仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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「……で、これがウチにやって欲しい事なワケ?」

 ホメオスタシスの地下研究所にて。
 鋼作・琴奈・鷲我の三人が取り掛かっている作業を見て、浅黄は言った。
 彼らの前にあるのは、ひとつのマテリアプレート。しかし、それは従来のものよりも分厚く、二枚を重ねているようにさえ見える。

「そうだ」
「でもさ、これってほんとに大丈夫なの? 誰が使うのか分かんないけど、この出力は……」
「使うのは翔くんだ。いや、彼にしか使えないと言うべきか」

 鷲我の言葉を聞き流しながら、浅黄はプレートの解析を継続する。
 そして、眉間に深く皺を刻み込んだ。鋼作たちがその表情から読み取ったのは、深刻な危険信号。

「それマジで言ってんの? あの子、死ぬよ?」

 翔が死ぬ。
 もしもそれが事実だとするなら、鋼作と琴奈は何がなんでも鷲我を止めなければならなかった。
 事実、二人の目から見てもこの大型のマテリアプレートの使用は危険が大きい。起動の時点で、マテリアプレート二枚分どころか、それを遥かに超えるカタルシスエナジーを必要としている。
 使用者への危険で言えば、以前に暴走を引き起こしたV2の時とは比べ物にならない。オーバーシュートはおろか即死する可能性さえある。
 一応は翔以外のリンクナーヴや、基準値以下のカタルシスエナジーを承認しないようセーフティが掛かっているが、起動した直後に翔が命を落とす事も充分に考えられるのだ。

「我々がジュラシックゾンビリンカーの不死性に対抗するには、どちらにしても彼に頼らざるを得ないんだ」

 頑として鷲我は言い切り、重々しい口調で「それに」と続ける。

「彼は絶対に死なない。翔くんの中に眠る『特別な力』……もしもそれが私の想像通りのものなのだとすれば、むしろ彼はこのマテリアプレートを容易に扱う事ができるだろう」
「……どういう事ですか?」

 言葉の意味を理解できず、琴奈が問う。
 傍で聞いていた鋼作と浅黄にも、鷲我の意図は分からなかった。
 そして鷲我自身も、多くを語らず頭を振る。

「すまない、まだ詳しい事は言えない。何より当の私自身が、あまりにも非現実的な推測だと思っているくらいだからな」

 眉間を指で抑え、すぐに顔を上げる鷲我。

「だが……もし、彼が本当にこれを使いこなして、結論が出たなら。その時が来れば、話す。約束しよう」

 そう言って、鷲我は再び集中して作業に取り掛かる。
 こうまで断言されては浅黄にもどうしようもない。追及を諦めて、鋼作や琴奈と共に鷲我を補佐するのであった。
 翔の、アズールのためのマテリアプレート。彼が仮面ライダージェラスを打ち破るための鍵。
 新たなる力の製造を。


EP.27[不死身]

 海に隣接した広場で繰り広げられる、リボルブとキアノス対ジェラスの戦い。

 キアノスの狙いはベルトにセットされた、ジュラシックハザードのマテリアプレートだ。

 リボルブの撃った必殺技により身動きが取れなくなっている間に、それを外す事で変身解除に持ち込み、勝利を手にする作戦なのだ。

 そして、その作戦はフェイクガンナーから伸ばした鞭の一撃によって、成功する――はずだった。

 

「バカな……!!」

 

 長く伸びた鞭は、ベルトに届く前に、間に割って入ったジェラスの取り落としたチェーンソーに命中する。

 完全に狙いが逸れた。作戦は、失敗に終わってしまったのだ。

 

「どうやら、日頃の行いが良かったらしいなぁ」

 

 そして、Oracle Squad(オラクル・スクアッド)の効力も切れてしまう。ジェラスローターを拾い上げ、立ち上がってしまった。

 

「神ってのが実在するならよォ~~~、今日初めて感謝するぜぇ。俺を止められる千載一遇のチャンスをまんまと潰してくれた事をなぁ~~~! ヒャッハハハハハーッ!」

「クソッタレが!!」

 

