仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.20[地獄が如く]

「お手柔らかに、仮面ライダーくん」

 

 伊刈 律(ロック)との戦いが終わった後。

 ピーコック・デジブレインとなったスペルビアはそう言いながら、アズールと対峙していた。

 彼の尾についた羽根が一枚空中を舞い、それが黒い炎を纏って一振りの漆黒の剣へと変化する。

 刀身には『Lasciate ogne speranza voi ch'intrate.'』と刻まれており、スペルビアはそれを左手で取った。

 そして、右手は腰の後ろで組む。

 

「何のつもりだ?」

 

 アズールが問いかけると、スペルビアは孔雀の頭部を模した覆面の下で、くつくつと笑った。

 

「分かりませんか? あなた様の実力なら、片腕で事足りると言っているのですよ」

「……そうか、分かった」

 

 言いながらアズールは、素早く接近して左右の手それぞれに持った二つの剣を振り上げる。

 

「もう一本使うまで徹底的に斬る!」

「おやおや」

 

 右手のアズールセイバーを振り下ろすと、スペルビアはそれを自身の剣で受け止める。

 直後にアズールはその場で回転し、左手のアズールセイバーV2をスペルビアの横腹めがけて振り抜かんとする。

 だが、それはスペルビアの膝蹴りで受け止められた。

 

「くっ!?」

 

 さらに、スペルビアの刺突がアズールの胸の装甲に命中する。火花が上がり、白い装甲に大きな傷がついた。

 

「おやおや。あなた様の力はこの程度ですか?」

「この程度なワケ……ないだろ!!」

 

 アズールが叫び声を上げ、もう一度スペルビアに斬りかかる。

 だが、今度は上空に飛び上がったスペルビアの蹴りを受け、アリーナの観客席に吹き飛ばされる。

 さらにスペルビアは追い打ちを続ける。剣の柄頭で、倒れているアズールの顔面を滅多打ちにし始めた。

 

「がっ、くぁっ!?」

「そんな……強すぎるよ……!」

 

 声を震わせ、浅黄は慄く。あまりにも一方的な展開に、鷹弘も憮然とした表情になっていた。アシュリィの顔も青褪めている。

 そんな三人に対して、アズールは声をかける。

 

「今の内に……律さんを連れて、逃げて下さい!」

 

 足に力を入れて踏ん張り、アズールが剣を振る。

 ようやくその一太刀がスペルビアの腹に命中するものの、彼は微動だにしていない。全くダメージを受けていないようだ。

 それを目の当たりにして歯を軋ませながら、鷹弘は浅黄の顔を見ずに語りかけた。

 

「……浅黄、そいつとアシュリィ連れて先に行け」

「でも! 翔くんはどうすんの!?」

「良いから行け! お前が一番疲弊してんのは分かってんだよ!」

 

 そう言われて、浅黄は言葉を詰まらせる。

 確かにマキシマムチューンのカタルシスエナジーの消費量は凄まじく、一分間の維持が精一杯で、使った後は浅黄自身も疲労してしまう。

 大きく消耗した今では、この場に残っても足手まといになるだけだろう。

 そんな浅黄に対して、鷹弘は僅かに声を落として話しかける。

 

「安心しろ。俺が死角に回ってあのクソ野郎を撃つ……それで隙ができれば、あいつの手助けになるはずだ。逃げんのはその後で良い」

「……分かった、任せるね」

 

 頷いて、浅黄は律を背負ってアシュリィを伴い、その場を離れようとする。

 だが、アシュリィは動かなかった。

 

「アシュリィちゃん?」

「……私は残る」

「えっ!?」

「残る」

 

 彼女の様子を訝しむ浅黄だが、理由を問い質している暇はない。

 それに二人の仮面ライダーがいるなら、動けない自分より彼らに任せた方が賢明かも知れない。

 

「分かった、けどちゃんと隠れててね!」

 

 浅黄は律を連れ、今度こそ戦場を去るのであった。

 一方、アズールは苦戦している。何度攻撃をしても避けられ、命中したかと思えば無傷に終わる。その繰り返しだった。

 スペルビアは笑い声を上げながら、余裕の態度でアズールに語りかける。

 

「そろそろ諦めて帰った方がよろしいと思いますがねぇ。あなた様では私めに傷一つつける事ができない、もうお分かりでしょう?」

「く……」

「それでもまだ争うというのなら仕方ありません」

 

 剣を上空に掲げると、刀身に黒い炎が集まって行く。

 大技が来る。それを察して、アズールは身構えた。

 

