帝久乃市のイタリアン食堂、フィアンマに現れた謎のチェック模様のデジブレインたち。
それらにホメオスタシスが苦戦する様を、ストライプは雑居ビルの屋上でゆったりふんぞり返りながらと、勝ちを確信したように笑顔で眺めていた。
「羨ましいねぇ……」
その声が聞こえた途端、ストライプの顔から笑みが消える。そして、声の聞こえた背後を忌々しげに振り返った。
すると、屋上の扉の前で突っ立っている男の姿が目に入った。
「調子良さそうじゃねえか、ストライプ」
「ヴァンガード、何の用? 手柄を横取りしに来たの?」
「なぁに、ただのヒマ潰しだよ」
姿を現したのは、奇怪な宗教の教祖のような風貌の男だった。赤茶色の髪は腰にかかる程まで伸びており、顎髭を蓄えている。首からは聖職者が身につけるような黒色のストラを、手には蛇を模した金色の司教杖を持っている。
しかし何より特徴的なのは、その服装だった。男の体を覆う純白のカソックには、様々な漢字やアルファベットが全身を覆うように羅列されているのだ。
そしてストライプと同様左腕にはスマートウォッチがあり、その顔や姿は現実離れした、CGが現実に飛び出して来たかのような印象を与える。
ヴァンガードと呼ばれた男はやや垂れ気味な目をストライプに向けつつ、頬を歪ませて笑った。
「ふぅん。まぁいいけど、手出しは無用だよ」
「そんな野暮なマネはしねぇよ。今はお前の
邪魔をしない事の意思表示なのか、ヴァンガードは両手を上げて手すりにもたれかかる。
するとストライプも、関心を失った様子で再び地上へ視線を落としつつ、盤上の駒を動かす。
「それにしても」
ストライプは、じっと目を細めて考え込む。
なぜ、先程からリボルブは付かず離れず、チマチマとその場に押し止めるような攻撃をするだけなのか?
ストライプの配下であるチェスポーン・デジブレインやチェスナイト・デジブレインはほとんどダメージを受けていない。リボルブの火力を考えれば、もっと味方に被害が出ても良いはず。
ここまで消極的な攻め方をするのは不自然だ。これではまるで――。
「時間稼ぎ?」
だが、ストライプはすぐに頭に浮かんだその考えを「バカな」と一蹴する。
戦力差は圧倒的だ。なのに、時間を稼いで何の意味がある? アズールが戻るのを期待しているのか?
「……いや、案外あり得るかも」
アズールがニュート・デジブレインを倒して戻れば、戦況を引っ繰り返せるかも知れない。それがリボルブの考えだとすれば、納得が行く。
しかもアズールとニュートは一対一、こちらとは状況が違う。アズールの強さも未知数、何かの間違いがあれば逆転もあり得ないわけではない。
ならば。
「保険をかけておくか……」
優れた軍略家は、敵のいかなる策をも読み尽くして先手を打つもの。それがストライプの持論だ。
ストライプはヴァンガードへと振り返り、彼に「ひとつ仕事をあげるよ」と声をかける。
「サイバー・ラインにいるアズールに、何体かデジブレインをけしかけて来てよ」
「なんだ、手出し無用じゃなかったのか?」
「ボクがキミを駒として利用するのは別に余計な手出しじゃないだろ。だって、指示を出したのは天才のボクなんだから。結局ボクの手柄って事さ」
「いい性格してるぜ」
言葉とは裏腹に、皮肉めいた笑みを見せているヴァンガードは乗り気だ。
ヴァンガードはストライプからの仕事を承諾すると、スマートウォッチのENTERアイコンを押して「ゲート」と音声入力、その場から姿を消した。
これでアズールの方は問題ない。後はリボルブをこの戦力で押し潰せば、勝利は確実なものとなる。
「今日がお前たちの最期だ、ホメオスタシス……!」
「オラァッ!」
ストライプが見下ろす中、地上で戦うリボルブは二種のデジブレインたちに苦戦を強いられていた。
何しろ、現状攻撃が少しも効いていないのだ。歩兵は盾でデータの銃弾を防ぎ、騎兵はそもそも装甲が厚い。
必殺技で無理矢理攻めるのもできないではないが、敵戦力を削れていない今は分が悪い。それに、ほんの少しでも打つ手を誤れば、湧き出したベーシック・デジブレインが街に流れ込む可能性がある。
