仮面ライダーアズール   作:正気山脈

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EP.08[ワンダーマジック]

「申し訳ありません、P(プロデューサー)。あなたのお手を煩わせてしまって」

 

 豪奢な装飾が成された、中世ヨーロッパの居城を模した空間にて。

 アズール及びリボルブとの戦いの後、サイバー・ラインまで移動したストライプは、この場所に到着するなりそう言った。

 するとスペルビアは柔らかく微笑んで、ストライプの前で一礼する。

 

「構わないのですよ、ストライプ様。これも私めの務めでございますので」

「けど、本当に良かったんですか? あいつらを見逃して」

「勿論ですよ。ところで……戦闘で破損したデジブレインたちのデータの修繕にはどの程度時間がかかりますか?」

 

 問われて、ストライプは苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「ポーンやナイト、ビショップはすぐにリカバリーできます。ルークはそれらよりは多少遅れますが……問題は、クイーンですね」

「やはり時間がかかると?」

「ええ。アレとキングは特別製なので……一日頂く事になるかと」

 

 スペルビアは「ふぅむ」と口元に手を当て、考える仕草を見せる。

 

「あなたに本格的なホメオスタシスへの襲撃を任せようと思っていたのですが、これでは致し方ありませんね……」

「ま、待って下さいスペルビアP! ボクはまだ負けてません! 戦えます! ガンブライザーだってある、これで時間を稼げます!」

「お気持ちはお察ししますよ、ええ。しかしですね。即座に動けない上に戦力を欠いたあなたに頼るよりも、デカダンス様に任せた方が手速く済むのですよ。彼女なら欠伸する間に街一つ沈められますからねぇ」

「そ、それは……」

「それに、この状況を好機と見たホメオスタシスが、攻めて来ないとも限りませんからねぇ」

「くっ……けど、どうか! どうか、お願いします! ボクは、ボクは一番にならなきゃいけないんだ!!」

 

 縋り付くように、必死の形相でストライプは言った。しかし、尚もスペルビアは考え込んでいる。

 ストライプは何度も、何度も「お願いします! お願いします!」と頭を下げた。必ず次の戦いまでにクイーンの修理を間に合わせるとも誓った。

 だが、スペルビアはまだ首を縦に振らない。諦めるしかないのか、と考え始めた、その時だった。

 

「俺が協力してやってもいいぜ……ストライプよぉ」

 

 室内に、そんな男の声が木霊した。

 ストライプが振り向くと、そこにいたのはヴァンガードだ。ガンブライザーとマテリアプレートを片手に、二人の元へ歩いている。

 だが、ストライプはヴァンガードを睨めつけており、明らかに歓迎していない様子だった。

 

「どういう風の吹き回し? 君が協力だなんて」

「オイオイ! 邪険にするなよ、仲間同士だろぉ?」

「勝手に人の領地(テリトリー)に忍び込んで来たクセに何言ってるんだ? 答えなよ、何を企んでる?」

 

 ヴァンガードは肩を竦め、数度頷いて「分かった分かった」と観念したような口振りで話し始める。

 

「正直なところ、お前がやってくれないと俺が困るのさ。アズールと戦って勝つ自信がないモンでねぇ」

「そんな事言って横からボクの手柄を奪う気じゃないだろうね」

「信用ねぇなぁ!? まぁ良いから聞けよ! お前が何を望んでるのかは知らねぇし興味もないが、俺は別に今すぐに願いを叶えたいワケじゃないのさ」

「へぇ? だから、手柄を横取りする気はないって?」

 

 そのストライプの言葉を肯定する様子で、ヴァンガードはこくこくと頷く。

 彼の申し出に、ストライプは少しだけ悩み始めていた。自分たちは同志であり競争相手でもある、簡単に鵜呑みにすべきではない。しかし、裏があったとしても、ストライプにとって魅力的な話ではあった。

 そこで、ストライプはヴァンガードに一つだけ条件を付ける事にする。

 

「……君がボクの指揮下に入り、全て指示通りにするのなら良いだろう。その申し出を呑もうじゃないか」

「ヘヘッ、そう来なくちゃなぁ」

 

 ヴァンガードは薄ら笑いを見せながら、手に持った錫杖を肩で担ぐ。

 そして次はスペルビアの方を見て、彼にも頼み込むような口調で語りかける。

 

「P、あんたもそれで良いかい?」

「ふぅむ」

「正直、説得に時間のかかるデカダンスよりはストライプと俺に頼るのが手っ取り早いと思うんだけどよぉ」

 

 ヴァンガードの話を聞き、スペルビアの仮面から覗く眼差しが、どこか愉快そうに歪む。

 そうして、彼も頷いて「よろしいですよ」と許可を出した。

 その後でヴァンガードはストライプに向き直ると、人差し指をピンと立てて「ひとつだけ頼まれて欲しい事がある」と言った。

 

「あの赤いアイツ……リボルブの相手は俺に任せてくれねぇか?」

「リボルブを?」

 

 提案自体は、ストライプにとっても願ったり叶ったりだった。

 リボルブの武装と自分の手駒は少し相性が悪い。その上アズールはあまりにも計算外の存在だが、リボルブと合流できないようにするなら話は別だ。シノビリンカーも既に見たので、対処法も用意できる。

