仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.07[殲血のダンピール]

 翔がデジブレインと交戦し始めたのと同じ頃。

 鷹弘は、トライマテリアラーを駆って現場へと急行していた。

 途中フォトビートルから転送されたデータによれば、敵はセンチピード・デジブレイン。恐らくセンチピードは、現段階のアズールの装備では苦戦するはず。

 そう判断していた鷹弘は、翔が長く時間を稼げないであろうという事を予測し、トライマテリアラーのスピードを上げていた。

 だが、そんな彼の前にベーシック・デジブレインの集団が立ちはだかる。

 

「あ?」

 

 鷹弘はスピードは緩めない。ホログラフィックパネルを操作し、フロントに備え付けられた二門のガトリング砲で迎撃する。

 データの弾丸がベーシック・デジブレインを次々に抹消し、倒し切れなかった者は轢いて潰した。

 トライマテリアラーがあればこの程度、変身するまでもない。だが、一体今のデジブレインはどこから湧いて来たのか?

 鷹弘はトライマテリアラーから降りて元の場所に転送し、急遽ゲートを探して周囲の反応を探り始めた。

 場所はすぐに分かった。近くの廃寺、その中からだ。石階段を登った山の中にあるため、少し時間がかかるだろう。

 

「……ゲートの管理者を潰すだけならすぐ終わるか」

 

 決断すると、人々に被害が出る前に鷹弘はすぐさま廃寺へと向かう。

 それにしても、電子機器もなさそうな廃寺になぜゲートがあるのか? 鷹弘は走って階段を登りながら、そんな事を考える。

 しかしその鷹弘の思考を邪魔するように、ベーシック・デジブレインが茂みの中から姿を現した。

 鷹弘は咄嗟にマテリアガンを抜き、そのデジブレインたちに発砲する。

 威嚇のつもりだったが、たった一発足に命中しただけで消滅した。

 

「なんだと!?」

 

 これに面食らったのは鷹弘の方だ。

 いくらベーシック・デジブレインが弱いと言っても、マテリアガンの一発を足に食らった程度で消えるはずがないのだ。

 もしもそんな事があるとすればゲートから遠ざかり過ぎているか、極端にそのデジブレインの内蔵しているデータが足りていないか、あるいは破損状態などでゲートとして不適切な機器を用いているかだ。

 いずれにしても、これは。

 

「誘き出されたってのか……!?」

「コケーッ!」

 

 声が聞こえ、鷹弘は自分の登ってきた階段の方を振り返る。

 すると木陰から、今までにアズールが何度も交戦したあのシャモ型デジブレインが飛び出して来た。

 その手にはゲートと化しているであろう壊れかけのラジオを持っており、それを握り潰して鷹弘の方へ突進して来た。

 直後に、昇り階段側にいたベーシック・デジブレインたちは消滅する。

 

「クソが!」

 

 進路はあるが逃げ場はない。鷹弘はマテリアフォンを持って一気に階段を駆け上がり、廃寺の前に到着する。

 そしてドライバーを呼び出し、即座にマテリアプレートを起動し装填、変身を始めた。

 

《ユー・ガット・メイル!》

「変……身!」

Alright(オーライ)! マテリアライド! デュエル・アプリ! 孤高のガンマン、インストール!》

「無駄な運動させてんじゃねェぞコラァ!!」

《リボルブラスター!》

 

 怒りで声を荒げ、リボルブは発砲する。だが軍鶏は大きく跳躍し、飛び来る銃撃を軽々と回避した。

 さらに驚く暇もなく、空中で必死に翼を動かして地につかず蹴りを連打してくる。

 

「コケコケコケコケコケェーッ!」

「チッ、うざってェ!」

「コーケコッコー!」

 

 一際大きく鳴いた直後、ガードしているリボルブの腕を踏み台にして跳躍。踵落としが飛んで来る。

 しかしリボルブもこれは読んでいた。前方へスライディングし、滑りながらその背中をマテリアガンとの二挺拳銃で狙い撃ちだ。

 

「コケケケケッ!?」

 

 大量の銃弾を背中に浴び、軍鶏はそのまま受け身も取れずに地面に叩きつけられた。

 消滅はしていないが、今のリボルブにとってはどうでも良かった。こいつに構っている場合ではない、急いで現場に向かわねば。

 だが、その直後に再びリボルブは違和感に気付いた。

 軍鶏(こいつ)が出て来たゲートはどこだ――!?

