仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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 かつて御種 文彦という男は、正義の味方に憧れる、田舎で暮らすごく普通の少年だった。
 まだ10歳にもなっていない少年時代の頃、彼は鎧を纏って悪と戦う光の剣士の特撮作品に夢中になっていた。
 何年も世代を繋いで来たシリーズで、昔の作品の中には彼の父親が主役を演じたものも存在する。演じるだけでなくスーツを着て立ち回る事もある、いわゆるアクション俳優だ。
 その影響で、文彦も特撮が好きになった。父親の作品も何度も見ていた。
 だが、歳の離れた彼の兄は、そんな文彦の事も父親の事も気に入っていなかった。

「いつまでも下らないものばかり見てないで、勉強でもしてろ! クソガキが!」

 これが兄の口癖であった。
 文彦が8歳の頃、この兄は当時20歳。都会で大学に通っており、時折家に戻って来ては父親と母親に罵声と嫌味を吐き散らしていた。
 それだけではなく、両親が見ていないところで幼い文彦にも嫌がらせをしたり、よく暴力を振るった。どうやら大学では勉強も人間関係も上手く行っていなかったらしい。
 文彦は子供ながらも、兄の八つ当たりそのものな虐待に負けずじっと耐えていた。それは、彼の中に心から信じられるものがあったからだ。

『きっと、強くてかっこいいヒーローが助けてくれる』

 彼はヒーローの実在をずっと信じ続けていたのだ。両親も助けてくれない以上、そうするしかなかったと言うべきかも知れない。
 いつの日か必ず兄のような悪い人間を懲らしめてくれる。正義への信仰はこの頃から根付いていた。
 しかしそんな事が起こるはずもなく、兄の暴力は帰省するごとに続いていく。次第に文彦も、ヒーローの登場ではなく、別の事を思い描くようになった。

『自分にもこんな力があれば、本物の正義の味方になれるのに』

 文彦はこの頃から、テレビのヒーローを羨んで、ただひたすらに力を求めるようになった。
 ――ある時、その先の運命を分かつ大きな転機が訪れた。
 兄が帰省した大雨の日、いつものように父が出演したヒーローの特撮を見ていると、文彦の頬を引っ叩いてこう言ったのだ。

「こんなゴミ、今すぐ捨ててやる!」

 怒鳴り散らして、兄は無理矢理に再生機器からディスクを取り出し、外へ出る。
 当然ながら文彦は反発する。雨の降り続く屋外へと飛び出した兄を追って、子供の足ながらも走り続けた。
 文彦がようやく彼を見つけた時、兄は山中で足を滑らせて、腕や脚などを骨折していた。意識も朦朧としているらしく、消え入りそうな声で兄は文彦に助けを求めていた。
 そんな兄の弱った姿を見て、文彦は――ほくそ笑んでいた。

『やっとヒーローが来たんだ! あいつを懲らしめるチャンスをくれたんだ!』

 この瞬間から、文彦の価値観は揺るがないものとなった。
 力によって他者の生死を自在とする者が、その頂点を極める者こそが正義。即ち正義とは力そのものの事であり、それに歯向かうのならば全てを滅ぼしても良い。
 その真理に気付いたから自分に褒美が与えられ、兄は真理を教授したヒーローを冒涜したからこそ、このような罰を受けたのだと本気で信じたのだ。
 そして、何よりも羨んだ。今まで自分を苦しめて来た兄の力も、悪人を成敗するヒーローの力も。
 今までよりも、ずっと強く意識していた。何故なら、本来なら自分が力を以て兄に対してこうするべきだったからだ。
 だからこそ辿り着いた。己の求める正義()のため、後はどうするべきか。その歪んだ結論に。

『これで……俺は正義の味方だ』

 気付けば、文彦は道端に落ちていた大きな石を拾い上げ、それを兄の頭に一発だけ叩き込んでいた。
 正義の味方になるための最初の儀式。兄を、その生贄としたのだ。
 その後、文彦は石を川に捨て、しばらくしてから「兄を見失った」と両親に嘘を吹き込む。頭に大怪我を負った兄は、病院に搬送されるも植物状態で生き続ける事になった。
 そして高校生になる頃、兄は死亡。一方の文彦は『正義()への憧憬』と『(正義)への羨望』をそのままに成長を続け、都会の大学へ進学し、帝久乃市でスペルビアと出会うのであった。


