「……くそっ、ダメだ! この出力じゃライダー側の身体が保たない!」
ホメオスタシスの地下研究所で、鋼作は机をドンッと拳で叩く。
鋼作と琴奈は今、新しいV2タイプのマテリアプレートの開発・製造を行っている。陽子ら先輩の指導を受け、ようやく技術開発者として許可を得たのだ。
現在交戦中のデカダンスを含めて、これから先の相手は強敵ばかりになる。だからこそ新たな力が必要となるのだが、それを製造するための技術が足りない。
出力を高く設定すれば変身者の肉体と精神に大きな負担をかけ、かと言って逆に低くすれば他のV2タイプの下位互換になってしまい意味がなくなる。
そもそもギリギリのラインで最適化したものが、今のブルースカイ・アドベンチャーV2やデュエル・フロンティアV2なのだ。
今の翔たちに必要なのは、サイバーノーツだけではなく、スペルビアのような強大なデジブレインにさえも対抗できる力だ。
「やっぱり、私たちじゃ無理なのかな……」
無力感に打ちひしがれ、琴奈は弱音を吐いてしまう。鋼作も、自分の能力に限界を感じていた。
そんな時だった。
「……作業は捗っているかね?」
鷲我が、二人の前に現れた。その手には三人分のコーヒーの載った盆を持っている。
「会長!?」
「ど、どうしたんスか一体!?」
驚いた琴奈と鋼作に言われ、鷲我は照れたように微笑んで「どうしても様子が気になってね」と返す。
「休憩も必要だ。ここで、一息入れてはどうだろう?」
「……そうですね」
疲れた目と頭を癒すため、二人は肩の力を抜きつつ、コーヒーを受け取った。
鷲我もコーヒーを口にして、息をつく。
「私も、君たちのように悩んでいた時期があったよ。自分では変身できないからな」
「会長も……」
「今は翔くんの力について調べているが……何度解析をやり直して試行錯誤しても、同じ結論に至ってしまう。堂々巡りだ……全く、自分が嫌になるよ」
お手上げだとばかりに鷲我は言い、再び溜息を吐く。
だが直後、何か思いついたように「そうだ」と言うと、微笑みながら二人の方に向き直った。
「私に君たちの手伝いをさせてくれないか?」
「えぇっ!? か、会長自らがですかぁ!?」
「彼ら仮面ライダーの勝利が我々の未来を作るんだ。なら、私はその手助けをするべきだろう」
鋼作と琴奈は顔を見合わせて、どうするべきかを考え込む。
そして悩みに悩んだ結果、その助力を受け入れる事となった。
※ ※ ※ ※ ※
「こんのぉ!」
「ホアタァッ!」
翔がエイリアスと戦闘を繰り広げているのと同じ頃。
浅黄と翠月も、合流して目の前にいる二体のデジブレインたちと交戦していた。
翠月の変身する仮面ライダー雅龍 パワフルチューンは、スタイランサー・スピアーモードでジャッカル・デジブレインへと槍を突き出す。
浅黄が変身した仮面ライダーザギーク テクニカルチューンも、ボウガンモードのスタイランサーでラビットタートル・デジブレインへと射撃攻撃を行っていた。
「クゥオォォーン!」
しかしジャッカルは遠吠えを発すると、自分の腕に巻かれている布を伸ばし、雅龍とザギークのスタイランサーを右手ごと絡め取った。
「うぇっ!?」
「キュルッ!」
そうして驚いている間に、急速接近したラビットタートルが、ボクシンググローブのように拳についた亀の甲羅でジャンピングアッパーカットを繰り出す。
手痛い一撃にザギークは上空に吹き飛ばされるが、ジャッカルは休む暇を与えない。布を引っ張って地上に呼び戻し、再びラビットタートルの前に落とした。
「ちょっ……」
「キュウウウルン!」
今度は鋭いジャブの連続が、ザギークの体を突き刺さんと迫る。
あまりにも速い攻撃に泣きそうになりながらも、ザギークは攻撃を腕で受け止め続けた。
「ひぃぃぃ、ゲッちゃん助けてー!」
助けを求めるが、雅龍は雅龍でジャッカルの相手に集中している。
槍を引っ張るジャッカルの腕力は、パワフルチューンであるはずの雅龍と拮抗。しかも雅龍は両腕を使っているのにも関わらず、である。
「くっ、何故だ……!?」
次第に雅龍の方が、僅かだがジャッカルの方に引き寄せられていく。地面の砂に引きずられた足跡が付き始めているのだ。
