仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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 仮面ライダーアズールメビウスとなった翔がグリーフディクタトルを討ち倒した直後。
 地上で戦っていたリボルブたちとカオスルードとの対決も、終わりの時を迎えてつつあった。
 巨大サソリのハサミをピクシーズとネイヴィが切断し、さらに雅龍が尻尾を凍結させた。

「ぐ、ううううう! 嘘だ、嘘だ……私がこんな見苦しくなるはずがない! こんな醜い負け方なんてぇ……!」

 今度はキアノスとザギークが、サーベルや槍を使って脚の関節を破壊していく。
 肉体の再生も追いつかず、真正面に飛んで来たリボルブがヴォルテクス・リローダーを構えて必殺技を発動した。

《フレイミングフィニッシュコード! Alright(オーライ)! イーグル・マテリアルボンバード!》
「くたばりやがれェェェッ!」

 炎の荒鷲が、身動きの取れないサソリの頭部を燃やす。

「ヒイッ! 熱い、熱いいい!?」

 またしても顔を攻撃され、悶え苦しむルード。
 そこへ、ザギークが上からスピアーモードのスタイランサーを携えて降って来た。

《パニッシュメントコード!》
「姉貴! もう観念しなよ!」
Oh YES(オゥ・イエス)! フォレスト・マテリアルスティング!》
「まだ終われないなら……ウチが止めるっ!」

 穂先からインクが飛び出し、巨大な刃を作り出す。
 それが背中から突き刺さって腹を突き破り、カオスルードは一際大きな悲鳴を上げ、ついに変異が解除された。
 トランサイバーGからマテリアプレートが飛び出し、それに反応してすぐさまキアノスがサーベルを投擲。
 フェアリーテイル・プリンセスのマテリアプレートは、粉々に砕け散った。

「ウ、ウギ……ギ……」

 仰向けに倒れて泡を吹いて気絶しているハーロットの顔は、翔に集中的に殴られダメージを負った事で、見る影もなく歪んでいた。
 鼻は平らに潰れ、右頬には拳の痕がくっきりと残り、顎が砕けて前歯は全て折れている。
 通常であれば解除によって起こる再改造により、ここまでの傷は残らないのだが、余程強く殴られたようでダメージをカバーし切れていない。
 Cytuberたちの科学技術で治療をする事もできるのだが、TOP7が全て倒された事でもはや壊滅状態。その望みもないだろう。

「これが悪女の最後か。欠片も同情しようと思えねェな」
「全くです」

 変身を解除した鷹弘と響が良い、翠月に視線を送る。
 浅黄からも背を押され、翠月はフッと笑みを浮かべてからハーロットに、そして同じく倒れている遼と都竹に手錠をかけた。さらに、地面に落ちているフラッド・ツィートのマテリアプレートも破壊する。
 彼と浅黄、そしてアシュリィたちにとっての悪しき因縁も、これでようやく終わったのだ。

「……これでやっと……あいつらも前に進めるな」

 合流した翔と響たちが語らうのを見ながら、肇は呟く。
 サイバー・ラインの空は相変わらずドス黒いままだが、彼の心は澄み渡っていた。
 こうして、翔たちはゲートを通って現実世界へと帰還するのであった。



「おやおや……」

 地面から吹き上がる黒い炎と、愉快そうな笑い声に気付かずに。


EP.50[望まれた未来へ]

 12月24日、雪の降り積もる季節。

 久峰との戦いから二日経った天坂家の食卓には、翔と響とアシュリィに加えて、新たに三人が加わっていた。

 一人は面堂 彩葉、残る二人はツキミとフィオレだ。

 

「アシュリィ、あなた毎日こんな美味しいもの食べてたの!?」

「あぁっ、こんなのはしたないのに! お箸が止まりません!」

 

