仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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「オイオイ、マジかよ!? なんで『そいつ』があそこにいるんだ!?」

 原罪の創世巨塔、その屋上で破壊された八機のフォトビートル。
 それらを破壊した男の素顔を見ていた彩葉は、ホメオスタシスのメンバーに彼の正体を話していた。
 話を聞いた宗仁は、目を見開いていた。彼だけでなく、陽子や琴奈、進駒たちもだ。

「あの人、向こう側についていたのか!」
「楽土の影響で元に戻ってたのね!」

 口々に騒ぎ立てる一同。マテリアフォンへと通信を試みても、戦闘中なのか他の要因があるのか、塔の中の面々と連絡がつかなかった。
 そんな中、鷲我も焦った様子で新しいフォトビートルを操作している。

「早くこの事を知らせなければ……!」


EP.55[魔獣殲戦]

「排除、排除」

 

 原罪の創世巨塔で始まった、仮面ライダーたちとデジブレインの戦い。

 その地獄の間において、ネイヴィはグリフォンと、キアノスはフェニックスと対峙していた。

 

「トォッ!」

「ハァッ!」

 

 カッターアームを振り下ろし、グリフォンの腕に傷をつけ、反対の拳で殴るネイヴィ。

 キアノスもサーベルでフェニックスの胸を突き、さらに脇腹へと回し蹴りを炸裂させた。

 

「排除」

「……排除」

 

 しかし、仰け反ったりよろめく事はあっても、二体のデジブレインに大したダメージがあるようには見えなかった。

 不気味に思い、キアノスはサーベルを構え直して警戒する。

 

「ちゃんと効いてるのか……?」

「手応えはあるが、どうにもな」

 

 ネイヴィが答え、カッターアームを別のプレートに変換しようとする。

 その瞬間、グリフォン・デジブレインが嘴を開き、口内から一直線に荷電粒子砲を放った。

 

「うおっ!?」

 

 咄嗟にマントを翻して直撃を避けるものの、カタルシスエナジーによって発生したバリアが突き破られ、マントは焼けてボロボロになった。

 さらに、隙を突かれてグリフォンの爪が襲いかかり、ネイヴィはプレートを取り落してしまう。

 

「く、しまった!」

「排除」

 

 さらに体勢を崩したネイヴィへと、フェニックスが煌々と燃える羽根を飛ばして繰り出す。

 このままでは、羽根が突き刺さってネイヴィの身体は炎上するだろう。

 しかし、そこにキアノスが立ち塞がり剣を振って羽根を割いた。

 

「させないぞ……!」

「排除」

 

 キアノスがそう言いながら断ち斬った羽根。

 それらはひとりでに動き出し、炎へと変わって矢のようにキアノスへと殺到する。

 

「なっ、ぐあああっ!?」

「響っ!?」

 

 身を焼かれて悲鳴を上げるキアノス。

 助けに入ろうとするネイヴィだが、再びビームがグリフォンから放たれ、さらに爪が胸や肩の装甲を斬り裂いた。

 

「くうっ!」

 

 次第に肉が削げ、ネイヴィはスーツの内側から出血。キアノスも炎を振り払ったかと思えば、フェニックスが燃え上がる爪で追い撃ちをかけ、再び装甲が灼ける。

 

「……父さん、使って!」

 

 そう言いながら、キアノスは背後へプレートを放り渡す。ネイヴィもそれを素速くキャッチすると、左腕のリングへ装填する。

 

「ガジェットチェンジ」

RIDE ON(ライド・オン)! センチピード・ガジェット、コンバート!》

「トォッ!」

 

 左腕に形成された鋼鉄の鞭がグリフォンの頭と腹を打ち据え、さらにネイヴィのプレートを拾い上げたキアノスはそれをサーベルに装填。必殺技の準備に移った。

 

《フィニッシュコード!》

「行くぞ!」

 

 振り抜いた剣を、グリフォンへと突き立てんとするキアノス。

 その寸前、両腕で自分の体を守るフェニックスが間に割って入り、炎を噴出して庇おうとする。

 だが。キアノスとネイヴィは、仮面の中でニヤリと笑い、同時に叫んだ。

 

