仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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「機は熟した。ようやく、私が帝王として君臨する日が来たというワケだ」

 日の沈んだ頃、議員会館のある個室オフィスにて。
 黒革の高価な椅子に座した一人の中年の男が、そう呟いた。
 男はブランド物の高級な黒色のスーツを纏っており、清潔な白いワイシャツを内側に着て青いネクタイを締めている。髪は黒で耳に掛かる程度の長さで、顎髭を蓄えているのが特徴的だ。
 オフィスの机には、ガンブライザーとマテリアプレートが置かれていた。

「世界は私に跪く。この……久峰 遼(ヒサミネ リョウ)にな」

 ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる男。
 その視線の先、扉の前には、孔雀の仮面を被ったスペルビアが佇んでいた。


EP.40[愛の魔法]

「そうか……そうだったんだ……」

 

 桃色の光が降り注ぐ檻の中。

 目を覚ましたアシュリィの足からは、鉄球も枷も消えていた。気づけば檻からは鉄柵さえ失われているのだが、アシュリィが自分から脱出しようとする様子はない。

 じっと頭上の光を見上げながら、ブツブツと何事かを呟いている。そんな彼女の前に、一本の白い腕が差し出された。

 

「思い出せたかしら」

 

 語りかけたのは、薄く透き通った黒いドレスを纏う美女。

 アシュリィは頷いて、その手を取って立ち上がった。

 

「どうして私がここにいるのか。どうして私が産まれたのか。どうして私の記憶が失われたのか」

 

 表紙やページから絵が消え、白紙そのものとなった本をその場に置き捨てて、アシュリィは真っ直ぐに女性を見つめる。

 

「全部……思い出しました」

 

 女性は頷き、右手をそっとアシュリィの頬に添え、唇に人差し指を這わせる。

 

「あなたの使命も覚えているの?」

「はい。私の成すべき事を、はっきりと」

 

 その一言を聞いて、女性は満足そうに笑みを浮かべる。

 

「では行きましょうか、アシュリィ。愛しい『王子様』の元へ」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 プレデターとの決着の後。

 翔たち四人は、無事にホメオスタシスの地下研究所に戻る事ができた。

 到着してすぐに、鷹弘は翔と響に向き直った。

 

「俺と警視は、これから親父に今回の顛末を報告しに行く。ハーロットの領域の件もあるからな。お前らはどうする?」

 

 それを聞いて真っ先に響が右手を上げ、口を開く。

 

「俺もご一緒しますよ。彩葉さんの面会の許可が欲しいので」

「報告はついでかよ? まぁ良いけど……翔はどうすんだ」

 

 訊ねられると、翔は苦笑しながら頭を振った。

 その顔色はあまり優れておらず、明らかに疲労が見える。結局アシュリィが見つからなかった上、激しい戦いが続いていたので、無理もない話である。

 

「すいません、僕は先に失礼します」

「そうか。じゃあ今日はゆっくり休んどけ」

 

 鷹弘に言われ、小さく会釈してから翔はその場を後にする。

 三人とも彼の背中を見送って、すぐに鷲我の執務室へと足を運ぶ。

 そして扉を開くと、そこには鷲我だけではなく、肇や浅黄、さらに陽子・鋼作・琴奈の姿もある。

 

「なんだ? 勢揃いじゃねェか、一体どうした」

 

 すると、浅黄が振り返り、非難するような眼差しを鷹弘に向けた。鋼作と琴奈はそんな浅黄を諌めるように「まぁまぁ」と背を押さえている。

 本人は身に覚えがないようで、鷹弘は困惑したような声で抗議する。

 

「……なんなんだよ!?」

 

 訊ねても、浅黄たちはムッとしたままだ。翠月や響も何が起きているのか分からないようで、首を捻っている。

 そこへ、鷲我から声がかかった。酷く申し訳無さそうな声色だ。

 

「すまん、鷹弘。全部バレてしまった」

「バレた、って」

「……翔くんの事も、お前に頼んでいた事も全部だ」

 

 それを聞いて鷹弘が頭を掌で押さえる。

 一体何があったのか。どうして秘密裏に事を進めていたはずなのに、今になってそんな事になってしまったのか。

 

「何の話をしているんです?」

「頼み事? それは一体……」

 

 訊ねる暇もなく、今度は後ろから響と翠月の質問が浴びせられる。

 鷹弘も鷲我も言い淀んでいたが、そこへ助け舟を出すように、肇が語り始める。

 

「俺たちは限られた人数で、あるものについて調査を進めていた」

 