EP.29[羨望の果て]

 摩天楼の屋上に集まる光。その軌跡を辿って、ホメオスタシスの一行は飛んでいく。

 アズールはブルースカイリンカーV2になり、雅龍・ザギークはジェットマテリアラーを呼び出してリボルブ・キアノスと一緒に乗っている。

 アシュリィとその他隊員たちは、地上で囚われた人間の捜索を行っている。

 

「それにしても、何なんだろうこの光」

 

 不思議そうな顔をしながら、アズールは軽く指先で触れる。

 すると、頭の中に声と映像が流れ込んだ。小さな男の子が食い入るようにテレビを見ている場面だ。

 

『これが父さんなんだ……すごい! かっこいい!』

「今のは……?」

 

 驚きながら、アズールは手を離す。

 これは間違いなく、御種 文彦の記憶であった。少年の姿に面影があったのだ。

 他のメンバーには見えていない。アズールはこっそりと光に触れながら、それを辿って屋上に向かう。

 

「……いた!」

 

 屋上の光の集まる地点に目を凝らして、アズールが目を見開く。

 そこに立っているのは、ヴァンガードだ。恍惚とした表情になって、全身で光を吸収し続けている。

 ライダーたちに気付くと、彼は大きく両腕を広げて哄笑する。

 

「ヒャハハハハッ! 来たな、クズ共!」

 

 摩天楼の屋上に降り立った一行は、各々武器を取って身構える。

 そして真っ先にリボルブがヴァンガードに銃口を突きつけ、問いかけた。

 

「景気良さそうじゃねェか。何をしやがった」

「トランサイバーの改造能力の応用だ。俺の体内にフラッド・ツィートのマテリアプレートを埋め込んだ上で身体を改造したァ……これで俺は、プレート内のデジブレインと融合したってワケだ」

 

 続けざまにヴァンガードは「そしてぇ!」と叫ぶ。

 

「スペルビアが領域内を駆け巡る欲望のエネルギーをプレートに吸収するのと同じように、俺はそれを完全に自分の物にした!」

 

 そう言いながら、ヴァンガードはジュラシックハザードとBOOGIE WOOGIE ZOMBIE(ブギウギゾンビ)のマテリアプレートを、それぞれアプリドライバーとトランサイバーに装填する。

 すると、他の操作をするまでもなく、変身の掛け声すら必要とせずに、ヴァンガードはその身を仮面ライダージェラスへと変容させた。

 

「もうV3だろうが何だろうが関係ねぇ、俺が最強なんだよォ!」

 

 ジェラスが左手を前に突き出すと、屋上一帯の空間に紫色の液体が溢れ出し、その中から恐竜型のゾンビ・デジブレインが這い出して来る。

 今の彼は、もはやトランサイバーを操作するまでもなく力を行使する事ができるのだ。あのマテリアプレートはこの領域のコアのような役割を持ち、それを取り込んだ事で思うがままに何もかもを操る事ができるのだろう。

 

「翔! こいつらは俺たちに任せろ! お前はジェラスをやるんだ!」

「はい!」

 

 リボルブ・雅龍・ザギーク・キアノスの四人が、無限に湧くゾンビたちを相手取る。

 その間に、アズールはあの分厚いマテリアプレートを起動した。

 

《チャンピオンズ・サーガ!》

 

 音声が鳴り響き、朱色の輝きがその場を満たす。

 

《レッツ・ゴー・ライダー!》

「リンクチェンジ!」

Alright(オーライ)! マテリアライド! チャンピオン・アプリ! 天下無敵! 天上不敗! 語り継がれし伝説、インストォォォール!》

 

 朱いスーツの上に金色の装甲が合着し、仮面ライダーアズールはチャンピオンリンカーへと変化した。

 そしてその両手へと、二つの武器が握られる。剣と弓矢だ。

 

《アズールセイバー!》

《アメイジングアロー!》

「今度こそ終わらせる!」

 

 それを迎え撃つように、ジェラスもチェーンソーを握り締めて恐竜のように吼える。

 

《ジェラスローター!》

「それはこっちのセリフだ……クソガキィィィッ!」

 