『その手は読めているぞ!』

 

 見れば、フェニックスの脚には既にセンチピードの鞭が巻き付いていた。

 ネイヴィは思い切りフェニックスを壁側へと投げ飛ばし、さらにベルトのマテリアプレートを押し込んでグリフォンの方に飛びかかる。

 

《フィニッシュコード!》

「ライダー……パンチ!」

Alright(オーライ)! サイクロン・マテリアルエンド!》

「トォォォーッ!」

 

 深い青のエネルギーを纏った右拳が顎にヒットし、全身がグルリと半回転して頭が地面に叩きつけられる。

 強烈な一撃にも耐えていたものの、グリフォンの頭からは火花が吹き出し、眼球が両方飛び出ている上、頭が上下逆さまになるほどに首が曲がるという悲惨な状態になっていた。

 それでもなお、グリフォンはふらつきながら強靭な爪で斬りかかる。

 ネイヴィはあえて避ける事なく右腕の装甲を使って受け止め、出血しつつも側頭部に回し蹴りを放った。

 

「ハい、じょ……排除……ジョ……」

 

 蹴りを受けたグリフォンは、煙を吐き出しながらゆっくりと口を開き、粒子砲を放たんとする。

 だが、既にネイヴィは続けてもう一度プレートを押し込んでいた。

 

「ライダー……キック!」

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! サイクロン・マテリアルエンド!》

「トォォォォォーッ!」

 

 ネイヴィの全身からカタルシスエナジーが漲り、跳躍と同時に右足が突き出される。

 その直後にグリフォンの荷電粒子砲が放出、ネイヴィのライダーキックはそれを弾いて天井へと逸らし、獅子の肉体へと炸裂した。

 

「は……イ……」

 

 メキメキと音を立ててグリフォンの胸に風穴が開き、そこから亀裂が全身へと広がる。

 そして、グリフォンは粉々となり、全身がデータの塵となって消えた。

 

「勝ったか……ぐっ!?」

 

 右足で着地した直後、ネイヴィは膝をつく。

 見れば、足の装甲がほとんど溶けてしまっていた。荷電粒子砲の一撃は、完全に防げてなどいなかったのだ。

 

「少しばかり、無茶だったな」

 

 足への痛みで苦悶しつつ、よろよろと立ち上がろうとするネイヴィ。

 その背後から、翼を広げたフェニックスが襲いかかった。

 

「排除、排除」

 

 爆炎と共に爪を振り下ろさんとするフェニックス。

 しかし、その背中から腹へとキアノスのサーベルが貫通する。

 

「排……除……」

「甘く見るなよ。俺たちだって、半端な覚悟でここまで来たワケじゃないんだ」

 

 噴き出す炎に焼かれながらもそう言って、キアノスはマテリアフォンを剣にかざす。先程のプレートで必殺技を発動したのだ。

 剣先にドリルめいて高速回転するエネルギー体が付与され、フェニックスの身体はたちまち粉々に削り取られていく。

 

Alright(オーライ)! DRILL(ドリル)・マテリアルスライサー!》

「ハァァァァァーッ!」

「ジジジジジジョ」

 

 フェニックスの身体が上下に分かれて千切れ飛び、さらにキアノスはアプリドライバーのマテリアプレートを押し込んで必殺技を発動。

 上半身だけとなっても炎を飛ばそうとするフェニックスへと、自らの右拳を叩き込んだ。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! アーセナル・マテリアルバースト!》

「終わりだァーッ!」

 

 その一撃はフェニックスの顔面を打ち、微塵に砕く。

 これで、二体のデジブレインを打倒した。

 だが今もまだ地獄の間では戦いが続いている。ザギークとジェラス、その相手はユニコーン・デジブレインとマーメイド・デジブレインだ。

 

「排除」

「排除」

 

 聞き飽きた、とばかりにジェラスが肩を竦める。さらに、右手の人差指をクイクイと招くように動かした。

 