パワー重視の形態でここまで苦戦するのはおかしい。となれば疑うべくは毒などの能力だが、自分の使うアプリの
雅龍はそう思っていたが、徐々にジャッカルの引き込む力に負け始めているのを感じて、考えを改めた。
「本当に私の力の方が弱まっているのか!? なぜ……!?」
そこまで口にして、すぐに雅龍はハッと顔を強張らせた。
天華繚乱には、確かに身体に以上を与える毒などの能力への耐性のようなものがある。
ただし、それはあくまでも復帰速度を速める力だ。毒や呪術を完全に無力化する事ができるワケではない。
つまり――ジャッカルは、天華繚乱の回復スピードを上回る速さで雅龍の力を奪い続けているのだ。そして、その原因となっているのはほぼ間違いなく、この怪しい布だ。
「こいつ……!!」
「クゥオオオ!!」
腕を動かしてどうにか布を外そうとする雅龍だが、その力は未だに落ち続けている。
その姿を見て、ジャッカルは牙を剥き出しにし、待ち構えている。間合いに入った瞬間、頭を噛み砕こうというつもりだろう。
「中々、手強いな……ならば!」
足に力を入れてこらえながら、雅龍はマテリアパッドを指でタッチした。
《フレンドーベル!》
直後、ドーベルマン型戦闘ロボットのフレンドーベルが出現し、瞬く間に雅龍とザギークの体に巻き付いた布を牙で引き裂いた。
これで体の自由が戻る。二人は、同時にアプリチューナーへと手を伸ばした。
「ゲッちゃんナイス!」
《パワフルチューン!》
「一気に片を付けるぞ!」
《スピーディチューン!》
「チューンアーップ!」
「チューンアップ」
《
ザギークの頭上に赤い装甲が、雅龍の方には黒い装甲が出現し、それらが合着されて姿が変わる。
《パワフル・チューンアップ!》
《スピーディ・チューンアップ!》
「反撃開始だよーん!」
そう言ったザギークの前に、再度ラビットタートル・デジブレインが立ちはだかり、拳を強く突き出す。
しかしその一撃に反応して拳で返し、ザギークは相手の右手に装着された甲羅を打ち砕いた。
「ピョッ!?」
「喰らえー!」
続いてザギークはボウガンからインクの矢を発射する。パワフルチューンから繰り出される力強い一矢は、左手の甲羅で防いだラビットタートルの手を貫く。
この一撃に怯んだ隙に、ザギークは間髪入れずマテリアプレートをスタイランサーにセット、必殺技を発動する。
《パニッシュメントコード!
射出された赤いインクの矢弾が、ラビットタートル・デジブレインの腹に深く突き刺さり、そのまま貫通して背中の甲羅をも砕いて壊す。
それでもなお動こうとするが、その体はガクガクと震え、膝から崩れ落ちてついには倒れる。
フォレスト・バーグラーの能力で、体内に毒が回ったのだ。そのまま、ラビットタートルは消滅した。
「よし、あとは!」
ザギークは雅龍の方を振り返る。向こうの戦いも、まだ終わってはいないのだ。
その雅龍はフレンドーベルと共に、スピーディーチューンによってジャッカルの布を素速く回避し、また巻き付かれそうになった時にはスタイランサーで斬り裂いている。
既にあらゆる挙動を見切っているのだ。彼の援護をするため、ザギークは再びボウガンを構え、ジャッカルを狙い撃つ。
「クォォン!」
ジャッカルは即座に反応し、布を操作して円形の盾のようなものを作り上げ、攻撃を防ぐ。
その瞬間、雅龍は一気に間合いを詰めて背中からジャッカルの体を串刺しにした。
「アクッ!?」
「これで終わりだ……」
《パニッシュメントコード!》
スタイランサーにプレートを装填した瞬間、ジャッカルの布が雅龍に迫る。
が、もう遅い。既に必殺技は発動した。
《
「ホォォォッ! アァァァタァーッ!」
捩じるように槍を回転させ、さらに奥深くに押し込む。
その回転によって放たれた衝撃波が、ジャッカルの体に空いた穴を大きく広げて頭から下を完全に消滅せしめ、さらに落下しつつある頭部をフレンドーベルが噛み砕いた。
「フゥーッ……残るは一人」
雅龍が槍を、ザギークがボウガンを手に走る。目指すは、アズールのいる噴水広場だ。
