中で出の速いファーストコードの『爆』の文字で何度か妨害されるものの、それを避けてリボルブは逃走を続けつつ、ウィジェットからマテリアプレートを一枚取り出した。
「笑ってられんのも、今の内だオラァッ!」
《フィニッシュコード!
マテリアプレートをセットし、振り向きざまにリボルブラスターで必殺技を放つ。銃口から極大のレーザーが照射され、ジェラスを襲った。
だが、リボルブの攻撃は読まれていた。トリガーを引いた瞬間には、既にジェラスは右方向の茂みの中に飛び込み、レーザーを回避している。
「前に戦った時より反応が速いだと……!?」
今の攻撃は、初めて使う必殺技だった。
それでも読まれてたのは、チャージが長く直線的で避けやすい、大味な一撃だったからだ。
「ヒャァハァ!!」
驚く間に茂みからジェラスが飛び出し、斧をリボルブの胴体に叩きつける。
リボルブは体が燃えると同時に後方へ大きく吹き飛ばされ、強かに背中を地面に打ち付けてしまう。
「ぐ、くっ」
「ククク、俺をザコと呼んだ事……訂正して貰うぜ」
《
ジェラスがトランサイバーの三番目のボタンを入力すると、ファーストコードの時と同様に掌から大きな『凍』の文字が出現する。
しかしファーストコードの時のような脆さはなく、むしろゴムのような柔軟性を持つようだ。
現れたその一文字が、徐々に形を変えて行く。太く長い胴体に、光沢が特徴的な鱗のある身体。長い舌をチロチロと出すその姿は、青い体色で『凍』の文字が模様のように点々と付いている大蛇だ。
「なんだ!? デジブレイン……!?」
「違うね。こいつは俺の能力で作った疑似情報生命体、名前は『ジェラスネーク』だ」
ジェラスが指をクイッとリボルブに向け、その指示に従ってジェラスネークが動き、毒牙をリボルブに突き立てる。
身を反らしたリボルブの腕をその牙が掠めると、命中した右腕に僅かに霜ができた。
脅威を感じて、リボルブは炎を自分の腕に纏わせて霜を溶かしつつ、ジェラスネークに殴りかかった。
しかしこの大蛇は素早く、攻撃をかわして逆にリボルブの身体に巻き付き、反撃する。締め上げられたリボルブは苦悶の声を発しつつも、全身を炎で燃やして反撃に移った。
「どうだ!?」
「甘い」
パチンッ、とジェラスが指を弾く。その瞬間、ジェラスネークは元の『凍』の文字に戻り、直後に弾けて壊れた。
それによって今までと同様、文字の近くにいたリボルブの左腕と両足が凍結し、地面に固定されてしまう。
「なに!?」
「ほーらよっと!」
「ぐああっ!?」
隙のできたリボルブに、容赦なくジェラスが斧を振り被って攻撃を仕掛ける。
氷が砕けて無事に地面から離れたものの、ダメージは大きい。しかも、ジェラスは既にトドメを刺そうとしている。
「終わりにしてやるよ……『ファイナルコード』!」
《
ジェラスが右手で斧を頭上に掲げると、もう片方の手から『ゴロゴロ』『ピシャーン』『ドゴォン』『ドカァン』の四種類の擬音文字が出現し、それが斧に集まって融合する。
そして、それをリボルブの体に何度も叩きつけ、斬り上げた。
直後に防御したリボルブの腕が炎上し、激しい雷撃が身を焼いて動きを止め、爆発が体を吹き飛ばした。
「が、ハッ……!?」
地面に仰向けに倒れ、血を吐き出す。気付けば、鷹弘は変身解除に追い込まれていた。
「これでジ・エンド、ってヤツだなぁ」
斧を引き摺って地面に燃え跡を作りながら、ジェラスが死刑執行人のように迫る。
鷹弘は痛みに耐えながら立ち上がり、再び変身のためにマテリアプレートを手に取った。
目の前の男が作った、デュエル・フロンティアV2を。
それを見たジェラスは、彼を鼻で笑った。
「自決でもするつもりかぁ? そのマテリアプレートはな、お前らを殺すために作ったんだぜ」
「そんなモンは先刻承知だぜ。だがな、まだ俺でも100%変身できねェと決まったワケじゃねェ」
「ハッ! 無理だな……お前がアズールと同じになれるとでも思ってんのか? 響みたいな才能もない、元研究員の凡人風情がよ」
「そんなもん知るかよ。だがな、それで諦めたら一生アイツらの隣に追い付けねェだろうが」
鷹弘の言葉に、ジェラスは舌打ちをして溜め息を吐いた。
「その諦めの悪さと青臭さ、うざってぇ」
「おーおーおー。弱いヤツしか相手にできないザコのテメェには、耳が痛かったらしいな?」
「……そんなに死にたいのかお前」
ジェラスはまた舌打ちをして、静かに肩で斧を担ぐ。
「もうどうでもいい。そのプレートで死ぬか、俺に叩き斬られるか……どっちか選びなぁ!」
『どっちにもならないよ!』
突然、少女の声が鷹弘のマテリアフォンから響いた。
琴奈の声だ。鷹弘は慌ててそれを手に取り、通信を行う。
「おい、どういう事だ?」
『説明は後! 今から良い物送りますから、あんな卑劣なヤツやっつけちゃって下さい!』
「良い物だと?」
鷹弘が訝しむ。そして返事をせずに、琴奈は笑ってそのアイテムを鷹弘の手元に送信した。
