仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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 翔たちがヴェインコマンダーを討ち、進駒やその被害者らを連れてサイバー・ラインを脱出した直後の事。
 スペルビアは、様々な色彩が入り混じったドス黒い空間の中を、チェックメイトモンスターズのアプリを持って歩いていた。
 彼の周囲は漆黒の靄のような雲のようなものが拡がっており、時折眼球や手足が覗き出ては消滅を繰り返している。
 しばらく移動を続けていると、スペルビアは地面から黒い柱らしきものが突き出ている場所に辿り着いた。柱は全部で七本あり、中央に開いた大穴を取り囲むようにして配置されている。
 大穴からは絶えず黒い靄が吐き出されている他、ケーブルが無数に伸びており、それらの全てが柱に接続されている。スペルビアはその穴を見つめ、口角を釣り上げた。

「お待たせ致しました。ようやく一つ、完成しましたよ」

 恍惚とした表情でそう言った後、スペルビアは柱の内の一本に近付く。鳥の頭と翼、獣の体を併せ持つ生物のレリーフが彫られており、四角い窪みとコネクタが付いている。
 スペルビアはその窪みにチェックメイトモンスターズを差し込み、接続した。すると柱の頂点から黄色い光が溢れ出し、ケーブルもその光を帯びて、次々と大穴に光が吸い込まれていく。

「これであと六つ……私の望みが果たされる日も近い」

 パチンッ、とスペルビアが指を鳴らした。
 その瞬間に彼の姿は消え、その後も大穴は光を吸収し続けるのであった。


File.02[Sinners Scream]
EP.16[ザ・ニューライダーズ]


 同日、夜。

 戦いの事後処理を終えた翔は、アシュリィと共にようやく自宅に辿り着いた。

 

「今日は大変だったねー」

「ん」

 

 玄関で靴を脱ぎ、汗をかいた身体を拭くため、あらかじめ靴箱の上に用意していたタオルに手を伸ばそうとする翔。

 だが、直前で翔は「あれ?」と首を傾げる。自分とアシュリィが使うので、ちゃんと二枚置いていたはずだが、そこにタオルは一枚しかなかった。

 

「おかしいな……」

 

 言いながら、翔はアシュリィにタオルを手渡した。だが、彼女も訝しげな顔をこちらに向けている。

 

「どうしたの?」

「これ、誰の靴?」

 

 質問を受けて翔が視線を落とすと、そこには少し汚れた革靴があった。礼服と一緒に履くものだが、爪先に薄い鉄板が仕込まれている特殊なものだ。

 即座に翔は目を剥いた。鉄板入りの革靴をこの家で使っている人物には、ひとりしか心当たりが無いのだ。

 

『本日――党の久峰 遼(ヒサミネ リョウ)衆議院議員が――』

 

 出かける前に消したはずのテレビから音が聞こえる。内容は、政治家に関するニュースのようだ。

 急いでリビングに向かうと、ソファーの上に彼のよく知る男が寝転がっている。

 白いソフト帽を顔に乗せ、タオルと赤いネクタイを床に放りっぱなしにした、白と黒のボーダー柄のワイシャツを着た男。その左手は、黒い手袋に包まれている。

 

「父さん……!?」

 

 呼ばれて、その男――天坂 肇は帽子を手に取ってゆっくりと身を起こした。

 

「元気そうだな、翔」

 

 フッと微笑んで、肇は立ち上がる。

 翔は嬉しそうな安心したような微笑みを見せるが、すぐに呆れ顔になってタオルとネクタイを拾った。

 

「もう、帰って来る時は連絡してよ! ネクタイも床に散らかして!」

「そいつは悪かったな」

「……おかえり、父さん」

「あぁ、ただいま」

 

 そう言った肇は翔に帽子を預け、ふと彼の背後に目をやった。

 ちょこん、とアシュリィが翔の後ろに隠れている。そして肇と目が合うと、小さくお辞儀をした。

 肇は苦笑しながら、翔に「この子がアシュリィか」と訊ねる。翔も苦笑いし、首肯した。

 

「はじめましてだな。もう聞いていると思うが、俺が翔の父親だ。記憶が戻るまで君の身を預かる、好きに住んでくれ」

「……ありがと、ございます」

「そんなに堅くならなくていい。とりあえず翔、もし疲れてないならメシを作ってくれるか? 簡単なものでいい」

 

 テキパキと肇の所持品を片付け終わった翔は指でOKサインを出し、すぐに調理に取り掛かった。

 それを見たアシュリィは素早く席につき、密かに目を輝かせる。

 

「随分懐かれてるというか……餌付けか……?」

「父さん? 何か言った?」

「いや、なんでも。それより」

 

 トントン、と翔が包丁で野菜を切る音を聞きながら、何気ない調子で、しかし鋭く肇が訊ねる。

 

「響はどうした」

 

 音が止まる。

 

「……兄さんは……」

 

 翔は振り向かず、調理を続けながら話した。

 自分がデジブレインと戦うために仮面ライダーになった事も、Cytuberの事も、そしてその戦いの過程で響がサイバー・ラインに送られた事も。

 肇がかつて仮面ライダーとして戦っていた事は既に知っているので、説明に関してはスムーズに進んだ。ただし、肇は終始渋い顔で話を聞いていたが。

 

