仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.19[怒りの律動(リズム)]

 ロックのいる楽屋の扉を開くため、駐車場の残骸からロックの記憶を閲覧していた翔たち。

 彼、いや彼女の真相に辿り着いた時、四人の前にロックが現れ、サイバーノーツ・フュアローミュージシャンへと変貌した。

 

「待って、律さん! 僕は君と戦いたいワケじゃ……」

「話してる場合じゃねェ、変身するぞ翔! あいつマジで俺たちをやる気だ!」

《デュエル・フロンティアV2!》

 

 言うが速いか、鷹弘はアプリドライバーを呼び出してマテリアプレートを起動。

 手に取っているのは、デュエル・フロンティアV2。最初から全力だ。

 さらに浅黄もタブレットドライバーを装着、フォレスト・バーグラーのスイッチを押す。

 

「アッシュちゃんは下がってて~、ウチも気合い入れて行くからさ!」

 

 それを聞いてアシュリィは後ろに下がりつつ、フォトビートルを飛ばして状況を観察する。

 

「浅黄、行きまーす!」

《フォレスト・バーグラー!》

「……やるしかないのか!?」

《ブルースカイ・アドベンチャーV2!》

 

 そして三人で一斉にドライバーへとアプリを装填し、変身に移った。

 

《蒼天の大英雄、インストール!》

《最速のガンスリンガー、インストール!》

《義賊の一矢、アクセス!》

 

 変身が完了したアズールとリボルブとザギーク テクニカルチューンは、各々武器を構えてフュアローへと立ち向かう。

 が、先手を打ったのはフュアローだ。

 

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

「まずはイントロだァ!!」

 

 トランサイバーのボタンを押し込んだ後、マイクスタンドを地面に突き刺して、フュアローはギターで演奏を始めた。

 すると、彼女の周囲に音符のマークが出現し、それらがマイクスタンドの前を横切ろうとする。

 彼女は足でタンッタンッとリズムを取りながら、マイクスタンドと音符が重なる瞬間に演奏している。

 

「一体何を……?」

「何でもいい、今の内に倒すぞ!」

 

 リボルブが叫んで飛びかかろうとするが、そこへザギークが静止をかけた。

 

「なんか暑くない?」

「何?」

「ウチの気のせい……? ……いや熱っ! 熱い熱い熱いあっつー!?」

 

 叫び、その場で脚をバタつかせるザギーク。見れば、彼女の背中には炎が上がっていた。

 さらに、同様の変調がアズールにも見られる。現状で無事なのは、炎を操る能力を持つ故に耐性があるリボルブだけだ。

 

「どういう事だ!?」

 

 そう言ってリボルブがフュアローを見る。彼女は、ただひたすらに演奏しているだけだ。

 しかし、視覚が強化されているリボルブだけは気付く事ができた。その場で何が起きているのかを。

 まず、フュアローの両肩に備え付けられたスピーカー。これはファーストコードの発動と同時に、周囲へと微細な音符型の因子を撒き散らしているのだ。

 そして、彼女が持つエレキギター。これは単に演奏をしているワケではなく、弦を弾いて音が発せられた瞬間、その特殊な音波を受け取る事で因子が物質に分子振動を起こさせ、時に発火さえ行うのだ。

 これこそがフュアローミュージシャンの能力。つまりは、熱の操作だ。

 

「あのギターが原因だ! アレで熱を上昇させてやがる!」

「だとしたら急いで演奏を止めましょう! 熱の上昇には制限がない、長引くと不利なのはこっちの方です!」

「任せろ!」

 

 言うが速いか、リボルブはフュアローの顔に向けて銃弾を撃ち込む。得意の速撃ちだ。

 だが、そのデータの弾丸が彼女を捉える事はなかった。

 彼女が素早くギターを掻き鳴らすと、銃弾がフュアローに近づいた瞬間、熱によって溶けて爆ぜてしまったのだ。

 

「なっ!?」

「まさか、フュアローに近付けば近付くほど熱が大きくなるのか……!」

「太陽か何かかよ!」

「でも、そうだとしたら演奏している彼女自身もただでは済まないんじゃ!?」

 

 アズールの懸念通り、フュアローは滝のような汗を流している。全身から湯気を吹き出し、息を荒くしている。

 それでもなお、演奏を続け、ステップを踏んでリズムを取っていた。

 そして曲が終わったその瞬間。トランサイバーに手を伸ばし、ボタンに指で触れる。

 

Roger(ラジャー)! フォースコード、オン!》

 

 音声と共に、フュアローのマスクの口部についたチャックが開き、彼女は大きく息を吸い込む。

 すると、先程までの暑さが嘘だったかのように、急激に温度が低下した。より正確には、上昇していたはずの気温やアズールたちの体温が元の状態に戻ったのだ。

 しかも散布されていた熱を放出する音符も、今は完全に取り除かれている。

 

「なんだ……? 一体、何をしたんだ?」

「何でも良いだろ! 今がチャンスだ!」

《バーニングモード!》

 

