「ぐあああああーっ!」
「ひゃあああっ!」
キアノスとザギークの大きな悲鳴と共に、議場が爆風を伴って消し飛ぶ。
三人の仮面ライダーは一階へと転落し、傷を負いながらも頭上を見上げた。
彼らが戦っている相手、久峰 遼が変異したグリーフディクタトルは、追い詰められた末にカオスモードを発動したのだ。
「ハハハハハッ! 神に敵うはずなどないのだ!」
そんな言葉が、天から降ってくる。
カオスグリーフ。神を名乗るその姿は、まさしく『
上半身は、見た目こそ先程までとほとんど同じイカとマーコールの融合体だ。しかし背中に鷲の翼と筋肉が増幅して獅子のような体毛が生え、四肢には鋭い魚類のヒレ、カマキリの鎌のような前肢も横腹のあたりから伸びている。
また下半身はイカそのもののようであるが、先端には蛇の頭がついており、触手の数も百はおろか千を超えている。
様々な生物の要素を持つという特徴はアクイラと合致しており、ネイヴィは見上げながら歯を軋ませた。
「これが、その化け物の姿がアクイラの完成形って事か」
「そうとも! これこそが数多の生命の頂点! 私こそが神、電脳神アクイラ……いや! それさえも超越した、絶対にして真なる神グリーフディクタトルだ!」
右腕を上空に掲げるカオスグリーフ。すると、三人の周囲にもうもうと黒い靄が生み出され、直後に爆発が巻き起こった。
防ぐ事さえ許されない一撃に全員が吹き飛ばされ、さらに頭上から追跡するように放たれた靄から雷が降り注ぐ。
「ぐ、あああっ!!」
「このまま負けて……たまるか!」
フェイクガンナーを構え、キアノスは抵抗を諦めずに反撃を試みる。
だが、カオスグリーフはそれさえ許さなかった。
巨大な怪物の眼が輝いたかと思うと、地面から鋼鉄の剣が生み出され、キアノスに向かって襲いかかって来たのだ。
グリーフディクタトルではなく、アクイラとしての能力。地形のデータそのものを変換し、操っている。
「なっ!?」
「痴れ者めェ! 抵抗など無意味だ!」
剣がフェイクガンナーを貫き、銃身を圧し折るように破壊する。キアノスは手元のその残骸を見つめ、強く握り締めた。
「くそっ……!!」
「ハァーハハハハハッ! 神に平伏せよ!」
続いて幾度も降り注ぐ爆炎や吹雪、嵐に雷撃。カオスグリーフの激しい攻勢に、仮面ライダーたちは為す術もなかった。
それでも、三人は隙を見つけるために耐え、攻撃に抗い続ける。自身を神と名乗る異形を討つために。
だが、カオスグリーフはその僅かな反骨心さえ折りに行った。
「諦めぬのなら、こういうのはどうだ?」
掌から放たれる赤黒い光の渦。素速く放たれたそれを回避できず、三人とも受けてしまった。
直後、全員の変身が解かれてしまう。
力の正体は、以前から翔も何度か使っていた『データ・アブソープション』だったのだ。
「そ、そんな……!」
「フハハハハハハハハ! 卑小なる人間よ! 泣いて許しを請うが良いわ!」
これでもう抵抗する手段はない。そう確信したグリーフは元の人型に戻り、杖を肩で担ぐ。
すると、ほとんどただの残骸と化した議事堂の一階から、女の声が聞こえた。
「そちらも楽しそうですわね、遼様」
そこにいたのは、サソリとウサギが合わさったような姿をした怪人、ルードウィッチ。
さらに廃人同然となった都竹が変異しているジェラスネオと、彼らの足元で倒れ伏している鷹弘・翠月だった。
「ハーロット!?」
「静間さん、英警視までやられたのか……!」
ギリッ、と歯を食いしばって地面に拳を叩きつける響。
全てのライダーが倒されてしまった。即ちそれは、ホメオスタシスの敗北を意味する。
ルードとジェラスがグリーフの傍に控え、雄山羊とイカの悪魔が杖を掲げる。最後のトドメを刺すべく、攻撃するつもりなのだ。
「今度こそ貴様らは滅ぶ。我らの隆盛を、久峰帝國の進行を誰も止める事などできはしない」