 悪態をついたリボルブがジェラスに狙いを定め、リボルブラスター・バーニングモードの弾丸を射出。だが、それは突如として現れた数体のベーシック・デジブレインが盾となって阻まれる。

 

「くっ!?」

「お前らの狙いは分かった。喰らわねぇよ、そんなモン」

 

 ベーシック・デジブレインが消滅したのを確認して、ジェラスはさらにトランサイバーを操作する。

 

Roger(ラジャー)! セカンドコード、オン!》

「来な!」

 

 すると、消滅したばかりのベーシック・デジブレインがゾンビとなって復活した。

 倒されたデジブレインにゾンビの性質を与えて蘇らせる。それが、ジェラスのセカンドコードの能力なのだ。

 

「チッ、パワーとスピードだけじゃなくて手数もあんのかよ!」

「ここまでの強敵とは……」

 

 ゾンビとなって突っ込んで来るベーシック・デジブレインに、二人は射撃攻撃を浴びせて対処する。当然、ジェラスに対する警戒も怠らない。

 このベーシックも、やはり一撃では倒れない。すぐに傷が再生し、立ち向かって来る。

 

「どうする、響。もう一回ベルトを狙ってみるか」

「ええ。どちらにせよ、今の俺たちにはそれしか勝ち筋がない……!」

 

 鞭を伸ばしてベーシック・デジブレインの首に巻きつけ、一気に引き込み千切り飛ばす。

 そうしてキアノスが対処している間にリボルブが射撃でジェラスを足止めし、再び二人がかりでベルトを狙って攻撃を再開した。

 だが、ジェラスは野太い腕でプレートのあるバックル部を覆い隠し、攻撃を凌ぐ。

 

「くっ!?」

「もうやらせねぇって言っただろうが。お前は特に油断ならねェからな、今の内にブチ殺してやるよ」

 

 そう言いながらジェラスはキアノスへと走って向かう。そして、大きく口を開いたジュラシックハザードのマテリアプレートの恐竜の横顔、その下顎に指をかけて引き込む。

 

《ガツッ!》

 

 音声と共に、ジェラスの体内でカタルシスエナジーが活性化する。直後、マテリアプレートが奥に押し込まれた。

 必殺技だ。キアノスとリボルブの二人がそう思った時には、ジェラスは既にマテリアフォンを握っている。

 

《フィニッシュコード・ザ・テール!》

「行くぜ、耐えられるモンなら耐えてみなァ!」

Alright(オーライ)! ジュラシック・マテリアルウィップ!》

 

 ジェラスのアンキロサウルスを模した尻尾がさらに巨大化し、紫色の光を帯びる。

 それを見た瞬間、威力を相殺するためにキアノスもマテリアプレートを抜いてサーベルに差し込み、必殺技に態勢に移った。

 

《フィニッシュコード!》

「斬る……!」

Alright(オーライ)! ニュート・マテリアルスライサー!》

「ハァァァッ!!」

 

 燃え盛る刀身から放たれる斬撃と、アンキロサウルスの巨大な尻尾がぶつかり合う。

 激しい火花を散らし、必殺技の競り合いに勝利を収めたのは、ジェラスの方であった。

 

「くっ!?」

「残念だったなァ!!」

 

 サーベルを打ち払うと、巨大な尻尾が続けざまに高速で振り抜かれる。

 キアノスは必殺の一撃を右腕で辛うじて受け止めながらも、威力を殺し切れずに吹き飛ばされた。

 

「ぐああああっ!」

「響っ!?」

 

 リボルブが思わず声を上げた後、ジェラスは振り返って彼に指を差す。

 

「次はお前を血祭りに上げてやるぜ……ヒャッハハハ!」

《ガツガツッ!》

 

 今度は二連続で大顎を引き、そしてマテリアフォンをかざす。

 両肩の角とブラキオサウルスの脚にカタルシスエナジーが集まり、巨大化。必殺技の発動だ。

 

《フィニッシュコード・ザ・ホーン! Alright(オーライ)! ジュラシック・マテリアルペネトレイト!》

「ホラホラ死になぁ!!」

 

