四つん這いになった全裸の美少年の背を椅子のように使い、執務陽の机の前で足を組んでふんぞり返っている遼は、呆れたように嘆息していた。
「あの都竹とかいう男、失敗したのか。使えんな」
両足の先には、同じく素裸にされた二人の美しい少女がいる。恍惚とした瞳で、丹念に遼の素足を舐めていた。
それを満足気に眺めながら、遼は少年の尻をじっとりと撫でる。
少年は手足を戦慄かせて頬を上気させるが、態勢は崩さない。その様子にも遼は悦んでいた。
「ご苦労。褒美をやろう、三人とも先にベッドで待っていなさい」
遼の言葉を聞くと、年端も行かない三人は悦楽の笑みを浮かべ、指示通りに一糸まとわぬ姿のまま豪奢なベッドへと向かった。
「ネズミ狩りはハーロットに任せておくとするか」
そう言いながら、遼はネクタイを緩めて服を脱ぎ始め、自らもベッドへと歩む。
机の上には、トランサイバー
一方。
ハーロットは領域内にいるツキミとフィオレいる部屋に自ら赴いていた。
「朗報よ、私の可愛い娘たち」
娘たちと言いつつ、この場にアシュリィはいない。
不審に思いながらも二人はそれを指摘せず、次の言葉を待った。
「仮面ライダーたちが私の領域に侵入した。あなたたちに処理を任せます」
「えっ……!?」
「アズール以外は
「あの、ママ」
ハーロットが解散を告げようとすると、その前にフィオレが引き止める。
その表情は暗く、目の前の母親に対する怯えがありありと伝わるようであった。
「アシュリィはどうするの?」
「あの子はあの子でやるべき事があるの。気にしなくていいわ」
「……ママは」
唇を一文字に引き結んで、フィオレは言葉を紡ぐ。
「ママはアシュリィを愛していないの?」
「お姉様、それは!」
咎めるように思わずツキミが叫んだ。
きっとその話題は、ハーロットにとっては望むべきものではないはず。今まで一切二人に話していない事からも、それは明らかだ。
しかし、ハーロットの方は柔和に微笑んでいる。そしてゆっくりとフィオレとツキミを抱きしめ、耳元で語りかけた。
「いいのよツキミ。ごめんなさい、あなたたちを不安にさせてしまっていたようだわ」
「ママ……」
「良い機会だから教えてあげる。私があの子に仕込んだ役割について、ね」
直後、姉妹の耳中に吹き込まれるハーロットの告白。
打ち明けられた真相に、父と母の目論見に、ツキミとフィオレの表情はみるみると青褪めていく。
困惑と恐怖。その二つに彩られた彼女らの顔を見て、ハーロットは愉快そうに笑みを見せた。
「大丈夫よ。フィオレ、ツキミ。あなたたちが良い子でいる限り、私たちは二人を愛しているわ」
「あ、あ……」
「だから……このまま愛されていたいわよね?」
優しい声色。しかし、まるで脅しつけられているかのような――。
瞬間、一気に恐怖が肉体を支配し、総毛立つ。
ハーロットには逆らえないのだという事を、全身が理解しているのだ。
それを見透かしているのか、ハーロットは薄く笑みを浮かべて二人の頬に触れている。
「さぁ、行きなさい。アシュリィのようにはなりたくないでしょう?」
同じ口調で放たれた言葉。
※ ※ ※ ※ ※
「さて、全員持ち場は把握したな?」
翔と肇が戦力に加わった後、鷹弘は出入口にあったパンフレットを手に自分を含めた6人の仮面ライダーの配置の確認を行っていた。
この領域は遊園地。現実世界の一般的なものと比べて広いと言えど、他のCytuberに比べれば然程ではない。またジェットコースターなどの無意味に思える施設もあるため、必然的に探索範囲は絞られる。
よって、三つに部隊を分けて探索を行う事となった。
翔・鷹弘は『ファンタジー・エリア』と書かれた施設、翠月・浅黄は『スリラー・エリア』へ、響・肇は『カートゥーン・エリア』だ。
「じゃあ、調査開始だ!」
『了解!』
目的地に向かって、一同は散開。
周囲を警戒しつつ翔と共に歩きながら、鷹弘は唸る。
「しっかし、本物の遊園地みたいだな。外に牢屋がなければ」
「それにしても、ハーロットはどうしてこんな領域を作ったんでしょうか。どうにも意図が分からない」
「何もかも謎だらけだな。調べりゃ何か出てくるかも知れんが」
地図を見ながら、二人はファンタジー・エリアを目指す。
そして、付近に真っ白な巨城が見えるエリアへと足を踏み入れた、その直後。
