相変わらず付近にはデジブレインの姿が見えず、ひとまずここに拠点を建てる事にした。
「さて、じゃあいくか」
そう言って、鷹弘を含む四人のライダーたちが侵入し、調査を始めようと動く。
しかし、その直後だった。
「ウー……アー……」
そんな唸り声のようなものと共に、施設の陰から素裸の男女が何十名と現れる。
不審に思って声をかけても意識があるのかないのかハッキリせず、ただペタペタとこちらに向かって来るのみだ。
そして、その手にはガンブライザーとマテリアプレートが握られている。
「まさか!」
《アリス・シンドローム……トランプナイツ!》
響の驚く声と同時に、裸の者たちが全員でプレートを起動し、ガンブライザーを装着した。
《
男も女も全て同じプレートを装填し、苦しむ声を上げ、ノイズを纏って姿を変える。
そこには、トランプのスートが描かれた小さな砦と、数字のトランプと各スートが鎧に刻印された無数のデジブレインが出現した。
「なっ……!?」
瞠目する翠月。しかし慌てる暇もなく、全員が変身して戦いの幕が上がる。
「父さんが……変身した!?」
街を出歩いて偶然にも都竹と邂逅した翔。
変身できなくなってしまっていた彼の前に現れたのは、育ての父である肇だった。
しばらく驚き唖然としていた、都竹の変異したジェラスアジテイターネオであったが、肇の使ったプロトアプリドライバーを見ると態度を一変。
「何かと思えば、旧式のドライバーですか……
そう言って虫でも追い払うかのように、しっしっと手を振った。
さらに、傍に立っているデジブレインたちを顎で使い、始末を命じる。
一番近い場所にいたブレーメンズの
直後に聞こえる、痛烈な打撃音。肇の変身した仮面ライダーネイヴィが死んだと思い込み、ジェラスネオは翔へと歩こうと動く。
だが。
「随分とナメられたモンだな」
殴られて地面に倒れたのはバトルクック・デジブレインの方だった。
「な、なにっ!?」
動揺するジェラス。翔も、ネイヴィが繰り出した凄まじい速度の拳撃に目を丸くしていた。
「どうした? かかって来ないのか?」
右拳をポキポキと鳴らし、翠月と似た中国拳法の構えを取る。
ジェラスネオは舌打ち混じりにネイヴィに向き直り、ジェラスローターを突きつける。
「良い気にならないで貰いたいですねェ」
そして、ジェラスネオの左眼にターコイズグリーンの光が宿った。
「私のこの左眼は、新アクイラ細胞から新造され移植したもの……つまり私も微弱ながらアクイラの力を持つのですよ」
「だからどうした」
「今の私には特別な力、その名も『エモーション・アナライズ』がある。一体何をしたのかは知りませんが、あなたの小細工など全て見極めて差し上げますよ!」
ジェラスの眼がさらに強く輝いた。
エモーション・アナライズというのは、視界内で発生したカタルシスエナジーの動き、それに伴う戦闘能力の増幅値をも視覚化する力。
喜怒哀楽のような感情の動きや、カタルシスエナジーを用いたシステム及び武器の軌道が見えれば次の動作を予測できる。そして増幅値が見えれば、相手との実力差を手に取るように把握可能なのだ。
「この眼が限りある私は無敵だ! 行きなさいデジブレインども!」
バトルクックが再び立ち上がり、ブレーメンズが一斉に襲いかかる。さらにパイドパイパーも光の壁で自らの身を守り、ネズミ型ベーシック・デジブレインを操って攻撃させる。
ネイヴィは前に出て、デジブレインたちに真っ向から挑む。その動きをジェラスネオが観測した。
怒りにも悲しみにも振れておらず、至って冷静。動きに関しても、ただ真っ直ぐデジブレインたちを待っているだけで、別段不自然な部分はない。
戦闘値に関しても、V2タイプより若干高い程度の性能だ。ジェラスネオひとりで勝てるどころか、ブレーメンズのみでも余裕を持って対処できるはず。
「ハッ! トォッ!」
にも関わらず、拳打や蹴りを的確に命中させてデジブレインたちを圧倒している。
