仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.53[悪夢(楽土)か、現実(地獄)か]

「三日だ。1月15日に結論を出せ、それ以上は待たねぇ」

 

 天使たちから逃れ、アクイラとの対話を終えた後。

 告げられた真実に打ちひしがれた翔は、文彦からそんな事を言われた。

 

「いきなり……どういう事ですか?」

「言った通りの意味だ。俺は15日に連中をブチのめしに行く、それまでにはドライバーやプレートの調整も終わらせる。お前はどうすんだって話をしてんだ」

「……僕は……」

 

 空を見上げながら、翔は唇を噤む。

 分からない。そんな言葉が思わず出て来そうになった。

 実際、翔はこれから先どうすれば良いのかを悩んでいる。これまでの戦いと感情を読み取られて起きた事態である以上、これは自分のせいだ。自分の責任だと思っている。

 しかし、だからと言って何も考えずにアクイラを倒しに行く事はできない。

 改変された現実とはいえ、人々はこの十日間で楽土に耽り過ぎた。彼らにとって、今やこの状態こそが現実。少し前の翔自身がそうだった。

 それに――現実改変によって、死者さえ蘇っている。響が会いに行った面堂 彩葉の両親がそうだ。

 恐らく彩葉の記憶から構築された存在であり、アクイラを倒して現実改変を消せば、同時に消滅するだろう。そうなれば彼女を、当然響の事も哀しませてしまう。

 アクイラに恭順するか、叛逆するか。何度考えても、翔に答えを出す事はできない。

 

「僕は……どうしたら良いんでしょうか」

「バカかてめぇ。そんなモン俺に相談してどうなるってんだ」

 

 そう言って、文彦は翔を突っぱねる。

 

「俺はお優しい正義の味方じゃねぇ、人殺しの悪党だ。助言なんかするかよ」

「……」

「どっちにしろお前は自分から選ぶ事になる。戦うかどうかは自分で考えやがれ、俺は腑抜けと組むつもりはねぇんだよ」

 

 吐き捨ててその場から立ち去る文彦。

 翔も、アシュリィたちの様子が気になる事もあり、暗くならない内に家に戻る事にした。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「ただいま」

 

 いつものように、しかしどこか沈んだ表情で翔が言う。

 すると、ドタドタという三人分の足音と共に玄関にアシュリィとツキミとフィオレが現れ、一斉に翔に抱きついた。

 

「ショウ!」

「翔お兄様!」

「翔兄ちゃん!」

 

 勢い良く飛び出して来た三姉妹を慌てて受け止めると、翔は驚きながら彼女らへ問いかける。

 見れば、三人とも目に涙を溜めていた。

 

「ちょ、ちょっと……どうしたの一体!?」

 

 するとアシュリィが、真っ先に翔を上目遣いに見ながら憤る。

 

「どうしたじゃないよ! 大変なんだよ!」

「翔お兄様の帰りが少し遅くなるかも知れないからって、響お兄様が……」

「響兄ちゃんがキッチンに立とうとしてるんだよ!」

「えええぇぇぇ!? 兄さん待って待って待って待って待って!?」

 

 大急ぎで廊下を駆け、キッチンに向かう翔。

 丁度、響は包丁を握って野菜を切ろうとしているところだった。しかしその手付きは危なっかしく、猫の手という基本もできていないのでとても見ていられるものではない。

 

「おお、帰ったか翔。間に合って良かった」

「それこっちのセリフ! っていうか刃をこっちに向けて渡さないで、危ないから!」

「すまんすまん」

 

 呆れたように包丁を受け取る翔。

 直後、その刀身に反射した自分の顔を見て、ハッと目を見開く。

 髪と瞳が元に戻っている。否、再び現実改変によって見た目を変えられてしまったのだろう。

 さらに、翔の戦う姿を目撃していたはずの響は、何も訊かないどころかノーリアクションでいる。

 翔は確信した。この世界に居続けるというのがどういう事で、戦わずにいるというのが意味を持つのかを、目の前にいる兄の姿から理解した。

 

「忘れてしまうのか……楽土に必要のないものは、全部」

 

 アクイラの作った楽土では、争いが存在しない。

 つまり自分も抗う意志を失ってしまうと、同じように染まってしまうという事だ。

 戦いを選べば他者の幸福も巻き込み、戦わずにいればそれまでの本当の記憶を失う。中立でいる事などできはしないのだ。

 ここに来て、翔はようやく文彦の言っていた事の意味を理解した。

 