 勝手に話し始めたのを見て鷹弘は慌てて制止に入ろうとするものの、それを鷲我が抑える。

 

「オイ! 良いのかよ!?」

「構わん。真実が明らかになった今、どうあっても話さねばならない事だ」

 

 渋々ながら鷹弘は身を引く。

 そしてすぐに、響から質問が飛んだ。

 

「父さん? あるものって?」

 

 翠月も腕を組みながら、興味深そうに話に耳を傾けている。

 肇は真剣な顔つきで、しかし躊躇う事なく言い放つ。

 

「翔の中に宿ったアクイラの細胞と力、それを埋め込んだ犯人の正体だ」

『なっ!?』

 

 響と翠月が同時に驚愕する。それに便乗して、浅黄が騒ぎ始めた。

 

「ウチらもさっき知ったんだよ! 確かに口は軽いかも知んないけどさぁ!」

「ちょっ、落ち着いて下さいって」

 

 再び鋼作と琴奈が、今にも掴みかからんばかりの勢いの浅黄を二人がかりで制する。

 そんな三人を尻目に、響も憤慨した様子で肇に詰問する。

 

「どういう事だ!? 翔にアクイラって……そんな話、俺は知らないぞ!? どうして黙っていたんだ!?」

「勝手に話を進めたのは悪かったと思ってる。だが、お前に打ち明けたらきっと今みたいに動揺してしまうと思ったんだ。この先の戦いに影響が出てしまったら命が危ういし……鷲我からも口止めされたからな」

「だからって!! 翔は俺の弟なのに……!!」

「その翔に危機が迫っているんだ、悪いが今は落ち着いて話を聞いてくれ。それに……事態は思った以上に深刻かも知れない」

 

 それを聞くと、響もグッと言葉を飲み込んで、翠月と共に話を聞く姿勢に戻った。

 肇は一度パソコンの方に向かって、画面を操作。そしてスクリーンを起動し、室内に映像を投影する。

 

「まずはこれを見てくれ。俺が翔と響の母親の家で見つけたSDカードの中に入っていたものだ」

 

 映し出されたのは、いくつかの文書作成ソフトを使って作られた書類データと映像データが入ったフォルダだ。

 その内、肇が開いたのは書類データ。

 

「父さん、これは?」

「ジョー・ヒサミネという男が残したものだ。この中には……ある男が犯した過ち、不正の数々が記録されている」

「ある男?」

「ああ。男の名は久峰 遼、次期総理大臣と呼び声高い大物政治家……ジョー・ヒサミネの兄で、三兄弟の次男らしい」

 

 肇はマウスを操作しながら、丁寧に画面をスクロールして詳細を語り始める。

 

「俺の知る限り、こいつは最低の悪党だ。自分の手は汚さずに、ライバル議員のスキャンダルの捏造や女を散々に辱めるのは当たり前……人殺しすらその事実を揉み消し、警察や検察庁の上層部を掌握、報道機関やその他様々な企業を意のままにコントロールしている。映像の方は、そんな揉み消しの証拠が残っているんだ」

「なっ!?」

「それだけじゃない……見ろ」

 

 マウスを別のファイルの方まで動かし、クリック。

 名前と性別や年齢といったものが羅列しており、その横には備考欄として詳細なデータが記載されている。ざっと流し読んだだけでも500名近い名前が記してあるようだ。

 備考欄は飛ばしながら開示された内容を黙読していると、響たちの目に見覚えのある名前が飛び込んだ。

 

「『面堂 彩葉』!?」

「それだけじゃねェ、栄 進駒や伊刈 律の名前もあるぞ!」

「父さん、まさかこのファイルは!?」

 

 肇は深く頷き、目を細める。

 

「そうだ。Cytuberとなった者たち……それも、久峰 遼が陥れた者たちのデータだ」

「バカな!!」

 

 翠月が当惑した様子で備考欄に目を通す。

 栄 進駒の両親は、チェスの大会で久峰一族の子に買収され、進駒に睡眠薬を仕込んだのだという。しかし、他の者たちに比べれば、この程度はまだ序の口のようなものだ。

 伊刈 律のバンドメンバーが歌手グループに嬲られたのも遼の指示であり、面堂 彩葉の両親に起きた不幸な交通事故も遼の企てで起きたもの。

 兵器や麻薬の密売・密輸にも一枚噛んでおり、かつて金生 樹が向かった紛争地帯には彼も視察に向かっていたようである。それも、ボランティアという名目で。

 そして――それら全ての事件において、遼や久峰の血族が指示したなどという証拠は完璧に抹消されているというのだ。

 さらに、ジョーのレポートにはこのような記述があった。

 