 二人の言葉を聞いて、なぜかアシュリィの方が得意気に胸を張る。

 アシュリィの妹であるツキミ及びフィオレは、肇が引き取る事となった。

 トップである久峰 遼が逮捕された事で、彼の一族もほとんどが罪状を明らかとされて逮捕に至り、身柄を確保されていない者たちに関しても雲隠れしている。

 ハーロットに至っては正確な家族構成どころか本名すら不明な上、本人が自分の顔を見て発狂してしまい、会話が成立しない状態だ。

 よってアシュリィ自身の希望もあり、彼女らは家族に加わったのである。

 

「でもアシュリィちゃん、僕に『美味しい』って言った事ないよね」

 

 翔がそう言うと、アシュリィはギクッと身を震わせる。

 今の彼は、右眼に眼帯を付けている。かつてのアシュリィと同じように。

 

「だ、だって」

「いやぁ、一回で良いから直接聞きたいなって。君の口から」

「……ショウのバカ」

 

 頬を膨らませるアシュリィ。その姿に、翔は微笑んで頭を撫でる。

 二人の様子を見ていた彩葉も嬉しそうに微笑んで、響に語りかけた。

 

「楽しいね……響くん」

「ああ、賑やかだ。彼女らを助ける事ができて本当に良かった」

「ふふっ。ところで」

 

 ヒソヒソと、彩葉は声を小さく抑えて響に囁く。

 

「今日の夜……私の家に、来て欲しいんだけど」

「もちろんいいよ」

「それから。それから……明日のクリスマスまで、一緒にいて欲しい」

「へっ!?」

「ダメ、かな?」

 

 潤んだ瞳で見上げられ、響は思わず頬を紅潮させる。

 そんな甘い雰囲気を醸し出す響と彩葉に、ツキミは目を輝かせている。

 

「きゃぁーっ、逢瀬ですわ逢瀬! 聞きましたかお姉様、アシュリィ!」

「聞いた聞いた! 二人でえっちな事するんだ! やらしーっ!」

 

 ツキミに同調して煽るフィオレに、顔を真っ赤にするアシュリィ。

 響は、慌てて二人に注意した。

 

「こ、こら二人とも! やめないか! それこそはしたないぞ!?」

「私は、その……響くんなら良いよ」

「あああ彩葉さん!?」

 

 思わぬ方向から攻撃を受けた響は、より困惑して隣に座る彼女を見やる。

 

「あははっ。本当、賑やかになったなぁ」

 

 今は肇がいないものの、久し振りの家族の団欒。

 温かな心地に、翔は身を任せるのであった。

 

「翔ー! 笑ってないでなんとかしてくれー!」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「では、アクイラはもう復活しないんですね?」

 

 一方、ホメオスタシスの研究施設にて。

 鷲我と肇、そして鷹弘・陽子・翠月・浅黄・宗仁は、会議室にて会合を行っていた。

 たった今質問を繰り出したのは陽子だ。真剣な面持ちでメモを取り、鷲我を見据えている。

 

「恐らく間違いない。響くんと警視がマテリアプレートを破壊した事で、内部のデジブレインを取り出せなくなったはずだ。念の為に残骸も持ち帰った。あのデジブレインが復活の鍵となる以上、この先アクイラが蘇る事などない」

 

 それを聞くと、安心したように陽子の表情が緩む。

 しかし、宗仁は違った。

 

「だがまだ戦いは終わっちゃいないだろ。あのスペルビアが残ってやがる」

「確かに。アクイラという最大の危機は去ったが、敵のデジブレインは未だ残存中だ。油断大敵だな」

 

 二人の発言に、陽子も同意を示した。そこへ、今度は浅黄が唇を尖らせながら口を挟んだ。

 

「んでもさー。翔くんがいるなら大丈夫じゃない? アレならあの子、もうスペルビアに負けないでしょ」

「正直、我々が必要なのか疑わしい程の戦闘力だったな……」

 

 神妙な面持ちの翠月。

 拳法家として、特に戦闘面について自信と自負を持っていただけに、アズールメビウスの圧倒的な力には舌を巻いていた。

 