「地獄の門へとご案内しましょう」

 

 スペルビアが剣を振り下ろそうとした、その時だった。

 剣を握っているその指を、三発分の銃声と共に弾丸が射貫き、剣を取り落とさせた。

 リボルブだ。それを悟ると同時に、アズールは動き出した。

 ドライバーにセットしたライドオプティマイザーのトリガーを引き、さらにアズールセイバー・サイクロンモードの二つのスロットにロボットジェネレーターとワンダーマジックのマテリアプレートをそれぞれ装填する。

 

《アクセラレーション!》

《フィニッシュコード!》

《フィニッシュコード!》

「これで……!」

Alright(オーライ)!》

 

 アズールが、ドライバーと剣にマテリアフォンをかざす。

 ヴェインコマンダーが生み出したクイーンとの戦いでも見せた、必殺技の三連同時発動だ。

 今までであれば高すぎる負荷によってオーバーシュートの危険性があったが、V2の状態ならやれる。アズールは、そう確信していた。

 

《スーパーブルースカイ・マテリアルバースト!》

《マジック・マテリアルスラッシュ!》

《ロボット・サイクロンマテリアルスラッシュ!》

「どうだぁぁぁ!」

 

 吹き荒れる嵐と共にアズールが駆け、雪崩のように降りかかる岩や炎の塊と水圧弾がスベルビアを襲う。

 それら全てが命中した後に、輝く斬閃と猛烈な蹴りを浴びせた。

 ――だが。

 

「いやぁ、見事な一撃ですねぇ」

「な……」

 

 それでも、スペルビアは平然と立っていた。

 

「そんな……V2でも届かないって言うのか!?」

「ええ、まぁそれは当然でしょう。なにせ私めは、アクイラ様自らが最初にお作りになられたデジブレインでございますので」

 

 アズールも、観客席に潜んでいるリボルブも絶句した。

 ありえない事だ。翔も鷹弘も、鷲我の口から『アクイラが生み出そうとしていた七体のデジブレインは消滅した』と聞いていたのだから。

 そんな二人の考えを見抜いてか、スペルビアは嘲笑混じりに話を続ける。

 

「確かに消滅する直前、アクイラ様は七体のデジブレインを創っておられました。ですが、その中に私めは含まれておりません。なぜなら、それよりも遥かに前にアクイラ様が私めをお作りになったからです」

「なんだと!?」

 

 リボルブは驚愕した。それは自分も、鷲我でさえも知らない事実だ。

 そして、アクイラ消滅の後も次々とデジブレインが生み出されていた原因も、隠れ潜んでいたスペルビアにあるのだとすれば、謎は解ける。

 目の前にいるこの男は、このデジブレインこそが、黒幕だったのだ。

 

「私はアクイラ様の意思を代行する天よりの使徒。人類は速やかに支配を受け入れ、我々の管理下に置かれるべきなのです。それが考え得る最高の幸福なのですから」

「ざっけんじゃねェ!」

 

 怒りの声を上げ、リボルブが発砲する。

 スペルビアが左手をリボルブの方に掲げると、以前と同じようにそれらの弾丸は全て空中で静止するが、それでもリボルブは続けた。

 

「テメェらに支配される事の何が、どこが幸福だ! たかがデータの塊が勝手な事をほざくな!」

「おやおや。アクイラ様はあなた様のお父上が作ったというのに、酷い物言いですねぇ」

「うるせェッ!! アクイラの意思なんざ知った事か、俺はテメェらデジブレインをブッ潰す!!」

 

 リボルブが叫び、二挺のリボルブラスターで攻撃し続ける。アズールも剣を構え、スペルビアに飛びかかった。

 だが、やはりスペルビアは意に介さない。静かに剣を空へ掲げ、もう一度刀身に黒炎を集め始める。

 大技が来る。もはや攻撃を止められないと悟った二人は、すぐさま防御態勢に移った。

 

「もう遅い」

 

 直後に告げられた言葉と同時に、剣が振り下ろされる。

 黒い炎がその場を埋め尽くし、アズールとリボルブは吹き飛ばされて地面に倒れ、一撃で変身を解除させられてしまった。

 

「がはっ!?」

「クソッタレめ、こんなに力の差があんのかよ……!」

 

 負傷した左腕を押さえながら、呻くように鷹弘が言い放った。

 

「相手が悪すぎましたねぇ。ですがまぁ、ご安心を。命を奪うつもりはありませんので」

 