「なるほどな。その御種 文彦……Cytuberのヴァンガード、だったか。そいつを見つけて居場所を吐かせるつもりか?」

「知ってるとは限らないけど、少なくとも彼が領地に送り込んだのは間違いない。だから、まずはそこから探そうと思って」

「お前、戦いを降りるつもりはないのか?」

 

 問われるが、今度は調理の手を止めない。

 翔は作り終えたほうれん草のゴマ和えとサバの塩焼き、それから野菜のたっぷり入った豚汁をテーブルに並べていく。そして炊き終わってふっくらとした白米を茶碗に盛り付け、これも三人分並べた。

 

「降りないよ。僕は自分が戦うって決めたんだ」

 

 テーブルにつき、翔は言った。そしてアシュリィと一緒に手を合わせて「いただきます」と言った後、料理を口に運んでいく。

 アシュリィは決して「おいしい」と言わないが、相変わらず黙々と食べ進んでいく。

 

「……そうか。それなら、俺が止める理由はない」

 

 箸でサバ身をほぐし、肇も食べ始める。そして嬉しそうに目を細め、よく噛んで味わい、飲み込んだ。

 さらに味噌汁、ほうれん草と食べ、息をついた。

 

「あぁ、これだこれ。やっぱり日本の料理が一番舌に合う……というか翔、お前また腕を上げたな」

「そうかな? 中国行ってたんなら、向こうでも美味しいもの食べてたんじゃないの?」

「中華料理も悪くなかったが、ちょいと油がキツいのと辛いのがあってな。こういう料理を食うと安心する」

 

 談笑しながら食べ進め、三人は料理を完食する。

 食後の茶を飲みつつ、翔はある質問を肇に投げかける。

 

「父さんこそ、もう変身しないの?」

「無理だな」

 

 肇は茶を一息で飲み干し、言い放った。

 

「今の俺はただの探偵だ。もう仮面ライダーとしてこの件に関わる事はない」

「ホメオスタシスを助ける気はないの?」

 

 この質問をしたのはアシュリィだ。すると肇は、食事中も左手にだけ付けていた手袋を外し、さらにワイシャツの左側をめくって彼女に見せる。

 それを見て、アシュリィは絶句した。その左腕は、肘から先が金属になっている。つまりは機械の義腕だったのだ。

 肇はすぐに手袋を付け直し、再びコップに茶を注ぐ。

 

「アクイラとの戦いで、俺はこの腕を失った。こんなんじゃそもそも変身したところで足手まといになるだけだ」

「……ごめんなさい」

「勘違いするなアシュリィ、別に怒っちゃいない。一時的とはいえこの腕一本で世界を救えたのなら、むしろ喜ばしい話さ」

 

 翔の目を真っ直ぐに見つめて、肇はまた茶を啜る。

 

「それに仮面ライダーが四人もいればこの街も安泰だ。だから戦いには加わらんが、響や行方不明者を探す手助けくらいはしてやろう。俺がしてやれるのはそれくらいだ」

「ありがとう、助かるよ」

「何、気にするな。さて……二人とも、先に風呂入ってな。俺は資料の整理があるから後でいい」

「うん、分かった。じゃあアシュリィちゃんどうぞ」

「お? なんだよお前ら、一緒に入んないのか?」

 

 冗談めかして肇が言うと、翔が苦笑し、アシュリィが顔を耳まで真っ赤にして肇を睨みつける。

 

「……何言ってるの? バカじゃないの? バッカじゃないの!?」

「あはは、父さんあんまりからかっちゃダメだよ」

「笑うなバカ!」

「いたたた、あはは」

 

 頬を膨らませながら、アシュリィがペシペシと翔の腰を叩いた。

 そんな二人の様子を微笑んで見つめ、肇はその場を後にする。

 翔はぷりぷりと怒るアシュリィをなだめて風呂に向かわせた後、ふとある事に気がついて「あれ?」と声に出した。

 

「そういえば父さん、なんで仮面ライダーが二人も増えた事を知ってるんだ……?」

 

 しかし答えが出る事もないので、すぐに「まぁいっか」と思い直し、台所に向かって使い終わった食器を洗い始めるのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 数日後、朝。

 翔たちは放課後、いつものようにホメオスタシスの研究施設へと赴いていた。アシュリィも当然のように一緒だ。

 研究所に入るなり、翔・鋼作・琴奈・アシュリィの四人を出迎えたのは、意外な人物だ。

 電特課の警部補、安藤 宗仁である。

 

「よう、翔坊。今いいか?」

 

 相変わらず僅かに酒の臭いを漂わせ、宗仁は気さくに話しかける。

 

「実は例の栄 進駒がようやくマシに口を利ける状態になってな……お前と話したいんだと」

「僕と、ですか?」

「じゃなきゃ聴取に応じねぇとさ。このままじゃ仕事にならねぇからよ、頼まれてくんねぇか?」

 

 申し訳無さそうに頼み込む宗仁に、翔は快く「分かりました」と頷いて、鋼作たちも一緒に彼の後についていく。

 そうして、進駒がいる個室に案内され、翔はその中に入った。

 部屋の中には机と椅子とベッドがそれぞれ置いてあり、窓はなく、進駒はベッドの上で座り込んでいた。

 彼は虚ろな目で床を見つめていたが、翔の姿を見つけると、咳払いして椅子に座る。

 