 肩を突き出して激しく走り込み、トリケラトプスの角でリボルブへとショルダータックルを繰り出す。

 それにより、キアノスと同じ方向にリボルブも吹き飛ばされた。

 さらに続けざまに、ジェラスは楽しそうに必殺技の態勢へと移る。

 

《ガツガツガツッ!》

「ヒャハハハハッ!」

《フィニッシュコード・ザ・クロー! Alright(オーライ)! ジュラシック・マテリアルスマッシュ!》

 

 今度は三連続で下顎を引き、マテリアフォンをかざす。

 翼と両腕の爪にエナジーが集中し、飛翔と共に巨大な爪が二人へと襲いかかった。

 

『ぐああああああああっ!?』

 

 腕が振り回される度に、二人の仮面ライダーの装甲に大きな裂傷を作る。

 体力はついに限界を迎え、地面に倒れたまま、リボルブとキアノスは動けなくなってしまった。

 

「く、ちくしょう……!」

「なんという力だ……!」

 

 腕に強く力を込めるが、もう立ち上がる事さえままならない。

 そんな二人へと、ジェラスは容赦なくトドメの一撃を放とうとする。

 

《ガツガツガツガツッ!》

 

 四連続のトリガー入力。ティラノサウルスの頭部へ紫の光が集中していき、巨大な恐竜の牙を形成する。

 

《フィニッシュコード・ザ・ファング! Alright(オーライ)! ジュラシック・マテリアルクランチ!》

「ヒャァーハァァァーッ!」

 

 恐竜の大顎が開かれ、満身創痍のリボルブとキアノスに噛み付く。何度も、何度も口が動き、装甲を砕いていく。

 二人はもう悲鳴を上げる事すらままならず、ようやく口から解放されて、地面に投げ出されて変身が解除されてしまった。

 

「ぐ、が……」

「まずい、このままでは……!」

 

 倒れた鷹弘と響へとさらに追い打ちをかけるべく、ジェラスが迫る。

 元より御種 文彦という男は、元作を殺害する以前にも響をデジブレインが蔓延る死地に送り込んだ男だ。

 最初から人の命を奪う事に躊躇などするはずがない。手に持ったチェーンソーが、妖しく煌いて回転を始めている。

 

「クッククク……その体じゃもう避ける事もできねぇよなぁぁぁ?」

 

 響は、必死の思いで脚に力を入れようとする。

 この状況は二人にとって、ある意味チャンスでもあるのだ。ジェラスは自分たちが虫の息だと思って、明らかに油断している。自分から近付いて直接始末しようとしているのがその証左だ。

 ならば、一瞬だけでも身を起こす事さえできれば、ベルトからプレートを外せるかも知れない。

 

「じゃあ、まずはお前からだ」

 

 しかも幸いにも標的を響に絞り込んでいる。

 視線が響自身の方に注がれているのが痛いが、これならば鷹弘か響のどちらかが気を逸らして隙を作れば、逆転の勝ち目は大いにある。

 問題は、どのようにして意識を他に向けさせるか、という点だ。

 

「死ィねェェェ!!」

「くうっ……!」

 

 ジェラスがチェーンソーを振り上げる。その時、ようやく響の身体が動いた。

 拳を握り込み、響は立ち上がってジェラスへと突進する。そこへさらに、銃声が木霊した。

 

「あ?」

 

 側頭部に衝撃を受け、ジェラスがその方向を見る。

 そこには、物陰に隠れて手を震わせながらも、マテリアガンを抜いて銃撃を行っている陽子の姿があった。

 今だ。声には出さず、響はジェラスのアプリドライバーへと手を伸ばした。

 だがジェラスは陽子の方を見たまま響の胸倉を引っ掴むと、そのまま背負って後方へと投げ飛ばした。

 

「ガッ!?」

「響くん!?」

 

 再び地面に叩きつけられ、響は苦悶する。

 作戦は、見抜かれていたのだ。

 

「バァ~~~カ。それはもう通じねぇって言っただろうが」

「く、そ……!!」

 

 これで唯一残された逆転の目も潰えた。

 ジェラスは改めて響の前に立つと、チェーンソーを回転させて頭上に掲げる。

 

「悪足掻きが終わったんならよぉ。そろそろ死ね」

 