 リボルブラスターを合体させ、リボルブが真っ直ぐに突撃する。

 相手の出方が分からない今、一見これは無謀な行動のように思えるが、炎や熱に耐性のあるリボルブならばある程度対処もできる。

 それに何をするか分からないからこそ、派手に動いて陽動し、手を出させる事も時には必要なのだ。アズールとザギークも、リボルブに合わせて援護の態勢に移っている。

 

「喰らいやがれ!」

 

 リボルブラスター・バーニングモードで銃撃して動きを阻害し、トランサイバーに触らせない。

 再び先程のファーストコードを発動され演奏状態になれば、また身動きが取れなくなってしまう。そうなる前に、一気に片を付ける算段なのだ。

 妨害は現在成功している。しかし、それだけにアズールは妙な予感がしていた。

 今までのサイバーノーツと同様に彼女も様々な能力を扱えるはずだが、なぜこれほどまでに無抵抗になっているのか? なぜ攻撃の手を緩め、反撃の態勢にさえなっていないのか?

 その疑問は、すぐに解けた。フュアローの両肩のスピーカーが、まるで大きな熱でも帯びているかのように赤く染まっているからだ。

 

「静間さん、避けて!!」

 

 言われる直前に、リボルブも気付いた。

 フュアローの先程の行動は、ただ熱を吸い込んでリセットするだけのものではない。

 自分の体内に膨大な熱を溜め込み、吐き出そうとしていたのだ。

 

「こいつがサビだ、消し飛べ……メルティックシャウトォォォッ!!」

 

 募り、湧き上がった怒りを解き放つかのように。

 フュアローは、口腔とスピーカーから燃え盛る炎の吐息を放出した。それと同時に、彼女の叫び声による振動によって、地面が火を噴いた。

 

「うおおおっ!?」

 

 咄嗟に横へ飛びながらフュアローの左肩を三発撃ち抜き、炎の直撃を避けるリボルブ。

 しかし、メルティックシャウトの余波は想像以上のもので、リボルブは吹き飛ばされてしまう。左足の装甲も、熱波によって僅かに溶解していた。

 

「クソが……なんて威力だ、V2アプリの必殺レベルじゃねェのか!?」

「反動も大きいみたいだけどね」

 

 焼けて火を吐く地面とフュアローミュージシャンを見て息を呑みながら、ザギークが言う。

 フュアローは肩で息をしていた。一度自身の能力で高めた熱を体内に全て吸収してしまい、しかも少しの間とはいえ体内に留めてしまった以上、これも当然と言える。

 自身がどれほどの重傷を負っても、怒りのままに敵を討ち滅ぼすという凄まじき執念。アズールはそれを感じ取り、身震いした。

 

「ここは一旦退いて態勢を立て直しましょう! 僕らもダメージが大きいですが、何より彼女自身への反動が深刻だ! このまま続けたら間違いなく死んでしまいます!」

「そうだな……!」

 

 言うが速いか、リボルブが地面を撃ちアズールが風で砂を巻き上げ、さらにザギークが白インクを脚に射出。インクが固まり、フュアローを拘束した。

 

「あぁっ!?」

「よし、今の内に逃げましょう!」

「待て……待てぇぇぇっ!!」

 

 アズールがアシュリィを抱え先頭を、リボルブは最後尾を走り、ザギークもスピーディチューンになって三人の間を遁走。

 あっという間に三人の仮面ライダーとアシュリィは、駐車場から姿を消した。

 

「許さん……アタシの……俺の怒りに触れて、生きて帰れると思うなよ!!」

 

 そんな言葉を吐き捨てて、フュアローは脚のインクを熱で溶かした。

 

 

 

「なんとか逃げ切れましたね……」

「ああ、追って来なくて助かったな……」

 

 逃走の果てに、翔たち四人は拠点まで戻って来た。

 敵は想定以上の強さだったが、それだけが問題なのではなく、あの勢いなら熱で自滅してでも自分たちを倒そうとするだろう。

 そこがフュアローミュージシャンの最も厄介なところだ。ホメオスタシスとしても翔や鷹弘の方針としても、彼女を死なせるワケには行かないのだ。

 

「どうするの?」

 

 誰に対して、というワケではなく、焦ったように琴奈が言った。続いて、鋼作もゆっくりと口を開く。

 

「態勢を立て直したところで、あんな能力相手に打つ手はあるのか?」

「……短期決着なら、あるいは」

「向こうはそれを許しちゃくれないだろうがな。それに、能力も残り二つがまだ見えてない。速攻で片付けるにはちょいと分が悪すぎやしないか」

 

 重い沈黙。強力なV2アプリを持つ者が三人いてなお、どうあっても彼女の攻略は難しいと判断せざるを得なかった。

 サポートの陣営も、頭を抱えている。彼女は今までのサイバーノーツとは、一味も二味も違うのだ。

 皆が皆頭を抱える中、鷹弘が溜め息混じりに言葉を発する。

 

「せめて、アイツ自身に向かう熱さえどうにかできりゃあな」

「そんな方法なんてあるかなぁ。ウチにゃ思いつかないよ」

 

 もうお手上げだ、とでも言うように浅黄は肩を竦め、直後にガックリと項垂れる。

 だが、アシュリィが撮影したフォトビートルの映像を確認していた翔は、首を横に振って鷹弘たちの顔を見上げた。

 