「ようこそ、天坂さん。待ってましたよ」

「……大丈夫?」

 

 向かい側の席に座って、心配そうに翔はそう言った。進駒は首を縦に振り、自分の手を机の上に乗せる。

 

「ええ、別に生活に関しては不自由していません」

「そうじゃなくて、その……まだ君の家族と会ってないんでしょ?」

 

 そう言われると、途端に進駒はしおらしく目を伏せた。

 

「仕方ない事ですよ。ボクはそれだけの事をしてしまった。それに、お互いに時間が必要でしょうから」

「……辛いよね」

「それは……。……あなたに隠し事はできませんね」

 

 ふぅ、と息を吐いて、進駒は翔の顔に視線を戻した。

 その表情は、沈痛なものだ。両眼には涙が浮かび、酷く落ち込んでいるのが見て取れた。

 

「辛いですよ。父さんと母さんに会えないのは……ボクは、どうしてあんな事をしてしまったんでしょうか……」

「二人に会いたい?」

「勿論です。会って、謝らないと」

 

 真剣な目つきで断言する進駒に、翔は微笑んで頷いた。

 

「それだけ自分の気持ちと向き合えるなら、君はきっともう大丈夫だよ」

「……ありがとうございます。実は、あなたを呼んだのは少しだけ勇気が欲しかったからなんです」

「そうなの?」

「だって命の恩人ですから。あなたの顔を見て、あなたと話して、気持ちの整理がつきました」

 

 進駒も微笑み、翔に向かって「ありがとうございます」と一礼する。

 翔は照れ臭そうに笑いながら、彼に「どういたしまして」と返すのだった。

 そうして話している最中、突然入り口の扉からノックの音が転がり込む。直後、鋼作が慌てた様子で外から声をかけてきた。

 

「翔、リーダーから連絡だ! デジブレインが街に出たぞ!」

「分かりました、すぐに向かいます!」

 

 翔は急いで立ち上がるが、その背を「待って下さい」と進駒が呼び止める。

 

「きっと向こうは、ボクやヴァンガードが倒されて多少なりとも警戒してるはずです。気をつけて下さいね」

「分かった、ありがとう!」

 

 改めて、翔はその場を走り去る。それをじっと見送りながら、進駒は唇を釣り上げた。

 

「ボクも、なれるかな……あの人みたいに」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 連絡を受けた翔は、パルスマテリアラーを走らせて、他の戦闘エージェントを率いて現場へと急行する。

 目的地はスクランブル交差点。その付近のビルに備えられている巨大な街頭ビジョンが、今回ゲートとなっているようだ。

 あまりにも規模が大きく、人目につきやすい場所であるため、現在は電特課とホメオスタシスが協力して道路を封鎖している。

 しかし、それもバリケードが破られてしまえば無意味。たちまち住民に被害が出てしまう。それが分かっているので、翔は急いでいるのだ。

 

「……見えてきた!」

 

 翔は隊員と警官に簡単に会釈し、バリケードを乗り越えてスクランブル交差点に向かう。ホメオスタシスの隊員たちの会話から、鷹弘は既に戦闘に入っている事が分かった。

 鋼作たちは、戦況分析と仮面ライダーのサポートだ。どうやら屋内にも潜んでいるらしく、ナビゲートが必要になるだろう。

 交差点の中央では、無数のベーシック・デジブレインに囲まれている鷹弘の姿が見える。

 彼は既にリボルブへと変身しており、デュエルリンカーで次々に湧いて出る敵を相手にしている。

 

「来たか、翔」

「静間さん、今行きます!」

「頼むぜ。俺一人じゃキリがねェ」

 

 翔はマテリアフォンでアプリドライバーを呼び出し、ブルースカイ・アドベンチャーのマテリアプレートを手に取って起動、それを装填した。

 

《ユー・ガット・メイル! ユー・ガット・メイル!》

「変身!」

《蒼穹の冒険者、インストール!》

「うおおおっ!」

《アズールセイバー!》

 

 青い仮面の戦士、アズールとなった翔は、剣を振り上げて戦いの場に躍り出た。

 アズールとリボルブは、二人でそこら中から湧き出てくるデジブレインを、次々に倒していく。

 だが、当然倒しきれるワケがない。ゲートの管理者のデジブレインを消滅させない限り、ベーシック・デジブレインは無限に出現する。それに、これらベーシックタイプは融合する事でデータを統合し、それを元に新たな形態に変化する事ができるのだ。

 

「敵が多いな……」

「リンクチェンジしましょう」

 

 二人はそれぞれ、多数の敵を相手にするのに最適なマテリアプレートを取り出す。アズールなら鬼狩ノ忍、リボルブならジェイル・プラネットだ。

 だが、起動しようとした直前。唐突に、ギターを掻き鳴らす音が二人の頭上から響いた。

 

「なんだ!?」

「あっ、あそこです!」

 

 アズールが驚いた様子で信号機の上を指差すと、そこには派手なプラチナブロンドのウルフモヒカンヘアーが特徴的な、ギターを持った男が立っていた。

 二人は困惑するが、その男が左手に装着しているあるものを見て表情を引き締める。

 