杖の先端にある髑髏から靄が噴出し、その靄からは巨大な炎の玉が生み出される。
もはやどうする事もできない。それでも抗うべく、響と肇は少しでも被害を少なくしようと、自分たちが前に出て盾になろうとした。
そんな抵抗を嘲笑うように、グリーフはさらに炎を強く大きくし、杖を振り下ろす。
「では死ねぇ、仮面ライダァァァーッ!!」
無慈悲に、ゆっくりと落ちて来る炎の球体。
それが五人に迫って行き、その身を焼こうとする――その時。
無数の水の玉が炎を徐々に掻き消し、さらに地面から伸び出た竹が、散らばった小さな炎からホメオスタシスの面々を守る。
「なにっ!?」
竹が消えると、そこには彼らを守るように立つ三人の少女の姿があった。
アシュリィ、ツキミ、フィオレ。ハーロットの手で生み出された三姉妹だ。
「これ以上……あなたたちの好きにはさせない」
レイピアの切っ先をCytuberたちに向け、アシュリィは言い放った。
最初は驚いていたルードとグリーフであったが、徐々にその声が怒りに染まっていく。
「フィオレにツキミに……アシュリィ。お前たち、これはどういうつもり?」
「神の血を継いだだけの、何の役にも立たん飼い犬風情めが。揃ってノコノコと何をしに来た」
凄むように問われても、姉妹はもう動じない。
逆に睨みつけ、敵意を剥き出しにして叫ぶ。
「あなたたちを倒す。三人で、そう決めた」
「もう言いなりになんかなりません!」
「あたしたちは都合の良い道具なんかじゃない!」
すると、グリーフの傍から離れて前に出たルードウィッチが、額に青筋を立てて怒声を浴びせた。
「何だお前ら……母親に向かって、その口の聞き方はっ!!」
『母親なもんかっ!!』
声を揃えて言い返す姉妹。
明確な反抗の意志が籠もった眼差しに、思わずルードはたじろぐ。
しかし、思い出したようにハッと目を見開くと、アシュリィに向かって指を指して嘲笑う。
「反抗的な態度を取って良いのかしらアシュリィ!? 私が作動させれば、今すぐにお前の身体の毒を作動できるのよ!!」
「毒はもうない」
「は?」
「ショウが……ショウが、命懸けで私を守ってくれた。だからもう、そんな脅しなんて通用しない!」
「……はぁぁぁぁぁ!?」
信じられないものを見るような目つきで虚空を見上げ、頭を抱えながら全身をぶるぶると震わせた。
しかしその動揺は、喪失感によって来るものではあっても哀しみからでは断じてなく、涙の一つも流さず自分の心配をしている。
「死んだ? 翔くんが? わ、私が手塩にかけて、手間暇かけて計画を練り続けたのに、アクイラに至る可能性を秘めた翔くんが……は? 死んだ?」
「そうだよ。私をかばって……死んでしまった……! ショウはあなたの陰謀に打ち勝ったんだ!」
「ふっ、ふざけるなよお前! お前のせいで何もかも滅茶苦茶だ、台無しだ! 一体どうしてくれる!? アレは私のものなのに!!」
「ショウはあなたなんかのものじゃない!」
ルードウィッチの怒りを一蹴し、アシュリィは手に握ったマテリアプレートを起動した。
《オトギガールズ・レヴュー!》
「ショウが残したこの力で、私が……ううん。『私たち』があなたの下らない遊びを止める!」
続いて、アシュリィはレイピアを逆手に持ち、起動したプレートをそのマテリアクターへと装填する。
レイピアの
《ヒア・マイ・ソング! ヒア・マイ・ソング!》
女性のものの電子音声を聞きながら、アシュリィは人差し指をカバーに押し当て、星座をなぞるように点と点を線で繋いで行く。
そうして五芒星が完成した瞬間、彼女はグリップについた引き金を小指で引き、叫ぶ。
「変身!」
《
直後にレイピアから眩い閃光が迸ったかと思うと、アシュリィだけでなくフィオレとツキミの身体も光で包み込まれ、その姿が変化していく。
《オトギガールズ・アプリ!