「もしかしたら……不測の事態さえ起きなければ、可能性はあります。熱をどうにかするだけじゃなくて、フュアローミュージシャンそのものも倒せるかも」

「え、マジ? できるの?」

「やるしかないでしょう。彼女を助けるためにも」

 

 意を決した表情で言い放つ翔に、鷹弘も鋼作も、琴奈やアシュリィも頷いていた。浅黄も、溜め息を吐きつつも微笑んで同意する。

 そして、翔は自らの思いついた作戦を伝える。あまりにも無茶かもしれないが、起死回生の一手となる策を。

 内容を耳にした一行、特に浅黄は納得した様子で何度も頷いていた。

 

「なーるほどね! 確かにその方法なら、もしかしたら!」

「上手くいくかどうかまでは分かんねェが、まぁ可能性はあるだろうな。試す価値は十分にある」

 

 明るい調子の浅黄と鷹弘の言葉に、翔が微笑んで力強く頷く。

 鋼作や琴奈、アシュリィも翔の立てた作戦に賛同し、サポートのための準備を始めた。

 

「必ず成功させましょう」

「そうと決まれば、準備準備! 向こうがいつまでも待ってくれるとは限らないしねー!」

 

 浅黄もそう言いながら、マテリアパッドを操作して準備に取り掛かる。

 こうして、再び侵攻チームによる激情の(フュアロー)アリーナの攻略作戦が始まるのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「熱い……あああああ、熱い……!!」

 

 先程の戦闘の後。

 伊刈 律(ロック)は、頭を抱えて楽屋内の椅子に座り、目の前の鏡を睨みつけている。

 彼女の顔は、人間・伊刈 律としての顔と、Cytuber・ロックとしての顔が、歪んで半分ずつ混ざっていた。

 全身に行き渡った熱が、まだ体内に残っている。さらに湧き上がる怒りによって冷静さを失い、人格も溶け合おうとしているのだ。

 

「あいつらを殺すまで……この怒りの熱は収まらない……ィィィ……俺は、アタシは……ウウウワアアアァァァッ!!」

 

 叫び、ロックは大きな鏡に向かって手を当てる。

 その瞬間に、鏡は彼女の体熱でドロリと溶けてしまった。

 さらに体も徐々に溶け始め、男と女の二つの特徴が混ざりつつある。喉から出る声も、段々と高低双方の音がノイズのように響いている。

 

「ハァッ、ハァッ……グ……ウウウ……」

 

 歪んだ両眼から、赤い涙が滴り落ちる。

 その時だった。楽屋の扉が開き、既にドライバーを装備した翔たち三人の仮面ライダーが入室して来た。

 彼らの姿を見ると、ロックの異常な表情が狂喜によってさらに歪む。

 

「グ、フ……ハハハ……また……わざわざ俺に殺されに来たのか?」

「死ぬつもりはないよ。君を助けに来たんだ」

「無理だなぁ!! この怒りはお前らを殺さない限り、消える事はない!!」

 

 勢い良く立ち上がり、ロックは傍に立て掛けてあるエレキギターを手に取った。

 

「お前らホメオスタシスを皆殺しにして、俺は現実世界を破壊し尽くす!! 理不尽を押し付け、人を踏み躙る世界を!! 今度は俺が……アタシがヤツらを蹂躙してやるんだ!! そして新たな世界を構築する、誰も傷つけられない世界をな!!」

「かつてのバンド仲間を踏み台にして、自分だけその世界に逃げるためにかい?」

「……あ?」

 

 意表を突かれたように、ロックはぽかんと口を開けて、翔を見る。

 

「自覚がないワケじゃないだろう。君はスペルビアに、自分にとって大切なものを捧げた。あの時……スカウトマンや歌手グループだけじゃなく、君は彼女らまで犠牲にしたじゃないか。ただ怒りをぶつけるだけなら、彼女らまで捧げる必要はなかったはずだ。なのに何故そうしたのか?」

「そ、それは……」

「答えは簡単だ。君は単に怒りに身を任せただけじゃない、選ばれた自分だけが過酷な現実から逃げる手段として、彼女らを利用したんだ! だから秘密を知った人間を許せないんだろ!」

「ぐっ!?」

 

 翔の追及に、突きつけられる現実に、ロックはたじろぐ。図星を突かれて、汗を流す。

 

「君自身が憎む連中とやってる事は何も変わらない!! 自分だけが生き残るために、新しい世界を作るという口実を作って、仲間を裏切り理不尽を押し付けたんだよ!!」

「黙れ、黙れっ!! アタシは……アタシはぁぁぁっ!!」

 

 ロックが怒りの叫び声を上げ、立ち上がった。

 だが先程までとは様子が違っており、服装はCytuberとしてのものと同じだが、顔や体格のみ完全に伊刈 律としての姿を保っている。

 冷酷なまでに現実を突きつけられた事で、逆に頭が冷えたのだ。冷静さを取り戻したまま、激情している。

 

「……ようやく話ができるくらいには落ち着けたみたいだね」

「うるさい!! ステージに上がれ……そこで相手をしてやる!!」

 