「トランサイバー……という事は!」

「野郎、Cytuberか。もう出張ってくるとはな」

 

 ジャアン、と再び男がギターを鳴らす。そして、信号機の上からゆっくりと飛び降りた。

 そしてアズールたちを見るなり、いきなりスゥーッと涙を流し始める。

 

「え、え?」

「なんだこいつ、情緒不安定か?」

 

 あまりにも急な出来事に、アズールもリボルブも思わず困惑した。

 すると、男はアズールたちに視線を向けたまま、ゆっくりと口を開く。

 

「俺はCytuber五位、音楽界のスーパースター……激情のロックだ。よろしくゥ! イェーイ!」

「そのテンションの急昇降をどうにかしろ」

「アァー、そうだな。どうにかなっちまいそうだぜ、お前らがストライプをやっちまったせいでよぉ、イエイ!」

 

 ロックと名乗った男が、今度は真上を見ながらギターの演奏を始める。当然その奇行と態度に、アズールとリボルブは唖然とするばかりだ。

 

「虚栄のストライプは俺たちの仲間だったァァァー……その夢を潰したお前らを。俺はぁ……許さねぇぇぇ~ぜっ♪ イェーイ!!」

「やかましい!! かかってくるのか来ねェのか、ハッキリしろ!!」

「イェーイ!」

「おー喧嘩売ってんだなよし決めた!! 今すぐブン殴ってお前の鼻を圧し折ってやる!!」

 

 意味の分からないロックの行動に、ついにリボルブの堪忍袋の緒が切れた。しかしアズールは彼を羽交い締めにして食い止める。

 

「お、落ち着いて下さい! あれでもまだ一応生身の人間ですから!」

「うるせェーッ! あんなフザけた野郎をいつまでも見てられるか! 二度と口を開けなくしてやる!」

 

 アズールを引き摺りながら、リボルブは演奏を続けるロックの方に歩んでいく。

 そして残り数メートルという程度まで近づいたところで、ロックは突然リボルブの方を見た。

 

「いいぜぇ、その怒りのリリック。そのグルービーなテンションが俺のライブには必要なんだ」

「あぁ? 何ワケ分かんねェ事を」

「俺はただ演奏してただけじゃないんだよ」

 

 真剣な顔でそう言って、ロックは大きくバックステップした。

 すると異変を察知したアズールがリボルブを放し、周囲を見回す。そこには信じられない光景が広がっていた。

 まだ結合していないのに、デジブレインたちの姿が次々に変化を始めているのだ。

 ロックの仕業だ。直感的にそう判断したリボルブは、すぐさま問い詰める。

 

「何しやがった!?」

「ハーロットの技術で調整された俺のギターはァー……演奏すればデジブレインの中のデータを活性化させる事ができる。そのお陰でこいつらのテンションもMAXってワケだぜぇ」

「チッ、言い方より何を言ってるのか分かるのがムカつく!」

「イェーイ!」

「うるせェよ!」

 

 気付けば二人は、様々な姿のデジブレインに囲まれていた。

 スタッグビートルやカメレオンやスパローにボアと言った面々を初め、かつて戦ったブレーメンズの元となったバトルクック・デジブレイン、ブルドッグ・デジブレイン、サーバルキャット・デジブレイン、そしてドンキー・デジブレインの姿もある。

 さらに、ハゲタカのような姿のデジブレインもいるようだ。

 即座にフォトビートルが解析を行った結果、あれはコンドル・デジブレインという個体であるらしい。

 

「チッ、面倒くせェ!」

「来ます!」

 

 スタッグビートルとスパローが三体ずつ、大アゴと爪を向けてアズールに迫る。さらにボアとコンドルが三体ずつリボルブの方に向かい、カメレオンは姿を消した。

 一体一体は今の二人にとって大した相手ではないが、数が多すぎる。しかもどうやら、未だに演奏しているロックのギターによってさらにパワーアップしているようだ。

 ノコギリのようなアゴを剣で受け流しながら、アズールは叫ぶ。

 

「V2で一気に殲滅しましょう!」

「そうだな……!」

 

 頷き合い、アズールはブルースカイ・アドベンチャーV2を、リボルブはデュエル・フロンティアV2を取り出した。

 だが、その時だった。

 

「ちょーっと待ったー!」

 

 突如そんな女性の声が聞こえたかと思うと、眼鏡を掛けて首から黄色いヘッドフォンをぶら下げた、ボサボサの長い金髪の少し背が低い女が一人、バリケードを乗り越えて自分たちの方へ向かってくるのが見えた。

 だが、そこには当然デジブレインがいる。するとその女を護るようにして、深緑色のサテン地のチャンパオを纏った赤茶色の髪の緑眼の男が、向かって来たバトルクック・デジブレインの眼にマテリアエッジを投擲して退かせた。

 黄色いパーカーワンピースの女は「にゅふふ」と笑いながらその男の肩をポンポンと叩き、共に悠然と歩み出る。

 

「あの男は……!」

「あなたたちは……誰ですか?」

 

 思わず問いかけるアズール。リボルブは男の方と見知った顔のようだが、女の方は知り合いではない様子だった。

 すると、男の方が答えようとしたところを遮って、女の方が前に出る。

 

「自己紹介はあとあと。今はコレでしょ」

 