ネズミたちは瞬く間に全滅、ブレーメンズも
「バカな、どういう事だ……!?」
驚く間にも、ネイヴィはついにブレーメンズを全滅させる。続けてパイドパイパーにも拳を叩き込もうとするが、その一撃は光の壁によって阻まれた。
その時、ジェラスは見た。攻撃しているネイヴィの拳や足に、インパクトの瞬間にのみ、爆発的なカタルシスエナジーが流し込まれているのを。
たった一瞬だが、そのパワーは他のV3タイプのプレートを使う全ての仮面ライダーやサイバーノーツを凌駕している。異常な強さの秘密はそこにあったのだ。
しかしその答えが提示されても、ジェラスネオには疑問が残った。
「なぜだ!? 一瞬とはいえ、カタルシスエナジーの過剰供給はオーバーシュートを起こすはず!?」
狼狽するジェラス。そこへ、フォトビートルから鷲我の声が発せられた。
『私がなぜ肇に目をつけ、仮面ライダーに選んだのか。どうやらスペルビアも、まだそこまでは知らなかったようだな』
「どういう事ですか?」
翔が訊ねると、続けて鷲我は詳細を語り始める。
『彼は特異体質だ、
「人をバケモノみたいに言うなよ。俺はちゃんと人間だぜ」
『フッ、すまん。ともかく……極稀に生まれついて高い精神性や知能、深い洞察力と感情のコントロール能力を持つ人間が生まれる事がある。それが肇だ。彼はデジブレインの感情捕食や精神干渉能力を一切受け付けず、何より暴発しないよう自在に体内のカタルシスエナジーを制御できる。まさに仮面ライダーになるために生まれたような男だ』
肇からの横槍を受けながらも、鷲我は言った。話を全て聞き終えて、ジェラスは声を震わせる。
「で、では……制御チップは!?」
「俺にそんなもんはいらん」
さも当然のように言い放つ肇に、翔も驚くばかりであった。
オーバーシュートの危険なく戦える仮面ライダー。以前に御種 文彦が変身した仮面ライダージェラスは、自身の身体を仮死状態にする事でそれを実現していたが、ネイヴィはそれさえ必要ないのだ。
尤も、彼と違って不死の能力は持たないのだが。
「……ですが、たとえカタルシスエナジーを自在に操るのだとしても、耐久性能には影響しないはず! 私に負ける要素などない! 一気に終わらせて差し上げましょう!」
《フィニッシュコード!》
パイドパイパーに自身の周囲へと光の壁を作らせながら、ジェラスローターへとマテリアプレートを装填。
本来ならばマテリアフォンがなければこの武器の必殺技は使えないのだが、左眼のアクイラの力で偽装する事によって無理矢理に発動を認証させた。
《
「死ィィィねやァッ!」
チェーンソーの刃が光を纏って高速回転し、振り被ると同時にトンボの形の巨大な光弾がいくつも発射される。
ネイヴィは回避に動こうとするものの、左右にはヘンゼル・グレーテルが待ち構えている。
「チッ……!」
左腕のマントで体を覆うように、防御姿勢を取る。しかしそれで全身を守れずはずもなく、光弾はネイヴィに命中し、爆炎と砂煙で埋め尽くされた。
「父さぁぁぁん!!」
翔が悲鳴を上げ、ジェラスネオが勝利を祝するようにせせら笑う。
だが、旋風と共に煙が晴れると、そこには無傷のネイヴィが立っていた。
「……は?」
ジェラスの間抜けな声。マントをはためかせ、ネイヴィは真っ直ぐに突撃する。
しかし、そこにはパイドパイパーが立ちはだかる。無数の光の針が、ネイヴィの頭上から降り注いだ。
その直後、ネイヴィは再びマントをばさりとなびかせた。黒い布には、よく見れば橙色の光が細かく張り巡らされている。
「カタルシスエナジーをマントに……!?」
マントとそこから溢れる光の粒子がバリアを形成し、飛び来る針を全て防ぐのを見て、翔が言った。
これは単なる装飾ではなく、ネイヴィの身を守るための防具だったのだ。
「トォッ!」
見ている間に、ネイヴィの右拳が光の壁を突き破り、パイドパイパーを殴って消滅させていた。