無数のベーシック・デジブレインと、ガンブライザーを装着した全裸の女性が姿を現した。
「早速、かよ」
《ラプターズ・フリート!》
「行きましょう!」
《チャンピオンズ・サーガ!》
戦闘態勢の翔と鷹弘。それに反応してか、女性もマテリアプレートを起動した。
「ウー……」
《アリス・シンドローム……ハートクイーン!》
使ったのは、先頃にもガンブライザーの所有者たちが持っていたアリス・シンドロームという名のプレート。
しかし、中に内包されているデジブレインは異なるようだ。
二人は起動したプレートをドライバーに装填し、マテリアフォンをかざす。
「変身!」
《語り継がれし伝説、インストォォォール!》
「変……身!」
《羽撃く戦艦、フルインストール!》
翔はアズール チャンピオンリンカーへ、鷹弘はリボルブリローデッドへの変身を完了し、ベーシック・デジブレインたちを蹴散らしていく。
その間に、女性はガンブライザーにプレートをセットした。
《
「アアアアッ!!」
全身がノイズに包み込まれ、その姿が変異する。
ハートの意匠が盛り込まれたドレスで着飾った女王。周囲のベーシック・デジブレインたちは、頭部が真っ赤な薔薇となった。
どうやらパイドパイパー・デジブレインを素体として強化したデジブレインのようだ。
「また見た事ないタイプだ……」
「構わねェ、やっちまうぞ!」
言うが速いか、リボルブはヴォルテクス・リローダーのトリガーを引き、薔薇のデジブレインを一体消滅させる。
すると。
「キアアアアアアアアアアッ!!」
「うおおっ!?」
ハートクイーンが奇声を発し、その全身を真っ赤に染める。
そして腰に帯びた剣を手に取って、怒り狂ったように滅茶苦茶に振り回して襲いかかって来た。
「くっ!?」
接近されないように弓と銃で攻撃し続けるも、全く効いていない。怒りによって放出されている赤いバリアが、攻撃を無力化しているようだ。
さらに、大きく踏み込んだハートクイーンの上段からの一閃が、リボルブの交差した腕に食い込んだ。
「こ、のっ……!!」
《リボルビングフィニッシュコード!》
「くたばりやがれェェェッ!」
《
左拳がハートクイーンの顎を捉え、続いて燃える右腕が胸を刺す。
必殺の一撃には流石によろめき、爆炎がベーシック・デジブレインをも焼き払うが、まだアズールの攻撃も残っている。
《スプリームフィニッシュコード!》
「落ちろ!!」
《
剛弓から解き放たれた光の一矢が、ハートクイーンの額に突き刺さると同時に、周囲のベーシック・デジブレインたちを全て消滅させる。
しかし。戦闘の余波で巻き起こった砂煙の先には、未だ怒り続ける女王の姿があった。
「なっ、なんだと!?」
「今のを受け切ったのか!? どうやって!?」
驚く二人を倒すべく、女王はまたも剣を振り被る。
両方のライダーは攻撃を受け止めるが、あまりのパワーにより、守り切れずに吹き飛ばされる。
V3を相手に一体どこからこれほどの力を出しているのか。アズールとリボルブの脳裏には、ひとつだけ可能性が浮かんでいた。
「こいつ、まさか!」
「多分間違いありませんよ、薔薇のデジブレインを倒すとパワーアップするんだ……!」
不思議の国のアリスという物語に登場するハートの女王というキャラクターは、些細な事で激昂する短気な性格の持ち主だ。
自分の薔薇を穢された怒りにより強化されているのだとすれば、説明はつく。
二人が守りに徹している間にも、薔薇のデジブレインは増え続けている。しかいハートクイーンを倒すには、彼らに触れてはならないのだ。
「クソッ、どうする……!」
激しさを増すハートクイーンの連撃を前に、劣勢となっていく二人。
その時、アズールが動いた。
右腕に青いノイズを集め、それを敵勢に向けている。
「よ、よせ翔! 力を使えばアクイラに……!」
「いえ、大丈夫です! 力の正体を知った今なら、使いこなしてみせる!」
敵のデータを吸収して無力化するアクイラの能力、データ・アブソープション。
未だ不完全な翔の場合、データの吸収まではできないのだが、無力化を拡散する形で放った。
「ウ……?」
瞬間、光を受けたハートクイーンが冷静さを取り戻し、ベーシック・デジブレインも本来の姿に戻る。
「今の内に! 効力が切れる前に倒しましょう!」
「おう!」
《ブレイジングフィニッシュコード!》