手に取った『それ』を見て、鷹弘は瞠目する。使い方は見てすぐに分かったので、鷹弘は「そういう事か」と笑った。
唇を釣り上げながら、手に取ったV2アプリをジェラスの方に掲げる。
「どうやら諦めなかったのは正解だったみたいだな」
「何ぃ?」
「手札は揃った。反撃と行かせてもらうぜ」
※ ※ ※ ※ ※
「これで終わりだ、仮面ライダァァァーッ!!」
チェスクイーン・デジブレインの六本の腕が、剣・槍・斧・メイス・モーニングスター・ウォーハンマーが、地に膝をついた翔に向かって同時に振り下ろされた。
だが、その時だった。
二つの影が翔の頭上を高速で飛来したかと思うと、ひとつがそのままクイーンの眼にザックリと突き刺さった。
クイーンはその一撃で仰け反り、さらに超音波が室内に響き渡る。
フォトビートルとドルフィンタイマーだ。音波はフォトビートルの角を通して直接クイーンの頭部に伝導し、その機能を狂わせ、クイーンの体をあらぬ方向へと動かす。
「まさか鋼作さんと琴奈さんが?」
『正解だぜ、翔! なんとか間に合ったみたいだな!』
マテリアフォンから、鋼作の笑い声が通信で聞こえる。
だが笑っている場合ではない。翔は脚に力を入れ、再び変身するために立ち上がった。
その時、通信相手の鋼作から思いも寄らぬ言葉が投げかけられた。
『翔! V2アプリを出せ!』
「えっ……!? でも鋼作さん、あの力は」
『大丈夫だ! 今から俺がある物を送る、それをアプリに装着するんだ!』
「……分かりました。鋼作さんを信じます!」
翔の頷きと同時に、現実世界の鋼作からマテリアフォンへとそのアイテムが転送され、翔の手元に握られる。
それは、一見するとナックルダスターのようにも思えた。だが人差し指の位置にトリガーが付いており、中央部には円形のメーターのようなものが、拳の部分には窪みがある。
窪みは丁度、アプリを差し込める程度の大きさだ。
『そいつはライドオプティマイザーだ! 使ってくれ!』
翔は言われた通り、ウィジェットから取り出したブルースカイ・アドベンチャーV2を左側から装着する。するとナックルの中でカチリと音がして固定され、音声が流れる。
《アダプト!》
「なんだ? 最後の悪足掻きか?」
超音波の影響で暴れるクイーンを、もう一体のクイーンに指示を飛ばして止めながら、ヴェインは言った。
既にフォトビートルとドルフィンタイマーは退散している。しかし、十分に時間を稼ぐ事ができた。
「ああ。鋼作さんと琴奈さんが作ってくれたチャンス、それに賭ける」
「フン! もう勝敗は決まったんだよ、行けクイーン!」
「だとしても命ある限り戦い続ける! それが僕の意志だ、これが仮面ライダーだ!!」
翔はライドオプティマイザーを握って天に掲げ、トリガーを引いた。
《ブルースカイ・アドベンチャーV2!》
アプリを起動した時のものと同じ音声が流れ、そして翔はそのままV2アプリをアプリドライバーに装填する。
すると、これまでとは少し異なる電子音と音声が流れ始めた。
《ユー・ガット・スーパーメイル! ユー・ガット・スーパーメイル!》
「変身!」
音声を聞きながら叫び、翔はマテリアフォンをアプリドライバーへとかざす。
その瞬間、ウォリアー・テクネイバーが現れ、その姿がまたドス黒く染まっていく。
だがライドオプティマイザーの中央部、メーターのような形状の『マテリアクセラレーター』が輝くと、まるで暗雲を割くかのようにウォリアー・テクネイバーの色が戻り、光を放つ。
気づけばウォリアーの姿は変化していた。白い鎧に金色の装飾が成され、迫り来るクイーンを二つの剣で退けている。
通常よりも強化された、ウォリアー・テクネイバーV2だ。
《
そして翔の周囲に張り巡らされた青い光の膜が、翔の身体を包み込んで今までより少し明るい青のパワードスーツに変える。
さらに応戦していたウォリアーV2も分解され、光り輝く装甲となって全身をプロテクト、首の後からは二本の銀色のマフラーが伸び出る。
マフラーには新たに金色のラインが走っており、両腕・両脚の装甲も鋭角的でシャープなフォルムとなっている。
《ブルースカイ・アプリV2! 蒼天の大英雄、インストール!》
完成した仮面の戦士の赤い瞳が、ヴェインコマンダーを捉えた。
その名も仮面ライダーアズール ブルースカイリンカーV2。悠然と前を歩み、右手を前に掲げる。
《アズールセイバー!》
「行くぞ!」
剣を握ったアズールは高速で飛翔し、クイーンに向かって行く。
クイーンはそれを迎撃するため、叩きつけるように武器を持った腕を全て上から振り被った。
が。アズールはそれらを剣一本で受け止め、さらに突風を起こして押し返し、クイーンを吹き飛ばした。
さらにクイーンの後ろに控えていたブレーメンズ・デジブレインの一角である軍鶏――元バトルクック・デジブレインが飛び込むが、これは左手一本で容易く殴り飛ばされる。
