仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.56[幸福]

「何をしているのかな、スペルビア」

 

 アズールとスペルビアの戦いの最中、二人は天獄の間から別の場所へ移送されていた。

 それはアクイラの待つ場所である至高天の間だった。

 

「アクイラ様……! なぜ俺をここに?」

 

 驚いた様子で、スペルビアは振り返る。

 愕然としているのは、アズールも同様だ。突然倒すべき相手が目前に現れたので、無理もない。

 当のアクイラは、玉座に背を預けたままスペルビアを見下ろしている。

 

「質問をしているのはこっちだ。僕は彼らを楽土に還すように命じただろう、なぜその命令を無視している」

「そ、それは……」

「もっと言わせて貰うなら。君は翔たちを殺す気だな?」

「ぐ……」

 

 言葉に詰まりながらも、スペルビアは主であるアクイラを見据えた。

 

「こいつらは放置すれば……今すぐではなくとも、いずれ楽土を脅かす敵になります。他の人間どもは単なる家畜ですが、こいつは違う。ならば、早急に抹消するのが道理ではありませんか」

 

 スペルビアは頑として進言した。これが必ずアクイラのためになると、本意から出た言葉だった。

 だが、話を聞いたアクイラの表情は険しい。

 

「言いたい事はそれだけかい?」

「アクイラ様!?」

「君にはしばらく『休暇』を与えよう」

 

 そう言って、アクイラは静かに彼に向かって右手をかざす。

 スペルビアは跪き、頭を垂れて許しを請う。

 

「アクイラ様! どうか御慈悲を――」

「駄目だ」

 

 アクイラが、右腕にグッと力を込める。

 瞬間、スペルビアの体がノイズに覆われ、全身がミキサーにでもかけられているかのように細々と裁断されていく。

 

「ぐ、が……あ……!」

 

 苦痛に喘ぎ、もがくスペルビア。

 次第に声が消え入るように小さくなり、完全に言葉を発する事ができなくなると、アクイラの右腕はその寸断されたデータの欠片を取り込んだ。

 

「戦いが終わるまで僕の中で反省していろ」

 

 そう言って、アクイラはグッと右拳を握り込む。

 消えてしまった。あれほど苦戦させられた強敵のスペルビアが、こうもあっさりと。

 アクイラの凄まじい力に息を呑み、アズールは武器を構え直した。

 すると直後に、アズールの周囲に九つの人影が姿を現す。

 ホメオスタシス、彼の仲間である仮面ライダーたちだ。

 

「翔! 無事だったか!」

 

 共に戦うべく前に出る鷹弘。響や肇たちも、最大にして最後の敵であるアクイラに警戒する様子を見せていた。

 

「決着を付けるぞ、アクイラ」

 

 そう言って剣を掲げるアズールだが、対するアクイラは首を横に振って玉座から一行を見下ろす。

 

「争う必要も理由もないよ。剣を収めるんだ」

「こっちにはある。楽土を破壊させて貰うからな」

「なぜ? 人々は今の境遇に満足しているはずだろう、一生幸福でいられる事に不平などあるはずがない。それに、この状況は君が望んだ事だ」

「……違う、それは違うんだよアクイラ」

 

 首を横に振りながら、アズールは言う。

 

「確かに僕は、皆に幸せでいて欲しいと願った。だけど、こういう事じゃないんだ。こんな結末を望んだワケじゃないんだよ」

「ふむ、分からないな……一体何が違う? 楽土に住む者たちは誰も彼も幸せそうじゃないか、僕の何が間違っているんだ?」

 

 自らの腕を組み、アクイラが問いかけた。

 アズールの方に気圧された様子はなく、むしろ高圧的なアクイラに対して真っ向から対立しようとしている。

 

「これは、こんなやり方は全然幸せじゃない。人の幸せって言うのは、自分で選ぶものなんだ」

「選んだ結果として不幸に陥ってしまう者もいるだろう。ならば選択の前に、僕らの手で確実な正解へ導けば良いだけじゃないか」

「違う! 不幸なのは、自分の意志で何も選べない事の方だ!」

「その意志があるから人はあやまちを繰り返し、他人をも不幸にするんだろう。久峰 遼のように」

 

 アクイラもまた、アズールからの意見を真っ向から否定。

 再びアズールが反論しようとした時、隣に立っていた響が口を挟んだ。

 

