様々な色彩が入り混じった、ドス黒い靄が吐き出される大穴の前で、スペルビアは言った。
穴を取り囲む七本柱の内のひとつ、頭部に一本角を生やした馬のレリーフが彫られたそれには、ロックが所持していたロックンロール・ビートのマテリアプレートが接続されている。
赤い光が柱の頂点から放たれ、これに繋がったケーブルを通して大穴へと吸収されているのが分かった。
「どうやらデカダンス様と彼女の老爺が動きを見せているようですね。まだ誰が戦いに出るのか決める前だというのに」
スペルビアはそう言いながらも、楽しそうに笑みを浮かべている。
「さて……そろそろ会議場に行きましょう。それでは、また」
大穴に向かって一礼した後、スペルビアは瞬時に姿を消した。
サイバー・ラインの中にある、広大な黒い空間内。
スペルビアがホログラムではなく実体として姿を現したその場所は、巨大なテーブルと七つの椅子が並ぶ会議場だった。
とはいえ、今やその上位Cytuberも仮面ライダーに敗北した
「皆様ごきげんよう。私めに無断で随分と勝手をされておられるようですねぇ」
実に愉快そうな口振りでスペルビアがそう言った。
会議場には、残る上位五名以外のCytuberたちが数名集まり、自らの主の背後に立って会議に同席しているのだ。
ヴァンガードとプレデターの後ろには誰もいないが、デカダンスの方には仮面を被った老人と銀仮面のエイリアスが控えており、ノーブルの背後には頭や腕に包帯を巻いた松波が立っている。
さらに、ハーロットの背後には、二人の看守帽を被った人物が立っている。年頃は14歳から15歳と言ったところで、長い黒髪を膝裏まで伸ばした左目の小さな泣きぼくろが特徴的な少女と、魚型の髪留めを付けて金髪を頭より低い位置で左右に結っている褐色肌の少女だ。
黒髪の少女は眼が黄色、金髪の少女は赤で、どちらも精巧に細工された宝石ように美しく輝いている。また、看守を思わせるような黒色のジャケットの下にマイクロレザービキニを身に纏っており、さらにミニスカートを穿いているなど、体型も含めて歳の割にどこか艶めかしい雰囲気を醸し出している。
「あなた方は本来、ここに来るべきではないはずなのですが?」
話す内容とは裏腹に、相変わらずスペルビアは楽しそうな様子だ。
すると、爛々と目を輝かせて、真っ先に金髪の少女が口を開く。
「だってぇ~、あたしとツキミだけお留守番だなんてヒマなんだもん」
「くすっ。フィオレ姉様ったら、本当は母様と離れるのが寂しいんでしょう?」
「そ、そんなんじゃないしぃ! ツキミだって、向こうじゃママにべったりなクセに!」
「私がここに来たのは、例の仮面ライダー様の話を聞くためですのよ? いずれ私たちの『王子様』になる殿方ですもの……あぁ、考えただけでも身体が火照ってしまいますわ。はやく赤ちゃんを作れる歳にならないかしら」
ツキミと呼ばれた少女が指を咥えて恍惚とした表情で言うと、その様子を見ていた松波は苛立って地面を強く踏む。
「お前らいい加減にしろ! ここは重大な会議の場だ、下らん私語は慎め!」
会議場に響き渡る彼女の怒りの声に、フィオレは眉根を寄せて反応する。
「えぇー? なぁにお姉さん」
フィオレの両眼が怪しく光り、隣のツキミもにっこりと笑みを見せつつ、右手に持つ黄色いリボンの付いた鞭を前に掲げる。
「あたしたちと、ヤる気?」
「ぐっ……!?」
「遊び相手ならあたしたち、別に女の子でもいいんだよ? 今すぐ玩具にして――」
赤色のリボンで飾られた乗馬用の鞭を手にして、フィオレはツキミと共にその場を離れようとする。
だが、その時だった。
「二人とも。後でお仕置きされたくないのなら、いい子になさい」
兎のぬいぐるみ、ハーロットがそんな言葉を放つと、二人はビクリと身を震わせて元の位置に戻った。
「ご、ごめんなさいママ」
「反省してますわ」
それを聞いて、表情は分からないもののハーロットは含み笑いを発した。
「いい子ね。その調子で、立派なレディになれるまで頑張ってね」
『はーい!』
「あなたもごめんなさい、私の娘たちが」
ぬいぐるみはじっと動かないまま、声だけが聞こえる。
「いや……オレは別に。こちらこそすまない」
松波は息を整えつつ、遠慮がちながらもしっかりと返答した。
そして、一度咳払いをしてから、デカダンスの後ろに立つ銀仮面に視線を向ける。
「ところで、そいつは何者だ? Cytuberにそんな男はいなかったはずだが?」
自分に関する話であったためか、エイリアスは僅かに首を動かし、松波を見る。そのあまりにも不気味な姿に、松波はぐっと息を呑んだ。
しかし、何も話さない。代わりに隣に立つ老人が口を開いた。
「ワシが偶然見つけた人材じゃよ。まだ正式に所属はしていないが、ゆくゆくはCytuberとして本格活動させるつもりじゃ」
「確かに、既に666人という数から欠けてしまっているが……勝手に増やして良いのか? そもそもそいつは使い物になるのか?」
「安心せい……」
仮面の下で、老人が唇を釣り上げる。
「誰が相手であろうと負けんよ、エイリアスは。流石にスペルビア
「ほう」
彼の言葉に反応したのは、スペルビアだった。
「そこまでの自信がお有りですか、
「なっ!? それは……!」
松波が横から介入しようとするものの、彼女の前に座るノーブルがそれを止めたので、口を噤んでしまう。
