仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.21[居場所]

「セアアアッ!」

 

 工事現場でのヒュプノスとの戦い。レオパルド・デジブレインの爪が、アズールに襲いかかる。

 歯を食いしばりながら、アズールは二つの剣でその重い一撃を受け止めた。

 爪を受けた刀身からは火花が散り、アズールは苦しそうに呻く。

 

「くう……!」

「ハハッ! いいぞ、オレたちの力は既に仮面ライダーに匹敵している!」

 

 ワイルドジェッターを奪った事で強化された爪が、再びアズールに降りかかる。

 防ぎきれず、アズールは爪を胸に受け、地面に仰向けに倒れてしまった。

 

「しまった!?」

「よし、このまま押し切って――」

 

 五体のデジブレインがそのままアズールに集中攻撃を仕掛けようとした、その時だった。

 突然、超音波がデジブレインたちの耳内に突き刺さる。悲鳴を上げ、レオパルドは思わず両耳を覆った。

 ドルフィンタイマーだ。隙ができたと見るや、リボルブと雅龍は即座に態勢を立て直す。

 

「翔、今の内に一旦退くぞ!」

 

 その言葉を聞いてアズールは跳ねるように飛び起き、リボルブの元へと飛翔する。

 無論デジブレインたちも仮面ライダーを逃すまいと追撃しようとする。

 だが、二つのスタイランサー・スピアーモードの穂先から霧のようにインクが放出され、煙幕代わりとなった事でまんまと逃げられてしまった。

 

「チッ、逃げ足の早いヤツらですねぇ」

 

 地団駄を踏み、ピラニア・デジブレインが言った。レオパルドも舌打ちしつつ、しかし他の二人を諌める。

 

「だが追い詰めてるのはオレたちの方だ。まだこの辺りにいるはず、焦らず行くぞ」

「ガッハッハッハ、了解だ!」

「了解しました、マイリーダー」

 

 拳を握り込んでゴリラ・デジブレインが首肯し、ピラニアも同様に頷く。

 こうしてデジブレインたちはそれぞれ散開し、各個撃破に向かった。

 ただしハーミットクラブとシーアネモネは融合しているので、二体で一緒にのろのろと彷徨い歩く事となった。

 

「面倒ダナ……」

「面倒ダワ……」

 

 溜め息と共に、二体のデジブレインはそんな事をぼやいた。

 

 

 

「クソッ……まさか、ここまで苦戦するとはな」

 

 建造物の内部で、壁に寄りかかって休息しながらリボルブが言った。

 ザギークもこくこくと頷き、地面に座り込む。

 

「ウチが戦った時より明らかに強くなってんよアレ。どーしよっかねー」

「どうもこうも。さっきは奇襲されたが、次は落ち着いて対処すれば勝てるだろう」

「そりゃゲッちゃんだけでしょー。マテリアプレート変えてるから戦法も前と違ってるし、まーた分析し直さないと」

 

 面倒臭そうに言いながら、足を放り出すザギーク。アズールも、自分と同じく飛翔できる相手に対してどう戦うか、頭を悩ませている。

 そんな時、リボルブがパンッと拳を自らの掌で包み込むようにしてぶつけ、三人に声をかけた。

 

「ひとつ作戦を思いついた。上手く行けば、ヤツらを纏めて一網打尽にできるぜ」

「本当ですか!?」

「ああ。そのためにも」

 

 リボルブは雅龍、続いてアズールと順に視線を送る。

 

「二人には特に頑張って貰うからな」

「え? 僕たち……ですか?」

 

 自分自身と雅龍に指を差して、アズールは首を傾げる。するとリボルブは自信満々に頷き、作戦を三人に伝えた。

 概要を聞いたアズールとザギークは「おおっ」と感心の声を漏らし、雅龍も納得した様子で頷く。

 

「確かにその作戦なら行けますよ!」

「ウチもかなり頑張んないとだねー。ほんじゃ、気合い入れてくよ!」

「私も賛成しよう。確かに体を張る必要があるが、この作戦にはそれだけの価値もある」

 

 三人の言葉を聞いて「決まりだな」とリボルブは立ち上がり、銃を肩で担ぐ。

 

「早速配置につくぞ。急げ!」

「はい! 英さんと浅黄さんも、よろしくお願いします!」

 

 アズールも剣を手に取って二人に頭を下げる。

 ザギークは相変わらず「ほいほーい」と軽い口調で答えるが、雅龍は顎に手を添えて考え込むような仕草を見せた。

 