その凄まじいばかりの戦闘力を目の当たりにしたジェラスネオは、歯噛みしながらチェーンソーを地面に何度も叩きつける。
「良い気になるなよロートル風情がァ! 彼らはそう簡単に倒せませんよ!」
叫びと共に、ネイヴィと並走していたシロアリ二匹が、左右から手を伸ばして来る。
挟撃だ、しかも触れれば菓子に変えられる。それを知っていた翔はまた叫び出しそうになるが、ネイヴィはバックステップのみで難なく回避した。
「接近戦は不利そうだな」
アプリウィジェットから一枚のマテリアプレートを手に取り、左の二の腕に装着されている腕輪のような装置にセットする。
「ガジェットチェンジ」
《
アーキタイプ・マテリアルという名を持つプレートの中の一種、GUNタイプ。それが装填された瞬間、左腕の肘から先が分解されて消え、新たにガトリングガンのアタッチメントが装備される。
これは、肇の左腕が義腕となっている事を利用して考案された専用武装。その名も『ガジェットアーム』。
腕輪にプレートを装填する事により、普段の徒手空拳用のガジェットであるライダーアームから別の形態へと変化させる事ができる。
アタッチメントは予め作られたものではなく、リングに読み込んだデータに応じて自動生成される。GUNのデータを解析した事で、今回はガトリングアームが作られたのだ。
「新装備……ありがたく使わせて貰うぜ、鷲我」
ガトリングアームが爆音と共に高速回転し、無数の弾丸がヘンゼル・デジブレインに降りかかる。
雨霰と弾丸を浴び、右腕と左足が消し飛んだ。一方で、その高い威力のために、ネイヴィは反動によって徐々に後ろへ仰け反ってしまった。
「なるほど、中々の暴れ馬だ。コツがいるな」
ジェラスとグレーテルが向かって来るのを視認しながら、ネイヴィは慌てる事なくガジェットアームのリングからプレートを外し、新たに装填した。
「ガジェットチェンジ」
《
ガトリングアームが外れ、続いて合身したのは二つに折り畳まれた刃のアタッチメント。
アーキタイプ・マテリアルのEDGEタイプによって装備される、カッターアームだ。畳んだ状態から展開され、巨大な鋭い刃が伸びる。
「死になさァい!」
《
《フィニッシュコード!
凍結の擬音で固められた剣がジェラスネオの左手に握られ、必殺技を発動したジェラスローターと同時に振り抜かれる。
その一撃に反応し、カウンター気味にカッターアームで素早く横薙ぎの一撃を食らわせた。
「フン!」
しかし、ジェラスの左眼には予測されていた。即座に二つの武器を交差させ、防御しつつバックステップする。
さらにグレーテルがカッターの刃先を掴み、その刃をみるみる板チョコレートへと変化させた。
「チッ!」
根本までチョコに変わった瞬間、ネイヴィはカッターを叩き折って下がった。
見ればヘンゼルも既に地面の一部を菓子に変え、食らって体の修復を済ませている。やはり、一筋縄では行かない。
戦いを見る翔は、咄嗟に飛び出しそうになっていた。
「父さん!」
「来るな!」
《
叫びながらアタッチメントを再度切り替える。今度は、腕の先端に大きな錨が装着された武装、チェーンアーム。
ネイヴィが腕を振ると鎖に繋がれた錨が射出され、ヘンゼルとグレーテルを雁字搦めにする。
二体が身を捩って鎖を菓子に変えて脱出を図ろうとすれば、ネイヴィは腕の付け根のあたりについたスイッチを押し、鎖に流れる電撃で封じ込める。
「今のお前に何ができる。戦う力がなければ、前に出ても死ぬだけだ」
体を引き千切らんばかりにさらに強く締め上げ、電流を浴びせ続ける。
だが倒れていたジェラスネオが身を起こすと、掌から『緩』の文字が何度も飛び出し、鎖に命中。締め付けていた鎖がぐらりとたわみ、その隙にヘンゼルとグレーテルは脱出せしめた。
「言ったはずだ。戦う理由、信念……お前自身の決意を思い出せ!」
錨を巻き戻しながら、ネイヴィは問う。
なぜ今まで戦い続けていたのか。どうしてその手で戦おうと思ったのか。
自分の――原動力とは何だったのか?