 ジェラスが武器を持たない腕を真上に掲げる。

 すると、地面に『蛇』の文字が浮かんで消え去り、足場から何体もの大蛇が伸びだして一斉にアズールへと襲いかかった。

 

「うわっ!?」

 

 鋼鉄のように硬いそれらの大蛇を、剣と弓の刃で即座に砕く。

 だが、蛇たちは両断しても頭を粉々にしても、何度も再生してアズールを足止めするために襲ってくる。

 

「しつこいな……でも!!」

 

 アズールセイバーを地面に突き刺し、アメイジングアローを構えて引き絞る。

 そして手を離すと、光の矢が放たれて蛇の頭を打ち抜き、その先にいるジェラスへと真っ直ぐに飛来した。

 だが、矢はジェラスに命中する事なく、その寸前で弾けて消滅する。

 

「何っ!?」

 

 瞠目するアズール。ジェラスはその反応を楽しんでいるようで、ケラケラと笑っている。

 

「よ~く見てみなァ」

 

 言われて、アズールはジェラスの姿をじっくりと観察する。

 すると、彼の周囲にドーム状に緑色の膜のようなものが張られているのが分かった。

 バリアだ。それも、アメイジングアローの一撃を受け止めるほどに強力な。

 

「気持ち良いぜぇ、これこそ俺が真の領域の支配者になった証だ……もう誰にも俺を止める事なんざできやしねェのさ!!」

 

 正面からジェラスが、背後から大蛇が攻めて来る。

 アズールは避けずにその場で立ち止まり、二枚のマテリアプレートを取り出して剣と弓にセットした。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)!》

「普通の攻撃でダメなら……!」

《ブルースカイ・マテリアルスラッシュ!》

《ロボット・マテリアルクラッシャー!》

 

 アズールセイバーとアメイジングアローを水平に構え、必殺技の発動と共にアズールはその場で独楽のように回転した。

 青と朱の閃光の竜巻が、迫り来る大蛇を木っ端微塵に斬り刻み、さらにジェラスが展開したバリアを削る。

 しかし、完全に障壁を剥がす事はできない。いくら切ってもすぐに再生してしまうのだ。

 

「これでも防がれるのか!?」

 

 無意味と悟ったのか、攻撃の手を止めてしまうアズール。

 それを好機と見て、ジェラスは大きく踏み出し、アズールの襟を引っ掴んだ。

 

「無駄なんだよ! このまま死にやがれ!」

 

 離れないように強く掴み、チェーンソーをその首に突き立て、刃を回転させようとトリガーに指をかける。

 その直後、アズールは自身のアプリドライバーにセットされたチャンピオンズ・サーガを押し込む。

 必殺技を発動するつもりなのだ。攻撃を止めればジェラスが仕掛けて来る事も、向こうから来ればバリアの内側に入れるという事も全て想定し、この瞬間を狙い澄まして。

 

《ストロングフィニッシュコード!》

「この距離なら守り切れない! 行くぞ!」

Alright(オーライ)!》

 

 左手でジェラスの腕を握り潰し、さらにマテリアフォンを自らのドライバーにかざす。

 

《チャンピオン・マテリアルインパクト!》

「そぉりゃあああああっ!」

 

 アズールの両拳と両足が朱い光(ヴェスパーフォトン)で燃え上がり、ジェラスローターを拳打で弾き飛ばして、胸部や腹部へと猛烈な蹴りを食らわせる。

 思った通り、攻撃は通った。最後に顔面へと拳を振り抜き、吹き飛ばす。

 だが。

 

「クククッ」

 

 ジェラスは笑っている。与えたダメージも、即座に回復する。

 

「正直なところ、その狙いは悪くねぇ。だがな……俺が不死身だって事を忘れてんじゃねェのかぁ?」

「くっ!?」

 

 反撃が来る。それを察知してアズールは再び剣と弓を取り、二つの武器を交差させて防御態勢に移った。

 するとジェラスはドライバーのトリガーを操作し、今度は自分が必殺技を発動する。

 

《ガツガツガツガツガツッ! フルバイト!》

「終わらせてやるぜェェェ!」

《フィニッシュコード・ザ・タイラント! Alright(オーライ)! ジュラシック・マテリアルバイオレンス!》

 