 くつくつと喉奥で笑い、スペルビアは剣を羽根の状態に戻す。

 強気だった鷹弘も、今は倒れて無力感に苛まれ、地面に拳を叩きつけている。

 だが、翔は――。

 

「まだだ……!!」

「はぁ?」

「まだ終わってない!」

 

 翔は立ち上がって、なおもスペルビアの前に立ちはだかろうとしている。

 スペルビアは溜め息を吐き、ギロリと翔を睨みつける。

 

「何を考えているのです? 変身していないあなた様では、一切の勝ち目などありませんよ」

「だったら……変身するだけだ!」

「それでも勝てなかったのをお忘れですか? そもそも、私めは見逃して差し上げようと言っているのですが?」

 

 翔はスペルビアの言葉に一切耳を貸さず、もう一度ブルースカイ・アドベンチャーV2を取り出す。

 それを目視するとスペルビアはさらに深く溜め息を吐き、左手の人差し指を翔に向けた。

 

「バカは死なねば治らないそうですね。では死に至る程の苦痛が、その愚かしさを修正できるか……試してみましょう」

 

 発せられた言葉に鷹弘が驚き、立ち上がろうとする。

 

「やめろ! そいつに手ェ出すんじゃねェ!」

「フフ。お断りします」

 

 スペルビアの指先に黒い炎が集まり、無慈悲にもその炎の塊が放たれ、変身していない翔に向かって行く。

 その時だった。突然歌声がスペルビアと鷹弘の耳に聴こえたかと思うと、翔の全身が青いノイズに包み込まれ始めたのだ。

 鷹弘が振り向くと、声の主の正体が、アシュリィである事が分かった。当の本人の意識は判然としておらず、ただひたすらに歌い続けている。

 

「これは……!」

 

 その声を発したのはスペルビアだった。視線の先には、火炎球を突き出した右掌で受け止めている翔がいる。

 当然、生身でだ。その光景には鷹弘も驚き、目を奪われている。

 しかも、ただ単に受け止めているワケではない。黒い火炎球が翔の手の中でさらに大きく膨れ上がり、スペルビアの方に跳ね返されたのだ。

 

「む……!」

 

 咄嗟に両手を使って、スペルビアは防御態勢に移る。

 炎はスペルビアの両腕を焼き切るが、しかしその損傷は即座に修復された。

 

「どういう事だ!?」

 

 鷹弘が叫んだ。無我夢中だったようで翔自身も何が起きているのか理解できておらず、アシュリィに問いかけても反応はない。

 一方スペルビアは、彼らの様子を見て納得したように頷いている。

 

「なるほど、やはり彼が『そう』だったのですねぇ。という事は彼女の正体は……」

 

 そして鷹弘が驚いている隙に、マテリアプレートを上空へと掲げた。

 アリーナの崩壊が始まる。翔はハッとして、未だに歌い続けているアシュリィの方へと走り出す。

 

「すいません静間さん、失敗しました!」

「分かってる! 退却だ!」

 

 言いながら彼女の手を取ろうとする翔。

 しかし、その手が届く寸前。アシュリィは、喉を押さえて苦しそうに呻き、地に膝をついた。

 

「アシュリィちゃん!?」

 

 何が起こったのか分からず、しかし誰の仕業かを即座に理解して、その方向を見る。

 そこにいるのは変異を解いたスペルビアだ。アシュリィに向かって右手をかざし、目に見えない力で彼女を拘束している。

 アシュリィは苦しんでおり、その様子を見てスペルビアはまたもや納得して首を縦に振っている。

 

「その子を放せ!」

「えぇ、いいですよ? ですが彼女に助ける価値などあるんでしょうかねぇ?」

 

 グッ、とスペルビアは右手を握り込む。

 すると、アシュリィがより一層苦しみの声を発し、一際大きく悲鳴を上げた直後――。

 彼女の背中から、美しく煌めく青い蝶の翅が生えた。

 

「……え……?」

 

 呆然とする翔、そして鷹弘。

 アシュリィの変化は収まらない。髪は灰色に染まり、両足は透き通ったガラスのように変わる。

 両腰からはドレスのスカートを思わせるように蝶の翅が生え、頭部からは二本の触覚が垂れ下がる。

 

「な、に……これ」

 

 意識を取り戻したアシュリィは、自身の姿を見て驚き、そして恐怖していた。

 当然である。これは、この姿は、デジブレインそのものなのだから。

 

「テメェ! 人間をデジブレインに変えやがったのか!?」

 