「ショウ、顔が暗いよ? どうしたの?」

 

 キッチンで立ち尽くしていると、アシュリィが心配そうに顔を見上げて隣から声をかけて来る。

 翔は首を横に振り、微笑みを作って「大丈夫だよ」と返してから、夕飯の準備に取り掛かるのであった。

 

 

 

 その後、翔たちは夕飯や風呂などいつものように思い思いに過ごし、就寝の時間となる。

 

「じゃあみんな、おやすみ」

『おやすみー』

 

 声をかけ、翔はアシュリィと共に自室に入る。

 アシュリィは部屋に入るなり素速くベッドに潜り込み、翔の顔を見つめながら両腕を拡げた。

 速く来いという事らしい。目が輝いている。

 翔は促されるままベッドに入り込み、アシュリィの身体をそっと抱き寄せた。

 

「あったかいね、ショウ」

「うん……」

 

 胸に頬を擦り寄せるアシュリィを、愛おしそうに抱きしめる翔。

 ほのかに香る白桃のような彼女の髪の甘い匂いに、柔らかい肢体の感触。それらが、翔の心を癒やしていくようだった。

 しばらくそうしていると、不意にアシュリィが顔を上げる。

 

「何か、困ってるの?」

 

 その言葉に、翔は目を丸める。顔に出していないつもりだったが、彼女にはお見通しだったようだ。

 すると考えている事が何となく分かったのか、アシュリィは得意げに微笑む。

 

「ショウの事ならなんだって分かるもん」

「ふふっ、じゃあ隠し事なんてできないね」

「そうだよ。それで何があったの?」

 

 問われると言葉に詰まってしまうが、アシュリィの真っ直ぐな目を見ている内に、翔の中で彼女に嘘を言いたくないという気持ちが強まっていく。

 そして、考えた末にひとつの質問を飛ばす事にした。

 

「アシュリィちゃんは今、幸せ?」

「うん。好きな人と一緒にいられるから」

 

 至極当然だとばかりに、自信満々にアシュリィが答える。それを受けた上で、翔はさらに尋ねた。

 

「じゃあ、もしも僕らの幸せやこの先の未来が他の誰かに作られてるもので、何をしても幸せな結末になるとしたら……その話が事実だったら、それでも幸せなままでいいのかな?」

「う~ん……?」

 

 頭を捻らせるアシュリィ。数秒の間考えた後、再び顔を上げる。

 

「それでもきっと幸せなんだと思う。ただ……」

「ただ?」

「なんだかその幸せって、窮屈だね」

「窮屈?」

 

 その言葉を耳にして、きょとんとする翔。

 アシュリィは、こくこくと頷いてその言葉の意図を話す。

 

「だって何をしても幸せになるって事は、自分で行きたい道を選べないんでしょ? 自分でやりたい事を選べないなんて、変だよ。間違っても良いから自分で未来を選びたい」

「……不幸な結末が待ってるかも知れないとしても?」

「そんな事にならないって分かってるから」

「どうして?」

 

 翔がまた尋ねると、アシュリィもまた微笑みを浮かべ、質問に応えた。

 

「ショウが、キョウやタダシやお姉ちゃんたちが、家族が一緒だもん。皆が一緒なら……どんな悪い結末だって、引っ繰り返せる。それを知ってるんだ」

「……!」

「そうやって私は今幸せに生きてる。ショウが私に幸せをくれたんだよ。たくさん、たくさん」

「そっ……か。そう、なんだ」

「だから目の前に落とし穴があったとしても、何か間違えそうになっても、誰かが傍にいてくれれば避けられるんだと思う。一緒に超えられると思うよ」

 

 えへへ、と可愛らしく笑みを零すアシュリィ。

 しかし直後に、その表情は当惑に染まる。

 

「あれ? でも、私ってどうやって……ショウと会ったんだっけ?」

 

 世界が楽土に染まる前の事を、思い出そうとしているのだ。

 その思考を中断させようとするかのように、翔はもう一度彼女を強く抱擁した。

 

「しょ、ショウ?」

「変な事を聞いてごめんね。この話はおしまいにしよう」

「うん……」

 

 アシュリィは頷き、ぐいっと顔を寄せて翔の唇を喰む。

 そして互いの目を見つめて笑みを交わし合い、長く深い夜に身を融かすのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 翌日、帝久乃市にあるホメオスタシスの地下研究施設にて。

