仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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 帝久乃学園で催されている学園祭の最終日。
 翔はこの日も、チャイナドレスを着て接客をしていた。
 しかしその女装は今日で終わる。ハッキリ言ってこの服装は全く慣れなかったが、そう思えば翔は幾分か気持ちが楽になった。

「あ、いらっしゃいませ」

 今日もまた、教室の扉が開く。
 現れたのは二人の少女で、一人は膝裏まで黒髪を伸ばしており、もう片方は金髪を左右に結っている。また、二人共ミニスカートに白いセーラー服を纏い、どこか妖艶な雰囲気を醸し出していた。
 服装や背格好から考えても年齢はほぼアシュリィと近い、黒髪の方が14歳で金髪の方が15歳だろうと翔は思った。

「二人で来ましたー」
「ここでチャイナドレスのカワイイお兄様たちとお姉様たちを見物できると耳にしまして」

 嬉々として翔の顔と全身をまじまじと眺めながら、二人の少女が言う。
 最近は変わった趣味の子が多いのだろうかと思いつつ、翔は彼女らを空いた席へと案内する。

「はい、二名様ご案内です」

 少女たちを着席させ、注文を承ってから翔はその場を離れる。

「アレがママの言っていたアマサカ ショウ、仮面ライダーアズールね」
「素敵な殿方ですわね、イジメ甲斐がありそうで……」

 金髪の少女フィオレと、黒髪の少女ツキミが交互に言った。
 フィオレは彼の背中を眺めて舌舐めずりをし、ツキミの方はほぅと妖しく息を吐いてほんのり頬を染めている。

「フフッ、まだダメよツキミ。ママから怒られちゃう」
「お姉様こそ、味見をしてはいけませんわよ。彼にはまだまだたくさん溜め込んで貰わないと……」
「いつかはあたしたちの『王子様』になるんだけどねー。搾り取るのはそれまで待たなきゃ」

 いたずらっぽく笑い合うフィオレとツキミ。
 数分の後、翔が再びその場に姿を現し、二人の机にジャスミン茶とお茶請けのゴマ団子を出した。

「お待たせしました」

 ツキミはじっとゴマ団子を眺め、フィオレと共に口に運び、そして茶を飲む。
 瞬間、甘味と茶の味が絶妙に口に合ったらしく、二人の顔がパァーッと輝いた。あまりにも嬉しそうだったので、翔も思わず笑ってしまった。
 あっという間に彼女らは茶を飲み終え、席を立って翔の腕に抱きつく。

「お兄ちゃん、今日はありがと」
「……へ?」

 呆気にとられる翔。フィオレが、翔の腕を引っ張って頬に口づけしたのだ。
 それを見て、ツキミは頬を膨らませる。

「もうっ! ズルいですわお姉様ったら!」

 そして、フィオレと同じように腕を引き、今度は翔の耳を食むようにキスをした。

「えっ、えっ!?」
「では私もここで。さようなら」

 学園祭最後の日に訪れた二人の少女。彼女らの突然の行動に、翔は呆然として、背中を見送るしかなかった。


EP.32[絢爛なる大欲]

「って事があったんですよ」

 

 ホメオスタシスの地下研究施設の休憩所にて、鷹弘や響や浅黄といった仮面ライダーの面々とテーブルを囲む翔。翠月は現在パトロール中で、この場にはいない。

 鷹弘はコーヒーを飲みながら、片眉を釣り上げて口火を切る。

 

「……お前、マジでロリコンになっちまったのか? 女子中学生相手にそんな……」

「いやいやいやいや!? 違いますよ、伝えたいのはそういう事じゃないです!」

 

 慌てて立ち上がり、翔は弁解する。すると鷹弘は唇を釣り上げてまた一口コーヒーを飲んだ。

 

「冗談だっての」

「止めて下さいよほんとに……」

「けど実際、お前アシュリィの事どう思ってんだ?」

 

 鷹弘に真剣な声色で問われ、思わず翔は背筋を伸ばす。響も固唾を呑んで返事に耳を傾けている。

 

「どう、って」

「そのままの意味だ。ずっと同じ屋根の下で過ごして、まさか何も思ってねェって事ねェだろ。自分が居場所になるとまで言って、裸まで見といてよ」

「裸に関しては事故なんですけどね!? でも、そうですね……どうなんでしょう……」

 

 眉を寄せ、腕を組んで天井を見上げる翔。妙に言葉を濁すので、鷹弘は当然訝しんだ。

 

