仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.17[激情のアリーナ]

「よう、戻ったか」

「待っていたぞ」

 

 翔たちがホメオスタシスの地下研究施設に戻って司令室に向かった時、そこには肇と鷲我がいた。

 

「あれ、父さんどうしたの?」

「師匠!」

 

 彼の姿を見るなり、翔と翠月はそれぞれ別々の反応を示して近づいていく。翔は不思議そうに見つめ、翠月は憧憬の眼差しを送っているのだ。

 肇はフッと笑い、腕を組んで背中を壁に預ける。

 

「街で騒ぎがあったって聞いて、こっちで見せてもらってたんだよ。翔も翠月も、やるじゃないか」

「光栄です、師匠!」

「師匠はやめろよ」

 

 目を輝かせ、翠月が礼儀正しく一礼する。

 その一方、翔は納得したように数回頷いていた。

 

「やっぱりあのライオン・デジブレインの映像の中にいた帽子の人は……」

「俺だな。あの時は、こいつらを連れてきたばかりだったんだ」

 

 それを聞いて、映像を見た事のある鷹弘もアシュリィも把握した。確かに背格好が同じで、特徴も一致しているのだ。

 そして映像の事を思い出した翔は、ふと疑問がひとつ湧いたので肇へとそれをぶつけてみる。

 

「そういえば、浅黄さんと父さんってどういう関係なの? 英さんとの仲は聞いてるけど」

 

 翔が、浅黄のいる方を振り向く。が、先程まで自分の後ろにいた彼女は姿を消していた。

 不思議に思って周囲を見ると、浅黄がこそこそとアシュリィの背後に忍び寄っているのが分かった。アシュリィは気づいていない。

 何をしているのだろう。翔がそう思っていると、浅黄はいきなり服の中に手を滑り込ませて彼女のたわわな胸を鷲掴みにし、揉みしだき始めた。

 

「きゃあああ!?」

「おほぉーっ、美少女の柔乳たまんねーっ! もちもちのプルプルで、ウチ一生触ってられるわこれ! 髪もめっちゃいい匂いするし! あーやべっ、最高ーっ!」

「ちょっと!? なんなのっ、ほんとにやめてよ……!!」

 

 アシュリィはじたばたと、後ろから胸をまさぐってくる浅黄に必死で抵抗する。

 だがそれでも浅黄は手を止めず、むしろ彼女の声色に一層興奮した様子で、息遣いを荒くしている。

 

「ええやないのええやないの、触るだけ触るだけ。ぐへへ、タイピングとブラインドタッチで鍛えたウチの手捌きを――」

「何をしとるか貴様は」

「グヘッ!?」

 

 ガツンッ、と頭頂部に重い衝撃を受け、浅黄は思わず手を放して頭を抑えた。

 額に青筋を立てた翠月が、殴りつけたのだ。浅黄は涙目になって、抗議するように彼の顔を見上げる。

 その隙に、アシュリィはサッと翔の後ろにピッタリと張り付き隠れた。

 

「痛いじゃんかゲッちゃん……ぴえん」

「やかましい。これ以上続けるつもりなら手錠をかけるぞ」

「えっ、もしかしてそういうのがお好みなのゲッちゃん? やば……そんな事されたらウチ天才ハッカーMになっちゃう……」

「手錠代わりにもう一発ゲンコツが欲しいようだな」

「わーごめんごめんごめん! ウチが悪かったですー!」

 

 悲鳴を上げ、観念したように浅黄は翠月に縋り付く。

 アシュリィにも謝罪するものの、アシュリィはまるで威嚇する猫のような声を出しており、すっかり警戒してしまっていた。

 翔は苦笑いしてアシュリィをなだめつつ、再び浅黄に問いかける。

 

「それで、父とはどういう関係で?」

「なんつーかね……依頼人? あ、ウチの方がね。ちょっと人探しててさ」

「人探し、ですか?」

 

 意外そうに翔が言う。肇は探偵なので確かにそういう依頼も受け付けているが、ハッカーの彼女が探している人物とは一体何者だというのか。

 そんな風に思案していると、当事者である肇から「順を追って話す」という言葉が飛び出した。

 

「まず、俺は二つ依頼を受けていた。一つは各国政府の情報機関が十年以上追い続けている『ある世界的な犯罪者の捜索』、もう一つは翠月から『タブレットドライバーを完成させるのに必要な人材の捜索』。その過程で偶然出会ったのが、こいつだ」

「ある犯罪者……?」

 

 肇と翠月が頷き、その人物についての詳細を語り始めた。

 

「その女は様々な国を渡り歩き、訪れた地を破滅に導く……ある時は卓越したスパイ技術とハッキング能力で国家の機密情報を盗み取り、またある時はトップに取り入って腐敗させ、時に国家と国民の対立感情を煽って暴動を引き起こし、逃亡する。そして決して捕まらない。姿を知る者はいないが、確かに存在している史上最悪の犯罪者」

「そいつは複数のコードネームで呼ばれている。妲己、リリス、カルメン、そして……ハーロット」

 

 翠月の告げた最後の名前に、全員が驚愕した。

 ハーロット。度々Cytuberたちが口にしていた名前、進駒曰くCytuberの中でもリーダー格だという人物。それと一致しているのだ。

 デジブレインを強化する技術を持ち、今日出会ったロックにはデジブレインの内蔵データを活性化する機能を持つギターを与えていた。

 肇は帽子の鍔を指で摘みながら、話を続ける。

 

「中国の情報機関にハッキングの形跡を見つけた俺と翠月は、すぐにその犯人を追った。が……結果は空振りで、こいつの仕業だったってワケだ」

 