 まずは巨大な尻尾が襲いかかり、それはアズールセイバーで弾いて逸らす。

 次に向かって来たのは両肩の角だ。今度はアメイジングアローの刃で双角を圧し折って、難を逃れる。

 しかしジェラスは止まらない。続いては禍々しい爪と牙が、その剥き出しの暴威が同時にアズールを引き裂こうとする。

 背後からは何体もの大蛇が迫り、逃げ場はない。

 

「まずい!」

「ゲームオーバーだ! クソガキィッ!」

 

 喜悦に満ちた叫び声と共に、爪の乱撃がアズールに打ち込まれる。

 防御のために構えたアズールセイバーとアメイジングアローは取り落してしまい、噛みつかれたアズールはそのまま空へと放り出された。

 

「勝った! このまま死になぁ!!」

 

 そう言って、ジェラスは右掌を天に向かって振りかざす。

 瞬間、暗雲が立ち込めて巨大な『蛇』の文字が浮かび上がると、今度は無数の雷の大蛇が上空のアズールへと降り注いだ。

 

「ぐうううっ!?」

 

 今のアズールは飛行能力を持たないため、空中では逃げ場がない。ヴェスパーフォトンを全身に放出して雷撃を防ごうと試みるものの、耐え切れずに地面に落とされた。

 しかしそれでもまだ変身は解除されておらず、地面に突き刺さった剣を手に立ち上がる。

 

「ハッ、やるな。ここまでやってもちょっとばかり息が上がる程度か……V3ってのは伊達じゃねぇようだ」

 

 勝利を確信しているようで、余裕に溢れる口調でジェラスが言い放つ。

 攻撃を受けてもダメージを気にせず戦えるという特性を持つ以上、死ぬ事はないのだから当然だろう。アズールも、このままではジリ貧で負ける事を自覚している。

 

「一体どうして、デジブレインと融合しただけでここまで強くなったんだ……!?」

「なんだ。お前らまだ気付いてなかったのか?」

 

 ジェラスから発せられたのは、意外そうな声色での言葉だった。

 

「Cytuber上位七人にそれぞれ与えられるマテリアプレート……《チェックメイトモンスターズ》《フラッド・ツィート》《ロックンロール・ビート》《スムースペイント》《The Golden City(ザ・ゴールデン・シティ)》《ブシドー・ブリード》……そして《フェアリーテイル・プリンセス》」

 

 背後に現れた大蛇が椅子の形を取り、ジェラスはそこに座る。

 

「それらに封入されているのは、スペルビアと同じ初期タイプのデジブレインだ。俺の推測通りだとすれば、恐らくアクイラと共に消滅したはずの……な」

「なんだって!?」

 

 驚くアズール。その反応を楽しむように、ジェラスは喉奥からくつくつといやらしい笑い声を上げる。

 

「ずっと考えていた。アクイラはなぜ戦いの直前になって、自らの完成を遅らせてまで味方を増やそうとしていたのか……まだ確証はないが、ようやく俺は結論に辿り着いた!」

 

 アズールは、ジェラスの話に聞き入っている。それほどに彼の話は重要性が高いと感じたのだ。

 しかしただ聞いているワケではなく、攻撃の隙と不死の力の打開策を考えている。まだ勝つ方法があると信じて。

 

「こいつらはバックアップデータだったんだよ」

「バックアップ……!?」

「アクイラは完全な姿になる前に自分が倒される事も予測していた。その上で、ちゃんと復活する方法も講じていたって事だ」

 

 ジェラスの言葉にアズールは驚くばかりであった。

 推測でしかないとは言っても、それは核心を突いているように思えるからだ。

 

「だが、そのバックアップも完全な形にはならない。時間がないからな。だからこそ、破壊される前に……恐らく、自分の腹心であるスペルビアに回収させたんだろうぜ」

 

 そう言ってジェラスは「ここまで言えばスペルビアの目的も分かんだろ」と大蛇が作った背もたれにふんぞり返る。

 

「ヤツはアクイラを復活させるつもりなんだよ。それも、かつて倒された時のような状態じゃない……完全態としてな」

「そんな!?」

「アクイラが蘇れば、流石にこの世の誰にも勝ち目はない。ヤツは電脳世界の……いわゆる『神』だ。だから、俺は先手を打って裏切ってやったァ……」

 