「では、肉親が死んでしまっていた事実に気付かないまま、その偽物と生活するのをお前は幸福だと思うのか?」

「なに……?」

 

 眉根を寄せ、アクイラは訝しむ。恐れる事なく、響は彼を睨みつけた。

 

「楽土の中の両親が過去に死んでいたと思い出した時、彩葉さんは泣いていたんだ。お前はそれでも、彼女を幸せだと胸を張って言えるのか!」

「それは……思い出してしまったのは気の毒だ、残念だと思う。でも、また楽土に溶け込んで忘れてしまえば良いじゃないか。そうすれば全部元通りだ」

「全てを忘れる事ができれば、何より楽かもしれない。だが、それは本当に幸せなのか? ただ現実から目を背けているだけだろう!」

「……いや。いいや。僕の作った楽園は紛れもなく現実の存在だ。君たち人間を救うための幸福な世界だ」

 

 首を何度も横に振り、否定するアクイラ。しかし、今度は鷹弘と翠月が追及する。

 

「何が『救う』だアホ臭ェ。関係ないヤツが勝手に人の生きる道に口出してんじゃねェ、引っ込んでやがれ!」

「そもそも、死者を蘇らせてそれを幸福とする魂胆が全くもって気に入らん。一度死んだ人間が生き返る事はない……生き返っては、ならないんだ。それが分からないのなら貴様に幸福を語る価値などない」

 

 アクイラの眉間に深く皺が刻み込まれる。浅黄も鷹弘に続いて、しかしなだめるような口調で言い放つ。

 

「ウチは別にさ、あんたが何もかも間違ってるなんて思ってないよ。人間幸せなのが一番に決まってる。でもさ、たとえ失敗したってやりたい事は自分で選びたいモンなんだよ」

「……だが君たちの望む現実を、他の人間たちも望んでるとは限らないだろう。事実、彼らは僕の導きに従っているじゃないか」

 

 その言葉に、次に反応を示したのは肇だった。

 

「他の連中の望みが俺たちとは違うように、お前の望む楽土を、誰もが望んでるワケじゃない。一方的に押し付けるのは救いとは呼ばないぜ」

「私たちは、恐ろしい現実や残酷な真実と向き合い続けてここまで来た。たくさん辛い思いもしたけど、それでも、今さらなかった事になんかしたくない。それは……自分を否定してるのと同じだから」

 

 今度はアシュリィが毅然と言い放った。ツキミとフィオレも、強く頷いていた。

 仮面ライダーたちの意志はひとつ。アクイラの目に、混乱と苦悩が宿る。

 

「なぜだ……なぜ、君たちは理解しない? 人は脆く儚い生物だ、何かに……誰かに縋らなければまともに生きていけないじゃないか。それは君たち自身が証明している。だから、人々を導く存在になろうとしているのに。そうやって生きる事の、何がいけない?」

「アクイラ、確かにお前の言ってる事はある意味正しいよ。人は一人じゃ生きていけない、全てを抱えていられるほど強くもない。でもそれは、他の何かに依存する事とは全然違うし、そうして良い理由にもならない。そんな生き方は……ただ、窮屈なだけなんだ」

「依存……窮屈……?」

「もう、これ以上はやめてくれ。楽土なんかなくたって、僕らは手を取り合って生きていける。たとえそれがどんなに険しくて、遠い道のりだとしても、いつかは辿り着いてみせる」

 

 アズールが言うと、アクイラは頭を右掌で押さえ、一行を睥睨した。

 

「わからない、わからないな。現実が見えていないのは君たちの方じゃないか。人同士が起こす大きな諍いを、手を取り合った程度の事でどうして止められる?」

「お前のそれは『知識』だ、僕たちの経験した『事実』とは違う。僕の身体はもう人間とはほとんど違ってしまっているけど……それでも、ここにいる皆が僕の事を受け入れてくれた」

「……もう良い、話は平行線のようだね」

 

 パチンッ、とアクイラが指を弾く。

 すると柱の陰から白いローブを纏った男が飛び出し、アクイラの傍で跪いた。

 

「なんだこいつは!?」

「君たちを力尽くで楽土に戻す。本当はやりたくなかったが、まぁ致し方ないだろう」

《パラダイス・ナイトメア!》

 

