グリフィンの戦術人形はキワモノか!?   作:杜甫kuresu

10 / 11
45錯誤③

「よく帰還したな」

 

 けろりとした顔で淡々と言い放った彼の額に、迷うことなく銃を突きつけた。9とG11の空気感がどよめいたのなんて構わなかった。

 張られた簡易のテント内。機材をバックにした彼は、表情を固くしたまますらすらと言葉を紡ぎ出す。

 

「何の真似だ、UMP45」

「どうして」

 

 絞り出せたのはそれだけだった。気を抜けば引き金を引くぐらいの、そういう勢いを持っていた気がする。

 彼は微動だにしなかった。何時も通りに言葉遣いと反したスラリと伸びる背筋のままに、突きつけられた銃なんて目もくれずに私の瞳を真っ直ぐと射貫いてくる。

 

 以前は苦手だったその態度が、その時だけ嫌悪感に変わる。

 

「416を置いてくる必要なんて有ったかな?」

「有った。彼女を救出できる可能性自体低い、そしてお前達までロストしたら俺はとてもグリフィンに顔向けできない」

 

 その理性的ぶった言い草に頭が沸騰するような錯覚。今思えば彼は全くもって正しい判断をしたのだが、私はそれを正しいと分かっていたのだが――――――これはそういう問題ではない。

 

 僅かでも有った可能性を切り捨てた結末が隊員の欠落。これは私にとって許しがたい損失だった、私はそれなりに仲間意識が有ったようなのだ。

 彼は煽るように無感情に続ける。

 

「撃ちたいなら撃てよ。俺はお前にそう教えた、暴発したと報告すれば良いだけのこと――――――カリーナにもそうするように伝えている」

「そう。いい度胸をしてるわ、来世では是非とも相棒にでもしたい所ね」

 

 引き金を、ゆっくりと引いた。

 

 だけどそれは同時に彼を射殺すには敵わなかった。突然血相を変えた彼が、私の後ろに回る形でステップを踏んだのだ。虚しく銃声は彼の手の平の中で響き、血飛沫を上げながら彼が後ろに回り込む。

 理由なんて分からなかった。聞こえたのは私のものじゃない鋭い銃声と、弾丸が肉を抉った聞き馴染みのない音。一回、二回、三回、四回、五回、六回――――――スローだったその音もとうとう数えられなくなった。

 

 時間が止まった。私のパーカーに生暖かい液体が染み込む感覚に息を呑むどころか頭が真っ白になる。状況が分からない。

 

「――――――馬鹿野郎、射撃方向は見えただろうが…………早く追え!」

 

 そう叫び声のする頭の上から血が降りかかる、彼が吐いた事だけがちらりと視界の端から確認できた。

 9とG11の焦ったような足音の後、いつもの聞き慣れた一際高速のバースト音。私にはそれがどうしても鈍く、ゆっくりと、芝居がかって聞こえてしまう。

 

 動かす口も、何処か非現実的。

 

「…………な、んで」

「ケホッ! 何でとか良いから、お前は一旦中に入れ…………せっかくカッコよく庇ったんだから生き残れよ、ヒロイン役」

 

 彼が雪崩込むように押してきたのに身を任せて、テントの奥の方に歩く。

 身体は震えていなかったけれど確かに心の奥底が怯えているのが分かる。人の生死なんて見慣れれば予想がつく、今彼は死の瀬戸際に立たされている。

 

 椅子に座るように促されたが、水を吐くようなひどい音に怖気だってしまって彼を投げるように腰掛けさせる。

 

「うっ――――――馬鹿野郎、親切心を利かせるなら座らせ方も気をつけろ」

 

 言葉が出ない。彼の背中から流れていた血液量があまりに多かった。

 銃傷の数は腕などの末端まで含めると九。応急処置に問題が有れば、何の不備もなく彼は死ぬことが出来る状態と言って差し支えない。

 

 応急処置の手際を順序良く思い出したはずなのに、彼の姿を見る度に真っ白になる。

 

「落ち着け。どうせ撃つ気だったんだろ? じゃあ当たるも八卦当たらぬも八卦、ぐらいで処置してくれよ……」

「でも」

「じゃあアレだ…………何? あの練習用の人形。アレだと思えよ」

「でも!」

 

――そんな事、出来る訳ない。

 ついさっきの私ならそれが出来ただろう。何時も通り乱れることなんて無かったし、それこそ処置の途中で始末する算段だってつける余裕を持っているのかもしれない。

 