「翔に頼り切るのも良くないだろう。あいつの力は完全に人間の範疇を超えている」

 

 そう言ったのは肇で、対して陽子が「そんな言い方は」と反発を示した。

 すると、肇は険しい目つきをしながら首を横に振る。

 

「あの場はああするしかなかった、だから誰もあいつを責めちゃいけない、化け物と罵る権利もない。だが『完全なアクイラになった』という事実を建前にして、あいつの力を良いように利用するのは違う。そんな事をすれば、ホメオスタシスは久峰たちと同じになるだろう」

「それは……」

「あいつが人間を超える力を手にしたからこそ、俺たちは自分の手で戦う事に対して、慎重にはなっても臆病になっちゃいけないんだ。それを俺は……嫌という程思い知っている」

 

 言い淀む陽子。浅黄もバツの悪そうな顔をしており、翠月は己への反省も含めて深く首肯していた。

 皆が沈黙して気まずい空気になってしまい、鷹弘は咳払いをした後、話題を変え始める。

 

「英警視、捕まえた連中の処遇についてはどうなってんだ?」

 

 話を振られた翠月は、マテリアパッドを取り出して操作し、その場に資料を投影して説明を始める。

 

「身柄を確保した久峰の一族は、久峰 遼以外は全員人間でした。なので通常通り、司法の裁きが下るでしょう。もちろん……連中の息がかかっていない者たちの手で」

「昨日だけでこれだけの数を……流石スね、昇格もすぐなんじゃねェか?」

「フッ、冗談を。久峰 遼自身とハーロットについてですが、連中はデジブレインやアクイラとしての力を持つので、特殊な場所に収容する事になりました」

 

 特殊、という言葉に鷲我や鷹弘は眉を釣り上げつつも詳細を求める。

 

「海底です。回線が一切通っておらず、かつ脱出できたとしても逃げ道のない場所というのを考えるとこれしかありませんでした」

「なるほど……それなら、肉体をデータ化しても無意味だな。曽根光 都竹の方は?」

「彼に関しては、まずあの強すぎる腕力を抑え込む方法を探している途中です。今は麻酔や催眠ガスでどうにかできていますが、耐久性を高めた牢すら素手で破りかねない勢いだったので……」

「了解した、我々も何か手を考えておこう。引き続き警戒を頼む」

 

 その後も会議は続いていき、議題がなくなる頃には日が暮れてしまっていた。

 浅黄はそのまま、机に突伏して大きく腕を伸ばす。

 

「はーぁー、やっと終わったー。まぁウチはクリスマスなんてひとりぼっちで寂しく過ごすんDEATH(デス)けどねーあははー」

 

 自分で口走っておきながら、浅黄は「なーにがクリスマスじゃーい」と嘆いている。

 そんな彼女に、翠月は不思議そうな顔をして声をかけた。

 

「なんだ? お前ひとりで過ごす気なのか?」

「そーだよー……ハハッ、どうせウチなんかー……」

「じゃあ、どうだ。たまには私と一緒に飲み明かすというのは」

「……えっ?」

 

 大層驚いた様子でバッと顔を上げ、浅黄は翠月を見る。

 彼はきょとんとしながら、続けて言った。

 

「私もちょうど予定が空いている。クリスマスくらい、お前とゆっくり休もうと思うんだが」

「そっ、それは……ウチは別に良いけど、さ。ほんとにゲッちゃんは良いの?」

「イヤなのか?」

「う、ううん! 分かった、行こう行こう!」

 

 翠月の気が変わらないようにと思ったのか、急かすように背を押す浅黄。

 それを横目に見ながら鷹弘と陽子は先に退室し、二人で並んで出口へと歩いていく。

 途中、陽子は鷹弘の左手を握った。とても頼れる、大きな手。

 

「……陽子」

 

 そんな手が彼女の手を握り返すと同時に、鷹弘が声をかけて来る。

 