 だが、ヴァンガードが何故リボルブを名指しして挑むのか。そこが不可解だった。

 すると彼はその考えを読んでいるかのように、不敵に笑ってみせる。

 

「なぁに、俺の方がアイツとの相性は良さそうなんでね。お前と同じように、俺もアイツらを監視してたのさ」

「……ふぅん、まぁ良いや。じゃあボクのガンブライザーも貸してあげるから、とりあえずクイーンが直るまで時間稼ぎをよろしく」

「お前はどうするんだ?」

「駒たちの修復が済み次第、今回の戦闘データと次の君のデジブレインが得るデータを学習させて作戦を組み立てる。一日あれば充分だ、入念に準備できる」

「なるほどねぇ」

「それと……直ったらその後は侵攻戦だ。ボクも出るからね」

 

 ストライプは二人に背を向け、クイーンなどの駒たちを格納している地下室へと向かうのであった。

 取り残されたスペルビアとヴァンガード。不意に、ヴァンガードの方が口を開いた。

 

「アンタも人が悪いねぇ、プロデューサー」

「おや。何の事でしょう」

「どうもこうも……最初からアイツに任せる気でワザと煽ってたんだろ? デカダンスにやらせるとかよぉ」

 

 ヴァンガードの口調は咎めるようなものではない。むしろ、この状況を楽しんでいる節さえあるような、軽薄さがあった。

 スペルビアの方は、ただ微笑んでいるだけだ。

 言い当てられたと慌てているようでもなければ、全くのデタラメと憤慨している様子もない。いつも通りの微笑み、無反応だった。

 

「煽ったなどとそんな事は。私めは、仕事を果たすために彼の欲望を刺激したに過ぎません」

「クククッ、そうかい」

「それに、ヴァンガード様も同じではないですか?」

「うん?」

「あなたにも大きな願い……欲望がある。だからこそ、666人いるCytuberの中から選び抜かれた七人の内の一人になれたのですからねぇ」

 

 そこで一拍間を置いてから、再びスペルビアは微笑みながら語りかける。

 

「彼を利用するつもりでここに来たのでしょう? あなた自身の欲望のために」

「……ククッ、さぁどうだろうな」

「アッハッハッ。まぁ、今は深く詮索するのは止めておきましょう。愉しみというのは後に取っておくべきだ」

 

 言った後、スペルビアはパチンと左手の指を弾く。

 すると空中に突然ガンブライザーが一基出現し、ヴァンガードの手元へと飛んで行った。ストライプがセンチピード・デジブレインを生み出す時に使ったものだ。

 ヴァンガードはそれを受け取って、懐から二枚のマテリアプレートを取り出した。

 

「ありがとよ。待ってな、最高の欲望を提供してやるからよぉ」

「それはそれは悦ばしい限りですね。では、私めもこの辺りで」

 

 スペルビアが一礼すると、彼の姿がその場から消失した。

 一人残されたヴァンガードは、出口の方へ向かって歩きながら、その頬を歪める。

 

「勿論、期待には応えるさ……利用価値がある間だけはな……クククッ」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「……おかしい」

 

 翌朝、ホメオスタシスの地下施設で、椅子に座りながらとある映像を見た陽子は言った。

 その映像というのは、昨日のアズールとリボルブの戦いの記録だ。

 アズールが三種の必殺技を同時発動し、クイーンを打倒したシーン。それを見て、陽子は顔をしかめていた。

 隣に立つ鷹弘は、眉をしかめて「こいつの頭がか」と問いかけた。

 

「いや、正直私も彼はマトモじゃないと思うけど、そうじゃなくて。これ……普通発動しないわよ? だって、間違いなくこの子に制御チップ埋め込んであるんだから」

「そこは俺も気になってたんだ。どういうこった?」

 

 二人が問題視しているのは、つい最近翔に注入したカタルシスエナジーの制御チップの事だ。

 必殺技を発動する際、仮面ライダーたちの体内のリンクナーヴは活性化され、膨大なカタルシスエナジーが出力される。

 これが過剰にならないようにリミッターをかけるのが、チップの役割だ。もし同時発動でもしようものなら、その時点でリンクナーヴからのエナジー供給はストップし、不発となる。

 しかし、昨日の戦闘ではそもそもチップが機能している様子が見られなかった。チップが間違いなく埋め込まれた状態であり、かつ今日も完璧に機能しているのにも関わらず、だ。

 これは一体どういう事なのか。

 そもそも本来なら、短時間での必殺技の複数回使用ですら、それまで訓練などしていない翔には負担が大きい。

 彼がそれに耐えられたのは、年齢不相応の強靭な精神力の賜物なのだろうと陽子は考えていたのだが、今回の事象を鑑みるにそれだけでは説明がつかないかも知れない。

 

「……もう一度、彼の体を詳しく検査してみる必要があるかも」

「それで何か分かんのか?」

「さぁね。でも、これはどう考えても異常よ。やれるだけの事はやらないと」

「……そう、だな。何か分かりゃ良いんだが」

 

 それだけ返答して、鷹弘が目を伏せる。その様子を、陽子は珍しいものを見たとでも言うように見上げていた。

 

