仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.52[やさしいねがい]

「どうして忘れていたんだ、僕は……いや、どうして何も気付かなかったんだ!?」

 

 兄や鋼作たちと共に家に帰ろうとしていた翔の前に現れたのは、自らをFと名乗る謎の人物。

 そのFは仮面ライダーであり、彼が現れた直後に、翔は自らのあるべき姿とと使命を取り戻した。

 誰なのかは分からないし、天使のようなデジブレインの正体も分からない。

 それに。

 

「この空の色は……それに、あれは何だ!?」

 

 翔が周囲の風景に違和を感じ、辺りを見回しながら言う。

 そこにあるのは、サイバー・ラインと同じ色のドス黒い空。街の至る場所に張り巡らされて空へ伸びる、血管のようなケーブル。

 そしてその先にあるのは、浮遊する巨大な島とその中央に聳え立つ白金の塔だ。

 気がかりも謎も多い。しかし、今やるべき事はただひとつ。

 

「とにかく戦わないと!」

 

 そう叫んでマテリアフォンを操作し、翔はアプリドライバーメビウスとプレートを手に取り起動する。

 

超宇宙戦記(コズミック・センチュリーズ)ムゲンダイバー(エタニティ)!!》

 

 音声が流れてドライバーに装填されると共に、デジブレインらしい天使たちが一斉に翔の方を見る。

 

『異端者を検知。異端者を……』

《ビヨンド・ザ・ブルースカイ!!》

「変身!」

Alright(オーライ)!! ユニバース・マテリアライド!! エタニティ・アプリ!!》

 

 そんなデジブレインたちの動きにも構わず、翔はマテリアフォンをかざす。

 星光の粒子、スターリットフォトンが背中で二つの輪を描くように動き、翔の姿が変わっていく。

 

《夜空に瞬く幾千の綺羅星!! 銀河を彩る神々しき惑星!! 無限に拡がる大宇宙、エヴォリューショォォォン!!》

「そぉりゃあああっ!」

「しょ、翔……お前っ!?」

 

 姿の変わった翔に、鋼作と琴奈が瞠目する。

 事情を説明する暇もないので、仮面ライダーアズールメビウスとなった翔は、鎧の天使の一体に飛び蹴りを入れる。

 さらに飛んで来たアーカイブレイカーを左腕でキャッチすると、スターリットフォトンで強化されたその表面でもう一度殴打した。

 だが。

 

『異タん者、はイ除、異端シゃ……』

「うっ!?」

 

 首が折れてコードのようなものが飛び出し、頭が腹まで垂れ落ちて振り子のように左右に動いているというのに、その天使はまだ戦おうとしている。

 そして再度接近した天使は、剣をアズールに向かって振り下ろした。

 その一撃を右腕で受け止め防ぎ切るも、威力そのものは今までの並のデジブレインより段違いに強い。

 戦闘力自体はアズールメビウスの方が圧倒的に高いのだが、頭が取れかかっても戦うその姿に、不気味なものを感じざるを得なかった。

 

「なっ!? なんだこいつ!?」

『イ……たン……』

「う、うわあああっ!?」

 

 ゆっくりと歩み迫る敵に恐慌しながらも、アズールセイヴァーを抜刀して斬りかかった。

 肩から袈裟に斬られた天使は、ようやくそれで地に両膝をつき、消滅する。

 

「ハッ! シャアアアッ!」

 

 Fが変身した方の仮面ライダーも、天使へと蹴りや抜き手を食らわせて胴を貫き、心臓のようなエネルギーの核らしきものを引っ張り出す。

 そしてそれを握り潰し、踏み砕く事で、敵を消滅させ続けている。

 しかし、その一方的な戦いはいきなり終わりを迎えた。

 

「グッ!?」

 

 Fの体が痙攣したかと思うと、ドライバーに装填したマテリアプレートが煙を吹いて飛び出し、変身が解除されたのだ。

 

「チッ、このプレートじゃ三分が限界か……!」

 

 既に半数以上の天使を倒しているが、それでもまだ数が多い。

 するとFは、天使から遠ざかりながらアズールに向かって叫んだ。

 

「必殺技を使え、その後すぐに変身を解いて逃げろ!」

「え!?」

「こいつらは戦えない人間には反応しない! 害意をなくした人間は攻撃の対象から外れる!」

 