 

「まさかっ!」

 

 リボルブは廃寺の方を見上げる。瞬間、寺を破壊しながら大量のデジブレインが殺到する。

 その正体は、以前リボルブが戦った歩兵・騎兵・戦車・僧兵たち、そしてその中に一体のデジブレインが追加されている。

 他と同じく白と黒のチェック模様が共通しているが、女性型だ。王冠を被ってマントとドレスを纏うその姿は、女王と呼ぶのが相応しいだろう。手には勇ましく槍を持っている。

 

「こうして顔を合わせるのは初めてだったねぇ」

 

 そのさらに奥から、少年のような高さで、この場にまんまと誘き寄せられたリボルブを嘲笑うかのような声。

 

「何者だテメェ……」

 

 警戒して銃を向けながら、リボルブは言う。すると、寺の中から250cm近くもある巨大な軍服の人影が、ぬるりと伸び出て来た。

 軍服の男はくつくつと笑いながら、リボルブを見下ろす。

 

「はじめまして。ボクの名前はストライプ、天才軍略家だ……閣下と呼んでくれたまえ」

「断る」

 

 言いながらリボルブが発砲した。データの銃弾はストライプの軍帽を掠め、傷をつけた。

 

「テメェはデジブレインじゃねェな、だがその姿は普通の人間とも違う。もういっぺん訊くぞ、何者だ」

「……天才に対する礼儀がなってないね」

 

 額に青筋を立てながらストライプが言い、同じく仮面の奥で青筋を立てながらリボルブが返す。

 

「なんでテメェに礼儀を尽くす必要があんだよ」

「キミの頭脳が、天才のボクより遥かに程度が低いからに決まってるだろう? 事実、キミはボクの罠にかかったんだからさ」

「だからどうした。テメェのチンケな罠なんざ、丸ごと俺がぶっ潰してやるだけだ」

 

 リボルブが言い切ると、ストライプは突然腹を抱えて大声で笑い始めた。

 そして、リボルブを見下ろしながら冷静な目付きで嘲弄する。

 

「愚鈍だねぇ。ボクがどうして、キミを罠にかける相手に選んだと思う?」

「何?」

「キミがアズールに劣るからさ」

 

 リボルブがほんの一瞬、沈黙する。自分が何を言われたのか理解していないかのように。

 それに構わず、ストライプは嘲笑を続けた。

 

「キミたちの戦いを少しだけ見物させて貰ったが。ボクはある一点を除いて、二人の仮面ライダーの戦闘力はほぼ互角と見ている。アズールとリボルブに経験の差があるにも関わらず……だ」

「何が言いたい」

「アズールは経験を積めばこの先かなり厄介になる。だから今の内に潰すべきだが、あのカタルシスエナジーの爆発力は侮れない……完全に力量が読めない相手と戦うなら、念入りに準備しないとこっちが負ける」

 

 ひそかにリボルブは眉をしかめる。

 この男、カタルシスエナジーの事まで知っているのか。リボルブには目の前の男の、そして敵の正体が掴み切れずにいた。

 

「だからキミを先に潰す事にしたのさ。キミの倒れている姿を見れば、彼もきっと意気消沈する……そして、カタルシスエナジーの出力も一気に落ち込むって寸法さ」

「……ナメられたモンだな。俺がアイツに劣るだと? 経験の差があるってのはテメェ自身が言ったじゃねェか」

「ハハッ! キミの経験値がモノを言うのは、相手が凡人だった場合の話さ。ボクのような天才の前では、キミが培った経験など何の価値もない!」

 

 再び訪れる沈黙。先にそれを破ったのはリボルブだ。

 

「試してみるか?」

「どうぞ?」

 

 ストライプが返事をしたのと、リボルブの速撃ちが炸裂したのは全くの同時だった。

 その一撃で歩兵のデジブレインの眉間が撃ち抜かれ、地面に倒れる。

 

「おや?」

「さっきから……調子くれてんじゃねェぞオラァッ!」

《チェンジ! ライフル・アタッチメント!》

 

 ライフルモードに切り替えたリボルブラスターの銃床を脇で挟み込んで無理矢理右手だけで持ち、左手のマテリアガンも使いながら、リボルブは歩兵や騎兵を襲撃する。

 怒りのままに発射される銃弾、しかし僧兵が動いてデジブレインたちの前に光の結界を展開する。

 

「怒りでカタルシスエナジーが増幅したか。けど、この程度は想定済みなんだよねぇ!」

「うるっせェ!!」

《ジェイル・プラネット!》

 

 バリアの突破方法は既に知っている。以前にも使った、ジェイルリンカーによる一斉掃射だ。

 リボルブはマテリアガンを投げ捨てて、既にそれを手に取っていた。

 だが起動の直後、背後から右腕に向かって突然衝撃を与えられ、リボルブはマテリアプレートを取り落してしまった。

 

「なっ!?」

「コケケケケッ!」

 

 ついさっきまで石畳の上で伸びていた軍鶏が、起き上がって自分の腕を蹴りつけたのだ。

 

「野郎……!」

「ハハハッ、そのマテリアプレートさえ使わせなければこっちのものだ!」

 

 これも作戦の内か。リボルブは心の中で悪態をつきながらも、落としてしまったマテリアプレートを拾うために飛び込もうとする。

 しかし、それよりも速く軍鶏がプレートを蹴って遠ざけた。それを拾い上げるのはストライプだ。

 彼の前にいるのは大量のベーシック・デジブレイン。僧兵によってこれらにもバリアが貼られており、攻撃が通らない。

 しかも既に背後にもベーシック・デジブレインが回っている。退路も進路も奪われ、攻め手も潰された。リボルブは舌打ちをしつつ、ストライプを睨みつける。

 

