帝國領の最上部にある玉座、議事堂の議場にて、上等な赤ワインを飲んでいた久峰 遼は激昂して地面にワイングラスを叩きつけた。
そのガラス片が、傍で控えていた素裸の少年少女たちの体を傷つける。しかし、彼らに動揺する様子は見られない。
怒りながらも遼は思考を張り巡らせる。如何にして、ホメオスタシスはこの領域の事を知ったのか?
考えられる可能性は、ひとつしかなかった。
「そうか……スペルビアだな。この局面で私を陥れようという事か、あの痴れ者が……!」
歯を軋ませ、遼はトランサイバーGを手に取り、急いでハーロットに通信を行う。
『遼様、如何なさいました?』
「帝國領にクズ共が侵入している、情報を漏らしたのはスペルビアだ」
『なっ!? も、申し訳ございません! ちょうど負傷も癒えましたので、すぐに向かいます!』
「遭遇次第、全員遊園地に送り返してやれ! アズール以外は殺しても構わん!」
半ば怒鳴るような声色の後、遼は通話を切って立ち上がり、議場から出た。
「人の言葉を話す害獣どもめ……私の創る国家に貴様らの居場所があると思うなよ」
翔と鷹弘、そして翠月が合流して議事堂内に侵入した直後。
入口から新たに三つの影が走って来るのを、翔たちは目撃した。
敵だろうかと思いドライバーを呼び出そうとするが、良く見ればそれは肇とツキミ・フィオレだった。
「父さん、どうしてその子たちと一緒に!?」
「身構えなくて良い。彼女らは、情報を提供してくれる協力者になった。もう味方だ」
肇の話を聞くと、翔たちも警戒を解く。
そしてこの機会に、マテリアパッドとフォトビートルによる通信を介して、浅黄や鋼作・琴奈たち外部メンバーも含めて情報共有を行う事となった。
遊園地の下にもうひとつ敵の領域があり、それが久峰 遼の統治下であるということ。退路は既に塞がれていること。謎の放送設備があること。翔の体がアクイラ化するまでに、あと半日は保つこと。
さらに、アシュリィの体内にはハーロットの手によって毒が仕込まれているという事実だ。
「……ひでェ事しやがる」
アシュリィに課された理不尽な宿命に、鷹弘はクッと歯を食いしばった。
肇もその話についてはツキミとフィオレから聞いていたらしく、帽子の縁に指をかけて静かに目を伏せている。
「あの子を助ける手段を見つけたい。少しでも望みがあるのなら」
「……師匠、とりあえず今は情報共有を先に」
「分かってるさ。俺からの情報だが……ツキミとフィオレのお陰で、ハーロットの能力が分かった。ヤツは自らの領域を自在に操る……というよりも、あの領域そのものがハーロットの武器だ」
そう言って、肇は続けてその能力についての詳細を語り始める。
ハーロット――ルードウィッチというサイバーノーツ態が有するその力は、領域操作。自身の領域内にある様々な物質をデータ化し、それを元に強力なデジブレインを『産む』。
以前から交戦している童話由来のデジブレインがそのタイプで、マテリアプレートに封入できるようにもなっている。それがアリス・シンドロームだ。しかも、倒されたデジブレインは戦闘データをトランサイバーにフィードバックし、より強力な個体を産む事ができるようになるのだ。
加えて、変異したハーロットはトランサイバーのコード入力により、現実世界からゲートを通じてサイバー・ラインに移動するのと同じように、自身の領域間を自在に移動できる。
そもそもトランサイバーにゲートの機能をつけたのは、他ならぬハーロットなのだという。
今までのCytuber、特にアヴァリスマネージャーが顕著であったが、彼らの中にはアクイラの力によって領域そのものを利用して戦う者もいた。つまり、ハーロットはその開祖のようなものなのだ。
『なーるほどね。実はさっき、ハーロットと戦った響くんから通信でその話聞いたんだ』