「クリスマス、さ。俺と一緒にいられるよな?」

「うん、もちろんだよ。他に予定なんか絶対入れないし」

「そっか。じゃあ良かったんだ」

「なになに? どうしたのいきなり」

「クリスマスになったら言いたい事あんだよ」

 

 ぶっきらぼうに、そして照れて頬を赤くしながら鷹弘は言った。

 最初、陽子にはその意味が分からなかった。

 だが歩いている内に、頭の中でその言葉を何度か反復させている間に、陽子の顔も赤く染まる。

 

「それ、って」

「だあークソッ! 隠すの難しいなやっぱ! そーいう事だよ!」

 

 鷹弘が熱くなった額を手で押さえ、早足になって恥ずかしそうに叫ぶ。

 一方の陽子は、瞳を潤ませて立ち止まっていた。

 

「……嬉しい、ほんとに嬉しい。ずっと待ってたんだから」

「陽子……」

 

 溢れる涙を指で拭い、戻って来てくれていた鷹弘の方に歩み寄る。

 そして、彼の腕に抱きついて満面の笑みを浮かべた。

 

「で、どうなんだよ。OKなのか?」

「うふふ~。クリスマスまでナーイショ」

「なんだそりゃ」

 

 

 

「あああぁ~……やっぱりダメだったぁ~……」

 

 同じ頃。帰宅した琴奈は、大層落ち込んだ様子でテーブルにもたれかかる。

 戦い続きで予約を忘れてしまっていたため、市内の家電量販店などへクリスマスに合わせて販売される怪獣のプラモデルを買いに向かったのだが、あえなく撃沈。

 彼女が狙っていたのは『リーヴァ&ヴァイス』というロボットと怪獣のコンビが戦うというアニメのプラモで、二体のセット販売も行われていたのだが、それも完売してしまっていた。

 何の成果も得られず、琴奈は深く落胆する。

 

「サンタクロースが実在したらなぁ~……あああああ~……」

 

 そんな塚原宅に、チャイムの音が響いた。

 ローテンションのまま琴奈が玄関に向かい、ドアを開くと、そこには荷物を抱えた鋼作がいた。

 

「なんだ鋼作かぁ」

「さてはオメー俺が一応先輩だって事忘れてんな? で、どうだったんだよ例のアレ」

「ダメだったわよチクショー!! 忙しさのせいで忘れた私を、笑いたきゃ笑いなさいよー!!」

 

 ヤケクソになって琴奈が言うと、鋼作は溜め息と共に持っていた荷物を彼女に手渡した。

 セット販売の片割れ。怪獣の方のキットだ。

 

「やるよ」

「え?」

 

 目を丸くする琴奈。鋼作は意地悪するでもなく、真っ直ぐに差し出している。

 

「い、良いの?」

「ロボットの方のついでに予約しただけだからなぁ、二体並べた方が見栄えが良くなるのは確かだが。それに、どーせ俺はロボオタクだ」

 

 彼にしては珍しい、本音の優しさから来るプレゼント。

 頬を染めて瞳を輝かせ、琴奈は思わず呟いた。

 

「サンタさん……?」

「オイ。誰が白髭の太ったオッサンだオイ」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 そして同日の夜、時刻は11時50分。外ではまだしんしんと雪が降っている。

 自らのベッドで眠っていた翔は、自室内で人の気配を感じて目を開く。

 見れば、アシュリィが怯えた様子でベッドの前に座っていた。

 

「アシュリィちゃん?」

 

 声をかけると、彼女は震えながら翔に近づいていく。

 その睫毛は、涙で濡れていた。

 

「どうしたの!? 何かあった!?」

「……その……怖い夢、見たの……」

 

 震えながら、アシュリィはゆっくりと語る。急かさず笑わず、翔は最後まで話を聞き続ける。

 

「ヒサミネ リョウが、私に襲いかかって来る夢……あの時、ショウがいなかったら……ショウが本当に死んでたら、私は……」

「アシュリィちゃん」

 