 でも彼は()()()()()()()()()。全くもって善意で息をしていた事実を、行動で証明してしまった。

 戸惑いを隠しきれない私の服の裾を彼が引く。

 

「ちょっと来い…………」

「待って、今応急処置を――――――!」

 

 驚くぐらい、無理な力で引き寄せられた。

 

「落ち着けよ司令塔、落ち着けばお前は出来る」

 

 彼は血まみれの手を上げた後、少し躊躇いながら反対の手で私の頭を撫でる。

 ゆっくり、ゆっくり。優しいかは私の疑似人格では分かりかねる筈だけど、多分優しく。何時も通り、私の目を真っ直ぐ見ながら。こんな時なのに彼は必死で目の焦点を合わせて、私の顔を目に焼き付けようとしている。

 

「大丈夫だ、416は問題ない。アイツラも……まあ、倒すだろ」

「後は好きにしろ…………まあ、助けても良いし。駄目でも良いんだよ…………」

 

 彼の声がゆっくりと小さくなっていって、最後に手が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ助かったんだけどね?」

「ああもう! せっかくちょっとハラハラしてたのに! 今最高にあんたをぶん殴りたい気分よ!?」

 

 いやだって今416も指揮官も健在だし、隠せてないしバレバレバーだし。

 まあ「その手のお涙頂戴モノかほーん」みたいに読まれてる気も薄々してるし、話の腰を折る方が個人的に楽しいんだよね。

 

 拍子抜けしたのが余程効いてしまったのか、AR15はガクリと洗面所に倒れ込んでいる。

 

「まあそんな関係性。どんなのって? 私も分からないってこと」

「そりゃそうでしょうね、分かるわけ無いわ――――――それより」

 

 またナイフが目の前で止まる。言うまでも無くAR15のものなのだけど、心なしか滴る水が更に殺意じみたものを帯びている気がする。

 

「指揮官を撃ったっていうのは本当かしら。返答によっては目の傷が増えるわよ」

「…………事実だよ、別にやろうって言うならすれば? 抵抗権はないし、抵抗する気もないよ」

 

 事実だからね、その二次被害を被る義務も同様に私には有る筈。

――と一応なりに身構えてはいたんだけど、AR15はあっさりとナイフをしまうと大きく溜息。

 

 どうやら免罪符は戴けたようだ。慈悲深きAR15サマには感謝しないとね。

 

「そう淡々と認められると責める気も起きないわ。大体、彼が許しているなら私がどうこうするのはお門違い――――そうじゃない?」

「うわAR15のくせにマトモなこと言ってる、急いで指揮官に相談しなきゃ!?」

「ブ××すわよ!?」

 

 まあはしたないはしたない、私はそんなお下品な言葉は使わなくてよ?

――ああー、このキャラは無理だ。うん。

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん」

「ふーんって、勝手に話したのに怒らないんだ」

 

 彼の反応は思ったより薄い。書類ばかりに視線を集める彼の表情は私からはよく見えなかった。

 てっきり喋らないから話したくないんだと思ってたんだけど、そういう訳じゃないんだ。

 

「いや、俺にプライベートを制限する権利はないし、お前が喋るべきだと思ったんならそうなんだろうさ」

 

 指揮官は雄弁に口説き文句のようなことを語る。

 

「Karちゃんの面倒も見てくれてるし、何だかんだお前はやりたい放題のようで周りの手綱をある程度握ってくれてるところもあるしな。そういう管理能力は信用してるぜ」

 

 そんなつもりはないんだけど、まあそう見えるならそうなんだろう。指揮官の中では。

 

「変に信頼するんだね、ちょっと気持ち悪い」

「…………お前、知り合いによく似てるからな」

 

 それは、何というか指揮官には運がないらしい。自分で言うのも何だがそれほど性根が良いわけではない。

 

 一段落ついたのだろうか、書類を投げ捨てたかと思うと椅子の背もたれ任せにぐるぐると回転し始める。表情はどことなく淋しげと言うか、感傷的な感じで珍しい顔だった。

――こうやって見ると顔は凄く良いんだよね、顔は。

 

「まあアイツはお前とは違うお節介だったけどな、似てるんだが似てない」

「具体的には?」

「…………ええー、言わないと駄目か?」

 

 露骨に嫌そうな顔をする。むしろ聞きたいね。

 頷いてみせるとかなり渋々、と言った様子で簡潔な答えを返す。

 