「鷹弘、もしかして翔くんが心配なの?」

「はァ!? バカ言え、なんで俺があんなバカの心配を!」

 

 陽子に背を向け、鷹弘はコーヒーメーカーの方へ歩いて行く。そしてマグカップにコーヒーを注いだ。

 

「俺ァな、あのバカが二度と無茶をできないように原因を突き止めて叩き付けてやろうと思ってるだけだ!」

「へぇーそう? それって、翔くんにまだライダー続けて欲しいって事? 無茶したらベルトは返して貰うんでしょ?」

「……お前なァ」

 

 ニヤニヤと笑いながら、陽子はからかうように鷹弘の背中へ言葉を投げかける。

 鷹弘は溜め息を吐き、コーヒーを啜ってから陽子の鼻先を中指でピシッと弾いた。

 

「痛っ」

「勘違いした事抜かすな。別にライダーを続けさせる気で言ったんじゃねェよ」

「じゃあ、なんで」

「お前だって知ってんだろ。天坂が……響がなんで仮面ライダーになったのか。何を護ろうとしていたのか」

「それは……」

「あのバカがそれを理解するまで、俺はアイツを仮面ライダーとは認めねェ。ましてやあんな無茶するようじゃな」

 

 厳しい顔つきの鷹弘にそう言われると、途端に陽子は押し黙って、俯いてしまった。

 鷹弘はバツの悪そうな顔をして、何も言葉にできずに視線を泳がせ、陽子の頬にそっと左手を伸ばす。

 不器用だが優しく、慰めるような手付き。陽子は彼に身を預けるように、頬を緩ませてその手に触れた。それだけでは我慢できなくなったのか、今度は鷹弘に抱き着く。

 鷹弘は少し困ったように目を細めつつ、抱き返して「そう言えば」と切り出す。

 

「連中は自分の事をCytuberと名乗っていた。何か分かんねェか?」

「あ、その事なんだけど」

 

 陽子が鷹弘を見上げて答えようとした、その時。

 

「あのー……」

 

 という声が、少しだけ開いた扉の隙間から聞こえた。

 

『ふぅおぁっ!?』

 

 思わず二人の声が重なる。見れば、そこには抱き合っている鷹弘と陽子を覗き見る、琴奈・鋼作の姿があった。

 瞬間、鷹弘と陽子は即座に離れた。

 

「あたしたち、お邪魔でした?」

「どう見てもタイミング悪かったな今の」

 

 琴奈はニヤつき、鋼作は苦笑いしていた。

 彼女らの視線に陽子は赤くなった顔を両手で覆い隠し、鷹弘はとりあえず何も起きなかった事にしようと咳払いして「何の用だ」と問い質す。

 

「えっと、そのCytuberの事なんですけど。滝さんに頼まれて調べてみても、それらしい噂が見つけられなくて」

「そうか……」

「で、一応御種さんにも訊いてみようと思って会いに来たんですけど……今どこに?」

 

 鷹弘と陽子は顔を見合わせ、同時に首を横に振る。二人もまだ会っていないのだ。

 

「どこに行ったんでしょう?」

「あの人も結構忙しそうだからな……電特課の方だろうよ、また後にしとけ」

「分かりました。ところで、さっきのお二人の事なんですけど」

「誰にも言うなよ」

 

 鷹弘は即座に釘を差した。

 すると琴奈は意地の悪い笑みを浮かべ、「えぇ~どうしよっかな~」などと言い放ってみせる。

 

「別にバレて困るような話じゃないでしょ?」

「いや、コイツの親父さんがその……色々と恋愛関係に厳しくてな……」

 

 歯切れ悪く、鷹弘は言う。陽子も少々申し訳無さそうに苦笑していた。

 琴奈は納得した様子で、うんうんと頷いていた。

 

「お忍びだったんですね」

「特に俺は気に入られてねェからよ。バレたら大目玉だな」

「いやでも静間さんも滝さんも、確か24歳でしょ? それはちょっと親バカ過ぎません?」

「それは……まァとにかく色々あんだよ、色々」

 

 机の上に置いたマグカップを手に取り、再びコーヒーを啜る鷹弘。陽子は少々気まずそうに、鷹弘の傍で琴奈たちに向かって苦笑を見せしている。

 と、その時だった。室内に、警報音が鳴り響いたのだ。

 

「何だ!?」

「これは……ゲートとデジブレインがまた街中に出たわ! しかも二箇所よ!」

「チッ、同時かよ。アイツは確か今病院だったな、近い方はアズールに割り振っとけ! 俺はもう片方を潰す!」

「了解!」

 

 鋼作と琴奈も、地図を確認して翔の方のサポートに向かう。

 こうして、ホメオスタシスはまた新たな戦場へと駆け出すのであった。

 

※ ※ ※ ※ ※

 

「どうしてあの時、あんな事したの?」

 

 同じ頃。翔はアシュリィを連れて、病院にやって来た。

 今日の彼女は、大きなリボンの付いた無地の白いブラウスに、シンプルな青いフレアスカートというファッションだ。

 病院に着くまでの間、アシュリィは一言も翔に話しかけなかった。元気がないというか、どこか物憂げな表情をしている。

 そのアシュリィが突然話しかけて来たのは、エレベーターに乗っている時だった。

 あまりにも唐突だったので、最初は何の話なのか翔には分からなかった。だがすぐに、前回のチェスクイーン・デジブレインとの戦いの話であると思い至り、困ったように眉をしかめる。