 言われてアズールは剣を納め、スターリットフォトンからロボットジェネレーターと鬼狩ノ忍のマテリアプレートを作り出す。

 そして、それらを一度づつアーカイブレイカーの表面にかざし始めた。

 

《タップ! ロボット・アプリ!》

「それなら!」

《タップ! シノビ・アプリ! ヴィーナスエフェクト!》

 

 二つのマテリアプレートのエネルギーがチャージされ、盾の表面に金星の記号が浮かび上がる。

 剣を手に向かって来る天使たち。それに合わせ、アズールは盾から剣を抜刀した。

 

《ヴィーナスフィニッシュコード! Alright(オーライ)! ヴィーナス・マテリアルバスターテンペスト!》

「そぉりゃあああああっ!」

 

 緑色に煌くアズールセイヴァーを手に、向かって来た天使たちの間を一瞬で駆け抜け、すれ違いざまに斬り伏せる。

 天使は全員腹から真っ二つになってしまうものの、上半身だけになってもアズールを攻撃しようと剣を振り上げ、動き出す。

 だが、それはアズールも予測済みだった。今度はさらに、ワンダーマジックのマテリアプレートを生み出した。

 

《タップ! マジック・アプリ! シノビ・アプリ! ロボット・アプリ! マーズエフェクト!》

「これで……どうだぁっ!」

《マーズフィニッシュコード! Alright(オーライ)! マーズ・マテリアルバスタートルネイド!》

 

 アーカイブレイカーから赤い粒状の閃光が散りばめられ、それらが天使たちの周囲に漂い、炸裂。

 光が紅蓮の爆発を引き起こし、デジブレインを全滅せしめた。

 

「今だ、変身を解いて走れ!」

「待って下さい、兄さんたちが!」

「あいつらは絶対に襲われないからさっさと来い!」

「は、はい! 兄さん、多分すぐ帰るから!」

 

 促されるまま、翔はFの後に続いて駆け出した。

 置いていかれてしまった三人は、どうしたら良いのか分からず、ただ立ち尽くしてしまった。

 

 

 

 そしておよそ十分が経った後。翔とFは、とあるビルの屋上に来ていた。

 Z.E.U.Sグループの本社だ。地下にあるホメオスタシスの研究所はそのままだが、途中で立ち寄っても誰もいなかった。

 空を見上げ、Fは翔に語りかける。視線の行く先にあるものは、あのドス黒い空に浮かぶ塔だ。頂上は円盤のような形になっている。

 

「どうやら見逃してくれたらしいな、アクイラって野郎は」

 

 Fの出した単語を聞いて、翔は目を丸くした。この男は、アクイラの存在さえ知っているというのだ。

 

「あなたは……何者なんですか!?」

「あ? なんだ、お前まだ気付いてなかったのか」

 

 言いながらFと名乗ったその人物はフードを剥ぐ。

 黒いパイソン柄のライダースジャケットを纏ったその男の顔は、翔が良く知っている人物だった。

 

「み……御種さん!?」

 

 御種 文彦。

 かつてCytuberの6位についていながらホメオスタシスもCytuberも翻弄し、翔たち仮面ライダーと幾度も交戦した男。

 さらに自分自身も仮面ライダージェラスに変身し、そしてアクイラの力に目覚めた(アズール)によって打ち倒されたのだ。

 敗北の後は精神失調症となり、地下研究施設で眠り続けていたはずだった。

 その文彦が今、目の前に立っている。翔はあまりの出来事に口を開閉していたが、そんな様子を見て目の前の男は鼻を鳴らした。

 

「ハッ! 何を驚いてやがる。別に俺は最初から死んじゃいねぇよ、知らなかったのか?」

 

 言われて、翔も思い出す。

 文彦は飽くまでも、アクイラのバックアップであるデジブレインの細胞片と肉体が適合する間まで眠り続けているだけだった。

 今ここにいるという事はつまり、適合は既に終わったという事なのだろう。

 だが、同時に新しい疑問が降って湧いてくる。

 

「どうして僕を助けたんですか?」

 

 二人は、というよりも御種とホメオスタシスは元々敵同士の間柄だ。

 文彦自身は確かにホメオスタシスに所属していた過去もあるが、それはスパイとしてであり、さらに言えばライダーシステムを使うために利用するためだったはずなのだ。

 その文彦が今、翔のかつての記憶を取り戻させてアドバイスもしている。それが不思議だったのだ。

 すると、文彦はまたも鼻を鳴らして不敵に笑う。

 