 肇は未だに翠月の腕に抱きついている浅黄を引っ張って前に出し、そう言った。

 彼女は先程までとは打って変わって真剣な顔つきをしている。

 

「ウチもハーロットを追ってるんだ。だけど一人じゃ限界を感じてたから、わざと痕跡を残して、それを見つけ出して追跡できる力を持つ人間を待った。それが肇とゲッちゃん」

「そして、こいつはドライバーを作る知能と技術がある天才だ。だから俺たちは協力を求めた」

 

 そう言って翠月は浅黄の頭に手を乗せる。しかし浅黄は唇を尖らせ、涙目で翠月の顔を見上げた。

 

「それ、分かってるならウチの頭をもっと大事して欲しいんですけど~……?」

「安心しろ、丁寧に加減した。これからも加減してやる」

「わぁい! ちっとも安心できないや!」

 

 ヤケクソになって笑いながら、浅黄は庇護を求めるように翔の方に駆け寄るが、アシュリィが威嚇してそれを許さなかった。

 翔は苦笑し「まぁまぁ」とアシュリィを落ち着かせる。そして、彼らの話を聞いて納得すると同時に、もうひとつの疑問を口に出した。

 

「思ったんですけど、ハーロットはいつCytuberになったんでしょう? そもそもCytuberはいつから存在するんでしょうか」

「さぁな、それは俺にも分からん……少なくとも機関はデジブレインが現れる前からヤツを追っていたようだな。その辺りの事も、栄 進駒が喋ってくれればいいんだが」

 

 肇が帽子を被り直しながらそう言った、その時だった。

 

「申し訳ありませんが、ボクもあまり詳しくないんですよ」

 

 そんな声が聞こえると同時に、手錠をかけられた進駒が室内に現れた。

 

「進駒くん! 平気なの?」

「ええ。丁度良く人が集まってるようですし、色々と話をするべきでしょう」

 

 椅子に腰掛け、進駒はこの場に揃った一面を、特に四人の仮面ライダーたちを見つめた。

 

「ボクらCytuberが666人いて、その中でも上位の七人は特別な存在だという事は既にご存知だと思います。ですが、それでも重要な情報は秘匿されます。特に、各Cytuberの現実での姿や名前などはスペルビアと本人以外誰も知り得ません。サイバーノーツとしての姿も全員とまでは……」

「そっか……じゃあハーロットの正体も不明のまま、かな」

「コードネームくらいなら一通り。あなた方がまだ会敵していない一位の淫蕩のハーロットを始め、残りは二位の貪食のプレデター、三位の大欲のノーブル、四位の懈怠のデカダンス……この中でも特に強大な権限を持つCytuberは、最上位三人のハーロットとプレデターとノーブル。ただ戦闘能力が一番高いのは、恐らくプレデターです。ひょっとしたら彼が最強かも知れない」

「どうして分かるの? 戦う姿は見た事ないんじゃ?」

 

 翔が問うと、進駒はカチャリと手錠の鎖の音を鳴らして彼の顔を見上げる。

 

「皆さん、ボクが前に天才軍略家を名乗っていたのは覚えてますよね? それと同じで、Cytuberにはそれぞれ自負しているものがあるんです。そしてトップスリーはその中でも最強と呼べる域に達している……プレデターの場合は、武術の達人。つまりは最強の『武力』の持ち主なんです」

「なるほどな。しかもCytuberの二位ともなれば、それは確かに手練れていそうだ」

 

 腕を組み目を細めながらそう言ったのは、翠月だ。どこか楽しそうに唇を釣り上げている。

 続いて琴奈が、しゃがんで進駒と目線を合わせながら「他のCytuberはどんな人なの?」と訊ねた。

 

「うぅん、羨望のヴァンガードについてはご存知でしょうし……そうですね、ノーブルについてお話しましょう。どの程度の戦闘能力の持ち主なのかはボクも知りませんが、彼はとてつもない『財力』を抱えていて、それを使って私兵をCytuberとして配下にしているんです」

「私兵?」

「ええ。ガンブライザーを持つ戦闘部隊や、人間世界への密偵、それから技術開発班……実のところ、666人の内のおよそ半数以上がノーブルの配下と思われます」

「って事は、300人以上!?」

「恐らくですが。それと彼の戦闘部隊の内、お気に入りの部下は彼や他の上位Cytuberの警護に当たる事があります。ボクも一度見た事があるんですが、サメ・トンボ・ゾウのマテリアプレートを所持していました」

 

 話を聞いていた翔たちは、ハッと目を見張った。

 今日、ロックを守護していた者たち。彼らがそうだったのだ。

 ノーブル直属の部下であるという話から、強敵である事は間違いない。現に、仮面ライダーたちを見事振り切り、ロックと共に逃亡せしめたのだから。

 

「デカダンスについてはよく分かりません。戦う事そのものを面倒臭がっているんですが、スペルビア曰く『彼女だけで街一つ簡単に落とせる』そうです」

「本人にやる気がないのが救いね……」

「ロックもいまいち……なんというか、当時はよく話していたんですがふざけた言葉遣いばかりが目立ちますね。それだけ自分の正体を知られるのを嫌っているのかも知れません」

 

 言った後で、進駒は顎に手を添えて考え込みながら「そういえば」と続ける。

 

「彼、ボクやデカダンスやハーロットとは話す事が多かったんですけど、他のメンバーとはあまり会話しているところを見た事がないんですよね……」

「どういうこと?」

 