「なにっ……!?」
あのクイーンが完全に力負けしている。その事実を目の当たりにして愕然としながらも、ヴェインはさらにもう一体のクイーンをけしかけた。それと同時に、ブレーメンズの元になったサーバルキャット・デジブレインとブルドッグ・デジブレインも躍り出る。
アズールはまずサーバルキャットとブルドッグをキック一発で一蹴する。
そして左右から襲いかかるクイーンの計十二本の腕に対しても、アズールは慌てる事なく、左手を二体目のクイーンの方にかざした。
瞬間、電子音声が鳴る。
《アズールセイバーV2!》
ガンッ、という音と共に、二体目のクイーンの猛撃が受け止められる。
驚いてヴェインが目を凝らすと、アズールの左手にはもう一本、僅かに小振りの青いロングソードが握られていた。
「なんだと!?」
二体のクイーンは、凄まじい勢いでアズールを攻め立てる。斧で、メイスで、剣で。ハンマーで槍でモーニングスターで。まさに目にも留まらぬ高速の連続攻撃で、攻め続ける。
だがその全てをアズールは受け流し、捌き、そして避け続けた。攻撃は一発も命中していない。
しかし、アズールの方も攻撃を当ててはいない。それに注目して、ヴェインは残ったルークとブレーメンズ・デジブレイン全員に突撃命令を下す。
「行けっ! やってしまえ!」
これならば倒せる。ヴェインは確信していた。
だが、これはアズールの狙い通りだった。
右手のアズールセイバーをクイーンの頭に投擲、それが突き刺さってクイーンは停止した。
さらにウィジェットからマテリアプレートを一枚取り出して、アズールセイバーV2の方に差し込むと、必殺技を起動。
《フィニッシュコード!
アズールが刀身に青い煌きを放つ剣を左側のクイーンに向かって振るうと、光の刃がクイーンの上半身と下半身を斬り分け、粉々に粉砕する。
続け様に、そのプレートを残りのクイーンの頭に刺さったアズールセイバーに装填。そして必殺技を発動した。
《フィニッシュコード!
同様にアズールセイバーを下に振り下ろすと、クイーンを左右に切断。そのまま爆散せしめた。
「は……え?」
瞬く間に殲滅されたクイーンを目撃して、ヴェインは唖然とする。
そしてシャモたちは驚いて立ち止まっているが、攻撃命令を下されたルークは止まらない。それを見てアズールはアズールセイバーとアズールセイバーV2の柄尻を重ねて接続し、武器を合体させた。
《サイクロンモード!》
音声が流れ、アズールセイバー・サイクロンモードを構えたアズールは、その場で飛翔してルークに立ち向かう。
そしてすれ違いざまに一撃、回転してもう片方の剣でもう一振り。たったそれだけで、ルークは木っ端微塵となった。
圧倒的な力の差に、ヴェインは目を見張るばかりであった。
「そ、そんなバカな……」
「確かそいつらは、全員倒さないとダメなんだっけ」
ヒュンヒュン、とアズールセイバー・サイクロンモードを回転させ、アズールが言う。そして、ブレーメンズ・デジブレインに向かって人差し指を上げ、自分の方に招くようにクイクイと動かした。
その挑発じみた仕草に、シャモもサーバルキャットもブルドッグも怒りを滲ませ、ロバの支援を受けてアズールに立ち向かう。
瞬間、アズールは素早くブルースカイ・アドベンチャーをアズールセイバーV2側にセット、必殺技を発動した。
《フィニッシュコード!》
「ハァァァァァッ!」
アズールは両刃剣を頭上に掲げ、プロペラのように高速回転させる。
するとその場に暴風が巻き起こり、四体のデジブレインはまとめてアズールの方へと吸い寄せられて行く。
それと同時に、アズールは剣を素早く振り下ろした。
《
「そぉりゃあああああっ!」
嵐の中で、無数の斬閃が乱れ舞い、その必殺の斬撃を受けてブレーメンズ・デジブレインは完全消滅する。
まさに一騎当千。これまで何度も苦戦させられていた強敵を、ヴェインコマンダーを残してついに全滅させたのだ。
「う、嘘だ……こんな強さあり得ない!?」
ヴェインの瞳は、徐々に恐怖と怯えの色が濃くなり始める。
それを察してアズールも構えを解き、小さく息を吐いて「もうやめにしよう」と諭すように言った。
当然、ヴェインは反発する。
「何のつもりだ!?」
「目を見れば分かる、君は戦う心が折れている……手駒を失ったんだから当然といえば当然だけど、諦めは降伏と同じ意味を持つ。君自身、もう『詰み』だって理解してるはずだろう」
「な……何ィ……!!」
「認めたくなくてもこれが真実だ、僕だって戦意のない人間の相手をする気はない。降参して、捕らえた人々の心を解放してくれ」
アズールの言葉に何も言い返せず、ヴェインは自分の手を自分で潰さんばかりに握り締め、睨めつける。
そして肩を震わせながら、ゆっくりとトランサイバーに手を伸ばす。
変異を解いてくれると信じていたアズールだが、ヴェインの様子が先程とは違う事に気付いて、再び剣を構え直した。
「何をする気だ、もうよせ!」