既に電特課の警官たちが駆けつけ、人命救助と安全確保を済ませているとはいえ、状況は全く以て良くない。
今はとにかく時を稼ぎ、待つしかないのだ。
「くっ!」
歩兵の一太刀が、リボルブのマテリアガンを弾き落とす。
時間を稼ぐのが目的とはいえ、このままではジリ貧だ。ある程度反撃をする必要があるだろう。
リボルブはドライバーからプレートを抜き、それをリボルブラスターに装填した。
《フィニッシュコード!》
音声が流れ、さらにリボルブはマテリアフォンをかざして銃口を歩兵に向ける。必殺の態勢だ。
《
「くたばりやがれ!」
銃口に炎が集まり、射出される。
炎の弾丸は見事に歩兵の盾を撃ち抜き、身を護った歩兵ごと粉砕した。
だが、それでもまだ数は多い。リボルブは思わず舌打ちしつつも、次の策に移った。
「ちょいと攻め方を変えさせてもらうぜ」
《チェンジ! ライフル・アタッチメント!》
そう言ってリボルブがリボルブラスターを両手で持つと、アプリドライバーに再挿入済みのデュエル・フロンティアのマテリアプレートが輝きを放つ。
直後、リボルブラスターの銃身にライフルのような追加パーツが付与され、さらに銃床も装着された。
これがリボルブの持つ武装、リボルブラスターの特徴。プレートに搭載されたデータを元にアタッチメントを装備し、多種多様な戦法を駆使する事ができるのだ。
今回のデュエル・フロンティアで使用可能なのはライフルモード。銃身が長くなった事で二挺拳銃は利用できないものの、その分一発の威力と射程距離は段違いに伸びる。
「喰らいやがれ!」
そう言ってリボルブがトリガーを引くと、データの弾丸は一撃で歩兵の盾を貫き、後方の歩兵も纏めて胴に風穴を開ける。
それでも尚、歩兵の進行は止まらない。斬撃を浴びせてくる敵たちに蹴りを入れながら、リボルブは後方に下がった。
無尽蔵に現れるベーシック・デジブレインに対しては部下のエージェントたちが対処し、自分は強敵の歩兵・騎兵を足止め。これが今できる最善手だ。
「後は待つだけだ」
リボルブがそう呟いた、その直後。
上空から、突然に大きな四つの影が地上へ降り立った。
「なっ!?」
想定外の事態に思わず目を見張る。そこに現れたのは、新たなデジブレインなのだ。
四体のデジブレインは、同じ種類のものがそれぞれ二体ずつ。白黒のチェック柄が共通している。
まるで砦のように重厚な鎧で身を固めている、両脚部が車輪となっている古代の戦車のようなデジブレインが二体。僧帽のようなものを被り、錫杖を持つデジブレインが二体という構成だ。
ここに来て、狙い澄ましたかのようなタイミングでの増援。数が然程多くないとは言え、間違いなくこれまでの歩兵や騎兵と同じく強敵だろう。
「クソが……!」
再度、リボルブが引き金を引く。狙いは歩兵、とにかく数を減らす。
しかしその銃弾は命中する直前に、突如出現した光のバリアによって阻まれた。
「何!?」
見れば、新たに出現した僧兵の一体が、錫杖を操りバリアを展開しているようだった。残る一体も同じく錫杖の先端から光を放出し、こちらは歩兵たちを強化している。
リボルブが驚くのも束の間、今度は戦車のデジブレインが真っ直ぐに突撃してくる。
巨大な図体から繰り出される、大鎚のような腕の猛撃。スピードは騎兵程ではなく、リボルブは繰り出された拳を、戦車二体の隙間を縫うように飛び込む事で避けた。
だがそれも読まれている。戦車たちの背後に、騎兵が待ち構えていた。
立ち上がったリボルブの胸に、突撃槍の一撃が火花を散らせる。
「がっ!?」
大きく仰け反るリボルブ。そこへ歩兵が追い打ちしてさらに後方へと押し返し、さらに背後からは戦車が拳を突き出してリボルブを吹き飛ばす。
このままでは、時間稼ぎの前にリボルブ自身の体が保たない。段々とリボルブは、鷹弘は意識が遠のいて行くのを感じていた。
だが、その時。
マテリアフォンに、陽子からの通信が届いた。