「無事なんですか!?」
『うん、ゲートみたいなので別の場所に移されたって。これで裏は取れたねー』
そう言って、浅黄が不敵な笑い声を発する。明らかに何か企んでいる様子だ。
しかしそれに関して追及せず、肇は話を続ける。
「恐らく響が戦った時は、まだ他にも手の内を隠していたはずだ。この子たちもハーロットの力の全てを知ってるワケじゃないし、遭遇したら充分気をつけて戦うべきだな」
「ゲートを作る能力の方にも注意しねェとな。アレで遊園地に逆戻りさせられるかも知れねェ」
「ああ、その通りだ。さて……実は、もうひとつ重要な情報がある。久峰 遼の目的だ」
それを聞いて、翔は首を傾げる。久峰が人を支配する事を目的としているのは、周知の事実のはずだからだ。
すると、その疑問を感じ取ったのか、肇は「少し言い方を変えよう」と前置きしてから再び語始める。
「ヤツが人を支配する、その手段についてだ」
「手段?」
「この国会議事堂内の議場。そこに、音声を通して人間の精神をコントロールするマイクが置いてある。いわば催眠装置だ」
「なっ!?」
「ヤツがマイクにカタルシスエナジーを流し込み、命令を発すると、それを聞いた者の脳を刺激して体内に少量のカタルシスエナジーを強制的に生み出させる事ができる。そうやってエナジーを生み出してしまった人間を、ヤツは支配できるという事だ」
「父さん……もしかして、檻にいる人やガンブライザーを使った人たちって」
「そうだ、全員ヤツの催眠装置の実験の被害に遭っている。そしてヤツは近々ここで演説を行い、それを現実世界で流そうとしているようだ」
話を聞いた者全てが戦慄していた。
遼は、久峰の一族は本当に全人類の支配を成し遂げようとしていたという事だ。
「そうか、じゃあ浅黄が今いる放送席ってのはそのためにあるんだな。世界中に自分の演説を流すって事か」
「現実世界でも、クリスマスにイベントがあるって選挙カーが走ってました! まさかこれが目的だっただなんて……!」
鷹弘と翔も合点が行った様子で瞠目している。
しかしこれが事実なら、自分たちに勝ち目はないのではないだろうかとも思った。
直後、その点に関して肇から補足が入る。
「幸いな事に、チップを埋め込んでカタルシスエナジーを制御できる人間、あるいはデジブレインにはこのマイクは効かない。俺たちなら止められる」
その話を聞くと、翔も安心したように息をついた。
だが、既に大勢に被害が出ている以上、どちらにせよ脅威である事は疑うべくもない。
戦闘が始まり状況が変わった今、演説が前倒しされる可能性もある。その前にマイクだけは回収・破壊しなければならない
結論が出ようとしていたが、その前に浅黄が口を挟んだ。
『ねぇツキミちゃんとフィオレちゃん、そのマイクって誰でも使えるの?』
「えっ? 恐らくですけれど、誰でも使えると思いますが」
「ママ……ううん、ハーロットも使ってたはずだし」
『量産とかされてる?』
「いえ、悪用されないためにも一つしか作っていません。クーデターを起こせないようにという目的もあるようですが」
『なるほどねー。だったらさ、ウチらで奪って催眠解除してから壊した方が良くない?』
確かに、それができれば敵を撹乱できるだろう、と翔は思った。
しかし問題点もある。翠月がそれを指摘した。
「どうやってマイクを手に入れるんだ? 議場にあるのは間違いないが」
『その辺は任しといて。実は響くん、議事堂に潜入してるんだ。もう調査を始めてる』
「いつの間に!?」
『翔くんが穴を開けてすぐだよ。絶対何かあるって察してたんだろうね。彼に頼んで、議場でマイクを見つけて貰おう』
これで議事堂攻略の方針は定まった。だが、全ての方策が決まったワケではない。