 マテリアプレートとドライバーの調整を行っていたFこと御種 文彦は、翔から連絡を受け取っていた。

 今回はメッセージでのやり取りではなく、通話だ。

 

『自分がどうするのか、ようやく決まりました』

「ほう。だったら答えを聞かせて貰おうか」

 

 マテリアフォン越しでも、翔が緊張している事が分かる。しかし恐れからではなく、強い決意によるものだ。

 答えはなんとなく察していたので、文彦の口元に自然と笑みが零れた。

 

『僕は戦います。たとえそれが、今の皆の幸せを壊してしまうのだとしても』

「そうか。なら予定通り、15日に決行するぞ」

『……あの』

「あ?」

 

 文彦が通話を切ろうとする直前、翔から呼び止められる。

 どうやら、何か質問があるらしい。

 

『戦う人数って増えても問題ありませんか?』

「そりゃあ増える分には問題ねぇが……まさか、今更ホメオスタシスどもを頼る気か? あいつらがお前と同じように幸せを手放せるとは限らないぞ」

『分かってます。だから、戦えない人に関しては参加する必要がないと思ってます』

 

 そう言った後に「でも」と翔は続ける。

 

『僕が真実を知ったのと同じように、皆も知らずにいる事なんてできないと思います。そして、知った以上はどちらかを選ぶ必要がある』

「仲間に選ばせるってのか?」

『はい。自分の道は、自分で選ぶべきだと思ってます。僕はその選んだ道に寄り添って、手助けをしたい』

「……ククク」

 

 思わず、文彦は笑い声を漏らす。

 文彦が意識を失う前に会った頃の翔は、まだまだ戦う覚悟の足りない甘い少年という印象だった。

 それが今では、仲間を気遣いながらも厳しい道を選ばせようとしている。その成長、あるいは心情の変化が実に面白かったのだ。

 

「で、他に用事は?」

『じゃああとひとつだけ。今日の夕方、ホメオスタシスのメンバーでそっちにお邪魔します』

「は? こっちに……なんでだ?」

『御種さんの事を知って貰うべきだと思います。その上で、どうするか決断した方が良いかと』

 

 ドライバー調整の手を止め、文彦は考え込む。

 

「本気か? 俺が動いてると知ったら、少なくとも静間とお前の兄貴辺りは反発するんじゃねぇのか? 俺が何をしたか、忘れたワケじゃないだろ」

『でもこういう事は包み隠さず話すべきです。その上で選んで貰う。でなきゃアクイラを倒して、世界を元に戻すなんてできっこない』

「……どうなっても知らねぇぞ。じゃあな」

 

 通話を切り、再度アプリドライバーの調整に戻る文彦。

 三分しか変身を維持できない今のままでは、到底アクイラたちに勝つ事などできない。なんとか長時間運用する方法を見つけなくてはならないのだ。

 そう考えた時、真っ先に文彦が思い浮かんだのが、アプリドライバー∞の存在だ。

 

「どうにかして俺もアレと同じユニットを作る事ができれば……」

 

 そもそも、文彦の中にあるのもアクイラの力。あまりに肥大化してしまったそれが邪魔をして、長く戦えなくなったのだ。

 ならばアズールと同じように、ドライバーの出力を外付けのユニットによって引き上げれば良いという考えである。

 問題は、マテリアプレートの方もそれに合わせて調整し直さなければならないという点。

 今使っているBOOGIE WOOGIE ZOMBIE(ブギウギゾンビ)-VR(ヴェンジェンス・リターン)は、既存のBOOGIE WOOGIE ZOMBIE(ブギウギゾンビ)の性能をV3クラスまで上げた代物なのだ。

 

「こんな面倒な事になるなら、こっちは改造しねぇ方が良かったな」

 

 手に取ったブギウギゾンビVRのプレートを机に置き、大きく溜め息を吐く。

 そして、今はもう使っていないジュラシックハザードのマテリアプレートに目をやった。

 これはV2のまま、調整がされていない。本来はこちら側をドライバーに装填し、トランサイバーの方でブギウギゾンビを運用するという形式だったのだが、現在は失っているため不要となった。

 

「……一応、こっちも調整しておくか」

 

 そう言いながら、文彦はドライバーも含めたそれら三つの調整を始めるのであった。

 

 

 

 時は過ぎ、放課後。

 今朝に話していた通り、翔はホメオスタシスの地下研究施設を訪れていた。

 同行しているのは、響・鷹弘・翠月・浅黄・肇・アシュリィ・ツキミ・フィオレ、さらに鋼作と琴奈に陽子だ。

 なぜこの場所に来たのか、どうしてこのメンバーなのか、彼らには伝えないまま来ている。

 