光が消え、その場に姿を現したのは、薄く透き通った妖精の羽を背に生やした女剣士だった。
色もそれぞれ違う。アシュリィはアザレアカラー、ツキミはパステルグリーン、フィオレは純白といった具合だ。
「私はピクシー……仮面ライダーピクシー!」
ヒュンッ、と空を切る音を立てて、その武器――ピクシーレイピアを掲げる。
すると両隣に立つ二人の
「私たちが!」
「久峰とあなたの野望を!」
「その歪んだ欲望を!」
『断ち斬るっ!!』
宣戦布告。
それを受けたルードウィッチは、怒りを通り越して冷めた表情になっていた。
まるで壊れた玩具を見るような眼差し。ルードは振り返らず、グリーフに問いかける。
「もういらないわ、お前たちなんて。よろしいですか遼様」
「フン! 男を知らん小娘如きが、不遜にも神に牙を剥くか……」
問われると、三人の娘を舐め回すように見つめた後に下品に笑い声を上げ、グリーフは触手を戦慄かせた。
「ならば! 誰が貴様らの主だったのか、その身体にたっぷりと教え込んでしゃぶり尽くしてから! 快楽の中で殺してやろう!」
叫びながら、グリーフが杖を振りかざす。
それと同時にジェラスネオが獣のように飛び出し、ピクシーズに襲いかかった。
「散開!」
ピクシーからの叫びと同時に、セインL・Rはそれぞれ別方向に走る。
そしてピクシーはトリガーを長く引きながら、再び逆手に持ったレイピアのナックルガードでジェラスの拳を受ける。
するとどういうわけか拳は威力を失い、代わりにマイクから軽快なリズムの音が流れた。
「ヤッ!」
ジェラスが戸惑っている間に、ピクシーはトリガーから指を離す。
直後、マイクから音符の記号を模した無数のエネルギー体が出現し、それがジェラスネオの身体に当たって弾ける。
それを受けた瞬間、ジェラスの身体は思い切り吹き飛ばされ、攻撃しようとしていたグリーフとぶつかった。
「ギェアアアアアッ!?」
「ぐわっ!?」
ピクシーレイピアの機能と彼女の様子を見て、鷹弘たちは大いに驚いていた。
「す、すげェ……」
「衝撃を音のデータに変換し、解き放って再び衝撃に戻したのか」
グリーフが倒れ込み、驚いたルードは思わずそちらに気を取られる。
そこへ、セインLとセインRが左右から全力で斬りかかった。
「なっ!?」
「他所見はいけませんよ」
「ここからは余裕なんかないんだから!」
歯噛みし、攻撃を受け続けるルード。畳み掛けるような同時攻撃の速さのせいで、領域を再展開する事ができなくなってしまっている。
一刻も早い増援を期待したいところであるのだが、肝心のグリーフは立ち上がって援護するでもなく、ジェラスの尻を蹴り上げた。
「木偶が! この私の邪魔をするな、さっさと攻撃しろ!」
「ギッ……ヒ、ヒッ、
ほとんど知性を失っているとは言え――否、失っているからこそ、理不尽な出来事にジェラスネオは歯止めが効かず怒り狂う。
有り余る身体能力を発揮してグリーフに飛びかかり、思い切り殴りつけた。
「あがっ……!?」
凄まじいパワーに吹き飛ばされたグリーフは、思わず杖を放り落とす。
そしてジェラスはその杖を噛み砕き、馬乗りになって何度も何度も拳を振り下ろした。
「よ、よせ! 相手が、相手が違う……ぐあああああああああっ!?」
「ガァルルルアアアアアアアッ!!」
まさに飼い犬に手を噛まれるかのように。
グリーフディクタトルは、狂犬めいたジェラスにされるがまま殴られ続けるのであった。
「ま、まずい……遼様を助けないと……」
そう言ったルードだが、当然ピクシーズがそれを許すはずもない。
アシュリィが変身したピクシーは、倒れているホメオスタシスのメンバーの元に駆け寄ると、右手を掲げて光を放つ。
すると、五人の傷がどんどん塞がっていき、体力疲労も徐々に回復していった。
「すごい! アシュリィちゃん、君はこんな事もできたのか!」
「みんなはまだ休んでおいて、全快じゃないだろうから。ハーロットは……私が倒す」
それだけ言うと、ピクシーは羽を拡げて戦場へ飛翔し、ルードに向かって素速く斬りかかる。
三人がかりの斬撃。その手数は防ぎ切れず、ルードウィッチは大きくよろめいた。
「あ、ぐっ」
「よし!」
さらに、セインRのフィオレが脚に斬りかかって体勢を崩させる。