「どったの?」

「いや、なんでもない。ただ少し彼が気になってな」

「え、まさかのBL展開……?」

「殴るぞ」

 

 そんな事を話しながら、二人もリボルブとアズールの後に続いで歩き、作戦の実行に向かった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「ぬぅぅぅ! おのれヤツらめ、一体どこへ行った!?」

 

 ドシンドシン、とエレファント・デジブレインに姿を変えた梅悟が、工事現場を徘徊する。

 リーダーである松波の指示に従って捜索を続けていたが、探しても探しても終りが見えない事に、梅悟は苛立ちを募らせていた。

 よもや既に逃げてしまったのではないだろうかとさえ考えている。ヒュプノスとしては、それだけは避けたいところなのだ。

 ヒュプノスの面々は仮面ライダーに一度負けている。連敗となってしまえば、彼らの昇格に響くだけでなく、ノーブルの立場も危うくなってしまうのである。

 

「俺たちがなんとかせねば……!」

 

 ノーブルに恥をかかせる事はできない。その一心で、梅悟は血眼になって仮面ライダーを探し続けた。

 

「探しものは見つかったか?」

 

 不意に、背後からそんな声がかかる。

 振り返ってみれば、そこにいたのは緑色の仮面ライダー、雅龍だ。テクニカルチューンの姿で、自分の前に姿を晒している。

 

「ああ、たった今なぁ!!」

 

 現れた雅龍に対して、エレファント・デジブレインは即座に重力操作能力を起動。

 まるで重いダンベルを全身で引き摺っているかのような、途轍もない重圧が、雅龍を襲う。

 

「む……」

「ガハハハッ! これで動けまい!」

 

 拳を振り上げ、エレファントは雅龍へと向かっていく。雅龍も重力の負荷の中、握り拳を作ってファイティングポーズを取っている。

 苦し紛れの痩せ我慢と見たエレファントは、ほくそ笑んで、巨大なハンマーのような拳を思い切り振り下ろした。

 その一撃は、雅龍が自らの両腕を以て防御する。しかし、強化手術によって倍増されたエレファントのパワーによって、防御態勢は強引に崩されてしまった。

 

「一気に押し潰してやるぞォォォ!」

 

 再びエレファントが拳を繰り出そうとし、雅龍もそれに対応して、今度は右腕を掲げる。

 ならばその右腕を圧し折ってやる。エレファントは心中で念じ、拳を振り下ろした。

 その直後、骨の砕けて折れ曲がる音がその場に鳴り渡る。

 ――エレファントの右腕だ。

 

「あ、が!?」

 

 殴りに行ったはずの自分の右腕があらぬ方角に向き骨を露出させているのを目撃して、我に返ったエレファントは苦痛と驚愕で顔を歪ませる。

 しかし彼の口から出たのは悲鳴ではなく、この状況に対する疑問だった。

 

「な、なぜだぁ……なぜ俺の腕がぁ!?」

 

 叫びながら、エレファントは再度雅龍の姿に目を向ける。

 そして、雅龍の装甲が白から赤に変化している事が分かると、疑問の答えに辿り着いた。

 雅龍はチューンアップによって装甲を組み換え、それと同時に最小限の動作でエレファントの拳を目掛けて頭突きを繰り出していたのだ。

 それにより頭部の装甲を勢い良く弾き飛ばし、猛スピードで分離した装甲が腕に直撃。エレファントの腕に致命的なダメージを与えたという寸法だろう。

 

「そんな小細工で私を封じ込めたつもりか? 甘いな」

「こ、この野郎ォォォ!!」

Cytube Dream(サイチューブ・ドリーム)……ゴリラ!》

「そんなに死にたきゃ今すぐ殺してやる!!」

Goddamn(ガッデム)! マテリアライド! ゴリラ・デジブレイン! パラサイトコード、ダウンロード!》

 

 左手で素早くマテリアプレートを入れ替え、エレファント・デジブレインはゴリラ・デジブレインへと姿を変える。

 さらに右腕のダメージにも構わず、左拳を雅龍に向けて繰り出した。

 

「ぶっ潰れろォ!」

 

 真っ直ぐに突き出されたその拳を、重力から解き放たれた雅龍はスルリとかわし、さらに折れ曲がったゴリラの右腕を膝で蹴り上げた。

 

「ぎ……~~~っ!!」

 