「止まれない……止まれるワケないだろ? ここで立ち止まったら、ボクは何のために父さんと母さんを犠牲にしたんだよ?」
「……!!」
泣いているような、それとも笑っているような。痛ましい声が、翔の耳に突き刺さる。
――それが、彼の心に躊躇いを生んだ。
だから、ここから先の行動を止められなかった。
「ボクにはもう、他のどこにも居場所なんかないんだ!! 今更引き返せるかぁぁぁっ!!」
心の奥深くに仕舞い込んで、辛く苦しい現実から目を背けるために。
ヴェインは悲鳴のような声を上げて、トランサイバーのリューズを右に回す。
《オーバードーズ! ビーストモード、オン!》
※ ※ ※ ※ ※
《アダプト!》
翔がライドオプティマイザーを手にしたのと同じ頃。
鷹弘も同じくそれを入手し、デュエル・フロンティアV2にセットしていた。
「なんだ、一体何をしてる!?」
「当ててみな、俺が撃つよりも速く」
言いながら、鷹弘は銃口を向けるのと同じようにマテリアプレートのついたライドオプティマイザーをジェラスの方に掲げ、トリガーを引いた。
《デュエル・フロンティアV2!》
鷹弘がアプリドライバーにプレートを装填。
電子音声が流れ始め、それを聞きつつ鷹弘はマテリアフォンを用意する。
《ユー・ガット・スーパーメイル! ユー・ガット・スーパーメイル!》
「変……身!」
《
マテリアフォンをかざすと、ガンマン・テクネイバーが出現すると同時に、その姿が変化する。
拳銃を二つ構えており、頭に被ったテンガロンハットや黒いポンチョなどに赤いラインと炎の模様が追加されているのだ。
鷹弘の周囲には濃い赤の光の膜が貼られており、V2となったガンマン・テクネイバーも合わせてジェラスを一切寄せ付けない。
《デュエル・アプリV2! 最速のガンスリンガー、インストール!》
光の膜は赤いパワードスーツとなり、ガンマン・テクネイバーV2も全身を装甲に変異させ、鷹弘の肉体をプロテクトする。
腕と脚に付いた深紅の炎の模様に、鋲の付いたテンガロンハットを模した形状の頭部。同じく炎の模様が追加された黒いポンチョがたなびき、踵の滑車がカラカラと回る。
名は、仮面ライダーリボルブ デュエルリンカーV2。その姿を目にして、ジェラスは狼狽していた。
「バカな!? V2アプリを使えるだと!?」
「今度こそ完璧にブッ潰す!」
《リボルブラスター!》
リボルブは即座に銃を呼び出して右手に握り、得意の速撃ちで斧を持つジェラスの腕を攻撃した。
その射撃の威力と精密性は通常のデュエルリンカーよりも遥かに上で、一発受けただけでジェラスは斧を取り落してしまった。
「これだけじゃねェぞ」
《リボルブラスターV2!》
続いてリボルブは新たな銃を召喚した。通常のリボルブラスターより若干小型化しているが、炎の意匠があしらわれた赤いハンドガンだ。
両方の中で交互に何度も引き金を引いて、反撃の暇を与える事なく、リボルブは射撃を続ける。
炎を纏った弾丸の連続攻撃にジェラスは怯むが、それだけで倒れるほど甘くもない。トランサイバーに手を伸ばし、エフェクトを発動した。
《
ジェラスが新たに作り出したオノマトペは『カチカチ』『ピカーッ』のふたつ。
それを大盾に変え、盾から眩い光でリボルブを照らし目をくらませた。
「むっ!」
リボルブの視界が遮断された、今がチャンスだ。ジェラスはそう思って、堅牢な大盾を地面に突き刺し、斧を拾い上げてリボルブの背後に回る。
このまま背後からもう一度必殺技を食らわせ、今度こそ終わりにしてやる。それがジェラスの作戦だった。
ジェラスが背後に回っているのを見ていないリボルブは、素早く通常のデュエル・フロンティアをリボルブラスターV2に装填し、必殺技を発動した。
《フィニッシュコード!
弾丸は真っ直ぐに大盾の方に向かい、命中――の寸前で打ち上がった花火のようにバラバラに弾け、弾道が曲がりくねり、散った炎の弾丸がリボルブの背後へと飛んで行く。
そしてその位置にいるのは、斧を構えたジェラスだ。
「なにぃっ!?」
「テメェの考える事なんざお見通しなんだよ」
必殺の弾丸は全てジェラスに命中し、斧を粉砕する。
さらにリボルブは振り向き、リボルブラスターV2のグリップを左向きに倒してフォアグリップに変え、さらにリボルブラスターの銃口をV2側の背面と組み合わせる。
《バーニングモード!》
その音声が流れると同時に、リボルブはフォアグリップを握って大型銃となった自らの武器、リボルブラスター・バーニングモードの照準をジェラスに定める。
「ちっ!」
《
ジェラスは苦し紛れに『壁』の文字を地面に叩きつけ、防護壁を生成する。
しかし、リボルブが引き金を引くとその行為は無意味となった。バーニングモードから放たれた強力な炎の弾丸が、壁を一瞬で破壊し、その先にいるジェラスを吹き飛ばしたのだ。
「ぐおおおっ!?」
「逃さねェぞオラァッ!」
《フィニッシュコード!