「余程念入りに俺を倒しておきてェらしいな、クソが!」

「優れた軍略家はあらゆる逆転の芽をも摘むものさ! 君はここで終わりなんだよぉ!」

 

 僧兵が錫杖から光の矢を放ち、騎兵が突撃槍を突き付ける。

 遠隔攻撃はポンチョを翻して受け流す事ができるのだが、近接攻撃は別。突進する騎兵や、ショートソードで迫る歩兵の一撃には対応できない。

 それらが命中する度、リボルブの胸に火花が散った。

 

「が、ぐっ!」

 

 さらに軍鶏の蹴り技も、リボルブの背に叩き込まれる。まさに四面楚歌だ。

 

「ハハハハハッ! 言っておくが、アズールの増援は期待するなよ? 彼はセンチピード・デジブレインの相手で忙しいからねぇ」

「……ハナからアイツに期待なんざしちゃいねェ」

「それは強がりだね、戦闘経験が長いなら分かるだろ? 増援でも来ない限り負けるって事がさぁ!」

 

 再度突進してくる騎兵の刺突を右へのサイドステップで避け、そこに待ち構えていた軍鶏がリボルブの腹を蹴りつける。

 それを腕でガードすると、仰け反ったところで戦車が背後から迫り、拳を背中に打ち込まれる。それによって態勢は崩れ、さらに女王の槍が肩に直撃。

 休む間もなくベーシック・デジブレインと歩兵が突撃し、リボルブへ総攻撃を仕掛けに向かう。

 リボルブも当然反撃するが、データの銃弾は結界を破るに至らず。またシャモ型デジブレインの蹴り技を受け、地面に仰向けに倒れる事となった。

 倒れるリボルブの前に、女王のデジブレインが徐々に近付き、首に槍を突き付けた。

 

「くくく……これでチェックメイトだ。君はアズールの足を引っ張って、彼共々死ぬのさ」

「……」

「言い遺すことはあるかい?」

「……けだ」

「うん?」

 

 遺言を聞こうと耳を傾けた瞬間、リボルブは素早く立ち上がった。

 

「テメェの負けだ」

 

 そう言ってアプリウィジェットからリボルブが取り出したのは、新たなマテリアプレートだ。

 抵抗して時間を稼いでいる間に、緊急事態と見て陽子が急ぎ作製して転送していたのだ。

 リボルブは通信でそれを聞き取っていたが、追い詰めるのに夢中になって慢心していたストライプの耳には届いていなかった。

 

「そ、それはっ!?」

 

 ストライプの驚愕する様を見てほくそ笑み、リボルブはマテリアプレートを起動する。

 

《殲血のダンピール!》

 

 ダンピールとは、吸血鬼と人間の間に生まれたハーフの事である。殲血のダンピールは、そんなダンピールとなって吸血鬼を駆逐するために城やダンジョンに攻め入る、タワーオフェンスゲームのアプリだ。

 リボルブは攻撃が飛んでくる前に、素早くそのプレートをアプリドライバーへと装填。

 ガンマン・テクネイバーとのリンクは解除され、代わりに白い鍔広帽とロングコートを纏った、処刑人や殺し屋を彷彿とさせる風貌のテクネイバー、ブラッディ・テクネイバーが姿を現した。

 

《ユー・ガット・メイル! ユー・ガット・メイル!》

「く、くそっ! ヤツにアレを使わせるな!」

「もう遅ェ!!」

 

 妨害に走るデジブレインたちだが、ブラッディ・テクネイバーはそれらを一蹴し、リボルブを護る。

 そして、リボルブはマテリアフォンをかざした。

 

「リンクチェンジ……!」

Alright(オーライ)! マテリアライド! ダンピール・アプリ! 高貴なるスレイヤー、インストール!》

 

 ブラッディ・テクネイバーの姿が分解され、リボルブのプロテクターとなる。

 ポンチョは白のロングコートとなり、左腕には盾とパイルバンカーを組み合わせた武装『ダンピールバンカー』が装着される。

 仮面ライダーリボルブ ダンピールリンカー。変化した姿にストライプは目を奪われつつも、デジブレインたちに命令を下す。

 

「リンクチェンジしたところで、お前の不利に変わりはない! 総員かかれ!」

 

 先陣を切ったのは歩兵だ。走りながら、ショートソードをリボルブに向かって振り下ろした。

 だが、その刃はリボルブのコートに全く通っていなかった。

 

「残念だったな。防刃・防弾仕様だ」

 

 そう言って、リボルブはダンピールバンカーを歩兵の顔面に、伸び出た先端部の杭を突き付けてスイッチを押す。

 すると杭がまるで血のように紅い光に覆われ、直後そのエネルギー体が発射されると、バリアを砕いて歩兵の顔面を容易に撃ち貫いた。

 歩兵は痙攣しながら地に膝を付き、そのまま静かに消滅。その消滅したデータが、リボルブの体に吸収されて負傷を癒やした。

 