 真っ先に憤ったのは鷹弘だ。だがスペルビアは頭を振ってそれを否定し、くつくつと笑う。

 

「いくら私めであろうと、そのような事は不可能ですよ。大体それができるならガンブライザーは必要ないでしょう」

「だったら、こいつはどういう……」

「分かりませんか? これこそ彼女の真実という事が」

 

 ぐっ、と鷹弘が言葉を詰まらせる。

 即ちそれは、アシュリィの正体はデジブレインであるという事を意味するのだ。

 加えて、これが事実ならば、当初ブレーメンズ・デジブレインに追われていた彼女が、どのようにしてサイバー・ラインから現実世界に辿り着いたのかという点にも説明がつく。

 普通の人間であればゲートを作る手段がない限り、現実世界へ戻る事はできないが、デジブレインであれば話は別だ。彼らは自らの手で、ある程度自由にゲートを作る事ができる。

 

「そんな……まさか、本当に!?」

 

 崩壊しつつある世界の中、翔はアシュリィの姿をもう一度見る。

 蝶のデジブレインとなってしまった彼女は、ひどく狼狽し、恐怖していた。

 

「あ、ああ……ああああああっ!?」

「アシュリィちゃん!」

「いや、いやぁぁぁ!!」

 

 錯乱して悲鳴を上げながら、アシュリィはゲートを開いて現実世界へと戻って行った。スペルビアも、その場から消えてしまう。

 その後姿を翔は追おうとするが、それはマテリアフォンを持った鷹弘によって阻まれた。

 

「静間さん!?」

「翔、この領域はもう限界だ! 俺たちも脱出するんだ、探すのはその後だ!」

「でも!」

「このままここにいたら死ぬぞ!」

「……分かりました」

 

 鷹弘の言葉に従い、翔もマテリアフォンを手に取る。

 こうして、アシュリィが離脱したまま、ホメオスタシスの面々は現実世界へと帰還するのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 翌日。ホメオスタシスの地下研究施設では、重苦しい沈黙が流れていた。

 現実世界へ向かったはずのアシュリィはこの場所にも戻ってはおらず、日が変わっても翔の家に戻る事はなかった。翔や鷹弘も賢明に捜索したが、成果は実らず。

 さらに、鷹弘の口から伝えられた真実を耳にして、施設内では動揺が広がっていた。

 アシュリィは、デジブレイン。

 その事実を知って、既に電特課の翠月は部下を動かしている。狙いは、アシュリィの消滅だ。

 これらの報告を聞いて最も悲愴な顔をしているのは、琴奈だった。

 

「そんなの嘘だよ、アッシュちゃんがデジブレインなんて……」

「悪いが全部本当の事だ」

「……ちょっと待って! じゃあ、どうしてアッシュちゃんはずっと身体を維持できたの!?」

 

 彼女の指摘に、鷹弘は答える事ができなかった。

 デジブレインはゲートが近くになければ存在を維持する事ができず、消滅してしまう。しかし、アシュリィは今までゲートもなしに活動できていた。

 それに、デジブレインならばホメオスタシスの探知網にかからないのもおかしい。彼女はまだまだ謎が多いのだ。これを解かずして彼女を敵性存在と断じ、攻撃しても良いのか?

 琴奈は鷹弘と翠月に訴えかける。アシュリィを保護するべきだ、と主張しているのだ。

 

「アッシュちゃんは、これまでずっと一緒に戦ってきた私たちの仲間でしょう!? 消滅させるなんておかしいですよ!」

 

 鷹弘は口を噤み、俯く。

 対して、翠月は毅然とした態度で琴奈と向かい合った。

 

「悪いが決定は覆さない。デジブレインである以上、脅威なのは間違いない。彼女を消す」

「どうして!?」

「デジブレインというだけで危険だ。いつ人を襲って感情捕食を行うか分からない者を、傍に置いておくワケにはいかない」

 

 そんな翠月の意見に対し、居合わせた鋼作が真っ向から反論する。

 

「それはないだろ。あの子はずっと翔と一緒に住んでるし、そもそも翔に保護される前、あの子はデジブレインに攻撃されてたんだぞ?」

「保護させるために、向こうがデジブレインをけしかけたんだろう。記憶を消した上でな……そう考えるのが自然だ」

「……どうあってもアシュリィを消すのかよ」

「最初からそう言っているはずだ」

 

 言いながら、翠月は執務室から出る。

 そして廊下を渡った先には、翔がいた。

 アシュリィを消滅させようとしている翠月の前に立ち塞がり、真っ直ぐに睨みつけている。

 