 

「ああするしか、皆が助かる道はないと思って」

「でも、あんな事したら自分の命だって危ないでしょ」

「心配してくれるの?」

 

 微笑みながら翔が訊ねると、アシュリィはプイと顔を背けた。

 

「……そんなんじゃないし。話を逸らさないで」

 

 頬を膨らませる彼女を宥めるように、翔は「ごめんごめん」と笑いかける。

 そして、アシュリィになんと説明するべきか、頭の中で言葉を探して考えを逡巡させる。

 エレベーターの扉が開く。外に出てしばらく考えてから、翔は少しずつ話し始める。

 

「仮面ライダーとして戦うって決めた時……僕は、当たり前の空の色を守るって誓ったんだ。皆が笑って、安心して空を見上げて生きていけるように……戦えない人たちのために、僕が戦うって」

「だからって、あんな事する必要あるの?」

「さっきも言った通り、あの場は他の方法を思い付かなかったんだ。アレしかないと思った」

「それで自分が死んでも良いと思ってるの? 本当に?」

「そういうワケじゃないけど……皆を助けられるなら仕方ないのかなって。まぁ、今回お見舞いに来たのは、兄さんにもその話について意見を聞きたいからなんだ」

 

 言った後で、翔は「兄さんならそもそもピンチにならないと思うけどさ」と笑った。

 アシュリィはそれを聞いてまた黙り始めたが、すぐに翔の顔を見上げて、口を開いた。

 

「死ぬのは怖くないの?」

「怖くないよ。でも、兄さんや鋼作さんや琴奈さんに、静間さんや滝さん……それから勿論、君が死ぬ方がずっと怖い」

「……」

「納得した?」

 

 ふるふる、とアシュリィは頭を横に振る。翔は再び困り顔だ。

 なんと説明すれば良いのだろうか。答えを見つけようにも、翔は自分の中でこれ以上の解答を出せないでいる。

 そんな翔に対して、アシュリィは再び質問する。

 

「どうしてそこまで他人を優先するのか、分からない」

「それは……大切だからだよ。皆に生きていて欲しいんだ」

「……どうして、自分の命もそんな風に考えられないの……?」

 

 目を丸くして出されたその問いには、翔は答えを詰まらせてしまった。

 確かに死ぬのは怖くないが、別に自分の命を投げ出そうと思ったワケではない。しかし自分が助かる事よりも、他人の命を守る事の方が大事に思える。

 自分の命をどう思っているのか。それさえも、翔には分からなくなったのだ。

 そうして明確な答えが出ないまま、そして心の中に靄を抱えたまま、翔は病室まで辿り着いてしまった。

 翔は扉をノックしてから、一言「入るね」と声をかけて入室する。

 

「……あれ?」

 

 そこには、思いも寄らない先客がいた。

 Z.E.U.Sグループの会長にして静間 鷹弘の父、静間 鷲我だ。

 響と親しげに会話しており、扉が開いた事に気付くと翔の方を振り返って目を丸くしていた。

 

「おや、君は」

「えっと、初めまして。天坂 翔です、弟の」

「あぁ、知っている。彼や息子の鷹弘……それから肇から良く聞いているよ」

 

 今度は翔が驚いた。養護施設にいた自分たちを拾ってくれた、育ての父とも言うべき人物、天坂 肇の名前が出たからだ。

 そこへ、ベッドに座している響が翔に補足を加えた。

 

「鷲我さんと父さんは昔からの友人なんだ」

「え、そうなの!? それはなんていうか……」

「あぁ、縁を感じるな」

 

 響が微笑み、その笑顔を見た翔も笑う。鷲我も、天坂兄弟の様子を微笑ましく思っているようで、目を細めていた。

 それから翔の隣にいるアシュリィを見て、鷲我は首を傾げた。どうやら彼女の事は聞かされていないようだった。

 

「はて、彼女は?」

「あ、この娘はアシュリィちゃんです。デジブレインに追われていたところを助けたんですけど、記憶喪失らしくて」

「つまり、何故追われているのかも分からないと言う事か」

「……そうだアシュリィちゃん、鷲我さんにあのマテリアフォンみたいなの見せたら? 何か分かるかも」

 

 翔に言われると、アシュリィは少し迷ったようであったが、渋々鞄の中に手を入れてそれを取り出した。

 気が付いたら持っていたという、黒いマテリアフォン。それを目にした瞬間、鷲我の表情が一変した。

 

「そんなバカな、なぜここに!? 一体これをどこで!?」

「え、な、何?」

 

 突然取り乱してアシュリィの手から黒いマテリアフォンを引ったくる鷲我に、翔も響も、当然アシュリィも驚いていた。

 すると我に返った鷲我は、手に取ったそれをすぐアシュリィに返却した。

 

「いや、すまない。彼女は記憶がないのだったね」

「これについて何か知ってるんですか?」

「……そうだな。君も仮面ライダーなのだから、話しておくべきだろう」

 