 陽子が訊ねるものの、進駒にも理由は分からないようで、首を横に振った。

 何か共通点があるのか。一体どんな意味があるのか。全員考えてはみたものの、結論は出なかった。

 そして話題を切り替えるように、鷹弘が口を開く。

 

「Cytuberとしての姿や言動から、元がどんなヤツか推量できねェのか?」

「難しいですね。例えばプレデターは六十代の老人に見えるんですが、知っての通りトランサイバーには所有者の姿を書き換える機能があるので実際には何者なのやら……ハーロットなんて兎のぬいぐるみなんですよ」

「チッ、尻尾を掴ませないつもりかよ。かなり徹底してやがるな、クソ女め」

「彼女が何を自負しているのかも、ボクには分かりません。ただ……恐らく最強と思われるプレデターを差し置いてリーダーに抜擢される人です。絶対に侮ってはいけません」

「なんだよ、天才を名乗ってた割には随分弱気じゃねェか」

 

 肩を竦めて鷹弘が言うと、進駒は眉根を寄せて慄きながら、頷いた。

 その姿に、翔と翠月・浅黄・肇を除く一同は大いに面食らった。彼らは、ストライプの頃の強気な進駒しか知らないからだ。

 

「あなたの言った通り、当時のボクは天才と思い上がっていました。でも、その頃のボクでさえ……ぬいぐるみにしか見えない彼女にどういうワケか一目置いてしまっていたんです、自分でも気付かない内に。それが本当に恐い」

「……」

「彼女には、プレデターともノーブルとも他の誰とも違う……もっと恐ろしい『何か』があるんです。ボクにはそう思えてならない」

 

 誰かが息を呑む音も聞き取れるほど、一瞬だけその場に沈黙が訪れた。

 その静寂を破ったのは、肇だ。

 

「……俺からも少しだけ、話しておきたい事がある。恐らくCytuberとも関係がある話だ」

 

 声色をより真剣なものに変えて、肇は言った。翔と翠月は思わず身構え、姿勢を正した。

 

「五年くらい前だったか……響に探偵として依頼された事があってな。結果が分かったら、折を見てお前にも話しておいて欲しいと言われた。お前が望むなら、だが」

「えっと、話が見えないんだけど……なんのこと?」

「お前らの両親の話だ」

 

 翔が目を剥き、アシュリィや鷹弘たちも顔を強張らせる。

 元々翔と響は両親に捨てられ、天坂 肇に引き取られた身だ。二人とも親が誰で何者なのか、どこにいるのかさえ覚えていない。

 翔は別段それを気にしているワケではなかったが、響は違ったのだ。まさか密かに依頼していたなどと、翔には予想外だった。

 

「お前ももう16歳だ、もう話しても大丈夫な年頃だと思ったんだが……とはいえ残酷な事実に変わりはない。聞くつもりはあるか?」

「うん……大丈夫。聞かせて欲しい」

 

 深呼吸をしてから意を決して頷き、翔が肇に促した。

 肇は頷き、「まずは母親の事だ」と前置きしてゆっくりと調査内容を語り始める。

 

「結果から言うと、お前たちの母親は既に死んでいた」

「え……」

「始めに俺は、お前たちを養護施設に預けた人間を探した。だがそいつは母親に雇われていた家政婦……中々口を割らなかったが、勤めていたその母親の家だけは教えてくれたよ」

 

 腕を組んで、一呼吸置いてから肇は再び話し始める。

 

「母親はそれなりに育ちの良い……まぁ、いわば名家のお嬢様だな。Z.E.U.Sほどじゃないが、大企業の娘ってヤツだ。行く行くは結婚もするつもりだったんだろう」

「つもりだったんだろうって、なんか妙な言い回しじゃん。どゆこと?」

 

 浅黄に指摘されると、肇は頷いて事情を詳しく説明する。

 

「近辺の住民は口を割らないから、別のルートで聞いたんだが……お前の父親と母親はどうにも恋愛関係にあったらしい。と言っても当時の彼女はまだ18歳……お前らとほとんど変わらない年齢だったそうだが。ある時、彼女はその男との間に子を身籠った」

「えっ!?」

「以来、彼女は家の外に出なくなった。だが虐待があったとか、そういうワケでもないらしい。どうやら子供の世話をしていたようでな……ほどなくして二人目の子も身籠った」

「それが、僕……」

「そうなる。だが、ここから急に雲行きが怪しくなった」

 

 肇が眉をしかめて言う。なんとなく、翔はその場の空気も変わった気がした。

 否、変わったのは自分の方だ。知らず知らずの内に、心臓の鼓動が大きくなっている。

 

「どういうワケか、彼女は子供を連れて家を出たんだ。追い出されたのか、それとも自分から出て行ったのか……どういう事情があったのか、そこまでは分からなかったが、ともかく二人の関係は破局した」

「……彼女はその後どうなったの?」

「死んじまったよ。遺書も何もなしに、な」

 

 それを聞いて、翔は沈痛な面持ちになる。

 顔も知らないとはいえ、翔にとっては血の繋がった母親なのだ。悲しく感じないはずがなかった。

 周りにいる鷹弘らも、何とも言えない複雑な表情で話を聞いていた。

 

「だが、この件には不可解な点がある」

「不可解?」

「まずひとつ。この男が何者なのか、その情報があまりにも少ない、というか全く手に入らないところだ。関係者から周辺住民の口封じ、家宅には男に繋がる書類等の証拠も……念入りに隠滅されている」

「ちょ、ちょっと待ってよ。そんな大規模な情報封鎖なんてできるの!?」

「普通なら不可能だ。余程の権力や財力、表沙汰にできないような手段を持たない限り」

 