『鷹弘! 完成したわ、今すぐ送る!』
瞬間、リボルブは遠くなって行く意識の欠片を集め直し、大きく地面に踏み込んで立ち直った。
「待ちくたびれたぜ! さっさと来い!」
『オッケー! 翔くんも苦戦してるみたいだから、もう一つはそっちにも送るわ!』
「良いから始めろ!」
リボルブが叫ぶと、彼の左腰に付いているアプリウィジェットに、一枚のマテリアプレートが追加される。
仮面の中で小さく笑い声を上げ、リボルブは静かにそのマテリアプレートを抜き取った。
「待たせたなァ、クソッタレ共……さァ、反撃開始と行こうじゃねェか!!」
《ジェイル・プラネット!》
※ ※ ※ ※ ※
「そぉりゃあっ!!」
「ヒーハハハッ!!」
一方サイバー・ラインの古城前では、仮面ライダーアズールとニュート・デジブレインが一進一退の攻防を繰り広げていた。
ニュートが舌先から火炎弾を吐き出してくれば、アズールはそれを剣で断ち斬る。アズールが飛翔して上空から斬りかかれば、ニュートは全身から炎を噴き出して視界を妨げ怯ませる。
どちらも中々攻撃をクリーンヒットさせる事ができずにいたが、現状として不利なのはアズールだ。
何せ、基本的にリーチ差が厳しい。ニュート・デジブレインは舌から炎を吐き出したり、掌から火炎放射で攻撃ができるが、対するアズールは突風や剣から起こす風の刃くらいしか遠距離攻撃の手段がないのだ。
接近戦においても、常に全身に炎を纏うニュート相手では、攻撃を繰り出すアズールの方が分が悪い。何せ、近付いただけでも燃え移るのだ。
「なんてやりづらい……!」
大きく踏み込み、アズールセイバーを振り下ろす。だが、その攻撃をニュートは避けずに肩で受け止めて剣を掴む。
「しまっ……」
ニュートはそのままアズールの胴に舌先を押し当てた。そして、舌が煌き火を放つ。
寸前にアズールは剣から手を離して回避を試みるものの、超至近距離から連続して放たれた火炎弾を避け切る事はできなかった。
「うわあああ!」
あまりに凄まじい攻撃に、アズールは吹き飛ぶ。今の攻撃で、一気に消耗させられてしまった。
しかも、アズールセイバーはニュートの手の内にある。ニュートはアズールへと迫り、炎を纏う剣を振り下ろした。
たちまちアズールは劣勢となる。炎の刃はアズールの装甲を焼きつつ、傷を負わせる。
「ヒハハハハ! 俺ノ力、シッカリ見タカ!? 俺ヲ見ロ……モット見ロォー!!」
『そんな!? しっかりして、翔くん!!』
「く、あ……」
地面に右膝をつき、息を切らすアズール。ニュートは剣を肩で担ぎながら、一歩一歩近付いていた。
まるで歯が立たない。打開策を必死で頭から絞り出そうとするも、接近戦に頼らざるを得ない以上打つ手がない。
一度距離を取って立て直すべきか。だが、まるでそんな考えを否定するかのように、アズールの背後から複数の足音が迫り、ニワトリに似た鳴き声が木霊する。
「コケーッ!!」
以前にも現れたシャモ型のデジブレインと、ベーシック・デジブレインだ。合計五体が集まり、アズールの退路を塞いでいる。
しかし、ベーシック・デジブレインたちはどこか様子がおかしい。黒い模様のようなものが、細かくびっしりと体中を覆っている。
否、侵蝕していると言うべきか。模様は徐々に顔にまで昇っている。
『アレは……文字?』
「え?」
『なんか、漢字で猪とか雀とか……英語もあるわね、とにかくそんな小さい文字が書いてあるのよ』
琴奈がそう言った直後。
全身が完全に黒く染まったデジブレインたちが、その姿を変容させる。
それは、アズールも戦った事のあるスタッグビートル・デジブレイン、カメレオン・デジブレイン、ボア・デジブレイン、スパロー・デジブレインだった。
「なっ!?」
ここに来て強敵の軍鶏に、データを取り込んだデジブレインが四体。武器も失った今、まさに絶体絶命だ。
「どうすれば……!!」
劣勢だが、このまま諦めるわけにはいかない。翔の中の戦意はこの状況でも決して衰えていないのだ。