 痛みに苦悶し、思わず膝を曲げるゴリラ・デジブレイン。

 その隙を見逃すはずもなく、雅龍はスタイランサー・スピアーモードを装備し、石突で再び右腕を殴打した。

 ゴリラは痛みでさらに悶えるが、それを振り払うかのように、忘れようとしているかのように無茶苦茶に腕を振り回す。

 しかしそんな攻撃が雅龍に通じるはずもなく、暴れ狂うゴリラ・デジブレインとは対照的に、ただ冷静に槍で右腕を叩いた。

 

「ぐうううっ……お前には人の心がないのか!?」

「テロリストがどの口でほざいている。これでも死なないように加減した、むしろ礼を言ったらどうだ」

「この……クソポリ公がァァァ!!」

《フィニッシュコード! Goddamn(ガッデム)! ゴリラ・マテリアルクラック!》

 

 ゴリラ・デジブレインの左腕が肥大化し、筋肉量が倍増。その拳を強く握り、突き出す。

 だが、雅龍はそれを見越し、寸前でアプリチューナーにタッチしていた。

 

《スピーディ・チューン!》

「チューンアップ」

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド! スピーディ・チューンアップ!》

 

 パワフルチューンの装甲が弾け飛び、黒い装甲のスピーディチューンとなった雅龍は、赤い装甲を足場にして跳躍。

 そのままゴリラの必殺の一撃を完璧に避け、愕然とするゴリラの頭上でパニッシュメントアイコンをタッチする。

 

《パニッシュメントコード!》

「な、ぁ」

「これで終わりだ」

Oh YES(オゥ・イエス)!》

 

 空中でマテリアルセンサーに指を重ね、雅龍は必殺技を発動した。

 

《スピーディウォーゾーン・マテリアルパニッシャー!》

「ホォアタァァァーッ!!」

 

 雅龍は地を踏まず、空中でゴリラ・デジブレインに蹴りを叩き込む。

 何度も、何度も。滞空しながら猛スピードで、顔面や体を脚で攻撃していく。

 速度に特化したスピーディチューンである以上、一発一発の威力は然程高くない。しかしダメージは確実に蓄積し、最後の一発が放たれた瞬間、ゴリラ・デジブレインは吹き飛ばされて変異が解除されてしまった。

 

「ダメだ……つ、強すぎるっ!?」

「最初の交戦ではもう少し歯応えがあるかと思っていたが、案外呆気ないものだ」

 

 雅龍はスタイランサーを振り上げ、梅悟に切っ先を向ける。

 このまま捕縛するつもりなのだ。それを察して、梅悟は折れた腕をかばいながら後ずさりする。

 

「この野郎! 俺に近づくな!」

「黙れテロリストめ。貴様も残る仲間の二人も、まとめて手錠を――」

 

 手錠を取り出した雅龍がゆっくりと梅悟に近づこうとした、その時。

 不意に背後から、人の接近する気配と敵意を察知した雅龍は、振り向きつつ大きくサイドステップした。

 見れば、銀色の仮面を付けた長身で足の長い男が、そこに立っていた。

 左手には、青い拳銃型の武装を握っている。グリップの底に当たる位置にスイッチがあり、さらにこの武器にはアズールセイバーなどと同様のマテリアプレート装填用スロットも備わっているのが分かった。

 

「貴様……何者だ!?」

 

 男は何も答えない。ただ、雅龍を睨みつけるようにして見下ろすだけだ。

 代わりに、梅悟がニヤつきながら彼の素性を口にした。

 

「お前は……そうか、デカダンスとあのジジイの助太刀か!?」

「デカダンスだと?」

「何にせよありがたいぜ!」

 

 梅悟はそう言うと同時に、素早く走り出す。

 逃すまい、と雅龍はスタイランサーを片手にすぐ追尾に動こうとするものの、それは仮面の男の銃撃によって阻まれた。

 

「ぐっ!?」

 

 雅龍の右足の装甲の隙間へと正確に着弾した。鷹弘ほどの精密性ではないが、彼に迫る高度な射撃技術であった。

 男はさらに射撃を続ける。今度は威嚇のようなもので、飛び散る火花によって雅龍の目を眩ませる。

 そして次に雅龍が男のいた方を見た時には、彼は姿を消してしまっていた。

 

「一体どこへ……まぁ良い。どの道、あのデジブレインを止めた時点で作戦はほとんど成功している」

 

 スタイランサーを肩で担ぎ、雅龍は長く息をつく。

 

「次はあの三人の援護に向かうか」

 

 

 

「ヒィハハハ! 逃しませんよぉ!」

 