それを見計らい、セインLであるツキミが合図を出した。
「今です! アシュリィ!」
「うん!」
《フィニッシュコード・ソロ!》
アシュリィがレイピアのマテリアプレートを押し込むと、そんな音声が流れる。
必殺技だ。アシュリィはそのままトリガーを入力し、光を纏って突きを繰り出した。
《
「ヤァァァーッ!」
強烈な突撃がルードウィッチの腹に命中し、吹き飛ばして地を舐めさせる。
這いながらもトランサイバーを入力して領域を呼び出そうとするとするルードだが、背後から光が閃いて右手を撫でたかと思うと、人差し指と中指と薬指が綺麗に斬り落とされた。
「アギャアアアッ!?」
「大人しくしてなよ!」
そう言ったのは、吹き飛ぶ方向を予測して既に背後に回り込んでいたセインRだ。
立ち上がろうとするルードの頭を、彼女は容赦なく踏みつけて押さえつける。
「ぶっ!?」
「アシュリィ、もっかい!」
首肯したピクシーが、もう一度マテリアプレートを押し込む。
それだけではなく、今度はナックルガードを一度叩いた。
《フィニッシュコード・デュオ!》
「お姉ちゃん、行くよ」
「うふふ! 覚悟して下さいましね?」
ピクシーとセインLが向かって来るのを見て、セインRがルードの尻を蹴って立ち上がらせる。
そして、二人の必殺技が発動した。
《
二人が持つレイピアの刀身が光を帯び、十字を描くように異形の魔女を斬る。
ルードは悲鳴を上げて倒れかけるが、三人は決して攻め手を休めなかった。
「これで決めるよ」
《フィニッシュコード・トリオ!》
プレートを押し込んだアシュリィがナックルガードを平手で二回叩き、それと同時に三人共ベルト右側のホルダーにレイピアを納刀する。
「こ、こんな事をして……許されるとでも思っているの!?」
「あなたに許しを請う理由なんかない」
「ぐくっ!! 許さない、許さないわ!! アシュリィィィィィィーッ!!」
「それはこっちのセリフだよ、あなただけは……絶対許さないっ!!」
三人は羽を拡げて同時に空を舞い、右脚を突き出す。
ルードは回避を試みようと身体を動かすものの、突然聞こえて来た音楽と周囲から現れた五線譜のようなエネルギー体が全身を縛り付ける。
「あ、あぁっ!?」
身動きの取れなくなったルードは、迫り来るピクシーズを、ただ見上げる事しかできなかった。
《
『ヤァァァーッ!!』
共鳴し光を纏う三姉妹の連続キックが直撃すると、五線譜に無数の音符が何度も刻み込まれる。
たった今行った必殺技の衝撃を音声データに変換・記録し、
ルードの背筋に悪寒が走る。
もしもこれが、再び衝撃に変換されればどうなるか。
「終わりだよ」
タンッ、とピクシーたちが地に降り立つと同時に、全ての音符が五線譜ごと弾け飛ぶ。
「キ、ギ、アアアアアアアアアアッ!?」
直後に全身を殴打するような痛みと衝撃が襲い、まるでトラックに撥ねられたかのように吹き飛ばされ、地面を転がった。
「ア、アガッ!? い、痛い……体中が……し、死ぬ……こんなはずは」
地面の上で仰向けに倒れて悶え苦しみながら、変異が解除されたハーロットは息を切らして立ち上がろうとするも、その場に倒れ込む。
確保するなら今がチャンスだ。そう思ってピクシーたちは駆け出すが、その進路にグリーフディクタトルが立ちはだかった。
グリーフがパチンと指を弾くと、議事堂の瓦礫のデータが分解されて光となり、ハーロットの負傷を復元していく。アクイラの持つ、リカバリーの能力だ。
そしてジェラスネオは黒い光の十字架に四肢を拘束されており、戦える状態ではなくなっていた。
「遼様……」
「失態の罰は後だ、そこで身体を癒やしておけ。ここは私が引き受けよう」
余裕綽々と語るグリーフを睨みつけ、剣を構えるピクシーたち。
直後、素速くトランサイバーにコードが入力され、両掌から黒い靄が溢れ出す。
《
「焼けるが良い!」
頭上に靄が張り巡らせられると同時に、グリーフの背中の触手が動いてピクシーたちを捕らえようとする。
しかし彼女らはすぐさま三方向に散らばり、触手をレイピアで斬りながら、頭上から降り注ぐ炎の塊を回避し続ける。
さらにピクシーセインRが、すれ違いざまにグリーフの額を目掛けて剣先を突き出した。