「分かったからさっさとかかって来い」

「ちょっ!? 挑発しないでよ!」

「うっせぇーな。どうせ聞きゃしないんだから良いだろうが」

 

 ジェラスがそう言った直後。

 二体のデジブレインは、一斉にザギークに向かって攻撃を始めた。

 

「えぇっ、なんでウチィ!?」

 

 マーメイドが音波を発して攻撃し、ユニコーンは稲光を放出して素速く突進。ザギークは突然の事態に慌てるが、ジェラスが彼女の前に立ち、攻撃からかばった。

 

「御種……!?」

「効かねぇな」

 

 攻撃を受けても、仮面の奥で笑い声を上げるジェラス。ブギウギゾンビの痛覚遮断能力と不死の力は、そのまま搭載されているのだ。

 

「排除シークエンス、けいぞ……」

「遅ぇ!」

 

 再び音の塊で攻撃しようとするマーメイドへと詰め寄り、その細い首を引っ掴むと、ジェラスは勢い良く自らの頭をマーメイドの頭に叩きつける。

 その一発でマーメイドの頭がへこみ、ジェラスは構わずさらにもう一度鋭い頭突きを繰り出した。

 今度は右眼がポンッと飛んで地に落るが、それでもマーメイドは音で反撃する。

 ジェラスの仮面にも亀裂が走り、音の衝撃が全身を襲っているはずなのだが、当の本人は意に介さない。そればかりか、負傷が自動的に再生していく。

 

「効かねぇっつってんだろ!」

 

 そう言ってマーメイドを地面に押し倒すと、手にしたレヴナントアックスの刃を喉元に何度も何度も、狂ったように打ち付けた。

 

「ヒャーハハハハァッ! 面白ぇなぁオイ、マグロの解体ショーみたいじゃねぇかぁ!?」

 

 首が半ばまで切られてガクガクと頭を震わせながらも、身を起こそうともがいた。

 だが、ジェラスがそれを許さない。頭を踏みつけ、さらに両肩についた蛇頭が外れてカタルシスエナジーを纏い、大蛇と化してマーメイドを拘束する。

 さらにドライバーのマテリアプレートを押し込んだジェラスは、その体勢のまま必殺技を発動した。

 

《クルーエルフィニッシュコード!》

「ハ……ハイ、じょ……」

「今更お前なんざ俺の敵じゃねぇんだよ」

Alright(オーライ)! リターン・マテリアルトリーズン!》

 

 言いながら、エネルギーの集約した右足にグッと力を込める。

 マーメイドはそのまま頭を粉々に踏み砕かれ、爆散。飛び散る破片を返り血のように浴びながら、ジェラスは高笑いする。

 

「ヒャッハハハ! たまんねぇなぁ、久々の戦いの感覚……!」

 

 徐々に消えゆくマーメイドの身体も蹴り飛ばし、完全に消滅させて勝利を収める。

 しかし、ザギークは残るユニコーン・デジブレインに苦戦していた。

 

「ひぃ~! ちょっとマジでキツいんだけど!」

 

 頭部の角からの雷撃や、豪腕・豪脚によって放たれる激しい攻撃。

 ザギークはスピーディチューンで回避に集中するが、反撃の余裕がまるでない。

 その上、ユニコーンの猛攻は段々とザギークの体を掠め始めていた。

 

「ヤバッ……!」

 

 このままでは確実にやられてしまう。劣勢を打破する方法がないワケではないが、浅黄自身にも大きな負担を強いる事になるだろう。

 とはいえ、手をこまねいてばかりもいられない。ザギークの判断は決まった。

 

「こうなりゃもうヤケクソだー!」

《ジェットマテリアラー!》

《フレンドーベル!》

 

 パッドを指先でタッチし、マシンとドーベルマン型のサポートロボットを召喚。ユニコーン・デジブレインにけしかけ、足止めさせる。

 

「もっかい!」

《ジェットマテリアラー!》

《フレンドーベル!》

 

 ザギークはさらにもう一度、同じ操作を行う。今度は雅龍用のものが現れ、同じくユニコーンを攻撃する。

 当然、ただそれだけで倒せる相手ではない。よってザギークは、さらにアプリチューナーにも手を伸ばした。

 

