仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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 その少年には、両親がいなかった。両親の顔を知らなかった。
 生まれつき兄と共に施設で育った彼は、いつも誰かと殴り合いばかりしている兄とは違って、ずっとひとりでいた。
 他人と接するのが怖かったのだ。
 両親に捨てられてしまったという事実が胸に突き刺さり、他者と触れ合うことを拒んでいた。
 赤子の頃から自分を育ててくれた職員や、同じ施設に暮らす少年少女たちを、感謝はしても信用できないのだ。
 唯一頼れる兄にしたって、幼い少年では彼に何かできるワケではない。口数は少なかった。
 何より、少年は自分の境遇に泣きはしなかったが、怒りも笑いもしなかった。
 どうすれば良いのか分からないから。生きていく意味が分からないから。
 自分に生きる価値などないとさえ思っていた。兄弟共々、探偵という男に拾われたのは、そんな時だった。

「おじさん。どうして、ぼくをつれてきたの?」

 ある時少年は、以前から気になっていた事を養父に尋ねた。

「なんだ、今更どうした? 嫌な事でもあったのか?」
「ぼく、わからなくて。どうすればいいのか、わからなくて」
「……そうか」

 少しだけ悩んで天井を見上げた後、男は再び少年に向き直る。

「自分の生き方が分からないなんてのは、誰でも同じさ。誰もが道に迷ってる。でもな、迷ったって良いんだ。お前には俺や響がいる」
「まよっても、いい……?」
「俺を信じろとは言わない。だが、お前がどうしたら良いのか分からなくなったら、間違えそうになったら、必ず俺が傍にいてやる。それが家族ってモンだ」

 話を聞いて、少年は穏やかな気分になった。目の前の男を、本当に血の繋がった家族なのではないかとさえ思えた。
 そして、養父である彼に何か恩返しがしたくなったのだ。
 少年には、ひとつ得意な事がある。
 料理だ。施設で少しずつ教えて貰っていた、生きるための術。
 以前は楽しくないと思っていたのだが、養父や兄に振る舞ってみると、不思議と胸が温かく、快くなった。
 次第に少年は他人と打ち解ける方法を学んで、心も身体も健やかに育つ。
 少年の名は、天坂 翔と言った。


EP.59[電子の希望]

「ワカラナイヨ……ワカラナイヨ……」

 

 ブツブツと呟きながら、上空にて虚空を見上げるパライゾ。

 エンピレオユニットの最大出力を引き出した事により、装甲や翼が紅くなるなど、その姿は大きく変貌した。

 アズールはグラビティガイアの重力制御によって高く跳び上がり、パライゾに拳で殴りかかる。

 

「そぉりゃあっ!」

「キィィィィィーッ!」

 

 しかし、攻撃はやはり未来歪曲によって止められてしまい、アズールは『何もしなかった』事となって空中に留まる。

 そしてパライゾの右腕から放たれた紅い烈光を受け、地上に押し戻されてしまう。

 

「ぐ、あ……! まだまだ!」

「無茶だ翔! 一人で勝てる相手じゃないぞ!」

 

 響の変身するキアノスが言った。そして、傍で見ていたリボルブたち他のライダーも、戦いに参戦する。

 するとアズールは大きく声を張り上げ、宣言した。

 

「皆さん! 僕はアクイラを助けるつもりでいます!」

「なにっ!?」

「もちろん楽土は破壊します、でも何も考えずに彼を消す事が正しいとはどうしても思えない!」

 

 叫びながらアズールが剣を振り下ろす。

 斬撃を手刀で受け止め、パライゾは手から光の剣を生成し、アズールの肩へと突き刺した。

 

「くううっ! この!」

 

 拳で光の剣を叩き割り、アズールセイヴァーを投擲すると素速く前蹴りを繰り出す。

 蹴りは未来歪曲で止められるが、ブーメランのように返って来た剣がパライゾの背を斬りつけた。

 