現状、ノーブル側の戦力は使えなくなってしまっているのだ。梅悟は腕を骨折しているし、都竹も先の戦闘の負傷によって左眼を失明した。松波も、ダメージが抜けきっていない。
今の自分たちが名乗り出たところで何もできはしない。それが分かっているから、ノーブルは彼女を制止したのだ。
「ほほ、ありがたい話じゃ。良いかなデカダンス?」
まるで自分の娘に語りかけるように優しい声で、フェイクマンと呼ばれた老人はデカダンスの頭を撫でる。
彼女は頷き、どんよりとした瞳を真っ直ぐにスペルビアに向けた。
「私~……めんど~いのはイヤだけど……ロックの歌、結構好きだった……ストライプも悪い子じゃなかったし……めんど~いけど……あいつら倒す。絶……対」
「おや、そうですか」
「だから……私が勝ったら、願い事……叶えてくれる……?」
虚ろな眼差しを受け、スペルビアはただ微笑んで返答する。
「もちろんですとも。約束通り、あなた様のご両親に会わせて差し上げましょう」
「分かった。やる」
こうして会議は終了となり、一人を除いて全員がその場から消える。
唯一ここに残ったヴァンガードも、ゆっくりと立ち上がって帰還の準備を始めた。
「どいつもこいつも、俺はもう終わったモンだと思ってるらしい。ま、その方が好都合だが……」
そう言いながら取り出したのは、紫色のマテリアプレートだ。
ただし従来のものと違い、左側にヒンジと、その先に恐竜の頭部の骨格を模した装飾が伸びている。
「今の内にせいぜい楽しんでろよ。どうせ最後に笑うのはこの俺様なんだからなァ」
※ ※ ※ ※ ※
アシュリィが帰還した、数日後の事。
彼女は薄い青色の検査着姿で、ホメオスタシスの地下研究所にて、身体検査を受けていた。
デジブレイン化の能力。その実態を明かすために。
これは自分の正体を知りたいという、アシュリィ自身が望んだ事でもある。
「大丈夫かな……」
検査の結果を待つ翔が、不安そうに呟いた。
待機中の間にネットニュースを閲覧しているが、どこも『精神失調症』や『行方不明者急増』の話題ばかり。それらは全てCytuberが関わっていると見られるものだ。
そうしてしばらく時間が経過すると、検査室からアシュリィが出て来た。翔は飛び出すように立ち上がり、彼女の前に向かう。
「アシュリィちゃん、どうだった!?」
問われるもアシュリィは僅かに言い淀み、困ったように眉根を寄せる。
すると、検査室の扉が再び開いて浅黄がひょっこりと顔を出した。
「ウチが説明するよ」
「浅黄さん?」
「……ワケ分かんないと思うけどね、この子は基本的に人間なんだけどデジブレインでもある」
いきなりぶつけられた結論に、翔は絶句する。しかし、口を挟む間もなく浅黄は続けた。
「感情エネルギーで人間が仮面ライダーに変身したりガンブライザーでデジブレインになるように、この子も自分の感情を昂ぶらせる事で、人の肉体を維持したままデジブレインに変異できるんだ。そういう……体質っていうのかな? 遺伝子の生体情報とデジブレインのデータが見事に融合してるんだよ。勝手にデジブレインに変異しちゃったのは、スペルビアに心を揺さぶられたせいだろーね」
「でも、もう自分の意志でコントロールできるんですよね?」
「うん……ただ」
今度は浅黄が言い淀む。
伝えるべきか、止めておくべきか。翔の目から見ても、明らかに悩んでいる様子だ。
しかし一度深呼吸してから頷き、浅黄は話を続ける。
「多分、この体質は一生治らない。さっきも言ったけど融合が完璧すぎるんだ……まるで生まれた時から『そう』だったみたいに。そのお陰でゲートが必要なくなってるけど、これを剥がすってのは、アシュリィちゃんがアシュリィちゃんじゃなくなるって事を意味する」
「それは……つまり」
「死ぬって事ね」
通りで話したがらないはずだ。
翔は沈痛な面持ちになって、そう思った。
しかし、これが治らないものであったとしても、人前で無闇に変異しないようにすれば日常生活に支障はないだろう。その点に関しては、翔は安心していた。
「あー、あとさ」
そんな翔に、浅黄は話を続ける。
まだアシュリィについて何かあるのだろうか。翔の疑問と反して、浅黄の口から出たのは意外な話題だった。
「君、最近変わった事なかった?」
「変わった事?」
自分の事を訊かれるとは思っていなかった翔は、目を丸くする。
浅黄は頭の中で言葉を選びながら、引き続き翔に質問を続けた。
「いや、ホラ……ぶっちゃけるとさ、スペルビアとの戦いで起きた事について聞きたいワケよ」
「……あー……」
言われて納得しつつも、翔は困ったように頬を指で掻いた。
「すいません、僕にもその時の事はよく分からないんです。無我夢中だったし」
これは事実である。
翔自身も、リボルブの戦闘時の映像記録を見て、初めて自分がスペルビアの攻撃を生身で跳ね返していた事を知ったのだ。
不安に思いつつも、茶化すような口調で翔は浅黄に聞き返した。
「まさか、僕までデジブレインって事はないですよね?」
「あっははは、翔くんもそーいう冗談言うんだね? だいじょぶだいじょぶ、検査の結果から見てもそれは違うと思うから安心して良いよ」
そう聞いて翔は微笑みつつも、これで新たな疑問が生まれる事となった。
結局、この力の正体は何なのか。自分に何が起きているのか。その謎を解明できる気配がない。
しかし浅黄曰く、研究が進んでいけば恐らく明らかになっていくだろうという。少なくとも、同席していた鷲我はそのように考えているとの事だ。