《パワフルチューン! テクニカルチューン! スピーディチューン!》

「このくらいの限界超えらんなきゃさぁ! アクイラの作った楽土なんてブッ壊せないでしょーが!」

Oh YES(オゥ・イエス)! マテリアライド! マキシマム・フルチューンアップ!》

 

 ザギークがマキシマムチューンとなり、跳躍する。

 この形態は一分というごく短い時間でしか運用できない。加えて、ザギークの戦闘力ではこの形態となったとしても攻め手に欠ける。

 ではなぜ使用したのか。その答えは、先程呼び出した四機のマシンにあった。

 タブレットドライバーを扱うザギークは、二つのマシンとの合体によって、ワイルドジェッターという特殊形態に移行できる。

 今回はそれを、四機で行うというのだ。

 

「うううおおおおおっ!」

 

 ジェットマテリアラーが背中と両脚部に合身し、さらに四肢にそれぞれフレンドーベルの強靭な爪が合体。

 空中を浮かびながら、ザギークはユニコーンにその鋭爪のついた前肢を突きつける。

 

「これが! 最終決戦のために調整した……デュアルワイルドだぁーっ!」

 

 叫びながら、ザギークは敵に向かって急速降下。すれ違いざまに爪で斬り裂く。

 その脅威的なスピードに、ユニコーンは一切の反応ができず、右腕の肘から先が消滅してしまう。

 

「排……除」

「けふっ……へへっ、どんなもんよ」

 

 得意げに笑いつつも、咳き込む浅黄。ヘルメットの隙間からは、血が流れ落ちていた。

 強大なスペックを持つデュアルワイルドだが、大きな弱点がある。その性能故にマキシマムチューンでなければ維持できず、かつ変身者への負荷も凄まじいものとなるのだ。

 通常のマキシマムチューンならば一分保つザギークも、この形態は十秒程度が関の山。それでも彼女は、勝つためにこの姿になる事を選んだのだ。

 

「排除、排除」

「させないよ! これで終わらせるから!」

《パニッシュメントコード!》

 

 パニッシュメントアイコンをタッチしながらザギークが言い、空を舞う。

 そして、センサーに指で触れて両脚を突き出し、必殺を放った。

 

Oh YES(オゥ・イエス)! マキシマムフォレスト・マテリアルパニッシャー!》

「ウチの全力ぅぅぅっ! いっけぇぇぇぇぇーっ!!」

 

 頭上から蹴り出された超高速のドロップキックが、反撃として繰り出された雷を真っ二つに斬り裂き、ユニコーンの胴体に炸裂。

 たった一撃で完全消滅せしめ、同時にジェットマテリアラーとフレンドーベルも砕け散ってしまう。あまりの出力に耐え切れなかったのだ。

 変身が解除されて勢い良く地面に投げ出された浅黄は、そのまま血液を嘔吐した。

 

「げぇあっ……うぐぅぅぅっ!?」

 

 息も絶え絶えになりながらも、浅黄は立ち上がろうとする。

 もうデュアルワイルドは使えない。しかも肉体への反動によって、彼女自身もほとんど限界だ。

 

「浅黄さん!」

「浅黄!」

 

 彼女の苦しむ様を目撃した響と肇が駆けつける。彼らも負傷しているのだが、それでも手を差し伸べようとしている。

 浅黄はニッと笑い、よろよろとしながらも手を借りずに立ち上がった。

 

「だいじょぶ、ウチはまだやれるよ!」

「……無理はしないで下さい、死んでしまったら元も子もない」

「ちょっと反動がキツかっただけだって! 大丈夫、まだアクイラと戦えるくらいの体力は残ってるよ!」

 

 そんな三人の様子を傍から見ていた文彦は、自らの掌を見て眉をひそめる。

 彼の両手は、灰色がかったノイズに包まれかけていた。文彦が強く歯を食いしばり、グッと拳を握ると、ノイズは消失する。

 肇はその文彦の様子を不思議に思い、声をかけた。

 

