傍にはフォトビートルが一機飛んでおり、それが鷲我のホログラムを映し出している。
『大丈夫だ。きっと、上手くいく』
二人の少女を安堵させるように、鷲我が言う。
直後、議事堂内が揺れ、大きな地響きが鳴り渡った。
議場で始まった、キアノス・ザギーク・ネイヴィとグリーフディクタトルの決戦。
黒い靄や光の弾を操って戦うグリーフに、仮面ライダーたちは苦戦を強いられていた。
《
「クククハハハハハ! 微塵に砕けるが良いわ!」
グリーフの背後に黒い靄が立ち込め、そこから鋭利な岩石が飛礫のように発射される。
ネイヴィがマントで弾き、キアノスとザギークは疾走して避けるのを確認すると、さらに次の一手が打たれた。
「ここだ!」
《
床一面に靄が発生し、今度は嵐が吹き起こる。あまりの勢いに身動きができなくなるほどだ。
さらに砕いた岩の破片も巻き上げられ、尖ったそれらが風と共に三人のライダーの体に襲いかかった。
「ぐぅっ!?」
「いたた……こんなのどうやって倒せば良いんだよぉ!」
「あの杖さえどうにかできれば……!」
嵐に飛ばされ、キアノスとザギークが壁面に背を打ち付ける。その姿を嘲笑い、グリーフは追い撃ちすべく杖を掲げる。
すると黒い光が先端の髑髏に集まっていき、眩く強い輝きを放つ。大技を使うつもりなのだ。
「死ぬが良い!!」
極大の黒く光る槍が、キアノスたちに向かって解き放たれる、その瞬間。
物陰やマントで攻撃をやり過ごしていたネイヴィがグリーフの目の前に飛び出し、ガトリングアームで至近距離から射撃を始めた。
「なにっ!?」
攻撃を中断し、グリーフは光の障壁を目の前に展開する。
バリアは弾丸を全て防ぎ続けるが、無数の弾丸によって徐々に亀裂が走りつつある。
それを見ていたネイヴィは、即座に動いた。
「ガジェットチェンジ」
《
「トォッ!」
左腕をカッターアームに切り替え、刃を突き立てる。それにより、バリアに刃が食い込んで砕け散った。
「なにぃっ!?」
「よし、二人ともやれ!」
ネイヴィの合図により、キアノスがフェイクガンナーによる銃撃、ザギークもボウガンモードで遠距離から射ち続ける。
障壁が崩れた今、グリーフは無防備。その胸や腹に弾丸と矢が殺到し、続いてネイヴィもカッターを振り下ろす。
だが、その一撃は触手による殴打で妨げられ、杖によってカッターは折れてしまった。
「チッ……!」
「父さん! これを!」
それを見ると、キアノスは一枚のマテリアプレートを投げ渡す。ネイヴィは素速く右手でキャッチし、即座に左腕へ装填した。
「ガジェットチェンジ」
《
「ほう、こいつは良い!」
左腕に大きな鉄のハサミが形成され、ネイヴィはそれを使って迫り来るグリーフの触手を次々に切断する。
すぐに再生はするものの、切る速度に追いつけていない。
焦るグリーフは杖を振り回して距離を置き、もう一度バリアを生み出そうとした。
「今だー!」
《ジェットマテリアラー!》
《フレンドーベル!》
その一瞬でザギークがパッドを操作し、ワイルドジェッター形態に移行。
飛行状態となり、スピアーモードに変形したスタイランサーを突き出して進撃し、障壁を作ろうとした左腕をそのまま圧し折った。
「この小娘がぁぁぁっ!」
「ウチは25だっての!」
横っ面に蹴りを入れ、その勢いで天井へと飛ぶザギーク。それを見て、グリーフは再び左手のトランサイバーGに手を伸ばした。
《
「業火に呑まれて砕けるが良い!!」
またも骸骨の両眼が輝き、杖から黒い靄が生み出されようとしている。
だがそれを狙い澄ましたかのように、再変形したスタイランサーのインク弾が即座に杖の髑髏を包み込み、靄を内側に封じ込めた。
瞠目するグリーフ。そして、インクに埋まった杖が、炎の魔術を暴発させる。
「がはっ!?」
高すぎる火力が大きな仇となった。爆炎によって杖が砕け、グリーフがよろめく。
それが致命的な隙を生み、三人は必殺を発動して一斉に飛びかかった。
《フィニッシュコード!
「ハァァァッ!」
《フィニッシュコード!
「トォォォッ!」
《パニッシュメントコード!