心を奮い立たせ、護るべき者たちの事を頭に浮かべる。それがそのままアズールの力となり、立ち上がった。
その時だった。アズールのマテリアフォンに、陽子からの通信が届いた。
『翔くん、大丈夫!?』
「滝さん?」
『今、あなたのアプリウィジェットにマテリアプレートを転送するわ! それを使って新しい力にリンクして!』
言われると同時に、アズールのアプリドライバーの左腰にあるアプリウィジェットに、一枚のマテリアプレートが追加される。
その名は《ロボットジェネレーター》、鋼作が好んでプレイしているアプリのタイトルだ。
「よし!」
アズールは意気込み、アプリドライバーから《ブルースカイ・アドベンチャー》を引き抜いて、新たに入手したアプリを起動した。
《ロボットジェネレーター!》
「これ以上何も……奪わせない!」
《ユー・ガット・メイル! ユー・ガット・メイル!》
起動してアプリドライバーに装填した直後、強靭な四肢と胸にXのマークを持つ頑丈な装甲で身を固めた人型のロボットのテクネイバーが飛び出す。
その名はロボット・テクネイバー、アズールの周囲にいるデジブレインを殴り飛ばし、プレートの所有者にとって有利な状況を作り出した。
アズールはそのまま、マテリアフォンを引き抜いてドライバーにかざした。
《
瞬間、アズールの装甲となっていたウォリアー・テクネイバーが分離して消失。
今度はロボット・テクネイバーが装甲へと変形し、アズールのスーツをプロテクトする。
両腕に装着された巨大な
「行くぞ!!」
アズールは拳を振りかぶり、自身に向かって突進してきたスタッグビートル・デジブレインを全力で殴りつける。
たったその一撃で自慢の大アゴは圧し折れ、殴られたスタッグビートル自身も吹き飛ばされて壁面に激突し、呆気なく消滅する。
「すごい、パンチ力が強くなってる!」
アズールの凄まじい腕力を目にしたカメレオンは恐怖で立ちすくむが、スパローとボアは諦めない。ボアは持ち前のパワーで突進、スパローは素早さを活かしたヒット&アウェイの戦法で主部に出る。
だが、果敢にも挑んで来た二体の攻撃は全くの無意味だった。ボアの拳はロボットリンカーの装甲に少しも通じず、スパローの爪では当然傷が付くはずもない。
するとニュートは苛立った様子で舌打ちし、口と手の両方から火炎を放射した。
「ヒハハッ! 俺ヨリ目立ツヤツハ……マルコゲナッテ死ネェェェ!」
アズールの悲鳴など聞きたくないとばかりに、歓喜の叫びを上げながら炎を出し続けるニュート。
が、しかし。
炎の中から突然拳が飛び出したかと思うと、そのニュートの顔面に突き刺さるようにめり込んだ。
「アッ!?」
拳はそのまま、ニュート・デジブレインを古城の敷地外へと吹き飛ばした。
それは、分離したアズールの右腕甲だった。ロケットのように腕から射出され、ニュート・デジブレインを殴り飛ばしたのだ。
攻撃が終わって、腕甲は分解されてアズールの腕に再構築される。
そして、当のアズールは炎を浴びようとも無傷だった。
『これがロボットリンカーの力……ロケットナックルに耐熱・耐酸装甲!』
フォトビートルが解析したデータを見て、琴奈が驚いた様子で言った。
流石に装甲の厚さの分だけスピードとジャンプ力は大きく低下しているようだが、それでも今のアズールには心強い事に違いはない。
殴られたニュートが落としたアズールセイバーを拾い上げ、本格的に反撃に出る。
「チチュン!」
「邪魔だ!」
爪での攻撃を継続していたスパローを容易く斬り倒し。
「フルゥッ!」
「セァッ!!」
ショルダータックルで猛進してきたボアを殴り飛ばして粉砕し。
「ゲゲッ、ゲッ!」
「逃さない! ロケットォ! ナックゥゥゥル!」
透明化で逃げ出そうとしたカメレオンには、姿が消える前に腕甲を放って瞬殺した。
「これなら行ける……!」
「コケーッ!」
「おっと!」
今の今まで様子を窺っていた軍鶏が、アズールに向かって蹴りを浴びせる。
流石に強敵相手ではロボットリンカーの重装甲の上でも多少のダメージはあるが、今までに比べれば損傷は遥かに軽い。