ペイルライダーとなったエイリアスと、仮面ライダーアズールの戦いの第二ラウンド。
先手を仕掛けたのは、ペイルライダーの方だ。
《
「出よ!」
マテリアプレートを挿入したフェイクガンナーのトリガーを操作すると、銃口からか細い光線が発射され、屈折・拡散。
その全てがアズールの立つ周囲の瓦礫や地面に命中すると、光は鬣や牙を生やしたベーシック・デジブレインへと姿を変える。その数、五体。
ライオン・デジブレインも持っていた、
「くっ!?」
「かかれ!」
鳴き声を発し、獣型ベーシック・デジブレインの群れがアズールに襲いかかる。ペイルライダーは、それらを指の動きだけで指揮していた。
ただ戦闘能力が高いだけではなく、部隊の指揮までも優れている。やはり強敵だ、とアズールは感じていた。
ベーシック・デジブレインの爪がアズールの装甲に傷をつけ、よろめいた隙にペイルライダーの射撃が飛んで来る。
「ぐああっ!」
銃弾は全て正確にアズールの左肩へと着弾し、よろめかせる。
しかし、アズールは引き下がらない。右手の剣を掲げ、まずはベーシック・デジブレインに斬りかかった。
回避行動に移っていたが、遅い。アズールセイバーはデジブレイン一体の首を斬り落とし、さらに左手のアズールセイバーV2がもう一体の頭部を縦に両断する。
「やるな……だが!」
《
フェイクガンナーから、今度は火炎弾が連射される。
突風を吹き起こす事によって、アズールは難を逃れるものの、立ち止まった瞬間に残るベーシック・デジブレインが正面の左右・背後の三方向から襲いかかって来た。
《サイクロンモード!》
「そぉりゃあっ!」
これには二つの剣を連結させてその場で回転し、三体のデジブレインを斬り刻む事で対処。
続けざまにアズールは、ペイルライダーへと勢い良く剣を突き出した。
しかし、当たらない。フェイクガンナーのナックルガードで剣先を弾かれ、肩の装甲に傷をつけるのみとなった。
「今のでダメなのか……!?」
「お前では勝てんようだな」
《オーバードライブ!》
突き出された刀身にグリップエンドを叩きつけたペイルライダーは、そのままトリガーを引いて必殺技を発動する。
「砕け散るが良い」
《
高熱を帯びたナックルガードから繰り出される、火炎の乱打。
アズールは左手でそれを受け止めるが、打撃はともかく、装甲を融かさんばかりの熱と噴き出す豪火は防ぐ術がない。
大きく態勢を崩したところを、今度は銃口から飛び出した巨大な炎の塊が襲いかかって来る。
「くうううっ!!」
剣を振って炎を散らす事で、アズールは難を逃れる。
強い。いや、強すぎる。マテリアプレートやフェイクガンナーの性能だけでなく、エイリアス自身の戦闘能力と才覚が翔のそれを遥かに圧倒しているのだ。
それでもアズールは負けられない。地につきそうになった膝に力を入れ、再び剣を強く握り込む。
「……諦めの悪い」
「良く言われるよ」
軽口を叩くが、状況は最悪だ。
どんな攻撃も全く通用していない。それどころかことごとく先を読まれ、押し潰される。
だからと言ってアズールに根負けする気は一切しないが、しかしこの状態で勝てるかどうかとなれば別問題だ。一度逃げるにしても、ペイルライダーはその隙を見せはしないだろう。
ならば、ここはやはり。
《フィニッシュコード!》
アズールが、剣にブルースカイ・アドベンチャーのマテリアプレートを装填する。
もう一度必殺技を発動するのだ。
その姿を見るとペイルライダーは、フゥ、と呆れたように息を吐く。
「バカの一つ覚えというヤツか? 先程、同じ技で敗れたばかりだろう」
「同じ結果になるとは限らないよ」
「……やはりバカか」
《
もう一度深く息を吐くと、彼の行動に応じるように、ペイルライダーもマテリアプレートをセット。
音声と共に、フェイクガンナーに巨大なハサミが装着される。
そして、ペイルライダーはグリップエンドを手で叩いた。
《オーバードライブ!》
「今のお前の身体では、結果は既に見えている……!!」
アズールが剣先を突きつけ、ペイルライダーは銃口を向ける。
最初に倒された時と構図は同じ。しかし、アズールは少しも恐れていない。