「おい、どうした」

「なんでもねぇよ。それより、どうやら先へ進めるようだぜ」

 

 文彦が指を差した方向、部屋の中央にはゲートが生み出されている。

 肇と響、そして浅黄は頷き合い、文彦も伴って先へと進むのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 同じ頃、リボルブ・雅龍・ピクシーズもデジブレインたちと交戦していた。

 

「オラッ!」

 

 リボルブと対峙しているのは、金棒を持ったゴブリン・デジブレイン。

 左拳を掌で受け止め、鈍器を振り回して殴打してくる。

 

「排除」

「チィッ!」

 

 身を反らして重い金属の塊を避けるリボルブ。そして動きながら、右手に持ったヴォルテクス・リローダーで発砲し、反撃に移る。

 

「排除、排除」

「ぐっ!?」

 

 ゴブリンは銃撃で足を射抜かれても肩を撃たれても、目や鼻が砕かれようともお構いなしに突撃し、ついに金棒がリボルブの胸を打ち据えた。

 あまりの痛みに、膝から崩れ落ちるリボルブ。そのままゴブリンはもう一度金棒で叩く。

 左肩に強烈な一撃が振り下ろされ、ミシッと音を立てる。

 

「があああっ……!」

 

 肩を手で押さえ、リボルブは苦悶する。しかし休む間もなく、ゴブリンが金棒を振り上げる。

 今度は頭を打つつもりだ。それを察して、リボルブはまさしく弾丸のように飛び出し、全身でぶつかって行った。

 

「排除」

「やらせるかよクソが!」

《リボルブラスター!》

 

 叫んだリボルブは金棒をゴブリンの手から蹴っ飛ばし、二つの銃口を突きつけて連射し続ける。

 倒れたゴブリンの両腕は吹き飛ぶが、それでもリボルブの腹を蹴ってから立ち上がった。

 

「こいつ……!?」

「は、イじ、ョ」

「させねェっつってんだろうが!!」

《リボルビングフィニッシュコード!》

 

 言いながら、今度はヴォルテクス・リローダーをドライバーに装填。そして、マテリアフォンをかざして炎の翼で飛翔し、ゴブリンに飛びかかった。

 

Alright(オーライ)! ラプターズ・マテリアルエクスプロージョン!》

「くたばりやがれェェェッ!」

 

 ゴブリンの頭へと火炎の蹴りが命中。その首から上が消し飛び、胴体も燃え移って消滅する。

 しかし敵はゴブリンだけではない。雅龍とケルベロス・デジブレインの戦いが、まだ続いていた。

 

「排除。排除。排除」

「く、こいつ……!?」

 

 未だ取っ組み合いになっている二人だが、徐々に自分の方が押されているのを感じて、雅龍は驚きを隠せなかった。

 それもそのはず、サスペンドブラッドの冷気を浴びているはずのケルベロスは、凍りつくどころかまるで勢いが衰えないのだ。

 しかも、今までのように体内へ流し込む事もできていない。

 

「何故だ、何故効かない!?」

 

 パワーもケルベロスの方が上だ。このままでは腕が圧し折られるだけだと感じて、雅龍はケルベロスに頭突きを食らわせ、腕を離した瞬間に袖口のノズルからインク弾を放つ。

 その直後、雅龍は知った。ケルベロスに冷気が通用しなかった理由を。

 頭部と両肩にある犬の口が、冷気やサスペンドブラッドを吸収して自分のエネルギーに変換しているのだ。しかも高熱を持った体毛は、体の内側にサスペンドブラッドを通さず無力化する。

 

「なんて相性の悪い……!」

 

 雅龍はスタイランサー・スピアーモードを手にし、目の前の屈強なデジブレインに素速く穂先を押し込む。

 だがケルベロスは意に介さず、胸を貫かれながらどんどん足を進めた。

 

「なっ!?」

「排除、排除」

 

 インク弾を撃ち込んでも、当然ケルベロスの足は止まらない。

 接近したケルベロスの爪が雅龍の体を斬り裂き、拳が装甲をひしゃげさせる。

 