 翔がハッと目を見開く。肇は、その手段こそがCytuberやデジブレインの能力だと睨んでいるのだ。

 さらにそれは、自身に繋がる全ての痕跡を隠匿できるほどの力を持った大人物が、幼い頃に身近で存在していたという事実を意味する。

 そして響は、それを知って何を思ったのだろうか。

 

「もうひとつ。母親が何故お前たちを預け、先に死んだのか。そもそも死因は何だ? 病気? それとも自害? 他殺か? それさえ伏せられている」

「その警察の情報すら操作してるんだとしたら……!」

「もしもその通りなら、ヤツを見つける事は不可能に近い。それでも、響は諦めていないようだったがな」

 

 肇は目を閉じ、深刻な面持ちでそう言った。

 

「あいつは自分の両親をずっと探している、憎んですらいるだろうな。でなきゃここまで執着しない」

「今更そんな人を見つけてどうするつもりなんだろう」

「さぁな……それは、いなくなった響を見つけて、改めて聞き出せば良い事だ。案外、あいつ自身もどうして良いのか分かってないかも知れないしな」

 

 そして肇はその話を驚いた様子で聞いていた進駒に視線を移し、彼に問いかける。

 

「ここまでの話を聞いて、その父親について思い当たる人物はいないか? 俺は君の言ったノーブルが怪しいんじゃないかと思うんだが」

「……ごめんなさい、分かりません。見た目は三十代くらいでしたけど、当てにはできないですし」

 

 肇は「そうか」と呟いて、それ以上の質問を打ち切った。

 これで、肇からの話は終わった。

 翔についてあまりにも衝撃的な事実を耳にして、またしばらく静まり返ってしまったが、今度は進駒が沈黙を打ち破った。

 

「ひとつだけ。皆さんの役に立てるかも知れない情報があります」

「それって?」

「ロックの領地、その本拠地の座標です」

 

 全員が一斉に進駒へと視線を注ぐ。すると進駒は鷹弘と翠月から許可をもらい、部屋のPCを借りて説明を始める。

 

「既にご存知の方もいると思いますが、サイバー・ラインは別々に見えてもひとつに繋がった世界だ。だからボクの管理してた領地からロックの領地に移動する事もできる……実際に、何度か立ち寄った事もありますからね。今からこのPCを通して、皆さんのN-フォンやマテリアフォンに領地に直接繋がるゲートを転送しておきます」

「ほー……それで、本拠地の名前ってのは?」

「激情のアリーナ。確か、そう言っていました」

 

 カタカタとキーボードを鳴らして、進駒はゲートの座標を打ち込み、それをホメオスタシスと電特課の面々のマテリアフォン及びN-フォンへと転送した。

 翔が確認すると、ゲートに新たな地点の名前が加わっている。これで、向こう側にいつでも攻め込む事ができるというワケだ。

 浅黄は、マテリアパッドでそれを興味津々に見つつ、進駒をじっと見つめる。

 

「これで激情のアリーナ付近の地点まで移動できます。ただデジブレインも徘徊しているので、見つからないように注意して下さいね」

「おほー、すごいね少年。ご褒美としてウチにチューしていいぞぉ?」

「えっ、お断りします」

「照れなくて良いよ、どこでも好きなトコにカモン!」

「なんですかこの人……」

「そっちが来ないならこっちから……あっ、ウソですごめんなさい」

 

 翠月が瓦割りをするように拳で素振りしているのを見ると、浅黄はあっさりと引き下がった。

 そして、二人のやり取りを呆れたように見つめていた鷹弘は「とにかくだ」と、マテリアフォンをグッと握った。

 

「これで今回はこっちから攻められる。後手に回んのはもう終わりだ、あのロックとかいう野郎の世界をブッ潰しに行くぞ」

「はい! 彼も進駒くんと同じなら……絶対に助けなきゃいけないですからね!」

 

 そう言って微笑み合う翔と鷹弘。だが、その二人に対して翠月は右手を挙げてある提案を投げかける。

 

「すまないが、私は現実世界に残っても良いだろうか」

「えっ、どうしてですか?」

「全員で向かえばこの街が手薄になる。先日のライオン・デジブレインの一件もある以上、油断はできない。誰かが残って警護に回るべきだ」

「あ、なるほど……」

「代わりに浅黄は連れて行って構わない」

 

 翠月の言葉を聞いて、浅黄は真っ先にぎょっと目を剥いた。

 

「ゲッちゃぁん!? ウチと離れ離れになっちゃうよ!?」

「お前の能力を評価しての事だ、ここに残るより向こうの調査に回った方が良いだろう」

「むうー……分かったよー」

 

 また唇を尖らせながらも、浅黄は渋々これに従う。鷹弘も承諾し、これで方針が決まった。

 今回の戦いでは、チームを二つに分ける。ロックの領域を陥落させるための侵攻チーム、帝久乃市を護る防衛チームだ。

 侵攻チームには翔・鷹弘・浅黄とホメオスタシスの戦闘部隊が半数、そこに調査員としてアシュリィ・鋼作・琴奈が加わる。

 防衛チームには翠月と指揮役の宗仁を中心とした電脳特務課の特殊武装警官隊と、ホメオスタシスの残る半数が動員され、そこには陽子も入っている。

 かくして、『激情のアリーナ』侵攻作戦は開始されるのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 作戦が始まり、侵攻チームはゲートを通ってロックの領域に到達した。