「お前を利用してアクイラを潰すためだ、手を貸すのに他の理由があるかよ」

「まぁ……そうでしょうね」

「なんだ、今更この俺が正義感に目覚めたとでも思ってたか? そりゃ笑える勘違いだ」

 

 意地の悪い笑い声を上げ、文彦はその場に胡座をかく。

 翔も、その場に座り込んだ。

 そして翔が質問をするよりも前に、聞きたかった事の答えを話す。

 

「この惨状を見りゃ、まぁ大体察しはつく。お前らアクイラが復活するのを止められなかったんだな?」

「……はい」

「ハッ! 情けねぇヤツらだ、俺の計画をブチ壊しておいてこの体たらくかよ。で、どうだったんだ」

「どう……って?」

 

 首を傾げる翔。すると文彦は、舌打ちしてさらに質問する。

 

「お前はアクイラと戦ったんだろうが。あの野郎の戦力は? 能力は? それを聞かねぇと対策できねぇんだよ」

 

 言われて納得したように「あぁ」と顔を上げるが、直後に頭を抱えて瞠目する。

 

「思い……出せない……?」

「なに?」

「わ、分からないんです。戦い始めるまでの事は分かるんですけど、どう戦ったのか思い出せないんです」

「まだ記憶が欠けてやがんのか、面倒臭ぇ。ならこの話は後だ、だができるだけ速く思い出せ」

 

 そう言うと文彦は足を伸ばしてその場に寝そべり、腕を枕にしてヘドロのような空を見上げる。

 口調こそ荒っぽいが、翔には彼が以前よりも柔らかくなっているように思えた。

 翔も同じく空を見上げながら、もう一度質問する。

 

「どうしてあなたがアクイラを倒そうと?」

 

 尋ねられた文彦は、チラリと翔に視線を送ってから、かったるそうに言い放つ。

 

「こんなクソみてぇな世界を作りやがったからだ」

「どういう事です? そうだ、この世界は一体どうなってしまったんですか?」

 

 寝そべったまま、文彦は目を細めて最初に結論を提示した。

 

「現実世界がサイバー・ラインと融合した」

「え!?」

「言ってみれば、この世界そのものが連中の領域だ。どこにも逃げ場なんぞねぇ。向こうから襲って来るワケでもないがな」

「ど……どうしてそんな事に……」

 

 自分たちがアクイラとの戦いの記憶を忘れている上に、その間に世界は大きく姿を変えてしまったのだ。

 何よりも。

 何よりも――当たり前の空の色を守りたいという翔の願いは、打ち砕かれてしまった事になる。

 頭を抱えて、俯く翔。そんな時だった。

 

「そこから先の疑問には僕が答えよう」

 

 先程天使が現れた時と同様に、空間が波打つ。

 そしてその空間から一人の少年が姿を現す。

 翔と似た顔立ちの、しかし全く別人と分かるほど神々しい雰囲気を醸し出す少年、アクイラだ。

 

「アクイラ!」

「なに!? こいつが……!?」

 

 驚いた文彦がマテリアフォンを懐から取り出そうとするが、アクイラは両手を挙げてそれを制した。

 翔も、文彦より前に出る。

 

「争うつもりはない。僕はただ、君たちと話をしに来ただけさ」

「それを信じろっていうのか?」

「君たちがそれを望むのなら戦っても良い。だが翔、君は話を聞いて置いた方が良いと思うな」

 

 まるで人間のように微笑みながら佇むアクイラを目の前にして、息を呑む翔。

 確かに情報を聞き出すのは重要だ。今の状況では尚更そうだ。

 ひとまずそのまま黙って、翔は話を聞いてみる事にした。

 アクイラは微笑みを湛えたまま、真っ直ぐに翔と文彦を見据えて「よろしい」と言う。

 

「では、思い出させてあげよう。あの時何があったのかを」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「みんなの未来のために、お前を倒す! 行くぞ!」

「ああ、やはり人間は――美しい」

 

 時は、アズールメビウスに変身した翔と仮面ライダーパライゾになったアクイラが交戦するところまで遡る。

 

《アーカイブレイカー!》

「そりゃあっ!」

 