「ぐ、あっ」

「排除」

 

 さらに続く攻撃。両腕のノズルも破壊され、圧倒されていた。

 

「……ならば!」

 

 倒れ込みそうになる寸前、足に強く力を込めた雅龍が、距離を取って拳を構え直す。

 槍が効かず凍結もしない相手。それに対抗する術は、雅龍にはたったひとつしかなかった。

 

「ホォアタァァァーッ!」

 

 徒手空拳だ。直接体に冷気を叩き込んでも通じないため、サスペンドブラッドは使わずにただひたすら拳を打ち込み続ける。

 雅龍の力ではなく、翠月自身の技術である中国拳法。

 目にも留まらぬ高速の連続打撃、それこそが唯一通じる攻撃手段だ。

 

「排除」

「アタァッ!」

「排……除」

「ホァァーッ!」

 

 毛の薄い肩や脇腹、関節部と下顎などに拳打・蹴撃が命中する度、ケルベロスの肉体は鈍い音を立てる。

 そして何度目かの関節への一撃で、ケルベロスは足が軋み、歩行さえ困難になる。

 

「今だ!」

《マスタリーパニッシュメントコマンド! Oh YES(オゥ・イエス)!》

 

 三回連続でマテリアル・ネクステンダーのスイッチを押し、雅龍はケルベロスのへと蹴りを繰り出した。

 

《ブリザード・マテリアルターミネイション!》

「ホアタアアアアッ!」

 

 腹に出来上がった亀裂から、サスペンドブラッドが体内に流し込まれる。

 体毛が冷気を無力化するとしても、この方法ならば別。ケルベロスは全身が凍結し、雪のような白い塵となって消える。

 

「なんとか、勝てたか……」

 

 ふぅ、と雅龍が息をつく。

 その一方、ピクシーズもまたサキュバス・デジブレインとの交戦状態にあった。

 

「排除」

 

 尻尾を突き出し、鞭のように振り回すサキュバス。それをナックルガードで受け止めたセインLは、衝撃を音に変換して返すように放つ。

 だが、サキュバスは軽々と飛んで避けた。さらに右腕から三つの光の球体を生み出し、弾丸のように三人へと放つ。

 

「うわあああ!」

 

 光弾が命中し、地面を転がされる三姉妹。

 数の上ではピクシーズの方が多く有利なはずなのだが、やはりそこは経験の違いか、素速く立ち回るサキュバスに圧倒されてしまっていた。

 

「ど、どうしましょうアシュリィ!?」

「こいつ速すぎるよ!」

 

 レイピアで斬りかかっても、相手のスピードのせいですぐに距離を開けられる。射撃用の武器もない。

 考えた末に、ピクシーはゆっくりと顔を上げた。

 

「……ひとつだけ方法があるかも。試してみる価値はあるよ」

 

 ひそひそとセインL・Rに話しかけた後、ピクシーは剣を掲げて頷く。後ろで二人も頷き、同じように剣を構えた。

 

「さぁ、行くよ!」

「おー!」

 

 ピクシーとセインRが、レイピアを手にサキュバスへと飛びかかる。

 

「排除」

 

 当然サキュバスは斬撃を避け続けるが、ピクシーたちは反撃の暇を与えず、何度も何度も飛び込んでいく。

 その戦いを眺めながら、セインLはレイピアのナックルガードを手で叩きつつ、サキュバスの背後に回り込んでいた。

 そしてピクシーとセインRがサキュバスを前後に挟む形で並んだ、その瞬間。セインLは動いた。

 

「お姉様、参ります!」

「ばっちこーい!」

 

 セインLが、レイピアに蓄積された衝撃を音符型のエネルギー体として放つ。

 不意に背後から飛んで来たそれを、サキュバスはやはり素速い動作で回避する。

 その音符の向かう先にはピクシーセインRがいた。

 

「これならっ!」

 

 音のエネルギーをナックルガードで再度吸収し、さらにもう一度サキュバスに向かって放つ。

 あわや命中する寸前というところで、またしてもサキュバスは回避に成功した。

 だが。

 