 まさに絶体絶命。もはやどうする事もできない。

 観念したように響が目を閉ざそうとした一瞬、海の方角から巨大な影がジェラスと響を覆い、さらにジェラスの身体が巨大な手のようなものに掴まれた。

 

「……あぁ?」

 

 右手に包まれ、身動きの取れなくなったジェラスが、首だけゆっくりと振り向く。

 そこにいたのは、ギガント・エクス・マギアによって巨人となった、仮面ライダー雅龍であった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 時は、響がリボルブとジェラスの戦いに介入した直後まで遡る。

 病院内で、翠月は翔よりも先に目を覚ましていた。

 翔の傍にはアシュリィが付いている。彼女は身を起こそうとした翠月を見て、ひどく面食らっていた。

 

「スイゲツ!?」

「生き延びたのか……私は……今、どういう状況……グッ!?」

 

 包帯を巻かれた胸を抱えて、翠月は痛みに眉根を寄せる。

 どうやら肋骨が折れているらしい。どういう経緯かは不明だが、先の戦闘で意識を失った後、翔によって病院まで運ばれたのだと翠月は理解した。

 

「何してんの!? スイゲツの方が重傷なんだから、まだ寝てなよ!」

「そうは、行かない……」

「なんで!?」

「私には……ヤツを、倒せなかった……だからこそ、やらねば……!」

 

 言いながら翠月は這うように自分の鞄からマテリアパッドを取り出し、タブレットドライバーを装着。

 そして、スタイランサーをスピアーモードで呼び出し、タオルを口で噛み締めた。

 

「何してるの!?」

 

 アシュリィの質問に返事もせず、翠月は自分の胸にスタイランサーの穂先を押し込み、さらにトリガーを引く。

 

「っ――!!」

 

 体内を駆け巡る激痛に耐え続け、ゲル状のインクを流し込む。

 インクはセメントのように固まり、砕けた翠月の肋骨を補強した。

 

「む、無茶苦茶だ……」

「よし、治った」

「良くないしまだ治ってないけど!? 仮面ライダーってみんな頭どうかしてんの!?」

 

 翠月はスタイランサーを引き抜いて立ち上がり、胸につけた傷もインクで無理矢理塞いだ後、包帯で固める。

 そのまま戦場へと向かおうとする彼を、唖然としていたアシュリィは大慌てで引き止めた。

 

「ちょっと待ってよ! その体じゃ無理だって、大体さっき勝てなかったんでしょ!? 勝算はあるの!?」

「問題ない、それは道々考える」

「ノープランじゃん! 問題あるじゃん!」

「それでも私は行かなければならない。彼もきっと、同じ事をするだろう」

 

 身体を引き摺るように歩きながら、翠月は眠れる翔を振り返った。

 

「安心しろ。私は死ぬつもりはないし、彼も死なせはしない。そして、勝つ方法は必ずある……!」

 

 そう言ってN-フォンで電話をかけながら、翠月は病院から立ち去った。

 通話先は、彼の属する電特課のオフィスだ。

 

「安藤警部補。大至急、用意して欲しいものがある……」

 

 

 

 そして。

 病室から駆け出した翠月は今、雅龍G(ギガント)となって、ジェラスを捕まえている。

 だが、身体を締め上げられているはずのジェラスの方は、余裕の態度だった。むしろ自分の前に現れた彼を、鼻で笑っている程だ。

 

「あの時俺にやられたザコが、今更何しに来やがった? 殺されに来たのかよ?」

「私は……死なん。貴様に勝つまで」

「ハッ! マヌケが、俺は死なねェって言ってんだろうがよ!」

「貴様の命を奪うつもりはない。だが……このまま生かしておく気も、ない!!」

 

 雅龍はそう言うと、ジェラスの身体をさらに強く手で握り締めて全身の骨を砕きながら、港の方へと飛んでいく。

 そしてコンテナの前に着地すると、もう片方の手であるものに向かって手を伸ばした。

 (アンカー)だ。宗仁に連絡して配下の警察官や港の倉庫にいるホメオスタシスの協力を仰ぎ、この場に用意させたのだ。

 雅龍は手早く錨に付いている鎖を、ジェラスの全身に巻きつけて雁字搦めにした。

 