 眉間を指で抑え、鷲我は溜め息を吐く。そして数刻沈黙した後、再び口を開いた。

 

「ただ、少しだけ時間を貰えないだろうか? 話すのなら、君の友人にも一緒に聞いて貰いたいからね」

「……分かりました」

「すまない。あぁ、それから」

 

 鷲我は翔の肩に手を置き、心配そうにその顔や手足を観察している。

 

「昨日は……相当無茶をしたそうだね? 君の体をもう一度検査する必要がある、協力して貰えるかな?」

「え? はぁ、分かりました」

「よろしく頼む。それでは、私は一度会社に戻るよ。お大事に、響くん」

 

 立ち去る鷲我の背を、翔はきょとんとしながら見つめていた。

 検査というか、制御チップの手術ならば既に済んでいる。今更何を調べる事があるのか? 翔にはその理由が分からずにいた。

 気を取り直して、翔は本来の目的である、響との話を始める。

 

「退院はいつになりそう?」

「もうじきさ。退院すれば、もうお前が戦う必要もなくなる。その時はまた俺の出番だ」

「……」

 

 戦わなくて良い。俺がやる。

 それを聞いた翔は一度目を伏せた後、意を決して顔を上げて響の目を見つめる。

 表情の変化を察知した響は、翔に向かって「どうした?」と不思議そうに訊ねた。

 

「兄さん。僕がまだ戦いたいって言ったら、どうする?」

「続けたいのか?」

「うん。確かに兄さんの方が僕より強いかも知れないけど……僕は、僕の意志でこの道を選んだんだよ。だから簡単には引き下がれない、この道を譲れない」

「……本気なのか」

 

 響は神妙な面持ちで、真っ直ぐに翔を見据える。アシュリィは、そんな二人の顔を交互に見ていた。

 翔は頷き、唇を強く結ぶ。決意の強い瞳は、全く揺るがない。

 双方見つめ合い、沈黙。先にその静寂を破ったのは、響の方だった。

 彼は、笑っていた。翔の下した決断を喜んでいるようであった。

 

「それがお前の意志なら、止めはしないよ」

「兄さん……」

「ただし。自分で道を選んだからには、納得できるまで突き進め。でも無茶は禁物だぞ」

「あ、もしかしてもう知ってた?」

「本当なら死んでいてもおかしくない程度の無茶をした事は聞いた。どうしてそんな真似をした?」

 

 腕を組み、厳しく追及する響。対して翔は、やはり「そうしないと皆が助からないと思ったんだ」と答えるしかなかった。

 その答えに、響は理解を示したワケではない。しかし難しそうに唸り、悩んでいる様子だった。

 

「兄さん?」

「翔。お前にとって大事なものは何だ?」

「え? そりゃ、兄さんとかアシュリィちゃんとか……皆だけど」

「そうだな。自分の身の回りにいる彼らが生きている事が、お前にとって何よりも大事なんだろう」

 

 では、と響は続けて右手の人差し指を立てる。

 

「その無茶のせいでもしお前が死んだなら、彼らはどうなる?」

「え……?」

「翔。確かに今のお前には、人を助けられるだけの力も、それを成し遂げられる強い意志もある。だがな」

 

 響はベッドから身を乗り出すと、翔の右腕を掴み上げ、さらに話を続けた。

 

「誰かを助けるために、自分の全てを犠牲にする必要はない。そんな事をしてもお前が助けた人たちは喜ばないんだ、それじゃ意味がないんだよ。力の使い方を誤るな」

「でも、僕は皆を助けられるなら――」

「そうやって助けた命を、残された者を泣かせたいのか? 責任感とか、使命感のために?」

 

 そこまで言われて、翔はハッとアシュリィの方を振り向く。

 もしもあの時の無茶で、自分が死んでいたらどうなったのか。アシュリィや鋼作と琴奈は、その後どうなってしまうのか。

 後の事など何も考えていなかった。命さえ救えるなら、それで良いと。

 だが、その結果彼らから笑顔が消えるのだとしたら、自分のやった事に何の意味があるのだろう?

 翔は今になって、自分の行いを恥じ、後悔した。

 

「どうして両方取らないんだ、らしくない。お前の手にはそれだけの力があるんだぞ」

 

 響は腕を離し、唖然としている翔に言い放つ。

 

「自分の命も他人の命も、皆の笑顔も。救える力があるなら、お前はもっともっと欲張って良いんだ」

「欲張る……?」

「そうだ。生きている限り、生かす事も生き残る事も諦めるな。同じ無茶をするなら、全部勝ち取れ!」

 

 トンッ、と響は翔の胸を拳で軽く叩き、微笑む。

 その笑顔に釣られるかのように、翔も笑う。心の中から、靄のかかったような気持ちが晴れていくのが分かった。

 直後、翔のマテリアフォンから着信音が鳴る。デジブレインの出現を告げる音だ。

 さらに、陽子から通信が入る。

 

『翔くん、聞こえる!?』

「状況は!?」

『ゲートとデジブレインの出現を感知してるわ! しかも二箇所よ、案内するからあなたはそこから一番近い方を対処して!』

「分かりました!」

 

 通信を切り、翔は響に向かって頷く。

 同じく響も頷き、そして出て行こうとする翔とアシュリィの背に「待った!」と声をかける。

 