ドライバーにセットしていたヴォルテクス・リローダーを抜き、リボルブはそこにプレートを装填。必殺技が発動した。
《
「くたばりやがれェェェッ!」
乱れ撃たれた炎の弾丸が、ベーシック・デジブレインとハートクイーンを撃ち抜く。
そこへすかさず、アズールが動いた。
《グレイテストフィニッシュコード!》
「終わらせる!」
《
「そぉりゃあああっ!」
ヴェスパーフォトンを纏って繰り出された必殺のキックが、ハートクイーンの腹の命中。
変異が解除され、ガンブライザーが爆散する。女性は意識を失った状態で、地面に倒れ伏した。
「どうにかなりましたね……」
「ああ。だが、入ってすぐこれとはな」
「この先も気を抜かずに行きましょう」
変身を解除した二人は頷き合い、ひとまず一番目に付く城を目指して走り出した。
※ ※ ※ ※ ※
同じ頃。スリラー・エリアに足を踏み入れていた翠月と浅黄も、既に変身して敵デジブレインの歓迎を受けていた。
敵はジャッカル・デジブレイン三体、さらにガンブライザーを装着した裸の美少年だ。
「眼福……だけどそうも言ってられなさそうだねぇ」
浅黄の変身したザギークがそう言っていると、少年はマテリアプレートを起動してベルトにセット、変異を開始した。
《アリス・シンドローム……チェシャーキャット!》
「ウウウ……」
《
「ウウアアアアアッ!」
桃色のチェシャ猫となった少年は、そのまま空高く跳躍し、頭上からザギークへと蹴りを浴びせる。
「うぎゃぁ!」
「浅黄!」
雅龍転醒に変身している翠月は、冷気を放ちながらチェシャーキャット・デジブレインへとスタイランサーを突き出した。
が、着地した猫にその一撃が命中する事はなかった。
まるですり抜けているかのように、体が穂先を避けたのだ。
「な、なにっ!?」
「キィッ!」
液体めいた軟体がぬるりと蠢き、その足が雅龍の顔を打つ。
さらに、雅龍の全身から放たれる冷気は敵の肉体を瞬時に凍らせるはずなのだが、チェシャーキャットがそれに苦しむ様子はない。
そればかりか、凍結能力が効いていないようだ。
「どうなっている!?」
「まさか……データ異常の能力が効かない体質!? 向こうが対策して来たの!?」
これはつまり、ザギークの扱う毒の力も無意味となる事を意味する。
極端に相性の悪い相手を前に、二人は歯噛みしていた。
「ど、どうしようゲッちゃん」
「慌てるな。槍が通じないのならば、他の戦い方で挑むまでだ」
槍を捨てて拳を構え、前進する雅龍。
そこへ、ジャッカル・デジブレインが放つ体力を奪う布が襲いかかる。
「邪魔だッ!!」
しかし今の雅龍の前では無力。冷気が布を
そして凍っている間に、ザギークが頭部を狙い撃ちして破壊。呆気なく消滅させた。
雅龍の狙いはチェシャーキャットのみだ。素速い拳の一薙ぎが、猫を討ち倒す――はずだった。
「キキキッ!」
「なっ……!?」
放たれた拳は、再びチェシャーキャットの紙のような軟体に回避される。
ザギークが死角となる雅龍の背後からインクの矢を発射して援護するものの、ピンク色の猫はそれさえも避けた。
彼女に続いて雅龍も、両腕のノズルから冷却液であるサスペンドブラッド入りのインク弾を乱れ撃つが、全く当たらない。
「打撃も槍も矢も弾丸も、何もかもあの体には通じないというのか!?」
「そんなっ!」
能力の正体は不明だが、もしもそれが事実だとすれば、もはや二人に打つ手はない。
だが、雅龍はそれでも諦めなかった。
「『点』での攻撃を無力化するならば、今度は『面』で制圧するのみ!」
《パニッシュメントコマンド!》
「ホアタアアアアッ!」
《
巨大にして鋭利な二つの龍の爪が形成され、上空と側面からチェシャーキャット・デジブレインを襲う。
いくら特殊な体質を持っていようとも、全域を薙ぎ払うこの攻撃は避けられないはずだと雅龍もザギークも考えていた。
その予想は、大きく外れる事になる。
「キキキィーッ」
「ええっ!?」
氷の爪がチェシャーキャットを斬り裂く事はなく、爪と爪の間を潜るように、その体は傷つく事も凍りつく事もなく無事を保っていた。
前代未聞の状況に、ザギークは思わず叫んでしまう。実体があるにも関わらず、こちらからはまるで触れる事ができないのだから。
ゴム鞠のように上に跳ねたチェシャーキャットであったが、しかしまだ雅龍の攻撃は続いていた。
「ここだ!」
《パニッシュメントコマンド!