 サイバー・ラインの空は相変わらずドス黒く濁った色をしており、初めてこの場所に訪れた浅黄も眉をしかめている。

 ロックの拠点は、かつて進駒の領域だった中世ヨーロッパ風の領域に比べ、非常に現代的でほとんど帝久乃市と同じだった。高層ビルや住宅家屋、商業施設に繁華街が立ち並んでいる。街灯さえも再現されていた。

 微妙な熱気が街中を覆っており、人の気配は全くない。サイバー・ラインの中である以上、人がいないのも当然といえば当然なのだが。

 この街に来てから、ホメオスタシスの面々は浮かない顔をしていた。言葉では言い表せない、妙な違和感があるのだ。

 ともかく、次回以降も安全に攻め入るため、この場に拠点を組み立てる事になった。

 

「少し気になったんですけど」

 

 機材を運んでいる時、不意に翔が浅黄へとそう言った。浅黄は首を傾げ、翔の方を向く。

 

「浅黄さんはどうしてハーロットを追っているんですか?」

「あー……やっぱ気になる? 年頃的に気になっちゃうか?」

「歳は関係ないと思いますけど、気になります」

 

 バツが悪そうに頭をポリポリと掻いて、浅黄は「そっかぁ」と言った。

 口調は少しばかりふざけているが、真剣な顔つきだ。作戦開始前といい、彼女はハーロットに関する事を話す時は真面目になるようだ、と翔は思った。

 

「まぁ、ぶっちゃけるとハーロットはウチの姉貴なんだ」

「へー……。……ええええええっ!?」

 

 その言葉には、翔だけでなく近くにいた鋼作や琴奈、アシュリィも面食らっていた。鷹弘も唖然としている。

 すると浅黄は慌てた様子で、話を続ける。

 

「いや、姉貴って言ってもそこまで近い間柄じゃないんだけどさ。腹違いの姉妹だし」

「……どういう事です?」

「ウチと姉貴、それから他の姉妹たちは、生まれた時から名前も知らない諜報機関でスパイ活動の英才教育を施されてきた『チルドレン』なんだよ。姉貴はその中でもエリート中のエリート、ハーロットってコードネームもその頃からだね」

 

 全く自分とは馴染みのない世界の話を聞いて、翔は硬直していた。が、鷹弘から声をかけられて再び機材を運びながら、彼女の話に耳を傾ける。

 浅黄も、準備を続けながら続きを話してくれる。

 

「でもウチは組織を抜けた。向こうで培ったハッキング技術を利用して、逃げ出したんだ。ウチと同じように組織を嫌ってた子たちと一緒にね」

「その、どうして組織を脱走したんですか?」

「……そうさねぇ」

 

 ドス黒い空を見上げ、浅黄は表情を引き締める。

 

「自由になりたかったんだよ、ウチ」

「自由……?」

「そ。ちゃんとした自分の名前すら貰えないで、どこの誰かも知らないヤツらの情報をハッキングして抜き出したり、人を騙したり……中には好きでもない男に毎晩抱かれるようなやり方をさせられる子もいたねぇ。そんな毎日が、なんか嫌になっちゃってさ」

「……」

「でもね。組織を抜け出す事を提案したの、実は姉貴……ハーロットなんだ」

「え!?」

 

 浅黄の口から飛び出す事実に、翔は驚くばかりだった。

 彼女は空に向かって手を伸ばし、グッと強く握り拳を作る。

 

「姉貴のお陰でウチは自由と、名前も手に入れた。だからこそウチは確かめたいんだよ。姉貴が何を考えてるのか、何をするつもりでCytuberになったのか」

「お姉さんの事、好きなんですね」

「まぁ、ウチの恩人だからねー。姉貴って言っても結構年の差あるけどさ」

 

 にひひ、と浅黄は無邪気な笑顔を見せる。それを見て、翔も思わず微笑んだ。

 そんな二人の元へ、搬入した機材の設置を完了させた鷹弘が歩いて来る。

 

「お前ら、話はそこまでにしとけ。そろそろ行くぞ」

「はい!」

 

 こうして、鷹弘の合図でホメオスタシスの一団は調査に乗り出す事となった。

 調査に向かうのは、翔・鷹弘・浅黄の仮面ライダー三人と、アシュリィだ。多数で侵入するとなるとどうしても目立ってしまい、また能力からして戦闘部隊ではベーシック・デジブレインを相手にするのが限界であるため、このように少数精鋭で戦う形式となった。

 鋼作と琴奈を含む非戦闘員たちの大多数は拠点に残り、仮面ライダー三人のサポートを行う。警備のため、戦闘部隊の隊員もここに残る事になる。

 さらに、今回は琴奈から新しいサポートメカが届いている。角がアンテナのようになっている丸い羊型のレーダー探知機、その名も『レドームートン』だ。

 これ一体で周辺の大まかな地図が作成可能であり、探索を続けてデータを得られれば詳細なマッピングも可能となるという。フォトビートルとドルフィンタイマーと共に、これはアシュリィが管理する事になった。

 

「それにしても、なんというか……変な感じがしますね」

「ん? そりゃ、人がいねェからな」

「うーん、そうじゃなくて……あっ!」

 

 先頭を歩く翔が突然に声を上げたので、鷹弘は咄嗟にマテリアガンを手に取る。

 

「なんだ、敵か!?」

「い、いえ! 見て下さい、あの店!」

 

 言われて訝しみながらも、鷹弘は翔が指で差している店の中に目を凝らす。

 そこはCDショップで、あのロックが歌う曲のCDやポスターなどが敷き詰められていた。

 別にこの程度、サイバー・ラインなら特別おかしな話でもないだろう。鷹弘はそれを口に出そうとしたが、それはできなかった。

 その隣にある店が、また同じようなCDショップだからだ。さらにその隣はロックが使っているものと同じだという楽器の販売所で、向かい側も音楽関係の商品ばかり置いてある。他の店、例えば本屋やブティックなどは存在しないのだ。