「オイオイ、自分の事だろ? なんでそんな曖昧なんだ」

「いや、正直……初めて出会って、記憶喪失なんだって知った時からずっと、自分が守ってあげたいなって思ってたんですよ。でも、それがそういう感情から来るものなのか、それとも自分と重ねていたのか……いまひとつ確信が持てないというか」

「ふーん……」

 

 翔と響は孤児だった過去があるのは鷹弘も知っているので、それはそれで納得してしまう。

 二人の話す様子を見ていた響は、鷹弘に続いて翔へと質問を投げかけた。

 

「でも翔、アシュリィちゃんに随分懐かれてるだろう? 時々腕にしがみつかれたりもしてるな。そういう時に、何かこう……何か感じたり思ったりしないのか?」

「欲情ってこと?」

 

 横から浅黄が口を挟み、響は慌てて「いや、そこまでは言ってない!」と訂正する。

 対して、翔の方は苦笑いしながらも頷いている。

 

「そういう時はビックリするというか、ドキッとする。男だからね僕だって」

「そうか。それはなんというか、安心したな」

「……兄さん、自分がちゃんと相手いるからって余裕ぶってない……?」

 

 突然の反撃。コーラを口に含んでいた響は、思わずむせてしまった。

 

「か、からかわないでくれ。俺たちはまだ正式にお付き合いしているわけでは」

「ほー……『まだ』ねェ?」

「静間さんまで!?」

 

 鷹弘と浅黄はニヤニヤしながら、響を見つめている。

 そんな時だった。浅黄の持つN-フォンに、翠月からの通信が届いた。

 

「もしもし?」

『浅黄、今研究所か!? 緊急事態だ!!』

「……何があったの?」

 

 彼の口調からただ事ならぬ様子を感じ取り、浅黄だけではなく翔たちも表情を変える。

 しかし翠月は説明しづらいのか、それとも自分でも上手く説明できないような状況になっているのか、とにかく詳細は明かさなかった。

 

『急いで病院に来い! 近場ならどこでも良い!』

「分かった、すぐ行くよ」

 

 こうして翔たちは、アシュリィと調査員たちを伴って、ホメオスタシスが傘下としている帝久乃市の病院まで足を運ぶのであった。

 

 

 

「なんだ、こりゃ……」

 

 十分後、病院の前にて。

 その惨状を目の当たりにした鷹弘が、呆然と呟く。

 病院は、建造物や敷地がそこから丸ごと『消失』していた。と言っても単に消えたワケではなく、まるでカーテンで遮られたかのようにノイズで覆われ歪んでいるのだ。

 そしてノイズの向こう側に見える景色は、その空は、青色ではない。サイバー・ラインのものと同じ、ドス黒い色彩だ。

 

「ウソでしょ……!?」

 

 驚きながら、浅黄はノイズの広がる空間に手を伸ばす。すると、指先から順番にその右腕がズブリと中に入り込んだ。

 

「うっ!?」

 

 慌てて腕を戻す。案ずる必要もなく、右手はちゃんと繋がっている。

 

「これ、間違いなくサイバー・ラインに繋がってるって事だよね」

「だろうな。まさか、現実世界にまで侵蝕するとは。いよいよ向こうも本気になったようだ」

 

 翔と響がそんな会話をしていると、ホメオスタシス調査部隊員用のワゴン車の中から、男が一人顔を出した。

 

「どうやら開業医のような個人事業を除いて、帝久乃市内の他の病院も全てが同じ状態になっているようです!」

「マジかよ……あぁそうか、だから警視はどの病院でも良いっつったのか」

 

 病院が封鎖された事に軽くショックを感じながら、鷹弘は頭を抱える。

 そして周辺を見回していた翔は、そんな彼に話しかけた。

 

「英さんは見当たらないですね」

「中に入るしかなさそうだな」

 

 一同は顔を見合わせ、ワゴン車と共にノイズのカーテンへと飛び込んだ。

 そうして辿り着いた先で、一行は再び驚愕する事になる。

 

「こ、これは……!?」

 

 到着の直後、突然、眩い光が目を覆う。

 しかし視界が妨げられたのはほんの一瞬の事で、すぐにその領域の全貌が明らかとなった。

 綺羅びやかなネオンの装飾と、建ち並ぶ豪奢な施設。

 一言で表すならば、そこはマカオやラスベガスなどにある娯楽場、即ち『カジノ』そのものだ。領域内の全ての施設がホテルかカジノになっている。

 

「病院がカジノ、とはな」

 