「ぐっ!? だがこんなもん、骨が治れば恐竜のパワーですぐに引き千切って……」

 

 そう言った直後、雅龍Gのハッチが開き、スタイランサーを持った本体の雅龍が飛び出す。

 そして、鎖の隙間に槍を突き刺し、そこへインクを流し込んだ。

 インクはジェラスの体内ですぐに硬質化し、ねじ曲がった状態のまま骨を接ぎ木のようにして補強する。さらに皮膚の内側から漏れ出たインクも、鎖と絡んで結合されより強く拘束する。

 

「なっ……!?」

 

 ジェラスは驚愕する。

 傷の再生が始まらない。骨と骨を無理矢理に繋いで治療した異物(インク)を、身体が排除できない。この状態で完治していると身体が判断しているのだ。

 そして腕が塞がっている今、必殺技やゲート移動で逃れる事もできない。

 

「貴様を殺す気などない。貴様の体に触れた時、気の流れを感じなかった……それは心臓が止まっている証拠。死なないのは事実なのだろう」

 

 ハッチ内部に戻った後で、再び雅龍が言う。

 

「だから、決して死なないというのなら。このまま海の底で……永遠に生き続けるが良い」

 

 次の瞬間、雅龍Gは力強く海へとジェラスを放り投げた。

 飛沫が散り、海面に泡ができあがるよりも速く、巨大な錨の重量でジェラスの体はどんどん水底まで沈む。

 それを見送って、地上に降り立って変身を解いた翠月は大きく息を吐いた。

 

「私の勝ちだ……!!」

 

 ふらつく体を必死に動かし、足を引きずりながら翠月は言った。

 激しい戦闘のダメージと骨を無理に補強した痛みにより、もう翠月の体は限界だ。既に意識も途切れかけている。

 あわや倒れるという寸前。翠月の体を、二つの手が支える。

 響と鷹弘だ。彼らの後ろからは、陽子も走って来ている。

 

「翠月さん、大丈夫ですか!?」

「すまん……無茶をさせちまった」

 

 自分たちも負傷しているのだが、それにも構わず二人は彼に肩を貸す。

 すると翠月は、息も絶え絶えながら頭を下げた。

 

「謝るのは私の方だ。あの時私がヤツを止める事ができていれば、君たちも怪我をせずに済んだ」

 

 それを聞いて、響は鷹弘と顔を見合わせた後、首を横に振る。

 

「そこは、言い合うのは止めておきましょう。ジェラスとの戦いはこれで終わったんです」

「……そうだな」

 

 翠月はフッと微笑み、四人を照らす太陽を振り返る。日は徐々に沈み、色を変え始めていた。

 今回の相手は途轍もない強敵だった。負傷を即座に再生し、圧倒的な戦闘能力で全てのライダーを打倒していた。

 だがそれも、翠月の立てた策で封じ込める事ができた。きっとジェラスはあの海底からもう二度と出てくる事はないだろう。鷹弘と翠月、そして響も同じ事を思っていた。

 突然、海中から太陽を一瞬だけ隠す程の飛沫が上がるまでは。

 

「……えっ?」

 

 それは驚きから出たのか、それとも呆然としたのか。とにかく、陽子はそんな声を発してしまった。

 太陽を背に、ジェラスが翼を広げて浮かんでいる。肩や足に、千切れた鎖の残骸が纏わり付いていた。

 

「どうなってんだ!?」

「バカな! なぜ脱出できる!?」

 

 鷹弘と翠月が、後退りしながらそう言った。

 すると、戦いの最中は仮面の中でずっと笑っていたジェラスが、怒りに満ちた声色で応える。

 

「俺はスピノサウルスの力も持っている……水中でも地上と同じパワーを出せるんだよ。この棘も飾りじゃねェんだぜ」

 

 スピノサウルスの背部を模した、腕の棘突起を見せるジェラス。これで鎖を削り、脱出したのだ。

 腕さえ自由になれば、体内に打ち込まれたインクも、爪で掻き出して無理矢理排除できる。

 翠月の考えた策も、ジェラスには通じなかったという事だ。

 