そこまで思考が巡った時、今までの戦いを振り返って、翔はハッと目を見開いた。
「僕は……」
戦火から逃げ惑い、無力な人々に目をやる。
最初に変身したのは、サイバー・ラインで響と鋼作と琴奈を守るためだった。次に戦いを決意したのは、学校を襲撃された時だ。
その後はアシュリィだ。デジブレインに追われてボロボロになった彼女を、記憶をなくしてしまった彼女を、絶対に助けたいと願った。たとえそれがプログラムされた行動だったとしても、守りたいという願いに嘘はなかった。
サイバー・ラインに囚われてしまった人々を守り、進駒たちのようなCytuber側に加担するしかなくなった被害者たちを助けたいとも願うようになった。
しかし、いつしか遼とハーロットの陰謀でアシュリィに固執するようになり、ついには怪物になってしまった。
「それでも」
ぐっ、と強く拳を握る。
アクイラの力でこの身が怪物に変わってしまうのだとしても、ハーロットたちにとって都合の良いプログラムを仕組まれていたのだとしても。
そして、これまでの自分の全てが遼やハーロットの掌の上にあったとしても。
「それでも!!」
一枚のマテリアプレートを手に取る。
兄と友を守るために最初に変身した日。自ら初めて『仮面ライダーになる』と決意したあの日。
己に誓った言葉と、人々を助けるために戦い続けた時間、友を護りたいという願い。
そして、アシュリィの居場所になりたいという想いは――断じて偽りではない。
《ブルースカイ・アドベンチャー!》
流れる電子音声。それは翔が初めて手に入れ、最初に変身した時のマテリアプレートだ。
その音を耳にしたジェラスネオは、翔を見て舌打ちし、トランサイバーに手を伸ばす。
「無意味な足掻きを……さっさと死ね、このガキがァーッ!」
掌から放出される『爆』の文字。それが真っ直ぐに翔へと向かっていく。
それを目視しながらも、翔は雄叫びのように声を発してプレートをアプリドライバーに装填し、マテリアフォンをかざした。
直後、文字が風船のように弾け飛び、翔の姿は爆炎に包み込まれた。
「ひははははっ! ようやく! 木っ端微塵になりましたねェェェーッ!」
《
「……あ?」
吹き荒れる風が、爆炎を散らして行く。
《
「僕は、青空を……当たり前の空の色を護るために戦うと決めたんだ。戦えない人たちの居場所を護るために、戦い続けて来たんだ!」
《蒼穹の冒険者、インストール!》
「たとえアクイラにされるために体を改造されたのだとしても、僕の人生が嘘で塗り固められていたのだとしても! この誓いは嘘じゃない!」
マフラーのなびく音が聞こえる。
青いボディに赤い瞳の戦士が、一振りの剣を手に、ゆっくりと歩いている。
「目障りなガキがァ! ゴチャゴチャほざくなァァァッ!」
「これが僕の意志だ! 僕が、戦うんだ!」
仕留め損なって苛立ちを露わにするジェラスが、再び爆発の文字を放つ。
銀色のマフラーを翼のように広げ、風と共にその戦士は飛び立った。
「僕は……僕が、仮面ライダーだ!!」
堂々と名乗りを上げた仮面ライダーアズールは、素早くジェラスの胴へとキックを食らわせた。
一撃を喰らい、ジェラスは「ぐげぇ!?」と短く悲鳴を上げて倒れ込む。
アズールは再び飛翔してネイヴィと背中合わせに立つと、アズールセイバーをヘンゼルに向けて突きつける。
「覚悟は決まったようだな」
「うん。もう、迷いはないよ」
ヘンゼルがアズールに向かって飛びかかって来る。
瞬間に錨が射出され、シロアリのデジブレインの頭に直撃し、撃ち落とした。
「もう一度アシュリィちゃんに会う。そして、ハーロットと久峰 遼の歪み切った欲望を断ち斬る!」
「アシュリィが敵になったとしてもか?」