無防備な状態で跳んでいる猫に、巨大な龍の頭部が食らいつく。
全方位を隙間なくサスペンドブラッドの塊が埋め尽くし、巨大な牙が無数の牙が容赦なく襲いかかる。
しかしそれさえも、チェシャーキャットの体には通じなかった。
「これもダメ……か。でも」
「ああ、ようやく能力の正体が分かった」
雅龍とザギークは頷き合う。
あらゆる攻撃を通さないチェシャーキャットの能力の正体、それは透過でも軟体でもなく『空間歪曲』だ。
周囲の空間を捻じ曲げる事によって槍がすり抜けたり体が柔らかくなったように見せかけただけで、実際には体にぶつからないように槍の軌道を曲げたり自分の周囲の空間を曲げているのだ。サスペンドブラッドや冷気も、自分を避けるように空間をねじ曲げているに過ぎない。
「問題はどうやってヤツに攻撃するのか、だが」
「ウチに任せといて。良い方法があるよ」
ヒソヒソと耳打ちすると、雅龍は頷いて再びスタイランサーを手に取って突撃する。
当然それも空間歪曲によって回避される。そして、ザギークが動き出した。
《パニッシュメントコード!》
「行けっ!」
《
無数の蜂型のインク弾がボウガンから射出され、四方八方から囲い込むように尾針を伸ばす。
空間を歪めて回避しても、蜂たちは自動でチェシャーキャットを追尾する。だが当然その度に空間歪曲によって回避されるので、蜂たちも自らの姿を維持できなくなり、インクの雫が滴り始める。
終いに蜂はインクを撒き散らし、破裂した。
「キキキッ!」
余裕ぶって嘲笑い、チェシャーキャットは大股で2人のライダーへと迫っていく。
直後、雅龍は地面に手を叩きつけた。
「捕らえたぞ!!」
「やっちゃえゲッちゃん!」
そこには白いインクが水溜りのように広がっており、よく見ればチェシャーキャットの足元も、周囲にもインクが溜まっている。
いわばこれは、以前ザギークが使ったものと同じインクの結界。二人の狙いはここに誘い込む事だったのだ。
雅龍はすかさず、腕のノズルからサスペンドブラッドを全力で注入する。冷気がインクを伝いチェシャーキャットへと向かっていく。
「キィッ!?」
空間歪曲能力を発動するが、サスペンドブラッドは止まらない。
それもそのはず、チェシャーキャットの力は『空間を歪める』だけであって『空間から断絶する』事ではない。同じ空間で繋がっている以上、いくら曲がりくねっても、足元のインク溜まりを通して必ず到達するのだ。
ならばと言って跳び上がって逃げようとしても、後の祭り。粘性のあるインクは既に硬化し、チェシャ猫の足裏を固定している。
「キ、キイイ……イ……」
サスペンドブラッドが瞬く間に全身に浸透し、チェシャーキャットは凍結。
そこへ雅龍が拳を叩き込み、ガンブライザーを砕いて変異を解除させた。
「中々手強かったな」
「気が抜けないねぇ。とにかく先へ行くよー!」
ザギークの言葉に頷き、警戒を続けながら、雅龍はスリラー・エリアの奥へと侵入するのであった。
※ ※ ※ ※ ※
響と肇が向かったカートゥーン・エリア。
そこでも、ベーシック・デジブレインたちがぞろぞろと闊歩していた。
「警備が厚いな……」
「仕方がない。無理矢理突破するぞ」
二人は同時にアプリドライバーとマテリアプレートを取り出し、装着・起動する。
《
「変身!」
《
「ライダー……変身!」
音声を聞いて存在を認識したベーシック・デジブレインが突撃して来る中、響と肇は同時にマテリアフォンをかざした。
《迷宮の探索者、インストール!》
《紺碧の叛逆者、インストール!》
「ハァッ!」
「トォッ!」
キアノスがサーベルを手に縦横無尽に敵へ斬り込み、ネイヴィは格闘戦で突き進む。
ベーシックタイプはもはや恐るるに足らず。全ての敵を薙ぎ倒し、カートゥーンエリアを進んでいく。
すると、三つの人影が行く手を阻んだ。
その内の二人は、ハーロットの娘であるツキミとフィオレだ。何やら青褪めた顔で、響たちを睨みつけている。
もう一人はガンブライザーを装着した、素裸の幼い少女だった。