「そこをどいて貰おう」

「お断りします」

「……翔くん。君は既にホメオスタシス側の人間になったはずだ。ならば、その使命を全うするのが――」

 

 翠月が言い終えるよりも先に、翔は突然彼の胸倉に掴みかかり、背中を思い切り壁に叩きつけた。

 

「むっ……!?」

「ふざけるな!! アシュリィちゃんは僕らの敵じゃない!! 彼女を消すつもりなら、僕が相手になる!!」

 

 怒鳴りながら翔はマテリアフォンを取り出すと同時に、ドライバーを召喚する。

 人が違ってしまったかのように激昂する彼の姿を目の当たりにして驚きつつ、翠月も渋々ドライバーを装着した。

 

「どうやら本気のようだな。ならば仕方がない、かかって来るがいい」

《パワフル・チューン!》

「言われなくても……!!」

《ブルースカイ・アドベンチャーV2!》

天華繚乱(ウォーゾーン・ブルーム)!》

 

 マテリアプレート起動の後、二人はそれをドライバーへと装填。

 その間に、執務室から琴奈と鋼作が、さらに通りかかった鷹弘と陽子と浅黄が、変身しようとしている二人の姿を目撃する。

 

《ユー・ガット・スーパーメイル!》

「変身!」

《ノー・ワン・エスケイプ!》

「変身」

 

 翔がドライバーにマテリアフォンをかざし、翠月はセンサーによる指紋認証で変身を始める。

 鷹弘たちは二人を止めようとするが、もう遅い。

 

「そぉりゃああああああっ!!」

Alright(オーライ)! オプティマイズ・マテリアライド! 蒼天の大英雄、インストール!》

「ホオオオッ! アタアアアアアッ!」

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド! ウォーゾーン・アプリ! 闘龍之技、アクセス!》

 

 二人は変身し装甲を纏いながら、殴り合っていた。互いの拳が相手の顔面に命中し、ダメージを受けて仰け反りながらも、攻撃を止めない。

 雅龍はアズールの攻撃を受けながらも彼の体を投げ飛ばし、共にトレーニングルームへと移動した。

 

「君には悪いと思っている。だが、彼女はデジブレインなんだ、諦めてくれ」

「嫌だ!!」

 

 アズールは二つのアズールセイバーを、雅龍はスタイランサー・スピアーモードを呼び出してそれぞれ構え、武器を打ち付け合う。

 

「何故そこまでアシュリィくんに固執する? 相手は人間じゃないんだぞ」

「そんな事は関係ない! 僕は彼女の命を守ると決めた、それだけだ!」

「デジブレインは所詮データの塊だ。命などない」

「違う!! あの子は……!!」

 

 アズールの振り下ろした剣が、雅龍の両手の甲に命中。

 たまらずスタイランサーを取り落とすが、その直後に雅龍は一瞬で間合いを詰めてアズールの襟首を引っ掴んだ。

 

「何が違う? 君が今までに消して来たデジブレインと、彼女はどう違う?」

「それ、は……」

「命があるというのなら、君のやっていた事は何だ? デジブレインという命を進んで殺していた事になるが?」

 

 沈黙するアズール、その一瞬の隙を雅龍は逃さない。

 掌がアズールの胸に突きつけられ、それが握り拳に変わって打ち付けられる。

 ジェラスとの戦いでも見せた寸勁だ。アズールは吹き飛ばされてトレーニングルームの壁面に背をぶつけ、膝をついた。

 

「体内の気をほんの少し狂わせた。加減はしたが、それでしばらくは立ち上がれないだろう」

「く……」

「彼女の事はもう諦めろ。君自身が傷つくだけだ」

 

 そう言って、雅龍は背を向ける。それと同時に、彼の耳に通信が届いた。

 電特課の宗仁からだ。

 

「私だ」

『デジブレインが出たぜ。しかもガンブライザーを使ってるタイプだ。今、座標を送る』

「了解した、すぐに現場へ向かう」

 

 雅龍は変身したまま、トレーニングルームの出口へと向かう。

 その時だった。突然背後から肩を掴まれたかと思うと、鈍い音と共にいつの間にか天井を眺めていた。

 頬への激痛は後からやって来た。アズールに殴られたのだと気付いたのは、さらにその後だ。

 

「な……に?」

「話は……終わってない」

 