「おりゃぁー!」
三色の光を放つキックが悪魔の如き独裁者の胴を捉え、議席の玉座に向かって吹き飛ばす。
グリーフは悲鳴を上げ、背後の玉座を壊しながら壁に叩きつけられた。さらにその壁も砕き、向こう側へ飛んで行く。
これで、ようやく戦いが終わる。キアノスとザギークはそう思っていた。
「な、る、ほど……確かに一対一と一対三では随分違うようだ」
だが、壁の向こうから聞こえた声が、二人を現実に引き戻す。
ネイヴィと共に警戒しながら改めて武器を構え、戦闘態勢に移行した。
破壊された壁からは、再び声が聞こえて来る。
「ならば私も本気で行かせて貰うとしよう。見るが良い、我が真の姿! 神への進化をなァッ!」
《リーサルドーズ! カオスモード、オン!》
瞬間、議場の天井や床に亀裂が走り、議事堂そのものが崩れ始める。
そして姿を現したグリーフの姿を目の当たりにして、三人は大きく目を見開いた。
「こ、これは……!?」
※ ※ ※ ※ ※
響たち三人が戦い始めたのと同じ頃。
鷹弘・翠月も、変身してルードウィッチとの決戦を繰り広げていた。
ヴォルテクス・リローダーとリボルブラスターの二挺拳銃で戦うリボルブだが、その銃弾はルードのハサミによって天井の一部から作り変えられた鉄の壁に阻まれる。
「チッ!」
「フフフッ、冷静になればこのくらい容易いもの。さらに」
《
ルードの手でトランサイバーGのスイッチが入力されると、またも空間に本が出現し、そこから二体のデジブレインが呼び出される。
以前リボルブも戦った、バンダースナッチとジャバウォックだ。今回のような状況に備え、ルードウィッチはあえてこれらを残した状態でこの場所に来たのだろう。
「増援だと!?」
「これは想定外だったようね?」
嘲弄したルードが今度は壁に立つと、それに従ってデジブレインたちも同じく壁に向かう。
そして重力が変転し、またもリボルブと雅龍は壁に落ちる。
「クソッタレ、狙いが付けられねぇ!」
「これではただ翻弄されるばかりだ……一体どうすれば」
向かってくるバンダースナッチに銃撃で応戦するリボルブと、燃える牙を突き立てるジャバウォックに槍で迎撃する雅龍。
二体は少し前にリボルブが戦った時よりも、パワー・スピード共に遥かに向上しており、それに伴って銃弾に対しての回避も以前より精密となっている。
ハーロットが産むデジブレインは、体内で戦闘データを反復して自己学習・自己進化するのだ。
「ウフフフフッ! まだ勝負を諦めないつもりかしら」
壁の一部をハサミでデータ化して捏ね、大きな筒のようなものを作るルード。
そしてそこからミサイルが発射され、リボルブに向かって飛んで行く。
当然リボルブは回避に動く。背中に炎の翼を生やし、飛翔したのだ。
が、しかし。
「飛べば助かるとでも? 甘いわねぇ!」
タンッ、とルードウィッチが床に立つ。すると重力が元の状態に戻り、リボルブは地に頭を打ち付けてしまった。
「ぐあっ!?」
短く悲鳴を上げ、倒れ込んでしまう。
ミサイルは一切の容赦なく、無防備なリボルブに着弾しようとしていた。
さらにバンダースナッチも舌舐めずりし、反対側に回り込もうと動いている。
「ヤベェッ……」
「これで終わりよ!」
リボルブは両腕で自分の体を庇う。
そしてミサイルが爆発――せずに、凍りついて砕け散った。
その氷片は目にも留まらぬスピードで回り込んで来たバンダースナッチの両眼と鼻に深く突き刺さり、大きな傷を負わせる。
「なっ!?」
見れば、左手の指を壁面突き入れた雅龍が、ボウガンモードのスタイランサーを右手に構えていた。
ルードが動くのを見計らい、咄嗟に壁を凍らせ身体を固定する事で、重力の変化を無視したのだ。
そしてサスペンドブラッド入りのインク弾を放ち、ミサイルを凍らせて爆発を防いだのである。
「なるほど、これなら私でも重力を無視できるようだな」
「なんてデタラメな真似を……!! あなた、生意気よ!!」
《
ジャバウォックとバンダースナッチの姿が変質し、チェシャーキャットとマッドハッターになる。
さらに二体の動きも大きく変化しており、マッドハッターは雅龍が壁や床に身体を固定できないようにガトリングを撃ち続け、チェシャーキャットも空間を曲げてリボルブからの銃撃を反らし続ける。