「何?」

「この前の話だ。退院したら、久しぶりにお前のカレーが食べたいな」

「……うん!」

 

 満面の笑顔を見せ、翔はアシュリィと共に再び歩き出した。

 その背を見送り、扉が閉まるのを見て、響はベッドに背を預けて一息つく。

 

「そうだ、諦めるなよ翔。お前ならきっと……どこまでも翔べるさ」

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 後ろにアシュリィを乗せ、翔はパルスマテリアラーで現場へと急行する。

 

「ちょっと飛ばすから、しっかり掴まってね!」

「……ん」

 

 ヘルメットを被ったアシュリィの顔は窺い知れないが、ちゃんと聞こえていたようで、翔の体にしっかりと抱きついている。

 柔らかい感触が背中に伝わるが、今はそれどころではない。デジブレインを倒すために、翔はパルスマテリアラーの操作に集中する。

 そうして、二人は現場に到着する。

 帝久乃市のランドマーク、その名をテクノタワー。有名な観光名所であり、ここから帝久乃市が一望できるため、夜景を楽しむならデートスポットとして最適であるという。

 目視できる範囲でも、地上の入口付近は既に無数のベーシック・デジブレインで埋め尽くされ、人々を襲撃しているのが分かった。

 

「ここで待ってて」

 

 翔はアシュリィを安全な物陰に誘導し、パルスマテリアラーから降りる。

 そしてマテリアフォンを出して、ドライバーを召喚。鬼狩ノ忍のマテリアプレートを取り出し、起動して装填した。

 

《ユー・ガット・メイル!》

「変身!」

Alright(オーライ)! マテリアライド! シノビ・アプリ! クロガネ・ザ・ライトニング、インストール!》

「これ以上何も奪わせない! 行くぞ!」

《シノビソード!》

 

 忍者刀を逆手に持ち、アズールに変身した翔は突撃する。

 そしてシュリケンフリッカーの中央を指先でタッチし、エフェクトを発動した。

 

《フリック・ニンポー! ブンシン・エフェクト!》

「うおおおおっ!」

 

 合計十人のアズールが、次々にベーシック・デジブレインたちを斬り倒す。

 外側に管理者の個体は見つからない。となれば、恐らくタワーの中だ。アズールは残るベーシック・デジブレインの喉に刃を突き立て、内部に侵入。

 エレベーターは敵が大勢いるため使えない。マテリアフォンを取り出して、バイクのアイコンをタッチした。

 

《パルスマテリアラー!》

 

 タワー内でアズールの専用マシンが具現化し、アズールはそれに跨って、デジブレインが蔓延る内部を駆ける。

 ベーシック・デジブレインたちは轢き潰し、襲いかかって来る者は斬って対処。

 ゲートの管理者さえ倒せばこの騒ぎも収束する。そのため、アズールは急いでパルスマテリアラーを走らせた。

 そうして広い展望フロアまで辿り着いた矢先、突如としてアズールの目の前に赤い触手のようなものが伸び出て、パルスマテリアラーから叩き落とした。

 

「えっ、うわぁっ!?」

 

 咄嗟に受け身を取り、難を逃れるアズール。今の触手は一体どこから出てきたのか、シノビソードを構えて警戒する。

 触手は消え、周囲にデジブレインの姿はない。という事は、カメレオンのような身を隠す事ができるタイプだろうか。

 

「だったらこれだ」

《フリック・ニンポー! カクレミ・エフェクト!》

 

 シュリケンフリッカーを操作し、アズール自身も姿を消す。これで身を隠して一旦やり過ごし、敵の正体を見極めるつもりなのだ。

 すると植木の後ろから、女性の声が聞こえると同時に、赤い触手が再び伸び出る。

 

「妬マシイワ……アアアアア……」

 

 それは一言で語るなら、頭にツボのように見える兜を被ったタコの怪物だった。

 全身が赤く、胴には口と牙のようなものが生え揃い、両腕には吸盤のついた触手が三本ずつ伸びている。また、腹には例の人間をデジブレイン化させるベルトを装着しているようだ。

 オクトパス・デジブレイン。脚を含む八つの触手を自在に操る他、擬態を駆使する事ができるようだ。

 

「ドンナニ整形シテモ、ドンナニ体ヲ美シクシテモ、男ハ誰モ私ニ振リ向カナイ。ドウシテナノ……コンナニ美シイノニ」

 

 ぶんぶんと頭を振りながら、オクトパスが言う。彼女の周囲には、さらに三体のカメレオン・デジブレインが控えているのが見えた。

 

「ドウシテェェェ!! 私ニ何ガ足リナイッテ言ウノォォォ!!」

 

 突然怒り始めたかと思うと、オクトパス・デジブレインは無茶苦茶に触手を振り回し、破壊活動を始める。

 まるで自分に足りない何かに手を伸ばして補おうとしているかのように、増えた腕を限界まで伸ばし尽くしている。

 

「彼女も元は人間だったのか……」

 

 アズールは、そう言ってシュリケンフリッカーに残った最後のフリック・ニンポーを起動する。

 

《フリック・ニンポー! ヘンゲ・エフェクト!》

 