 翠月が梅悟と交戦しているのと同じ頃。

 工事現場の付近を飛行しているアズールは、ワイルドジェッター形態の二体のデジブレイン、レオパルド(松波)ピラニア(都竹)に追われていた。

 どちらもアズールに全く劣らない飛行速度で、彼に追いつこうとしている。

 しかしアズールもまた、剣を振って反撃しながら逃げ続けていた。

 周囲にリボルブやザギークの姿はないが、単独で行動しているアズールを発見したため、レオパルドたちはまず彼を倒す事に決めたのである。

 

「往生際が悪いぞ、仮面ライダー! オレたちに倒されろ!」

「それはお断りだよ」

 

 アズールは二振りの剣を振るい、風の刃でデジブレインたちを迎撃する。

 しかし、その一撃はワイルドジェッターの武装である両爪で容易く防がれてしまう。

 

「クク、散々苦戦させられた仮面ライダー共もこの程度か?」

「どうやら強くなりすぎてしまったようですねぇ!?」

 

 レオパルドとピラニアが、そんな事を言いながらアズールの背を目掛けて爪を振り上げる。

 その時だった。突然、三人の周囲が白い煙のようなもので包まれ、あっという間に視界が妨げられてしまった。

 先程逃げられた時と同じ現象だ。やはりインクであるらしく、白い塗料が体に付着する。

 

「チィッ! だがそう何度も同じ手を食らうものかよ!」

 

 言いながらレオパルド・デジブレインはピラニア・デジブレインの方を見、互いに頷き合ってタービンを稼働させ、突風を起こす。

 すると、煙が吹き飛ばされて視界が元に戻り、建設工事中の建物の近くに立って二人を見上げているアズールの姿を捉えた。

 隠れるつもりだったと判断した二人のデジブレインは、アズールを見下ろして嘲弄する。

 

「ヒハハッ! 無意味なんですよぉ、かくれんぼのつもりですかぁ!?」

「今度こそ終わりだ!」

 

 叫びながら、二人はアズールの真上から猛スピードで降下し、突撃する。

 

「グヘッ!?」

「うがっ!?」

 

 直後、レオパルドとピラニアは顔面に走る激痛と共に、空中で静止した。

 

「な、なんだ!? 何が起きて……」

「何かに挟まっていませんか!? ぬ、抜けない!?」

「バカな! 何がどうなって……!?」

 

 二人がもがいていると、突然アズールの立つ地面が白く染まる。というよりも、白一色で彩られた小屋の床に立っているようだ。

 それだけではない。レオパルドとピラニアの上半身も、真っ白な石膏のようなもので固められている。

 何が起きたのか、自分たちが何をされたのか、二人はそこでようやく気づく事ができた。

 

「作戦成功、だねー」

「上手くハマってくれて助かったぜ」

 

 そんな声が、部屋の入り口から聴こえた。

 そこにいたのは、テクニカルチューンのザギークと、オラクルリンカーとなったリボルブだった。

 彼らの立てた作戦はこうだ。アズールを囮として前に出し、作戦地点でザギークはスタイランサーのインクを使って、この小屋を作る。

 そして、その部屋をリボルブがオラクルリンカーの能力で遮断し、透明化したのだ。

 後は、待機していたザギークが目眩ましをし、アズールは部屋の中に待機。慢心したデジブレインたちは、そのまま目に見えない小屋の天井に頭から突撃するという寸法である。

 

「クソッ! だがこんなもの、すぐに破壊して……」

 

 レオパルドが体を動かして脱出しようとするものの、先程の目眩ましに散布されたインクが小屋のものと同化し、身動きが取れなくなってしまっていた。

 その上、ザギークが既にスタイランサー・ボウガンモードを小屋の壁に向けている。

 

「な、何を……まさか!?」

 

 ピラニア・デジブレインが驚愕の声を発し、より一層激しく体を動かす。

 既に一度交戦した彼には、ザギークが何をしようとしているのか、理解できてしまったのだ。

 

「もう遅いよ。じゃあねー」

 

 スタイランサーのトリガーが引かれると同時に、三人の仮面ライダーは小屋から素速く脱出する。

 直後、スタイランサーの矢弾が刺さっていた部位が赤熱化し、それが小屋全体へと広がり――。

 

「こ、こんなっ!?」

「うわああああ!!」

 

 二人のデジブレインの絶叫と同時に、大爆発を引き起こした。

 

「ひゅー! 派手に吹っ飛んだね!」

 