まだアシュリィを助ける方法が分かっていないのだ。ツキミたちの話を聞く限りでは、翔かアシュリィが死ぬ事でしかこの状況は変えられないのだという。
その上、これは二人がハーロットから直接耳にした情報。娘たちを恐怖で支配するため、事実を伝えた可能性が高い。
さらに、生きたまま毒を取り出そうとしてもハーロットは何か仕掛けを施しているだろう。アクイラの力で無理矢理に引き剥がしたら、何が起こるか分からない。
考え続けるものの結論は出ず、鷹弘は苛立って頭を抱える。
「クソッタレが、こんなモンどうすりゃ良いんだ……!」
翠月も肇も、通信している者たちも黙ってしまった。
助かる道が全て閉ざされている。どう足掻いても、アシュリィだけが命を落とす事になる。
そう思っていた時、翔が静かに手を挙げた。その両眼は、強い覚悟に満ちていた。
「彼女を殺すか、彼女が死ぬ以外の方法がないなら……助かる道がないのなら、もう打てる手はひとつしかないと思います」
固唾を飲んで全員が見守る中、翔はゆっくりと口を開いた。
「――僕が、彼女と戦います」
※ ※ ※ ※ ※
遼が議場を出てから、数分後。
議事堂の玄関口まで歩いてホメオスタシスを探していた遼であったが、既にその場からいなくなった後であり、彼らの姿は影も形もなかった。
「チッ、一体どこに……」
考えながら悪態をつく遼。そしてすぐに、ハッと顔を上げた。
「まさか議場に行ったのか!? いかん、マイクが!!」
遼からしてみればホメオスタシスたちがマイクの洗脳機能を知る機会などない事は分かっているのだが、それでも不安は付き纏う。
トランサイバーのゲートから大急ぎで戻ると、壇上にはちゃんとマイクが立ててあった。
胸を撫で下ろして玉座に座るが、それも束の間。議場の扉が、勢いよく蹴破られたのだ。
「何者だ!!」
立ち上がった遼が向こう側にいる人物に向かって叫ぶと、その男はゆっくりと前に出てくる。
響だ。彼はフェイクガンナーもアプリドライバーも持たないまま、議場に侵入する。
「……こうして会うのは初めてだが、俺の事は知っているだろう。久峰 遼」
「フン、貴様一人で来たのか? ちっぽけなガキのクセに、命知らずめ」
挑発されても響は動かない。ただ、その場で力強く叫ぶだけだ。
「父と母を殺したのは貴様か!」
「はははっ! 何を言い出すかと思えば、今更わざわざそんな話を聞きに来たのか?」
「答えろ!」
「ああ、そうとも。手を下したのは私ではないがね、金を使って人を雇って死なせてやった」
さも当然というように遼が言い放ち、響は怒りをあらわにする。
「なぜそんな事をした! 俺たちの両親だけじゃない、どうして人の命を奪う!? 彼らにも家族があるんだぞ!」
「フン! 下らんな。家族など所詮、私にとっては枷でしかない。私がトップに立つのに優秀な兄が邪魔だから殺したまでの話よ」
「なにィ……!!」
「その後も、私を頂点から引きずり降ろそうと下らん調査を続ける警官やジャーナリストも、上から圧力をかけて潰して来た。それでも諦めなければ殺す。害獣を駆除してるだけなんだよ、これは統治なんだ。何が悪い?」
「それは統治ではなくただの独裁だ! 仮に統治であるとしても、人を誘拐し続けているのはなぜだ!」
「男であろうが女であろうが、美しいものを傍に置いて愛でたいと思うのは当然だろう? 私に見初められたのだ、それは栄誉な事なのだよ」
「檻に入れられている者たちには生気を感じられなかった……彼らをどうしたんだ」
「決まっているだろう? 私の玩具にしたんだよ、貴様の母親と同じように。ああ……そうだ、あの娘はとても体の『締まり』が良かったなぁ……クククククッ」
ニヤァッと、唇を大きく歪める遼。
響は眉間に深く皺を寄せて歯を軋ませ、右掌で口元を覆う。
そして。
「く、フッ、ハハハハハハハハハハハハッ、アッハハハハハハハハハハハッ!!」