 その音声が流れると同時に、アズールの姿がカメレオン・デジブレインと全く同じになる。

 これが四種類のフリック・ニンポーの最後のひとつ、ヘンゲの能力。デジブレインの姿に擬態する事で、敵の目を欺き掻い潜るのだ。

 後ろからこっそり近付き、分身も呼んで一気に攻め立てる。これが今回のアズールの作戦だ。

 どうやら数を把握していないようで、背後に回り込むのは容易だった。後は攻撃して怯ませてから、分身を呼ぶだけ。

 変化したアズールはシノビソードを振り上げる。だがその瞬間、四本の触手が真っ直ぐにアズールの胸部に向かって直撃、同時に変化も解けてしまう。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「妬マシイ……キイィィィッ!!」

 

 ギチギチ、と胴の口器にある歯が軋む。何故見破られたのか、その時アズールには分からなかった。

 だがふと足元を見ると、吸盤の付いた触手が自分の脚に触れているのが分かった。

 

「いつの間に!?」

 

 口に出しつつも、アズールはすぐに思い出した。この敵は、伸縮自在の触手で自分の姿を消す事もできる。

 という事は、その触手を不可視化し、周囲に張り巡らせて探知もできるという事だ。

 

「キイイイイッ! キイイイイイイイッ!」

「がっ、ぐはっ!」

 

 触手の乱打がアズールを襲う。さらに、カメレオン・デジブレインも舌を伸ばして加勢に移った。

 少々甘く見ていた。防御能力の低いシノビリンカーではこれ以上受けきれないが、かといって堅牢なロボットリンカーに変えても、センチピードのように絞め技で来られた場合に不利だ。

 ならば手段はひとつ。アズールはすぐさまブルースカイ・アドベンチャーをウィジェットから取り出して起動、装填する。

 

《ユー・ガット・メイル!》

「リンクチェンジ!」

Alright(オーライ)! マテリアライド! ブルースカイ・アプリ! 蒼穹の冒険者、インストール!》

 

 装甲がパージして触手の攻撃を阻害し、シノビソードが消えてアズールセイバーが代わりに右手に握られる。

 アズールは大きく踏み込んで力強く剣を振り下ろし、触手の切断を試みる。

 触手は想定よりも容易く切断され、地面に落ちる。だが、意識を逸らした次の瞬間にはその触手が再生していた。

 しかも、切断された触手はアズールの右脚に絡みつき、動きを束縛する上に吸盤で地面と脚にくっついて中々外れない。

 

「えっ!?」

「キエッ! キエエエッ!」

「うわ、くっ! そんなのアリか!?」

 

 オクトパスとカメレオンの連撃で、徐々に損傷が大きくなって行く。このままでは敗北は免れない、そうなればリボルブ以外に誰もこのデジブレインを止められないだろう。

 そのリボルブも、今は敵のデジブレインと交戦中のはずだ。

 

「……だったら!!」

 

 ここで、自分が倒れるワケには行かない。アズールは足に力を込め、踏み留まった。

 

「ドウシテソンナニシブトイノ……アアアアア!! 妬マシイイイイイイイイイイッ!!」

「絶対に勝って、皆の元に帰るんだ!」

 

 自分へと向かって来る触手を前に、アズールが剣を構え直した、その時。

 突然、室内にキィィィンというけたたましい高音が鳴り響き、オクトパスや死角に隠れ潜んでいたカメレオンの攻撃を妨害した。

 何事かと思ってアズールが振り向くと、そこにはイルカの形状を模した電子時計が、空中を泳いでこちらへ向かって来ていた。

 さらに、その隣にはフォトビートルが並んで飛行しており、アズールの脚に絡みついた触手に角を突き刺して消滅させた。

 

「これは……まさか琴奈さん!?」

『間に合ったみたいね、翔くん! さぁドルフィンタイマー、翔くんをサポートするのよ!』

 

 その言葉に呼応するように、ドルフィンタイマーはまたも超音波を放つ。

 この音はデジブレインにとって有害らしく、また擬態で姿を晦ましていたオクトパスやカメレオンが、能力を維持できずに姿を曝した。

 

「すごい、効いてる!」

『気に入って貰えた? でも翔くんへのサポートはそれだけじゃないのよ』

 

 得意げな琴奈の発言と同時に、アズールのアプリウィジェットにプレートが転送される。

 陽子だ。残る三枚の内の一枚が完成して、自分に送ってくれたのだ。

 アズールはそのプレートを取り出し、グッと握り込む。

 

「皆さん、ありがとうございます。絶対に……勝つ!」

 

 そう言って、アズールはスイッチを押してプレートを起動させた。

 

《ワンダーマジック!》

 

 ワンダーマジックは、プレイヤーは魔法使いとなって様々な呪文や召喚モンスターを駆使してダンジョンの攻略に挑む、オーソドックスなリスペース式のパズルゲーム。

 ピースとなるパズルドロップをスライドさせて組み合わせる事で消去し、連鎖的に破壊する事でエネミーにダメージを与えていくという方式だ。

 アズールがそのプレートを装填すると、ウォリアー・テクネイバーとのリンクが切れ、代わりにプレートから赤い法衣を纏ったマジシャン・テクネイバーが飛び出して来る。

 