「翔……お前、Z.E.U.Sの地下にこんな場所があるなんて、どうやって知ったんだ!?」

 

 驚きのままにそんな事を口走ったのは、鷹弘だ。

 翔は少し寂しそうな顔をして、それに答える。

 

「この場所を教えてくれたのは静間さん自身ですよ」

「なんだと?」

 

 覚えがない、と言った様子で鷹弘は片眉を釣り上げる。

 一行は奥にある開発室へと進み、翔が扉を開いた。

 そこでは当然ながら文彦が作業しており、彼は椅子に座ったまま振り返る。

 瞬間、翔と文彦以外の面々は、雷にでも撃たれたかのように飛び上がって文彦を指差し、驚愕の声を発した。

 

『あ……あああああーっ!?』

 

 彼らの愕然とする姿を目の当たりにした文彦は、くつくつと喉奥で笑い納得した様子で頷く。

 

「なるほどな。この状況になる前からアクイラの力を得てずっと眠っていた俺は、存在そのものが楽土にとって異分子。顔を見ただけで、全員お前と同じように目を覚ますって寸法か」

「そういう事です。こんな話、口で説明してもきっと分かんないだろうなって」

 

 翔は朗らかに微笑むが、突然記憶を取り戻した鷹弘はそうは行かない。

 かつての因縁もあり、文彦に対して陽子・響と共に掴みかからんばかりの勢いで迫る。

 

「なんでここにいる!? いや……そもそもどうして俺たちは戦いの事を忘れてたんだ!? 御種、お前の仕業か!? 何を企んでやがる!!」

「少し落ち着いて下さい皆さん、今から僕が説明します」

 

 文彦を庇い、翔はこれまでのいきさつを話す。

 黒い太陽が地に落ちたために、自分たちが戦いに敗れた事。その影響で、地上に住む者にとって都合の良い現実改変が行われる『楽土』が生み出された事。

 そして、翔をその状況から抜け出させたのがこの御種 文彦だという事を。

 

「助けただと、こいつが!? マジなのか……?」

「言ってる意味は分かるけど、正直信じられない」

 

 そう言いながらも、一度冷静に状況を見極めんとして、鷹弘と陽子は拳を下ろした。

 が、響は違った。憎しみに満ち溢れた眼差しを向け、胸倉を掴む。今にも殴りかかりかねない様子だ。

 

「兄さん!」

「こいつは……元作さんの命を奪った! 彩葉さんを悲しませた! 許せるはずがない、お前には分かるだろう!」

「だけどこの人がいなければ、僕らはこの楽土の真実に気付く事もなかった!」

「くっ!」

「堪えられない気持ちも分かるけど、せめて少しくらい僕の話を聞いてからにしてよ」

 

 歯を軋ませ文彦を睨みながらも、響も溜め息を吐いて手を下ろす。

 

「それで、ショウ。この現実改変の元凶を倒したらどうなるの?」

 

 全員が落ち着いたところで、アシュリィから出て来た質問。ツキミとフィオレも気になっているようだ。

 文彦はもちろん、翔も隠す事なく真実を打ち明ける。

 

「今さっきの皆みたいに、世界中の人たちの記憶と認識が元の状態に戻る。何もかも元通りになるんだ。だけどそれはつまり、現実改変で『存在している事になった人間』が消える事にもなる」

「じゃあ……アヤハのパパとママは?」

 

 ハッと響が目を見開く。やはり、翔は真実を告げた。

 

「多分消えてしまうよ。元々、本人の記憶と認識の中から生まれた存在だから」

「そう、なんだ」

 

 アシュリィが俯き、響は青褪める。

 彼は、少し前に彩葉の両親と直接出会っている。たとえそれが、彩葉の記憶から生み出されたモノだとしても。

 その事実を全員が認識したと見て、翔は声を張り上げた。

 

「皆に言っておきたい事がある。僕は、15日に御種さんと一緒に外にある敵の本拠地に殴り込むつもりだ」

「なっ……」

「その時皆がどうするのか。当日までに各自で決めて欲しい」

 

 ザワッ、と室内で動揺が広がる。構わず彼は話を続けた。

 

「楽土に留まりたい人はそのまま日常を過ごしてくれ。でももし戦いを選ぶなら、15日にここで集合しよう。以上」

 