 身を起こした翔は、彼女の体を優しく抱き締めて、ゆっくりと背を撫でた。

 

「大丈夫、大丈夫だよ。僕はここにいるよ」

 

 アシュリィから感じる不安も恐怖も、全て抱きとめる翔。

 その翔の体温を確かめるように、アシュリィは強く、強く彼の体を抱き締め返す。

 震えが止まり、胸の中で泣く声も段々小さくなり始めて、翔は声をかけようとする。

 だが、直後にアシュリィは顔を上げた。

 相手の吐息がかかる程の距離間。熱を持ったお互いの顔と顔が、もう間近にある。

 唇が触れそうなくらいに。

 

「……ショウ」

 

 アシュリィが頬を上気させたまま、名を呼ぶ。潤んだ瞳がじっと顔を見上げている。

 翔は自分の鼓動が強くなり、体温が上がるのを感じていた。

 そこから先を、二人は言葉にしなかった。

 ただ唇を重ね合って、しなだれかかる形で二人一緒にベッドの上に横たわり、そして互いの手を握って指を絡め合う。

 二つの体をひとつにしようとするように、心に残る傷や靄のかかった気分を消し飛ばし、荒くなる息と火照る体が生を証明する。

 何度も、何度でも。彼らは相手を求め合った。

 ――時刻は、とっくに12時を過ぎていた。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 1月1日、即ち2021年。

 少し前までクリスマス気分だった帝久乃市の住民たちは、あっという間に正月に浮かれ、思い思いの日常を過ごしている。デジブレインが現れていた頃が嘘のようだ。

 無論ながら、久峰 遼の引き起こした事件を、誰一人として忘れてはいない。いずれ風化するとしても、かの一族が齎した陰惨な闇は、年を越しても人々の記憶に刻み込まれた。

 同時に、彼らは皆知っている。ホメオスタシスを知らずとも、その都市伝説を覚えている。戦う姿を、間近に見た者たちもいる。

 人々の自由と平和のために戦う戦士、仮面ライダーを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしホメオスタシスによって一応の収束がされたかに思われた事態は、大きく動き出していた。

 

「ったく、散々な年明けになっちまったな……!」

 

 地下研究施設には、仮面ライダーに変身できる七人とツキミ・フィオレ、さらに宗仁・鋼作・琴奈・陽子が集まっていた。

 突然に鷲我から緊急事態との連絡を受けたため、ただ事ではないのを悟っており、全員真剣な表情だ。

 

「皆、正月だというのに集まって貰って申し訳ない」

「いいですよそんなの、それより一体何が起こったんですか?」

「実は、あの後も量産フォトビートルをサイバー・ラインに飛ばして、定期的に監視していたのだが……これを見てくれ」

 

 それは、七つある各領域の中継映像だ。全員が知っている限りで、現在は『虚栄』『激情』『懈怠』『大欲』『貪食』の五つの領域が崩壊しているはずだった。

 だが。映像ではプレートを失ったはずの『羨望』と『淫蕩』の領域も崩壊していた。

 この状況には全員が驚き、特に鷹弘は思わず声を張り上げていた。

 

「なっ!? お、おい親父! こいつはどういう事だ!?」

「……見ての通りだ。どういう理由かもどのようにしたのかも分からないが……アクイラ復活の危機は、まだ去っていなかった!」

 

 ざわめくホメオスタシスの面々。

 直後、淫蕩の領域だった場所を飛んでいたフォトビートルが動きを止め、何者かによって視点を後方に動かされる。

 映ったのは、孔雀の仮面の男の顔だ。

 

Happy New Year(ハッピー・ニュー・イヤー)! ホメオスタシスの皆様、ごきげんよう』

「スペルビア!?」

 

 再び室内で動揺が広がる。

 彼の手には、フラッド・ツィートとフェアリーテイル・プリンセスのマテリアプレートが握られていたのだ。

 