これがサードコードの効力。ハーロット自身が産んだデジブレインを別の姿に変え、即座に戦闘データをインプットする事で隙をなくすのだ。
「こいつ、攻撃が当たんねェ! どうなってんだ!?」
「空間を捻じ曲げられているんだ! 直線的な攻撃は通用しない!」
叫ぶ雅龍も、手数の多いマッドハッターに圧倒されている。リボルブは必殺を発動しようとしているが、チェシャーキャットに通用するはずもない。
これで今度こそ、邪魔されずに決着をつけられる。そう思ってルードはニヤつきながら、悠々と天井に向かって飛び上がった。
「ウフフフフッ、今度こそ勝ったわ! 死になさい!」
しかし、その時だった。
リボルブはあろう事か銃口を天井に向け、そのまま必殺技を発動した。
四回転させたヴォルテクス・リローダーの銃撃。無数の炎の百舌鳥を放つ、最も手数の多い技だ。
《
炎弾が天井の一面をを焼いて砕き、火の手で埋め尽くす。
崩れた瓦礫が二体のデジブレインに降り注ぐが、マッドハッターは熱湯の爆撃でやり過ごし、チェシャーキャットはただ普通に空間を曲げて回避する。
初めの内はルードウィッチにその行動の意図が分からなかったが、すぐに気付いた。
自分が降りて足場としようとしている場所が燃え上がり、そして今にも天井そのものが完全に崩落しようとしている事に。
「な、ぁっ!?」
「こうするとよ……お前、どうなるんだ?」
そう言ったリボルブは炎の翼を作って雅龍の手を取り、天井に出来上がった穴から共に逃げている。
一度床から離れてしまったルードは、進路に着地するまで別方向に移動する事ができない。
つまり――。
「ギャアアアアアアッ!? あ、熱いっ、熱いぃぃぃっ!!」
魔女狩りの火炙りの如く、天井で燃やされるしかないのだ。
さらにそれだけでは終わらない。人間一人分の体重がかかった事で天井は崩落し、足場となる領域が失われたため、領域内の重力は本来の状態に戻る。
よって、今度は床へと落ちて行く事になる。燃え上がる瓦礫と一緒に。
「イヤアアアアアアッ!?」
今度は生き埋めだ。しかも、猛々しい炎で焼かれながら。
天井が崩れた事でハーロットの領域が失われてしまったため、先程までのようにハサミでデータとして分解する事はできない。リボルブにはそういう狙いもあったのだ。
チェシャーキャットの方は無事だが、マッドハッターは同じく炎に飲み込まれて瓦礫に押し潰され、消滅する。
それを見てリボルブと雅龍は地上に降り、ハイタッチを交わした。
「よーし、やってやったぜ! 何もデジブレインを狙わなくても、こいつを直接やっちまえばいいんだ!」
「しかし……これは大丈夫なのか? 可哀想とは思わんが、死んでしまっては逮捕とはならんぞ」
油断して背後から近づいて来たチェシャーキャットをスタイランサーで適当にあしらいながら、雅龍が言う。
「サイバーノーツは改造人間なんだからこの程度じゃ死なねぇだろうぜ、せいぜい気絶して火傷ができるくらいだ」
「なら良いんだが」
「どっちにしろ、命があるだけマシってモンさ。今までこいつらがやって来た事に比べたらな……むしろ感謝して貰いたいぜ」
そう言って仮面越しに笑い声を上げる鷹弘。
すると、燃える瓦礫の中からサソリのハサミのようなものが、なくなった天井に向かって飛び出した。
ルードウィッチだ。燃やされながらも瓦礫を全て力づくでどかし、傷だらけになって中から這い出て来る。
「ハァッ、ハァッ……」
「ンの野郎! まだ動くのか!」
リボルブが再び攻撃を加えようとするが、それよりも速くルードはトランサイバーを入力する。
《
「ニャッ!?」
雅龍と対峙していたチェシャーキャットがデータ化し、左右に開いたルードウィッチの口内へと吸い込まれていく。
そして全てを取り込んだ後、彼女の負傷は完全回復した。
「自分を狙われるのも予測済みってワケかよ!」
そう言ってリボルブが発砲するも、ルードウィッチは先読みして両腕とサソリのハサミで身を守った。
さらに、その腕はまたトランサイバーに伸びている。
「本当にムカつくわ仮面ライダー……どうやら奥の手を使うしかないようね!?」
《
再び現れる書物。そして、そこから現れるデジブレイン。
否、それは素裸の人の姿だった。ホメオスタシスが幾度も刃を交えて来た相手、曽根光 都竹だ。
左腕にはトランサイバーGを装着している。
「かぁぁぁかっ、
気の狂った笑い声と口調で、都竹が顔を上げる。