 そう言って取り出したのは、N-パッドよりも少々小振りなタブレット機器。

 ライオン・デジブレインを打ち倒した仮面ライダーが使っていた道具だ。それに仕方なさそうに従い、チリンと左耳についているエメラルドで装飾された三日月型の金の耳飾りを鳴らして、男も同じものを取り出す。

 

「まさか!?」

 

 驚きの声を発したのはアズールだ。女の方はその反応を楽しんで笑い、パッドにあるベルトのマークをタッチした。

 

《ドライバーコール!》

 

 その音声が流れると同時に、二人の腹部にベルトが巻き付いた。

 

「このマテリアパッドとタブレットドライバー……そしてアプリチューナーを合わせて使う。これがウチの作った、新たなライダーシステムよん」

 

 得意げな様子で女が言い、二人は同時にマテリアパッドと呼んだその端末をタブレットドライバーに差し込む。

 そして女が男の顔を見上げ、笑いながら問いかける。

 

「さぁ行くよーん、準備おけ?」

「問われるまでもない」

 

 二人は映像の中で見た時と同じように、まずはタブレットドライバー左側に備えられたスイッチを押した。

 

《パワフル・チューン!》

《テクニカル・チューン!》

 

 男は左腰のウィジェットからマテリアプレートを取り出し、女もそれに合わせる。そして、二人で同時にプレートを起動した。

 

天華繚乱(ウォーゾーン・ブルーム)!》

《フォレスト・バーグラー!》

 

 天華繚乱は、実在の中国をモデルとした繚嶄泊(りょうざんぱく)という大沼沢を舞台とする大人気の格闘ゲームアプリ。悪漢を打倒し帝国を救って来た無数の英傑たちが互いの武を競い合い、最強が誰なのかを決めるというのがテーマとなっている。

 一方フォレスト・バーグラーは、電子の森を舞台とするピンボールアクションRPGだ。電子の森に住むハッカー集団が、邪智奸佞の王族や騎士や悪徳商人から財宝となるデータを盗み取る、というものである。

 二人はそれらを起動した後、タブレットドライバーの右側に差し込む。

 

《ノー・ワン・エスケイプ! ノー・ワン・エスケイプ!》

 

 タブレットドライバーからそんな音声が鳴り、指紋認証装置『マテリアルセンサー』が緑と黄に交互に点滅発光する。二人は同時に人差し指を差し入れ、指先でタッチした。

 

「変身」

「変ー身っ!」

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド!》

 

 瞬間、二人の前には龍の鎧を纏うドラグーン・テクネイバーと黄色い装束を着たバンデット・テクネイバーが出現し、それぞれ分解される。

 そしてドラグーンは緑色のパワードスーツとなって男の方に、バンデットが女の方に合体して黄色のパワードスーツとなる。

 さらに、二人の頭上から赤と白の装甲が出現し、今度はそれが合着された。

 

《ウォーゾーン・アプリ! 闘龍之技、アクセス!》

《フォレスト・アプリ! 義賊の一矢、アクセス!》

「仮面ライダー……!!」

 

 驚く二人の目の前で、緑のライダーが拳を鳴らす。

 

「私は雅龍(ガリョウ)。仮面ライダー雅龍……!」

「ウチは~、ザギーク(The Geek)! 仮面ライダーザギーク! シャッキーン、ってね」

 

 雅龍の隣で、蜂のような姿の黄色い仮面ライダーが名乗る。

 二人の変身を見届けた後、ロックは再びギターを鳴らす。それを合図に、デジブレインたちが一斉に飛びかかった。

 しかし雅龍とザギークは慌てず、手を前に掲げてマテリアパッドの武器のアイコンをタッチする。

 

《スタイランサー・スピアーモード!》

《スタイランサー・ボウガンモード!》

 

 すると、それぞれの手にタッチペン型の武装が握られる。雅龍は長槍、ザギークは弩弓だ。

 

「ハァッ!」

 

 雅龍はその槍を力強く突き出し、スタッグビートル・デジブレインとスパロー・デジブレインの頭を一撃で貫く。さらにその向こう側から同種のデジブレインが迫ってくるのを視認し、スタイランサーのトリガーを引く。

 すると、槍の先端から赤く光るゲル状のインクのようなものが飛び出し、穂先に包まって凝固して、先端を戟のような形状に変えた。

 

「ぜぇぇぇい!」

 

 それを雅龍が力任せにスイングする事で、スタッグビートル及びスパロー、そして隠れて難を逃れようとしていたカメレオン・デジブレインを纏めて全滅させる。

 

「おー、派手にやるね」

「コケーッ!」

「おっと」

 

 背後から襲いかかってきたバトルクック・デジブレインに気づき、ザギークは後ろを見ずに左足を背後に向かって振り抜く。

 

「ケコッ!?」

 

 その踵は、バトルクックの股間に深々と命中した。

 

「あっ……イケないトコに会心の一発しちゃった? ごめんごめんテヘペロ」

「コ、コケケ……」

「まぁ、でもデジブレインだし大丈夫かぁ。ほんじゃさらだばー」

 