アズールはそのまま拳を突き出し、ロケットナックルで反撃した。
「コ、コケケッ!?」
自分の腹に向かって飛んで来た腕甲を、軍鶏は腕で逸らして威力を流そうとするものの、ロケットナックルのパワーを完全に殺し切る事はできなかった。
しかしこれで簡単に引き下がるようなデジブレインではない。軍鶏は今の一撃に闘志を燃やし、アズールに向かって飛び膝蹴りを食らわせる。
「うおっ!?」
「コケコケコケコケッ!」
さらに、左足を軸にして猛烈な前蹴りの連続。スピードとパワーが両立した切れ味の鋭いキックは健在で、装甲の上でもまだ脅威的な威力だ。
アズールは腕の装甲で防御し攻撃を受け流し続けているが、それもこの連続攻撃の前ではいつまで保つか分からない。
そこで、近くを飛ぶフォトビートルへと声をかけた。
「く……琴奈さん、解析を! ヤツの弱点が分かるかも!」
『もうやってるわ! だけど……!』
随分と歯切れが悪い。アズールは、途端に体に悪寒が走るのを感じた。
『何度やってもエラーになるの! データがほとんど一致しないのよ!』
「なんだって!?」
デジブレインの正体が突き止められない。見た目から軍鶏、あるいはニワトリだという事は既に分かっているというのに、これは想定外の事態だった。
戸惑っている間にも、軍鶏は跳躍して頭上から攻撃を仕掛けてきた。
「コケェェェッ!」
「仕方ない、だったら」
アズールは腕を交差させ、軍鶏の渾身の踵落としを受け止めた。
「ココッ!?」
「弱点が分からなくても無理矢理叩き潰す! ウォォォォォッ!!」
『まさかのゴリ押し!?』
アズールは雄叫びを上げ、前進しながら拳を連続して振り抜く。
攻撃のスピード自体は大した事はないが、威力が重い。マトモに受ければタダでは済まない、それを理解しているらしく軍鶏も攻撃を流すか避けるのに専念している。
だが、やはりというべきか受け流したとしてもそれなりにダメージがあり、軍鶏は次第によろめき始めた。
「いつまでも避けられると……思うな!」
《フィニッシュコード!
その隙を狙って、アズールセイバーにブルースカイ・アドベンチャーのマテリアプレートを装填。必殺の態勢に入った。
豪腕によって振り被った剣から縦一文字に放たれる光と風の刃が、シャモ型デジブレインを襲撃する。
軍鶏はその攻撃を防御するものの、流石に必殺技から完全に身を守る事はできず、古城の中にまで吹き飛ばされてしまった。
「よし、今度こそトドメを――」
そう言いながらアズールが古城へと向かおうと足を進めた、その時。
「ヒハハーッ!!」
またも火炎が行く手を阻む。ロケットナックルで吹き飛ばされたニュートが復帰したのだ。
「こいつ、まだ……!」
『翔くん! そいつを放置してたら現実世界が大変な事になるわ、ニュートとだけはここで決着をつけて!』
「分かりました!」
改めて、アズールはニュート・デジブレインへと向き直る。
するとニュートは嬉しそうに笑い、城の周囲を炎で燃やし始めた。
「ソウダ! 俺ヲ見ロ!」
「燃やすのを止めてくれ。君がそんな事をするから、皆が迷惑してるんだ」
アズールの指摘に、ニュートは舌打ちする。不機嫌になった彼の全身の炎が、より強く燃え盛った。
「ウルセエナ! 俺ガ目立テルナラソレデ良インダヨ! ドイツモコイツモ俺ヲ持テ囃シタクセニ、コノクライデゴチャゴチャ騒イデンジャネェ!」
「目立ちたいからって人に迷惑かけて良いわけないだろ!! 君のせいで人が死ぬかも知れないんだぞ!?」
「黙レェ! 俺ガ注目サレルタメナラ人ガ何人死ノウガ関係ネェンダヨ! ムシロソウダ、何人デモ殺シテヤル!」
ニュートは火炎を吐きながら、さらに炎を纏う拳をアズールに浴びせる。当然、それを受けてもアズールは無傷だ。
「……そっか」
溜め息混じりに、アズールは諦めたような声を発する。
好機と感じたニュートは、ここぞとばかりに自身のベルトのバックルに入ったプレートを二度連続で押し込んだ。
《フィニッシュコード!