今度はグレーテルが突撃。
しかし、アズールの吹き起こした暴風によって態勢を崩し、剣から放たれた風の刃によって地面を転がる。
「僕はあの子の居場所になると決めた。だからハーロットのプログラムや命令じゃなく、アシュリィちゃん自身がどうしたいのか……その意志を聞きたい」
「そうか」
「だから、父さん。もう一度あの子と話せるように協力して欲しい」
束の間沈黙していたネイヴィであるが、顔を上げると、その手に新たにマテリアプレートを握る。
そして、それをリングに装填した。
《
「なら今度こそ自分の決めた道を突っ走れ。お前ならやれるさ」
左腕のアタッチメントが、巨大ドリルに切り替わった。音を立てて回転するそれは、スピンアームだ。
アズールも剣を右手に握り込む。それらをデジブレインたちに向けながら、二人は頷き合った。
「まずはゴミ掃除だ。徹底的に潰し尽くすぞ!」
「うん!」
タンッ、と地面を蹴るが速いか、アズールとネイヴィが同時に仕掛ける。
ネイヴィのドリルが転倒から立ち直ったばかりのグレーテルの頭を丸く貫き、そのまま鳩尾まで真っ二つに抉り裂いて消滅せしめた。
さらにアズールが、ヘンゼルへとかかっていく。武器を菓子へと変える腕に触れないように、脇を目掛けて斬り上げた。
両腕が千切れ飛んで反撃の手段を失ったヘンゼルへ、続けてアズールが追い打ちをかける。
《フィニッシュコード!
「そぉりゃあっ!」
青く輝く斬撃が、シロアリのデジブレインの肉体を横一閃に断つ。
これで残る敵勢力ははジェラスネオのみ。次々にデジブレインを消滅させられた事実に苛立ち、舌打ちをしている。
「良い気にならないで貰いたいですねぇ! 所詮はV1タイプとプロトタイプ……私に勝てるはずがない!」
《
言いながら、ジェラスは『炎』の文字を大蛇に変えて解き放つ。さらに自身も、斧とジェラスローターを手に進撃を始めようとする。
しかし。踏み出す直前に見た二人の姿、その全身から漲るカタルシスエナジーの大きさに、思わず立ち止まってしまう。
特に本気を出したネイヴィの戦闘スペックの増大値は、V1やV2のそれを凌駕している。チャンピオンリンカーと同等、あるいはそれ以上だ。
「な、なんだ……なんだ、このカタルシスエナジーの量は!?」
何度奇跡を目にしようとも、他者を裏切り利己に走る都竹には分かるはずもない。
カタルシスエナジーは感情を変換して生み出されるエネルギー。たとえ血が繋がっていなくとも、互いを信じ合う家族の絆から生まれる強い感情が、二人のライダーのポテンシャルを従来以上に引き出しているのだ。
「せやっ!」
「フン!」
風の刃が大蛇の首を落とし、ドリルが斧を削り潰す。
そして二人の拳によってたたらを踏み、募り続ける苛立ちのあまりに、ジェラスはヒステリックに叫んだ。
「バカな! バカなバカなバカな! たかがV1と
《フィニッシュコード!》
「『ファイナルコード』ォォォッ!」
《
トランサイバーGとジェラスローター、二つの必殺技が組み合わさり、無数の『爆』の文字と巨大なサメの大顎が二人へ放たれた。
「こぉれで死ねやぁ! 仮面ライダァァァーッ!」
四方八方を囲まれたアズールとネイヴィ。しかし、どちらも慌てる事なくドライバーのプレートを押し込んだ。
《フィニッシュコード!》
「一気に決めるよ!」
「ああ」
ネイヴィは頷いて左腕を元のライダーアームに戻し、アズールと共にマテリアフォンをかざした。
《
「ハッ!」
「ライダー……キック!」
アズールが空高く飛翔し、ネイヴィは全身に風を纏って跳躍。そして、空中で一回転して同時に右足を突き出す。
《ブルースカイ・マテリアルバースト!》