先手を打ったのは、ペイルライダーだ。トリガーを引いて必殺技を発動、ハサミに光が集約し、巨大なエネルギー体のハサミが形成される。
《
大きく開かれたハサミが、アズールの身体へと迫る。その瞬間、彼は動いた。
アズールセイバーのサイクロンモードを解除し、マテリアプレートを装填していない通常のアズールセイバーを、ハサミの根本に向かって投げたのだ。
「なに!?」
剣で詰まって、ハサミが閉じない。これにはペイルライダーも目を見張った。
さらにアズールは、下からくぐり抜けるようにスライディングして必殺技を回避し、マテリアフォンを逆手に持ったアズールセイバーV2にかざしている。
《
「そぉりゃあああああっ!」
「くっ……ナメるな!」
もはやこのハサミは役に立たないと判断したペイルライダーは、チョップでそれを素速く圧し折って、そのままフェイクガンナーで殴りかかる。
これでもまだ必殺技は継続している。よって、アズールの必殺技を相殺できると踏んだのだ。
が、アズールはペイルライダーが殴りかかって来ると分かった時。
既に、剣を持つ手を緩めていた。
「!?」
フェイクガンナーのナックルガードと、使い手を失ったアズールセイバーV2がぶつかり合う。
アズールセイバーV2によってほとんど威力を削ぎ落とされた必殺技を、アズールは胸部で受け止めていた。
痛みに耐え、ドライバーに装填されたマテリアプレート、そのライドオプティマイザーの引き金を操作しながら。
「なっ……!」
《アクセラレーション!》
既にアズールは、マテリアフォンをかざしてシークエンスを終えている。
必殺が来る。それを理解して、ペイルライダーはすぐにその場を離れようとする。
しかし、アズールは彼の腕を掴んでそれを阻止した。
「これで!」
《
「どうだぁぁぁ!」
右手に青いエネルギーが集中し、ペイルライダーに向かって真っ直ぐ拳が解き放たれた。
その鋭い一撃は――僅かに首を傾けたペイルライダーの、頭部の大きなゴーグルを掠める。
「あっ!?」
「惜しかったな……!」
超至近距離からペイルライダーが発砲し、堪らずアズールは手を離してしまう。
そして大きな隙を見せてしまった事で、ペイルライダーに反撃の機会を与える事となった。
《
「ゲームオーバーだ!!」
《オーバードライブ!
銃口から触手が伸び、アズールの体を締め付けながら引き寄せる。
メキメキとボディの装甲が軋み、アズールは苦しげに呻き声を上げる。
そしてフェイクガンナーを振り上げ、ペイルライダーはアズールの体に必殺の一撃を叩き込んだ。
「うああああっ!!」
重い攻撃を受け、ついに変身が解けた。
翔は地面に倒れ込み、地についた腕に力を入れ、必死に立ち上がろうとする。
だが、もう戦う力は残されていない。その上ペイルライダーは、翔にトドメを刺そうと、ゆっくりと迫っている。
「く……!」
「お前は良く戦った、敵とはいえ称賛に値する。が、もう終わりだ……今すぐ楽にしてやる」
シュルシュル、と音を立てて触手が首へと向かっていく。
首を折るつもりだ。翔に成す術はない。
それでも、翔は触手を掴んで、抵抗を続けていた。そんな彼の姿に、ペイルライダーは残念そうな声色で話しかける。
「もう止めろ。わざわざこれ以上苦しむ必要はないだろう」
「嫌だ……!!」
「なぜだ。自分の全てを犠牲にしてまで、ホメオスタシスには護る価値があるというのか? お前はそこまで、あの組織への使命感や忠義を持っているというのか?」
「違う……」
「ならばなぜ抗う?」
フェイクガンナーを握ったまま、ペイルライダーは問いかける。
「使命とか忠誠なんかじゃない、犠牲になるつもりもない! 皆の居場所を、いつもの空の色を護るって決めた! 生き残って皆と一緒に帰るって決めたんだ! 兄さんと……約束したんだ!」
「……グッ……!?」
翔の言葉を聞いている内に、突然ペイルライダーは苦しみ始め、頭を抱える。
それによって翔は触手から解放されるが、相手の様子が変わった事に驚くばかりであった。