 話を聞いている内に、アズールの中でひとつ合点が行った。

 サイバーノーツを倒した後、毎度のようにスペルビアが現れてマテリアプレートを回収し、それを使ってサイバー・ラインから何かを吸収していた。

 あれが、アクイラを復活させるのに必要なエネルギー源なのだとすれば。バックアップとなるデジブレインへと供給していたのだとすれば。これまでのホメオスタシスの行動は、アクイラ復活の補助を行っていた事になる。

 そこまで考えた直後、ジェラスはまた声を上げて笑い始める。

 

「安心しろ。もうアクイラは蘇らねぇ、俺がヤツのバックアップを丸ごと食っちまったんだからなァ! お陰でヤツの力の一部を取り込んで、この力を手に入れる事ができたんだよォォォ!」

 

 スペルビアやアクイラの思惑を潰して一杯食わせた事がおかしいのか、ジェラスは天を仰いでゲラゲラと笑っている。

 そして突然ピタリと止め、その顔をゆっくりとアズールに向けた。

 

「アズール! そのV3のプレートを俺に寄越せ、そうすりゃあホメオスタシスも電特課も全員見逃してやる! どの道スペルビアは不死の力を持つ俺を倒せないが……念には念を入れておかねェとなァ!」

 

 すると、アズールは拳を握り込んで、真っ向からそれを拒絶した。

 

「このマテリアプレートは、皆が作ってくれた力だ! 絶対に渡さない!」

「ハッ、バカが! 現実を見ろ、どっちにしろ俺を倒せなきゃ奪われるだけだろうが!」

「……あなたは最初から僕たちを見逃す気なんかないはずだ」

 

 真っ直ぐに突きつけられた言葉。

 仮面の奥で片眉を釣り上げ、ジェラスは話の続きを聞く。

 

「今のあなたはそういう人だ。何かと理由をつけて、僕らを排除するんだろう」

「ヒャハハッ! よく分かってんじゃねェか!」

「そんなに怖いのか」

「……あ?」

 

 笑うのを止め、ジェラスはアズールの方を見据える。

 アズールも椅子にふんぞり返っているジェラスを睨みつけ、言葉を続けた。

 

「あなたは臆病だ。弱みに触れられる事も、弱さを認めるのも怖いんだろう。だから必要以上に強い力を羨んで求めるし、強い人間を妬むし、自分の弱みに繋がるものを徹底して排除しようとする。元作さんやあなた自身のお兄さんを殺したのが決定的な証拠だ」

「だっ……黙れ! 黙れェ!」

 

 チェーンソーを持って立ち上がり、ジェラスはアズールへと攻撃を仕掛ける。

 あまりにも単調な一撃を、アズールは腕でしっかりと受け止める。

 

「ガキに何が分かる!? お前こそ!! お前らこそ俺を否定したいだけだろうがァ!!」

「……僕が今までに出会ったCytuberの人たちも、皆そうだった。辛い現実を認められず、目を背けるためにより深く歪んだ欲望に溺れていく」

 

 アズールセイバーにヴェスパーフォトンを注入して振るい、ジェラスローターを両断。

 そしてジェラスの腹に前蹴りを食らわせ、倒れたところでその胸倉を掴み、アズールは叫ぶ。

 

「だけど! 進駒くんも律さんも、面堂さんたちも! 最後にはちゃんと本当の自分を認める強さがあった!」

「くっ!?」

「あなたは……どうなんだ!? 本当にただ力を求めるだけか!? それがたとえほんの一欠片でも、子供の頃に確かに持っていた、本当の意味で正義の味方に憧れていた頃の気持ちは残っていないのか!?」

「力のねぇクソガキが……生意気言ってんじゃねェェェ!!」

 

 右拳を突き出て距離を取るジェラス、そして頭上からアズール目掛けて落ちる無数の雷の大蛇。

 その場に焼け焦げた臭いと煙が充満し、ジェラスはせせら笑った。

 

「ガキが調子に乗りやがって」

 

 だが、直後にジェラスの笑みは消える事になる。

 ヴェスパーフォトンを放出したアズールが煙を晴らし、その場に立っていたからだ。

 