《サイクロン・マテリアルエンド!》
「そぉりゃああああっ!」
「トォォォーッ!」
文字が風で押し返されていき、サメが爆炎に巻き込まれて消滅。
黒煙と爆風の向こう側から飛び出して来た二人の強烈な飛び蹴りが、ジェラスの胴を捉えて吹き飛ばした。
「ぐげぇっ!?」
防ぎさえできずモロに直撃し、地面を転がるジェラスネオ。
変異自体はまだ解除されていないが、圧倒的優位だった戦況を引っ繰り返されたのは明らかだ。
故に、利己主義な彼は『翔を捕縛して遼に明け渡す』という目論見を下方修正する。
そもそも当初の目標は実験材料の確保。既に十分な人数を向こう側に送っているため、これ以上は必要ない。
「……『ゲート』!!」
自らサイバーノーツへの変異を解いた都竹は、ハーロットの領域に繋がる門を開く。
そして捨て台詞代わりに舌打ちし、ゲートと共にその場から姿を消した。
「消えたか」
その呟きと共に肇は変身を解除し、翔も同じく元の姿に戻る。
二人が一息ついていると、そこへフォトビートルが飛んで来た。
『淫蕩の遊園地には既に鷹弘たちが向かっている。だが、少々苦戦しているようだ』
「どうするんだ、翔」
問いかけられると、翔は迷いなく頷いて手を差し伸べた。
「行こう、父さん。皆を助けるんだ」
「フ……即決だな」
マテリアフォンを操作し、座標を入力。
二人は、すぐさま目の前に現れたゲートへ突入した。
※ ※ ※ ※ ※
「クソッタレ、なんなんだこいつらは!」
同じ頃。
変身したリボルブたちは、突如として現れたガンブライザー持ちのデジブレインたちの対処に迫られていた。
彼らを襲撃するのは、四種類のスートと数字のトランプを模した多数のトランプナイツ・デジブレイン。
クローバーの意匠を持つ馬騎士と、スペードのマークが特徴の犬騎士が槍と剣による接近戦でリボルブとザギークを追い詰める。
さらにハートの猫騎士とダイヤの鶏騎士はそれぞれ弓と銃を持ち、雅龍とキアノスに対して遠隔攻撃を浴びせている。
「こいつら、ブレーメンズの強化型か……!?」
「中々手強い! 元が人間だからと言って躊躇するな、やられるぞ!」
キアノスとリボルブが言って、近場にいる馬と犬を殴り飛ばす。
しかし、殴って消滅させても銃撃で頭を吹き飛ばしても、爆散した直後に別のトランプナイツが現れる。
「くっ、どうなっているんだ!? なぜガンブライザー製なのに人間に戻らない……!?」
雅龍はそう言って、近場にいる猫騎士を凍らせて砕く。それでも爆発し、新たなデジブレインがその場に駆けつける。
そんな混沌とした戦場へ新たに出現したのは、赤頭巾の少女を下腹から生やしている狼の姿のデジブレイン。恐らくハーロット製のものだ。
ここに来ての敵の増援。状況は悪くなる一方だ。
レッドフード・デジブレインと呼ぶべきその狼は、一吼えすると、鼻をふんふんと言わせ、強靭な爪を突き立てて真っ直ぐにザギークに飛びかかった。
「へえっ!? ちょっ、ウチ!?」
「オンッ! オォン!」
ザギークを押し倒してハッハッと長い舌を伸ばし、腕を押さえつけて匂いを嗅ぎながら、仮面の上から顔を舐め回す。
「ちょ、ちょっ待って、やめ……」
白塗りの唾液が、強力な酸によってザギークの装甲を溶かしていく。
しかしそれ以上に大きいのは精神的なダメージだ。なにせ、仮面とはいえベトベトになるまで舌で舐められているのだから。
そのあまりにも遠慮のない舌捌きに、ついにザギークも怒りに火が点いた。
「やめろっつってんでしょーが!」
「キャンッ!?」
彼女の膝が、レッドフードの股座へ深々と的確に突き刺さったのだ。
悶絶して思わず腕を離す。その瞬間、続けざまにザギークはレッドフードの股間へと手を滑り込ませ、パワフルチューンの状態で強く握り締めた。