 響が努めて冷静に言い放つ。周囲をよく見てみれば、何も知らずに病院へ向かってこの世界に迷い込んだ人々もいるようだ。そして、帰り方が分からずに立ち往生している。

 その人混みから少し離れたベンチには、翠月の姿もある。翔たちに気付くと、ゆっくりと歩み寄って来た。

 

「状況は分かっているだろうが……思った以上にかなりマズい事になっているぞ。本来病院にいた医師や看護師、患者たちがカジノの中に囚われているようなんだ」

「なに!?」

 

 翠月の言葉に、鷹弘は大いに驚いた。

 病院という存在が帝久乃市から消えてしまった今、患者が野放しになっているのは非常に危険だ。下手をすれば命に関わる。

 

「ここは人命救助を最優先に行動すべきですね」

「ああ。全員、建造物内を探査しつつ、まずはこの場にいる人々を元の世界に――」

 

 鷹弘がホメオスタシスのメンバーに指示を出そうとした、その時だった。

 

「その必要はないぜ」

 

 そんな男の声が、目の前のカジノの方から響いて来た。

 見れば、そこには三人の男女を引き連れて歩く、白いフォーマルスーツと同じく白いファーコートを纏った、純金フレームのサングラスを装着している男がそこにいる。

 一行は直感した。この男が、この領域を作り上げた張本人であると。

 そして共に歩いている黒いスーツの三人組は、松波・都竹・梅悟。ヒュプノスだ。

 

「俺様の名は大欲のノーブル。Cytuberで一番の金持ちだぜ」

 

 名乗りを上げた瞬間、翔たち五人は一斉にノーブルを取り囲む。

 

「おーっとォ!? いきなりやる気じゃねーの、ギャハハッ」

「当然だ。貴様を倒せば人々は解放され、病院も元に戻るのだろう。のこのこと姿を見せたのは失敗だったな」

「そうかな? そう思うなら殴ってみろよ」

 

 翠月の言葉に対して、挑発的に言葉を返すノーブル。ヒュプノスの面々は後ろに控えたまま動かない。

 すると、翠月は一切の警告もなく、いきなりノーブルの顔面めがけて回し蹴りを繰り出した。

 だが――。

 

「何っ……!?」

 

 脚が、顔の前でピタリと止まる。翠月が再び力を込めようとしても、何度試しても同じだ。

 ジェラスと戦った時と同じ力だろうか。翔は、じっと目を凝らすものの、あの時のようにバリアのは存在しないようだった。

 

「バカなヤツらだな。わざわざ無策で出て来るワケねぇだろ? この俺様を攻撃できないと分かっているからこそ来てやったんだよ」

 

 からからと笑いつつ、ノーブルは説明を始めた。

 

「この領域では『暴力や窃盗のような他人へ危害を加える行為は禁止されている』……施設の外であろうと、だ。つまりカジノ内で俺にゲームを挑まない限り、触れる事さえ許されない。尤も、俺たちも客人に無礼を働く事は許されないが」

「随分、懇切丁寧に説明してくれるじゃねェか。どういうつもりだ」

「俺様は支配人だ、説明の義務があるし、公正なゲームが望みでねぇ。まぁどちらにせよ、お前らじゃ俺様との勝負の舞台に立てねーがな」

「あァ?」

 

 ノーブルは自信に満ち溢れた笑みを見せながら、パチンッと指を弾く。

 すると、その右手にプラチナカラーのカードが握られた。どうやら、会員証のようだ。

 

「この領域にはさっき説明したようなルールが様々に存在する。そして、その内の一つが『メンバーズカードがなければ施設内の設備を利用する事はできない』……つまり門前払いされるだけだ。そしてそのカードは、カジノの中でしか手に入らないぜ」

「なんだと!?」

「つまり、今のお前らじゃ最初から俺様と戦う資格なんかないって事だ。残念だったなぁ?」

 

 余裕の態度で踵を返すノーブル。ヒュプノスの三人もそれに続く。

 背を向けているというのに一切仕掛ける事ができずに見送るしかないという事実に、一行は歯噛みした。

 ただひとり、響を除いて。

 

「今の俺たちでは、と言ったな」

「兄さん?」

 

 ノーブルがピタリと足を止めて振り返り、サングラスを外して目を細める。

 そして、響はそんなノーブルへと真っ直ぐに指を突きつけた。

 研ぎ澄まされた刃のような、チャンピオンの目で。

 

「俺は挑まれたゲームから逃げるつもりはない、首を洗って待っていろ」

「ほぉーう。それは、クククッ……楽しみだ」

 