 

「なんだこりゃ!? 音楽の事しか考えてねェのか!?」

「この妙な執着、何か不気味なものを感じます」

 

 歩きながら、翔と鷹弘はそんな会話を交わす。

 そんな翔の元に、風に吹かれてあるものが飛んできた。

 赤い色の一枚のチラシだ。風に舞って、彼の長い脚に引っかかる。翔は黙って、それを拾い上げた。

 

『全世界熱望! 激情のロック、アリーナ独占フェスティバル開催! ご来場可能者:女性とお子様なら誰でも。成人男性の来場お断り、見つけ次第警備員が射殺致しますのでご安心下さい』

 

 内容は概ねこのようなものだった。チラシの隅には、地図も記載されている。

 アシュリィは翔の手からそれをひょいっと摘みとって読むと、首を傾げた。

 

「なんか最後の方、妙に物騒な事が書かれてない?」

「どうして成人男性に限定してるんだろうね……? ともかく、このチラシは使えるよ」

 

 そう言って翔はチラシを再び手に取ると、レドームートンに地図の内容を読み込ませた。

 するとマテリアフォンやN-フォンなどに搭載された周辺の地図の情報が更新され、激情のアリーナまでの安全な移動ルートが表示される。

 

「よし、上手くいった!」

「でかしたぜ、お手柄じゃねェか。向こうの拠点に近づくほどデジブレインが湧きやすいだろう、このルートを使うぞ」

 

 鷹弘の指示に従い、翔たちはレドームートンの示したルートで移動を始める。デジブレインの数は然程多くなく、特に屋根の上などの警備は手薄だ。

 そうして、一度も敵と見つかる事も戦う事もなく、一行は無事アリーナの目前に辿り着くのであった。

 アリーナの入口には行列ができており、警備員の服を着たアサルトライフルを持つベーシック・デジブレインが列を整理している様子が遠目に見える。

 ちなみに入口に並んでいるのは人間でもデジブレインでもなく、それを模倣しただけのデータの塊、要はハリボテのようなものだ。動いたり歩いたり歓声を上げたりする事はできるが、デジブレインのような戦闘能力は一切ない。そしてチラシの内容通り、女子供ばかりだ。

 

「とりあえず到着しましたけど……ここからどうします? 成人男性は射殺するとの事でしたけど」

「俺らの場合、女子供なら無事って保証はねェからな。正面からはダメだ、裏口を探すぞ」

 

 全員が了解し、侵入ルートを探し始める。

 レドームートンの表示したマップによると、駐車場と出口がある。実際に赴くと車などは一台もなく、薄汚れたスカートなどの女性用の衣類・下着や化粧台などが散乱しているだけだ。

 警備員のデジブレインが十体ほどうろついており、監視カメラも設置されているため、ここからの侵入も容易ではない。

 

「こっちからじゃ無理か……しかしなんだこりゃ、駐車場っつーかゴミ捨て場じゃねェのか?」

 

 鷹弘が困惑した様子でそう言いながら、また別のルートを探す。

 次は自転車・バイクの駐輪場だ。付近に入口はあるが監視カメラが設置されており、別方向には地下に繋がる道があるものの、やはりそちらにもカメラが設置されている。

 しかし、デジブレインがいないため駐車場に比べると警備は手薄。問題は、カメラを避ける方法だ。

 

「壊すと侵入がバレるだろうな……結局どこから行っても騒ぎを起こす事になんのか?」

「いや、そーとも限んないよー?」

「あん?」

「むふふー、ウチが一緒で良かったね」

 

 そう言いながら、浅黄はマテリアパッドを取り出してキーボードのアイコンをタッチする。

 

《エディターツール!》

 

 その音声と同時に、浅黄の手元にキーボードが表示されたホログラフィックパネルが現れ、さらにパッドからUSBケーブルのようなものが伸びてレドームートンの尻に突き刺さる。

 鷹弘が何事かを問う前に、キーボードを一心不乱に打ち込み続け、最後にエンターキーを入力。その瞬間、レドームートンの全身から入口と地下への監視カメラに向けて電波が放たれた。

 それを確認して、浅黄はニィッと笑った。

 

「ハッキング完了。何もない映像がループし続けるから監視カメラはもう役に立たないよ」

「お前……すごいな。マジで天才なんじゃねェのか」

 

 この手際には鷹弘も翔も舌を巻いていた。アシュリィも、素直に感心している。

 一方褒められ慣れていないのか、浅黄は「にへへへ」と照れ笑いしていた。

 

「道は開いた、突入するぞ。警戒は忘れんなよ」

 

 鷹弘の合図で、四人は冷静かつ迅速に施設内に侵入する。そしてすぐに、施設の案内図を発見した。

 激情のアリーナは六階建てで、上空から見るとエレキギターの形をしているようだ。自分たちのいる地下駐輪場は、いわゆるヘッドからネックの位置で、メインアリーナはピックガードの位置にある。

 また、地下の駐車場・駐輪場からはエレベーターを使わなければ移動できず、一階にしか止まらないと記述されている。

 

「うーん、せっかく静かに侵入できたのに、これじゃすぐ見つかりそうですね」

「大丈夫だ、この程度なら問題ねェよ」

「え?」

「こいつを使う」

 