 そう言いながらアクイラは席から立ち上がり、カーネルドライバーを装着してマテリアプレートを起動して素速く装填する。

 

《ワールド・イズ・マイン!》

「変身」

All Hail(オールハイル)! デジタライド! ナイトメア・アプリ!》

 

 福音と共に、デジタルフォンをドライバーにかざすアクイラ。

 その姿は、以前アズールたちも見た紅いエネルギーラインが走る純白の仮面ライダーに変わっていく。

 

《欲望! 衆望! 祈望! 望まれし電脳神(デウス・エクス・マキナ)、インスタンス!》

「さぁ、今こそ全てを終わりにしよう」

「望むところだ……!」

 

 アズールはグラビティガイアの能力を起動し、天井を破壊。アクイラが変身する仮面ライダーパライゾと共に、屋上へと向かった。

 残ったのは鷹弘たち九人と、ローブの男。

 ホメオスタシスの面々もアズールたちを追おうと思えばできたのだが、この男の正体が分からない以上、下手な動きはできない。

 アズールとアクイラの戦闘能力は互角。ならば二人が戦っている間に決着をつけてしまおうと判断し、この場に残ったのだ。

 

「俺たちの相手はお前がしてくれるのか?」

 

 文彦が問うと、白フードの男は口元にニヤリと笑みを見せ、返事をした。

 

「ええ。アクイラ様のためにも、この私の力であなた方を楽土に戻して差し上げましょう」

 

 その声を聞いて、一行は目を見張る。

 全員が知っている、ここにいないはずの男の声。

 ある出来事から発狂し、最終的にハーロットや遼と同じく警察の手で捕縛されたはずの人物。

 

「お前、その声……」

「まさか!?」

 

 鷹弘と響が驚き、男はフードを外した。

 

「曽根光 都竹!?」

 

 フードの下にあったのは、Cytuberとして何度も翔たちと戦いを繰り広げた男、都竹だ。

 左腕にはトランサイバーGを装着している他、顔や体に埋め込まれた球体が眼球のように変質して蠢いている。

 

「随分と久し振りですね。まさか、こうしてまた敵対する事になるとは」

 

 くつくつと笑い、九人の方に歩む都竹。すると、翠月が彼を睨みながら立ち塞がった。

 

「今度はアクイラのお膝元で甘い汁を啜ろうという魂胆か、相変わらず意地汚い男だ」

 

 言われた側の都竹は、その言葉を流して笑ったまま話を続ける。

 その顔は、今までのような出世欲や妬心に満ちたものとは全く無縁な、晴れやかなものだった。

 

「そんなもの今の私には必要ありませんよ。そもそも世界が楽土に変わって、甘い汁も何もないでしょう。私はあの御方に忠義を尽くすだけで光栄なのですから」

「なに……?」

 

 忠義。

 金生 樹や黒海 松波と大村 梅悟を騙して裏切り、久峰 遼の下についた過去を持つ都竹からは考えられない言葉だった。

 

「あの御方は、気の触れてしまった私を救って下さった。そればかりか、薄暗い場所に囚われていた私に、スペルビアと同じ楽土管理の任を与えて下さった」

「心を入れ替えたってコト? その結果がアイツに尽くすって……ウチには良く分かんないね」

「あなた方にとっては敵かも知れませんが、私にとってまさしく救いの神です。故に」

 

 そう言いながら都竹が取り出したものを見て、鷹弘や文彦は目を剥いた。

 アプリドライバーだ。しかも、装着の直後に都竹は二枚のマテリアプレートを手に取っている。

 一枚はターコイズグリーンの獅子の顔が表面に装飾されたプレート、もう一枚は血走った恐ろしい紫色の眼球のようなものが装飾されたプレートだ。

 

「あの御方を苦しめる者は、私が許さない!」

《カオティック・ファンタジー!》

《イヴィルアイズ・クリスタル!》

 

 二つのマテリアプレートは、それぞれアプリドライバーとトランサイバーGに装填され、同時に獅子の口が開く。

 そして、マテリアフォンを手に取った都竹は、そのままそれをドライバーへと振りかざした。

 

「ハァァァ……変身!」

Alright(オーライ)! フェイス・マテリアライド!》

Roger(ラジャー)! ロイヤル・マテリアライド!》

 