 そう言うと、ノーブルは正面にある巨大なカジノの中へと姿を消した。

 アシュリィは訳が分からないとでも言いたそうに首を傾げ、響に話しかける。

 

「キョウ、今のはどういう事?」

「簡単な話だ。ヤツはメンバーズカードがなければ設備を利用できず門前払いされ、そしてそれは中でしか入手できないと言った」

「うん、だからカードがないと中に入れないんだよね?」

「そこが違う」

「え?」

 

 またもアシュリィは頭上に疑問符を浮かべるが、翔たちは彼が何を言わんとしているのかを理解したらしく、数度頷いていた。

 

「ヤツは『設備を利用できない』と言ったが、一方で『メンバーズカードがなければカジノ内に入れない』とまでは言っていない。つまり、それは『会員でなくとも入る手段がある』という事だ」

「あ……! で、でも門前払いされるって言ってたよ!?」

「施設が利用できないなら入る意味がないからね。それに、門前払いされるのは普通に入口から入った場合だ。浅黄さん」

 

 響が振り返ると、マテリアパッドを操作していた浅黄は、人差し指と親指で右手に丸を作ってニヤリと笑う。

 

「もう調べたよん。正面はベーシックタイプのデジブレインが警備してるから無理だけど、裏口を見つけた」

「ちょっと待て、だったらそのデジブレインをブチのめせばいいんじゃねェのか?」

「あーそりゃダメダメ。さっき言ってたでしょ、暴力は認められないってさ。アレ、別にノーブルに限った話じゃないと思うからさ」

「んー……まァ、そうだな。下手な事して騒ぎを大きくする必要はねェか」

 

 鷹弘は納得した様子で唸りながら頷き、続いて翠月が口を開いた。

 

「しかし、ノーブルはなぜ我々にそんな助言のような事を? 公正なゲームを望んでいると言っていたが、そこまでする必要はないだろう」

「恐らくですが、彼自身が『説明の義務がある』と言ったように、それもルールなのかも知れません。我々に破れないのと同じで、彼自身も破る事ができない」

 

 響の推察に、翠月も納得する。

 ともかくこれで方針は固まった。鷹弘は顔を上げ、全員に指示を出した。

 

「ひとまずこの場にいる帝久乃市の住民を元の場所に帰して、調査員は拠点を立てるぞ。場所はここでいい」

「ここで大丈夫なんですか?」

「ああ。連中もルールを破れないのだとすれば、施設外では絶対に襲われねェ。逆に利用してやるのさ」

 

 鷹弘は唇を釣り上げ、全員を見据える。

 

「避難誘導が終われば次は侵攻戦だ、気合い入れろ!」

『了解!』

 

 

 

 約10分後。

 避難誘導と拠点建造を終えたホメオスタシスの一行は、仮面ライダーに変身する五人とアシュリィが侵入組を担当し、浅黄の案内に従って巨大カジノの裏口に辿り着いた。

 扉はあっさりと開き、容易く侵入する事ができた。どうやら従業員用の通路らしく、照明も点いており掃除などの手入れはされているようだ。

 

「さて、見つけたは良いが……」

 

 ずんずんと奥に進んでいく鷹弘たちだが、ここで問題が発生した。

 警備員が六人ほど巡回しているのだ。それもデジブレインではなく、黒いスーツを纏う生身の人間が。

 今は翔たちも曲がり角で身を隠しているが、このままでは鉢合わせになってしまうだろう。

 

「あいつら一体何者だ?」

「進駒くんが言ってた、ノーブルの私兵……じゃないでしょうか。彼らもCytuberなんだと思いますよ」

「どいつもこいつも黒スーツ着やがって、MIB(メン・イン・ブラック)かっての」

 

 舌打ちをする鷹弘。どうするべきかを考えていると、浅黄が小さく口を出した。

 

「これ、見つかったらどうなるんだろうね」

「ノーブルは『客人に無礼を働く事はできない』と言っていました。ですが今の俺たちは侵入者、彼らにとっては客ではなく、害のある立場です」

「って事は……つまり~」

「戦うしかないんでしょうね」

 

 そう言って響はマテリアフォンを取り出してドライバーをコールする。

 この状況ではやるべき事はひとつだ。他の面々も、同じようにドライバーを装着して飛び出した。

 黒服たちは一行の姿を目にすると、慌てる事なくガンブライザーとマテリアプレートを懐から手に取った。

 

「侵入者発見!」

「排除を開始する」

 