天上を見上げて、大きく笑い始めた。
「なっ……なんだ、小僧! 一体何を笑っている!」
「笑うに決まってるだろ! 貴様のゲスな自白は!」
直後、室内の隅やカーテンの後ろなど、至るから虫のような形状の物体が響の方に飛来する。
彼の周囲に漂うこれは、量産されたフォトビートルだ。
「全世界に翻訳付きでライブ中継させて貰ったんだからなァーッ!!」
「なっ……なんだとォッ!?」
ぎょっと目を見開く遼。映像記録は既に終わっているため、フォトビートルは楽しそうに回転しながら飛んでいる。
フォトビートルは音声も含めて先程の遼の罪を全て記録しており、それを浅黄が放送席の端末を操作して現実世界に流していたのだ。しかも彼女のハッキングにより、映像はテレビ局やネットを問わずあらゆる場所に拡散している。
つまるところ、今までの発言によって遼は一瞬で世界の全てを敵に回してしまったのだ。
「バカな! バカなバカなバカな! いつだ!? 一体いつの間にそんな仕掛けを!」
「議場の位置にはおおよそ見当がついていたからな。お前が出てくるのをずっと部屋の前で待っていたのさ、こいつを使って」
響が取り出したのは、オクトパス・デジブレインが封入されたCytube Dreamのプレートだ。
オクトパスは墨を吹いたり触手を生み出す他にも、カメレオンのような擬態の力を持っている。
これを利用して部屋の前で待機し、遼が出てくるのを待っていたのだ。
「おのれ!! ならば、マイクを使って今すぐに民衆を操って……」
遼は壇上にあるマイクを素早く抜き取り、スイッチを入れようとするが、その寸前に大きく目を見開く。
「ち、違う! これは洗脳マイクじゃない! 本物のマイクだと!?」
「既に入れ替えて使わせて貰った。この領域の住民の催眠を解いて、浅黄さんが安全な場所に隔離させてる」
「ぐっ、ぐうううっ」
「……俺の人生の全てを台無しにされたから、お前の全部を壊してやったが、どんな気分だ?」
先程までとは全く立ち場が逆転した。
響が薄く笑い、遼は怒りと狼狽で歪んだ表情を見せている。
「俺たちに勝とうが負けようが、お前はこれから先の一生を地べたで這い回り続ける事になる。どんな気分だ、何もかも失うのは。どんな気分だよ、ちっぽけなガキに踊らされるのは」
「き、貴様……!」
「答えろよ、政治家サマは演説が得意なんだろう? それとも……惨めったらしく『記憶にございません』とでも言ってみるか、なぁ?」
「貴様ァァァーッ!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたのか、遼は懐から拳銃を取り出し、発砲する。
それもフォトビートルが全て弾いて防ぎ、響はフェイクガンナーで銃を狙って撃ち、破壊した。
「ぐぅっ!?」
「貴様の負けだ久峰 遼! 大人しく降伏しろ!」
銃口を向けて響が叫ぶ。降参を要求するのは、せめてもの慈悲のつもりだった。
しかし、遼は怒りに震えて顔を上げる。
彼の手には、マテリアプレートが握られていた。
「負け? 負けだと? ふざけるなよ……私に敗北などあり得んのだ!」
《ダークネス・キングダム!》
「かくなる上は貴様らを一人残らず殺し、もう一度民衆を洗脳するまでだァァァッ!!」
叫ぶ遼の左腕を見て響は目を見張り、銃弾を放つ。
しかし、起動したマテリアプレートから現れたイカと
そしてプレートは、トランサイバーGに装填されてしまった。
《レスト・イン・ピース! レスト・イン・ピース!》
「
《
遼の咆哮と共に二体のデジブレインが彼の肉体へ融合、首に縄がかけられて締め付けられる。
そして縄が千切れた直後、その姿が変異していく。