「今のはマジにヤバかった……ベルトを狙われた時もそうだが、やっぱりお前らは生かしちゃおけない。死ぬ事がないとはいえ、また何か悪足掻きされたら鬱陶しいからな」

 

 地上に降り、ジェラスローターを呼び出して肩で担ぐ。

 そして、鎖を地面に叩きつけ、四人に向かって怒号を浴びせた。

 

「どいつもこいつもナメた真似しやがって……皆殺しにしてやる!! ホメオスタシスも電特課も!! このクソカス共がァァァ!!」

 

 ジェラスの攻撃が始まる。手に持ったチェーンソーを、響・鷹弘・翠月の三人へと投げつけた。

 響は咄嗟に翠月たちを突き飛ばし、自身も身を反らして攻撃を回避。辛くもこの一瞬を生き延びる事はできたが、当然ジェラスが彼らを見逃すはずもない。

 最初の標的は、最も負傷の大きい翠月。肩の角を突き出し、真っ直ぐに突進する。

 翠月も全身を奮い立たせて、足を踏み出して攻撃を避けた。

 ジェラスの強力なショルダータックルは、背後にあったコンテナを容易く横転させ、破壊する。

 

「逃がすと思うか!? いい加減死にやがれ、くたばり損ないがァ!!」

 

 コンテナの残骸を拳で破壊しながら、ジェラスは逃走を始める四人を振り返った。

 陽子以外の全員が負傷しており、変身もできていないため、その歩みは遅い。

 ジェラスはチェーンソーを拾い上げ、四人を追跡する。今の彼ならば、たとえ全員がバイクに乗っていようとも走って追いつけるのだ。

 陽子はマテリアガンによる銃撃で少しでも時間を稼ごうとしているものの、それが通じる相手ではない。

 

「殺す……絶対に殺してやる……!!」

 

 ギリギリと歯を軋ませ、再び足を前に出した、その時。

 突然、ジェラスの周囲に緑色の缶状の物体がいくつも投げ込まれる。

 さらに背後にあるクレーンが動き出し、底部のないコンテナを被せて、ジェラスを閉じ込める。

 

「これは!?」

 

 驚いたのは陽子だ。いつの間にか、港には大勢の警官とホメオスタシスのエージェントが集まっている。

 

「こんな事もあろうかと思って、って言ったらウソになりますがね」

 

 そんな声が聞こえて、三人は振り返る。

 そこに敬礼して立っていたのは、安藤 宗仁だった。

 

「ヤツが逃げ出した時のために備えておきましたぜ、課長」

「警部補……!」

 

 直後、コンテナの中で豪快な破裂音が鳴り響き、僅かな隙間から閃光が漏れ出る。

 訝しんで、鷹弘は問う。

 

「……何入れたんだ?」

「スタングレネードと催涙手榴弾。いくら不死身の体でも、仮面ライダーの中身はデジブレインじゃなく人間だ。人間の対処法なら……警察や自衛隊の方がよく知ってるさ」

 

 よくよく見れば、駆けつけた警官たちやエージェントらは全員、対デジブレイン用の武装ではなく通常の拳銃や狙撃銃を持っている。

 他にも様々な対人装備と実弾を用意している事から、宗仁の本気ぶりが窺えた。

 

アイツ(文彦)とは付き合いがそれなりに長いんでな。老いぼれてくたばる前に、俺もいい加減ケリをつけたかった」

 

 煙草を咥えつつ、宗仁は銃口をコンテナに向ける。

 海に沈めてもすぐに復帰した以上、たったこれだけで止まるような相手ではない事は明らかだ。集まった他の人員も、油断なくコンテナを見張っている。

 すると案の定、コンテナの側面から恐竜じみた爪が飛び出す。

 

「出たな……」

 

 ゆっくり、ゆっくりと爪がコンテナを裂き、中からジェラスが姿を現す。

 痛覚が喪失しているため音による攻撃は鼓膜が即座に再生し、催涙ガスでの刺激も感じていないため、その点は有効ではない。

 だが、視覚が有効である以上閃光と音で脳を揺さぶられる事で目眩は感じるらしく、さらにガスが皮膚や粘膜に付着する事で起きる落涙なども発症している。結果として、足止めや視界遮断の手段としては成功だ。