 彼らの言葉を聞いて、翠月と鷹弘は鼻を鳴らす。

 

「お前たちから仕掛けてくれるなら好都合だ」

「やれるモンならやってみやがれェ!」

 

 そう言って、アシュリィが後ろに下がって五人はマテリアプレートを起動。

 さらに翠月・浅黄はアプリチューナーを操作し、それぞれパワフルチューンとテクニカルチューンをセットする。

 

《ユー・ガット・メイル!》

『変身!』

「変……身!」

《ノー・ワン・エスケイプ!》

「変身」

「変ー身っ!」

Alright(オーライ)! マテリアライド!》

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド!》

 

 アプリドライバーを持つ三人がマテリアフォンをかざし、翠月と浅黄はセンサーをタッチ。

 五人の体がスーツで覆われ、変身が始まる。

 

《蒼天の大英雄、インストール!》

《最速のガンスリンガー、インストール!》

《迷宮の探索者、インストール!》

《闘龍之技、アクセス!》

《義賊の一矢、アクセス!》

 

 五人の仮面ライダーが出揃い、各々武器を構えた。

 直後に、敵勢の黒服たちはガンブライザーを装着し、マテリアプレートを起動して装填する。

 

Cytube Dream(サイチューブ・ドリーム)……マンティス!》

《ハイエナ!》

《ホエール!》

「各員、侵入者を拘束せよ!」

Goddamn(ガッデム)! マテリアライド!》

 

 デジブレインが黒服の男たちの体内に寄生し、姿が書き換わっていく。

 そうして現れたのは、鋭い刃を腕に生やしたカマキリのデジブレイン、鋭い牙と爪が特徴的なハイエナのデジブレイン、三叉の槍を持つ巨体のクジラのデジブレイン。それぞれ二体ずつだ。

 

《マンティス・デジブレイン! パラサイトコード、ダウンロード!》

《ハイエナ・デジブレイン! パラサイトコード、ダウンロード!》

《ホエール・デジブレイン! パラサイトコード、ダウンロード!》

 

 デジブレインへの変異が終わった瞬間を合図に、戦いが始まる。マンティスとハイエナが一体ずつ真っ先に飛び出し、一番戦闘能力に乏しいザギークを狙った。

 

「うひゃっ!?」

 

 驚いてザギークはマンティス・デジブレインへとスタイランサー・ボウガンモードの矢弾を放つが、苦し紛れの一撃はマンティスの鎌によって弾き飛ばされる。

 そして、間隙を縫ってハイエナが飛びかかるが、そこへアズールと雅龍が割って入った。

 ジェラスとの戦いの折に砕け散ったアズールセイバーV2も今は完全に修復されており、アズールセイバーとの二刀流と雅龍の操るスタイランサー・スピアーモードがハイエナ・デジブレインを退けた。

 

「やらせない……!」

 

 二つの剣を突きつけ、アズールは宣告する。直後、地面に亀裂が走り、勢いよく水の弾丸が噴き出してアズールと雅龍を押し飛ばす。

 

「くっ!」

「やるな……!」

 

 見れば、ホエール・デジブレインが床に槍を突き刺している。そこから水を放出し、水圧弾でアズールたちを攻撃したのだ。

 態勢が崩れたと見るや、好機と判断して二体のハイエナがアズールたちへと一気に飛びかかる。しかし、それは彼ら仮面ライダーの狙い通りだった。

 

「オラァッ!」

「ハアァッ!」

 

 リボルブとキアノスが、ハイエナへ銃撃を行う。

 不用意に仕掛けたハイエナたちは雨霰と飛んで来るデータの銃弾での反撃により、たちまち膝をついてしまった。

 

「ぐっ!?」

「おのれ……!」

 

 追撃するはずが逆に窮地となってしまったハイエナを、マンティスとホエールたちがカバーに向かう。

 しかし、その四体へと今度はインクの矢弾が撃ち込まれる。

 ザギークだ。フォレスト・バーグラーのアプリが持つ毒の力により、マンティスたちの手足が痺れて動きが鈍くなっていく。

 

「今がチャンスだよ!」

「総攻撃だ!」

 

 五人全員が武器を手に、四方八方から縦横無尽に攻撃を仕掛ける。

 マンティスの鎌が砕け散り、ハイエナの爪も割れ、ホエールの槍が圧し折れるのと同時に、トドメとばかりにアズールは剣を組み合わせて必殺技を発動した。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! ブルースカイ・サイクロンマテリアルスラッシュ!》