「貰った」

 

 今度はピクシーがその音符を受け止め、至近距離からサキュバスの背中に音符を放った。

 音のエネルギーが衝撃に戻り、翼と背中を粉砕する。

 

「は、イジョ」

 

 仰向けにベシャリ、と墜落するサキュバス。

 なんとか立ち上がったそのデジブレインを三姉妹が取り囲み、総攻撃をかけるべく必殺技に移った。

 

《フィニッシュコード・トリオ!》

「終幕だよ」

Action(アクション)! オトギガールズ・マテリアルシンフォニー!》

『ヤアァァァーッ!』

 

 三つの剣が閃き、サキュバスを三つに斬り裂く。

 こうして、煉獄の間のデジブレインは全て消滅するのであった。

 

「これで、終わり……?」

 

 言いながら周囲を見回すと、部屋の中央にはゲートのようなものが生み出されている。

 どうやら、先へ進めるようだ。

 

「行こうぜ。この先で翔たちが待ってるかも知れねェ」

 

 そう言って、変身を解除した鷹弘がゲートへと歩いていく。

 翠月とアシュリィ・ツキミ・フィオレの三姉妹も、その後に続いて飛び込んで行った。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 そして、天獄の間。

 翔が変身するアズールメビウスと、ドラゴン・デジブレインことスペルビアが、激しい戦いを繰り広げていた。

 

「そぉりゃあっ!」

「ハハァッ!」

 

 アズールセイヴァーと黒炎の剣がぶつかり合い、火花を散らす。

 二人の力はほぼ互角、一歩も譲らない戦いを演じていた。

 

「少しだけ褒めてやるぞ、アズール。人の身でここまでこの俺と渡り合えるなどあり得ん事だ」

「くっ!」

《タップ! ブルースカイ・アプリ! ロボット・アプリ! シノビ・アプリ! マジック・アプリ!》

 

 襲い来る火炎弾と斬撃を防ぎつつ、アズールはアーカイブレイカーにプレートをタップしていく。

 

「だが貴様はもはや用済み! 潔く消えろ!」

「消えて……たまるか!」

《ギガント・アプリ! ブルースカイ・アプリV2! チャンピオン・アプリ! ネプチューンエフェクト!》

 

 七枚のプレートを読み込ませた直後、アズールは表面にマテリアフォンをかざして盾をスペルビアに向ける。

 

《ネプチューンフィニッシュコード! Alright(オーライ)! ネプチューン・マテリアルバスタートルネイド!》

「これで、どうだ!!」

 

 津波のように怒涛の勢いで放たれた深い紺碧の光が、黒き龍を飲み込む。

 

「むううっ!!」

 

 スペルビアはその一撃を両腕と剣を使って防御し――翼を大きく翻して、弾き反らした。

 

「なっ!?」

「ハハハハッ! どうだ、耐えてやったぞ! これでもう打つ手もあるまい!」

 

 大笑いするスペルビア。確かにどんな必殺技を放っても受け止められては、まるで意味がない。

 しかし、アズールは諦めなどしなかった。

 

「確かに……どうやら躊躇してる場合じゃなさそうだ」

「なに?」

「アクイラに使うつもりだったけど! 今から取っておきを見せてやる、それでも耐えられるものなら耐えてみろ!」

 

 言いながら、アズールはスターリットフォトンを周囲に散布。その手の中に、ある武器を生み出した。

 

《シノビソード!》

「これが切り札だ!」

 

 それは、V1アプリの鬼狩ノ忍でリンクチェンジする事によって得られる武器。

 今更そんなものを使ってどうするつもりなのか、スペルビアの口から出かかった言葉は、現実にはならなかった。

 

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

 

 シノビソードの機能によって、アズールメビウスの姿が十人に増えたのだ。

 さらに、スターリットフォトンによってその分身たちもシノビソードを装備している。

 

「あ……?」

「まだまだ!」

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

 

 さらに十人、アズールメビウスが増える。続けてもう一度、何度も何度もアズールはシノビソードにフリック入力を続ける。

 

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

 