 その宣戦布告と同時に、ロックの姿が消失する。

 三人はすぐさま、アリーナのステージへと向かった。警備員の姿が消えていたため、すんなりと廊下を通る事ができた。

 

「ヤツに招待されたお陰か?」

「かもね」

 

 道中で鷹弘と浅黄がそんな会話をしつつ、一行はステージに辿り着いた。

 最初に訪れた時と違い、照明が消えている。また、不思議な事に観客席には煙が焚かれ、見通しが悪くなっている。

 しかし一本道なので、迷う事はない。翔たちは、何事もなくステージに上がった。

 

「……来たな」

 

 その瞬間、ステージ上でマイクを通した声が聞こえる。

 声の主はロックだ。彼女はマイクを片手に、天井を睨みつけている。

 

「ここはアタシの憧れの舞台だった」

 

 スポットライトが、ロックに集中する。

 

「でっかいアリーナを舞台にミュージシャンとして輝く……そのために必死で努力して、仲間も集めた。その結果がアレだ」

「……」

「全部奪われた!! 全部踏み躙られた!! 許せなかった……!! でも、そこにスペルビアP(プロデューサー)が来たんだ!! アタシを輝かせてくれる人が、怒りを理解してくれる人が!! そんな最高のチャンスを目の前にして、飛びつかずにいられる!?」

「……君はスペルビアに利用されているだけだ。何もかも失ったところを狙われて、心の隙間に付け入られているんだ」

「それがどうした!! アタシは!! このチャンスを、怒りを、絶対に手放さない!!」

 

 叫びながら、ロックはマテリアプレートを取り出して起動。

 その瞬間に観客席の煙が消失し、無数にいる観客のデジブレインたちが姿を現した。

 

「こ、これは……!?」

《ロックンロール・ビート!》

背深(ハイシン)ッ!!」

 

 突然現れた観客を目撃して翔らが驚いている間に、ロックはトランサイバーにプレートを装填し、音声入力を終える。

 

Roger(ラジャー)! マテリアライド! ロックンロール・アプリ! 爆演ソウル、トランスミッション!》

「ステージを熱く盛り上げてやるよ……お前らをブチのめしてなぁ!!」

 

 フュアローミュージシャンへと変異を遂げたロックが、スタンドマイクとギターを掲げて観客席に向かって叫ぶ。直後に、観客のデジブレインは歓声を上げた。

 それにも怯まず、翔と鷹弘と浅黄は変身に移る。

 

「僕が君を止める! 変身!」

「変……身!」

「変ー身っ!」

《蒼天の大英雄、インストール!》

《最速のガンスリンガー、インストール!》

《義賊の一矢、アクセス!》

 

 またも三人同時の変身。しかし今回は、姿が変わると同時にザギーク テクニカルチューンが先手を打った。

 

《スタイランサー・ボウガンモード!》

「行くよーん!」

 

 言うなり、ザギークは引き金を引く。狙ったのは、フュアローの両肩――スピーカーだ。

 矢弾は見事に命中し、ドロリとした白いゲル状のインクがスピーカーを覆う。

 

「ハッ、こんなの痛くも痒くもないぞ!」

「ふふふー、ほんとかな?」

「次はこっちの番だ! アタシのイントロに聞き惚れなぁ!」

 

 先程と同じように、ザギークがファーストコードを入力。そして、目の前を横切る音符に合わせてギターを掻き鳴らした。

 だが。

 

「こ、これは……!?」

 

 スピーカーから鳴るはずの音が聞き取れないほど小さくなり、くぐもっているのを感じて、フュアローは目を見張った。

 その焦りのせいで、演奏のリズムも狂う。ミスを連発し、温度も上昇していない。

 

「今の内だ! やっちまうぞ!」

 

 リボルブが叫び、発砲。アズールも二振りの剣を手に強襲を仕掛け、ザギークはスタイランサーをスピアーモードに切り替えて突撃する。

 ファーストコードの効力が機能していない今、接近されれば攻撃を防ぐ手段はほとんどない。銃弾を受けつつもフュアローはギターから手を放し、マイクスタンドでアズールセイバーの刃を防いだ。

 だが、続くザギークの一突きは避けられない。フュアローは吹き飛ばされ、仰向けに倒れた。

 

「どういう事だ!? 何が起きて……!?」

 

 言いながら、フュアローは自分の肩に視線を向ける。そして、気付いた。

 先程の白いインクがスピーカーに入り込み、凝固している。そのせいで音を発する事ができなくなっているのだ。

 演奏で溶かそうにも、スピーカー内の磁石はインクで固められている。これでは因子を出す事もできず、戦いすらままならない。

 

「くそっ、こんなもので!? こんなもので止められるのか、アタシは!?」

 

 フュアローが狼狽する。仮にインクをマイクスタンドでこそぎ落としても、スピーカーの内側にに入ったものはどうにもできない。

 しかも、アズールたちは今なお容赦なく攻撃を続けて来る。

 

「そりゃぁっ!」

「オォラァッ!」

「うおりゃー!」

 

 剣先が横腹を殴り、銃弾が眉間に撃ち込まれ、穂先が脚を刺す。どの攻撃も、肩を狙っていない。

 逆に自分が肩で攻撃を防ごうとしても、直前で止められ足や腹に蹴りを入れられる。こうなってはフュアローに為す術はない。

 彼女が本当に、このまま手をこまねいているならば。

 