「オ前モ死ィネェェェ!」
先程と同じ超至近距離から、しかし比べ物にならない膨大な火炎が、ニュートの舌先から発射された。
さしものロボットリンカーでも、この火炎の前では平伏するしかないだろう。そうニュートは考えていた。
だが、揺らめく火炎の中には――無傷のアズールがその場に立っていた。
「だったら、もう容赦しない」
言うが早いか、アズールはニュートの舌と肩をがっしりと掴み、強化された頭の装甲で頭突きを食らわせる。
その一撃で、ニュートの舌は自らの歯で千切れた。これでもう火を吐く事はできない。
「ンガッ!?」
ニュートが痛みに悶えようと、何度も。何度も頭を叩きつける。
そしてニュートの意識が朦朧とし始めたその時、ドライバーに装填されたプレートを押し込んだ。
《フィニッシュコード!》
音声が流れた瞬間、アズールはニュートの体を上空へと投げ飛ばし、そして狙いをつけてからマテリアフォンをかざした。
《
「ブレストォ! ビィィィィィーム!」
X字型の胸部装甲が輝き、そこから強大な熱量の青いビームが発射される。
空中で身を守る方法もないままそれを受けたニュートは、自分の纏う炎を超えた高温の熱線により断末魔を上げ、そのまま頭から地上に落ちた。
アズールは倒せたかどうかという確認のため、落下地点へと向かう。
そして、そこで信じられないものを目撃した。
「う、うげ……」
「えっ!?」
ニュートが落下した場所には、人間の男が仰向けに倒れていたのだ。
「なんで……デジブレインはどこに!?」
『翔くん、よく見て! この人のお腹!』
「え? こ、これは!」
琴奈に指摘されてアズールも気付く。男は、ニュートが装備していたものと同じベルトを着けていたのだ。
「じゃあ、この人がさっきの!? これは一体どういう……」
アズールは男に向かって手を伸ばす。
だが、その時。
「コケーッ!」
「え? うわっ!?」
古城の中から飛び出したシャモ型デジブレインが、アズールの頭に飛び蹴りを食らわせ、瞬く間に男のベルトを掠め取って逃げてしまった。
ロボットリンカーのスピードでは追い付けず、かといって今からブルースカイリンカーに切り替えて深追いするのも危険だ。アズールは、まだここの地理に詳しくないのだ。
「……見逃すしかないか」
そう言ってアズールはマテリアフォンを抜き、扉のマークのアイコンをタッチ。すると、目の前に光の輪のようなものが現れる。
これは、入る際に使ったゲートと繋いで現実世界への帰還を可能とする、ホメオスタシスの作り出した帰還用ゲート。その名も『バックドア』だ。
仮面ライダー以外のエージェントはN-フォンにこのバックドアを搭載しており、調査を終えた際にはこれを使って現実世界に帰っている。
戦いが終わった以上もうここに用はない。アズールは男を肩で担ぎ、フォトビートルを伴ってこの場を去るのだった。
※ ※ ※ ※ ※
リボルブが入手した新たなマテリアプレート、その名はジェイル・プラネット。
『監獄』と呼ばれる惑星を舞台とする、様々な武器や道具を駆使して生き抜く事を目的とするサバイバルTPSアプリだ。
この惑星は大量破壊兵器によって汚染し荒廃しており、大きな罪を犯した囚人のみを送り込む島流しのためにのみ利用されている。主人公は金さえ貰えればどんな戦地にも赴く傭兵になる事も、凶暴なギャングの手綱を握る頭領になる事も、人々を悪党の手から守る救世主になる事もできる。
そのアプリを起動し装填した瞬間、迷彩柄のケープを纏う荒くれ者、プリズナー・テクネイバーが姿を現してリボルブを援護する。
ガンマン・テクネイバーと同じく銃撃だが、こちらはサブマシンガンだ。攻撃の苛烈さに、デジブレインの兵たちは足を止めて身を守る。
《ユー・ガット・メイル!》
「リンクチェンジ……!」
リボルブが叫び、マテリアフォンをかざす。
するとリボルブの身に装着されていた装甲やポンチョ、ライフル・アタッチメントが分解されて消滅し、代わりにプリズナー・テクネイバーが装甲となる。
《
音声と共にプロテクターが装着され、リボルブは新たな姿を得る。
ポンチョは迷彩柄のケープに変化、顔部は頭蓋骨を思わせるような黒い模様に変わり、腕にも翼のタトゥーのようなものが現れている。
仮面ライダーリボルブ ジェイルリンカー。リンク完了の直後、リボルブの背後に二つの球体が現れ、リボルブの両隣を転がる。