「キィィィアアアッ!?」

「ここだ!」

「キイァッ!?」

 

 続けて、正面から突っ込んだアズールの拳がパライゾの顔面に打ち込まれる。

 だがそれを受けてもパライゾは健在であり、羽ばたきと共に紅い閃光を放つと、アズールから大きく距離を取った。

 

「さっきのは本気なのか、翔。アイツはこの世界を支配する怪物だぜ」

「それでもやります!」

 

 空を飛んで隣に並んだリボルブの声を聞き、アズールは強く頷く。

 

「彼も僕らと同じで生きているんです。確かに僕らを一度楽土に囚えようとしたけど、それも人類を滅ぼすのが目的じゃなかった。きっと本気でこれが僕らのためになると思っていたんでしょう」

「だからって許されるワケないだろうが」

「分かってます。だけど、今のアクイラは生まれたばかりの子供と同じなんです。学習して情報を取捨選択できても、極端な結論を導き出してしまって、ちゃんと自分の意志で判断して道を選ぶって事ができていないんですよ」

「あいつ自身の意志でこの状況を作ったんじゃねェってのか?」

 

 リボルブが訝しむように言うと、再びアズールが首肯した。

 

「少なくとも、楽土を作るに至った原因は僕の感情を読み取ったせいです。僕の心の底にある願いを見てしまったから、創造に足る力があるから機械的に実行した。だからひとつの道しか選ばなかった。そこに完全にアクイラ自身の意志があったとは言い切れない、そしてこれは僕の責任でもある」

「……なるほどな」

「何より、今のアクイラは自分で悩んでいます。自分のこれまでやこれから生きる意味という、大きな壁に直面しています。僕ら人間と同じように考えて選択しようとしているんですよ、自分の意志で。だから……彼を消すという事は、人を殺すのと同じ事です。見殺しにはできない」

 

 アズールの言葉を聞いて、低く唸りながら考え込むリボルブ。

 すると、地上で様子を見ていたピクシーたちが、真っ先に声を上げた。

 

「ショウに賛成だよ」

「まー、翔兄ちゃんならそういうと思ってたよ!」

「私も支援しますわ」

 

 続いて、アズールたちに襲いかかろうとしたパライゾへと、下からインク弾がいくつも撃ち出された。

 雅龍とザギークが援護に入ったのだ。

 

「まったく、君の選択にはいつも驚かされるな」

「でも翔くんらしいよね! よーし、ウチも一緒に助けるよ!」

 

 雅龍のインクが翼に命中し、凍結して飛行できなくなったパライゾは、地上へと墜落していく。

 そこへキアノスのサーベルが襲撃し、未来歪曲で止めた直後にネイヴィのガトリングが胴に突き刺さる。

 

「翔、お前はもう俺の手を必要としないくらい強くなったんだな。少し寂しいが、誇らしいよ」

「自分の信じた道なら、お前のやりたい事なら、このまま真っ直ぐに突き進めば良い。俺も後ろから支えてやる……父親だからな」

 

 気付けば、リボルブを除く全員が決断を下していた。

 仮面の中で溜め息を吐くと共に、リボルブはアズールの背をバシンッと叩く。

 

「ったく、とんでもねェバカ共を仮面ライダーにさせちまったモンだぜ」

「あはは……」

「だが、悪い気分じゃねェ。いいさ、やってやるよ! まずはどうする!」

「恐らくあの姿ではまともに話も通じません。なので一旦アクイラに全力の必殺技を撃たせて、カタルシスエナジーが失われた瞬間を狙って、戦闘不能にします!」

「よし……任せなァ!」

 

 そう言って、リボルブは翼を再生させたパライゾへと発砲した。

 ヴォルテクス・リローダーから発射された炎の弾丸は、パライゾの放出する紅い光の弾幕によって妨げられる。

 

「チッ!」

「キィィィアアアアアッ!」

 