「……そういえば、会長にも分からなかったんですね?」
「まぁねー。いくら鷲我だって、何でも知ってるワケじゃないって事よね」
その言葉に翔も同意する。直後に浅黄はある事に気付いて、また翔に質問を投げた。
「そーいやさ、いつものお友達と鷹弘はどしたん?」
「鋼作さんたちは新しいマテリアプレートの開発中で、静間さんは取り調べ中ですよ。ホラ……律さんの」
「あぁ、そっか。どうなるんだろうねぇ、あの子……」
黄昏れたような表情で、浅黄は言った。アシュリィと翔の尻を揉みながら。
即座に怒りのビンタが飛んだ事は語るまでもない。
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃。
鷹弘と翠月と宗仁は、地下研究施設の収容所の個室で、元Cytuberのロックと名乗っていた少女、伊刈 律への尋問を行っていた。
後ろ手に手錠をされた律は敵愾心を剥き出しにし、三人を睨みつけて唸っている。
「……伊刈 律。お前はなぜCytuberに入った?」
「……」
「他のCytuberと関わりはあったのか?」
「……」
先頃に目を覚ましてからずっとこの調子で、質問に答える様子を全く見せない。進駒と違い、明らかに非協力的だ。
このまま続けても平行線なので、鷹弘は少し話題を変える事にした。
「お前が犠牲にした連中……元チームメイトの事だがな、実はお前よりも前に目を覚ましてる」
「……!」
僅かに眉を動かし、律は反応を示した。それを目にした上で、話を続けた。
「かわいそうにな。あいつらみんな、お前に裏切られたんだ」
「……黙れ」
「きっと何が起きたのかも分かってねェだろうよ。何せ、精神失調症で突然意識を失って――」
「黙れって言ってんだろ!」
身を乗り出そうとして躓いてしまい、律は机の上に顔を打ち付けてしまう。
しかしそれにも構わず鷹弘の顔を見上げて、歯を軋ませている。
「アタシだってずっと後悔してた!! それに……仕方ないだろ!? ああしなきゃ、みんなの復讐ができなかったんだ!!」
「だったらお前はスカウトマンやらあの歌手グループやらを生贄にした時点で、止まるべきだった。その時点で復讐は終わってるだろうが、他の人間まで巻き込む理由はない」
「うるさい!! ホメオスタシスも警察も、アタシたちを助けられなかったクセに!!」
律の目に憎しみの火が灯り、鷹弘は彼女の言葉に眉根を寄せた。
「本当に悪いのはアタシたちじゃなくてあいつらなのに!! なんであいつらが無事で、アタシが責められなきゃいけないの!?」
「……そうだな、本当の悪党はあのクソッタレどもだ。だが、そのせいでお前まで取り返しのつかない事をするところだったんだぞ?」
ぐっ、と律は言葉を詰まらせる。間髪入れず、翠月は続けた。
「安心しろ、あのクズどもには法の裁きが待っている。既に警察の手が入っているからな」
「でも……あいつらの味方は多い。会社に護られるかも知れない……」
「そんな事は絶対に許さん、絶対に。私が連中に正当な裁きを与えると誓おう」
「……」
「信じられないかも知れんが、君が思っているほど世の中は悪魔ばかりじゃない。心から罪を憎む者がここにいる。信じろとは言わない、だがここは任せてくれないか?」
律からの返事はない。
鷹弘と翠月はチラと時計を見て立ち上がり、彼女の拘束を解いた。
「今日の取り調べはこれで終わる。他にやる事もあるからな」
「君も、自分の現実と正しく向き合うべきだ……ストライプ、栄 進駒のように」
やはり、律は返事をしない。
しかし二人が出ていく直前、その後姿を呼び止める。
「……あんたら、次はどうするつもりなんだ。デカダンスやノーブルと……戦う気か」
「当たり前だ。それが俺たちの仕事だからな」
「そうか……。……デカダンスの居場所、知ってるのか?」
眉をひそめ、首を横に振る鷹弘。
実は、その点について未だに成果が上がっていないのだ。
律が目を覚ます前にも進駒に聞き込みしたが、彼は他のCytuberの領域の座標を知らないのだという。唯一知っていたのが、目の前にいる
「だろうな。アタシから本当に聞きたかった事って、それなんだろ?」
「何が言いたい」
「あいつは一度、アタシを領域に招待した事がある」
鷹弘と翠月が目を見張り、互いの顔を見合った。
律は続けて述懐する。
「あいつの領域で、アタシにコンサートして欲しいって頼まれてさ。その時に、実際に現地へ行ったんだ」
「座標は分かるのか?」
「ああ。教えてやるよ……ただ……」
僅かに口ごもる律。その表情は、僅かばかりに恐怖の色に染まっていた。
「正直、行かない方が身のためだ。今だから分かるけど……ヤベェんだよ、あいつの領域は」
「ハッ、危険なんざ最初から承知の上だぜ」
「……忠告はしたからな……」
鷹弘はフンと鼻を鳴らし、詳しい座標を聞いてから彼女に背を向ける。翠月も同様に出口へ向かって歩き出した。
すると、律は再び二人へ「なぁ」と声をかけた。
「アタシ、また会えるかな……前にみたいに一緒に音楽やれるかな……みんなと……」
「……さぁな。お前次第だろ」
そう言ってから、今度こそ鷹弘は静かに扉を閉めるのであった。
二人はそのまま各自の持ち場に向かう。鷹弘は司令室、翠月は電特課のオフィスだ。
「あれから、まだデカダンスからの動きはないみたいだな」
道中で先に口を開いたのは翠月だ。鷹弘は首肯し、ふぅと息を吐く。