「『兄が白だといえば、どのような黒い事件も白にされてしまう』……こんな、こんな事が……」

 

 末尾に書かれたその文章を読み上げ、ショックのあまり琴奈は両手で口元を覆う。鋼作も怒りに拳を震わせ、陽子は歯を軋ませている。

 他にも、久峰一族の手にかかったCytuber以外の被害者も纏められていた。

 レポートを眺めながら、鷹弘は肇へと問いかける。

 

「なぁ、あんた前に言ってたよな。翔と響の母親は殺されて、父親がその犯人かも知れないって」

「……ああ」

「こんな大規模な情報封鎖に、異常な財力、警察すら操る政界の権威……その父親ってのは、もしかしてこの久峰 遼じゃねェのか」

 

 それを耳にした響は、顔を上げて絶望に満ちた表情を浮かべた。

 自分の身体にそんなおぞましい男の血が流れている。そう思うだけで、心臓を掻き毟りたくなる程に嫌悪感が湧き上がったのだ。

 だが、肇はすぐに首を横に振った。

 

「違う! そこだけは断言させて貰うが、絶対に違う。二人の父親は別人だ」

「どうして言い切れるんだ……父さん」

「他のレポートに書いてある」

 

 マウスを操作して、肇は該当の文書を表示する。

 内容は、久峰の一族……というよりも、ジョーの血縁関係についてだ。

 

「さっきも言ったが、この男には二人の兄がいる。一人が久峰 遼で、もう一人……長兄が久峰 陽(ヒサミネ ヨウ)という男だ」

 

 ジョーの文書曰く。陽は遼と違い、人格者であったという。

 遼は利己主義で他者を踏み躙り、足を引っ張って出し抜いて政界の頂点に立とうとする、そしてそのためならどんな汚い手段も平気で使う外道なのだという。

 だが、陽は違う。常に国民のためを思って行動し、汚職を嫌う誠実な性格で、争いは好まないが自分の意見をハッキリと通す芯の通った人物である――と書かれている。

 久峰も一枚岩ではなく、血族の間では口には出さなくとも二つの派閥ができており、ジョーは陽の味方をしていたとの事だ。

 

「そして陽は一人の女性に恋をし、二人の子を設けた」

「まさか……!」

「そうだ。お前たちだ」

 

 響だけでなく、琴奈と鋼作も目を見張る。

 ようやく二人の本当の父と母の正体が分かったので驚いているのだが、しかし決して喜ばしい話ではなかった。

 少なくとも母親が死んでいる事は間違いないのだから。であるなら、父親は。

 

「じゃあ……じゃあ、俺たちの本当の両親は……!!」

 

 戦慄くような声を発する響を目にして、ギリッと肇は歯を軋ませ、重い口を開く。

 

「殺されている。久峰 遼に……!」

 

 ドサッ、と響はその場で膝をついた。

 誰も彼に声をかける事ができなかった。否、かけるべき言葉が見つからなかった。

 それでも、肇だけは話を続ける。

 

「ジョーは遼の味方になったフリをして、ヤツの不正を暴く目的でCytuberに加わったようだ。これだけのデータを集めたのは、陽の仇討ちのためらしい。どんな手段を使ってでも兄を今の地位から引きずり下ろしたいんだと。本人は行方不明になっているようだがな……」

 

 言った後で、肇は「だが」と付け加える。

 

「こいつにとって計算外だったのは、遼もCytuberだった事だ。それも八位のな」

「八位って、サイバーノーツの一歩手前じゃないですか!?」

「それだけじゃない。ヤツの秘書は……ハーロットだ」

 

 今度は翠月が言葉を失った。

 ハーロット、それは"淫蕩"を名乗るCytuber一位の女。ここでその名が出て来るとは夢にも思わなかったのだ。

 そしてこの二人が組んでいるとなれば、状況は最悪だと判断していた。ホメオスタシスにとってと言うだけでなく、日本や世界にとってだ。

 

「ジョーが何を画策しようとしていたのか……ほとんど筒抜けだったようだ。改めて忠誠を誓わされる形で難を逃れたらしいが、それでも反撃の機会を狙っていたようだな」

 

 そう言って、肇は親指でパソコンを指差す。

 唯一ハーロットたちが情報を掴んでいなかったのが、このSDカードのデータなのだろう。だからこそ現物がこうして存在している。

 

「遼の悪行はそれだけじゃない。このデータ通りなら……ヤツは翔を誘拐し、アクイラの細胞を埋め込む実験を行ったようだ」

「なっ!?」

「その施術者がハーロット。意図は分からんが、やはり目的は」

 