「そぉりゃあああっ!」

 

 両刃の剣が斬撃の嵐を巻き起こすと共に、デジブレインたちの変異が解除され黒服の姿に戻る。

 

「ぐああああっ!?」

「くそっ、一度退却だ!」

 

 黒服の一人がそう言うと、全員がノーブルの見せたものと同じ形の、しかし色は銀となっているメンバーズカードを掲げる。

 直後にフォトビートルがシャッター音と共にフラッシュで目眩まししようとするが、サングラスをかけている彼らは止まらない。六人の姿が光と共に消え去ってしまった。

 どうやら黒服たちは、どこかに転送されたようだ。安全を確認して全員変身を解除した。

 

「あの会員証、あんな風にも使えるのか……」

 

 ふむ、と口元を手で覆って響が呟く。

 そんな中、浅黄は余裕の表情で笑い声を上げた。

 

「ふっふーん、この程度の相手ならもう楽勝だねぇ?」

「いや、油断はできません。むしろ今のが単なる巡回なんだとしたら、この先にいる相手はきっと手強いですよ」

 

 翔は彼女とは逆に憮然とした表情で腕を組んでいる。

 鷹弘も、彼の意見に首肯した。

 

「連中は恐らくあの三人組と同じで改造手術をしているはずだぜ。明らかに、動きがデジブレインのそれと違うからな」

「私も同じ意見だ。きっとあの三人も、さらなるパワーアップを果たしているはずだ……油断は禁物だぞ、浅黄」

 

 翠月からも指摘されると、浅黄は不満そうに唸りつつも黙ってしまう。

 続けて、鷹弘が「そうだ」と翔に話しかけた。

 

「一応言っておくが、V3は使っても『あの力』には極力頼るなよ」

「まぁ、結構負担が大きくて体力を持って行かれますからね。しっかりペース配分も考えないと」

「……あぁ、そんなところだ。特に今回は何もかも今までと違うからな、使わないに越した事はない」

 

 鷹弘は言葉を詰まらせてしまうものの、訂正する事もなく慌てずに肯定した。

 翔の中に宿るアクイラの力、それを彼に悟られるワケには行かないのだ。

 そのまま鷹弘は「ところで」と切り出し、話題を変える。

 

「警備員と会う度に戦いになるんじゃキリがない。なあ、本当にこのまま通路を進んで大丈夫なのか?」

「ここに絞り込んで探索するのにも限界がありますからね。しかし、カジノである以上は間違いなく中にも警備員がいるでしょうけど……」

 

 うぅむ、と響が唸る。翠月たちも考え込むが、良い案は浮かばない。

 すると同じように考えていた翔は、顔を上げてぽつりと呟いた。

 

「メンバーズカードだ」

「翔?」

「僕らが問題を起こさない限り、恐らく向こうは客人には手を出せない。なら、カードを手に入れて『侵入者』じゃなくて『客』という立場を得る事ができれば……」

「向こうもそう簡単には手出しができない、というワケか。なるほど」

 

 無論、従業員用のエリアに侵入している場合はメンバーズカードも意味を為さないだろう。

 しかし中の探索を有利に進める事ができるという利点がある以上、入手しない理由はない。一行は、メンバーズカードを求めて歩き始めた。

 

「でも、一体どこにあるんだろうね?」

「そこでウチの出番よ」

 

 にひひ、と笑いながら浅黄はアシュリィの疑問に答える。

 マテリアパッドからケーブルを伸ばし、フォトビートルとレドームートンに接続。そして、フォトビートルの中に記録されている画像データがレドームートンへと転送されていく。

 

「本当は黒服に見つからないようにする為にさっきのカード撮っておいたんだけど、いやぁ結果オーライだね。こうして同じ形のモノを探査すれば……はい、出た!」

 

 浅黄が周辺の地図を表示させる。

 従業員用の通路や各部屋の前にはいくらか赤いマーカーが表示されており、それらは何かを探すようにゆっくりと動いている。

 

「この赤いのがメンバーズカード。動いてるって事はさっきと同じ黒服だねぇ~」

「結構巡回してやがるな」

「で! この中で一歩も動いてない、多くカードが固まってる場所を見つければいいってワケ!」

 

 そう言って、浅黄は指を彷徨わせてから「ここ!」と一点を指差す。

 確かに他の部屋よりも僅かに広く、カードが固まって置いてあるようだった。しかし、この部屋に行くには問題がある。

 