「例のエイリアスって野郎の事も気になる。俺も浅黄も、あの野郎に手も足も出なかったぜ」
「V2を使う仮面ライダー二人を一方的に打ちのめすか……相当な手練のようだが、だとすれば一体今まで何をしていたのだろうか」
「……確かに、妙なんだよな。そんな戦力があるなら、あの三人組よりもずっと前に出て来そうなモンだが」
「何か理由があって投入に時間がかかったのか……?」
腕を組みながら、二人は頭を悩ませる。しかし、やはり結論は出ない。
ともかく今できる事は、再びエイリアスが現れた際に、倒されないように対策を立てる事。
そしてもうひとつ。デカダンスの居場所を探り当て、こちら側から打って出ればいい。律のお陰で、この件については上手く行きそうだ。
「しかし、向こうに踏み込むにせよ現実世界を手薄にするワケには行かない。やはり私が残って……」
「いや、今回はあんたがサイバー・ラインに行きな」
「何……?」
「あんたもサイバー・ラインに慣れておくべきだし……翔と話す事、あんだろ」
ポンッと鷹弘に肩を叩かれ、翠月は申し訳無さそうに頭を下げる。
「……気を遣わせてしまってすまないな」
「ンな事気にすんなよ。そもそも俺はホメオスタシスのリーダーだ、この世界を守んのは俺の仕事でもある」
そう言って、鷹弘は司令室に向かう。デカダンスの領域への侵攻作戦を立てるために。
※ ※ ※ ※ ※
その翌日。
翔と翠月と浅黄とアシュリィを含む数名のエージェントが、サイバー・ラインのデカダンスの領域へと辿り着いた。
前日に行われた鷹弘との作戦会議により、彼らが侵攻作戦のメインメンバーに抜擢されたのだ。
鷹弘自身は予定通り、手薄にならないよう街の警護に当たる。陽子は鷹弘のサポート、鋼作・琴奈は引き続きマテリアプレートの作成だ。
「伊刈 律曰く、ここには来ない方が身のためだという話だったが……」
近場にあった枯れた木に登り、周辺の様子を探っていた翠月が呟く。
デカダンスの領域は、今までの古城や市街とは打って変わって、広大な砂漠地帯だった。
太陽が存在しないため熱に悩まされる心配はないが、砂塵が吹き荒れ、見通しが悪い。辛うじて遠方に街がある事は分かるものの、ここからではとても状況が分かりそうもない。
その上、レドームートンの探知能力も機能していない。どうやらこの砂には、通信機能を妨害する効力があるようだ。
「まさかこんな世界を築いているとはな」
木から降り、翠月は言った。
そして、とりあえずは遠くに見える砂漠の街で拠点を立て、その上でデカダンスの潜む場所を探すという方針を定める。
すると真っ先に浅黄が頷き、その場で駆け足になる。
「速く行こ! もーめちゃめちゃ砂が体について気持ち悪いからさ、さっさと洗いたい!」
「あっ、私も!」
アシュリィも同調し、同じく駆け足をする。
翔と翠月は互いに顔を合わせて苦笑しつつ、全員で街に向かって歩き出すのであった。
「……すまなかったな」
砂に足を取られそうになりながらも歩いていると、翔は隣にいる翠月から声をかけられた。
突然の謝罪に何事かと思って首を傾げると、翠月はそのままゆっくりと、自分の胸の内を話し始める。
「アシュリィくんがデジブレインだと判明した時の事だ……いや、結局彼女は人間だったワケだが。あの時は、私の判断が早計すぎた。そのせいで罪のない者の命を失わせ、その上危うく君に人殺しの咎を負わせるところだった……本当にすまない」
「いえ、もう過ぎた事ですよ。それにあの時は、僕だってカッとなってしまいましたし……すいませんでした」
「しかしな……」
「あっ、じゃあ」
翔はにっこりと笑い、あるマテリアプレートを取り出してそれを翠月の手に握らせた。
「これ、使って下さい」
「これを……?」
「一緒に皆を守りましょう。それがアシュリィちゃんのためにも、僕らのためにもなりますから」
そんな翔の笑顔に、思わず翠月も頬を緩ませる。彼の眼はまるで、翔に別の誰かの面影を見ているようだった。
歩きながら、翠月は回想する。
「君の瞳を見ていると、私の家族を思い出すよ」
「家族?」
「ああ。私の父は警官、姉はジャーナリストだった。母はそんな私たちを支えてくれる人で……三人とも、私の誇りだった」
――だった。
過去形で発せられた言葉に、翔は違和感を抱く。
ひょっとすると。翠月の家族は、既に。そんな考えが頭をよぎる。
しかし彼の口から真実が語られるよりも前に、一行は街に辿り着いてしまった。
「これは……」
到着したホメオスタシスの面々の表情が、険しくなる。
街並みはどこかエジプト風で、不思議な事に砂塵は治まっているものの、全体的に活気が感じられない。
それ自体は前回のロックの作った街もそうだったが、この街は薄暗さも相まって独特の不気味な空気を醸し出していた。
しかも、ロックの時にはいた巡回のデジブレインも見当たらない。
「妙な雰囲気だな」
歩きながら、翠月は呟く。翔もここに来てからずっと不気味な気配を感じ取っているが、だからと言って尻込みはしていられない。
砂塵がなくなった事で、レドームートンの機能も復活している。一行は、拠点を建設できそうな場所を探す事となった。
「やっぱりデジブレインはいないみたいだよ」
アシュリィの言葉に、唸る翔。
「安全なのは良い事だけど、一体どうしてだろう?」
まさか、デカダンスは自分たちが来る事を全く予想していないのか?