 そう言ってザギークは背後で悶絶しているバトルクックの頭を白い矢で撃ち抜き、消滅させる。

 しかし一体撃墜したところで、状況は変わらない。他にもブルドッグ・デジブレインや、サーバルキャット・デジブレインが彼女に迫っている。

 が、命中の直前に彼女は背中の翅で飛翔して攻撃から逃れ、さらにボウガンで反撃を行う。その矢弾は、正確にデジブレインたちの膝や左胸に突き刺さった。

 

「僕らも負けていられませんね」

《ブルースカイ・アドベンチャーV2!》

「ああ。行くぞ」

《デュエル・フロンティアV2!》

 

 二人の手際を見ていたアズールとリボルブが、マテリアプレートを起動して戦場に飛び込み、アズールはザギークの背後に迫るカメレオンを剣で斬り倒し、リボルブはコンドル・デジブレインの両翼を撃ち抜く。

 そしてアプリドライバーへとマテリアプレートを装填し、マテリアフォンをかざして同時に「リンクチェンジ!」と叫んだ。

 

Alright(オーライ)! オプティマイズ・マテリアライド!》

 

 瞬間、青と赤の戦士の姿が、強化されたものに切り替わる。

 

《ブルースカイ・アプリV2! 蒼天の大英雄、インストール!》

《デュエル・アプリV2! 最速のガンスリンガー、インストール!》

「援護します!」

「助太刀してやる」

 

 続いてブルースカイリンカーV2となったアズールは二つの剣を手に取り、デュエルリンカーV2となったリボルブは二つの銃を構える。

 

《アズールセイバーV2!》

「そぉりゃあああ!」

《リボルブラスターV2!》

「オォラアァァァ!」

 

 アズールは二本のアズールセイバーを振るって風の刃を無数に生み出し、巻き込まれた敵を全て薙ぎ倒す。リボルブはそこから離れた位置で、リボルブラスターの二挺拳銃スタイルでデジブレインを狙い撃ち、付近にいるデジブレインたちも纏めて爆炎で粉砕していく。

 たったこれだけで、雅龍とザギークの周囲にいるデジブレインたちは全滅してしまった。

 

「おほっ、やるねぇー」

「ほう……」

「こりゃーウチらも負けてらんないんじゃないのー?」

「そのようだ」

 

 そう言って、雅龍はタブレットドライバーの白いボタンを、ザギークは黒いボタンをそれぞれ押した。

 

《テクニカルチューン!》

「チューンアップ」

《スピーディチューン!》

「チューンアーップ!」

 

 再び発光を始めたマテリアルセンサーを指でタッチすると、二人のパワードスーツに装備されていた装甲が分離し、新たに白と黒の装甲が転送される。

 この戦いの様子を、フォトビートルを介してモニターしていた琴奈は、驚きの声を発した。

 

『うそ、もしかしてリンクチェンジしなくても戦法を変えられるの!?』

 

 そして、驚いている間に二人の体に装甲が合着。そして、電子音声が鳴り響いた。

 

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド! テクニカル・チューンアップ!》

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド! スピーディ・チューンアップ!》

 

 白い装甲の雅龍がスタイランサーのトリガーを引くと、穂先からゲル状の白いインクが流れ、地面を伝ってアズールに突進するボア・デジブレインの目の前で迫り上がって凝固。強固な壁となったゲルにぶつかったボアは、目を回してその場をふらついた。

 黒い装甲を纏ったザギークは、ドンキー・デジブレインを羽交い締めにして目にも留まらぬスピードで上空高くに飛翔し、そのまま振り回して地上のボアの方に投げ飛ばした挙げ句、ボウガンを連射して二体とも蜂の巣にする。

 仮面ライダーたちは次々にデジブレインを討滅していく。ロックはその様子を見て、演奏の手を止めて感心したように拍手していた。どうやら、ギターを引いている内に腕が疲れてしまったようだ。

 

「中々やるなぁ……仮面ライダー共」

「あなたは戦わないのか?」

 

 剣先を向けながら、アズールが言った。するとロックは笑いながら、ジャンッと一度だけギターを鳴らした。

 

「勿論お前らをドラム叩くみてーにボコボコにしてやるのが俺の目的だァァァー……が、その前に仮面ライダー共の戦力を確かめておきたくてなぁ」

「威力偵察のつもりなら、別に離れた場所で見てればいいんじゃ?」

「……イェーイ!」

「あ、誤魔化した」

 

 疲れて演奏が止まったため、湧き出てくるデジブレインも変化が失われ、ベーシックのみになってしまった。

 だが、それでもロックは退かない。指をパチンと弾き、虚空に叫ぶ。

 

「ここで俺からバンドメンバーを紹介するぜェェェーッ!」

「え?」

 

 ロックが演奏を再開する。それと同時に、周囲の薬局や家電量販店の中から、一体のデジブレインが飛び出した。

 フルートを片手に持つ、色とりどりの布で作られた道化師のような風貌のネズミ怪人。ガンブライザーがないため、人間に寄生しているタイプではない。

 フォトビートルが解析に移るものの、ネズミのデータでは合致しないようだ。

 アナライズに時間がかかる事を察知したリボルブは、すぐ攻撃に転じた。

 

「喰らいやがれ!」

 

 並のデジブレインならば即死する、リボルブラスターV2の一撃。

 だがそのデジブレインがフルートを吹くと、光の壁が現れ、瞬く間に炎の弾丸が散り散りになって消えた。

 