その左頬には、黒ずんだ小さな球体がいくつも埋め込まれていた。頬だけではない、胸や脇腹、内腿にも同じものがある。
瞬きせずに目を見開き、よだれと胃液の混じった液体を垂れ流しながら、頭をふらつかせている。
見るからに異常と言うべき様子に、リボルブも雅龍も恐怖さえ感じていた。
「な、なんだ!? こいつがあの都竹か!?」
「完全に正気を失っている……一体何をした」
そんな二人の言葉を鼻で笑い、ルードは都竹に手招きする。
すると、飼い犬のように彼女の背中に抱きつき、ハッハッと荒い息遣いで匂いを嗅ぎながら全身をまさぐり始めた。
「なんて事はないわ。失敗しておめおめ帰って来たから、私がデジブレインを産む時に使う素材を埋め込んで、ちょっと『調整』しただけ。お陰で肉体がデジブレインに近くなって大幅にパワーアップしたわ、心は壊れたけどね」
パチンッ、とルードが指を弾くと、それが合図となって都竹は手を止めて隣に並ぶ。
そして彼女の手からマテリアプレートを渡されると、すぐさまそれを起動し、トランサイバーに差し込んだ。
《フラッド・ツィート!》
「アー……ウー……」
《レスト・イン・ピース! レスト・イン・ピース!》
「
ロープが首に括り付けられ、ヘビとトンボとが融合したような姿のサイバーノーツ、ジェラスアジテイターネオへと変異する。
「キェェェェェェェェェェェッ!!」
瞬間、ジェラスネオは本能の赴くままに飛び出し、リボルブに殴りかかる。
その速度は、リボルブはおろか格闘家の雅龍でさえも反応できず、破壊力も桁違いであった。
プレデターが変異した、グラットンブルートにさえ匹敵する一撃だ。
「あ、がっ……!?」
「なんだと!?」
エフェクトも武器も使わないまま、ただひたすらに肉弾戦を続けるジェラスネオ。
腕が凍りつこうとも血が吹き出ようとも構わず飛んで来る、あまりにも純粋な暴力は、二人の仮面ライダーを窮地に追いやった。
その様子を見て、ルードウィッチは喜色に塗れた声で高笑いすると、再び領域を展開した。
「今度こそ死んで貰うわ、仮面ライダー!! 『ファイナルコード』!」
《
ルードが叫ぶと同時に、前に構えたハサミと尻尾の先端から紫色の毒液が溢れ出し、それを床に突き刺した。
すると、領域内から同じ毒が噴出し、ジェラスごと仮面ライダーたちに迫って埋め尽くされて行く。
当然ながら、彼女に自分の毒は通じない。三人が毒に浸されるのを、ルードウィッチは笑いながら眺めていた。
※ ※ ※ ※ ※
二つの最終決戦が始まるよりも、少し前の事。
アズールは、剣を片手にシンデレラ・デジブレインと戦いを繰り広げていた。
「そぉりゃあっ!」
「くっ!」
シンデレラ・デジブレインは振り下ろされた剣を左脚で受け止め、すかさず右脚でアズールの顔面に蹴りを食らわせる。
しかしアズールも簡単には受けず、僅かに首を反らす事によって直撃を避けた。
シンデレラ――アシュリィの目的は、翔をアクイラに覚醒させること。今のまま戦い続ければ、自然とカタルシスエナジーが蓄積され、翔はアクイラとなるだろう。
それを自分が望むか望まないかに関わらず、だ。
「必殺技は出さないつもり? それとも、そんな余裕もないのかしら?」
「……まだ、その時じゃない」
「隙を作ってからってことなのね。それなら良かった」
無意味な質問を繰り返し、翔がアクイラとなるための時間を稼ぐ。
同時にアシュリィにとって、この戦いは彼との最後の対話、最後のコミュニケーションでもあった。
アシュリィは、この戦いで自ら命を落とすつもりなのだ。
「ヤッ!」
「うわっ!?」
シンデレラのキックがアズールの肩に炸裂し、火花を散らす。
苦しむ彼の姿を見て、自分も心が痛むようだった。
翔はきっとアシュリィを殺す事を望まない。アシュリィも、翔を殺したくなどない。
だから、もしも彼に限界が訪れた時、必殺技を発動しようとしたその剣を奪って自分に突き刺そうと決めたのだ。
「どうして……こうなったんだろうね」
膝をつくアズールを見下ろしながら、シンデレラは言う。
記憶を消される前。
アシュリィは自分が生まれた時、その意味を聞かされた時、自分が幸福になる事など決してあり得ないのだと諦めていた。
無意味な希望に縋る事をせず、ただ淡々と役目を果たすのだと思っていた。
自分に幸せになる価値も、幸せになる時も訪れないのだと信じさせられていた。