「覚悟しろ!」
すぐさま、リボルブが通常形態のリボルブラスターを構え、歩兵に発砲。
やはりこれは光のバリアに阻まれた。だが、これまでと違い銃撃は一発では止まなかった。
リボルブの隣を転がっていた球体からバレルが伸び、無数にデータの弾丸を発射し始めたのだ。
これはジェイルリンカーによって現れる特殊武装、ジェイルターレット。使用者の周りを転がり、敵のデジブレインに対してオートで攻撃を行う優れたメカだ。
「もちろん、これだけじゃねェぞ」
《チェンジ! マシンガン・アタッチメント!》
ターレットが攻撃している間に、リボルブはリボルブラスターのアタッチメントを切り替える。
ジェイルリンカーによって装着できるアタッチメントは、マシンガン。ライフルより射程は短くなるし小回りも効かないが、制圧性に優れており連射性能が高い。
総じて、手数が足りない今の状況には持って来いの姿だ。
「喰らえオラァ!!」
リボルブはジェイルターレットと共に、銃弾を雨霰と浴びせる。流石に僧兵のバリアもこの手数には無意味で、三秒も立たない内に完全に砕かれてしまった。
そればかりか、リボルブの制圧射撃は留まるところを知らず、盾を構えた歩兵と騎兵の反撃さえも許さない。僧兵は最初から戦闘力に乏しいようで、戦車の背後に隠れている。
戦車のデジブレインだけは、マシンガンの制圧でも怯まず身を守れる程に堅牢だ。だが容易に反撃にも移れないらしく、その場で全員の盾としてじりじりと進軍している。
「反撃のチャンスでも待ってんのか? バカが……」
言いながらリボルブはドライバーからプレートを引き抜くと、それをそのままリボルブラスターに挿入した。
《フィニッシュコード!》
「テメェらに逆転なんざねェんだよ!!」
《
「くたばりやがれェェェッ!!」
リボルブラスターにマテリアフォンをかざした瞬間、リボルブラスターとジェイルターレットが赤い輝きを帯び、今までよりも強力な弾丸が無数に連射される。
この三方向からの同時必殺射撃によって、ルークでさえも木っ端微塵に砕け散り、その背後で機会を窺っていた兵たちも一瞬で消滅した。
ベーシック・デジブレインが湧いて出る気配もない。ホメオスタシスは、勝利したのだ。
「ブッ潰すって言ったろォが」
銃口にフッと息を吹きかけ、変身解除した鷹弘が言った。
それにしても、と鷹弘は隣の雑居ビルを見上げながら思う。
「さっきのヤツら、上から来たな……まさか」
直後、消火が終わった店の中から「静間さん!」と呼ぶ声が響く。
見れば、変身を解除して男を肩に担いでいる翔が、鷹弘の方へと向かって歩いているのが分かった。
「こちらは終わりました!」
「見れば分かる。で、そいつは」
「多分、今回の実行犯です」
「何ィ?」
片眉を釣り上げ、意味が分からないとでも言わんばかりに声を上げる鷹弘。
この場で問い質しても良いのだが、フォトビートルが一緒のため、映像を見ればすぐに事情が分かるだろうとして、鷹弘は一度その話について後回しにした。
「……まぁ良い。ちょっとお前、そいつ置いて電特課と一緒にあのビルの屋上に行って来い」
「え? それはどういう事ですか?」
「良いから行け、そこに敵がいるかも知れねェんだよ」
それを聞いて、翔の表情が変わる。
男をホメオスタシスのエージェントの一人に任せ、屋上へと急ぐのであった。
「ああああああっ!! ふざけるなっふざけるなっふざけるなっ!!」
一方、屋上では。
ストライプが一人、怒声を上げて地面にチェス盤を叩きつけ、踏み壊していた。
それだけでは怒りが収まらないないようで、持参して来た机も椅子も、殴って蹴って、破壊し尽くした。
「なんでボクの思い通りにならないんだよ!! どいつもこいつも!! ボクは天才なのに!!」
叫んで暴れて、まるで子供のように暴れ散らすストライプ。そんな彼のスマートウォッチに、通信が入る。
その相手はヴァンガードだ。
「なんだよ!?」
『俺に当たんなよ……それより悪い報せだ、そっちに警察とホメオスタシスが向かってる』
「何っ!?」
途端にストライプは冷静さを取り戻したようで、暴れるのを止める。
そして、手短にヴァンガードへ質問を投げかけた。
「マテリアプレートと『ガンブライザー』は回収した?」
『安心しろ、それは済んだ。今から脱出すりゃお前の事がバレる心配もねぇ、退却しな』
「……そう。了解、そっちも上手く逃げなよ」