しかし良く見れば、ペイルライダーの顔に装着されたゴーグルに、罅ができている。必殺技を掠めた時についたのであろう、その傷が徐々に広がり始めているのだ。
「グオオオッ!? なぜ、だ……体が思うように……う、動かない!! あ、頭が、割れる!!」
「エイリアス……?」
「ウグ、ガアアアアッ!!」
ゴーグルの傷が大きくなる度に、ペイルライダーの悲鳴も大きくなる。
何が起きているのか、目の前にいる翔にも、屋内で隠れて見ていたアシュリィにも理解できなかった。
だが、あまりにも苦しそうなペイルライダーの様子がどうしても気になって、翔は彼に向かって手を伸ばそうとしていた。
「翔くん! 伏せて!」
「ホォォォーッ! アタァァァーッ!」
ザギークと雅龍という増援が到着したのは、その瞬間の事だった。
翔は慌てて飛び退き、頭上を通り過ぎてペイルライダーへと飛び蹴りを放つ二人の姿を見守る。
「グゥッ……ハァァァッ!!」
しかし、完全な不意打ちであったにも関わらず、ペイルライダーは二人の攻撃を触手で受け止める。
「何っ!?」
「げぇ!?」
足を取られたザギークと雅龍は、フェイクガンナーの触手に振り回され、体を壁や地面に叩きつけられる。何度も、何度も。
その一撃が効いたらしく、ザギークは目を回して変身解除。しかし雅龍はスタイランサーで触手を切断、脱出するのであった。
そして目眩まし代わりにスタイランサーを投擲し、アプリチューナーを指で操作しながら真っ直ぐに突撃する。
《パワフルチューン! テクニカルチューン! スピーディチューン!》
マキシマムチューンを使うつもりだ。それを理解して、観戦している浅黄は息を呑む。
ザギークのものと違い、雅龍のマキシマムチューンは三分保つ。一分しか使えない浅黄に比べれば長持ちするが、それでも僅かな時間である事に変わりはない。
雅龍は、この一瞬に全てを賭けているという事だ。
《
「一気に終わらせる……!!」
《パニッシュメントコード!》
銀色の装甲を纏いながら、雅龍は必殺技を発動して大きく踏み出す。
《
「ホオオオオオアタアアアアアァァァッ!!」
再度放たれる、超速の飛び蹴り。
弾丸のように飛び出した雅龍、その一撃を、ペイルライダーは必要最小限のサイドステップでいとも容易く回避した。
「なんだと!?」
技がかわされて狼狽しつつも態勢を立て直すと、振り返って攻撃に備える。
ペイルライダーの方は絶えず起こる頭痛に苦悶しながら、銃撃を放った。
「ハァァァーッ!!」
「アタァッ!」
迫り来る銃弾を拳で砕き、雅龍が疾駆。銃使い相手なら接近戦で挑めば優位と見て、そのまま拳打を乱れ撃つ。
スピーディチューンの拳速とテクニカルチューンのフェイントを含んだ精度、そしてパワフルチューンによる拳圧の破壊力。
それら全てが合わさっている、マキシマムチューンの拳。一発一発が強力なその攻撃を、ペイルライダーはこともなげに回避し、防ぎ、凌いでいる。
「くっ……!!」
全く隙がない。一度距離を取り、雅龍は再び拳を構える。
だが直後、雅龍の変身も解けてしまう。翠月の額からは、大量の汗が滲み出ていた。
既にマキシマムチューンの活動限界を迎えていたのだ。だというのに、全く有効打を与える事ができていない。
「お前は一体何者なんだ!?」
これまでにない強敵に、翠月でさえも焦燥と命の危機を感じ取っていた。
だが、その時だった。
「グ、ク……う、うあああああっ!?」
ペイルライダーの装着していたゴーグルが音を立てて壊れ、その破片が地に落ちた。
赤いバイザーの下から出てきたのは、紫色の鋭角な複眼。青かったはずのボディカラーは、シアンに変色している。
その頭部の形状や顔つきは、アズールに良く似ていた。
「……え?」
翔は驚いていた。その姿が、顔が、明らかに仮面ライダーであったからだ。
同様の反応を示しているのは一人ではない。浅黄も、今のペイルライダーの姿に大きく目を見張っていた。
「アレは、仮面ライダーキアノス!?」
「キアノス……?」
「ホメオスタシスの資料で見た。リボルブの後に誕生したライダーで、変身してるのは……確か……」
青褪めた顔の浅黄が良い終えるよりも前に、ペイルライダーの変身が解ける。