「な……」

「ほー、コイツはいい」

 

 攻撃した敵のデータを吸収しつつ戦う、パワー特化タイプのリンカー。それを知ったリボルブは仮面の中で余裕の笑みを浮かべ、悠然と歩き出す。

 

「丁度暴れてェ気分だったんだ!!」

 

 言いながら、リボルブは盾の表面にある十字架を拳で押し込む。

 すると、全身が深紅のエネルギーに包み込まれ、リボルブの身体能力を向上させる。

 

《バーサーキング!》

「オォォォラァァァ!!」

 

 雄叫びを上げ、リボルブはベーシック・デジブレインに拳を叩きつける。たった一撃で頭が粉々に砕け散り、リボルブに吸収された。

 ダンピールリンカーの特性のひとつ、バーサーキング。闘争本能を活性化させる事で体内のリンクナーヴを刺激し、カタルシスエナジーを強制的かつ恒久的に増幅、これによって常に最大の戦闘能力を発揮させる力。

 ただしバーサーキング状態を維持し続けるには体力を消耗する必要があり、限界まで使用を継続すると当然変身は解除され、意識を失う事となる。

 もうひとつの特性である吸収能力は、そのデメリットを解消する手段なのだ。

 つまり敵を攻撃し続けられる限り、ダンピールリンカーは獅子奮迅の活躍を見せる事ができる。敵数の多いこの状況はまさにうってつけというワケだ。

 

「さっきまでの威勢はどうしたァ! ア゛ァ!?」

 

 回り込んで突撃して来た騎兵の槍を振り向かずに片手で受け止め、近付いてきた歩兵をバーサーキングでパワーアップしたリボルブラスターで撃ち抜く。

 そして槍を掴んだまま騎兵の方を向くと、そのまま槍を引っ張て全身を引き寄せ、体制を崩したところで腹を蹴り上げ上半身と下半身を真っ二つにする。

 あまりにも力が強すぎる。もはや、光の結界は意味を成していない。

 

「そ、そんなバカな……」

「暴れ足んねェ!! もっと来いコラァ!!」

《チェンジ! ショットガン・アタッチメント!》

 

 ダンピールリンカーによって追加されるリボルブラスターのアタッチメントにより、リボルブラスターはハンドグリップと専用バレルが装着されてショットガンモードとなる。

 ショットガンモードは射程距離が極端に短くなる代わりに威力が高く、広い範囲を攻撃できるメリットがある。接近戦用のダンピールリンカーと非常に相性の良いアタッチメントだ。

 ポンプアクションでハンドグリップを引き、体内のカタルシスエナジーをリボルブラスターにチャージ。そして、僧兵の胴体に銃口を押し付け、引き金を引く。

 ドムッ、どいう轟音と共に胸から腹まで風穴が開き、僧兵は木っ端微塵に吹き飛んで消滅した。

 

「ハァァァッ……そろそろお遊びは終わりにしてやるぜ」

「コケーッ!」

 

 軍鶏のデジブレインが、果敢にもリボルブに立ち向かう。

 しかしその軍鶏から繰り出される冴え渡った蹴り技すらも、リボルブは拳で止めてみせ、アプリドライバーから装填したアプリを抜き取ってそのままダンピールバンカーに挿入する。

 

《フィニッシュコード!》

「くたばりやがれェェェッ!!」

Alright(オーライ)! ダンピール・マテリアルスパイク!》

 

 ダンピールバンカーに紅いエネルギーが集まり、リボルブが左拳を振り被ると同時に、一気に軍鶏へと放出される。

 圧倒的にして破壊的な深紅の奔流を全身に受けた軍鶏は、そのまま吹き飛ばされて廃寺の中に叩き込まれ、さらにその壁を突き破って奥の森の中へと飛んで行った。

 

「ぐ……クソッ、もっと攻撃してヤツの力を削り取れ!!」

 

 言って、ストライプは残りの僧兵の助力を得た戦車と女王をリボルブにけしかける。

 この手は唯一、ダンピールリンカーに対して有効であった。戦車は厚い装甲を持っており、さらに僧兵のバリアや強化能力を受ければその防御力はさらに高まる。

 女王も彼の手駒の中では最も高い戦闘能力を持つ。そのため、リボルブに対して有効打を与え得る存在だ。

 そして、バーサーキング状態には大きな弱点がある。デジブレインに対してダメージを通す事ができなければ、吸収は機能しないという点だ。

 吸収できなければ後はただ体力が低下するだけ。戦車と女王は、今のリボルブには最も有効な切り札なのだ。

 

「やれぇぇぇ!」

 

 ストライプが命じる。戦車が腕を振り上げ、女王が武器をメイスに変えて攻撃を始める。

 だが、次の瞬間。

 