 気がつけば、アズールメビウスの数は100人に到達していた。

 

「な、なっ……なんだと!?」

 

 流石のスペルビアも、これには仰天するばかりであった。

 アズールは得意げな笑い声を上げ、分身たちが一斉に攻撃を仕掛ける。

 

『そぉりゃあああああああっ!!』

「くっ!?」

 

 スペルビアが剣を振り回し、分身たちを迎え撃つ。

 分身は一撃で消滅するが、多彩な攻撃手段とその破壊力はアズールメビウスそのままだ。

 

「こ、こんな……こんな下らない手で、この俺を……」

 

 基本的に一撃で沈むとはいえ、手数の違いは圧倒的。徐々にスペルビアは負傷し始める。

 それが癪に障ったのか、彼は怒りの声を発し、翼を大きく拡げて炎を吹き散らした。

 

「この俺を倒せると思っているのかァァァァァーッ!!」

 

 その爆炎により、分身たちは次々に消滅していく。

 だが、どこか様子がおかしい。分身は消えた後、光の粒子となって多様な方向に集まっていくのだ。

 

「む……?」

 

 その先にいるのは、アーカイブレイカーを構えるアズールメビウス。分身は最初から粒子(スターリットフォトン)で構成されており、それがマテリアプレートに再構築されていた。

 ハッとスペルビアが周囲に目を凝らす。

 爆炎の煙が晴れた先では、既に七人のアズールが自分を取り囲んでいたのだ。

 そして、既に必殺技の準備も完了させている。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)!》

「これで終わりだ!!」

 

 叫び、アズールたちは一斉に必殺技を放つ。

 

《マーキュリー・マテリアルバスターテンペスト!》

《ヴィーナス・マテリアルバスタートルネイド!》

《マーズ・マテリアルバスターテンペスト!》

《ジュピター・マテリアルバスターテンペスト!》

《サターン・マテリアルバスタートルネイド!》

《ウラノス・マテリアルバスタートルネイド!》

《ネプチューン・マテリアルバスターテンペスト!》

 

 三つの光条と四つの斬撃が虹色の煌きを描き、黒龍へと殺到。

 流石のスペルビアも七つ同時の必殺技は受け止め切る事ができず、甲殻と翼を破損し全身に傷を負った。

 

「がああああっ!? こ、の……人間風情がぁぁぁぁぁ!」

 

 敗けじと黒炎を放つスペルビア。しかし、その攻撃を受けたアズールたちは全て(・・)消滅する。

 

「なに!?」

 

 再びスペルビアが目を剥く。

 その背後で、電子音が鳴り響いた。

 

《ドライバースキャン! オール・エフェクト!》

 

 見れば、剣と盾を組み合わせてブレイクセイヴァーを作ったアズールが、剣を振り上げている。

 

《グランドクロスフィニッシュコード!! Alright(オーライ)!! アカシック・ブレイクスルー・ブレイク!!》

「これで……終わりだ!」

 

 咄嗟にスペルビアが剣で防ごうとするも、必殺の一撃は黒炎の剣を両断し、スペルビアの体を袈裟に斬り裂いた。

 

「が、ぐぁ……!?」

 

 信じられない、という表情で自らの胸を見下ろすスペルビア。

 致命的なダメージにはなっていないが、重傷だ。

 見下している人間相手にそれほどの手傷を負わされた。その事実が彼のプライドに深く傷をつけたようで、スペルビアは怒声を発する。

 

「おの、れ……貴様ァァァッ!」

 

 剣を振り上げ、突撃する手負いの黒龍。アズールは大剣を構え、迎え撃とうとする。

 しかし、激突の寸前。二人の視界はぐにゃりと歪み、天獄の間から別の場所へと転移されてしまう。

 

「なっ、ここは……!?」

 

 周囲を見回すアズール。今までの無機質な場所とは違い、カーテンやエネルギーラインの走る柱などで装飾されており、どこか神々しい雰囲気を放っている。

 さらに、部屋の奥には玉座があり――。

 

「ようこそ、至高天の間へ」

 

 そこに、アクイラが座していた。

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