「な……!?」

「こいつはハーロット特製、パイドパイパー・デジブレイン! お前らの攻撃じゃビクともしないぜっ♪」

 

 ならば全員で。四人が四人そう考え、突撃する。

 しかしパイドパイパーの笛の音がなると、ゲートを通してベーシック・デジブレインが押し寄せて攻撃を妨げる。それも、通常とは異なり耳や尾にネズミの特徴を持つタイプだ。

 

「パイドパイパー……まさかハーメルンの笛吹き男か!?」

「正解だぜ、イェーイ!」

 

 ロックが演奏を続行する。それにより、ベーシック・デジブレインたちも強化された。

 槍を突き出せば素早く回避され、矢を射っても発射の瞬間には照準から消えて、剣の一撃は振りかぶった直後にバックステップで避けられてしまう。

 リボルブの速撃ちで放たれた銃弾は回避しきれないようだが、それは光の壁が盾となって負傷を最小限に抑えている。

 そして、パイドパイパーが笛を鳴らすと、頭上から無数の光条が針となって降り注ぎ、四人を襲う。

 ラットタイプのベーシック・デジブレインも、スピードを活かしたキックや尻尾を叩きつけるなど、侮れない攻撃力だ。

 

「どうやら敵のフォーメーションってのは完璧らしいぜ」

「何か策は?」

 

 銃を構え直すリボルブに、雅龍が訊ねる。

 するとリボルブは「フン」と笑い、手をポキポキと鳴らした。

 

「策もクソもねェよ。あんたらも、ここからが本番だろ?」

「フ……そうだな」

「ああ。そろそろ本気で相手してやるよ」

 

 雅龍とリボルブが頷き合い、アズールもそれに応じて頷いた。

 威力偵察をしていたのは、ロックだけではない。アズールは二本の剣を組み合わせ、リボルブは二つの銃を合体させる。

 

《サイクロンモード!》

《バーニングモード!》

 

 アズールはそのまま両刃剣にマテリアプレートを差し込み、リボルブも同じく合体銃にプレートをセットした。

 雅龍も同様、スタイランサーにマテリアプレートを装填。追従するようにザギークもボウガンモードのスタイランサーにプレートを入れた。

 

《フィニッシュコード!》

《パニッシュメントコード!》

 

「これで……一気に終わらせる!」

 

 アズールとリボルブが武器にマテリアフォンをかざし、雅龍とザギークの二人はそのままトリガーを引いた。

 

Alright(オーライ)! スーパーブルースカイ・サイクロンマテリアルスラッシュ!》

Alright(オーライ)! スーパーデュエル・バーニングマテリアルカノン!》

Oh YES(オゥ・イエス)! ウォーゾーン・マテリアルスティング!》

Oh YES(オゥ・イエス)! フォレスト・マテリアルシュート!》

 

 嵐の中で駆け巡る斬撃が、巨大な爆炎の弾丸が、極熱を放つ輝く一突きが、無数に乱れ飛ぶ矢が、その場にいたデジブレインたちに襲いかかる。

 強大な一撃に全てのベーシック・デジブレインが消滅、ゲートの主であるパイドパイパーも光の壁で防ぐものの、受け止めきれずにその場で跪いた。

 この機を逃してはならない。そう悟って、雅龍はさらに「今だ!」と叫んでマテリアパッドのPunishの文字が入ったアイコン、『パニッシュメントアイコン』をタッチした。ザギークも同じく、そのアイコンを押す。

 

《パニッシュメントコード!》

 

 その音声が流れると、今度は明滅しているマテリアルセンサーに指で触れる。そして二人同時に跳躍し、緑と黄のエネルギーを纏う脚を突き出した。

 

Oh YES(オゥ・イエス)! テクニカルウォーゾーン・マテリアルパニッシャー!》

Oh YES(オゥ・イエス)! スピーディフォレスト・マテリアルパニッシャー!》

 

 二人が放つキックはパイドパイパー・デジブレインに見事命中し、爆発四散させる。これでゲートはその効力を失い、この場で新たにデジブレインが現れる事もなくなった。

 そして四人はそのままロックを取り囲み、退路を断つ。この機を逃さず、捕らえようというつもりなのだ。

 

「ヘイヘイヘーイ。オーディエンスよぉ、アンコールをご所望かい?」

 

 挑発的な笑みで、ロックが余裕たっぷりにそう言った。

 雅龍はスタイランサーを持ってジリジリと躙り寄り、ロックがどう動くのかを見定め、徐々に追い詰めていく。

 

「貴様を捕縛する」

「ンッン~、そいつは無理だなァー♪ 俺を待つファンがいるからなぁ」

「逃しはせん!」

 

 叫びながら雅龍が飛び込み、トリガーを引く。穂先から白いゲルが細長い有刺鉄線となって飛び出し、ロックの体に巻き付こうとする。

 だが、突如として三つの影がロックの前に飛来し、一瞬で鉄線を断ち切ってロックを回収、四人の仮面ライダーから距離を取る。

 

「何っ!?」

 

 リボルブが目を見張る。その三つの敵影の正体は、サメとトンボとゾウの姿のデジブレイン。しかも、ガンブライザーを腹に巻いている事から、元は人間であるようだ。

 その上、この三体は正確な動作でロックを救出した。今までにない事例だ。

 