 そう言って鷹弘が見せたのは、Oracle Squad(オラクル・スクアッド)のアプリ。

 このアプリで変身し、遮断の能力を使えば、デジブレインたちの視界から消える事ができるというワケだ。

 

「って、だったら監視カメラもそれで避けれたんじゃ?」

「いいや。確かに潜入には持ってこいなんだが、効果時間は長くないからな。仕掛けられてる監視カメラの数が多い以上、長時間塞げる方が都合がいい」

「なるほど……」

 

 ここからは戦闘の可能性も高まるため、アシュリィ以外は全員変身して侵入する事となる。

 鷹弘はリボルブ オラクルリンカー、翔はアズール シノビリンカー、浅黄はザギーク スピーディチューンへとそれぞれ変身して、静かに行動を開始する。

 案の定、一階は警備員がうろついている。そして、入口で並んでいたはずの客の姿はない。既に会場に向かったのだろうとアズールたちは結論づけた。

 そしてリボルブの狙い通り、オラクルリンカーの遮断によって警備員たちの視界から消失した彼らは容易くステージに続く廊下まで辿り着く。ここまで来ると、警備員たちの目を避ける事は難しくなる。

 

「……一気に仕掛けるぞ」

 

 物影に潜んでいるリボルブがそう言って、アズールとザギークも頷く。アシュリィはそのまま、壁を背にして隠れた。

 そして三人の仮面ライダーは一斉に飛び込み、警備員のデジブレインたちに襲いかかる。

 

「ジジッ!?」

 

 警備員たちは驚いてアサルトライフルを構えるが、反応が遅れた。その一瞬の隙を、スピード特化形態となっているこの三人が見逃すはずもない。

 リボルブはオラクルナイフでこの場から音を遮断しつつ、アズールは分身してアズールセイバーとシノビソードで敵の武器を全て破壊、さらにザギークがスタイランサー・ボウガンモードでデジブレインを一掃する。

 十数体といたベーシック・デジブレインは、ものの数秒で全滅した。

 

「よし、警報は鳴らされずに済んだな……」

 

 安全を確認し、先へと向かう一行。廊下を出て、ロックがいるであろうアリーナのステージへと突き進む。

 だが。アリーナには、ロックはおろか観客すらいなかった。

 もぬけの殻となっているステージに、翔たちは唖然としている。そんな四人の耳へと、拍手の音が飛び込んだ。

 

「誰だ!?」

 

 鷹弘が叫び、振り向くと、そこにはスーツ姿の男が二人と女が一人いた。

 男の片方は丸刈りに剃り込みを入れた髪型で、胸元を大きく開けている筋骨隆々の大男だ。

 一方、もうひとりの美男子は銀色の長髪でひょろりと線が細く、切れ長の目で翔たちを見下ろしている。拍手をしていたのはこの男だ。

 そしてその二人の後ろに立つ日に灼けた肌の女は、青いベリーショートの髪で鋭い目つきをしており、顔には袈裟に太い一本の傷がついている。全員若く、二十代のようだ。

 

「ククク、見事ですね。まさかここまで鮮やかに侵入するとは」

「だが残念だったな! ヤツを倒すために来たんだろうが、ロックのライブはまだ始まらんぞ!」

 

 がっはっはっと大男が笑い、細身の男が嘲笑する。

 リボルブは彼らを睨みつけて「何者だ」と問いかけ、リボルブラスターを構えた。

 すると二人は道を開け、青髪の女が前に出る。

 

「オレはCytuber十位の黒海 松波(クロウミ マツバ)……こっちの二人は十一位の曽根光 都竹(ソネミツ ツヅク)と十二位の大村 梅悟(オオムラ バイゴ)

「そんな連中が今更何の用だ」

「オマエらを始末し、愚かな人類の目を覚まさせる。それがオレたち、選ばれしハッカー『ヒュプノス』に与えられた任務だ」

 

 淡々と、松波と名乗った女が言い放った。それに応じて細身の男の都竹も、筋肉の塊のような梅悟も身構える。

 彼らの手には、ガンブライザーとCytube Dream(サイチューブ・ドリーム)のマテリアプレートが握られていた。

 

Cytube Dream(サイチューブ・ドリーム)……シャーク!》

《ダムセルフライ!》

《エレファント!》

 

 三人はマテリアプレートを起動し、ガンブライザーを装着。そしてマテリアプレートを装填し、内包されたデジブレインを自身の肉体に寄生させた。

 

《ハック・ゼム・オール!》

「オレを喰え……喰って滾れ、"大欲"のコード!」

Goddamn(ガッデム)! マテリアライド!》

 

 三人は他のガンブライザーの被害者と異なり、苦悶の表情を一切見せない。

 むしろ、その顔は戦いへの歓喜に彩られていた。

 

《シャーク・デジブレイン! パラサイトコード、ダウンロード!》

《ダムセルフライ・デジブレイン! パラサイトコード、ダウンロード!》

《エレファント・デジブレイン! パラサイトコード、ダウンロード!》

 

 全身がザワザワとモザイクに埋め尽くされていき、姿が変わる。松波はサメに、都竹はトンボに、梅悟はゾウに。

 あの時ロックを守って逃走したデジブレインたちだ。それを理解して、リボルブの仮面の中の表情が強張った。

 しかも彼らは自分の意識を保ち、言葉さえ話せるようだ。

 

「驚いているようだな。オレたちはオマエらと同じく、改造手術を受けた身だ。その影響で、デジブレインに身を預けずとも戦えるようになったというワケだ」

「マジかよ……!」

 

 臨戦態勢の三人を見て、アズールとリボルブは迎撃のため、各々武器を構える。

 が、そこへザギークが「待った!」をかけた。

 