 全身が紫色の光の膜に包み込まれ、さらにそれがアンダースーツに変わり、上から騎士の鎧のような装甲が装着されていく。

 

《カオティック・アプリ! 混沌の獣剣士、インストール!》

《アイズ・アプリ! 邪眼の狂魔王、トランスミッション!》

 

 続いて頭部に獅子の顔のようなヘルムが装着され、さらに左眼や左腕、左足に紫色の目玉のような丸い宝石が埋め込まれた。

 右腕には四つの銃身が付いたターコイズグリーンの剣が装備されており、それを掲げて都竹の変身した戦士は叫ぶ。

 

「我が名は仮面ライダーケルビム カオティックアイズリンカー! 叛逆者に裁きを下す者! アクイラ様は、我が信仰と忠義においてお守りする!」

 

 ケルビムが、その剣――ケルビムザンバーの切っ先を鷹弘たちに向ける。一行は驚きつつも散開し、銃口から放たれたビームから逃れた。

 至高天の間にて舞い上がる砂煙。それが晴れると同時に、変身した仮面ライダーたちがケルビムへと立ち向かう。

 

「オオオラァッ!」

 

 拳を突き出し、先陣を切ったのはリボルブリローデッドだ。

 真正面からの真っ直ぐな一撃を、ケルビムは悠々と回避しつつ、斬撃を胸にヒットさせた。

 

「ぐっ!」

「ハァッ!」

 

 たたらを踏むリボルブの後ろから、キアノスと雅龍が躍り出る。

 まず雅龍がサスペンドブラッド入りのインク弾を発射し、冷気で動きを止めようとする。

 しかし、そこでケルビムはトランサイバーを操作した。

 

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

「フンッ!」

 

 全ての宝石から紫色の光が放射され、それを浴びたインク弾は石化。

 凍結能力を失い、塵となって消滅する。

 

「何っ!?」

「石化の邪視です……私にその攻撃は効きません」

 

 余裕綽々でケルビムザンバーを振るい、キアノスの剣撃を受け止める。

 さらに、マテリアプレートを押し込んで必殺技の態勢に移った。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! カオティック・マテリアルバースト!》

「ハハハッ!」

 

 ハーロットの『調整』を受けていた頃にも見せた剛力で、キアノスをサーベルごと強引に吹き飛ばし、追撃とばかりにビームを発射。

 キアノスに全て命中し、彼を吐血させる。

 

「が、はあっ……」

「響!」

 

 ガトリングアームを装備したネイヴィが銃撃し、無数の銃弾がケルビムへ殺到。

 しかし、ケルビムの邪眼にはその銃弾の軌道が全て見えており、剣で弾いたり身をかわしながら、またトランサイバーにコード入力を行った。

 

Roger(ラジャー)! セカンドコード、オン!》

「喰らいなさい!」

 

 邪眼結晶が再び妖しい光を帯び、それが光の球体となってネイヴィの両腕に命中する。

 すると、ネイヴィは左右の腕が痺れから上がらなくなり、ケルビムの剣から放たれたビームを胸に受けてしまった。

 

「体が……ぐうううっ!?」

「痺毒の邪視ですよ」

 

 仮面の奥で含み笑いしながら、ケルビムは言う。

 今度は前後からピクシーズの三人が挟み撃ちを行うが、背後から迫るセインL・セインRの攻撃を剣で容易く受け止め、ピクシーにはキックを浴びせて押し返す。

 

「ああっ!?」

『アシュリィ!?』

 

 動揺した瞬間、ケルビムザンバーの凶刃がセインたちの体の装甲を裂く。

 ここまでの攻防において、誰一人としてケルビムに対し有効打を与えられなかった。

 

「こ、こいつ……今までとは比べ物にならないぞ!」

「アクイラがここまで強化しやがるとはな」

 

 ジェラスはそう言いながら、レヴナントアックスを構えて突撃する。

 瞬間、再びジェラスがトランサイバーに手を伸ばした。

 

Roger(ラジャー)! セカンドコード、オン!》

「止まって頂きますよ」

 

 神経を麻痺させる邪眼の光が、ジェラスの体を覆い尽くす。

 しかし、彼は止まらない。止まらずに、レヴナントアックスを振り下ろした。

 ケルビムも攻撃を弾き逸らすが、邪視を無視して攻撃できたジェラスに驚きを隠せなかった。

 