《フリック・ニンポー! カワリミ・エフェクト!》

「何っ!?」

 

 その音声が聞こえると同時に、攻撃を受けるはずだったリボルブの姿が消え、代わりに丸太がそこに出現して攻撃を受ける。

 ストライプは唖然とした。今何が起きたのか、全く理解が追いつかなかったのだ。

 すぐに疑問は氷解した。

 

「すいません、遅れました」

 

 階段の前から聞こえるその声。

 そこにいたのは、白いコートを纏うリボルブの左隣に立つ、黒衣の忍者のような装いのアズールだ。

 シノビソードとアズールセイバーを逆手に持ち、ストライプを見据えている。

 さらにその背後には、鋼作・琴奈・アシュリィの姿もある。

 

「俺ひとりで充分だったんだがな」

「あれは……誰ですか?」

「敵だ」

「分かりました、じゃあパパッと倒しましょう」

 

 アズールの言葉に、ストライプは苛立って怒鳴りつける。

 

「パパッと……だとぉ!? バカめ! そんな簡単に倒される布陣じゃ」

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

「……は?」

 

 シュリケンフリッカーを操作したアズール シノビリンカーの姿を見て、再びストライプは愕然とする。

 数が増えた。それも、本体を含めて十二人に。

 そして呆けている間に、フォトビートルが戦力の解析を始める。

 

「チェスポーン・デジブレインにチェスナイト・デジブレイン、チェスルークにチェスビショップ……最後にチェスクイーン・デジブレイン。どれもチェスの駒に関係してるわね。どれも中々強敵よ、気を付けて!」

「琴奈さん、分析ありがとうございます」

 

 アズールが礼を言った直後、分身と本体が散開する。それに乗じ、リボルブも突撃した。

 

「クソッ、せめてこのマテリアプレートだけでも持ち帰って」

《フリック・ニンポー! カクレミ・エフェクト!》

「え?」

 

 分身アズールの一体が消えると同時に、手元にあったはずのジェイル・プラネットのマテリアプレートが見えない何かに奪い去られる。

 そして隠身の解けた分身アズールは本体へとプレートを投げ渡しつつ、歩兵(チェスポーン)へと二刀流の斬撃を加えた。

 無論威力が低くバリアに阻まれるが、さらに分身二体が攻撃に加わって連続攻撃を繰り出すと、バリアは剥がれ容赦なく斬り刻まれた。

 

「な、な……」

「すいません静間さん、ちょっと借りますね」

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! ジェイル・マテリアルニンポー!》

 

 ベーシック・デジブレインを相手にしていた分身たちが時間切れで消えると同時に、本体のアズールはプレートを差し込んでマテリアフォンをかざし、必殺を発動。

 無数の斬閃の嵐が飛び、チェスポーン・デジブレインとチェスナイト・デジブレイン、チェスビショップ・デジブレインを粉微塵にして倒した。

 それを見て立腹したのは、チェスルークと近接戦を繰り広げていたリボルブだ。

 

「テメェ! 勝手に人のモン使ってんじゃねェ!」

「借りるって言ったじゃないですか!」

「許可してねェだろが! テメェのも寄越せ!」

「あぁもう、分かりましたよ!」

 

 言いながら、アズールはロボットジェネレーターをリボルブに放り投げた。

 リボルブはそれを受け取り、ポンプアクションでカタルシスエナジーをチャージした後、リボルブラスターに装填して必殺技を発動する。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! ロボット・マテリアルカノン!》

「ブチ撒けろォ!」

 

 トリガーを引くと、リボルブラスター・ショットガンモードの銃口から無数の超高熱光線が発射され、至近距離にいた二体の戦車の全身に風穴を開けて消滅させる。

 そして、自分たちが使っていたアプリを互いに戻し合った。

 残るは既に女王たるチェスクイーン・デジブレインのみ。ストライプは歯を軋ませ、二人の仮面ライダーを睨みつける。

 

「良い気になるなよ……クイーンは最強の駒だ、簡単に倒せると思うな!」

「御託はいらねェ、かかって来やがれ」

 

 もはや最初とは完全に立場が逆転している。ストライプは癇癪を起こして理解不能な奇声を発し、クイーンへと攻撃命令を下した。

 クイーンは無言でリボルブへと接近してメイスを振り下ろし、さらにもう片方の手に持った剣をアズールに突き出す。

 打撃は防刃のコートでも受けきれないので、リボルブはこれを素直に避ける。アズールも同じく、攻撃を受けるには軽装すぎるのでスピードを活かした回避に専念した。

 が、その直後。リボルブの脇腹にはトゲのついた鉄球が掠め、アズールの肩には槍の穂先が直撃した。

 

「なにっ!?」

「がぁっ!?」

 

 二人は同時に驚愕の声を発する。敵が持っていないはずの武器が、体に命中したのだ。

 嘲笑うストライプ。そして、彼が指をパチンと弾くと同時に、そのマントが外れて内側が晒された。

 左右の腕の上下に生えている、さらに四本の腕と武器。このデジブレインは多腕だったのだ。

 