「アタシの歌にノイズを混ぜやがって……ナメてんじゃないぞ、コラァッ!」

 

 そんな怒声と同時に、フュアローの持つエレキギターから、触手のように蠢くコードが伸びる。

 さらに、それがステージの床に接続された。

 何が起きたか分からずアズールも困惑するが、すぐに自分にやらなければならない事があると思い直し、フュアローに向かって剣を振るう。

 その時、フュアローは素早くトランサイバーを操作した。

 

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

「今度こそ聞け、アタシのイントロォ!」

 

 フュアローがそう言ってギターを演奏した瞬間、仮面ライダーたちの周囲の温度が上昇し始めた。たちまち、ライダーたちの動きが鈍くなる。

 

「なっ!?」

「チッ、肩を塞いでるのにどうやって……!」

 

 言いながら、リボルブが周囲に目を凝らす。既に因子は散布されているが、フュアローの肩から発せられたものではない。

 因子は、上空や観客席の付近などから、ステージ一帯に向けて放出されているのだ。

 そこで、アズールもリボルブも彼女のやった事に気付いた。

 

「アリーナ内の音響設備! そこに接続したんだ!」

「あの野郎、そこまで計算尽くでここに呼びやがったのか!」

 

 会場内に広がる熱さで徐々に体力を奪われていき、アズールとザギークの膝が震え始める。

 そこへ追い打ちのように、フュアローがトランサイバーを素早く操作する。

 

「テンポアップだ、ついて来れるか!」

Roger(ラジャー)! セカンドコード、オン!》

 

 彼女の言葉通りに、曲のテンポが早くなる。フュアローはそのスピードにも対応し、演奏を続けている。

 しかも、ただ曲調が速くなっただけではない。通常の演奏時よりも、温度がさらに上昇しているのだ。

 

「こ、れは!」

「スピードアップする分、能力も強化されるって事かよ……!!」

 

 ついに、あまりの熱さからリボルブも耐え切れずに膝を折る。それを見たアズールとザギークは、各自マテリアフォン及びマテリアパッドを手に取って操作を始める。

 

「終わり……だなぁ、仮面ライダー共……! アタシはお前らをブッ倒して……今度こそ夢を掴む!」

 

 また息を切らしながら、フュアローが言った。

 

「……」

「ア……、……と……を……」

 

 リボルブとザギークは地に手をついて俯き、アズールはマテリアフォンを片手にうわ言のように何かを呟いている。

 彼らの様子を見たフュアローは、ほくそ笑んでトランサイバーのボタンを入力した。

 

「熱さで意識が朦朧とし始めてるようだな」

Roger(ラジャー)! サードコード、オン!》

「だけど安心しろ、これで終わりだ……」

 

 微細な因子が、仮面ライダー三人の周囲に収束して漂う。

 これがサードコードの能力、温度の上昇する範囲を集中させるのだ。もちろん、これを発動する場合はフュアローの周囲からも因子が消えるため、熱で身を守る事ができなくなる。

 だが、ライダーたちの体力が奪われて疲弊している今こそ、この能力でトドメを刺すチャンスなのだ。

 

「燃え上がって消え失せろ、仮面ライダー!!」

 

 フュアローがギターに指をかけた、その時。

 耳をつんざくような高音が、会場全体に木霊した。

 超音波だ。あまりにも耳障りなその音に、フュアローは思わずエレキギターを手放し、耳を押さえた。

 

「ヒッ、ヒギェアアアッ!! や、やめろ!? なんだこの音は!?」

 

 ギターを弾けない以上、当然ながら演奏は失敗となる。

 温度が徐々に引いていき、アズールたちも態勢を立て直し始めた。

 

「形勢再逆転、だね」

「何を、したぁぁぁ……」

「君がやったのと同じさ。僕らの使う装備で音響設備をハッキングした……同じ事を考えていたのは想定外だったけどね」

「バカな……!?」

 

 出発前に翔が立てた作戦は、こうだ。

 まず初めに、フュアローミュージシャンとの戦闘になった時、三人でアリーナのステージまで誘き出す。

 その後、別働隊のアシュリィが音響設備の近くでレドームートンを使い、コントロールを掌握。そしてフュアローが演奏しようとした瞬間に、ドルフィンタイマーの超音波をステージ内に流すのだ。

 彼らにとって誤算だったのは、フュアローも設備に直接干渉する手段を持っていた事。

 しかしここで、ザギークのマテリアパッドが役に立つ。フュアローのエレキギターから伸びるコードを利用して、それを介して音響設備をハッキングしたのだ。

 アズールがマテリアフォンを操作していたのも、アシュリィに状況を伝えるためだったのだ。

 

「これで勝負はついた、今すぐトランサイバーとマテリアプレートを捨てて投降するんだ! さもないと……こっちも容赦しない!」

 

 アズールが剣の切っ先をフュアローに突きつける。しかし彼女は奥歯を軋ませ、それを突っぱねる。

 