見れば、エイリアスの銀仮面も砕け散っており、素顔が暴かれていた。
その顔を見た翔は、信じられないとばかりに身を震わせる。ほんの僅かに時間でも止まったかのように、声さえ出せなかった。
だが、ただ一言。絞り出すように、一言だけは発する事ができた。
「……兄さん……!?」
天坂 響。
強敵エイリアスの正体は、行方不明になっていたはずの翔の実の兄、響だったのだ。
しかし当の響は、翔の姿を見ても苦悶して呻くだけだ。
「お、お前は……誰だ!? ……俺はっ、俺は誰なんだ!?」
そう言った直後、響は獣じみた断末魔のような咆哮を発しながら、地下道への穴に飛び込んでいく。
翔は深刻な表情になって、割れた銀仮面の一部を拾って、彼の後を追おうとした。だが、その前に翠月と浅黄が立ち塞がる。
「待つんだ! 今は我々も疲弊している、このまま追跡してもやられるだけだ!」
「けど! けど、あそこに兄さんが! やっと! やっと会えたのに、こんな……!!」
地下に向かって兄を連れ戻すため、必死の思いで翔は穴に向かおうとする。
そんな彼を諭すように、浅黄が口を開いた。
「今すぐ行ったって、ウチらが負けるだけ。体力の話だけじゃなくて、この地下道の先はきっと敵の本拠地なんだよ。何が起きるか分からないの。焦る気持ちも分かるけどさ」
「……」
「ここは一度休んで態勢を立て直したり、その仮面についても解析すべきだと思う。それに君が倒れたらさ、アシュリィちゃんはどうすんの?」
「それは……」
そこまで言われて、翔はようやく立ち止まって振り返る。
視線の先には、隠れていたアシュリィが立っており、不安そうに翔の事を見つめていた。他の調査員たちも顔を出している。
その視線を受け、翔は頷く。
こうして、一行は安全を確保した上で街に拠点を立て、休憩の後に地下道からの侵入するという方針を決定するのであった。
※ ※ ※ ※ ※
「……そうか、エイリアスの正体はあいつだったか」
現実世界にて。
侵攻組がサイバー・ラインに向かっている間に、街中でデジブレインの襲撃を退けた鷹弘は、浅黄からの通信を受け取っていた。
銀仮面のエイリアスの正体は響であった事、そして彼が記憶を失っている事。全て聞き届けた。
そんな鷹弘は、いつになく冷静な口調だった。それを訝しんだらしく、浅黄は問い質すように言葉を投げる。
『驚いてないの?』
「驚いたに決まってんだろ、だが納得もした。通りで強いハズだぜ」
『……翔くんは、まだ……かなり動揺してる』
「ま、そうだろうな」
マテリアフォン越しに聞こえる浅黄の声は、明らかに苛立っている。続く言葉も、少しばかり早口になっていた。
『ちょっとさー、冷たすぎじゃない? あの子、実の兄弟が敵に回っちゃったんだよ? 心配じゃないワケ? 響くんも友達だったんじゃないの?』
「心配すりゃあいつが元に戻んのかよ」
『それは……違うけど』
むむむ、と唸りながら、浅黄は黙り込んでしまう。
鷹弘は溜め息混じりになりつつも、さらに話を続けた。
「今、俺がここを手薄にするワケには行かねェ。となりゃ、そっちの問題について俺にしてやれるのは……ひとつだけだ」
『それって?』
「あいつら兄弟が安心して戻れるように、この街を護る。それが俺の仕事だ」
その発言の直後、再び付近で悲鳴と爆発音が上がる。
またデジブレインが現れたのだ。それを理解した鷹弘は通話を打ち切り、陽子や部下を伴って現場へと急行する。
現場であるブティック通りにいたのは、頭部や肩などに木の枝のようなものが生えているキツネ型のデジブレインだ。枝の先には、黒々としたブドウが実っている。
ガンブライザーはない。となれば、この特殊なタイプはハーロットの作ったものであろうと鷹弘は判断した。
「ブドウにキツネ……多分『すっぱい葡萄』かしら?」
「だろうな。少し下がってろ」
陽子は頷き、他の戦闘員たちも距離を保つ。
そして鷹弘はキツネ型デジブレインを睨みつけ、V2タイプのマテリアプレートを起動。変身へと移った。
《ユー・ガット・スーパーメイル! ユー・ガット・スーパーメイル!》