「確かにこの場所のようだが、入口に警備員がいるぞ」

「それに、向こうもカードを作る事は読んでるでしょうから、戦って増援が来る可能性も高いですね。流石に何人も相手にするのは……」

 

 翠月と翔の指摘した問題点には浅黄も気付いており、頭を掻いて「そうなんだよねぇ」と悩み始める。

 どうにかして入口にいる者たちを排除しなくてはならない。しかし、騒ぎが大きくなれば増援も増える一方。戦っても戦ってもキリがないだろう。

 すると鷹弘は、ニヤリと笑って五人に語りかける。

 

「だったらそんなに難しい話じゃねェな」

「え?」

「俺に良い作戦があんだよ」

 

 

 

 数分後。

 従業員通路の中にある部屋の内のひとつ、事務室の前に立つ四人の黒服たちは、ホメオスタシスの姿を探して警戒を続けていた。

 この部屋には、メンバーズカードを製造する機材がある。万が一にもこれを使われてしまえば、彼らのカジノへの侵入を許す事になる。

 それ故、事務室への警戒態勢は他の部屋よりも一層厳しいものになっている。

 

「ノーブル様の夢は決して砕かせてはならない。常に警戒を怠るな」

「しかし、ヤツらにあの御方を倒せるとは思えませんが」

「今までに敗北したCytuberの配下たちも、きっとそう思っていただろうな。だが我々は違う、違っていなければならない。油断して足を引っ張ってしまっては申し訳が立たん……!」

 

 そんな会話を交わしていた、その時だった。

 突然、廊下の照明が全て消えてしまった。

 

「うわっ!?」

「な、なんだ何事だ!? 停電か!?」

 

 通路が暗くなって視界が完全に塞がれているため、警備の黒服たちは騒然とする。

 その約八分後、すぐに明かりは戻った。周囲の様子に変化は見られない。

 しかし、事務室の前に控えていた四人は血相を変えていた。今の騒ぎに乗じて、ホメオスタシスたちが侵入した可能性を察したからだ。

 

「中を調べるぞ!」

「了解!」

 

 四人は部屋に雪崩込んだ。

 だが、そこに翔たちの姿はどこにも見当たらない。

 

「いないようだな」

「まぁ、考えてみれば連中がこの部屋の詳細を知っているとは思えませんからね」

「だが他の部屋で何かアクションを起こした可能性はある……一度巡回警備を強化するぞ、ヤツらが何かする前にこちらで打って出る!」

「了解!」

 

 黒服三人が敬礼し、扉を閉めて全員が分かれて廊下を駆け抜ける。

 部屋の中で声を聞く前に。

 

「上手く行ったな」

 

 ズルリ、と天井が溶け、白いゲル状の物体に変わる。

 その中から姿を現したのは、翔たち六人のホメオスタシスのメンバーだ。翠月の手にはスタイランサーが握られており、さらにOracle Squad(オラクル・スクアッド)のプレートが装填されている。

 これが鷹弘の立てた策だ。まずはプレートの効力で視界から消え、次に浅黄が通路の照明にアクセスして明かりを落とす。

 そして暗くなった瞬間、事務室に入り込んでスタイランサーを使い、インクを噴出して天井に移動。能力に寄って視界から遮断し、張り付く。

 こうする事で、翔たちは黒服の目から容易く逃れたのだ。

 柔らかいゲルの上に、鷹弘らは音もなく着地。そして、静かに室内の調査を始めた。

 

「ここにメンバーズカードがあるはずだが……」

 

 翠月はそう言って、机の中や棚を開く。

 すると、すぐに棚の引き出しに入っている小箱からカード自体は発見できた。

 箱の中に三十枚ほどをひとつに束ねていくつも並べてあるが、ノーブルや黒服たちが持っていたものと違い、緑色のカードだ。

 

「これを持っていればいいのか?」

「いや、待って下さい。これ、表にも裏にも何も書いてないですよ?」

 

 人数分だけ緑のメンバーズカードを手にした鷹弘が翔と話している最中、様子を見ていた浅黄は自分もカードを抜き取った。

 そしてマテリアパッドを使い、詳細を調べ始める。

 

「あー、なるほどね……うんうん。このカード、今はデータが何も詰まってないみたいだね。専用の機械が必要みたいだ」

「これですか?」

 

 そう言って、翔は机の上からカードリーダーのようなものを拾い上げる。

 

「おー、それそれ! じゃあウチが作っとくね」

「頼んだ。響、一応音を聞かれないようにこいつで頼むぞ」

 