「ナメるな!! アタシはまだ負けちゃいない!!」

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

「サビまで走らせてもらう!」

Roger(ラジャー)! サードコード、オン!》

 

 フュアローが素早くトランサイバーにボタン入力し、再びギターを構えた。

 因子が収束する位置は両肩。すかさずアリーナ内に超音波が発せられ、フュアローの両耳を刺激する。

 だが彼女は先程のように苦しみつつも、演奏する手を止めない。

 

「耐えているのか。だったら!!」

 

 アズールがまたも剣を振り上げ、襲いかかる。熱の発生が肩に集中している間に、畳み掛けようというのだ。

 リボルブもフュアローのギターに向かって発砲し、破壊を試みる。

 だがフュアローは演奏しながら剣撃を回避、銃弾は右肩で受け止めた。それも、頭痛に悶えながら。

 

「マズい、凌がれんぞ! 肩のインクを溶かされたら……!」

「もう遅い!!」

 

 因子が両肩に集中した事で、僅かな時間の演奏で白のインクが液化してしまった。

 フュアローはさらに、サードコードの効果を打ち切って因子を拡散させる。

 そしてバックステップして演奏を続け、両肩から因子を放出しつつ周囲の温度を上昇させ始めた。こうなれば、アズールもリボルブも動けない。

 

「は、ハハハハハッ! 今度こそ、アタシの勝ちだァァァッ!!」

Roger(ラジャー)! フォースコード、オン!》

 

 トドメの大技、メルティックシャウトが来る。一気に気温が元に戻り、フュアローが口内とスピーカーに熱を集中させる。

 この瞬間。待ち構えていたかのように、アズールがマテリアフォンに叫んだ。

 

「アシュリィちゃん、今だ!!」

 

 直後、ドルフィンタイマーの超音波が会場に響く。

 メルティックシャウトを放つタイミングを窺っていたフュアローは、その一撃で苦悶するものの、倒れはしない。

 まだ、攻撃の機会(チャンス)は残っている。三人のライダーが散開していない、今こそが――。

 そう思って業火を放出しようとした彼女の鼻と口と両肩は、白のインクで覆われた。

 

「……ンッ!?」

 

 インクはすぐに凝固する。

 やられた、と思った時にはもう遅い。アズールたちは、メルティックシャウトの対策もしっかりと練っていたのだ。

 吐き出そうとしていた体内の熱エネルギー、それが行き場を失ってしまえばどうなるか?

 

「グ、グアアアアッ!!」

 

 必然、暴発する。

 両肩のスピーカーは溶解・粉砕され、マスクはズタズタになって口内も焼ける。

 フュアローは、もうメルティックシャウトも肩部スピーカーからの因子放射も使えなくなってしまった。

 

「ア……アガアアアッ……」

「今だ!!」

 

 あまりの苦痛に膝をついたフュアローを見て、アズール・リボルブ・ザギークが同時に行動に出る。

 必殺の態勢だ。アズールとリボルブがライドオプティマイザーのトリガーを引き、ザギークはドライバーのパニッシュメントアイコンを指で押す。

 

《アクセラレーション!》

《パニッシュメントコード!》

 

 その姿を見ると、フュアローも慌ててトランサイバーを操作し「ファイナルコード!」と音声入力を行った。

 

Roger(ラジャー)! ロックンロール・マテリアルデッド!》

「喰ゥ……らえェェェッ……!!」

 

 フュアローが毎度の如くギターを鳴らす。

 すると、今度は因子の散布とは無関係に、か細い光線が上空から雨のように降り注いだ。

 本来ならこの技は、因子を撒いた状態で使うもので、極熱のレーザー光線ももっと巨大で強力なものになるはずだった。明らかに威力不足だ。

 こんな苦し紛れの攻撃で倒れるライダーたちではない。三人は全身に光を纏うと、大きく空に飛び上がった。

 

Alright(オーライ)! スーパーブルースカイ・マテリアルバースト!》

Alright(オーライ)! スーパーデュエル・マテリアルバースト!》

Oh YES(オゥ・イエス)! テクニカルフォレスト・マテリアルパニッシャー!》

 

 右脚にエネルギーが集中した強烈なキックが、フュアローの体に向かう。

 

「ギアアアアアッ!?」

 

 ギターを盾代わりに攻撃を防ごうとするものの、当然そんなもので凌げる一撃ではない。

 愛用のギターは粉々に砕け散り、フュアロー自身も吹き飛ばされて地を舐める事となった。

 

「ア、アガッ……バカな、アタシが……」

 

 それでも、彼女の変異は解けていない。武器も失った今、もはや時間の問題ではあるが。

 

「もうやめにしよう」

 

 アリーナに倒れた彼女へと、アズールが声をかける。

 その声を聞いたフュアローはキッと彼を睨みつけるが、それでもアズールは勧告を諦めない。

 

「これ以上続けたら君自身が危ない。手遅れになる前に、降参してくれ」

「まだ、だぁっ!! まだ終わってない!! アタシは、こんなところでぇっ!!」

 

 叫びながら、フュアローはトランサイバーのリューズに手をかけた。

 それを見てアズールが思い出すのは、ヴェインコマンダーとの戦いでの事。あの時の彼の、巨大な獣となった姿だ。

 