 光を迸らせ、パライゾは攻撃を継続。無数の熱線が殺到し、しかしその前に盾を構えたアズールが立ち塞がって防護する。

 

「ぐ……こ、のぉ!」

 

 盾をかざして強引に突進しようとするアズール、だがパライゾも攻撃の手を全く緩めない。

 その上、未来歪曲の力もある。下手に攻めに転じれば、容易く隙を突かれて一気に窮地に陥ってしまうだろう。

 

「クソッタレ、翔をやらせるかよ!」

《スクロール! イーグル・ネスト! フレイミングフィニッシュコード!》

 

 アズールの後ろで、リボルブが動き出す。

 シリンダーを何度も回転させ、必殺技を放つ準備を整えた。

 そして銃にマテリアフォンをかざし、トリガーを引く。

 

「喰らえ!!」

Alright(オーライ)! イーグル・マテリアルボンバード!》

 

 炎の大鷲が銃口から飛翔し、パライゾに襲いかかる。

 必殺技ならば未来歪曲を使って防ごうとするだろうと判断し、この一手を打ったのだ。

 しかし、思惑とは外れてパライゾは能力を使用せず、紅い光のバリアを展開する事でその場を凌ぎ切る。

 

「そう何度もかかっちゃくれないだろうな……!」

「ならば私の出番だ」

《マスタリーパニッシュメントコマンド! Oh YES(オゥ・イエス)! ブリザード・マテリアルターミネイション!》

「ホァタアァァァッ!」

 

 地上にいた雅龍がそう言うと、必殺技の態勢を整え、跳躍して高く拳を突き上げた。

 サスペンドブラッドとインクが集まり、龍の姿となって牙を剥く。

 本来ならばこれを受けると問答無用で凍りついてしまうのだが、パライゾはそれでも未来歪曲を使わず、極大の閃光で氷の龍を溶解させた。

 

「む!?」

「こいつ、もしかして攻略法を学習し始めてる!?」

 

 焦燥する雅龍とザギーク。このまま手をこまねいては、攻め筋を失って敗北するのも時間の問題だ。

 すると、アズール自らがスターリットフォトンで作った武器が、雅龍とキアノスの手元へと投げ渡された。

 雅龍にはシノビソード、キアノスにはリボルブラスターV2だ。

 

「英警視、兄さん! それを使うんだ!」

「……よし!」

 

 二人は頷くと、すぐに動き出した。

 

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

 

 シノビソードを得た雅龍は、十人に分身した後、再びドライバーに手を伸ばして操作する。

 そして、十人全員が一斉に拳を突き出し、同時に必殺技を放った。

 

《パニッシュメントコマンド! Oh YES(オゥ・イエス)!》

「これでどうだ!」

《ブリザード・マテリアルアセンド!》

《ブリザード・マテリアルディセンド!》

 

 龍の牙と爪が四方八方から飛び交い、光の壁を破らんとする。

 

「キィアアアアアッ!!」

 

 しかしパライゾも、再度全身から熱線を放って必殺技を相殺した。

 直後、続けてキアノスが動き出す。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! フィドラークラブ・ネオマテリアルカノン!》

「ハァッ!」

 

 燃え上がる巨大な鉄の鋏が射出され、パライゾを裁断しようとするが、やはり赤いバリアが妨げる。

 だが度重なる必殺に完全には耐えきれておらず、挟まれて圧がかけられると、僅かに亀裂が走り始めていた。

 

「ここだ!」

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! センチピード・マテリアルスライサー!》

 

 真っ直ぐに刀身が伸びて亀裂に突き刺さり、バリアを破壊。

 剣先はそのまま、パライゾの翼を抉って貫いた。

 

「キィッ……!?」

「みんな、今だよ!」

 

 ザギークの掛け声と同時に、ピクシーズ三人が彼女と共に一斉に攻撃を仕掛ける。

 バリアが消え去った今、パライゾはそれらを自らの腕で凌ぐしかなかった。

 レイピアやボウガンの一撃を光の剣と拳で捌くが、直後に地上から音と叫び声が響き渡る。

 