「貴様! どうやって……それは俺たちが破壊したはずだ!」

 

 響に詰められると、スペルビアは高笑いしながら種明かしを始める。

 

『プレートを破壊した程度では、中身のデジブレインは死なないんですよ。彼ら二体はあなた方に破壊されると分かった瞬間、地面に溶け込んで姿を隠したのです』

「なっ……!?」

『そして、私が空のマテリアプレートを用意し、再び封入した。作るまでに少し時間がかかりましたがね……残念でしたねぇ?』

 

 くつくつと笑いながら、スペルビアは指を弾く。

 すると、スクリーンに座標が表示される。

 

『ここにお越し下さい。もちろん、罠などはありません。もう小細工など必要ないですからね』

「……決着をつけようって言うのか?」

 

 翔が問うと、スペルビアはやはり笑い声を上げながら、しかし否定した。

 

『祝福して頂きたい。我が神の復活を、輝かしき時代(ニュー・イヤー)の幕開けを。それでは』

 

 指を弾く音と共に、スペルビアが姿を消す。

 話を聞いていたホメオスタシスのメンバーたちには、混乱と当惑が広がっている。翔も、突然の事に驚愕するばかりだった。

 

「ショウ……」

 

 しかし不安そうに自分を見上げて手を握るアシュリィを見て、翔は表情を引き締めた。

 彼女の手を握り返し、共に戦って来た仮面ライダーたちに向かって言い放つ。

 

「行きましょう! 今度こそ、全てを終わらせるために!」

 

 

 

 仮面ライダーたちが指定された座標に向かうと、そこには大きなテーブルがあった。

 以前に進駒や律、彩葉から得た情報と合致する会議場だ。今は崩壊し、天井も壁もなくなってしまっているが。

 

「こんな場所があったのか……」

 

 七つの領域の境目に隠された場所。山のように偽装する事で、監視の目を逃れていたのだ。

 

「で、ヤツはどこだ?」

 

 周囲を見回しながら、響が言う。自分で場所を指定しておきながら、スペルビアは影も形もない。

 翠月や浅黄も周囲の捜索を開始するが、やはり何も見つからない。

 そんな時。ふと空を見上げた翔が、ハッと目を見開いた。

 普段と同じくドス黒い色彩を放っているが、いつもよりずっと空が遠い。

 否、遠くなったのではない。翔の目がおかしくなったのでもない。

 今まで自分たちが空だと思っていたものは、実際には雲だった。それが今は消え、遮蔽がなくなったから広く見えているだけだ。

 

「アレは……!?」

 

 その遮蔽がなくなった空に浮かぶものを見て、翔は驚いたのだ。

 そこにあるモノの正体は漆黒の太陽。ドス黒い瘴気と微光を放ち、空を埋め尽くす程の雲を作り出す巨大な球体。

 他の面々も翔の視線に気づき、愕然としている。

 

「あ、あんなものが……!」

「まさかずっとそこにあったってのか!?」

 

 肇と鷹弘が言う。しかも、球体は徐々にだが確かに近づいているようだった。

 

「おい、おい! アレが落ちたら一体どうなるんだ!?」

「くっ!」

 

 球体を止めるべく、翔がアプリドライバー∞を装着しようとする。

 だがその瞬間。九人の体は、黒い炎に包まれて消えてしまった。

 

「うわっ!?」

 

 再び目を開くと、潜入した九人は全員、先程見上げていた球体の上に立っていた。

 目の前にあるのは七本の柱と、巨大な穴。柱にはケーブルが接続されており、その先は穴へと繋がっている。

 

「ようこそお越し下さいました」

 

 そして。穴の前に立っているスペルビアが、恭しく一礼する。

 

「今日はアクイラ様復活の儀に立ち会って下さいまして、誠にありがとうございます」

「ふざけんじゃねェ! アクイラもテメェもぶっ潰して……それで全部終わりだ!」

 