追い打ちとばかりに疾走し、ジェラスの背中に銃口を向け、リボルブは必殺を発動する。
巨大な炎の弾丸は鷹の姿をとり、逃げる
ジェラスは悲鳴を上げながら地面に倒れ、その変異が強制解除されて文彦の姿に戻る。
「バカな、この俺がここまで一方的に!?」
苦しそうに呻きながら、文彦が言った。リボルブは照準を彼に向けたまま、徐々に近付いていく。
「もう逃さねェ。テメェはブタ箱行きだ」
「……ククッ、なるほどなぁ。制御装置を外付けして
ゴシッ、と口元についた血をを手の甲で拭って、文彦は納得したように言い放つ。
その不敵な笑みを見て、リボルブは警戒する。何か企んでいるに違いない、と。
「無駄な抵抗はやめろよ。テメェの本性を知った今……手足の骨を全部折ったところで、俺の心はまるで痛まないからな」
「ハハッ、そりゃあ怖いねぇ」
文彦の額から汗が流れ、頬を伝う。
どうやら相当追い詰められているようだ、とリボルブは思う。この姿では足も動かないらしく、先程からずっと地面に伏せたままだ。
「どうだい? 元同僚のよしみだ、俺を見逃しちゃくれないか?」
「今は敵だ」
「釣れないねぇ……」
今の会話でリボルブは確信した。この男は平静を装って、内心は脱出の機会を必死に探っていると。隙あらばゲートを開き、アバターモードに切り替えて逃げるつもりだと。
警戒心をより高めて、リボルブは近付く。まずはトランサイバーを奪って、抵抗力を失わせるべきだという判断だ。
だが、さらに一歩踏み込んだその時だった。
背後の城の方で、突然何かが崩れる音が木霊した。
「なんだ!?」
まさか文彦の罠か。
しかし振り向くと、城の天井と壁が破壊され、中から正体不明の巨大な怪物が現れているではないか。
慌てて何事かを文彦に訊こうとするものの、時既に遅し。目を離した一瞬の隙に、文彦は姿を消していた。
「……クソッ! 無事でいろよ、アズール!」
リボルブは走り出し、崩れゆく城へと向かった。
※ ※ ※ ※ ※
「な、なんだこれは……!?」
ヴェインが錯乱しながらトランサイバーを操作した後。
背深の時と同じように、彼の全身がモザイクに包まれて泡立つ。しかし、明らかにそれとは状態が違った。
膨大なカタルシスエナジーが体内に蓄積され、姿がキングとほぼ同等のサイズの巨体に書き換わり始めたのだ。
コウモリ型のバイザーは砕け散り、ガスマスクも粉砕。ずらりと生え揃った牙が覗く獰猛な顔や、腕と融合した鉤爪のついた巨大な翼は、まさしくコウモリそのものだ。尻尾はトカゲのように長く生えており、ワイバーンも思わせる。
そうして電子音が完全に流れ終わる頃には、ヴェインコマンダーは白黒の縞模様の巨大なコウモリのデジブレインへと変貌を遂げてしまった。
「グゥ、ルルル……グウアアアアアッ!!」
既にヴェインは自我も言葉さえも失って暴走している。トランサイバーとマテリアプレートも身体のどこにも見当たらず、恐らく体内で融合しているのだろう。
天井も壁も突き破り、ビーストヴェインはアズールを見下ろして咆哮した。
「進駒くん、こんな姿になってまで……」
アズールセイバー・サイクロンモードを握る手に力が籠もる。
「うおおおっ!」
「グウウウウアアアアアアッ!」
ビーストヴェインがまたも咆哮し、その声が城の外に響き渡る。
すると城外の土が盛り上がって人の形を成し、チェスで使うポーン・ナイト・ビショップ・ルーク・クイーン・キングの駒が体に埋まっている、王冠を被った無数の土塊の兵隊がアズールに押し寄せる。
土人形が体に纏わりつくと、アズールは自分の体の動きが鈍くなるのを感じた。ただの土のはずなのに、途轍もない重量だ。
「くっ、邪魔だ!」
アズールは剣を振るい、土人形を粉々にする。
しかし情報生命体ですらない土の塊は、ビーストヴェインの咆哮によって再び形を取り戻してしまう。そして、アズールの足止めをするのだ。
飛んで逃れようにも、土の腕が伸びて捕まってしまう。そして手間取る間に、ビーストヴェインの鉤爪がアズールを襲う。
「ちっ!?」
両刃剣を分離させ、攻撃を防ぐアズール。土人形の相手をしていてはキリがない、しかし彼らの足止めは無視できない。
土人形を破壊していると、飛翔しているビーストヴェインが、また大きく口を開いた。
咆哮で土人形を再生する気かと考えたアズールだったが、どうやら違うようだ。大きく息を吸い込んで、こちらを狙っている。
そしてビーストヴェインの喉が震えて口腔から目に見えない何かが放たれたかと思うと、アズールは大きな衝撃を受けて後方に吹き飛ばされ、直後に轟音と空気の鳴動が響き渡る。
「かっ!?」
ビーストヴェインが口から超音速の衝撃波を放ったのだ。ソニックブレスとでも名付けるべきその攻撃で、アズールはV2リンカーになって初めてダメージを受けた。
しかしすぐに立ち上がり、剣を構え直す。
「前のブルースカイリンカーなら即死だったな……」
傷は深くないが、先程までのダメージも残っている以上、今の攻撃を何度も受け続けるワケにはいかない。