「こいつらの相手、ウチがやるよ。ハッカーと聞いちゃー黙ってらんないしねー」

「……いいんですか?」

「だいじょぶだいじょぶ、ウチを信じて。先行きなよ」

 

 ザギークはスタイランサーを操作してスピアーモードに切り替え、仮面の奥でニッと笑った。

 それを見てアズールとリボルブ、そしてアシュリィは頷き、走ってアリーナから出ていく。三人のデジブレインは追撃する事なく、彼らを見送った。

 

「……んで、あんたらハッカーなんだってぇ?」

「がっはっはっ、少し違うな! 我々はハッカーであり兵士! 力も知恵も兼ね備えているのだ!」

「その割にはアタマ足りてないんじゃない? 名乗ったのはまぁ本名じゃないんだろうけど、目を覚まさせるって抜かしてるのに組織の名前は眠りの神(ヒュプノス)だしさ」

 

 その発言を受けて、梅悟が変異したエレファント・デジブレインの額に青筋が立つ。

 ダムセルフライ・デジブレインとなった都竹はくつくつと笑い、ザギークを見下ろしている。

 

「三対一だというのに、随分と面白い冗談を吐けるんですねぇ。私が八つ裂きにして差し上げましょうか」

「都竹、梅悟……乗せられるな。仮面ライダーは侮れない」

「分かっていますよ、マイリーダー」

 

 ゆらり、とシャーク・デジブレインが腰を落とし、その手にデータの銛を射出する水中銃(ハープーンガン)を握る。ダムセルフライはダガーを二本、エレファントは重厚なガントレットだ。

 瞬きもせずに睨み合う両者。次の瞬間、ダムセルフライ・デジブレインが翅を振り、エレファント・デジブレインが大きく飛び上がる。

 

「がっはっはっはぁっ! このパンチで! ぶっっっっっ潰れろぉ!」

 

 真上から放たれる鉄拳が、アリーナ中央に深々と突き刺さり、クレーターを作る。

 スピーディチューンのザギークは、エレファントが飛んだ瞬間には既に回避行動に移っていたので、命中はしなかった。

 だがしかし、ダムセルフライはそのスピードに追いつき、ダガーを目にも留まらぬ速度で振っている。

 

「ヒハハハハハハ! 死ね、死ねぇ!」

「っと、やるねぇ……!」

 

 ザギークもスタイランサーで攻撃を防いでいるものの、圧倒的な手数の多さに困窮している。

 こちらの得物は長物なので、反撃も容易くはない。さらに、先程から観客席でシャーク・デジブレインが狙いを定めている。一瞬でも隙を見せれば、あの銛に射抜かれるだろう。

 だが、考え事をしている最中だった。

 

「むん!」

「うぇ!?」

 

 ダムセルフライの攻撃が突然止んだかと思うと、ザギークの体がひょいっと持ち上げられた。

 エレファント・デジブレインだ。ダムセルフライは、彼女をエレファントの方に誘導していたのだ。

 そして抱え上げられたザギークは、そのまま体を地面に思い切り投げられ、叩きつけられる。

 

「かはっ……!?」

 

 背中に衝撃を受け、ザギークはあまりの激痛に言葉を失う。

 だが、攻撃はまだ終わっていない。動きが止まった隙に、シャークが水中銃を発射したのだ。

 銛はまるで水中を泳ぐ魚のように飛び、立ち上がろうとしたザギークの脚に命中する。

 

「うああっ!」

「貰いましたねぇ! 斬り刻んでやりますよぉ、ヒハハハハッ!」

 

 ダムセルフライが飛び込み、ダガーを突き出す。

 しかし、その時には既にザギークも行動に移っていた。

 

《パワフルチューン!》

「チューンアーップ!」

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド! パワフル・チューンアップ!》

 

 ザギークの黒い装甲が外れ、ダムセルフライを吹き飛ばす。そして頭上から赤い装甲が出現し、合着した。

 しかし、他にも相手のデジブレインは二体いる。既にエレファントが、ダムセルフライの背後から迫っていた。

 

「むぅん!」

「ほいっ!」

 

 エレファントの右拳がザギークに襲いかかる。だが、ザギークはそれを片手で受け止めた。パワフルチューンは、パワータイプのデジブレインの攻撃すら防ぎ切るのだ。

 さらに槍の一突きが胴に命中し、エレファントを下がらせた。重厚な鎧のような体に、僅かだがキズがついている。

 

「ぬぅ、おのれ! この俺に手傷を負わせるとは!」

「ですがあの姿なら相応にスピードも低下するはず……有利なのは数の多いこちらの方ですねぇ」

「その通りだ。オレたちならコイツを狩れる、勝って必ずノーブル様のご期待に応えるぞ」

 

 三人のそんな会話を聞いていたザギークは、スタイランサーを肩で担ぎ、息をつく。

 

「あのさー。あんたらって、なんか目的があってCytuberになったワケ? 戦ってる途中で思い出したけど、ヒュプノスって確かテロリスト集団だよね」

 

 彼女の質問に対し、訝しみながらもシャークは淡々と、しかし毅然とした態度で返した。

 

「知れた事だ。ノーブル様の理想を実現させる、ただそのためだけに我々は存在する。あの方が我々に自由を与えて下さるのだ」

「ふーん……」

 

 面白くなさそうに槍を下ろして、ザギークは顔を上げる。

 

「うっし、分かった。ほんじゃあウチがお前らの目を覚まさせてやんよ」

「なに……?」

「ほんとの自由、ウチが教えてやる」

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