 変身後、即座に武装したアズールはパライゾへと盾による打撃を仕掛けた。

 しかし真っ直ぐに突き出された盾は、命中すると思われた刹那に空を切ってしまう。

 そしていつの間にか、パライゾはアズールの背後に回っていた。

 アズールメビウスと同様に、全身を粒子化する事によってショートテレポートが使えるのだ。

 

「フンッ!」

 

 背後から蹴りを繰り出すパライゾ。

 だが、その一撃も空振る。同じくアズールも粒子化し、正面の離れた位置で再生したのである。

 

「全く同じ力を使えるのか……」

「忘れたのかい? 君の持つ力は、元々僕が使うためのものだ。君にできる事は僕にもできるのさ。だからデータ・アブソープションも効かないよ」

「そうか、だったら!」

 

 アズールが、スターリットフォトンから四枚のプレートを形成。

 そしてそれらをアーカイブレイカーの表面にかざしていく。

 

《タップ! ロボット・アプリ! シノビ・アプリ! マジック・アプリ! ジェイル・アプリ! ジュピターエフェクト!》

「これならどうだ!」

《ジュピターフィニッシュコード! Alright(オーライ)! ジュピター・マテリアルバスタートルネイド!》

 

 盾から黄色い雷が上空に放出され、拡散して地に向かって轟く。

 テレポートによってどこから現れるのかが分からないのなら、全体を攻撃すれば良いという考えだ。

 しかし、パライゾはテレポートを使わない。彼が右腕を上空に掲げると、その周囲に七つのソフトボール大の球体が現れ、バリアを展開して攻撃から身を守った。

 

「なっ!?」

「君と同じように、僕にも武器がある。これがそのパライゾスフィア。今のは防御形態(ガード・フォーメーション)の木星天さ」

 

 ヒュンヒュンと音を立て、パライゾを太陽とするかのように七つの球体が回転運動を始める。さらに、それによって白い火の粉のようなものが吹き出て来る。

 攻撃が来る。それを察知したアズールは、スターリットフォトンを散布し、アズールセイバーやキアノスサーベルといった武器を無数に生み出した。

 先手を打って攻撃の手を一瞬でも止めるつもりなのだ。

 

「喰らえ!」

 

 全ての武器が投擲され、パライゾに殺到する。

 先程のバリアで防ぐ間に接近し、斬撃を繰り出そうと考えるアズールメビウス。

 しかし、パライゾはその想定を上回る。

 

「パライゾスフィア・火焔天」

 

 スターリットフォトンで武器を生み出したのと同じように、パライゾもアズールセイバーなどの武器を火の粉から作ったのだ。

 投擲された武器がぶつかり合い、互いの攻撃は全て相殺される。

 

「なんでこっちの武器を知ってるんだ!?」

「君たちの戦闘データは把握済みさ。七枚のマテリアプレートを通して、ね」

 

 即ち、今までのサイバーノーツの戦いが、そのままアクイラにもフィードバックされているという事だ。

 仮面の奥で翔は目を見張りつつも、再び攻撃に移った。

 

《タップ! ロボット・アプリ! ジェイル・アプリ! シノビ・アプリ! ダンピール・アプリ! マジック・アプリ! サターンエフェクト!》

「そぉりゃあああ!」

「パライゾスフィア・土星天」

《サターンフィニッシュコード! Alright(オーライ)! サターン・マテリアルバスターテンペスト!》

 

 盾から抜刀されたオレンジ色の光を放つアズールセイヴァーと、弧を描く形で配置されたパライゾスフィアから撃ち出された光の矢がぶつかり合う。

 アズールメビウスの一太刀は矢を真っ二つにするものの、必殺技そのものもまた相殺される。しかし、アズールはそれだけで攻撃の手を止めない。

 

「ハイパーリンクチェンジ!」

《スワイプ!! シャイニングサン、ハイパーリンク!!》

「そりゃあっ!」

「フフッ……パライゾスフィア・太陽天!」

 

 アズールメビウスの胸の紋章が太陽に変わると同時に、パライゾは手足や肩などにパライゾスフィアを装着。その両翼が紅蓮の炎を纏った。

 拳と拳、力と力の激しいぶつかり合い。パライゾもまた、シャイニングサンと同じ灼熱の拳を使っていた。

 

「二人の実力はほぼ互角ってとこか」

「だったら俺たちで翔を助けましょう!」

 