「なにィッ!?」

「辛い目に遭ったのは知ってる。あなたが歪んでしまった原因も分かってる。だけど……罪は認めるべきだ。本当は間違った事をしていると、あなたはずっと昔から気付いているはずだ!」

「クッ……うるせぇぇぇっ!!」

 

 ジェラスが叫ぶと、再び頭上から雷蛇が降り注ぐ。

 だが、今度は命中する事なく、アズールの身体を不自然に逸れて地面に落ちた。

 

「な、あ……!?」

 

 唖然とするジェラス。見れば、アズールの背にはまたも青い大鷲の翼が生えていた。

 そして彼が右腕を前に掲げると、その翼が分解されて、羽が散るようにノイズが右腕へと纏わり付いていく。

 

「現実と向き合え!!」

 

 ジェラスに向かって走り、右の拳を突き出す。

 すると、その手から青い光が溢れ出し、ジェラスに向かって真っ直ぐに解き放たれた。

 阻まれるかと思われたその一撃は、ドーム状に展開された緑色のバリアをすり抜け、ジェラスの身体をも覆い尽くす。

 

「ぐぅっ!?」

 

 身構えてジェラスは両腕で防御を固めて身を守る。

 当然と言うべきか、痛みはない。ゾンビの能力がある以上、痛覚もなければ傷を負っても回復するのだ。

 しかしバリアが通じなかったのは一体どういう事なのか。そう思いながらもジェラスは、再びアズールへ雷を落とそうと試みるが――。

 

「……あ?」

 

 何も起きない。この領域に干渉して大蛇を生み出す力、さらに緑色のバリアも消失してしまっている。その上リボルブたちと戦っていた恐竜ゾンビたちも消えてしまっていた。

 その隙にアズールはジェラスの右頬を殴り飛ばす。

 

「ガッ!?」

 

 痛い。頬と背中に大きな衝撃を感じ、ジェラスは天を仰いでいた。

 さらに続けて拳打と蹴撃が降りかかる。痛覚は消えているはずなのに、アズールの拳の一発一発に、突き刺さるような鋭い痛みを感じていた。

 どうしてこんな事になったのか、理解できなかった。しかし、その原因であろう人物に問い質す事はできた。

 

「お、お前、一体何をしやがったァ!?」

 

 立ち上がって腕を震わせ、目の前の男にジェラスが問う。

 だが、アズールはただ首を横に振るだけだった。

 

「これがどういう力なのか、僕にも分からない。だけど、鷲我さんが言った……僕が鍵になるって言葉の意味は、やっと分かった」

 

 剣先をジェラスの方に向け、アズールは言う。

 

「この力が……答えだったんだ。あなたの中にある仮死化の力も、領域の主としての力も、全て剥がす……この力を目覚めさせたかったんだ!」

 

 言った後で、アズールは「こんな事までできるとは思わなかったけど」と付け足した。

 一方、ジェラスは未だに全身に走る痛みも能力の喪失も信じられないようで、自分の両手を見下ろして息を切らしている。

 

「う、ウソだ……あり得ねぇ……今度こそ、頂点に立ったと思ったのに、こ……こんな!?」

 

 複数人の近付く音を察知してジェラスが顔を見上げれば、いつの間にか五人の仮面ライダーに囲まれている事に気付く。

 恐ろしい。体の震えが止まらない。

 圧倒的な力を持つとはいえ、不死の力が解けた今のジェラスでは、この人数には太刀打ちできないのだ。ましてや、相手側は自分よりも上のV3タイプの使い手もいる。

 

「み、認めねぇ……! 認めねぇぞ! お、俺は……!」

 

 歯を軋ませ、ジェラスはトランサイバーのリューズを回した。

 

「俺が負けるはずねぇんだァァァッ!!」

《オーバードーズ! ビーストモード、オン!》

「ぐぅぅぅぅっ、アアアアアアアアァァァァァァッ!!」

 

 咆哮と共に、ジェラスの姿が変わる。全身がノイズを帯びて泡立ち、全く別の生物へと改造されていく。

 それは、全身の肉が腐り切った巨大な恐竜だ。両目や肋骨などの骨の隙間からは、合計九体もの緑眼の大蛇の頭が伸び出ている。

 