 鷹弘は再びOracle Squad(オラクル・スクアッド)のマテリアプレートを手に取り、それを響に渡す。

 そして響がフェイクガンナーを使い、その場に無音の空間を作り上げるのであった。

 しばらく時間が立った後、カードリーダーによって各々の名前が刻まれた六つのカードが製造される。しかし、これらはやはり今までに見たものと色が違っており、緑から銅に変わっている。

 

「どうなってるんだ? 何か差があるのか?」

「んー、現物がこれだけじゃウチにもなんとも言えないなぁ。それに、なんかちょっと変だよ」

「変?」

 

 翠月が訝しむと、浅黄は眉をしかめながらマテリアパッドから彼の顔に視線を移す。

 

「なんか分かんないけど、中にカジノで使うチップみたいなのがデータとして入ってるんだよ。でも真っ白で、金額も何も書いてない」

「どういう事だ……?」

「……ま、とりあえずここから出てから考えようか。これで正面から入れるはずだし」

 

 浅黄の言葉に一行は賛成し、再び隠れ潜みながら、建物の外へと脱出するのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 その後、カジノの入口にて。

 メンバーズカードを入手した翔たちは、警備員のデジブレインたちにそれを見せて素通りし、巨大カジノ内へ入る事に成功した。

 カジノのロビー中央にはエレベーターが備え付けられており、スイッチの下にカードリーダーが設置されている。

 到着した瞬間、拍手の音と共にモニターにノーブルの姿が映し出された。

 

『おめでとう。どうやら最初の課題(ゲーム)をクリアしたようだな、見直したぜ』

 

 翔たちが身構える。しかし、周囲を巡回している警備のデジブレインが攻撃を仕掛けてくる様子はない。

 

『安心しな。今のお前らは大切な客人だ、ここで戦いを仕掛けるのはカジノの流儀に反する』

「だったら、一体何の用だ? わざわざ挨拶しに来ただけってワケじゃねェだろ」

『ギャハハハッ! ここまで辿り着いたお前らに教えてやる事があるだけさ』

 

 そう言って、ノーブルは頬杖をつきながら豪奢な椅子にもたれかかった。

 

『カードはいくらかランク付けされている。未記入で何にも使えないまっさらな状態のグリーンカード、使用可能状態だが一番低ランクのブロンズカード、その後にシルバーからゴールドと続き、この領域の支配者である俺だけが持つのがプラチナカードだ』

「なぜランク付けが必要なんだ?」

 

 響からの質問を受けてノーブルは頬を歪ませる。

 

『このカジノではランクによって入場できるフロアが変わるんだよ。そして種目やレートもフロアごとに違う……お前らの持つブロンズじゃ、俺のいるフロアへの移動は許可できないって事だ』

「中に入ってもそんなルールがあんのかよ」

 

 ノーブルの領域に入ってからというもの、完全に向こうのペースになっている。

 面白くない、とばかりに鷹弘は舌打ちをする。

 

『ひとつ良い事を教えてやろう。お前たちの持つそのカード、条件を満たせばランクをひとつずつ上げる事ができるぞ』

「条件?」

 

 顔を上げて訊ねるアシュリィ。

 するとノーブルは深く頷き、床に置いてあるアタッシュケースを勢い良く机に放り出して、それを開いた。

 中には山程のカジノチップが入っており、片手を使って無造作に掴み取る。

 

『金だ。カジノで勝ち続け、このチップをカードにチャージしろ……一人でも条件の額を満たせば、お前ら六人全員のカードをランクアップしてやる』

「ほう……良いのか、随分我々に有利な条件のようだが」

『複数人で挑まれた以上、それがルールなら仕方ないさ。せいぜい頑張りな』

「待て、条件の額はいくらだ」

『おおっとそうだったな。安心しろ、それはブロンズレートエリアの受付に行けばすぐに分かるぜ』

 

 そうして『あばよ』と言って、今度こそノーブルは通信を打ち切った。

 一行は言われた通り、ブロンズレートエリアへと足を進める。

 受付にはデジブレインが立っている。どうやらここでチップを金や商品と交換できるらしく、シルバーカードへのランクアップもできるようだ。

 だが、それに必要な金額を目の当たりにして、一同は口を大きく開けていた。

 

「う、ウソだろ……!?」

「シルバーカードへのランクアップ料……『1000万円』……!?」

 

 六人の前に立ちはだかる、これまでとは異なる大きく高い壁。

 やはり一筋縄では行かない。額から流れる汗を拭い、翔は奥歯を噛み締めた。

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