《サイクロン・マテリアルエンド!》

「ライダー……キィィィーック!」

 

 大きく跳躍し、鋭い飛び蹴りを繰り出すネイヴィ。

 かつて自分を消滅寸前にまで追い込んだ男の、全く同じライダーキック。

 それを目の当たりにしたパライゾは、本能からか恐怖感で身を竦ませてしまい――思わず、未来歪曲を発動してしまった。

 当然、必殺技は中断されてネイヴィは地上に立ち尽くしてしまう。

 だがこれこそが狙い。仮面の奥で、肇は唇を釣り上げる。

 

「……使ったな?」

「キァッ!?」

 

 風を切る音と共に素速く背後から迫るのは、仮面ライダーアズール。ドライバーのマテリアプレートを押し込み、既に必殺技の準備をしている。

 パライゾは振り返ると、自身もすぐにプレートを掌で叩き、デジタルフォンを手に取った。

 

「勝負だ、アクイラ!」

「キィイアアアーッ!」

《アストラルフィニッシュコード!!》

《ドゥームズフェイタルコード!! デッドリー・シンズ!!》

 

 互いを睨み合う二人が、それぞれのドライバーにマテリアフォン・デジタルフォンをかざすのは、ほとんど同時だった。

 

「そぉりゃああああああああああっ!!」

All together(オール・トゥギャザー)!! エタニティ・アプリケーションコンプリート!!》

All Hail(オール・ハイル)!! デッドリー・シンズ!! ナイトメア・ワールドカタストロフィー!!》

「キィイィアアアアアァァァァァッ!!」

 

 全身に煌きを纏い、青と紅の閃きが激突。

 力と力が真っ向からぶつかり合い、その場を、そこにいるリボルブたちを、巨塔そのものさえも飲み込んで行く。

 

「オオオオオッ!!」

「アアアアアッ!!」

 

 二つの光は融けて混ざり、咆哮するアズールとパライゾの視界を埋め尽くす。

 

 

 

 気が付くと、翔は変身が解けた状態で、一面が真っ白な空間に突っ立っていた。

 

「ここは……?」

 

 不思議そうに周囲を見回す翔。

 そして、自身の背後で泣きじゃくる小さな子供の姿を発見する。

 幼い頃の翔に似た姿だ。それがアクイラだと、翔はすぐに理解した。

 

「わからないよ……わからないよ……」

 

 両眼から零れ出る涙を手の甲で拭いながら、アクイラはずっと同じ言葉を呟いている。

 翔は隣に座ってで彼と同じ目線の高さになると、何もない白い天井を見上げた。

 

「人間に楽土が必要ないなら、僕が生きてる意味って何なの? 人間をより良い未来に導くのが、僕の役割じゃなかったの? 僕は……どうしたら良いの?」

 

 ただひたすらに、目が赤くなってもアクイラは涙を流し続ける。

 すると隣に座る翔は、そんな彼に目をやって優しい声色で話しかけた。

 

「君は、どうしたいの?」

「え……?」

 

 問われると、アクイラは瞼を擦ってゆっくりと翔の方を見やった。

 翔は微笑んで、まだ濡れている彼の頬をそっと撫でる。

 

「生きていく意味や理由が分からないのは、人間なら誰でも同じだよ。完璧な答えを出せる人はどこにもいない。人間は誰も完璧じゃないんだ、だから間違ったり失敗したりする。でも、それで良いんだよ」

「どう、して?」

「前にも言ったでしょ? 人間には、未来を変える力があるんだ。それがどんなに些細で小さな一歩でも、どれだけ儚くてちっぽけな事に見えたとしても、みんなで超えられるんだ。だからひとりひとりが完璧な選択をできなくても、色んな人の意志が繋がり合って、未来を作るんだよ。誰もがそうやって自分の人生を戦って来たんだ」