「バケモンが……!」

 

 チェスクイーン・デジブレインの真の姿を見て、リボルブはそんな悪態をつく。

 右側の三本の腕にはメイス・モーニングスター・ボウガンを持ち、左側の腕には剣・槍・斧を装備しているのが分かった。

 だが、他にも背中に幾つかの武装を隠しているのが見える。その気になればいつでも取り替えられるのだろう。

 最強の駒というのは伊達ではないらしい。リボルブはそう思いながら、リボルブラスターのハンドグリップを上下させる。

 

「だったらこいつを喰らいやがれ!」

 

 叫びながら、リボルブはデュエル・フロンティアのマテリアプレートをリボルブラスターに差し、マテリアフォンをかざした。

 それに続いてアズールもブルースカイ・アドベンチャーをアズールセイバーに装填し、必殺の態勢に入る。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! デュエル・マテリアルカノン!》

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! ブルースカイ・マテリアルスラッシュ!》

「――」

 

 リボルブラスターから再び必殺の散弾が発射され、アズールセイバーからも青い斬撃が閃く。

 しかしチェスクイーン・デジブレインは機械の駆動音のようなものを鳴らしながら、全ての腕を同時に右側に振るって強引に全ての攻撃を逸らした。

 

「何っ!?」

「そんな……!?」

 

 今までに戦った中で、一度必殺を受けても倒れなかったデジブレインはいる。軍鶏がそうだ。

 だが、完全に必殺技を防ぎ切った者は今までに一体もいなかった。

 かつてない程の強敵。二人はその重圧を肌で感じ取っていた。

 

「本当に格が違うらしいですね」

「恐いなら下がってろ。アイツは俺が潰す」

 

 リボルブは銃を構え直しつつ、前進。アズールも逆手に持った両方の刀剣を握り込んだ。

 一方のストライプは好機と見るや、高笑いをしながら二人に対して指を差す。

 

「行けクイーン! 嬲り殺しちゃえぇ!」

「――」

 

 返事をせず、ただ命令通りに駒は動く。

 まずは右腕のボウガンでリボルブの脚を狙い、飛び上がったところでメイスを振って薙ぐ。

 リボルブは当然これをダンピールバンカーの盾でガードするが、クイーンの凄まじいパワーはその守りの上からでも容赦なく襲いかかる。

 

「ぐっ……ラァッ!!」

 

 だがリボルブもタダではやられない。殴られた直後にリボルブラスターの引き金を引き、クイーンの顔を目掛けて発砲した。

 クイーンはその攻撃にも反応し、斧を盾代わりにして直撃を防ぎつつ、今度はモーニングスターを振り下ろす。

 

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

 

 しかしその間に今度はアズールが、分身を八体呼び出しつつクイーンの脇腹に目掛けて両側面から攻撃を仕掛ける。

 これに対してクイーンはメイスで右側の分身を三体薙ぎ倒し、左側の四体を剣と槍で討つ。左から攻めていた本体のアズールも、槍の一突きによって負傷した。

 

「く、う……!」

 

 強烈な一撃にアズールも怯む。そして攻撃の手が緩んだ瞬間、ボウガン以外の全ての武器を縦横無尽に振り回して、アズールとリボルブを攻撃した。

 

「がぁっ!」

「うわぁ!」

 

 アズールもリボルブも吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

「くぅ……」

「クソッタレが……!」

 

 今までにない強敵、そして激しい攻撃でアズールとリボルブの意識は徐々に削がれていく。このままでは変身解除も時間の問題であった。

 アズールはロボットリンカーになればまだ勝機を見出だせるかも知れないが、クイーンは確実にその隙を与えないだろう。

 ストライプは二人の苦しむ姿を眺め、笑っていた。

 勝利を確信した笑みだ。クイーンの攻撃は仮面ライダーに通用している、ならば勝利は間違いないと。

 

「泣いて許しを請え! 許してやらないけどなぁ!」

 

 仮面ライダー二人の苦戦する姿に、鋼作と琴奈にも動揺が広がっている。

 

「お、おいどうすんだ!? このままじゃ翔たちは!」

「どうするって言ったって……どうしたら!?」

「畜生、翔たちが……翔たちが殺されちまう!」

 

 涙ながらに鋼作が叫んだ。

 その時。

 琴奈の傍で戦いを見ていたアシュリィが『翔が』『殺される』というワードを聞いた、その時。

 アシュリィは眼帯を付けた右眼を押さえ、短く呻き声を上げてうずくまった。

 

「あ、あぁあぁぁぁ……!!」

「アッシュちゃん!?」

「イヤ! ダメ……死んじゃ、ダメ……!」

 

 ガタガタと身を震わせ、息を荒げてアシュリィはそう言った。

 首だけ僅かに振り向きその姿を見たアズールは、クイーンの方に向き直ると、リボルブに語りかける。

 

「静間さん。後の事はよろしくお願いします」

「何……?」

 