「何……?」

「効かねぇんだよそんな力ァ!」

 

 何度も何度も、絶え間なく苛烈に攻撃を繰り出すジェラスレヴナント。

 しかしいずれも全く有効打にならず、ケルビムは足元に光線を放って一度距離を取った。

 あまりに奇妙な手応えのなさに、ジェラスは不服そうに呟く。

 

「てめぇ、さては何か眼に細工してやがるな?」

「ええ。本物のアクイラ様の細胞片を移植してあります、今度は両眼に」

「そいつで俺たちの挙動を読んでるってワケか。なるほどなぁ」

「お陰で私の肉体はもうデジブレインと全く同じになりましたがね」

 

 笑いながら言い放つケルビムへと、ジェラスは斧を掲げた。

 

「だったら楽土を潰して、現実世界とサイバー・ラインの融合が剥がれちまえば、てめぇは終わりってワケだ」

「できれば、の話でしょう」

「やってやるよクソ野郎」

 

 ジェラスはレヴナントアックスの持ち手を変え、銃形態にして光弾を発射する。

 それさえも避け尽くして接近し、ケルビムはまたトランサイバーを操作した。

 

Roger(ラジャー)! ファーストコード、オン!》

「石化は流石に防げないでしょう」

 

 邪眼からサーチライトのように光が照射され、ジェラスはそれを浴びないようにバックステップした。

 だが、その背中が硬い何かにぶつかる。

 それは柱だ。ケルビムはジェラスが逃がさないために、柱にぶつかるように誘導していたのだ。

 

「しまっ……」

「貰った!」

 

 石化の光が、一点に集中する。

 その瞬間、白いインクの壁がジェラスの前に出来上がり、光を遮断した。

 

「何っ!?」

 

 インクが石化するのを目の当たりにしたケルビムは、壁を突き破って飛び出した斧の刃に身を斬られる。

 

「ぐっ!?」

「流石に見えないところからじゃ、ウチがどうするか分かんなかったみたいだね~」

 

 ジェラスの立っていた柱の後ろから、そんな声が聞こえた。

 ザギークだ。ジェラスが自身の隠れている柱の前に追い込まれる事を先読みし、ケルビムが仕掛けると同時にインクの壁を作ったのだ。

 

「中々やるじゃねぇかチビ」

「チビっていうなー!」

 

 ぷりぷりと憤慨するザギーク。すると、銃撃でケルビムを足止めしていたリボルブから、大きな声が響いた。

 

「油断すんじゃねェ、来るぞ!」

 

 見れば、射撃をまるで意に介さずに、ケルビムはトランサイバーを操作しつつ真っ直ぐにジェラスに向かっている。

 

Roger(ラジャー)! サードコード、オン!》

「幻惑の邪視!」

 

 瞬間、ケルビムの姿が五つに増える。

 ただでさえ特殊な眼の力で攻撃を避け続ける相手が、幻覚によってさらに当たりづらくなってしまった。

 

「ンの野郎!」

《スクロール! レイニアス・ネスト! フレイミングフィニッシュコード!》

「くたばりやがれ!」

Alright(オーライ)! レイニアス・マテリアルボンバード!》

 

 リボルブが必殺技を発動し、無数の鳥の火炎弾が炸裂して幻覚を消し去る。

 だがケルビムは既に、トランサイバーへの新たなコード入力を終わらせていた。

 

Roger(ラジャー)! フォースコード、オン!》

「破滅の邪視! 喰らえ!」

 

 ケルビムの体の宝石が、光線を発射する。

 その光が天井や床や周囲の柱さえも破砕するのを見て、仮面ライダーたちは即座に回避行動を取った。

 

「当たったらマズい!」

 

 キアノスの言葉と共に、またも一行はケルビムから距離を取る。

 その姿を鼻で笑い、ケルビムが左腕を水平に構えると、その腕から邪眼が分離した。

 

「逃げ回るのなら、こんな手もあります」

Roger(ラジャー)! フォースコード、オン!》

 

 邪眼が、一行を取り囲む。そして再び破滅の閃光が襲いかかり、避けようとする九人の背中や肩の装甲を灼いた。

 