体色は白く右手に髑髏の杖を持っており、頭部にはドリルのような二本の巻角が屹立し、口周りに生えた長いヒゲのようなイカの足がぬらぬらと光沢を放っている。
背には翼のように擬態した触手が生え、下半身からもマントのようにして触手が伸びて足を覆っている。緑と黄の斑点で彩られた両眼の瞳孔は横に割れており、吸盤に当たる部位には同じ形状の眼球が埋め込まれていた。
邪悪さが全面に押し出されており、久峰 遼のドス黒い精神性を体現したような、まさに悪魔の如き威容だ。
「
「独裁者が戯言をほざくな!」
《
フォトビートルたちを逃しながら、響も自らのプレートを取り出し、アプリドライバーに装填。
そして、マテリアフォンをかざしてキアノスへの変身を行う。
「変身!」
《迷宮の探索者、インストール!》
「抵抗するのならもはや容赦はしない、ここで貴様を倒す」
「やってみろ小僧ォォォ!」
背中の触手が、一斉にキアノスへ襲いかかる。
ぬめるって蠢くそれらを素速くかわして前進するものの、今度はグリーフディクタトルが掌から放った黒い光の弾を受けてしまう。
「ぐっ!?」
そうして足が止まった隙に、グリーフの触手がキアノスの足を絡め取り、壁面へと叩きつけた。
「がぁっ!!」
「ハハハハハハハ!」
《
エフェクトの発動と同時に杖の先端の髑髏の両眼が輝き、その口部と眼窩からもうもうと黒い靄のようなものが立ち込める。
それはゆっくりとキアノスの方に近づいていき、黒い触手を伸ばす。
「く……!」
サーベルで切り払って逃れようとするが、触手は霞のように斬撃をすり抜ける。
そしてキアノスの腕に巻き付いて靄の中に閉じ込めると、内部でで激しい稲光が迸った。
「ぐあああああ!!」
「口ほどにもないなぁ、仮面ライダー!!」
《
再びトランサイバーを操作したグリーフが、真上に杖を掲げる。
すると天井に黒い靄が張り巡らされ、黒い炎の塊が無数に降り注いだ。
「ぐうっ!?」
炎を浴びて、キアノスが苦悶して膝をつく。あまりにも強力な攻撃が立て続けに行われ、大きなダメージを負ってしまったのだ。
「近づけない……攻撃のスピードも破壊力も、ハーロットとは格が違う!」
「当然だろう? 私はアクイラに最も近い力を持つ存在なのだ……人間如きが神に敵うはずがあるまい!」
そう言いながら、グリーフは左掌から再び光弾を放った。
だが突如としてキアノスの後ろからひとつの影が飛び出したかと思うと、光弾は粉々に散らばった。
眼を見張るキアノス。彼の前には、一人の仮面ライダーが、ネイヴィが立っていた。
「確かに、ひとりなら敵わんかも知れんな」
「でーもー! 三人ならどうだ!」
先程響が蹴破った扉の前からはザギークが姿を現した。
これで三対一。キアノスは立ち上がり、明るい声で二人の隣に並ぶ。
「父さん! 浅黄さん!」
「ふっふーん、避難は終わったよ響くん! 後はコイツをブッ倒そう!」
ビシッ、とスタイランサーの矛先を突きつけるザギーク。
その姿に、グリーフの額には青筋が走った。
「痴れ者共が……私を怒らせればどうなるか、とくと思い知るが良い!」
※ ※ ※ ※ ※
遼が議場に戻ったのと同じ頃。
ハーロットはルードウィッチに変異したまま、自身の体内から作った五十体近い童話のデジブレインとベーシック・デジブレインの軍勢を率いて、議事堂に押しかけていた。
「仮面ライダーとあの子たちを探しなさい! アズール以外は見つけたら殺すのよ!」
正面から入り、ルードが叫ぶ。それを聞いてデジブレインは動き出した。
しかし、ルードウィッチは不意に足を止める。背後から僅かに冷気のようなものを感じたのだ。
「何? この嫌な感じは……」
そう呟きながら、ゆっくりと振り返る。
するとそこにはいつの間にか、ヴォルテクス・リローダーにプレートを装填したリボルブリローデッドが立っていた。
《ブレイジングフィニッシュコード!