 にしし、と笑いながら、ザギークが言った。

 レオパルドとピラニアはベタン、と地面に落ち、その拍子にジェットマテリアラーとフレンドーベルが分離。そして、そのまま消滅してデータの状態に戻った。

 

「よーし! マシンも取り戻したところで……」

「一気にやんぞ!」

「はい!」

 

 言いながら三人は、デジブレインたちが起き上がろうとしている間に必殺の態勢に移った。

 

「く、ぐっ!?」

「ヒッ!? ちょ、ちょっと待ってくださ……」

 

 レオパルドが防御のため腕を交差させて身を守り、ピラニアは命乞いのような言葉を吐く。

 無論、三人ともそんな言葉に耳を貸す事はなく、それぞれ手に取ったマテリアプレートを武器に装填した。

 

《パニッシュメントコード! Oh YES(オゥ・イエス)!》

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)!》

《フォレスト・マテリアルシュート!》

《スーパーデュエル・マテリアルカノン!》

《マジック・サイクロンマテリアルスラッシュ!》

『トドメだぁぁぁっ!』

 

 三人の叫び声が重なると同時に、データの矢弾と四色に輝く竜巻が一体となり、レオパルドたちを襲撃。

 その必殺により、レオパルド・デジブレインもピラニア・デジブレインも爆発四散し、変異が解除された。

 

「がああっ、こんなはずでは!? 私は、私はぁ!?」

「オレたちが二度も失敗だと……バカな……!!」

 

 歯を軋ませ、地面に拳を叩きつける松波。そんな彼女へと、ザギークとリボルブはゆっくりと歩いていく。

 

「そんじゃ、捕まって貰おっかな」

「くっ、ふざけるな! 認めないぞ、こんな結末は! 捕まって恥を晒すくらいなら……殺せ!! オレを殺せぇ!!」

「うっひゃー。ウチ、マジでくっ殺とか言っちゃう人初めて見たわ。こりゃ意地でも捕まえてヤラシイ事しなきゃ」

 

 言いながら、ザギークはボウガンを松波と都竹に向け、拘束のためにインクを打ち込もうとする。

 だが、その時。

 ザギークと松波たちの間に、突然に不自然な丸い影が差し込んだ。

 見上げると、そこいたのは二体のデジブレインの融合体、ハーミットクラブとシーアネモネであった。

 

「いっ!?」

 

 当然、この二体に飛行能力はない。そのままの勢いで、ハーミットクラブ・デジブレインは地面に墜落した。

 危うく落下に巻き込まれそうになったザギークは、直前で気付いたために難を逃れる事ができた。そして、松波と都竹はある程度落下地点から距離があったため、二人共無事だ。

 急な事態に松波は驚くが、これは彼女らにとってチャンスであった。

 

「逃げるぞ!」

「了解しました!」

 

 そんな会話を交わし、ヒュプノスの二人は大急ぎで走り去る。

 

「あぁ!? くっそー!」

「チッ、仕方ねェ……翔! 俺と浅黄でこいつらを仕留める、お前はあの二人を追え!」

 

 言いながらリボルブはデュエル・フロンティアV2を手に取り、ライドオプティマイザーのトリガーを引いて起動した。

 

《デュエル・フロンティアV2!》

 

 音声が鳴り、プレートを装填するリボルブ。それに対してデジブレインも黙ってはおらず、シーアネモネが触手を伸ばして攻撃を始めた。

 だが、そこはザギークがスタイランサーをスピアーモードに切り替え、振り回して攻撃を防ぐ。

 

《ユー・ガット・スーパーメイル!》

「リンクチェンジ……!」

Alright(オーライ)! オプティマイズ・マテリアライド! デュエル・アプリV2! 最速のガンスリンガー、インストール!》

「ホラ、速く行け!」

「……分かりました!」

 

 背中で銃声を聴きながら、アズールは追跡を始めるのであった。

 

 

 

 リボルブたちと別れた後、ヒュプノスの二人組をアズールは上空から追っていた。

 二人は既にシャーク・デジブレインとダムセルフライ・デジブレインに変異しており、アズールから逃れようとしている。

 

「しつこいですねぇ……!」

 

 言いながら、ダムセルフライは建物の中へと逃げ込んだ。それに続き、シャークも侵入する。

 

「逃さない!」

 

 着地したアズールも、その工事中の建造物の内部に入る。

 そして、そこで目にした光景に愕然とした。

 

「アシュリィ、ちゃん……?」

 