 それを聞くと同時に、翠月は仮面の奥で歯を軋ませた。

 なぜ立ち上がれたのかは、もうどうでも良かった。目の前の少年に対して、ただただ怒りが募ったのだ。

 故に、自然とアズールの顔面に拳を叩き込んでいた。

 

「何度も何度もいい加減にしろ!! 私の仕事の邪魔をするな!!」

「く……うおおおっ!!」

 

 殴られてよろめくアズール。しかしそれでも勢いは衰えず、またも雅龍へと拳を振り被った。

 その一撃は正確に雅龍の顎へと命中するが、彼もその程度で戦闘不能にはならない。

 アズールの首を掴み、頭突きを食らわせて怒声を浴びせた。

 

「デジブレインは人類の敵、災厄だ! 野放しにするのはそれだけで危険なんだ、何度も言わせるな!」

「どうしてですか! アシュリィちゃんは、まだ何もしてないでしょう!?」

「何かをしでかしてからでは遅いのだと何故分からない!」

「だったら! デジブレインのはずの彼女が、今まで誰にも危害を加えなかった理由を説明して下さいよ!」

「それは……」

 

 雅龍は一瞬言葉を詰まらせるも、すぐに推論を提示する。

 

「デジブレインだという記憶が欠落していたために、人を襲う意思も失っていただけだろう」

「それなら、これから先も人を襲う事がないようにする事だって、話し合う事もできるはずです!」

「……百歩譲って、それに成功したとしよう。だが、結局彼女が我々を裏切ったらどうするつもりだ? 君は責任を取れるのか?」

 

 アズールは固く拳を握りしめ、真っ直ぐに雅龍へ言い放つ。

 

「その時は僕が彼女を止めます!」

「そうか」

 

 息を吐きながら短く言って、雅龍は戦闘態勢と変身を解いた。

 

「君の言葉に偽りがない事を願う。もしも今の約束を違えた時は、覚悟して貰うぞ」

「……はい」

「さて。街にガンブライザー製のデジブレインが現れたようだ、ひとまずはそれを鎮圧しよう。一緒に来てくれるかな」

 

 変身解除した翔が首肯し、共にトレーニングルームから退室する。

 鷹弘もその二人の後ろを追いつつ、同じく二人の後に続いている浅黄に対し、こっそりと耳打ちする。

 

「後で親父と一緒に調べて欲しいモンがある」

「どしたの?」

「翔に関する事だ、アイツがスペルビアとの戦いで見せた力……それとアシュリィだ。どうしても気になってな」

 

 それを聞くと、浅黄は黙って頷く。鷹弘の深刻な表情から、ただ事ならぬ状況なのだと理解したのだ。

 こうして、四人の仮面ライダーはデジブレインとアシュリィのいる地点へと向かうのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 出現地点である工事現場には、数多くのベーシック・デジブレインが跋扈している。

 被害は既に出ており、デジブレインたちによって感情を奪われ、意識を失って倒れている作業員たちが見受けられた。

 

「チッ、好き放題やりやがって……!」

 

 変身してトライマテリアラーを使い現場に到着したリボルブ デュエルリンカーV2は、マシンから降りると、リボルブラスターV2で次々にデジブレインたちを撃ち抜いていく。

 他の三人も道中で変身は済ませており、危なげなくベーシック・デジブレインたちを駆逐していく。いかに数が多くとも、V2アプリを使いこなす四人の前では意味を成さない。

 しかし、順調に制圧していた、そんな時だった。

 

Cytube Dream(サイチューブ・ドリーム)……シャーク!》

《ダムセルフライ!》

《エレファント!》

 

 そんな三種類の音声が頭上から聴こえ、ガンブライザーを装着した三体のデジブレインが出現する。

 ノーブルの配下のCytuber、ハッカー集団のヒュプノスだ。

 

「図に乗るな、仮面ライダー」

「今度こそ私が勝たせて貰いますよ!」

「がっはっはっはっは! 喰らえ!」

 

 エレファント・デジブレインとなった梅悟が、落下しながらハンマーのように拳を振り下ろす。

 その先にいるのは、パワフルチューンの雅龍だ。

 雅龍はエレファントの巨体と豪腕から繰り出される一撃を、軽々と片手で受け止めた。

 

「……あれ?」

「ふざけているのか?」

 

 直後、鋭い蹴りがエレファントの顔面に突き刺さり、その巨体を鉄骨に向かって吹き飛ばす。

 

「ごあぁ!?」

「梅悟を一撃だと……おのれ!」

 