 アプリドライバーを呼び出し、装着する鷹弘。翔たちも同様に、変身のためのツールを装備した。

 九対一。しかし、それでもスペルビアは余裕の態度を崩さない。

 そのまま自らの胸に手をやって、そこから光の球体を取り出して見せる。

 

「覚えていらっしゃいますかぁ、これを」

「僕から抜き取ったアクイラの力……?」

「あの時奪ったのは、それだけではありません。注射器に付着した、あなたの遺伝子情報……それをコピーさせて頂きました」

「どういう事だ」

 

 翔に問われ、スペルビアは大きな笑い声を上げる。

 すると、背後の穴の中から、ケーブルに繋がれた発光する人型の何かが浮かび上がって来る。

 スペルビアはそれに向かって、光の球を投げつけた。

 光と光が溶け合い、ケーブルが全て千切れ、浮かび上がった『ソレ』が実体を持ち始める。

 

「かつて静間 鷲我から人間の姿を得たように! 今のアクイラ様には、相性の良い人間の遺伝子情報が必要だったのですよ! それがあって、ようやくアクイラ様はこの世に留まる事ができる!」

「なっ!?」

「そしてあなたはアクイラ様に最も近い存在、間違いなく適合する! 666の罪人たちの欲望と狂気を喰らい、ついに蘇るのだ! さぁ……来ませぇぇぇぇぇい!」

 

 輝く人型の一糸まとわぬ何か、アクイラはゆっくりと目を見開く。

 徐々に五体が人間の肉体へと変わって行き、顔も作り出される。

 その顔つきは――瓜二つという程同じではないが、翔とそっくりだった。

 

「ク、ククク……ハハハハハハハ、ハレェェェェェールヤァァァァァーッハハハハハハァーッ!!」

 

 誕生を目の当たりにしたスペルビアは拍手喝采をアクイラへと贈り、二つの機械を放り渡す。

 一つはかつてアシュリィが持っていたデジタルフォン。そしてもう片方は、アプリドライバーの原型となった黒いベルト、カーネルドライバーだ。

 アクイラはそれを装着し、さらに自らの手の中にマテリアプレートを形成すると、微笑みながら起動する。

 天使の翼のような装飾がされたそれは、福音(ゴスペル)を思わせる清らかで高らかな音声を放った。

 

《パラダイス・ナイトメア!》

 

 プレートが、ドライバーに装填される。誰もが、その姿に目を奪われていた。

 

《ワールド・イズ・マイン! ワールド・イズ・マイン!》

「変身」

All Hail(オールハイル)! デジタライド! ナイトメア・アプリ!》

 

 全身が白い光に包まれ、漆黒のアンダースーツに変わる。

 

《欲望! 衆望! 祈望!》

 

 さらに純白のアーマーが装着されていき、鮮血のような紅いエネルギーラインが張り巡らされ、さらに金色の角が頭から伸び出る。

 

《望まれし電脳神(デウス・エクス・マキナ)、インスタンス!》

 

 両眼が赤く輝き、最後に背中から真っ白な翼が伸び出た。

 以前アズールメビウスからも感じた、凄まじい力。それとほとんど同じものを、絶対的な力の差を鷹弘たちは感じていた。

 だが。翔は、それでも戦おうとしている。

 

「お前がアクイラか……!」

「随分と待たせてしまったようだ。そうだ、僕がアクイラ。仮面ライダーパライゾだ」

 

 翔が立ち向かおうとする姿を目の当たりにして、全員が奮い立つ。

 彼の隣に並び、同じように仮面ライダーパライゾと名乗った者と対峙した。

 

「みんなの未来のために、お前を倒す! 行くぞ!」

 

 全員が一斉に変身し、パライゾへと疾駆した。

 

「ああ、やはり人間は――美しい」




次回、最終章

File.05[天獄変]

地獄と煉獄の刻は過ぎ、世界に終焉が訪れる――
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