「こ、コォれで俺ハ最強だァ……俺ガ頂点ナんダァァぁッ! イヒッ、ヒヒヒッ、皆殺シ……ザコ共を皆殺シシャァァァッ!!」

「……バカ野郎が。そいつはテメェが追い詰められたって事を認めてるようなモンだぜ。ただの悪足掻きなんだよ」

 

 明らかに理性を失っているビーストジェラスを見て、吐き捨てるようにリボルブが言い放ち、二つの銃を構える。

 そしてアズールの隣で、キアノスがフェイクガンナーを手に話しかけて来た。

 

「この戦いの要は一番強いお前だ。不死の力を無力化した、今こそがチャンスだ」

「兄さん……」

「やるぞ、翔」

 

 振り返れば、雅龍とザギークも各々槍とボウガンを手にして、アズールへ視線を送っている。

 仮面の奥で微笑み、アズールは巨大な怪物に向かって剣を掲げた。

 

「その歪んだ欲望、僕らが断ち斬る!!」

「ギヒッ、ギヒャヒャヒャヒャヒャヒャーッ!!」

 

 ビーストジェラスが口から酸の液を放出するのを合図に、五人は一斉に動き出す。

 ザギークは巨大な右足へとインクの矢弾を打ち込み、そして固めて動きを封じ込めようとする。

 しかし、その白いインクは大蛇の吐く炎によって即座に溶かされてしまう。

 

「ちぇーっ、これじゃダメか!」

 

 悪態をついた後、炎を吐いた大蛇が自分の方を見ている事に気付いて、ザギークは慌ててその場を離れる。

 火炎球が彼女のいた場所を焼き払ったのは、その直後だ。

 

「ひぃぃぃー! こりゃキツい!」

「浅黄! 飛べ!」

《パニッシュメントコード! Oh YES(オゥ・イエス)! ギガント・マテリアルスティング!》

 

 よたよたと逃げ回るザギークの耳にそんな声が届き、彼女は反射的に前へと飛び込んだ。

 すると、巨大な槍が恐竜の肩に突き刺さる。先ごろ炎を吐いた大蛇は、一緒に突き刺さった。

 雅龍が必殺技を発動し、巨槍を投擲したのである。

 

「ひゅーっ、やるじゃん」

「どうやら本当に再生できなくなったようだな」

 

 負傷を抱えたまま苦悶する恐竜を見ながら、雅龍は呟く。

 しかしこの一撃を受けても、ビーストジェラスは止まらない。体に刺さったスタイランサーを放り投げ、咆哮を上げた。

 

「ガッ、グ……グゥラァァァァァ、ラァガラララララァッ!!」

 

 空へ翼を広げたビーストジェラスの口腔、さらに九頭の大蛇の口から緑色の光線が発せられ、摩天楼に立つ五人を焼き切らんとする。

 飛行能力を失っている今、アズールでは対処する事はできない。跳躍すれば届く可能性はあるが、無防備な状態で投げ出される事になる。

 だがそれは全て、この恐獣が常に空を飛び続けられている場合の話だ。

 

《ツインフィニッシュコード!》

「!?」

 

 突如その耳に聞こえた音声に、ビーストジェラスは周囲を見回す。

 ライダーたちは空を飛べないはずだった。しかし、確かに空で音がした。

 続いて、背中で冷たい声が聞こえる。

 

「終わりだ、クソ野郎」

 

 リボルブの声だ。アメイジングアローを拾い上げ、この瞬間を見越して翼の影に隠れていたのだ。

 スロットにはリボルブの所有している二枚のマテリアプレートが装填されている。大蛇の目からその様子を確認したビーストジェラスは、振り落とすためにもがくが、もう遅い。

 

Alright(オーライ)! ダンピールデュエル・マテリアルエクスキューション!》

「オォラァァァッ!」

 

 リボルブが弦を引っ張り、矢を放つ。赤い杭が無数に翼と背中に打ち出され、ビーストジェラスは地面に墜落した。

 一方、弓から手を離した後の衝撃が激しすぎたのか、リボルブもジェラスの背で転倒している。

 

「あぁクッソ痛ェな畜生! 肩外れるかと思ったじゃねェかオイ!」

 

 摩天楼に倒れ伏す巨獣の背を蹴りつけながら、リボルブはその場を離れた。

 苦悶しつつもゆっくりと立ち上がろうとするビーストジェラス。

 そんな彼の前に、アズールとキアノスが立ち塞がった。

 アズールは隣に立つ兄に一枚のマテリアプレートを放り渡し、自身も剣にプレートを装填する。

 