 ほとんど放心状態だった響が、その一言で我に還る。

 

「アクイラの復活か……!!」

「それも、翔の肉体を媒介にしてな」

「バカな! 翔を使ってアクイラを復活させるなんて、成功する保証もないのにそんな事をして何になる!?」

「分からん。だがこれが事実だとすれば……」

 

 そこまで言ってから、肇は一瞬だけ沈黙する。

 どうやら何か知っている様子であるが、それを語るべきか迷っているようだ。

 しかし訝しむ響の姿を見て、唇を引き結んだ後、再び話し始めた。

 

「これは、最近になって気付いた事だが。俺たちの中に裏切り者……いや、正確にはスパイがいたようだ」

『えっ?』

 

 それについては思い至るものがないのか、肇と鷲我以外の全員が頭上に疑問符を浮かべる。

 だが、鷹弘はすぐに気が付いた。

 翔がアクイラの力を埋め込まれているなら。そして、アクイラの復活が敵の目的なら。

 そのスパイとは、翔が戦いの途中で命を失わないように監視できる立場であり、アクイラへの覚醒に導くために送り込まれているに違いない。

 翔が戦死すればアクイラも目覚めず、覚醒に至らなければ目的も遂行できないのだから当然だ。最も彼に近い場所で、怪しまれずに見張る事のできる人間が必要なのだ。

 だとすれば、それは。その人物というのは。

 

「まさか――!!」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 夜の帝久乃市。

 イルミネーションやビルの窓から光が輝く街の中をひとり、翔が歩いている。

 繁華街では、互いに愛を囁き合うカップルの姿や、心が浮き立つようなリズムの音楽が鳴っている。さらに、赤い服と白いヒゲをつけてケーキ販売の案内をする若者も。

 

「そうか……もう、12月になるんだな」

 

 今年もクリスマスがやって来る。

 響はきっと彩葉と過ごすのだろう。他のホメオスタシスの面々も、それぞれ家族や友達、大切な人々と楽しく遊ぶのだろう。きっと、自分も入っているのかも知れない。

 しかし、その中にアシュリィはいない。

 

「いや、手がかりはあるんだ」

 

 きっとハーロットの領域に囚われているに違いない。すぐに彼女を見つけ出し、日常に戻らなければ。

 そう考える翔であったが、ふと頭によぎるものがある。

 いつから自分は、こんなにも彼女を思うようになったのだろう。

 初めて会った時から気になる存在ではあった。だが、ここまで彼女を想うようになった切っ掛けを思い出せない。

 直後、翔の思考がそこでバツリと中断(・・)される。

 

「どうでもいいか、そんな事は。僕はあの子を助けなきゃいけないんだ」

 

 気がづくと翔は、繁華街を通り抜けていた。

 その時だった。通り過ぎていく人混みに紛れて、銀色に揺れる髪を生やした少女の影が見えた。

 見間違うはずもない。それは、彼女のものだ。

 

「アシュリィちゃん!?」

 

 思わず大声を出して、翔は繁華街の方に戻る。

 一瞬だけ見えたアシュリィの姿を追って、駆け抜けていく。今も後ろ姿をハッキリと捉えている。

 しかし、何度呼びかけても向こうは決して振り返らない。それでも、翔は懸命に追いかける。

 そうして辿り着いたのは、噴水広場だった。

 アシュリィは翔に背を向けて立ち止まり、じっと噴水を見ている。

 

「良かった……ずっと探してたんだ、君の事を」

 

 安堵した様子で、翔は彼女に近づいていく。

 が、直後に噴水の両脇から二つの影が躍り出て、翔の前に立ち塞がる。

 葡萄の実を生やしたキツネの姿をしたサワーグレープ・デジブレインと、ウサギとカメが融合したような出で立ちのラビットタートル・デジブレインだ。

 早速ハーロットの邪魔が入った。翔は変身しようとマテリアフォンを取り出すが、それを妨げるように右肩に激痛が走る。

 

「ぐっ!」

 

 グラットンとの戦闘による負傷が癒えていないのだ。

 それほどに激しい戦いを制した疲労もあり、今は変身する事さえままならない。しかしこのまま何もしなければ、また彼女は連れ去られてしまうだろう。

 疲労はともかくとしても、せめて、肩の傷さえ治れば。

 翔がそんな事を考えた瞬間。青い光のノイズが、右腕に集中する。

 

「えっ!?」

 