『はいはいっと』
ヘラヘラとしたヴァンガードの声を最後に、通話が終了する。
ストライプはすぐさまゲートを開き、机と椅子を内部に吸い込んでから、自身もゲートへと飛び込んだ。
「次こそは必ず……!」
こうして、屋上からストライプの姿が消えた。
直後に宗仁ら警察と翔たちホメオスタシスが駆けつけるも、時既に遅し。既にもぬけの殻だった。
「誰もいない?」
翔が周辺を見回して、そう言った。屋上には使わなくなった何かしらの機材が放置されていたり、畳んだままのテントがブルーシートをかけて置いてあるだけだ。
だが、宗仁の見解は違った。
「いいや。誰かいたようだぜ、ついさっきまでな」
「どうして分かるんです?」
松葉杖をついて遅れて現れた文彦が訊ねると、宗仁は顎でしゃくって、地面に落ちている物を指した。
チェスで使う駒、ポーンだ。それも、半分が白くもう半分が黒という奇妙な形状の。
それが今、コロコロと地面を転がっているのだ。これは、今まで誰かが屋上にいて、それをつい先程地面に落としてしまった事の証拠に他ならない。
「どうしてこんなものが……」
「さぁな。翔坊、デジブレインはいないみたいだしよ、とりあえず俺に任せとけ」
「良いんですか宗さん?」
「構いやしねぇよ。お前さんだって他にやる事あんだろ?」
宗仁はそう言って、親指で背後の屋上扉の方を指し示す。
そこには、壁に背を預けて翔を待つアシュリィの姿があった。
退屈そうに現場の状況を見ているが、何をしているのかは分かっていないというか、そこまで興味がない様子だった。
「女をあんまり待たせちゃいけねぇよ。口うるせぇからな」
「あはは……じゃあすいません、僕はこれで」
「おう、頑張れよ! けどあんまハメ外しすぎんなよ!」
翔は宗仁に手を振りつつ、アシュリィの方へと駆け寄った。
「ごめんね、お待たせ」
「……別に待ってたワケじゃないし」
「あ、そう? でも鋼作さんたちもいるし戻らないと」
「……ねぇ」
宗仁を指差しながら、アシュリィは訊ねる。
「あの人、知り合い?」
「あー、宗さんの事? そうだよ。父さんって探偵になる前は警察だったらしくてね、度々会いに来るんだ」
「ふーん」
顔を顰め、不機嫌そうに宗仁を見ているアシュリィ。
その様子を見て首を傾げ、翔は「どうかしたの?」と訊ねた。
「あの人、お酒臭い」
「うん、宗さんは仕事前にいつも飲んで来てるらしいからね……それより早く行こう。二人が待ってるからね」
「ん」
アシュリィの手を取って翔は走る。今日は休日、まだまだ遊び足りない。
まだ臭いが気になって些か不機嫌なままのアシュリィを連れ、翔は鋼作たちの元へ戻る。
四人は一日中ゲームセンターやカラオケなどで遊び尽くし、日常を謳歌するのだった。
そして、夜。
「アッシュちゃん大丈夫?」
帰路の途中、琴奈が心配そうにアシュリィを見る。
相当遊び疲れたのか、彼女はこっくりこっくりと船を漕いでいる。
手にはゲームセンターのUFOキャッチャーで取った、赤い鬼のぬいぐるみや青い亀のぬいぐるみ、黄色い熊のぬいぐるみと紫色の竜のぬいぐるみが入った袋を持っている。
「んー……」
「大丈夫じゃなさそうだぞ」
「んー……」
「誰に返事してんだそれは」
「んー……」
あまりにも眠そうで適当かつ反射的に返事をしているアシュリィに、鋼作も思わず苦笑いする。
すると、翔は彼女の手荷物を代わりに持ち、アシュリィをおんぶし始めた。
「よいしょ、っと。しっかり掴まってね」
「んー……」
やはりアシュリィは眠そうに返事をするだけだ。自分が今どういう態勢になっているのかも分かっていない。
「じゃあ鋼作さんに琴奈さん、僕らはこれで」
「お、おう。大丈夫かそれ」
「はい、落としたりしませんよ。大丈夫です」
「そういう事じゃないんだが……まぁ良いか」
翔は二人に頭を下げ、自宅へと向かった。背中からは、アシュリィの静かな寝息が聞こえる。
「あー、もう寝ちゃったか」
「んん……」
「すぐに着くからね」
「……ママ……」
後ろから聞こえたその言葉を聞いた翔の目が、僅かに下を向く。
彼女にも、恐らく血の繋がった両親がいるはずだ。では、記憶を失って苦しんでいる彼女を放って、今何をしているのだろう。
――自分の本当の両親は、何をしているのだろう。
暗い思いが心に降りかかり、翔は頭を振る。
「帰ったら、ご飯にしようね」