そんな都合の良い考えが浮かんだ、その時だった。
「ひゃあああ!?」
浅黄の悲鳴が、街の静寂を打ち砕く。
何事かと思って翔・アシュリィ・翠月が向かうと、そこには信じられないものがあった。
「こ、これは……!?」
街のとある家屋の中。
ロックの領域で見たようなデータの塊ではない、本物の生きた人間が、寝転がっていたのだ。
翔が寝転がっている女性に近づき、軽い力で頬を叩く。
目を覚ます様子はない。というよりも、彼女は虚ろな眼をしてヨダレを垂れながら天井を見上げており、どうやら眠っているワケではないようだ。
「どういう事だ? 確かに人の気配はなかったはずだが」
「恐らく……ずっとこの態勢のまま、一歩も動いていないんでしょう。だから僕らは前回と同じように、人がいないと思い込んでしまっていた」
家屋の中では、この女性以外にも性別・年齢問わず何人も倒れている。しかも、この家に限った話ではない。街のどこを見ても、同じ状態で人々が寝転がっているのだ。
一体、なぜこんな事になっているのか。ひとまず室内を調べる事になった。
「何か不審なものを見つけたら、触らずに私か浅黄に知らせるように」
言いながら、翠月は手袋を装着してテキパキと調査を始める。
翔も同様に調査を始め、飲食物が乱雑に置いてある机の上にあるものを発見した。
紙に包まれた粉末だ。一粒一粒色が異なり、毒々しい色彩を放っている。それを見た途端、翔はひどく嫌な予感がして、すぐに浅黄と翠月を呼ぶ。
「うげぇ。こ、これって」
「まさか、麻薬……ですかね?」
浅黄と翔が言い、アシュリィも嫌悪感から顔を歪ませていた。
そんな中、翠月だけは冷静に頭を振る。
「麻薬にしては、器具が見当たらないのが気になる。吸引するにせよ何にせよ、必要なはずだが……それに、この粉末を昨日・今日使った形跡も見られない」
「た、確かに」
「分析が必要だ。浅黄、できるか」
問われて頷くと、早速浅黄はマテリアパッドを使って行動に移る。
《エディターツール!》
「ふむふむ……ほうほう……なるほどね」
「何か分かりましたか?」
「うん、まぁ分かるには分かったんだけど……うへぇ、マジかこれぇ」
マテリアパッドの操作を止め、浅黄は概要を話し始める。
「まず……これ自体には違法な薬物としての成分は検出できなかった。つまり、普通に吸ってもただの変な色の粉でしかないって事。ただし……水に溶かすと、こいつは真の効果を発揮する」
「真の効果?」
浅黄は再度頷いて、その恐るべき詳細を語った。
「これを溶かした水を飲むと、脳内麻薬が分泌されて、激しい幻覚症状に苛まれるんだよ。今まさにその状態ね」
「げ……幻覚!?」
「そ。しかも、効果が有効な間は自分の望んだ幻覚を見られるみたいだね。感覚としてはVRグラスを付けてるようなものなのかな?」
「大丈夫なんですか、それ。副作用とか」
「うん、この粉そのものに中毒性とか副作用とかはないみたいだよ。何度解析してもこれ自体の成分なんかは安全なものだし、体や心に影響の出る代物じゃない……ただ……」
口籠りながら、困った様子で頭を掻く浅黄。
「さっきも言った通り中毒は起こらないはずだから……これ、止めようと思えばいつでも止められると思うんだけど、なんで誰もそうしないんだろうね?」
「……確かに、妙ですね。砂塵があるとは言え、外にデジブレインがいない以上、その気になれば脱出も簡単なのに……誰も立ち去ろうとしてないみたいです」
翔だけでなく、アシュリィも頷いている。
唯一、翠月だけは話を聞きながら憮然とした面持ちで粉を睨んでいた。どうやら、なんとなく理由を察しているらしい。
それを聞き出そうと翔が口を開いた、その時。
「う……」
倒れていた女性が、目を覚ました。
驚き、翔たちは思わず彼女を刺激しないよう身構える。
しかし女性は一行の事など気にも留めず、目を合わせる事さえなく、粉の包み紙を手に取ってキッチンへと向かった。
「……え?」
「ちょっ、ちょっと待って!?」
次に出る行動など決まっている。
だがアシュリィの制止を聞く事なく、女性はコップに貯めた水に粉を一粒残らず入れ、飲み干した。
「ア……AあA゛ aアA゜Aア゜ア あ゜a゛a あ゛AA ――」
奇怪な鳴き声と共に、女性の血走った目が七色に点滅し、元の場所で再び意識を失う。
絶句。たった今の顛末を、翠月以外は誰も飲み込めないでいた。
「やはりな……ここにいる者たちは、粉の摂取を止める気もなければ、街から出る気もないんだ」
「ど、どうしてですか? だって、中毒症状は起こらないんでしょう!?」
「そういう成分が含まれていないというだけだ。飲むだけで自分にとって都合の良い夢を見られるというのなら……恐らく、力のない者は永遠にここに囚われる事を選ぶのだろう」
ゾクッ、とその言葉を聞いた者たちの背筋が震える。そして、以前の進駒の言葉を思い出す。
街一つを容易く沈められるCytuber、懈怠のデカダンス。