「なァッ!?」
《ブリザード・マテリアルデストロイヤー!》
ワイバーンの姿をした冷気と氷の塊が、入口にいたデジブレインたち全てを凍りつかせ、内側から燃え上がる炎によって砕け散る。
味方のデジブレインたちを盾にして唯一難を逃れていたルードは、その惨状を目の当たりにして声を震わせた。
「こ、こんなっ! 私のデジブレインたちが、全滅……!?」
「不意打ち成功ってかァ!? ざまァねェなクソババア!!」
中指を立てながら、リボルブが嘲笑う。そして議事堂の廊下からは、翠月が変身した雅龍転醒が現れた。
それを見て、リボルブは使ったマテリアプレートを彼に投げて返却する。
前からはリボルブ、背後からは雅龍。これで挟み撃ちの形となった。
「国際犯罪者ハーロット。貴様を逮捕する」
「逮捕!? 私は誰にも捕まらない、そんな事ができるワケがない!」
「貴様の顔写真を現実世界に流し、指名手配させて貰った。もう警察の上層部も動いているぞ」
「なんですって!? 警察が私と遼様を裏切ったというの!?」
「もう現実世界にも逃げ場はない……大人しく投降しろ」
雅龍が拳を構え、リボルブが銃口を突きつける。
すると、ルードウィッチは俯いたままくつくつっと笑い声を上げる。
「投降ですって? 愚かね、たかがこの程度の不意打ちで私に勝った気でいるのかしら?」
「なんだと?」
「見せてあげる……私の本来のスタイルを」
《
瞬間、彼女の頭上に巨大な本が浮かび上がり、そのページがめくれて行く。
そしてページが分離していき、床や天井や壁に張り付いて、遊園地で見たようなエリアが形成される。
「うおっ!?」
「これは……!?」
本が消えると共に、ルードウィッチが天井に
その瞬間、ぐらりとリボルブ・雅龍の視界は反転し、天井に向かって落ちて行った。
強かに背中を打ち付けてしまうが、二人は素速く立ち上がる。ルードの方はハサミをリボルブの首に向かって突きつけようとしていたが、掠める程度に終わった。
「危ねぇなクソッ!」
「まさかこの領域では、ヤツの立つ場所が重力の基準となると……そこまでの力があるというのか!?」
驚く二人の声を聞き、ルードウィッチは小さく笑う。
「あなたたちの後はあのボーヤよ。安心なさい、二人とも苦しまないようにシてあげるから……」
※ ※ ※ ※ ※
そして、二階の廊下にて。
翔はゆっくりと歩きながら、議場を目指していた。
足取りは重く、瞳には暗い影が差している。
「これしか、方法はない」
そう言いながら、翔はマテリアプレートを何枚も取り出した。
自身や鷹弘が持っていたV1・V2タイプのプレート、加えて雅龍の
それらを空中に放り投げると、上半身の衣服を脱ぎ捨てて全てを自身の体に取り込んだ。
「グッ、グウッ……!? グウアアアアアアッ!!」
悲鳴にも似た痛々しい雄叫び。しかし翔は膝を折らず、その両眼が青く輝いた。
瞬間、議事堂の壁面や柱の一部が破砕音と同時に削り取られ、データとして分解されると共に、マテリアプレートとして再構築される。
ザギークのフォレスト・バーグラーに、キアノスの
それらも全て体内に押し入れ、翔は獣のように咆哮する。
「グアアアアアアアッ、ウアアアアアアアアアーッ!!」
すると数刻の後、慌てた様子でアシュリィがその場に姿を現した。
どうやら彼女は翔の状態を感知できるらしく、ただ事ならぬ気配を感じたのだろう。
「ショウ!? 一体、何をしたの!?」
「……半日も、待ってられなくてね……」
息を切らしながら、翔はアシュリィの顔を見つめる。
その両眼は青く染まり、残る理性で抑えつけているようではあるが、以前の時のように人としての姿を失いつつあった。
「君と……戦いに来た。決着をつけに来たんだ」
「……そう。そうなのね、結論が出たのね」
アシュリィは小さな手をきゅっと握り締めると、その姿を変異させる。
ガラスの脚を生やした蝶の怪人、シンデレラ・デジブレインに。
「もう終わりにしましょう。私は……生きていちゃいけないんだから」
対して、翔もアプリドライバーを呼び出し、マテリアプレートを手に取った。
《チャンピオンズ・サーガ!》
「ああ、終わりにしよう。このバカげた遊びを」
《レッツ・ゴー・ライダー! レッツ・ゴー・ライダー!》
「……変身!!」
《
チャンピオンリンカーとなったアズールがアズールセイバーを構え、シンデレラも悠然と歩き出す。
そして――剣と足がぶつかり合って火花を散らし、二人の戦いが始まった。