《ユー・ガット・メイル! ユー・ガット・メイル!》

「リンクチェンジ!」

Alright(オーライ)! マテリアライド! マジック・アプリ! 奇跡の大魔法、インストール!》

 

 アズールがマテリアフォンをかざすと、マジシャン・テクネイバーの体が分解されてアズールのスーツに合着する。

 青いパワードスーツの上から赤色のローブが装備され、左手には一本の短い杖が握られた。杖の先端には四角い宝石のようなものが埋め込まれており、四つの面にそれぞれ岩・水・炎・風のマークが付いている。

 

《マジックワンド!》

「行くぞ!」

《ファイア・マジック!》

 

 四角い宝珠を回転させ、赤色の炎の面を正面に合わせる。そして杖に付いた引き金を引くと、地面に赤い魔法陣のパズルが出現した。

 トリガーを長く引き続けて、アズールはパズルドロップを動かし連鎖的に消していく。

 

《ワン・チェイン! ツー・チェイン! スリー・チェイン! フォー・チェイン!》

「キエェェェエッ!」

《ファイブ・チェイン!》

 

 オクトパスがアズールに向かって、奇声を上げながら触手を伸ばす。

 その瞬間に「今だ!」とアズールは引き金から指を離した。

 

《イッツ・ア・マジック! ファイブ・チェイン・ファイア!》

 

 五つの炎の塊が杖の先端から飛び出し、オクトパスの触手を焼き払う。

 触手はすぐに再生するものの、さらにその後ろにいたカメレオンたちも、同時に消滅させた。

 

「ナニッ!?」

「まだまだ!」

《ワン・チェイン! ツー・チェイン! スリー・チェイン!》

 

 再びアズールがトリガーを長押しし、魔法陣のパズルドロップを消し続ける。

 その姿に焦燥感を抱いたオクトパス・デジブレインは、再び触手を伸ばそうとするが、今度はドルフィンタイマーの超音波によって妨害された。

 

《フォー・チェイン! ファイブ・チェイン! シックス・チェイン!》

「マ、待テ……ヤメロ!」

《セブン・チェイン! エイト・チェイン! ナイン・チェイン!》

「ヤメロォォォォォ!」

《フル・チェイン!》

 

 全ての触手でオクトパスが攻撃しようとした瞬間、アズールは前へと跳躍し、トリガーを離す。

 

《イッツ・ア・マジック! フル・チェイン・ファイア!》

「グワァァァーッ!?」

 

 十もの巨大な炎の塊がオクトパスを襲い、触手はおろか全身をも焼く。

 オクトパス・デジブレインは堪らず身を捩らせ、胴についた口から、まるで煙のように墨を吐き出した。

 煙幕だ。このまま姿を消し、逃げるつもりなのだろう。そう悟ったアズールは、すぐさま宝珠を風のマークに切り替える。

 

《ウィンド・マジック!》

「逃さないぞ!」

《ワン・チェイン! ツー・チェイン!》

「そりゃあっ!」

《イッツ・ア・マジック! ツー・チェイン・ウィンド!》

 

 風が煙幕を消し去り、窓に向かって一目散に走るオクトパスの姿を鮮明に映し出す。

 瞬間、アズールはアプリドライバーのマテリアクターからワンダーマジックのアプリを抜き取った。

 

「ヒッ!?」

「これで終わりだ!」

 

 アズールが、マジックワンドにプレートを装填。そして、マテリアフォンをかざした。

 

《フィニッシュコード! Alright(オーライ)! マジック・マテリアルキャスト!》

 

 地・水・炎・風、全ての魔法陣が四方からオクトパス・デジブレインを囲んで逃げ場をなくし、そして魔法が発動する。

 上空からは岩が雪崩のように降り注ぎ、地面からは水が噴射して触手を断ち、左右からは炎の弾丸と風の刃が迫る。

 仮面ライダーアズール マジックリンカー。それはパンチ力もキック力もジャンプ力も走力も防御力も他のリンカーに劣る代わりに、多彩で超火力な魔法を用いて敵を一掃する、対集団戦に特化した姿なのだ。

 

「ウッギィャアアアアア!?」

 

 全ての魔法を一身に受け、オクトパス・デジブレインは爆散。その場には、ベルトを付けたOLが残るのであった。

 同時に、アズールはゲートの消滅を確認する。やはり、彼女がゲートの管理者にされていたようだ。

 アズールは周囲を見回して警戒した後、倒れた女性の顔には一瞥もせずに、安全な場所に避難させてからそのベルトを回収する。

 

「よし、次は静間さんの方だ!」

 

 そう言って、翔は変身を解除。そして二体目のデジブレインの位置を確認する。

 場所は廃工場だ。ここから然程遠くはない。

 走ってエレベーターへ向かって外に出て、アシュリィと共にパルスマテリアラーで現場へ急行するのであった。

 

 

 

 そんな二人を、タワーの屋上から見下ろす影がひとつ。

 

「簡単には行かせないよ、アズール……! クイーンはもうじき再生する、お前だけはこの手で倒す!」

 

 それは、ストライプだった。彼は一枚のマテリアプレートを手に握り込み、起動した。

 

《チェックメイトモンスターズ!》

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