 翔が話を終えて解散を宣言する。

 響の表情は優れなかった。自分の事はともかく、他人の今の幸せまで踏み躙る事になると言われ、しかも彩葉まで巻き込む事に躊躇しているのだ。

 その時、肇が歩み出た。

 

「もしかしたらアクイラに先手を取られて、この場所が襲撃されるかもしれないだろう。俺は15日までここで過ごす」

「父さん……分かった、お願い!」

 

 翔が微笑み、さらに続いて鷹弘が手を挙げた。

 

「俺も、そこの御種を見張らせて貰う。万が一にも逃げられたら困るからな。陽子、お前はどうする?」

「もちろん付き合うわよ。楽土を壊したって、私たちは絶対に幸せになってやるんだから!」

 

 そう言った陽子が鷹弘の腕に抱きつき、さらに鋼作と琴奈がひらひらと手を振った。

 

「俺も残る。どうせ明日・明後日は休みだ、連絡係や街の状況を把握できるようにした方が良いだろ」

「じゃ、あたしも! 鷲我会長にも連絡しとかないとね!」

 

 当日までまだ時間があるというのに、皆が段々とその場で決断し始める。

 さらに、浅黄も声を上げた。

 

「じゃあ電特課の皆にはウチから連絡しとくねー。ゲッちゃんどうする?」

「街の周辺でもパトロールして、地道に調査だな」

 

 これで方針が決まっていないのは、響とアシュリィたち三姉妹だけだ。

 しかしアシュリィたちも、きっと翔と共に立ち向かうのだろう。

 響だけが迷っている。そんな彼の心情を察してか、翔は兄の肩に手を置いて語りかけた。

 

「さっきも言ったけど今すぐ決める必要はないからね。特に、兄さんは彩葉さんと話してからの方が良いと思う。僕もアシュリィちゃんと話して、ようやく決心したから」

「翔……」

「時間はまだあるから、明日ゆっくり話しておいでよ。今日はもう帰ろう」

 

 翔に促されて、響は弱々しく頷く。

 こうして、翔たちは先に帰路に向かうのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 14日。響は彩葉の自宅を訪れた。

 玄関の前で出迎えてくれた彼女に挨拶をし、すぐに中へ入る。

 

「……彩葉さん、実は大事な話があるんだ」

 

 リビングに入ると、深刻な面持ちで響はそう切り出した。

 すると、彩葉は――目に涙を浮かべつつも、微笑む。

 

「え!?」

「分かってる、分かってるよ。私のお父さんとお母さんの事でしょう……?」

「どうして……?」

「あなたと会った時の事、お母さんたちとと話したくて、思い出そうとしたら……どうしても、違和感があって」

 

 リビングには人の形をしたノイズのようなものが、テーブルの前に座っている。

 恐らく彩葉の記憶を読み取って生まれた、両親の代わりとなるモノだ。彩葉も響も、それを哀しそうに眺めている。

 

「前々から、変だなって思ってたの……だけど、思い出そうとする度に頭が痛くなって、怖くなって……いつの間にか忘れてしまう」

 

 震えて涙を堪える彼女の体を引き寄せ、安心させるように自分の胸に抱く響。

 次第に耐え切れなくなったのか、彩葉はわんわんと声を上げて泣き始め、響自身も目に涙を溜めて抱き締める。

 それからしばらくの後、僅かばかりに落ち着いた彩葉は、響の顔を見上げて言い放つ。

 

「戦って、響くん」

「……本当に、良いのかい?」

「思い出の中で甘えて怠けるなんて、それじゃデカダンスだった頃の私と同じ。前に進んでるように見えるだけで、立ち止まって勝手に進むのを待ってるだけよ。そんなの……全然幸せじゃない」

「彩葉さん……!」

「だからお願い。私たちを助けて、仮面ライダー」

 

 彼女の口から出た、祈りのような懇願。

 響は、戦うべきかどうか分からず、ただ迷っていただけだ。始めから戦いたくなかったのではない。

 そして彼の中にある迷いは、とっくになくなっていた。

 

「分かった」

 

 彩葉の両肩に手を置き、響は真っ直ぐに彼女を見つめる。

 

「俺は必ずアクイラを倒して、君の元に帰ると約束する。だから信じて待っていてくれ」

「……うん!」

 

 微笑み合う二人。

 直後に、響は意を決した様子で拳を握り込む。

 

「もうひとつ、俺たちでやっておかなければならない事があるな」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 そして、決戦当日。