 どういう事か、と問い質すよりも前に、アズールは行動に移った。

 ブルースカイ・アドベンチャーとロボットジェネレーター、二つのアプリをウィジェットから取り出し、それぞれをシノビソードとアズールセイバーに装填。

 そしてさらに、アプリドライバーに差し込まれている鬼狩ノ忍も押し込んだ。

 

《フィニッシュコード!》

《フィニッシュコード!》

《フィニッシュコード!》

「まさかテメェッ!? よせ、止めろ!!」

Alright(オーライ)!》

 

 リボルブの静止にも耳を貸さず。

 アズールは、全てのアプリの必殺技を起動した。

 

「ハァァァァァァァァァッ!!」

《ブルースカイ・マテリアルニンポー!》

《ロボット・マテリアルスラッシュ!》

《シノビ・マテリアルバースト!》

「そぉりゃああああああっ!!」

 

 三種の必殺技が同時発動し、アズールは天高く跳躍する。

 そして次の瞬間には、双剣を振るってクイーンの腕を全て斬り落とした後、さらにその胴へ渾身の飛び蹴りを食らわせていた。

 

「――!」

「静間さん!!」

 

 蹴りを受けたクイーンが、蓄積されたダメージに悶える。

 声をかけられたリボルブはハッと我に返って、自分のやるべき事を思い出し、アプリドライバーのプレートをそのまま押し込んでマテリアフォンをかざした。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! ダンピール・マテリアルバースト!》

「くたばり……やがれェェェッ!!」

 

 リボルブの右脚に深紅のエネルギーが集約され、跳躍。

 立て続けに発動された必殺技を防御するヒマも手段もなく、アズールのライダーキックが当たった部位に、さらにリボルブの下から突き上げるような飛び蹴りが炸裂する。

 その一撃はクイーンの胴を完全に貫通して粉砕し、女王の駒を機能停止に追いやった。

 

「そ、そんな……バカな!?」

 

 最高戦力を失い、ストライプが嘆きの声を発した。

 彼の計算ではこんな事は起こらないはずだった。仮面ライダーたちにクイーンを倒し得る戦力はなく、確実に自分が勝つ手筈だったのだ。

 アズールの力は確かに未知数だった。手の内が読めず、予想のできない存在だとは思っていた。

 だが、まさか。

 まさかここまで無謀で命知らずな、計算外の男だとは思っていなかったのだ。

 どうやったのかも何故できたのかもストライプには分からないが、必殺を三つ同時に発動すればその分だけ感情エネルギーが必要になるし、当然カタルシスエナジーも増幅する。

 そして、過剰なカタルシスエナジーの増幅はオーバーシュートを引き起こし、体と心を滅ぼす。はずなのに。

 

「僕らの……勝ちだ」

 

 そのアズールが今、ゆっくりとストライプの方へと歩いている。

 ゾワッ、と寒気が走るのをストライプは感じた。本能的にこの男に対して危機を感じたのだ。

 

「く、来るな! 来るなぁ! ボクはまだ負けてない、お前らなんかに負けてないぞ!」

「ワケの分かんねェ事喚いてんじゃねェよ。どう見ても負けてんだろうが」

「黙れぇ! こうなったら、もっとデジブレインを……!」

 

 アズールもリボルブも今や満身創痍のはず。特にアズールは限界に近いはずだ。

 ある意味では絶好のチャンス、逃してはならない。ストライプはそう思って左腕のスマートウォッチを操作しようとした、だが。

 直後に信じられないものを見た。

 デジブレインを呼ぶと聞いたアズールが再び、アプリドライバーのマテリアプレートへと手を伸ばしているのだ。

 ――この期に及んでまだ必殺技を使えるのか!?

 そもそもアズールはこの戦いの前にセンチピード・デジブレインとも戦っていたはず。その時にも必殺を撃ったはずなのだ。

 ストライプは、もはやアズールに対して恐怖すら感じていた。

 

「なんだよ……なんなんだよお前ぇ!?」

 

 自分でも気付かぬ内に、ストライプは後退りする。

 アズールとリボルブは目の前のストライプを捕まえる算段だ。もしも成功すれば、敵の正体を知る事ができるだろう。

 そしてさらに一歩踏み込んだ、その時。

 二人の足元から黒い炎の壁が迫り上がり、ストライプから隔離した。

 その炎は、アズールがセンチピードと戦った後、ベルトを回収しようとした時に現れた爆炎と全く同じだった。

 

「うおっ!?」

「これは……!」

 

 驚き、飛び下がる二人。さらに続いて、廃寺の真上から声が木霊する。

 

「困りますねぇ、御二方。ストライプ様をどうするおつもりなのです?」

 

 ダークブルーの礼服と、白いワイシャツ。マラカイトグリーンのリボンタイに孔雀の羽根のブローチ、そして何よりも目を引く孔雀の羽根飾りが付いた仮面。

 そんな上品な衣服を纏った男が、空中に浮遊している。

 口元は柔らかく微笑んでいるのが分かるものの、その眼は酷く冷たい。

 