 偶然にも現場に居合わせてしまったアシュリィが、デジブレインたちと鉢合わせしてしまったのだ。

 彼女は今ダムセルフライによって羽交い締めにされ、首筋にダガーを突きつけられている。

 

「ヒ、ヒヒヒィ! 我々は運が良いですよリーダー」

「あぁ……だが、こんなやり方は……」

「何を仰るんです。全てはノーブル様のため! そして我々が成り上がるためなのですよ!」

 

 不満を顕にしているシャークを無理矢理黙らせながら、ダムセルフライはアズールに向き直った。

 アズールは、全身から青いノイズをオーラのように放ちながら、剣を構えて静かに立っている。

 

「その子を放せ」

「ヒヒッ、そちらこそ変身を解いてベルトを捨てなさい。人質がどうなっても……」

「放せ。さもなければお前を殺す、何かする前にな」

 

 感情の感じられない冷たく放たれた言葉に、ダムセルフライだけでなくシャークも背筋を震わせる。

 それまでの様子とは打って変わって湧き出ている彼の殺意が、二人には恐ろしく感じられたのだ。

 

「う……!?」

「放せ」

「こ、この……ガキがこの私をナメるなァッ!!」

 

 半ば自暴自棄になって叫びながら、ダムセルフライは突き立てたダガーを持つ手に力を入れる。

 その瞬間。ダガーを刺すよりも遥かに速く、アズールはダムセルフライの顔面に向けてアズールセイバーを投擲した。

 投げつけられた剣はダムセルフライの左目を抉り、悲鳴を上げるよりもさらに速くアズールは飛び出す。

 

「え、な、あ?」

 

 目を貫かれたショックとダメージにより、何が起きたのか分からないまま、ダムセルフライは思わずアシュリィを離してしまう。

 それを見たアズールは、一気にダムセルフライへと駆け出した。

 

「ハァッ!!」

 

 大きな掛け声と同時に、アズールはアズールセイバーV2を振り、顔を何度も斬りつける。

 そして眼に突き刺さった剣も逆手で抜き、背後から襲いかかろうとしているシャークの腹に突きつけた。

 

「ガッ!?」

「キ、キィィィ~!? わ、私の顔が、眼がァ!!」

 

 二人の変異が解け、たたらを踏んで地面に倒れた。

 その後もなお、アズールは剣を握りしめて都竹の方へと歩いている。

 

「ヒッ」

「よくもあの子をこんな危険な目に……許さないぞ……絶対に」

 

 怒りのままに、アズールは左眼と顔中から出血している都竹に剣を向ける。

 その後姿を見て、声を震わせながらも松波が叫んだ。

 

「や、やめろ、やめてくれ! 都竹、立って逃げるんだ!」

「ヒィ、ヒィィィィィ!」

 

 腰の抜けた都竹は、情けない悲鳴を発して涙と血で顔をぐしゃぐしゃにしながら、這うようにアズールから遠ざかる。

 そんな彼を、アズールは容赦なく追いかけた。

 

「逃がすわけないだろ」

「待って! 一体どうしたの、こんな事やめてよ!?」

 

 アシュリィも、怯えながらも彼に声をかける。

 しかし、そんなアシュリィの言葉でさえ、今のアズールの耳には届いていなかった。

 ただ獲物を前にした狩人のように、じわりじわりと都竹を追い詰めているだけだ。

 

「い、嫌だ! 私は、私はこんなところで終わるワケにはぁぁぁ!」

 

 追いかけ追い詰め、アズールが剣を振り下ろそうとした、その時。

 一発の矢弾がアズールの手に命中し、剣が落ちる。

 そこにいたのは、雅龍に変身した翠月であった。スタイランサー・ボウガンモードで、アズールの右手を撃ったのだ。

 

「英、さん?」

 

 きょとんとして、アズールは振り向いた。

 仮面越しでも分かるほどに、雅龍は険しい顔と声で、アズールに向かって叫ぶ。

 

「自分が何をしようとしているのか分かっているのか!? 散々私に彼女を消すなと言っておきながら、一体何を考えているんだ君は!? 正気か!?」

「え……?」

 

 言われて初めて気付いたかのように自分の手を見つめ、アズールはハッと我に返り、もう片方の剣も落としてしまった。

 その隙を見て、松波は都竹に肩を貸して走り、窓から外へと飛び出して去った。

 

「僕は、僕は今、何を?」

「本当に正気を失っていたのか……もう良い、連中も逃げてしまった。作戦は終了だ」

 

 頷き、翔は変身を解く。

 そして改めて、アシュリィの方へと向き直った。

 