「こんな子供まで……!!」
ツキミとフィオレよりも先に少女は前に出て、その手に持ったマテリアプレートを起動する。
《アリス・シンドローム……ハンプティダンプティ!》
「ワ……ア……」
《
「ウウウワアアアアアッ!」
現れたのは、首のないずんぐりとした丸みを帯びた真っ白な怪人。
まるで卵に手足の生えたような姿をした奇怪な生物は、両眼から怪光線を放って二人の仮面ライダーを襲う。
「くっ!」
「この……!」
ネイヴィがマントを翻して回避し続け、その間にフェイクガンナーでハンプティダンプティを撃つキアノス。
だが弾丸が命中した瞬間、卵のような肉体に亀裂が走って中から黒い人影があらわとなり、目を灼かんばかりの閃光と共に鋭い破片が二人に向かって飛んで来る。
「ぐあっ!?」
「な、なんだと……!?」
光線がアーマーを一部溶解させ、卵の殻の破片は裂傷を作る。
迂闊に攻撃を加えれば、今のようにこちらが手痛い反撃を食らうという事だ。おまけに、ハンプティダンプティは既に割れた殻が元通りに再生している。
しかし、今の一撃であの怪人には中身がある事は分かった。
「く、どうすれば……!?」
「慌てるな。要は、中身に攻撃すればいいんだろう」
「だが下手に刺激を与えれば殻が割れてしまう!」
「どの道、殻を破らなきゃ倒せない。だったら……」
そう言いながら、ネイヴィは一枚のマテリアプレートを取り出し、左腕のリングに装填する。
《
「トォッ!」
ガジェットアームがドリルに変化し、すれ違いざまに脇腹を抉って風穴を開ける。
直後、穴の空いた箇所から光線が溢れ出すが、既にネイヴィは射程外に入っているため地面を焼くだけに終わった。
「そうか、その方法なら……!」
《オーバードライブ!
キアノスも武器にプレートを装填し、グリップエンドを押し込んで必殺技を発動。
銃口から曲がりくねりながら伸びる鉄の鞭が、閉じつつある穴の中へ侵入を果たした。
「ウ、ア……!!」
殻の中で百足のような鞭が暴れ回り、本体である黒い靄のようなものに絡みついて強く締め付ける。
「アアアアアッ!」
「くっ!?」
内部でハンプティダンプティ・デジブレインが悲鳴を上げると、殻が破裂して破片がキアノスの身を裂く。
直後、怪人の背後でガジェットアームをガンに切り替えていたネイヴィは、完全に露出状態となった本体へと乱射。
弾丸が全て命中し、ガンブライザーの破損と共にハンプティダンプティは消滅した。
「……君たちはかかって来ないのか?」
ネイヴィに問われると、何もせずに黙って戦いを見ていたツキミが、ビクッと身を震わせる。
「お、お姉様……」
「分かってる! こいつらを倒さないと……ママは私たちを愛してくれない!」
フィオレも、顔を青褪めさせたまま、しかし敵意だけは激しく溢れさせて対峙する。
彼女らの言葉を聞いたネイヴィは、仮面の奥で眉をひそめる。そしてキアノスの方に首を向けると、彼にとって信じがたい一言を放った。
「響、彼女らを傷つけるな。今から何が起きても絶対に手を出すんじゃない」
「父さん!? 一体何を……」
「ひとつ気になる事がある。それに、俺たちの目的はアシュリィと翔を助ける事だ。彼女たちの命まで奪う必要はない」
「だが! それでは父さんが――」
話している間に、フィオレとツキミはメルジーナ・デジブレインとカグヤ・デジブレインとなり、それぞれ攻撃を仕掛けていた。
「うわああああっ!」
悲鳴のような叫びと共に水圧弾を放つフィオレ。ツキミも、竹槍を生み出して雨のように降らして来る。
「……」
それとは逆に、ネイヴィは黙って攻撃を防ぎ受け止めていた。
たとえどれほど攻撃が激しくとも、決して反撃しない。彼女たちを下手に刺激しないようにしているのだ。
響は改めて、自分たちが父と呼ぶ人物の強さと偉大さを知った。
次第に、姉妹は自らの胸の内を吐露し始めていた。
「私たちが良い子にしていれば、言うことを聞いていればママは優しくしてくれる! 私たちを愛してくれる!」