 リボルブとキアノスが言い、残る雅龍・ザギーク・ネイヴィ・ピクシーズも走り出す。

 しかし、その八人の前に黒い炎が壁のようにして迫り上がった。

 

「そうは行きませんよ」

「スペルビア……!」

 

 ピクシーがセインL・Rと共にレイピアを構え、リボルブも銃口を突きつけた。

 

「テメェが俺らの相手をするってのか? たった一人で?」

「いいえ。そもそもあなた方の相手をする必要など、最初からないのですよ」

「なに?」

 

 ニヤリと頬を釣り上げるスペルビア。

 直後、アズールたちが乗っている黒い球体が大きく揺れ動いた。

 見れば、黒い球体は既に地上を目前とした状態で浮遊しているのだ。

 

「そうか。もうそんな時間か」

「な、なんだ!? 何が起きてるんだ!?」

「戯れはこれで終わりだ。この世界の未来は、もうこれで決まった」

「一体何の話をしている!?」

 

 パライゾが含み笑いをしながら、天に両腕を掲げる。

 それと同時に、アズールたち仮面ライダー全員の身体にノイズが走り、変身が解除されてしまった。

 

「な!?」

 

 変化はそれだけに留まらない。

 黒い球体から巨大なケーブルのようなものが伸び出し、サイバー・ラインの大地に刺さる。

 ――それが、終焉の始まりだった。

 サイバー・ラインが軋み、歪む。ノイズが地上にも空にも広がり、ヒビ割れて砕ける。

 すると、風景は現実世界に変わっていた。

 地上では正月で騒いでいた人々の愕然とする姿や、触手(ケーブル)を伸ばす巨大な黒い太陽のようなものが落ちて来るというあまりにも非現実的な光景に半ば発狂する者もいる。

 

「どうして現実世界に!?」

「僕がやったんだ。君にできず、僕にだけできる方法で」

「え……!?」

「僕がカーネルドライバーとデジタルフォンを作った理由は、現実世界に顕現するためと鷲我から聞いているはずだ。そして、人類を支配するためだともね」

 

 翼を広げ、空を漂ってパライゾが翔を見下ろす。

 

「疑問に思わなかったかい? 情報生命体である僕がどうやって現実世界で肉体を得るか、どのようにして支配を成し遂げるのか。その答えがこれだ。現実世界と電脳世界(サイバー・ライン)の境界を取り払ったんだよ」

 

 ハッと目を見張る翔。

 デジブレインが現実世界に現れる際は、ゲートを必要としていた。そして周囲にゲートがないと、デジブレインは完全に消滅する。

 この黒い球体は、いわば地上全てにゲートを広げているようなものだ。地球とサイバー・ラインを融合させる事によって。

 

「そ、そんな……こんな事ができるなんて」

「落ち込む事はないよ。人類を滅ぼすつもりはない、むしろ君たちはただ幸せになれる」

 

 言いながら、パライゾはデジタルフォンを手に取りながらドライバーのマテリアプレートを押し込む。

 必殺技の発動だ。翔たちは逃れようとするが、全身を覆うノイズが身体の自由を奪っている。

 

《フェイタルコード!》

「苦しい現実(地獄)は終わりにしよう」

All Hail(オールハイル)! ナイトメア・デジタルクライシス!》

 

 そして、パライゾが必殺技を発動した直後。

 翔たちの視界が、真っ白に染まった。

 

「うわあああああっ!!」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「以上が、事の顛末だ。その後君たちは普通の日常を過ごしてたんだよ、今この時まではね」

 

 アクイラの話を聞き終えて。

 翔は、全てを思い出して絶句していた。

 やはり守れなかったという事だ。自分自身も、この世界も、青空も。

 

「お前の……お前の目的はなんだ!? こんな風に世界を歪めて、人々を支配して、一体何を企む!?」

 

 声を震わせ、翔はアクイラの胸倉に掴みかかって叫ぶ。

 すると、アクイラは微笑みながらその怒りと疑問に応対する。

 

「これは君の願いだ。君が望んだ結末だ」

 

 再び、翔は絶句した。予想だにしなかった答えに、顔を青褪めさせてしまっていた。

 

「な……に……? なに、を……言ってる……?」

 

 アクイラはテレポートし、その場から翔の背後へと移動する。

 