「焦るなよ。今日はただのリハーサルだ、本番はまだ先だぜ。アンコールはその時に取っておきな」

 

 三体のデジブレインに守られながら、ロックは左手のトランサイバーに「ゲート」と音声入力を行う。

 彼らの頭上の空間が歪み、ロックたちはその場から姿を消すのであった。

 

「クッ……おのれ、逃げ足の早い」

「しょーがないっしょー。ってか、ウチもそろそろ疲れたー。帰ってゲームとネットサーフィンしたーい」

「仕事が先だ」

「えええぇぇぇー、殺生でゴザルなぁー」

 

 妙な語尾を付け足してぶーぶーと文句を垂れながら、ザギークは変身を解除。雅龍も同じタイミングで変身を解く。

 それに追従するように、アズールとリボルブも変身解除する。四人の仮面ライダーが、素顔で対面する形となった。

 

「さて、ようやく落ち着いて話ができそうだな」

 

 今度は邪魔されずに、男の方が名乗る。

 その手に、警察手帳を掲げて。

 

「私は警察庁電脳特務課の課長、英 翠月(ハナブサ スイゲツ)。階級は警視だ」

「えぇっ!? あなたが宗さんの上司だったんですか!?」

 

 目を丸くする翔。

 それもそのはず、目の前にいる男は明らかに宗仁よりも若いのだ。恐らく鷹弘と大して変わらない、年上だとしても27か28歳ほどだろうという姿だ。

 鷹弘は隣に立つ翔に、彼について簡単な紹介をする。

 

「英警視はエリート中のエリートでな、電特課を立ち上げたのもこの人だ」

「そ、そうだったんですか」

「それよりも……そっちのあんたは一体誰なんだ?」

 

 言いながら、ボサボサ髪の女に胡散臭いものを見るような視線を向ける鷹弘。

 すると彼女は「ぎゃわーっ!」と言いながら、ふざけた調子で自分の顔を両手で覆った。

 

「いやーダメダメダメ、ピッカピカのイケメン三人に注目されたら陰キャのウチ死んじゃうよおー! よーやくゲッちゃんで慣れたのにさー!」

「は? 何言ってんだお前」

 

 ますます怪しむ鷹弘。新しいライダーシステムを作ったと言うので、当然といえば当然だ。

 翠月は大きく溜め息を吐いて、彼女のパーカーのフードをひょいっとつまみ上げた。

 

「ちゃんと自己紹介をしろ。給与下げるぞ」

「ヒェッ!? わ、わかったよおー」

 

 こほん、とわざとらしく咳払いしてから、女は胸を張って話し始める。

 

「ウチは羽塚野 浅黄(ハツカノ アサギ)、警察のスネをかじってお金貰ってるよ。よろしくねーん。キラリン」

「雇われてると言え……」

 

 片足を上げて妙な言葉とポーズを取る浅黄と名乗った女に、翠月は頭を抱えてまた溜め息を吐いた。

 それを聞いて、訝しんでいるのはやはり鷹弘だ。

 

「雇う? どういう事だ?」

「彼女はハッカーだ。と言っても、サイバー犯罪の脅威に対抗するために活動している、いわゆるホワイトハッカーだがな」

「……信用できんのか?」

「戦闘面は少し未熟な部分もあるが、ハッカーとしての手腕と頭脳は間違いなく本物だよ。私も最初は疑ったが、タブレットドライバーを完成させたのは彼女だ。あと彼女も君と同年代だぞ」

「へぇー……は!? アレで!?」

 

 素っ頓狂な声を上げて、鷹弘が言う。翠月も微妙な表情で頷いていた。外見は明らかに十代だが、年齢は自分と同じくらいだというのだから、無理もない話である。

 一方、翔の様子はいつもと変わらない。騒がしい浅黄に対しても、微笑みながら対応している。

 

「英さんと羽塚野さんですね。よろしくお願いします!」

「浅黄でいいのよ?」

「あ、じゃあ浅黄さん」

「んほほほおおお! かわいい美少年に名前呼ばれるのたまんねー、ぐへへへへ」

「面白い人だなぁ」

 

 じゅるりとヨダレを垂れ流す彼女を見て翔は朗らかに笑うが、鷹弘や翠月の方はげんなりしている。

 そして改めて、鷹弘と翔も自己紹介に移った。

 

「浅黄だったか……俺は静間 鷹弘。ホメオスタシスのリーダーだ」

「僕は天坂 翔です、よろしくお願いします!」

 

 名乗った後、翔は礼儀正しく頭を下げる。そして翠月が微笑んで右手を差し出すと、翔はそれに応じて握手する。

 

「君の事は師匠から聞いている」

「師匠、ですか?」

「肇先生だ」

 

 意外な人物の名が出て、翔はぎょっとする。

 

「父さんですか!? 知り合いなんですか!?」

「武術の師であり、尊敬する先輩だ……さて、話の続きは事後処理が終わってから、地下の方で頼む」

 

 手を離し、翠月が言う。鷹弘も同意し、こうしてその場は一度解散。

 事件の後始末を終え、一同はホメオスタシスの地下研究施設へと向かうのであった。

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