もし、彼女の能力の一端がこの粉にあるのだとすれば、確かに街を滅ぼす事など簡単だろう。
これを水道に流すだけで、人々はあっという間に幻覚によって堕落するのだから。
今までのCytuberたちとはレベルが違う。翔は、改めてデカダンスという存在を恐ろしく感じていた。
「……でも、変じゃない? そのデカダンスって、どうやって粉を街に支給してるの?」
「確かに。粉がないと街の人々が離れてしまうなら、何らかの手段でここまで持って来ているはずだよね」
翔とアシュリィが頷き合う。そして、浅黄に話しかけた。
「レドームートンで粉末の貯蔵庫を探して下さい。そこを制圧します」
「どうする気?」
「粉がなくなれば、恐らくデカダンスの配下のCytuberかデジブレインが補充に現れるはず。そこを追跡して敵側の拠点を見つけ出すんです。恐らくそういう場所は監視もあるはずですし……まぁ、すぐに動くかどうかは賭けになりますが」
「なるほど! それ良いじゃん!」
早速、浅黄は再びエディターツールを起動し、ケーブルをレドームートンの尻に接続。
粉末の解析情報から、街中で同じものが大量に保管されている場所を探知し始める。
そして、すぐに特定した。誰もいないが露天などが展開されている、中央広場だ。
「みっけ! そんじゃいくよ!」
浅黄は早速そこへ向かって走り出し、翔と翠月、アシュリィもそれに続いていく。
到着したその場所には巨大な噴水があり、その周辺には粉末の敷き詰められた麻袋が無造作に置かれている。
しかも、麻袋はいくつか噴水の中に投げ入れられており、大勢の人々が集まって目を開けたまま眠りについていた。何が起きていたのかは想像に難くない。
「皆が寝静まっている内に全部処分してしまいましょう。噴水も取り壊すべきだ」
「どうやって?」
「こうやって」
《フィニッシュコード!》
言いながら、翔はフォトビートルの体内に装填されたプレートを抜いて自分の持つマテリアプレートを挿入。
そのままそれを、噴水に向かって投げつけた。
《
「いっけー!」
炎を纏うフォトビートルの角が、麻袋を全て焼き切り、さらに暴風と流水が噴水を破壊。噴き出る水は、大量の巨大な岩石が埋めた。
「よし、あとは街の人たちを建物の中に避難させて……」
翔がそう言った、その時だった。
突然、レドームートンがけたたましい警報音を鳴らす。
デジブレインが周辺に現れた合図だ。全員が一斉に警戒し、翔・翠月・浅黄はそれぞれマテリアフォン・マテリアパッドを取り出す。
「もうバレたの!?」
「アシュリィちゃん、今は下がって! 敵が来る……!!」
ドライバーを装着し、敵を待ち構える三人。警報音から近付いているのは分かるが、どこから来るのかが分からない。
どこだ。一体どこから。
息を呑みながら翔がマテリアプレートを手に取った、その時。
翔たちの立つ地面に、亀裂が走った。
「――下!?」
大きくバックステップし、翔はマテリアプレートを起動し装填。翠月・浅黄ともども変身に移行する。
アシュリィは他のエージェントと共に、安全圏へと離脱した。
《ブルースカイ・アプリV2! 蒼天の大英雄、インストール!》
《ウォーゾーン・アプリ! 闘龍之技、アクセス!》
《フォレスト・アプリ! 義賊の一矢、アクセス!》
飛行しながら、翔は割れた地盤から姿を現す敵の正体を目視した。
敵影は三つ。そのうちの一つは、鈍重な亀の甲羅を背中や腕・脚に装着したウサギのデジブレイン。その特徴から、翔たちはすぐにハーロット製デジブレインとの共通点を見出した。名付けるとするなら、ラビットタートル・デジブレインだろうか。
もうひとつは長い耳を生やした黒いジャッカルのような頭部が特徴的な、紫がかった黒い布を全身に巻いて垂らしている怪人。
最後のひとつ、それは翔たちも一度見た事のある人物だ。
「エイリアス……!!」
謎の銀仮面の男、仮面ライダーを憎む者、エイリアス。
青い銃型の武器を持って、再び翔らの前に立ちはだかった。
「もうこの場所を嗅ぎつけるとはな……Cytuberの誰かがリークしたのか?」
地面に降り立ち、エイリアスは翔が変身したアズールに銃口を向ける。
アズールも30m以上も先の正面に立ち、二つの剣を構える。
「まずはお前と刃を交えるか。望むところだ」
そう言って、エイリアスは他二体のデジブレインに顎で指示を出す。
結果、ジャッカルは・デジブレインは雅龍に、ラビットタートル・デジブレインはザギークの方に向かった。
エイリアスはアズールと対峙し、青い銃のグリップエンドに自らの掌を強く叩きつける。
《
「偽装!」
流れる音声と共に、エイリアスはトリガーを引く。
すると、銃口から黒い煙のようなものが噴出し、エイリアスの全身を覆い始める。
煙の中で青い閃光が迸り、煙が裂けるように消失すると、そこには暗い青のスーツをベースとした黒い追加装甲を装備している、アズールたち仮面ライダーによく似た戦士がいた。
《オペレーション・ザ・ペイルライダー!