 とはいえいつまでも効果が続くものでもない。より一層怒りを増幅させて、ジェラスは宗仁たちを睨みつけている。

 

「仮面ライダーでもねぇ、たかが人間如きが……この俺をコケにしやがって!!」

 

 足を進めるジェラスに対し、宗仁は躊躇なく左胸へと銃弾を撃ち込んだ。

 

「うるせぇよ、バケモノ気取りが。人間様をナメんじゃねぇぞ」

 

 弾丸は堅牢な装甲に阻まれ、ダメージはない。

 しかし『自分よりも遥かに劣る普通の人間の反抗』は、ジェラスにとって何よりも耐え難い屈辱であったらしく、怒り心頭と言った様子でトランサイバーに手を伸ばしていた。

 

Roger(ラジャー)! サードコード、オン!》

 

 ジェラスが、右腕を頭上に掲げる。すると、その肩から先がまるで風船のように膨らみ始めた。

 猛烈に嫌な予感がして、ジェラスと同時に翠月が叫んで指示を飛ばした。

 

「纏めてブチ殺す……アシッドウェーブ!!」

「総員全力で退避!!」

 

 ジェラスの右腕が破裂する。その直後、腕から紫色の体液が弾丸のように飛び出し、周辺一帯に撒き散らされた。

 広範囲に飛んだ体液を受けて、コンテナやコンクリートが溶解している。

 これは酸性の血液だ。生身で受けていたなら、ひとたまりもなかっただろう。回避に成功して、その場にいた全員が肝を冷やした。

 

「何度も避けられると思うなよ!!」

 

 皮膚が破れて剥き出しになった右腕が、再生を始める。

 それはつまり、再発動にまだ猶予があるという事だ。それを知って、鷹弘は素速く判断を下した。

 先程の攻撃から立ち直れていない、狙撃銃を持つエージェントの手からそれをひったくり、転がりながら再生中のジェラスの右腕を発砲する。

 装甲が失われているため、弾丸は見事に命中。そして、ジェラスの体に変調が起きた。

 

「ぐ、がっ……!?」

 

 膝から崩れ落ち、呼吸を荒げている。

 鷹弘が使ったのは、筋肉弛緩剤が多量に仕込まれた弾丸だ。これも、命中さえすれば仮死状態になっていようと関係なく作用するようだ。

 筋肉の動きが急激に弱まり、ジェラスはついに手をも地に付けてしまった。

 もちろんジェラスは呼吸困難で死ぬ事はないため、これで決定打とはならない。だが、動きを止めるには充分すぎる一撃だった。

 

「行ける! 行けるぞ、そいつからマテリアプレートを奪え!」

 

 鷹弘の呼びかけに、エージェントたちは一斉に動き出そうとする。

 だが、ジェラスの咆哮がそれを阻んだ。

 

「ふざけんな……ふざけんじゃねぇゴミ共が!! カスの分際でこの俺に触れるなァ!!」

 

 ジェラスはトランサイバーに指で触れ、続けて叫ぶ。

 

「『ファイナルコード』ォッ!」

Roger(ラジャー)! ゾンビ・マテリアルデッド!》

 

 すると、ジェラスの全身に先程よりも濃い紫色の光が集約していく。

 必殺技の発動だ。全員、プレートの奪取よりも回避を優先して動き出した。

 直後にジェラスの体が爆発し、港の一帯を吹き飛ばす。響たちも、その爆風に巻き込まれてしまった。

 

「ぐああああっ!?」

 

 多くの警官たちとエージェントが重軽傷を負い、港にも甚大な被害が出てしまった。しかし、幸いにも死者はいない。

 翠月は苦い面持ちになり、宗仁の肩を借りて立ち上がる。

 

「ヤツの最期が……自爆、とはな」

「最期まで傍迷惑な野郎だぜ」

 