「よせ! それを使ったら、君は!」

「うるさい! アタシが、アタシの怒りはぁぁぁっ! うあああああっ!」

 

 錯乱状態になりながらも、彼女はリューズをひねった。

 

《オーバードーズ! ビーストモード、オン!》

 

 その瞬間、フュアローの姿は大きく歪む。

 全身がモザイクに包まれて泡立ち、瞬間的な改造手術によって体が巨大化、人体の許容量を超えたカタルシスエナジーが体内に蓄積される。

 チャックのついたマスクは完全に千切れ飛び、口が耳まで裂けて行き、スピーカーの残骸やオオカミ型のバイザーが砕け散る。

 アリーナの天井を突き破るほど巨大なその姿は、鋭い爪と大きな牙を生やした、スピーカーを背負う赤い毛並みの狼だ。

 

「フゥォォォッ!!」

 

 咆哮し、三人の仮面ライダーを見下ろすビーストフュアロー。リボルブは舌打ちしつつ、リボルブラスターの照準を彼女の頭に定める。

 

「来んぞ!」

「はい!」

 

 アズール・リボルブ・ザギークは散開し、それぞれ攻撃を始める。アズールは走りながら剣から風の刃を放ち、リボルブはデータの銃弾で撃ち抜く。ザギークは後ろ足にインクを発射し、固めて動きを止めようと試みている。

 しかし、そもそもビーストフュアローはその場から動かない。動かないまま、三人の攻撃を受け止め続けている。

 

「野郎、一体何のつもりだ……」

 

 リボルブが声に出した、その時。

 

「フゥオルルルルル……フォォォン!」

 

 ビーストフュアローが鳴き声を上げ、全身から細長い体毛を伸ばす。

 攻撃かと思いライダーたちは身構えるが、その毛はあらぬ方向に向かい、観客席の柵に巻き付いた。

 

「なんだ……?」

 

 アズールは疑問の声を発しながらも、油断せず剣を向ける。

 そうして様子を窺っていると、フュアローは素早く前脚の爪でその毛を引っ掻いた。その直後、背中のスピーカーからギターを弾いた時のような音が流れる。

 あまりの轟音に、アズールもリボルブもザギークも耳を覆った。さらに、その場で起きた変化は音だけではない。

 

「熱っ!?」

 

 突如として地面から爆炎が上がり、アズールたちの体を燃やした。

 その瞬間に三人は、ビーストフュアローの能力を理解した。彼女は自身の体毛を弦のように扱い、背中のスピーカーから音と因子を発する事ができるのだ。

 しかもあの姿になれば、もはや因子を発してから即座に起爆させる事ができるらしい。

 

「クソッタレ……!」

 

 リボルブが疾走し、爆炎から逃れようとする。

 しかし、振り切れない。ビーストフュアローが弦を掻く度に爆炎が襲いかかり、リボルブは観客席まで吹き飛ばされた。

 

「ちょっ、ヤバイってこれ無理ゲーじゃん!?」

 

 ザギークもスピーディチューンに切り替えて逃走しているが、ビーストフュアローはその逃げる先に爆炎を放ち、動きが止まった瞬間を狙って炎を放っている。

 そしてアズールでさえも、この突然目の前で起こる爆発には対処できなかった。アズールセイバーで毛を切断しても、すぐに再生し別の位置に弦を張られてしまうのだ。

 

「くっ、あのスピーカーさえどうにかできれば!」

 

 アリーナ内を飛び回りながら、アズールは策を練る。爆炎が身を焦がしても、熱波で吹き飛ばされそうになろうとも、諦めない。

 そして、飛翔し進み続けたアズールは、ついにビーストフュアローの眼前にまで辿り着いた。

 ここまで近づけば彼女自身にも被害が及ぶため、流石に爆破する事などできないだろう、という判断だ。そのまま頭上を走り、スピーカーを叩く。

 だが、それも甘かった。

 

「フゥオオオッ!」

「うわっ!?」

 

 フュアローは至近距離で、自らも負傷しながら爆撃を行い、さらにもう一本の前足をアズールに叩きつけた。

 床に背中を打ち付けてしまったアズールは、短く呻き声を上げる。

 

「このままじゃ……!!」

 

 接近してスピーカーを破壊する事も、これでは難しいだろう。

 そもそも剣で攻撃したところで、破壊できるとは限らない。銃撃の場合はより困難を極める。

 となればやはり必殺技しかないのだが、アズールでは届かないし、一撃で破壊しなければ二度目以降は警戒されてしまう。そのため、破壊力に特化させなければいけない。

 

「……そうだ!」

 

 アズールが顔を上げ、ウィジェットから一枚のマテリアプレートを取り出した。

 そして、ザギークへと視線を向け、それを投げつける。

 

「浅黄さん! 一番攻撃力の高い形態でこれを使って下さい!」

「へっ!? 一番高いって……」

 

 キャッチしながら、ザギークが思案する。

 そして頷き、仮面の中で「にひひ」と笑った。

 

「よーし任せて! とっておきを使っちゃうよ!」

 

 言って、ザギークがアプリチューナーのスイッチを上から順に押していく。

 