『うわあああっ!?』

「ハハハッ! 決して逃しませんよ!」

 

 宝石が輝きを失うと、それらは自動的に左腕に戻った。

 そして、再び光を取り戻そうとしているかのように淡い輝きを放っている。どうやら、この状態ではコードを入力しても左腕の邪眼は使えないらしい。

 

「今……なら!」

 

 好機と見て、雅龍が矢のように飛び出す。

 インクが石化されるとしても、接近戦ならば。そう思って、冷気を放つ拳を繰り出した。

 それが間違いだった。

 ケルビムの左眼。それは常に一体となっている、光を損なわない邪眼だ。

 

「くっ!?」

「『ファイナルコード』!」

Roger(ラジャー)! アイズ・マテリアルジェノサイド!》

 

 雅龍が最後の足掻きとばかりにインク弾を放った後、ケルビムの左眼から極大のビームが放出され、それが直撃。

 吹き飛ばされた雅龍は、強かに壁に背を打ち付けてしまった。

 

「が、はっ」

「まだ変身が解けないのですね。仕方がありません、もう一度破滅の邪視で……?」

 

 そう言って左腕の宝石を再び分離させようとするが、それらは糊で引っ付いているかのようにケルビムの腕から離れない。

 見れば、インクが付着して凍りついている。先程のインク弾はこのためだったのだ。

 しかもケルビムが手間取っている間に、ピクシーズは負傷した者たちを回復させていた。

 

「小癪な真似を」

「貴様が言うな」

 

 サーベルを手に、再び立ち上がって敵を見据えるキアノス。リボルブたちも、同じくそれぞれの武器を構えている。

 彼らの姿を見て長く深い息をつくと、ケルビムはトランサイバーGのリューズに手をかけた。

 

「致し方ありません。ならば、我が真の力にてお相手しましょう」

Roger(ラジャー)! カオスモード、オン!》

 

 ノイズと共にケルビムの左腕の凍結が治癒され、さらに宝石が左腕だけでなく全身にボコボコと音を立てて生み出される。

 さらに頭部にも変化が起こり、左右の目がひとつとなって巨大な眼球の宝石を形成した。

 ケルビムザンバーもトランサイバーもアプリドライバーも肉体と融合し、それまでのビーストモードやカオスモードとは違う、異形ながらも人のシルエットを保った怪人へと変貌を果たす。

 

「さぁ……楽土へ帰って頂きますよ!!」

 

 右腕の剣を振り上げながら、カオスケルビムは一行に襲いかかった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 一方、原罪の創世巨塔の頂上では。

 

「そぉりゃあああ!」

「パライゾスフィア・原動天!」

 

 アズールメビウスとパライゾが、激しい戦いを繰り広げていた。

 アズールは重力制御によって動きを止めようとするが、パライゾ自身も重力操作によって影響から逃れる。

 同じ力を使われては重力操作の意味がない。そう判断して、アズールは別の戦闘スタイルに切り替える。

 

「ハイパーリンクチェンジ!」

《スワイプ!! ルクシオンムーン、ハイパーリンク!!》

「これならどうだ!」

 

 周囲の時流を減速させ、アズールセイヴァーを手に斬りかかる。

 しかし、既にパライゾスフィアも動いていた。

 

「パライゾスフィア・月天」

 

 時の流れが元に戻り、パライゾは剣を腕で受け止める。

 同じ能力でアズールメビウスの時流操作を相殺したのだ。

 

「く……!」

「言っただろう? 君にできる事は、僕にもできるんだ」

 

 パライゾは剣を押し返し、アズールの胸に蹴りを叩き込む。

 よろめきつつも、アズールはスターリットフォトンを散布し、次なる手を繰り出した。

 

《シノビソード!》

「ならこれも真似できるか!?」

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

 

 スペルビアと戦った時と同じように、アズールメビウスが100人に分身する。

 それと同時に、パライゾも舞い上がる火の粉と共に100人に分身した。

 

「なっ……!?」

「パライゾスフィア・火焔天。この程度、造作もない事さ」

 

 平然と言い放つパライゾに背筋を凍らせつつも、アズールは動き出す。

 互いが呼んだ分身同士が次々と相殺され消滅する中、急いだ様子でアズールの分身たちが必殺技を繰り出した。

 