 

 そう言った翔の顔を、アクイラはまじまじと見つめる。

 視線を受けた翔は、見つめ返してひとつの言葉を投げかけた。

 

「アクイラ。君はきっと、人間の傍で、人間と同じように生きていたかっただけなんじゃないかな」

「え……?」

「君が楽土を作ったのは人間を支配するためであり、より良い方向へ導くためだった。実際……君は怒りや憎しみで動いたワケじゃないし、きっと人間が好きなのは本当なんだよね」

 

 その言葉を聞いて、アクイラは小さく頷く。翔も同じく頷いて、話を続けた。

 

「でも、このやり方じゃ人も君も先に進めないんだ。君は人間と同じ視点、同じ立場に立っていない。人間も君の敷いた道に甘えて、そこでしか歩けなくなる。それはお互いにとっての救いなんかじゃない。君が見て好きになった人間っていうのは、そんな人たちばかりだったかい?」

「じゃあ……どうしたら、良いの?」

 

 不安と焦燥に駆られている表情。

 翔は立ち上がって、アクイラの正面に向かい合うと、静かに彼に手を差し出す。

 

「一緒に生きよう、アクイラ」

「一緒に……?」

「君はもう、人間と同じように悩んで、自らの意志で道を選ぶ力を手に入れている。紛れもなく人間と同じなんだ。なら君だって僕らと支え合って生きて良いんだ」

「でも、また間違えてしまうかも知れない。翔と戦う事になるかも知れないよ?」

「それで良いんだよ。誰だって間違う事はある、争ったりする事もある。でもその度に誰かが道を正して、生きている限りやり直せば良い。誰かと生きていくってそういう事なんだよ」

 

 震えながら翔の手を取り、アクイラはそのまま抱きつく。

 翔は彼を温かく包み込むように、安心させるように背を撫でる。

 

「『生きていたい』……たったそれだけだとしても、きっとこれが君の欲望、君の願いだったんだよ」

 

 再び瞳から雫を落とすアクイラ。泣き止むまで、翔はずっと抱き締めていた。

 しばしの後、子供の姿をしたアクイラは、翔から離れる。

 

「ありがとう、翔。でも……」

 

 そう言った彼の姿は、翔ではなく本来のアクイラのものに戻っていた。

 しかし、それだけではない。足から徐々に、塵のようになって消滅し始めているのだ。

 

「え!?」

「僕は、まだ人の隣では生きられない」

 

 目を見開いて、翔は叫ぶ。

 

「アクイラ! どうして!?」

「未来歪曲の力は、そのまま残していたらきっとまた大きな争いの火種になる。望もうと望むまいと、だ」

「それは……」

「だからこの力を捨てて、僕は一度この体を再構築して生まれ変わる。こんな方法じゃなく、正しく人間と共に歩めるように。人間と共に……生きていくために」

 

 翔には何も言えなかった。

 それは紛れもなく、彼自らが考えて出した結論だ。自分の意志で選んだ道だ。

 決して間違った結論ではない。

 

「大丈夫。きっとまた会える。いつ元に戻れるか分からないけど、しばらくの別れだ」

「アクイラ……!」

「またね、翔」

 

 その言葉と共に、白い空間は消滅していく――。

 

 

 

「ショウ、ショウ!!」

「う……?」

 

 いつの間にか、翔はアシュリィの膝を枕にして、空を見上げていた。

 相変わらずのドス黒い天空。身を起こすと、アシュリィが飛びつくように自分に抱きついた。

 

「わっ!?」

「良かった……ショウ、生きてるよ……!」

 

 心底から安堵したような声。周囲を見れば、変身を解いた鷹弘や翠月や浅黄、それに響と肇、ツキミにフィオレが立っている。塔の頂上には、アクイラの使っていたカーネルドライバーとエンピレオユニットも落ちていた。