「えぇい!」
「むぅ!?」
その一刺しは眉を掠め、血を流させる。そして流れ滴る血が左眼に入り、グリーフは思わず目を覆う。
「そこっ!」
出来上がった死角から、今度はセインLが斬撃を加える。
だが、その足元には黒い靄が生み出されていた。
《
「捕まえたぞ小娘ェ!!」
稲光が迸る、その寸前。
セインLは背中の羽を素速くはためかせ、靄を散らして雷撃をグリーフへと送りこんだ。
「なっ!? ぐああああっ!?」
「おイタが過ぎますわよ!」
言いながら、セインLは独裁者の背を蹴り飛ばす。
そしてあわや倒れそうになり、踏み留まったものの、その先には必殺を発動させようとしているピクシーがいた。
《フィニッシュコード・トリオ!》
「これで!」
《
『終わりだっ!!』
三人の声が重なり、三方向から取り囲んだピクシーのレイピアが閃く。
――だが。
「甘いわバカ共がァ!! 『ファイナルコード』!!」
《
『きゃあああああっ!?』
ピクシーズの目の前に黒い靄が現れ、そこから炎の龍が牙を剥く。グリーフディクタトルの必殺技だ。
それに飲み込まれ、三人とも変身が解除されてしまった。
グリーフは彼女らを鼻で笑い、見下ろす。
「所詮貴様らは神の礎となる以外の役に立たん飼い犬なのだ、意志など必要ない! 次に貴様らのような人形を作る時は、記憶だけでなく感情を奪っておいてやる!」
言いながら、グリーフはふと顔を上げる。
作る、というフレーズでやるべき事を思い出したかのように。
「あぁ、そうだ……お前たちにもまだ他の使い道があったな」
わきわき、と触手が蠢動を始める。それを見て、アシュリィたちの顔色が青褪めていく。
「悦べ、私の子を孕ませてやろう。良い声で鳴けるのなら生かしてやっても良いぞ」
「ふざけんなテメェ!!」
鷹弘や翠月たちの怒りの声が響き、銃撃が飛ぶ。
しかしグリーフはそれを意に介する事なく、立ち上がってよろめきながら逃げ始めるアシュリィたちに触手を向ける。
「いや……いやぁ!」
「フハハハハハハハハ! さぁ、我が愛を受けよ!」
「たす、けて……」
足を挫き、転んでしまうアシュリィ。それを見て、ツキミとフィオレも立ち止まってしまった。
粘液に濡れた触手とグリーフは、嬲るようにゆっくりと三人に向かって迫って来る。
アシュリィは叫ぶ。自分が愛した者の名を。
「助けて、ショウ!!」
触手がすぐそこにまで近付き、三人が自分を守るように腕で目を覆う。
しかし、触手が彼女らに触れる事はなかった。
「……?」
ゆっくりと、アシュリィは瞼を開く。
そして、信じられないものを目の当たりにした。
「え……?」
彼女を守ったのは、アズールセイバー。仮面ライダーアズールが使っていた武器だ。それが十本も飛んでいる。
その剣はひとりでに動き、触手を切断するだけでなく、グリーフを斬りつける。
必殺技でもなんでもないその斬撃は、異形の悪魔の両角を微塵に砕いた。
「ぐあああっ!? な、なんだ!? 何が起きている!?」
役目を終えたのか、アズールセイバーは塵のように消え去った。
そしてザクッ、と地を踏む音がグリーフの背後から木霊する。
アシュリィがその場所に目を凝らすと、そこには一つの影が立っていた。
胸の中心に大きな傷を持つ、背の高い少年。
「ば、バカな……なぜ、生きている?」
狼狽しながらグリーフが呟く。
その少年の姿には、今までと違うものがあった。
髪は青く染まっており、右眼は猛禽のような縦に割れた瞳孔となっていた。さらに、白眼の部分が真っ黒になっている。
――それは
「ショウ……!!」
これは夢だろうか、とアシュリィは思う。天坂 翔は。目の前で死んでしまったはずなのだ。
翔へとグリーフの触手が襲いかかろうとするものの、それは届かない。
彼の傍を飛ぶ小さな宇宙戦闘機のような機械が、レーザー光線を放って焼き払ったのだ。
「ありがとう……頑張ったね、アシュリィちゃん」
翔はグリーフを素通りして彼女の前に立つと、そう言って頭を優しく撫でた。
その感触が、アシュリィにこれが夢ではないという事実を伝える。
そして背後にいるCytuberたちを振り返り、翔は睨みながら言い放つ。
「今度こそ断ち斬ってやる、お前たちの大罪を……!!」