 ダムセルフライ・デジブレインが、ダガーを手に雅龍の背後に回って斬りかかる。

 しかしその攻撃は、背後から飛んできたボウガンの矢によって妨げられた。

 テクニカルチューンとなったザギークのスタイランサーだ。アズールとリボルブも既に戦闘態勢となっており、既に三人のデジブレインを取り囲んでいる。

 だが、劣勢な立場に立たされているはずのシャーク・デジブレインは、余裕の態度を崩さない。

 

「一人でさえ厄介な仮面ライダーが四人。だが、これを覆してこそオレたちの価値が示されるというもの」

「上位の空席は既に二つ! あなた方を倒し実力を見せれば、そのランクに我々が食い込める!」

「俺たちの礎になりやがれぇ!」

 

 エレファントが再び拳を振り上げ、地面に強く打ち付けると、三人を護るように土の壁が迫り上がる。

 しかし、それは同時に逃げ場を失った事を意味する。アズールとザギークは空へと飛翔し、リボルブと雅龍は壁の破壊を試みた。

 その直後。壁の内側から、電子音声が鳴り響いた。

 

《Cytube Dream……レオパルド!》

《ピラニア!》

《ゴリラ!》

「オレたちを喰え、"激情"のコード!」

 

 土壁の隙間から光が溢れ出し、三人の姿が変化する。

 松波が(シャーク)から女豹(レオパルド)のデジブレインに、都竹は蜻蛉(ダムセルフライ)から肉食魚(ピラニア)に、梅悟は巨象(エレファント)から大猿(ゴリラ)に変異した。

 そして、上空から襲いかかろうとしていたアズールたちを、空中を泳ぐ無数の小さなピラニアが出迎える。

 ピラニアに食いつかれて装甲に火花が散り、アズールとザギークはそれらを慌てて振り払った。

 

「くっ!?」

「あっちゃー、忘れてた! こいつら他のデジブレインにもなれるんだった!」

 

 言いながら完全にピラニアを払い落とした直後、土の壁が粉々に砕け散り、その飛礫がアズールたちに容赦なく襲いかかる。

 ゴリラ・デジブレインの豪腕が、土壁を破壊したのだ。

 さらに、崩れていく壁の隙間を縫うように、素早くレオパルド・デジブレインが飛び出し、リボルブの頭に蹴りを食らわせた。

 

「があっ!?」

「ククッ、まだ終わりじゃないぞ。既に『懈怠』のデジブレインが動き始めているからな」

「なんだと……!?」

 

 言われてリボルブが振り返れば、そこにはベーシックタイプのもの以外に、ガンブライザーを装着した二体のデジブレインがいた。

 否、より正確に言うならば――二体のデジブレインが、ひとつに合体している姿だ。

 ヤドカリのような姿の怪人が背負う殻に、イソギンチャクを模した女性型のデジブレインの上半身がくっついているのだ。

 

「通勤ハ面倒ダシ、上司ハウルサイシ、働キタクナイヨ……」

「アア、家事ッテ面倒臭イナァ……料理モ掃除モ上手クデキナイシ、ヤリタクナイワァ……」

 

 ヤドカリとイソギンチャクは互いに背を向けながら、そんな事をぼやいて溜め息を吐いている。

 リボルブは舌打ちしながら、ヤドカリ型怪人のハーミットクラブ・デジブレインに銃口を向けた。

 すると即座に反応し、ハーミットクラブはくるりと反転。背中のイソギンチャク怪人、シーアネモネ・デジブレインが、触手を伸ばして攻撃する。

 

「くっ!?」

 

 攻撃を防ぎつつ、リボルブはバックステップする。威嚇してくるシーアネモネの後ろで、ハーミットクラブの方は堅牢な装甲でアズールの攻撃を凌いでいる。

 デジブレインが融合しているために、背後に全く隙がない。単純だが厄介な手を打ってきたものだ、とリボルブは歯噛みした。

 おまけに、ヒュプノスの三人も強敵だ。ザギークが戦った時よりも、明らかに力を増している。

 

「たった一日で随分変わるモンだねぇ、男子三日会わざればってヤツぅ!? あ、そっちはオレっ娘だっけ?」

 

 ザギークの軽口を、雅龍に攻撃を仕掛けているレオパルドは「フン」と鼻で笑った。

 

「オレたちにとって戦闘能力の向上など造作もない事だ。強化改造手術を行えばな」

「改造手術だと……!?」

 

 真っ先に反応したのはリボルブだ。そのまま、レオパルド・デジブレインは話を続ける。

 