「そうでなければ、きっと私たちもアシュリィのようにっ……!」
声を震わせながら、二人は攻撃を続ける。
しかしアシュリィの名が出て来た直後、ネイヴィは反撃しないまま語りかける。
「教えてくれ。アシュリィに何が起きている?」
「うっ!?」
「翔たちに比べれば一緒に暮らしたのはまだ短い間だが、それでも俺はあの子の父親のつもりだ……大切な家族だ。だから」
「うるさい、うるさいうるさい!」
より一層激しくなる攻撃。カタルシスエナジーを流し込んだマントを翻して猛攻を防ぐも、いつまでも耐えきれるものではない。
「私たちの家族はママしかいないんだ! 仮面ライダーを倒しさえすれば、ママは私たちを認めてくれるんだっ!!」
「……子を愛するのは親として当たり前の事だ!! 家族を愛するのに条件をつける親がどこにいるッ!!」
ネイヴィが叫ぶと、ほんの一瞬だけ二人からの攻め手が緩んだ。
そして今度は声を抑えながら、ゆっくりと手を差し伸べた。
「信じてくれ。俺は君たちを傷つけるつもりはない、ただ……君たちの心をそんなにも乱した原因が何なのか、アシュリィに何があったのか……それを知りたいだけなんだ」
「でも……話したら、ママが……」
「ハーロットには黙っておくさ。約束する」
押し黙ってしまうツキミとフィオレ。すると、ネイヴィは自らゆっくりと変身を解除する。
このままでは無防備な状態でデジブレインの攻撃に晒される事になる。それでも、彼女たちの心を信じたのだ。
フィオレたちはなおも肇の姿に警戒していたが、攻撃の意志がないと知ると、やがて自分たちも変異を解く。
――その時だった。
「あらあら、よりによって敵に情報を漏らそうとするなんて。いつの間にそんなに悪い子になったのかしら」
フィオレたちの背後から、薄い生地の黒いドレスを纏った蠱惑的な美女が現れた。
「お仕置きが必要ね」
「ハーロット!!」
フェイクガンナーを抜くと、キアノスは躊躇なくその銃口をハーロットに向け、発砲する。
攻撃は両隣に控えていたベーシック・デジブレインが防ぎ、消滅。肇はツキミとフィオレを庇うように前に出る。
「父さん、その子たちを連れて逃げろ! こいつは俺が足止めする!」
「なに!?」
「行ってくれ……こいつは遠慮なしに殴っても良いんだろう?」
キアノスの、響の声に怒りは混じっているが、それは冷静さを欠いた状態から出たものではない。
ハーロットの実力は今なお未知。相手が仇敵であれ、きっと敵わなければ逃げる判断を下すだろう。
それを察して、肇は頷いた。
「死ぬなよ」
「ああ!」
二人の少女を連れ、肇はカートゥーン・エリアの奥へと走り出す。
ハーロットは妖艶な微笑みを作ったまま、彼らを追わずにキアノスを見据えている。
そして三人の姿が見えなくなると、胸の谷間から一枚のマテリアプレートを取り出した。
「あなたが私の相手になるのね。いいわよ」
《フェアリーテイル・プリンセス!》
「遊んであげる」
そう言って自らのドレスをぱさりと脱ぎ、素肌を晒してプレートに口づけをすると、それを左腕のトランサイバーGに装填する。
《レスト・イン・ピース! レスト・イン・ピース!》
「
《
周囲を浮遊する拘束具を着用した角のようなものを生やしている正体不明のデジブレインが現れ、音声入力と同時にロープが首を絞めつける。
デジブレインの姿は分解されていき、ハーロットの肉体と融合していった。
《フェアリーテイル・アプリ! 御伽細工の姫君、トランスミッション!》
ロープが切れると共に、一人のサイバーノーツへと変異を遂げる。
一見すると兎の耳を生やした際どいコスチュームのバニーガールのようだが、その両耳の先端にはサソリのハサミが付いており、針のある尻尾も生えている。
口部も虫のように左右に分かれており、両眼はサソリ型の紫色のバイザーで覆われていた。
「サイバーノーツ、ルードウィッチ……私を愉しませてくれるかしら?」
「安心しろ。そんな余裕は与えん」