 翔は、アクイラとの戦いから生還を果たしたのだ。それを知って自身も安堵し、アシュリィの背を右手で撫でる。

 そして、左手に何かを持っている感触に気付き、手を開いた。

 

「これは……!!」

 

 深く青い、小さな水晶玉。中央には綺麗な紅い光が灯っている。

 

「なんだそれ?」

「多分、アクイラのコアです」

「アクイラの!?」

 

 返事を聞いた鷹弘が、ぎょっと目を剥く。

 しかし、翔は首を左右に振った。

 

「彼は未来歪曲の力を捨て、新たな肉体を再構築すると言ってました。今度こそ、人間と一緒に生きていくために。きっとこの中で……心地の良い夢を見てるんだと思います」

「……そうか」

 

 それ以上、鷹弘は何も追及しなかった。

 翔の晴れやかな表情から、悪い事など何も起こらないと信じているのだ。

 そして翔とアシュリィが立ち上がった直後、島全体が揺れ始める。

 

「な、なんだ!? 何が起きた!?」

 

 狼狽する響。すると、新たなフォトビートルが一行の前に姿を現し、陽子の声を発した。

 

『大変! 島が徐々に落ちて来てる! サイバー・ラインとの融合もまだ完全に剥がれてない!』

「なにっ!?」

『このままじゃ島が落下して……帝久乃市どころか、世界が危ないよ!!』

 

 話を聞いて翔は唇を引き結び、立ち上がってアプリドライバー∞を装着する。

 

「アシュリィちゃん、これを持って先にゲートで研究所まで逃げて」

「ショウはどうするの!?」

「この島を止める。グラビティガイアの重力制御を全開にすれば、融合が解ける時間まで持ち堪えられるはずだ!」

「でも……!」

 

 アシュリィが引き留めようとするが、翔は力強く頷き、微笑んだ。

 

「大丈夫。必ずみんなも、自分自身も守る。みんなで生きていたいから!」

 

 その言葉を聞いて、響がフッと笑みを見せ、鷹弘たちもゲートを生成する。

 翔を信じ、向こうで待つ事に決めたのだ。

 するとアシュリィも、名残惜しそうにしながらも「絶対帰って来てね!」と叫んでから、その場から姿を消した。

 それを静かに見届けた後、翔はすぐに動き出す。

 

「さて、まずは地上に降りなきゃ――」

 

 言いながらマテリアフォンをかざして変身しようとした、その時。

 地面に落ちていたカーネルドライバーがカタカタと動き始め、エンピレオユニットがひとりでに外れると、そこから黒炎を噴く剣が飛び出した。

 

「え!? うわっ!?」

 

 剣の切っ先は、翔のドライバーにセットされたメビウスユニットを斬り裂いて破壊し、同時にホルダーにセットされていたチャンピオンズ・サーガとブルースカイ・アドベンチャーV2のプレートを弾き飛ばす。

 これで、翔はアズールメビウスへと変身できなくなってしまったのだ。

 

「まさか、今の剣は……!?」

「よくも、よくもアクイラ様の計画を壊したな……俺のアクイラ様を消したな……虫ケラ共が……!!」

 

 外れたユニットが、別の形を形成していく。

 両手足と両肩に龍の頭を生やした、十本の角を伸ばす怪物。大きな翼を拡げ、尻尾で地面を叩き、黒から滾るマグマのような赤へと染まった強靭な肉体をその場に晒す。

 ドラゴン・デジブレイン・アポカリプス。スペルビアと名乗っていたその龍の怪人は、翔に向かって、そして人間に向かって怒りを爆発させる。

 

「死ね!! ことごとく死ね!! この俺が貴様ら人間どもを滅ぼし、地球もろとも消し去ってくれる!!」

 

 ビリビリと怒声と熱風を浴び、翔は自らの歯を噛み締める。

 絶望的な状況の中、真の最終決戦が始まろうとしていた。




次回、最終回

EP.60[Impulse]
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