「お前たち仮面ライダーと同じように、オレたち三人もナノマシンでリンクナーヴを形成し、カタルシスエナジーを扱っている……その影響で多数のデジブレインとの融合が可能になった」

「ですが、それだけではV2の力には追い付けませんでした。なので、ヴァンガード様たちに頼み込んだのですよ……リンクナーヴ自体のさらなる拡張強化を! カタルシスエナジーの出力増強をねェ!」

 

 あまりにも無謀な話に、四人の仮面ライダーは言葉を失った。

 彼らは改造手術のリスクを良く知っている、被害者であるはずのヴァンガードこと御種 文彦自身も身を持ってそれを知ったはずだ。だというのに、彼はこの三人に改造手術を施したのだという。

 

「バカかテメェら!? 制御チップもなしにそんな事すりゃ、身体がイカレちまうぞ!?」

「ガハハッ! それで死ぬのならば俺たちが弱かったというだけだ! そして俺たちは試練に打ち勝った、ただそれだけの事よぉ!」

 

 ゴリラ・デジブレインが、先程のリベンジとばかりに雅龍へと拳を振り上げ、それと同時にレオパルドが雅龍から離れザギークに攻撃を仕掛ける。

 雅龍はまたもそれを片手で受け止めようとするが、今度はパワフルチューンでも完全には受けきれず、あまりの威力と重量に地面に亀裂が走る。

 

「むっ!?」

「ハッハァ! まだまだ行くぞぉ!」

 

 ゴリラが更に攻撃の速度を上げる。雅龍もスタイランサーや腕を使って攻撃を凌いではいるものの、ダメージは蓄積していく一方だ。

 次第に防御も覚束なくなり、胸部を殴りつけられ、吹き飛ばされた雅龍は鉄骨に背中をぶつけてしまう。

 

「中々やるな。ならば、こちらも手を打たせて貰う……浅黄!」

「はいはいっと!」

 

 レオパルドの素速い連続攻撃と上空から飛来するピラニアに悪戦苦闘しているザギークに声をかけ、雅龍は二人で同時にジェットマテリアラーとフレンドーベルを召喚した。

 合体してワイルドジェッターになる事で、この戦況を切り抜けるつもりなのだ。

 だが。

 

「バカめ、それを待っていたんだ!」

 

 その手も既に見破られていた。

 レオパルドが罵声と共に咆哮すると、召喚された四機がレオパルドとピラニアの方へと飛んでいってしまう。

 そしてそのまま分解され、レオパルドとピラニアの体と合身した。雅龍もザギークも、呆気に取られてしまう。

 

「ウチらのマシンが!?」

「オレたちがハッカーだという事を忘れていたようだな。合体指令を偽装し、権限を強奪するなど造作もないんだよ」

 

 奪った背中のタービンを使って浮遊しながら、レオパルドは言い放つ。ピラニアも、腕を組んでアズールたちを見下ろし、嘲笑っている。

 

「今度はお前らが敗北に打ちのめされる番だ。覚悟しろ!」

 

 レオパルドが強化された爪を振り上げ、アズールへと襲いかかる。

 

 

 

「う、うぅぅぅううう……」

 

 同じ頃、翔たちが戦っている工事現場、その工事中の施設内にて。

 アシュリィはこの場所で、仮面ライダーとデジブレインの戦いを目撃し、頭を抱えて蹲っていた。

 このまま戦いが終わり、翔たちホメオスタシスが勝てばどうなるか?

 施設内の残るデジブレインたちを始末しようと動くかも知れない。そして自分が見つかってしまえば、ただではすまないだろう。

 

「私は……」

 

 だが、だからといってデジブレインたちを応援する気にもなれない。彼女にとって、翔たちはかけがえのない存在なのだ。

 ならば彼らを助けるべきだろう。だが、彼女の頭の中にそんな考えが浮かぶと、同時に姿が変わってしまう。

 あの恐ろしい、忌むべきデジブレインの姿に。

 

「ひっ!?」

 

 恐怖で闘争心が消えると、元の人の姿に戻る。

 人なのか、デジブレインなのか。もう、アシュリィには自分がどちらなのか分からなくなったのだ。

 

「私、どうしたらいいの……」

 

 自分は何者で、どちら側に立つ存在なのか。

 様々な考えが頭を巡り、アシュリィは涙を流して、動けなくなってしまった。

 

「ショウ……!!」

 

 名前を呼んでも、返事は来ない。ただ虚しく響き渡るだけだった。

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