姿を晒したその男は、両眼が黒いゴーグルに赤いバイザーで覆われており、片手にはやはり青い銃を持っている。
恐らくこれが、エイリアスの戦闘形態なのだ。凄まじいまでの威圧感と殺意を前に、アズールは仮面の中で冷や汗をかき、息を呑む。
「ペイルライダー……」
変身したエイリアスが、囁く。
「お前たちを葬る死神の名だ……よく頭に刻み込んでおけ」
その言葉の直後。
ペイルライダーは、一瞬でアズールとの間合いを詰めた。
「なっ」
「ハァァァッ!!」
鋭い掌底がアズールの顎にヒットし、彼をよろめかせる。
さらにすかさず、ペイルライダーは銃口を突きつけて発砲。銃撃の連射がアズールを襲う。
「くぅっ!」
剣の腹を盾のようにして攻撃を凌ぐアズール。そして全弾防ぎ切った後、剣を振って勢い良くペイルライダーにかかって行く。
激しい攻勢だが、ペイルライダーは全く焦る事なく装甲や拳を駆使して攻撃を凌ぎ、距離を取る。
だが、無傷とは行かなかった。胴体の装甲に僅かな損傷が見られる。
「フン……ならばフェイクガンナーの機能を見せてやろう」
そう言いながら取り出したのは、一枚のマテリアプレートだ。それも、ガンブライザーの使い手が用いる、デジブレインが封入されているタイプのものを。
プレートを青い銃、フェイクガンナーと呼んだそれに、ペイルライダーが差し込む。
すると、音声が鳴ると同時に銃が妖しい輝きを帯びる。
《
斬りかかって来たアズールに向かって、ペイルライダーは引き金を引く。
すると、ペイルライダーの眼前に巨大な盾が展開され、剣を弾きながらアズールを突き飛ばした。
「がっ!?」
「フン」
「くっ、まだまだ!」
盾がすぐに消えたのを確認して、アズールは飛翔し、上空から攻撃を仕掛ける。
だがペイルライダーが頭上に照準を合わせて再度トリガーを引くと、また盾が出現して攻撃を防いでしまった。
さらにその隙に、ペイルライダーは既に装填されたプレートを引き抜き、別のマテリアプレートを取り出した。
《
今度はフェイクガンナーの先端に、長大でしなる鋼鉄の鞭のようなものが装備された。
ペイルライダーはそれを振って、リーチを活かしてアズールに鋼鉄の鞭打を食らわせる。
「がっ!?」
堪らず怯み、アズールは態勢を崩す。その隙に、引き続き鞭による攻撃が放たれる。
今度は左腰を掠めるのみにとどまったものの、その衝撃でアズールの持つマテリアプレートがいくつか散らばってしまった。
それこそが、ペイルライダーの狙いだった。アズールが動く前に疾駆し、ロボットジェネレーター、鬼狩ノ忍、ワンダーマジックの三つを回収してしまう。
「しまった……!?」
「これがフェイクガンナーの力だ。マテリアプレートの機能を引き出せるのはお前たちだけではない」
《
今度は奪ったばかりのロボットジェネレーターを差し込み、引き金を引く。
銃口からレーザービームが放射され、アズールの装甲を焼いて抉った。
「ぐあああっ!」
「口ほどにもないな、仮面ライダー」
「くう……まだだっ!!」
攻撃を受けつつも、負けじとアズールは両手の剣を突き出す。
しかしその攻撃を銃身と手の甲で難なく受け流し、前蹴りを食らわせて距離を取ると、ペイルライダーはさらに別のマテリアプレートをフェイクガンナーへ装填する。
《
銃口を地面へ向けて弾丸を発射すると、着弾地点から煙が噴き出て、ペイルライダーの姿もそれに覆われて消える。
しまった。
そう思ったときにはもう遅く、いつの間にか背後に回ったペイルライダーの銃撃が膝裏を叩く。たちまち、アズールは転倒してしまった。
「く……!」
立ち上がる前に風の能力で煙を散らすと、アズールの頭部に狙いを定めるペイルライダーの姿が目に映った。
「残念だったな。お前の敗けだ」
「……え……?」
仮面の奥で、翔は瞠目する。
以前に同じような状況があった、気がする。いつどこであったかは覚えていないが、翔は異様な既視感に驚くばかりであった。
だが、今はそんな事に気を取られている場合ではない。アズールは銃撃を回避して飛翔、建物の屋上で態勢を立て直す。
続けてアズールセイバーをサイクロンモードに変形させると、アズールはマテリアプレートを挿入する。
必殺の構えだ。
《フィニッシュコード!》
それを目にして、ペイルライダーもフンと笑い、また別のマテリアプレートを装填。