「変……身!」
《
「行くぞ……!」
リボルブに変身し、突撃。
嘶きながら、相手となる怪人、サワーグレープ・デジブレインがそれを迎え撃つ。
あの兄弟二人だけではなく、全ての人々の帰るべき場所を護るために――リボルブは、銃火を放つ。
※ ※ ※ ※ ※
「グ、オオオッ……」
仮面の失われた顔を右手で押さえ、響は苦痛にもがきながら、暗い地下道を歩いている。
彼の頭の中では、絶えずフラッシュバックが起きていた。自分と似た顔立ちの少年――即ち、翔との生活の記憶だ。
「な、なぜだ……この記憶は……何だ……あいつは、何者なんだ」
息を切らし、響は自分の手の中にあるものを見下ろす。
マテリアフォン。翔も使っていた、変身に使用する道具だった。
「なぜ俺がこんなものを持っている……これは、一体……」
再び起こる頭痛。段々と、彼の中で結論が出始めた。
自分の正体について。
「まさか、俺は……!!」
「中々良い働きじゃったぞ、エイリアス」
驚いて、響はフェイクガンナーを手に振り返った。
そこにいたのは、仮面を被った老人。Mr.フェイクマンだ。
響の状態を見るなり、フェイクマンは驚いたような感心したような声で、顎をさすってひとりごちる。
「仮面を破壊されおったか、向こうも中々やるな」
「フェイクマン……!! 答えろ、俺は何者なんだ!! どうして俺が仮面ライダーと同じ道具を持っている!? まさか俺は……俺は、ホメオスタシスの人間だったのか!? あなたは俺を、騙していたというのか!?」
息を切らしながら、銃口をフェイクマンへと向ける響。
必死な彼の姿に、フェイクマンは大きく溜め息を吐いた。
「儂のくれてやった武器で殺すつもりか? 行き倒れておったお前を介抱してやったのはデカダンスと儂だったというのに、嘆かわしい」
「質問に答えろ!!」
「フゥ……騙してなどおらん。お前はホメオスタシスのエージェントによって、この世界に送り込まれたのじゃ」
言い切った後で、フェイクマンは「ただし」と付け加える。
「そやつはCytuberの手の者じゃがな」
「な」
問い質すよりも先に、フェイクマンが動いた。
霧吹きのようなものを取り出し、響の顔に浴びせたのだ。
それを受けて、響はついに地に両膝をついてしまう。
「ぐっ!?」
「効くじゃろ? デカダンスの力で作った絵の具を溶かした幻覚催眠液じゃ……尤も、お主がこの程度で音を上げる精神力の持ち主でない事は知っておるがな」
「な、に……」
霞んでいく視界の中。
響は、目の前の老人が霧吹きを置いて、別の何かを取り出すのを見た。
「疑問に思わんかったのか? なぜ儂らに都合良くホメオスタシスのエージェントの記憶が残っておったのか、なぜそこまでの憎しみを植え付けられておったのか、なぜ……仮面が剥がれた瞬間に記憶が戻ったのか」
「……まさか……!!」
ガンブライザーとマテリアプレート。もはやほとんど眼が見えていない状態だが、響は確信した。
《
「デカダンスは幻覚を以て、退廃と懈怠の夢へと微睡ませる。じゃが儂は」
《
「記憶を操り、儂らに隷属する傀儡に堕とすのじゃよ」
ゾクリ、と背筋を震わせて、反射的に響がフェイクガンナーで発砲する。
ぼやけた瞳でも、姿と位置さえ分かれば響には当てる事はできる。弾丸は真っ直ぐ、変異したフェイクマンに向かって行った。
しかし。
「くっ!?」
着弾の音を聞く前に、響は組み付かれて地面に取り押さえられる。もう腕に力も入らず、フェイクガンナーも簡単に奪われてしまった。
「危ない危ない……」
失いかけた意識の中で、響は目撃する。
鋭利な爪を生やした青色のナマケモノ型のデジブレイン、それが銀色の仮面を手の中に作っている姿を。
「き、さまぁ!!」
「悪く思うな。これも我が孫娘のため……今後もお前には、あの子に身を委ねる人形となって貰うぞ」
そんな事を言いながら、スロース・デジブレインが仮面を響に被せる。
「くそ……くそぉぉぉっ……」
「抵抗は止めろ。どうせ怒りも哀しみも全て忘れ、微睡みの中に消えるのじゃからな……」
響が正常に意識を保っていられたのは、その瞬間が最後であった。