 機嫌悪くフンッと鼻息を吹いて、煙の巻き上がった港を見ながら宗仁が言った。陽子はへなへなとその場に座り込んだ。

 だが、響と鷹弘は宗仁たちとはまた違う、苦々しさと同時に焦燥感が混ぜ合わさった表情になっていた。

 

「……いや、まだだ」

「ああ。まだ終わってねェ! 全員気を緩めるな!」

 

 言われて、翠月が煙の奥に目を凝らす。

 そこには――無傷の仮面ライダージェラスが立っていた。

 

「何っ!?」

「あぁそうか、クソッタレ……ゾンビだから自爆してもすぐに体を再生できるんだ。しかも、全身を爆破したからスタングレネードや弛緩剤の影響も抜けてやがる……!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で鷹弘が言い、翠月の顔が青褪める。

 つまり、その気になればOracle Squad(オラクル・スクアッド)の能力を使われようと、体内にインクを打ち込もうと、リセットできるという事だ。

 ジェラスはずっと遊んでいたのだ。仮面ライダーたちを実験台として。

 もはや勝ち目があるとすればプレートを奪うだけしかない、しかし今の彼は油断などしない。遊ぶつもりは毛頭なく、本腰を入れて殺しにかかって来るだろう。

 体から瘴気と煙を吹き散らし、ジェラスは脚をゆっくりと踏み込んで睥睨した。

 

「これでもう分かっただろ。お前らに俺を止める手段なんかねェって事がなァ……」

 

 首をコキコキと鳴らし、ジェラスは今にも襲いかからんとしている。

 その彼の動きを良く観察しながら、響は挑発するように言葉をぶつけた。

 

「それでも俺たちは諦めない。お前のようなヤツを野放しにすれば、この世界は終わりだ。必ず止める」

「減らず口叩いてんじゃねぇぞクソガキ!! 目障りなんだよ!!」

 

 歯軋りをしながら、ジェラスが猛進する。その瞬間に響はドライバーを呼び出した。

 再度変身し、時間を稼いでこの場の全員を逃がそうというつもりなのだ。その姿を見たジェラスは、より苛立ちを募らせる。

 

「バカの一つ覚えってのはこの事だよなぁ!? 今まで何を見て来たんだ!? 俺は最強なんだよ……何度変身しようが、どんな手を使おうが俺には勝てねぇんだよ!!」

 

 投擲しようと、チェーンソーを振り上げるジェラス。

 だが、その前に。響とジェラスの間に、一つの影が割って入った。

 

「何っ?!」

 

 姿を現したのは、翔だ。体や腕、頭に包帯を巻いたまま、ジェラスの前に立ち塞がっている。

 当然、ジェラスは憤慨して声を荒げた。

 

「またお前か!! 死に損ないの役立たずがノコノコと、今更何の用だ!?」

 

 怒りの咆哮にも、翔は怯まない。そして自らの負傷も顧みず、マテリアフォンを手にしてアプリドライバーを装着した。

 

「兄さんにも……皆にも……もう、手出しはさせない」

 

 右手を握り込んで、ジェラスに向かって突き出し、翔は叫ぶ。

 

「僕があなたを倒す! そのために来たんだ!」

「今更お前如きに何ができるってんだァ!? クソガキ兄弟が揃いも揃ってバカみてぇな事を口走りやがって!! 大人しく負けを認めてとっとと死にやがれェ!!」

「皆がここまで、負けずに必死に戦い抜いたんだ! できないはずがない! 絶対に諦めない、それが僕の意志だ!」

「その……その! 諦めねぇって言葉がァ……何よりも!! 死ぬほど!! 鬱陶しいんだよォォォッ!!」

 

 まるで悲鳴のような、咎人(ジェラス)の叫声。

 それを聞いてなお引き下がる事をせず、翔はその手に大型のマテリアプレートを取った。

 二枚のマテリアプレートを重ね合わせているようにも見える、神聖さを感じさせる豪奢な装飾がされた分厚い黄金の物体。

 ジェラスローターが翔に向かって振り被られると同時に、翔は起動スイッチを押し込んだ。

 その瞬間、黄金のプレートから、黄昏の輝きにも似た朱色の眩い光が溢れ出る――。

 

《チャンピオンズ・サーガ!》

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