「アシュリィちゃん、大丈夫? 怪我、してない?」

「……」

「帰ろう、一緒に」

 

 慰めるようにそう言って、翔は右手を差し出す。

 しかし彼女は俯いて沈黙したままで、その手を取らない。

 

「アシュリィちゃん?」

「……」

 

 手を伸ばそうとすると、アシュリィは翔に背を向けてしまった。

 

「え……」

「私は……私は、あなたや皆とは行けない」

「どうして、そんな事を」

「だって! 私、人間じゃないんだよ!」

 

 身を震わせながら、アシュリィは自らの肩を抱く。

 その眼には、薄っすらと涙が滲んでいた。

 

「あなたも見たでしょ? 私は皆とは違う生き物だった。それも、人にとって害しかない……デジブレインなんだよ」

「アシュリィちゃん……」

「私に居場所なんかないよ! だからもう、私の事は放っておいてよ! それができないなら、私なんか消して――」

 

 悲鳴じみた叫び声を放つアシュリィの背を、翔は優しく抱きしめた。

 

「え……」

「君を消したりなんかしない。消させたりなんかしない」

「なん、で……私、デジブレインなのに」

「そんなの関係ないよ。君がデジブレインだろうと、どんな過去があろうと、僕にとって君は大切な存在なんだ。一緒に生きていて欲しいんだよ、だから……」

 

 ぽたぽたと、翔の腕にアシュリィの涙が溢れる。

 アシュリィは震える手で、翔の腕にしがみついた。

 

「もう一人で哀しまないで。僕が君の居場所になるから」

「う、うぅ……ううう……うああああ……」

 

 翔から言葉をかけられ、アシュリィはただただ彼にすがって嗚咽を漏らす。

 そんなアシュリィが落ち着くまで、翔はずっと傍にいるのであった。

 そうして、しばらくの後。

 気分が落ち着いたアシュリィは、少し赤く腫れた瞼を手で擦り、翔の顔を見上げる。

 

「……本当に、一緒にいていいの?」

「もちろん。だから帰ろうよ、僕らの家に」

「……うん」

 

 アシュリィが頷くと、翔は嬉しそうに微笑んで彼女の手を取る。

 するとアシュリィは頬を赤く染め、慌てながらもその手を固く握り返した。

 だが、その時だった。

 二人の様子を、座り込んで遠巻きに眺めていた翠月が、遠慮がちに声をかけた。

 

「……取り込み中のところ悪いが。まだリボルブとザギークが戦っているのではなかったか?」

「あっ!! そうでした!!」

 

 指摘を受け、ぎょっと目を見開く翔。そんな慌てふためく少年に苦笑しつつ、翠月は立ち上がる。

 

「まぁ、あの二人なら心配ないと思うが……何も連絡がないのは妙だ。行ってみよう」

「はい!」

 

 明るい表情で元気良く返答し、アシュリィの手を握ったまま、翔は駆け出した。

 そんな背中を、翠月は眉をしかめながら見据えている。

 不信感、あるいは奇怪なものを見る目だ。

 

「……不可解、というより異常だ」

 

 そんな言葉を、ぽつりと呟いた。

 翠月は、翔のこれまでの行動について思いを馳せているのだ。

 自分と戦闘した時も今回彼女が人質になった時もそうだが、翔はアシュリィに危害が加えられた瞬間、激情して攻撃的な性格に転じている。

 本来の彼は、短い付き合いの翠月でも分かる程に穏やかな人物であるにも関わらず、だ。

 そして、彼女が安全だと分かれば急激に冷静になり、何事もなかったかのように振る舞う。翠月の目には、それがひどく不自然に映った。

 これはまるで。

 

「まるで、何かに操られているような……」

 

 口にしながら、翠月はフッと笑う。

 考えすぎだ、いくらなんでもそんな事はありえない。そう思って、考えを振り払う。

 しかし、翔の精神状態がいささか不自然かつ不安定な事は、翠月から見ても明らかな事であった。それ故、翠月は今回の事態を頭の片隅に留めておいた。

 そして翠月は、いつの間にか先へと向かっている翔たちの後を追い、鷹弘たちに会いに向かうのだった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「これは……一体どういう事だ!?」

 