どうやって攻略したものか、と頭を悩ませていると、瓦礫の陰に隠れているアシュリィがアズールに向かって叫び始めた。
「あいつにその土をぶつければ良いんじゃない!?」
「……なるほど!」
アシュリィの助言に従い、アズールは風を起こして上半身だけとなった土人形を巻き上げ、ビーストヴェインに差し向けた。
土人形はビーストヴェインの体にしがみつくものの、すぐ振り払われる。そもそも大して重いとさえ感じていないようだ。
しかし狙いは動きを鈍くする事ではない。アズールは次々に土人形を送り込み、ビーストヴェインの行動を妨害した。
ビーストヴェインの咆哮によって操作されていた土人形たちは、次第にただの土に戻ってしまう。これこそがアズールの狙いだ。
「よし、これで!」
周囲に土人形がなくなった瞬間、アズールは飛翔。
アズールセイバー・サイクロンモードでビーストヴェインに斬りかかる。切っ先が僅かに怪物の耳を掠め、アズールはさらに剣を突きつける。
だが、その寸前。
目の前の巨大なコウモリの怪物の、心の声が頭の中に聴こえてくる。
『母サン、父サン……ドウシテ? ボクヨリ、オ金ガ大切ナノ……?』
「……!!」
「グルラァァァウ!」
力の抜けた一閃を、ビーストヴェインは長い尾を鞭のように振って応戦する。アズールは剣を回転させて迎え撃つが、尾は堅く、刃が通らなかった。
続いて鉤爪の一撃がアズールの胴をとらえ、追撃とばかりに尻尾が頭に叩きつけられる。
さらに再び不可視の衝撃波がアズールを襲う。防御不能かつ回避困難なその一撃だが、アズールは風を起こして身を回転させながら後方に飛ぶ事で、直撃を避けた。
『ボクノ事ナンカドウデモ良カッタノ? ボクノ事、何モ見テナカッタノ? ボクノ事……嫌イナノ?』
「くそっ……」
『モット強ク……一番ニナラナキャ……ソウシタラ見テクレルヨネ……』
「くそぉぉぉっ!」
戦う間にも声はどんどん大きく響く。アズールが思い悩んでいる、そんな時。
銃声がひとつアズールの背後から聞こえ、炎の弾丸がビーストヴェインの右翼を貫いた。
誰の仕業なのかは、振り向かなくてもすぐに分かった。悲鳴を上げて怯んでいる隙に、アズールは左翼を剣で突き刺し、一気に下に向けて押し込んで翼膜を斬り裂いた。
「ギャアアアッ!?」
両翼を失ったビーストヴェインが地に墜ちる。アズールも着陸し、その隣にひとりの男が並び立った。
救援に駆けつけた、仮面ライダーリボルブ デュエルリンカーV2だ。
「手こずってるみたいじゃねェか」
「ええ、少し」
「しっかし、なんだありゃ? あんなバケモンを城の中に飼ってたのか?」
「……あれは進駒くんなんです」
思いも寄らぬ答えに、リボルブが仮面の中で唖然とする。しかしすぐに気を取り直し、リボルブラスター・バーニングモードの銃口を敵に向けた。
「だったら速く倒すぞ」
「でも!」
「でもじゃねェ! あの姿になって、一番苦しんでんのはアイツの方だろ! そして、助けられんのは俺たちしかいねェ……それが俺たち仮面ライダーのやるべき事だろうが!」
「……!」
「助け方はもう分かってんだろ、躊躇すんな。自分で戦う道を選んだならな」
そう言ってリボルブはアズールの肩を軽く叩き、前進して炎の弾丸を放つ。
しかしビーストヴェインはソニックブレスでそれを相殺し、尾を振ってリボルブを撹乱する。
必死に抗うリボルブの後ろ姿を見て、アズールはサイクロンモードのアズールセイバーを力強く投擲した。
ビーストヴェインは頭を伏せてそれを回避するが、ブーメランのように返ってきたその刃が背中に突き刺さり、一際大きく悲鳴を上げる。
「静間さん! これで終わらせましょう!」
リボルブに呼びかけながら、アズールはアプリドライバーに挿したライドオプティマイザーのトリガーを引く。
《アクセラレーション!》
そんな音声が流れ、アプリドライバーにカタルシスエナジーがチャージされ始めた。
それに倣って、リボルブもトリガーを引いた。
「フン……任せろ!」
《アクセラレーション!》
同じ音声が流れ、同様にカタルシスエナジーがベルトに集中。
アズールは右側に、リボルブは左側に立ち、マテリアフォンをアプリドライバーにかざして、大きく飛び上がった。
それぞれアズールの左足には青色の光が、リボルブの右足には赤色の光が煌き、二人はビーストヴェインに向かって脚を突き出す。
「その歪んだ願い、僕が終わらせる!」
「くたばりやがれ……!」
《
《
「そぉりゃあああっ!!」
「オォラァアアアッ!!」
二人が同時に放った必殺のキックは見事にビーストヴェインに命中し、その巨体を爆発させる。
地面には人間の姿に戻った進駒と、トランサイバーが転がった。
それに伴って、城内に捕まっていた人々が解放される。玉座の奥に幽閉されていた進駒の両親も無事だ。リボルブは彼らを誘導して、他に囚われている人々がいないかを確認している。
「う、うぐ……」
倒された進駒は再びトランサイバーに腕を伸ばそうとするが、触れようとした直後に火花が散って壊れるのを見ると、その手から静かに力が失われる。
そして仰向けに転がり、ドス黒い空を昏い瞳で見上げた。