「クゥーン!? クゥゥゥゥゥーンッ!?」
メリメリと音が聞こえ、内股になって腕をバタつかせ悲鳴を上げるレッドフード。
生殖機能を持たないはずなのだが、人体を模倣しているためか、それとも感情を学習しているためなのか、ともかく急所は存在するようだ。
レッドフードのデタラメな爪による攻撃が当たり始めたので、ザギークはパッと手を離し、ついでとばかりに左拳を真っ直ぐに股間へ打ち込む。
「あー気持ち悪かった、ふざけんじゃないよマジで」
肩で息をして、ザギークは立ち上がる。レッドフードもダメージから復調し、彼女に怒りを込めて吼え始めた。
そんな彼女の元へと、雅龍が駆けつける。
「浅黄、無事か」
「なんとかねー」
見れば、雅龍の方は既にトランプナイツを
「相性が悪そうだな。交代するか」
「ごめん、お願い」
そう言ってバトンタッチを交わすと、ザギークは他のトランプナイツの相手をしに向かう。
雅龍は拳を握り、レッドフードを睨みつけて対峙した。
だが、その時だった。下腹の赤頭巾の少女の眼が輝いたかと思うと、上半身の狼がブリッジをするように上体を反らし、そのまま消失した。
「む?」
そして、下腹にいた赤頭巾の少女のデジブレインが身を起こす。まるで、消えた半身の代わりとなったかのように。
「オオオッ……」
両腕を広げて目を光らせ、少女のデジブレインが声を上げ、霧を放つ。
その口部から放たれる甘い臭気に、雅龍は仮面の中で眉間に皺を寄せた。
「一体なんだ?」
まるで熟した果実のような芳醇な香り。
気づけば、雅龍はその場に膝をついていた。
「ぐっ!? こ、これは……!」
目の前からは獣の爪を伸ばした少女が歩み寄って来る。しかも、トランプナイツたちも雅龍に近づいていた。
「マズい! 警視!」
リボルブは自分が相手をしているトランプナイツを次々と打ち倒すが、まだまだ数は多く、救援には向かえない。キアノスとザギークも同じだ。倒しても切りがない相手に攻撃を受け、徐々に劣勢になりつつある。
そして少女は爪を振り上げ、雅龍との距離を一気に詰めようとしている。
その時。
銃声と共に、レッドフード・デジブレインの爪が弾け飛んだ。
「グゥッ!?」
「む……?」
銃声の正体を探るべく、レッドフードと雅龍が同時に弾丸の飛んだ方向を振り向く。
そこに立っていたのはガトリングアームを装備したネイヴィ。そして、アメイジングアローを持つチャンピオンリンカーのアズールだ。
「あっ!?」
「あいつは!」
光の矢が、リボルブやキアノスやザギークの周囲にいるトランプナイツを貫き、消滅させる。
「みなさんすいません、遅れました!」
アズールが頭を下げ、再び弓で敵を射る。
すると、四人のライダーたちは口々に彼へと言葉を投げかけた。
「ヘッ、待たせ過ぎだぜバカ野郎」
「話は後だ翔! とにかくここを切り抜けるぞ!」
「翔くん、こっちは大丈夫だ。浅黄たちの援護を頼む」
「本当に良かった……ウチも頑張んなきゃね!」
仮面ライダーたちに活気が戻り、それがカタルシスエナジーの向上に繋がる。
レッドフード・デジブレインは怒声を発しながら雅龍に爪を突き立てんとするが、その直前に大きく開いた口にインクを打ち込まれる。
「ムグッ!?」
「私がいつまでも気づかないと思うか」
レッドフードの口が凍りつき、甘い香りと霧が消失していく。
霧の正体は、高い濃度のアルコール成分を含んだ果実酒。これを浴びてしまい、雅龍は身動きを取れなくなっていたのだ。
男に対しては酒気で、女に対しては力技で籠絡するという、二つの顔を持つ。それがレッドフード・デジブレイン。
「残念だが、能力の正体が分かった以上……これで終わりだ」