 鷹弘たちのいた場所に辿り着いた時、翠月はそんな言葉を発した。

 翔とアシュリィも、その場で起きている事態に愕然としている。

 あの鷹弘と浅黄が、V2の力を使うリボルブとザギークが、変身を解除させられて戦闘不能となっているのだ。

 鷹弘は脇腹を押さえて地に膝を付き、浅黄に至ってはその場で大の字に倒れて失神している。

 また、彼らの目の前には二人の男女が倒れている。破損しているがガンブライザーを装着しているため、あのハーミットクラブとシーアネモネの本体であるという事が分かった。

 

「静間さん、何があったんですか!? 今、どういう状況なんですか!?」

 

 翔が問いかけると、鷹弘は苦しげに舌打ちしながらも、答える。

 

「あいつがいきなり襲いかかって来やがった。俺たちだけじゃなく、デジブレイン諸共な」

「あいつ……?」

 

 その視線の先は、工事中の建物の屋上に注がれていた。

 見れば、そこには翠月を襲撃したのと同じ、銀色の仮面の男が立っている。しかもその手には銃型の武装だけではなく、ハーミットクラブとシーアネモネのマテリアプレートも握られている。

 翠月は忌々しそうに彼を睨みつけながら、叫ぶ。

 

「また貴様か! 私の邪魔もしてくれたな……一体何者だ!」

 

 仮面の男は、無言で四人を見下ろし――ゆっくりと声を発する。

 

「我が名はエイリアス。お前たち仮面ライダーを憎み、呪う者……」

 

 エイリアスと名乗った男は、三人が想像していたよりも若い声だった。

 恐らく翔や鋼作たちとそう変わらない年齢だろう。少なくとも、鷹弘はそう思った。

 

「今回の俺に課せられた任務は彼ら(ヒュプノス)を逃がす事。それがデカダンス様のご意思だ」

「デカダンスだと? 街を容易く陥落させる事ができるという、例のCytuberか」

「そんな事にはならない、お前たちがあの方の前に立つ事など決してない」

 

 瞬間、翠月は背筋に鋭く悪寒を感じ取った。

 頭上の男が、凄まじい怨念を放ったのだ。それも、武術を極めた自分でさえ危機を感じる程の、殺意に近いものを。

 翔と鷹弘も同じものを感じ取っているようで、額から汗を流していた。

 

「お前たち仮面ライダーを、俺が一人残らず抹殺するからだ」

「なに?」

「いずれ来る戦いの時を楽しみにしておくが良い……」

 

 それだけ言い放つと、エイリアスは突然背後に現れたゲートを通じて、姿を消した。

 

「サイバー・ラインに還ったか……」

「エイリアス……一体何者なんだ……」

 

 突如として現れた新たな敵、仮面の男エイリアス。

 仮面ライダー二人とデジブレインを同時に打ち倒すその実力に、翔たちは動揺を隠せないまま、自分たちも帰還を果たすのであった。

 なお、浅黄は目覚めるのに十分の時を要した。




「ふぁ……」

 翌日。
 自室で目を覚ました翔は、ゆっくりと身を起こし、部屋を出て階段を降りる。
 戦いの疲れが抜けきっておらず、まだ重い瞼を瞬かせ、まずは顔を洗って眠気を取り除くために僅かに開いている洗面所の扉を勢い良く開いた。
 ロクに確認もしないまま。

「……」
「……」

 アシュリィがいた。
 どうやら朝風呂に入ろうとしていたようで、二人が初めて出会った時と同じ、一糸まとわぬ姿を翔の前に晒している。

「……」

 ぱちりぱちり、と翔がまばたきをする。
 彼の目に映っているのは、柔らかく艶めかしいアシュリィの肢体だ。
 程々に長く、少し肉の乗った艷やかな白い太腿。そこからさらに丸みを帯びた形の良いヒップがあり、よく食べる割に出会った時と全く変わっていないくびれたウェスト。そして、年相応とは思えない、豊かに大きく張った形の良い乳房だ。

「……」

 急激に翔の眼と頭が冴えていき、意識が明確になっていく。
 アシュリィの顔がトマトのような赤に染まり、平手が翔の顔を捉えたのは、その直後の事だ。

「ショウのバカーッ!!」
「痛っ、痛いって! ごめんごめんごめん!」

 倒れ込んだ翔の体に馬乗りになって、アシュリィはぽかぽかと彼の頭を叩く。

「ちゃんとノックぐらいしてから開けてよ! バカ! スケベ! ドスケベ!」
「悪かった、悪かったよ! っていうか隠して、全部見えてるからぁっ!?」
「バカーッ!!」

 耳まで顔を赤くしたアシュリィの怒声が、家の中に響き渡るのであった。
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