記憶を失い、翔に出会うまでは。
「どうして、だろうね」
剣を杖代わりにして身体を支え、アズールが言う。その胸を、シンデレラは心の中で謝りながら蹴り倒した。
記憶を取り戻した後は。
アシュリィは、翔に幸せになって欲しいと、ただそれだけを願った。希望のない自分の事などどうでも良かった。
愛しているから。この世の誰よりも愛しているから。
価値のない命である自分の代わりに、計略のために作られただけの生き物の代わりに。せめて幸せになって欲しかった。
翔ならばきっと自分よりも良い相手を見つけられる。だから、幸せになって欲しいと願った。
「まだ、だ!」
「ショウ……」
「僕はまだ……諦めない!」
アズールが立ち上がり、ブルースカイ・アドベンチャーのプレートを体内から手元に呼び出す。
そして、それを剣に装填した。
終わりの時が来たのだとアシュリィは思った。
《フィニッシュコード!》
「これで、こんな下らない茶番を終わらせる!」
「……そうね」
《
アズールが必殺技を発動し、走り出す。
斬るために近づいて来たその時に、翔の腕から奪おう。アシュリィは、そう考えて自身も疾駆した。
そして。
「え……?」
アシュリィが奪うよりも前に、アズールはその剣で自分自身の胸を貫いた。
鮮血が頬を濡らし、変身が解除された翔が仰向けに倒れる。
「は……あっ、ああああぁぁぁ……あ……あ……」
目を剥いて、アシュリィはふらついた足取りで翔の元に歩み寄る。
アズールセイバーが胸に突き刺さったままであるため、血はあまり流れていない。
しかし、その両眼からは生気が失われつつあった。
「なん、で……」
確かにこの方法ならば、アシュリィが直接手を下していないため、毒は作動しない。どちらかの死という条件も満たしてはいるため、安全に取り出せる。
だがこれでは活性剤にもならず、翔は命を落とすだけだ。
「どうしてよショウ! 私っ! 私はっ、あなたに幸せに生きていて欲しかったのに! 死んで欲しくなんかなかったのに! あなたが好きで、好きで、愛してるから私が死ぬつもりだったのに!!」
「君、に……死んで欲しく、なかった……僕も、アシュリィちゃんに……幸せになって、ほし……かった……」
「それでショウが死んだら意味ないよ!! なんで!? どうして!? どうし――」
翔の左手がゆっくりとアシュリィの頬に伸び、その掌から青い光が放出される。
すると、アシュリィの紫色の右眼が左眼と同じ青色に戻り、瞳孔からサソリの姿が消える。
これが毒素で、翔が自分からそれを取り除いて体内に吸収したのだと、アシュリィはすぐに理解した。
「これで君はもう、平気だね。もう、毒に……ハーロットに、縛られる事もない……」
「ショウ、まさか私を助けるために!?」
口から血を流しながらも、翔は微笑む。
「僕も……君を、愛してるから。殺せるワケ、ないよ」
翔の左手に、アシュリィの頬に、雫が伝う。
自然と涙が溢れていた。気付けば彼女は、翔の手を握って、啜り泣いてしまっていた。
「ごめん……ショウ、ごめんね……!!」
「……何も君のせいじゃ……ないよ。それ、に。君は……もう、自分の壁を破るべきだと……思う」
そう言いながら翔が目を細め、右掌を掲げる。
瞬間、アシュリィの前にレイピアとマテリアプレートが生み出された。
「これ、何?」
「僕が作った、武器だ……君が戦うんだ」
翔の言葉を聞いて、アシュリィは目を剥く。
「私が……!?」
「久峰やハーロットのためなんかじゃなくて、君自身の心で、君自身が……戦うんだ」
「でも」
「できるよ、君なら」
アシュリィは戸惑うばかりだが、確信に満ちた翔の目を見ると、涙を拭ってそれを受け取る。
そして翔の手を名残惜しそうに離しながら、ゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫。僕、も……すぐに……」
翔はそう言って、目を閉ざす。
振り返らずにアシュリィが階下を目指して廊下を歩くと、扉が開いて二人の人物が姿を見せる。
ツキミとフィオレだ。複雑そうな、沈痛な面持ちで俯いている。
「アシュリィ……」
「行こう、お姉ちゃん」
「え?」
妹の顔を、二人が見上げる。
アシュリィの両眼は、今までとは違う決意に満ち溢れていた。
「私がハーロットを倒す!!」