《パニッシュメントコード!》
雅龍の周囲に冷気が集まり、胴の長い東洋風の龍の姿を成す。
顔が凍りつきながらもレッドフードは再び爪を振り上げんとするが、それもネイヴィの銃撃によって妨げられた。
《
「ホォォォッアタァァァーッ!!」
氷の龍と共に飛び上がり、雅龍はキックを繰り出した。
腹に蹴りを受けたレッドフードは全身が凍りついて罅割れ、ガトリングアームによって粉微塵となる。
「師匠、ご助力感謝します!」
「だから師匠はやめろって……次行くぞ」
「はい!」
二人はそう言いながら、苦戦しているアズールたちの元へ向かった。
やはり何度攻撃しても状況が変わっておらず、最初に現れた人数よりもトランプナイツが明らかに増えている。
人数が増えたため対処ができているが、このままではジリ貧だ。
そんな折、周囲を飛んでいたフォトビートルから音声が届く。
『翔、みんな! やっと分かったぜ!』
「鋼作さん? 今どこに?」
『安全圏にキャンプを建てたんだ! それより、トランプナイツ・デジブレインはあの小さな砦を破壊しない限り永遠に生み出されるんだ! 変異した人間は全員あの中にいる!』
ザギークはそれを聞くと、納得した様子で頷く。
「なぁるほどね! だったらさっさと壊しちゃおう!」
「援護します!」
トランプナイツを薙ぎ倒しながら、ザギークとキアノスが先陣を切る。
しかし、砦へ狙いを絞った直後。壁から砲塔が生え、ビーム弾が照射された。
「うわわわわ!?」
「くっ!」
ザギークが逃げ惑い、キアノスが防御。リボルブも銃撃で砲塔を破壊するが、すぐに再生する。
「クソッ、結局近づけねェじゃねーか!」
悪態をつくリボルブ。こうなってはもう通常攻撃では打つ手はない。
全員で必殺技を叩き込むしかない、と。
「みんなやるぞ!」
そう言って、リボルブはプレートを銃に装填。後から駆けつけた者たちも同じように、武器へプレートをセットした。
「これでどうだっ!」
輝く矢と炎の弾丸、氷の矢に毒矢、そして光の球体と無数の鉄の弾。それらが一斉に降り注ぐ。
全ての必殺の一撃を受け、砦が崩壊し消散していく。
それと同時に、今にもライダーたちを襲撃しようとしていたトランプナイツも消滅し、砦のあった場所にはガンブライザーを装着した人間たちが重なり倒れた。
安堵の息を吐き、鷹弘は変身を解く。
「ようやく先に進めるな……」
ここはまだ遊園地の入口に過ぎない。ホメオスタシスの攻略戦は、まだ始まったばかりなのだ。
その頃。
清潔な白いベッドの上で、フィオレとツキミは寄り添い合って横になり、天井を眺めていた。
しばらく沈黙している二人だったが、不意にフィオレの方から言葉をかける。
「ねぇツキミ」
ツキミがそっとフィオレの方を向くものの、彼女は何やら言葉を渋っている。
しかし、しばし待ち続けていると、再び口を開いた。
「アシュリィ、さ……なんであんなにママに嫌われてるんだろうね」
「それは……お姉様に分からないなら、なんとも」
フィオレの「そっか」という短い返事の後、再び静寂が訪れた。
だが、今度はツキミがそれを破る。
「気になりますか? アシュリィのこと」
「……うん」
「でも、お母様は答えてくれるでしょうか?」
「……わかんない」
「……私たちは……」
キュッと唇を引き結んで躊躇いながらも、ツキミは口に出す。
「私たちも、本当にお母様に愛されているんでしょうか……?」
またも気まずい沈黙。
アシュリィが罵倒される姿を思い浮かべると、理由も分からず、フィオレとツキミの目には涙が浮かぶ。
お互いにそんな目に気付いて、フィオレはツキミの手を優しく握り、ツキミもその手をそっと握り返すのであった。