《フィニッシュコード!》

「兄さん、やるよ!」

《オーバードライブ!》

「ああ……!」

 

 フェイクガンナーの銃口から青い光の刃が伸び出し、アズールセイバーも朱色の輝きを帯びる。

 そして、二人は立ち上がった恐竜に向かって、同時に飛び出した。

 

Alright(オーライ)! ブルースカイ・マテリアルスラッシュ!》

Make or Break(メイク・オア・ブレイク)! スーパーブルースカイ・マテリアルソニック!》

「そぉりゃあああああっ!」

「ハアアアアアァァァッ!」

 

 青い仮面ライダーの放つ斬撃の乱舞が、大蛇の頭も恐竜の肉体を斬り裂く。

 ビーストジェラスが爪を振り被って反撃に転じようとしても、スピードで上を行く彼らはそれさえ許さない。

 最後に真上へと斬り上げると、恐竜の肉体は崩れ落ち、元の仮面ライダージェラスの姿に戻った。

 

「がァ、ぐっ……ふざけんじゃねぇ……!」

 

 しかし、まだジェラスは諦めない。

 穴の空いた両翼を広げ、血走った目をアズールに向けながら、アプリドライバーとトランサイバーを操作する。

 

「たとえ俺自身がどうなろうとォォォッ!!」

《フィニッシュコード・ザ・タイラント!》

「『ファイナルコード』!」

Alright(オーライ)! ジュラシック・マテリアルバイオレンス!》

Roger(ラジャー)! ゾンビ・マテリアルデッド!》

 

 自分自身をも焼き尽くさんばかりにカタルシスエナジーを漲らせ、ジェラスはアズールを含む五人の仮面ライダーへと両足を突き出した。

 再生できない身体から、捨て身で放つ、必殺の一撃だ。

 これを防ぐ事ができなければ、この摩天楼ごと全員が消し去られてしまうだろう。

 

「お前ら……だけはァァァァァッ!!」

 

 それを目の前にしても、アズールは冷静だった。

 チャンピオンズ・サーガの展開されたプレートを一度閉じ、全身へとヴェスパーフォトンを体の隅々に浸透させ、再び押し込む。

 

《グレイテストフィニッシュコード!》

「あなたの(欲望)は……」

Alright(オーライ)!》

「ここで終わりだ!!」

 

 マテリアフォンを振りかざして、アズールはジェラスに向かって大きく跳躍。そして、右足を突き出した。

 獅子の姿を象った朱色の煌きを全身から放ち、迫り来るジェラスとぶつかり合う。

 

「オオオオオオッ!!」

《チャンピオン・マテリアルヴィクトリー!》

「そぉりゃあああああっ!!」

 

 朱色の獅子は恐竜の一撃を容易く噛み砕く。

 そして、ヴェスパーフォトンでジェラス自身をコーティングする事によって自爆さえも封じ込めた。

 

「う、嘘だ……!」

 

 嘆きの声を上げるジェラスの胸に、アズールの右足が命中。

 そのまま、摩天楼の屋上に叩き込んだ。

 

「この俺が、そんな……嘘だ、嘘だァァァァァーッ!?」

 

 装甲が粉々に砕け散り、屋上には屈辱感に満ちたジェラスの悲鳴が響き渡るのであった。




 翔たちが現実世界でジェラスとの戦いを繰り広げている頃。
 自身の私室で、静間 鷲我は深く溜め息を吐いていた。

「……本当に、変身できてしまったのか……」

 彼の手元にあるのは、チャンピオンズ・サーガのマテリアプレートの設計図。
 そして、それとは異なる過去の記述、2000年当時の出来事について記された資料だ。

「推測は正しかったという事か……一体、どうすれば良い……まだ間に合うと信じたいが……」

 額から汗を吹き出して、鷲我はひとり呟く。
 しばらく頭を抱えた後、意を決した様子で、顔を上げた。

「ヤツを呼ぶしかないな」

 そう言って、鷲我はポケットからN-フォンを取り出す。
 友人である天坂 肇へと『あるもの』について調査を依頼するために。
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