 ホメオスタシスの地下研究施設には鷲我らも加わり、すっかり元通りになっていた。

 違う事があるとすれば、文彦の存在が研究員たちの空気をピリピリとさせている事くらいだろう。文彦自身は、そしらぬ顔をしている。

 また、決行時間も目前であるというのに、この場には響の姿がない。

 

「響くん……やっぱり、戦いたくないのかな」

 

 目を伏せる琴奈。しかし、それを否定するかのように、入口の扉が勢い良く開かれた。

 

「遅くなってすまない!」

 

 声の主は響であった。戦う事を決断し、ここに現れたのだ。

 それだけではなく、彩葉や進駒、律を伴っている。これには鷹弘たちだけでなく、翔も驚いていた。

 

「水臭いですよ翔さん! 軍略家であるボク抜きで最後の戦いをしようなんて! 少しは恩返しさせて下さい!」

「アタシなんかに、何ができるか分かんないけどさ。せめてここで精一杯応援させてよ。アンタらのしてくれた事、忘れたくないもん」

 

 進駒と律の激励を受け、翔は微笑みながら、二人と固く手を結んだ。

 一方の響は、感激している弟の様子を眺めた後、キッと文彦の方を睨む。

 

「ほう……ククッ、良いねぇ。Cytuberが揃い踏みか」

「御種 文彦。彼らにとっての本当の未来を取り戻すために、お前を利用させて貰うぞ」

「フン、まぁせいぜい勝手に頑張りな」

 

 ひらひらと手を振り、文彦は笑いながら響に背を向けた。

 こうして、ホメオスタシスの攻略作戦は幕を開ける。

 まずは侵入経路。仮面ライダーたちはそれぞれ量産型のフォトビートルを一体ずつ伴い、各々の所有するマシンでケーブルを伝って、上空に浮かぶ島へと移動する。

 フォトビートルによる状況のナビゲート役には、鋼作・琴奈・陽子・鷲我・宗仁・進駒・律・彩葉が買って出た。

 

「上陸した後は、周辺の調査だ。恐らくアクイラに辿り着くまでに、敵と交戦する事になるだろうぜ」

「そういえばあの天使みたいなのって何なんですか?」

「ありゃ感情を完全に取り払って戦闘・鎮圧に特化させた、警備デジブレインだ。今のアクイラにとっちゃベーシックタイプと同じ、戦闘員レベルの戦力だ」

「あの強さでベーシックと同じ……!?」

 

 さらりと流した文彦の言葉に、戦慄する翔。

 しかも戦闘員レベルであるという事は、登っている間にも何体も襲いかかって来る可能性が高い。

 

「とはいえ、どっちにしろ大した戦力じゃねぇ。無視して上陸を優先しろ。一番の問題はあの島の情報が何も分かってない事だからな」

「真ん中の塔らしきものが敵の根城なのだろうが、恐らく簡単に侵入を許してはくれないだろうな」

 

 翠月の発言に文彦も同意し、鷹弘も頷く。

 そして、総員が準備と配置に取り掛かった。

 

「どんな危険があるか分からない以上、離れて行動しない方が良いかも知れねェ。とにかく一点突破で行くぞ!」

『了解!』

 

 鷹弘の号令と同時に、仮面ライダーたちは外へと飛び出した。

 この悪夢のような楽土を滅ぼし、本当の青空を取り戻すために。




「……哀しいな、翔。抵抗するというのか。僕と同じ道を歩むつもりはないというのか」

 そこは、浮遊する島の塔の中。
 玉座に腰掛けながらモニターで外界の楽土を監視していたアクイラは、嘆きながらそう言った。
 彼の前には、白いローブを纏う七つの異形の生命体(デジブレイン)と、黒スーツ姿の孔雀の仮面の男、スペルビアが跪いている。
 そして、もうひとり(・・・・・)。デジブレインたちと同じく、真っ白なローブを身につけた男が、柱に背を預けて佇んでいた。

「如何なされますか、我が主」

 口元に深く笑みを刻み込むスペルビア。彼を見下ろしながら、アクイラは腕を前に掲げた。

「やむを得ないだろう。彼らを打倒し、再び楽土に還せ」
「御意に」

 デジブレインたちと共に頷き、スペルビアはその場から姿を消す。
 白ローブの男も、ゆっくりと柱から離れて出口への扉を開いた。

「なぜだ、なぜ自ら幸福を手放すんだ……翔……」

 理解し難い、と言いたげな苦々しい面持ちで、アクイラは独り呟いた。
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