《パワフルチューン! テクニカルチューン! スピーディチューン!》

「チューンアーップ!」

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド! マキシマム・フルチューンアップ!》

 

 三色の装甲がザギークの頭上で融合し、白銀の装甲となって合着。

 さらにスタイランサーをボウガンモードに変形させ、天井からアリーナの外へ飛翔し、ビーストフュアローのスピーカーの真上で静止する。

 そしてアズールとリボルブがそれぞれビーストフュアローの両眼に攻撃して集中力を削いでいる間に、ザギークは行動に移った。

 

「この姿は一分しか保たないけど……十分だよ!」

《パニッシュメントコード!》

 

 マテリアプレートを挿入した瞬間、銀色のゲル状インクがボウガンに纏わりつき、巨大な弩砲(バリスタ)を形成する。

 アズールが渡したのは、ギガント・エクス・マギアだ。出が遅く隙が多い必殺となるものの、威力は抜群。

 そこにタブレットドライバーのマキシマムチューンのパワーが加わる事で、さらに破壊力の増した一撃を放つ事ができるのだ。

 

Oh YES(オゥ・イエス)! ギガント・マテリアルシュート!》

「行っけぇぇぇー!」

 

 弩砲から巨大な矢が射出され、地上に向かう。

 そして、矢弾は見事にビーストフュアローのスピーカーと背中を貫き、破壊した。

 あまりの激痛に、フュアローは断末魔を発する。そして、苦痛に悶ている隙を、アズールたちは見逃さなかった。

 

「その歪んだ願い、僕が終わらせる!」

《フィニッシュコード!》

 

 アズールは二つの剣を合体させ、さらにV2側にマテリアプレートを装填する。

 そしてリボルブは、アプリドライバーからV2アプリを引き抜いてそれを投げ渡した。

 

「決めちまえ、翔」

「はい!」

 

 そのアプリを、今度は通常のアズールセイバーへと挿入。さらに、二つの武器で同時に必殺技を発動した。

 

Alright(オーライ)! スーパーデュエル・マテリアルスラッシュ!》

Alright(オーライ)! スーパーブルースカイ・サイクロンマテリアルスラッシュ!》

「そぉりゃあああああああっ!!」

 

 風を纏い、輝く双刃を振るうアズール。

 一瞬の静寂の後、フュアローの体が左右に真っ二つとなり、さらに賽の目状になって崩れ落ちる。

 そして残骸は粒子となって散り、その場には元の人間の姿に戻った伊刈 律と、トランサイバーが残るのであった。

 それを確認してからザギークが地上に降りて変身を解き、アズールの近くにアシュリィが歩いて来る。

 

「……終わった、か」

 

 深く息をつき、鷹弘は変身を解除してトランサイバーへと近付く。

 そして、それを拾い上げようとした、その時だった。

 

「おやおやおや。彼女がこうも簡単にやられるとは、予想外でしたねぇ」

 

 そんな声が、アリーナ内に響き渡る。

 ホメオスタシスの面々にとっては、もう何度か聞いた覚えのある声。四人の頭上で浮遊している、スペルビアの声だった。

 瞬間、トランサイバーが鷹弘の目の前から消え、スペルビアの手元に移った。

 

「テメェ! 人をだまくらかして、そんなモン集めて……一体何する気だ!」

「全ては我が主のためですよ。あなた方に私めの意図は理解できないでしょうが」

 

 含み笑いと共に、スペルビアは以前と同じくマテリアプレートを空に掲げようとする。

 だが、その時だった。まだ変身を解除していないアズールが、風の刃をスペルビアに向けて放った。

 その一撃はスペルビアの頬を叩き、僅かな傷をつける。

 

「おや?」

「逃さない……お前はここで、僕が倒す!」

「おや、おやおやおやおやおやおやおやおや」

 

 スペルビアの頬が大きく歪む。それと同時に、四人は背筋に冷たいものを感じ取った。

 

「そうですか、そうですか。私めに挑むと……そう仰るのですね」

 

 口元を覆い、さも可笑しそうに「良いでしょう」と言い放つスペルビア。その手が、徐々に孔雀の羽根で飾られた仮面へと伸びていく。

 その瞬間――明らかにアズールたち仮面ライダーを見下したようなその視線が、眼が、黒く燃え上がった。

 

「その傲慢の報い、堪能して頂くとしましょう」

 

 言いながら、スペルビアはまるで顔面の皮を引き千切るかのように、その仮面を引き剥がした。

 すると、顔から黒い炎が吹き出し、スペルビアの体を徐々に焼いていく。その燃え痕から、スペルビアの姿が変わって行くのが見て取れた。

 そうして現れたのは、拘束具に包まれたデジブレイン。孔雀の顔を模ったマスクに、拘束具とベルトで縛られた十二枚の翼を背負い、尾には孔雀の羽根が貼り付いている。

 名付けるとするならば、ピーコック・デジブレインと呼ぶのが相応しいだろうか。ピーコックはゆっくりと地上に降り、ベルトで締め付けられた細い両腕を広げる。

 

「お手柔らかに、仮面ライダーくん」

 

 その姿を見て、アズールは息を呑みながらも、両刃剣を手に突撃した。

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