「戦いの前……カーネルドライバーの完成に必要な最後のピースが欠けていたために、僕は敗けた。その最後のピースとは、ドライバーを使うための『目的』だ。今の自分とは別の何かに変わる覚悟、目の前の壁を壊すために必要な意志の力だ。目的がある者にこそ、それは備わる」

「目的……」

「だけど僕には決めかねていた。人間を奴隷とするか、それとも死滅させるべきか? あの穴の中にいる間も、僕はずっと考え続けた。狭い穴の中でずっと、人間の感情と善悪について分析と学習と思考を続けていたんだよ」

 

 かつてアクイラは肇によって身体を失ってしまい、僅かなデータとバックアップを使って再生を図っていた。

 つまりその再生の間も、思考だけは続けられるような状態であったらしい。

 

「仮面ライダーに倒されてしまった後の僕の感情は、紛れもなく怒りや憎しみというものだった。必ず報いを受けさせるべきだと思っていたんだ。だけど……サイバーノーツのマテリアプレートから得たデータを吸収して、それが変わったんだ」

「変わった……?」

「本当に君のお陰なんだよ、翔。君のお陰で僕は人間を好きになれた」

 

 振り返り、翔は震えながらもアクイラを見る。アクイラも、熱の籠もった目で翔を見つめている。

 

「Cytuberとの戦いで……君は幾度となく敵対する者たちを討ち倒して来た。スペルビアによって膨れ上がり歪んだ欲望の数々を。そして、その度に彼らの奥底にある真の願いを見出し、救い続けて来た」

「……あ……」

「感動したんだ、ただのデータの塊のはずの僕が! 君は彼らの願いを取り戻し、進むべき幸福な未来へと導いた! 僕はその瞬間にやるべき事を理解した! 君は僕の願いも見出し、救ってくれたんだ!」

「ち……違う! 違う、僕は!」

「情報生命体やAI(人工知能)の本分は、人をより良い未来に導く事! 即ち我々デジブレインが、人々にとって幸福な未来を、楽土を築く事だ! それこそが支配の究極系であり、僕やデジブレインのあるべき形だったんだ! そしてこれは!」

「やめろ、やめろ!!」

「これは君自身が、心の奥底で願っていたのと同じ事だ! 皆が幸せでいて欲しい、皆に笑顔でいて欲しい。暴力や陰謀によって支配される事なく、全ての人類があらゆる願いを叶える優しい世界になって欲しいと!」

「く……!」

「これこそが、君の心を、君と戦って来た者たちの心を読み取って得た結論だ。何より君自身がこれを願っていたはずだ。進駒や律、彩葉……アシュリィを見た時も」

 

 かつて自分がCytuberたちにしていたように。

 自分自身の本質を突かれた翔は、次第に否定の言葉を詰まらせてしまう。そして身体を震わせ、焦点の定まらない瞳のまま膝をつく。

 そんな翔を横目に見つつ、今度は文彦が噛み付くようにアクイラに言葉を投げつける。

 

「上っから偉そうに、導くだのなんだのと。神にでもなったつもりか」

「神、ね……僕にそんなつもりはないが、もしも人がそうであれと望むのなら、僕はそうなるよ。男でいいといえばこのままでいるし、女になれというなら身体を書き換える。全てを壊せというならそうする。人類が強く望むモノになるのが、僕だ」

「気に入らねぇな。今すぐブチのめしてやりたいぜ」

「止めておいた方が良い。僕を倒したとして、後悔するのは君の方だろう?」

「……ケッ」

 

 図星を刺されたような、苦々しい面持ちになる文彦。

 彼が黙ってしまうと、アクイラは微笑みを崩して哀しそうに眉根を寄せる。

 

「サイバー・ラインと融合した今、この楽園こそが現実だ。彩葉の作る幻覚や、樹の作った領域とも違う。争いも起きず、挫折もせず、不幸になる事がない。誰もが苦しみや哀しみから解放されているんだよ。君たちが反逆の意志を見せさえしなければ……この世界に融け込めば、僕らも争う必要はないんだ。君だって愛する者たちを巻き込みたくはないだろう?」

「……」

「僕は離れた場所から人間を管理するだけ。ただそれだけで良い、君たちと戦いたくはない……仮面ライダーは、もうこの世界に必要とされていないんだ」

 

 それだけ言うと、アクイラはテレポートによってその場から立ち去る。

 翔は青さを失った淀んだ空を見上げながら、ただ慟哭した。

 

「……僕は、どうしたら良いんだ……!!」

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