「おしまいだ……もう、何もかも」
そう言った彼の目には、もう涙さえ滲まない。
変身を解いた翔は進駒の傍に近づき、煙を噴いているトランサイバーの残骸を拾い上げた。
「これで君に戦う力はなくなった。一緒に来てくれるね?」
「好きにしろよ、もうどうでも良いよ……この世界とその力がなくなれば、ボクにはもうなにもない……どうせ空っぽの存在なんだ……」
ほとんど自暴自棄になっている進駒を見て、翔は静かに彼の手を取り、そして抱き締めた。
突然の出来事に驚いた進駒は、何も言えず困惑している。
「ごめんね……でも、思い出して欲しいんだ。君はどうして一番になりたいと思ったの?」
「え……」
「君の本当の望み。それは何?」
「ボク、は……」
昏く陰りが差していた瞳に光が戻り、進駒はぽろぽろと涙を流し始める。
「ボクは、ただ父さんと母さんに褒めて欲しかったんだ……お金じゃなくて、ボクが一番になるところを二人に見て欲しかっただけなんだ!」
「うん……」
「プロデューサー……あなたがボクに与えた世界は、全部……偽物、だったの……?」
その言葉を口にした後、進駒は意識を失った。
翔はそっと彼を寝かせて立ち上がり、右手を血が吹き出る程に強く握った。
そして怒りで息を荒くし、歯を軋ませながら、ゆっくりと振り返った。
「これがお前のやり方か……スペルビアァッ!!」
見れば、上空にはチェックメイトモンスターズのマテリアプレートを回収したスペルビアが浮遊していた。
脚を組んで翔たちを見下ろしており、その口元には満足気に笑みを浮かべ、拍手すらしている。
「
「ふざけるな……元はと言えば全部お前の仕業だろ!」
怒りに染まった翔の眼が、嘲弄するスペルビアの七色の眼を睨む。
「人の心に土足で踏み込んで、歪めて弄んで、踏み躙って!! お前みたいなヤツはぁ!! この世に存在しちゃいけないんだよ!!」
そう叫んで、トランサイバーを握り潰し、スペルビアの顔に向かって思い切り投げつけた。
原型を留めていないそれをすんなりと手で受け止め、粉々に破壊しながら、スペルビアは実に楽しそうに笑う。
翔の体にほんの一瞬だけ、青いノイズが走った。それを目撃したのはスペルビアだけだ。そうとは気付かず、翔は怒声を浴びせる。
「今の内に偉そうにふんぞり返ってろ!! 絶対にお前を消してやる!!」
「……面白いですねぇ。あなた様は実に面白い」
言いながらスペルビアは手に持ったマテリアプレートを空に掲げる。
その瞬間、城の中や地面から黄色い靄のようなものが噴き出し、プレートへと吸収されていった。
プレートを眺めた後、スペルビアは微笑みをたたえたまま翔を再び見下ろす。
「さて。ここはもうじき崩壊します、またお会いできる時を楽しみにしておりますよ」
パチンッ、と指を弾く音がすると同時に、スペルビアは姿を消した。
翔と鷹弘とアシュリィは、大急ぎで進駒と被害者たちを連れてバックドアを開き、現実世界へと帰還を果たすのであった。
「これでようやく、一歩前進だな」
脱出後。
Z.E.U.Sビルの駐車場まで帰還した翔たちは、事件の被害者たちの無事を再確認していた。
負傷している者がいれば病院へ、それ以外はホメオスタシスのエージェントたちがそれぞれの家へと帰している。
幸いにも重傷者も死亡者もおらず、負傷に関しては崩れた城で躓いたなどの軽微なものであったため、ほとんどの住民が帰宅している。
病院からも、精神失調症の患者が快復したという報告があった。
まだたったの一度。しかし、間違いなく自分たちは勝った。その事実を嬉しく思い、鷹弘は微笑んでいた。
「……静間さん」
だが、話しかけられた翔は物憂げな顔をしている。
彼の隣に立つアシュリィも難しい顔で唸っており、鷹弘は不思議そうに二人を見つめ、何事かを訊ねた。
「進駒くんは、これからどうなるんですか?」
翔が気にかけていたのは、彼が助けた少年の事だった。アシュリィも同じ事を気にしており、加えて何やら眉を吊り上げている。
「本当にかわいそう。あの両親のせいで……!」
「アシュリィちゃん……そんな事言っちゃダメだよ」
「ダメじゃない! 記憶がなくたって分かる、あんなの家族のする事じゃない! どうしてあんな人でなしまで、危険を冒して助けなきゃいけないの!? 二人が命を賭けるような人間じゃないでしょ!?」
鷹弘も進駒の身に何があって今回の事件が引き起こされたのか、それとなく翔から聞いていた。
その上で、彼は首を横に振る。
「いいかアシュリィ。俺たちが助ける命に価値も優先順位もねェんだよ」
「でも……!!」
「ホメオスタシスがやってんのはそういう仕事だ。たとえ聖人君子であれ悪党であれ、命は命。勿論、助け終われば然るべき場所に渡すが」
そのための警察だからな、と付け足して鷹弘は壁に背を預け、腕を組む。
「ただ、原因を作ったとはいえあの二人は罪に問われるような事はしてないからな。普通に帰す事になるだろ」
「……納得できない」
「お前の気持ちは分かるけどな……そんな事だらけだよ、この世の中は。で、あの進駒の方だが」