「テメェ……何者だ!」

 

 明らかに人間ではないと分かって、リボルブが警戒しながら叫んだ。

 直後、男は白い手袋に包まれた人差し指をクイと上げる。

 すると、森の中で倒れていた軍鶏のデジブレインが戦闘不能になった状態のまま浮遊し、男の隣に移動していく。

 

「はじめまして、仮面ライダー様方。私の名はスペルビア、こちらにいらっしゃいますCytuber(サイチューバー)様のプロデュースをしております。以後お見知りおきを」

Cytuber(サイチューバー)……?」

 

 空中に浮いたまま、男は恭しく一礼する。

 その姿に一番驚いているのは、他ならぬストライプだった。

 

「スペルビアP、どうしてここに!?」

「本来の目的は達成しましたので、お迎えに上がりました」

 

 言いながら、スペルビアはさらに中指を上げた。すると、彼の目の前にセンチピード・デジブレインが装着していたものと同じベルトとマテリアプレートが出現する。

 アレを回収したのは、この男だったのだ。

 

「では帰りましょうか。ゲートをお願いしますね」

「わ、分かりました……『ゲート』」

 

 ストライプがスマートウォッチに似たデバイスを操作して唱えると、その場の空間が歪み、ゲートが形成される。

 ゲートの発生源はこれだったのだ。それを理解したリボルブは「待ちやがれ!」と咄嗟に叫んでいた。

 

「テメェらがゲートを作れると分かった以上、逃がす気はねェぞ!」

「僕が止める……!」

 

 アズールもリボルブも、戦闘態勢を崩さない。

 それを見たスペルビアは、柔和な笑みを口元に浮かべつつ、首を傾げていた。

 

「おや。おやおやおやおやおやおや。私めと戦うおつもりですか?」

「ったりめェだろうがァ!!」

 

 リボルブは叫び、通常形態に戻したリボルブラスターを連射する。アズールも空を飛び、剣を突きつけた。

 データの銃弾は、スペルビアへと真っ直ぐに飛んで行く。

 が、スペルビアが溜め息を吐き、右手を前にかざしたその瞬間。

 銃弾も剣先も、まるでそこに見えない壁でもあるかのようにその場で静止した。

 

「なっ……!?」

「なんだと!?」

「傲慢ですねぇ」

 

 続いてスペルビアがパチンと左手の指を弾くと、銃弾の数が倍に増え、アズールとリボルブに向かって倍の速度で飛んで行った。

 攻撃が全て、倍になって跳ね返されたのだ。

 

「うわあああ!!」

「がっ……!?」

 

 その反撃によってアズールもリボルブも倒れ、変身が解除される。

 それを確認してスペルビアは柔和に微笑み、ストライプに対し「行きましょうか」と声をかけた。

 するとストライプは目を丸くして、意外そうに「良いんですか?」と訊ねる。

 

「今なら仮面ライダー共を始末できるでしょう?」

「私めの目的は命を奪う事ではございませんので」

「え……?」

「それでは皆様、ごきげんよう」

 

 不思議に思いながらも、ストライプは口に出せずにいる。

 そのまま、スペルビアや軍鶏と共にゲートへと姿を消してしまった。

 

「畜生が!!」

 

 敵は去った。だが、鷹弘は地面に拳を叩きつける。

 あのスペルビアという男の前に、為す術もなく敗北してしまった。あまりにも強大な力だった、触れる事さえ許されなかった。

 鷹弘は歯を食いしばりながら、決意を固める。

 

「絶対にブッ潰してやる……!!」

 

 言いながら、鷹弘は立ち上がった。

 翔も疲労困憊で顔が青褪めているが、震える脚に力を入れ、なんとか立ち上がった。

 直後、鷹弘はそんな翔の顔を睨みつけ、胸倉に掴みかかる。

 

「テメェ!! さっきのアレは何のつもりだ!!」

「あぁするしか……倒す手段がないと思ったんです」

「ふざけんな!!」

 

 そのまま殴りかからんばかりの勢いで、鷹弘は叫ぶ。

 只事ならぬ気配を感じ、二人の間に割って入ろうと鋼作と琴奈は駆け寄るが、鷹弘の一睨みで竦んでしまう。

 

「勝手に無茶な真似しやがって! 失敗したらどうする気だテメェ!」

「けど! 他に僕らが生き残る手段はなかったじゃないですか!」

「うるせェ! 今度同じ事してみろ……ブン殴ってでもそのベルトは返して貰うからな! 分かったかこの野郎!!」

 

 翔を突き飛ばし、憤りながら鷹弘は階段を下りていく。

 一方の翔も鋼作や琴奈に支えられながら、アシュリィと共に帰路につくのであった。

 

 ――突如として現れた強大な敵、Cytuber(サイチューバー)。そして謎に満ちた男、スペルビア。

 ホメオスタシスが対抗する手段は、果たして存在するのか。

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