 翔は驚愕の声を発した。この力を発動しようなどとは思っていなかったのだ。

 しかし、ノイズは収まらない。周囲のイルミネーションや電線を通って都市内のデータを吸収すると、翔の肩の傷に集まり、負傷を完全に回復した。

 

「こ、これは……なんだ!?」

 

 困惑する翔。とはいえ、これで変身はできるようになった。

 

《チャンピオンズ・サーガ!》

 

 大型のマテリアプレートを取り出し、起動。それをアプリドライバーへと装填する。

 

《レッツ・ゴー・ライダー!》

「変身!」

Alright(オーライ)! レジェンダリー・マテリアライド!》

 

 剣と弓をいつものように呼び出し、それぞれ両手に装備。変身しながら、仮面ライダーアズールはラビットタートル・デジブレインに飛びかかった。

 

《チャンピオン・アプリ! 天下無敵! 天上不敗! 語り継がれし伝説、インストォォォール!》

「そぉりゃあああっ!」

 

 袈裟に振り抜かれたアズールセイバーによる斬撃が、一撃で右手の甲羅を粉微塵に砕き、ラビットタートルを消滅させる。

 サワーグレープに対しては弓を引き、全ての実を撃ち落とした上で、二枚のプレートを装填する。

 

《ツインフィニッシュコード! Alright(オーライ)! ロボットマジック・マテリアルエクスキューション!》

「喰らえ!!」

 

 光の矢がキツネの胴を貫き、爆散させる。

 これで、邪魔をするものはいない。アズールは、アシュリィの方へと駆ける。

 ――だが。

 

「素晴らしいですわ。あなたの中に宿った力が、そこまで強く成長しただなんて」

 

 アシュリィではない、別人の声が噴水の向こう側から響く。

 そして先程と同じように、その脇から二つの影が歩み出て来た。しかし、今回は人間の少女のようだ。

 ひとりは金髪で可愛らしい赤いドレスを纏い、もうひとりは黒髪で品のある和服を来たの少女。以前に学園祭で見かけた二人組だ。

 そして。金髪の方は、その腕にウサギのぬいぐるみを抱いている。腹にトランサイバーGを巻いているぬいぐるみだ。

 

「それでこそ、時間をかけた甲斐があるというもの。私好みのオスに育ってくれて本当に嬉しいですよ」

「お前は……まさか!」

 

 カチリッ、という音と共に、ぬいぐるみの姿が泡立つ。モザイクがかかり、段々と大きくなっていく。

 そうして姿を現したのは、薄い生地の黒いドレスを纏う、長身の美女だ。トランサイバーGは右腕に移動している。

 

「ごきげんよう、天坂 翔くん。私の名はハーロット……こちらは私の娘、ツキミとフィオレですわ」

 

 舌舐めずりをして、甘い芳香を漂わせながら、その女は言った。

 ハーロット。Cytuber一位であり、最後のサイバーノーツだ。

 紹介された二人の少女は、微笑みながらアズールに手を振る。

 

「お前が……!!」

 

 仮面の内側で、ギリッと歯を軋ませる翔。

 そして剣を掲げ、悠然と前に歩み出る。

 

「アシュリィちゃんは渡さない!!」

「あらあら、ふふ。そういえば紹介が遅れていましたわね」

 

 そう言って、ハーロットはゆるりとアシュリィの正面に立つと「自己紹介、できるかしら?」と問いかける。

 アシュリィは頷き、左半身から順にゆっくりとアズールの方へ振り返る。

 

「全部思い出したんだよ、ショウ」

 

 瞬間、アズールの心臓が跳ね上がる。

 

「私の名前はアシュリィ」

 

 彼女の顔を見てはならない。

 ここから先を聞いてはならない。

 悪寒で全身の毛が逆立ち、警鐘を鳴らしているかのようだが、身体も眼も動かせない。

 

「ハーロットの娘……【灰被り姫(シンデレラ)】のアシュリィ」

 

 そう言った彼女の右目には、眼帯がなかった。

 あるのは、左側とは異なる紫色の眼光。サソリの姿が白く刻印された奇妙な瞳。

 

「私はあなたと殺し合うために産まれた。それが私の使命。記憶を消し去る十二時の魔法は、もう解けたの」

 

 静寂が支配していた広場に、ゴォン、ゴォンと鐘のような音が鳴る。

 それと同時に、アシュリィは姿を変えた。

 蝶に似た外見のデジブレイン。ガラスのような脚が特徴的な、シンデレラ・デジブレイン。

 

「さようなら……ショウ」




次章

File.04[シンデレラ]

地獄の季節は過ぎ、物語は煉獄へ――
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