翔が鷹弘と目を合わせる。
「しばらくはホメオスタシスと電特課で聴取する事になる。何と言っても、アイツはCytuber……デジブレイン側の人間だったんだからな」
「そう、ですか……」
「あれだけの人間の命を救っといて、そんなシケた顔すんなよ。それにこれは悪い事ばかりじゃない、万が一Cytuber共が口封じに来た時……栄 進駒を守れんのは俺たちだけだろ?」
言われて気付いたように目を見張り、翔は数度頷いた。
「そっか、そうですよね!」
「アイツには時間が必要だ。目を背け続けてきた自分の罪と向き合う時間も、現実と向き合う時間も。その中でお互いゆっくりと探して行きゃいいんだ、これからってヤツを」
翔の目に明るさが戻り、鷹弘の口角も僅かに上がる。
だが直後、安心し切った表情の翔が「あーっ!」と声を発した。
「なんだ急に」
「いえ、実は進駒くんが戦ってる時に言ってたんですけど……ガンブライザーの装着者が街に向かったらしいんです!」
「はァ!? おまっ、今の今まで忘れてたってのか!?」
「戦いに夢中になってて……本当にごめんなさい! す、すぐに行きましょう!」
「ったく。さっさと終わらせんぞ、翔!」
「はい! ……あれ、今……僕の名前」
「良いから準備しろ!」
「は、はい!」
二人はそれぞれの愛機であるパルスマテリアラーとトライマテリアラーを呼び出し、翔はアシュリィを後ろに乗せて、現場へ向かう。
ひとつの脅威は去ったが、帝久乃市の仮面ライダーたちの戦いはまだまだ続くのであった。
翔と鷹弘が現場に到着すると、そこは既に全てが終わった後だった。
道路などに激しい戦闘の痕跡が残っているものの、被害者は誰もいない。
唯一負傷者と呼べるのは、ガンブライザーの装着者である金髪の少年だけだ。
「一体何があった?」
面食らった様子で、鷹弘が訊ねる。いくらなんでも、戦闘エージェントのみでガンブライザー個体を倒せるはずがない。
すると、経過を見ていたであろうエージェントが、撮影した映像と共に三人に述懐する。
「突然現れたんです」
「現れた? 何がだ?」
「仮面ライダーが……二人!」
「……なんだと!?」
鷹弘も翔もアシュリィも驚いて、その映像に注視した。
※ ※ ※ ※ ※
これは、翔たちがサイバー・ラインで戦っているのとほぼ同時刻に起きた出来事だ。
「ク、ククク……俺ノ天下ダ……誰モ俺ニ逆ラエネェ!」
人々が逃げ惑う中、怪人はそう言った。
天を衝く金色の鬣と強靭な筋肉がついた四肢、鋭い爪と牙、それはまさにライオンだった。ただし、鬣で誤魔化されているが身長は160cm程度だろう。
ライオン・デジブレインの周囲には、同じように鬣や獣の特徴を持つデジブレインが集まっている。牙は生えているものの顔はなく、ベーシック・デジブレインを思わせる。
これはこのライオンの能力によって強化されたベーシック・デジブレインで、いわゆる
「気持チイイゼェ! 俺ガ! コノ街ヲ支配シテルンダァァァ!」
獣の咆哮が街の中に木霊し、人々は恐怖し逃げ続ける。
だが、その時だった。
三つの人影が、避難する者たちとは反対の、怪人の方へと向かっているのだ。
逆光のせいでその姿はハッキリと確認できないものの、二人が男性で一人が女性である事は分かった。男性の内の片方は、帽子を被っているようにも見える。
「ナンダァ、オ前ラ」
デジブレインの質問には答えず、帽子の男を下がらせて男女が前に出る。
そしてどこからか取り出した、厚みがあるが小型のタブレット端末を操作すると、その腹部にベルトのようなものが出現して巻き付いた。
間違いなくドライバーだ。しかし、アプリドライバーとは全く異なる外観で、緑と黄のカラーラインが目につく。また、バックル左側には三つのスイッチと、下部には指でタッチして使う指紋認証装置のようなものもついている。
男女共にその端末を上からバックル部に装着し、さらに左腰のウィジェットから一枚ずつマテリアプレートを取り出す。
だがすぐには起動せず、バックル左のスイッチをひとつ押した。男は赤色、女は白色のスイッチだ。
《パワフルチューン!》
《テクニカルチューン!》
それぞれ音声が鳴り、続いて二人は同時にマテリアプレートを起動する。
《
「変身」
《フォレスト・バーグラー!》
「変ー身っ!」
眩い閃光と変身音らしいものが聞こえるものの、ノイズが混じっていて正確には聞き取れない。
そして光が消えると同時に、二人の姿が変化していた。
男は緑色のパワードスーツの上に赤い装甲を纏う、龍を思わせる姿の中華風の戦士。
女は黄色のパワードスーツの上に白い装甲を纏う、蜂に似た姿の軽装の戦士だ。
「ナンダ……オ前ラ!?」
ライオンが問いかけると、男は拳を鳴らし、ゆらりと前に出る。
「罪人に名乗る名はない」
そこから先は、一方的な展開だった。
二人は武器も使わずにライオン・デジブレインとその配下を倒し、その場に静寂を取り戻したのだ。
そして、すぐに立ち去った。
突如現れた二人のライダーと、その傍に控える謎の男。彼らの正体は、果たして――。