《
「必殺技で勝負というワケか。面白い」
そして、グリップエンドに掌を叩き込む。
《オーバードライブ!》
「受けて立つ……!!」
睨み合う二人。
瞬間、アズールは武器にマテリアフォンをかざし、ペイルライダーはフェイクガンナーのトリガーを引いて、必殺技を発動する。
《
《
「そぉりゃあああっ!」
「ハアァァァァーッ!」
銃口の先に魔法陣が描かれると共に、岩・水・炎・風の弾丸が襲いかかる。
それらを降下しながら剣の回転力によって全て弾き飛ばし、そのままアズールはさらに剣撃を放つ。
だが、魔法の弾丸を防いで威力を大きく削ぎ落とされた必殺技は、ペイルライダーの腕の黒装甲に受け止められてしまった。
「あ……!?」
「無駄だ。ハァッ!!」
ペイルライダーの必殺は継続している。
魔力を帯びたフェイクガンナーのナックルガード部を顔面に叩きつけられ、アズールは壁面に吹き飛ばされた。
「ガッ!?」
手痛い一撃を受けながらも、アズールはふらつく体に鞭打って立ち上がる。だが、既に満身創痍だ。
ペイルライダーはその姿を失望したように見下ろしている。
「サイバーノーツを三人も退けていると聞いていたが……仮面ライダー、この程度か」
「く……」
「だがお前たちが強かろうが弱かろうが関係ない、俺の憎しみは……お前たちを破壊する事でしか消えんのだ!!」
フェイクガンナーによる度重なる発砲。アズールはそれを飛んで避け、さらに剣を振って攻撃を防ぎ続ける。
「どうして……」
「む?」
「どうしてそこまで仮面ライダーを憎む!? 僕らとあなたに一体何があったっていうんだ!?」
アズールの問いを耳にして、ペイルライダーの怒りと憎しみが目に見えて増した。
それでもすぐには飛びかからず、質問に答え始める。
「お前たちが、俺の命を救ったデカダンス様の目的成就の邪魔をするからだ。それに……俺の記憶を奪ってこの世界に放り込んだホメオスタシスと、連中が作り上げた仮面ライダーという存在を許す事などできるワケがない」
「なんだって……?」
耳を疑い、すぐに頭を横に振るアズール。
自分の知るホメオスタシスは、そんな事をする組織ではない。
「それは何かの間違いだ!」
「間違いなどではない! 事実、俺は自分の名も、この世界にいた理由さえも思い出せないでいる……それはゲートを開く事のできるお前たちの仕業だろう!」
「Cytuberだって同じ事ができる! どうして僕らのせいだって、一方的に思い込んでるんだ!?」
「それは……」
ググッ、とペイルライダーはフェイクガンナーを握り締める。
そして左手で頭を押さえ、話を続けた。
「俺の頭の中に、ほんの僅かに残っているからだ。ホメオスタシスのエージェントが俺をサイバー・ラインに送り込んだという記憶が」
「え……?」
「思い込みなど断じてありえん。俺はこの記憶を、湧き上がる憎しみを……確かなものだと信じている。故に!!」
フェイクガンナーの銃口を再びアズールへと突きつけ、ペイルライダーは咆哮する。
「俺はお前たち仮面ライダーの存在を、決して認めない!!」
ペイルライダーの心の内を聞いたアズールは、自らもアズールセイバーを強く握る。
「あなたの身に何があったのかは分からない……でも、僕だって負けるワケにはいかないんだ!!」
そして同じく、剣先を突きつけて武器を構え直した。
「僕があなたを倒す!!」
「ならば来い!! 仮面ライダー!!」
疾駆し、剣と銃を突きつける二人の蒼き戦士。
譲れない思いがぶつかり合う戦い、その第二ラウンドが幕を開ける。
「……問題なく戦えておるようじゃな」
砂漠の街で勃発した、仮面ライダーたちとデジブレインの戦い。
その様子を、とある建物の中で、バーチャルスクリーンを通して見物する人物がいた。
デカダンスの配下にして仮面の老爺、Mr.フェイクマンだ。彼の傍らには、ガンブライザーの置いてある机とキャンバスが立てかけられている。
「もっと争え。この戦いがどちらに転んだとしても……お前たちホメオスタシスはここで終わるのだからな」
くつくつと頬を歪めるフェイクマン。彼の前にあるキャンバスに描かれているのは、顔の似た青い剣士と蒼い死神が対峙する水彩画。
さらに彼の持つパレットには、街で見かけた粉末と同じ色を放つ絵の具が盛られていた。