「俺の持ち物ひっくり返して文句言ったり、怪我した時は食事を口までスプーンで運んできたな。後添い寝とかしてきた、アイツもニヤニヤしてたから真意が掴めなかった」

「それ女の子でしょ」

「何故分かったし」

 

 言うまでもなく。

 その思い出が相当苦いものなのか、段々と指揮官は顔を青ざめさせて手で覆ってしまう。まあどう見ても女難の相は付きまとってるしそんなものだよね。

 

 一頻り小さく唸って落ち着いたらしい。

 

「お前に最初に言ったアレ、アレもアイツの押し売り」

「人の撃ち方の話をするって…………指揮官ってホント女運無いんだね」

 

 そうかね、と素っ頓狂な顔で言うので無言で肯定しておく。

 何時になく妙な間ができてしまって、ついさっきのAR15の言葉を思い出す。

 

『でも、実際それは謝るべきじゃないの? あんた自身も早とちりで撃ったのは心残りなんでしょ、どうせ』

 

 分かってないようで分かってる面倒くさい人形だ。残念ながら図星だったりする。

――私はあまり謝ったことはない。非を認めたことがないというか、それは実際にないからなのが殆どなんだけどともかく無いものは無い。

 

 でも確かに、心残りでも有る。良い機会かもしれない。

 

「指揮官」

「なんだー? 俺は今トラウマが蘇ってるんだ、アイツが腰に手を回してきた時の怖気だつ感触よ…………」

「あの時。指揮官の事、撃ってごめんね」

「…………AR15に言われたな?」

 

 何でそんなに察しが良いんだか、だからこの人と喋るのは苦手。

 上の空だった指揮官の表情にがらりと色が灯り、私の顔をじっと見る。

 

「良いよ別に、分からないままの方が切迫さが出ると思って騙したんだから」

「それでもだよ」

「もう許した」

 

 知ってる。でも言わなくちゃ駄目だからね。

 

「ついでに今更なんだけど、私は指揮官のこと好きだよ。指揮官はどう?」

「勿論好きだぞ、何なら指輪欲しいか?」

「いい。物じゃないと分からないような物分りの悪い女じゃないもん」

「そうかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て、それどういう意味だ」

「お好きなようにお考えください。それでなんだけど、此処に416が居るって気づいてた?」

「あっ」

 

 遅い遅い、「指輪」なんて物騒極まりない言葉を出すなら場所は選ばないとー。

 私が何を言うまでもなく上のダクトから416が真っ逆さまで飛び出てくる。ハンチング帽が私の頭に落ちたので普通に被ってみよう、案外似合うかな?

 

「指揮官!? 45に誓約できるなら私とも出来るはずよね!? どうして!? ねえどうして私は駄目なのかしら!?」

「ダーめんどくせー! 45、てめえハメやがったな!?」

 

 さてね。こういうのは真偽はともかくとして、それっぽく笑って煙に巻いてしまうに限る。彼が騒いでいるのを見るのは好きだし、コミュニケーションの手段は多くて損がないもんね。こういうのも交流の形だろうか。

 

「さてさて、それはどうかなー?」

「絶対狙ってたな!? いや416、今のは言葉の綾であってだな――――――」

い……! !」

 

 また始まった、こうなると416は止まらないからしばらく飽きない光景が続くだろう。

――個人的には笑っている顔も、困っている顔ももっと見たいように思う。これがどういう感情に該当するのかはまだ私には分からない。

 泣いてる顔はどうだろうか、怒ってる顔はどうなんだろうか。分からないことは種類も量も一杯だ。

 

 それこそこうやって試行錯誤して、感情の出処から綺麗に洗っていく予定。時間は沢山ある、その正体が分かる日も近いだろう。




取り敢えず目下のこれから処理した。息切れで後半適当すぎて申し訳ないとは思っている。
とほくれすファンならこの指揮官が誰なのかは明白だったりする、そういう事です。

次かもうちょっと後ぐらいに本当に危ないネタを打ち込むので、クレームが来たら今日の日はさようなら。
この特殊タグ実は使い回しである。誤字報告機能とかで原文に戻すと面白いよ、まるでプログラミング言語だぁ…………。

45が一杯笑って一杯泣ける世界線は此処ですか?

そう言えばシリーズ物で纏めた方が良い? 情報の開示的にはこの順番が良いんだけど、シリーズ物を纏めても一向に構わないのだが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。