《マーキュリー・マテリアルバスターテンペスト!》

《ヴィーナス・マテリアルバスタートルネイド!》

《マーズ・マテリアルバスタートルネイド!》

《ウラノス・マテリアルバスターテンペスト!》

《ネプチューン・マテリアルバスタートルネイド!》

「パライゾスフィア・水星天、金星天、火星天、恒星天!」

 

 その全ての必殺技を、パライゾがことごとくを受け止めて分身たちへと反撃する。

 自身の生み出したものも含め、次々に消滅していく分身。

 すると、砂煙に紛れてひとつの影がパライゾの背後から迫る。

 

《アカシック・ブレイクスルー・ブレイク!!》

「そぉりゃあっ!」

「無駄だ」

《フェイタルコード! All Hail(オールハイル)! ナイトメア・デジタルクライシス!》

 

 鋭い回し蹴りがブレイクセイヴァーを弾き飛ばし、アズールの喉に突き刺さる。

 その瞬間、アズールの姿は消滅した。

 

「何!? これも分身……!?」

《アストラルフィニッシュコード!! All together(オール・トゥギャザー)!!》

「はっ!?」

 

 頭上から突然音が聞こえ、パライゾは振り返る。

 見れば、そこには右脚を突き出して飛び込んで来るアズールの姿があった。

 右手に持っているのはオラクルナイフ。これを使い、パライゾの視界から自らの姿を遮断していたのだ。

 

「覚悟しろ、アクイラァァァッ!」

《エタニティ・アプリケーションコンプリート!!》

 

 パライゾが両腕で自らの体を守り、アズールメビウスの強烈なライダーキックがその腕に直撃。

 堪えきれず、パライゾは吹き飛ばされ、仰向けに地面へ倒れた。

 

「……やるね翔。一撃、たった一撃とは言え君に遅れを取るとは」

 

 しかしパライゾはムクリと立ち上がると、仮面の奥で薄く笑いながら、自らの右手を前に出す。

 

「どうやら本気で戦わなければならないようだ」

 

 その掌に、光の球体が浮かび上がった。先頃、スペルビアを寸断して固めたものだ。

 瞬間、塔の中心にある穴の中から、七色の光が溢れ出て来る。

 

「これは!?」

「君の仲間たちが倒したデジブレインたちの残滓だよ。倒された彼らのデータは、この中に集まっていたんだ。これで僕は、新たなステージに到達する」

 

 そう言いながら、パライゾは装填したマテリアプレートを外した。

 光の球体と七色の光が融合し、新たな形を作って実体となる。

 それは、アズールメビウスやジェラスレヴナントがドライバーに装着しているものと同じ機能を持つ、神殿のようにも見える白いユニットだ。

 

「エンピレオユニット。そして、このドライバーは至高天(エンピレオ)へと進化する……!」

 

 言いながらユニットを装着すると、新たに進化した『カーネルドライバーエンピレオ』に再びパラダイス・ナイトメアのプレートを起動した。

 

《パラダイス・ナイトメア……ディヴァイン・ローズ!》

 

 同じプレートでありながら、今までとは違う音声。パライゾはそのまま、それをドライバーにセットした。

 

《ウェルカム・トゥ・ユートピア!! ウェルカム・トゥ・ユートピア!!》

「変身!!」

All Hail(オールハイル)!! ブレッシング・デジタライド!! ナイトメア・アプリ!!》

 

 デジタルフォンをかざすと、パライゾの姿に変化が起きた。

 パライゾの装甲が修復と共にさらに強化され、翼の数が12枚に増える。

 

《信望!! 仰望!! 切望!!》

 

 装甲や胸に薔薇の模様が浮かび、さらに腕や脚には荊棘が巻き付く。

 今までと同じで特別武器を手に持ってはいないが、パライゾスフィアも強化され、黄金の装飾が施されて素速く飛び回った。

 

永遠(とわ)にして唯一の至高神、アセンショォォォン!!》

 

 最後に真紅のエネルギーラインが両眼から涙のように流れ、進化したパライゾはアズールを見下ろす。

 

「これが仮面ライダーパライゾエンピレオだ。さぁ、第二ラウンドを始めようか」

 

 パライゾエンピレオと名乗った仮面ライダーに圧倒的な力を感じつつも、アズールメビウスは剣を構えるのであった。

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