まあ元々誑し倒してた男だから仕方ねえよな。
「指揮官さん! お菓子をくれないとえ、えっちないたずらしちゃいますよ!」
「お、じゃあ今日の夜11時辺りにもう一回その格好で来てくれ。可愛いし」
「はい?」
「ど、どどどどどうしましょう!?」
「やったねKarちゃん! 懐妊したらこのUMP姉妹、全身全霊を以てお祝いするから!」
いや煽って焦らすなよ45…………ああ、今日は俺が地の文だよ。誰って、そりゃアンタも分かってんだろ?
慌てふためいて顔を真赤にしたKarが食堂に帰ってきたので、何事か何事かと人形達が寄ってたかってこのザマである。彼女達は野次馬根性旺盛且つあまりに騒ぎたがりすぎるのだ。
9が煽りに参加してもう大変。
「やったね45姉! 家族が増えるよ!」
「い、いえそうと決まったわけではありませんからね!?」
ケタケタと二人でぐるぐるとKarの周りでおどける姿は間違いなく姉妹だ。
問題はAR15だ。それを聞くなりウォッカバーボンジンとアルコール漬けになってしまっていて、今の瞬間にもグラスを机に叩きつけてだいぶ荒れている。
真っ赤になったAR15を一同が引きつった表情で見るが、Karに胡乱かつ鋭い蒼海の瞳が襲いかかる。
「あのですねぇ! たかだか夜のお、おおおおお呼ばれぐらいで動揺するなんてぇ。し、素人なんですからねぇ!」
「じゃあAR15は経験有るってことだねすごいね~」
45やけくそレベルの煽り。AR15は45の肩に手をグルンと回すと席に引きずり込む。
「そういうことじゃありません~! 気持ちの問題です~!」
耳元でがなるAR15はみっともなく、また息が酒臭い。
「落ち着きなさいよR15。みっともない」
「AR15よ!」
そう言いながら死んだような瞳を向ける416も少なからず沈没船状態だ。
しばらく416を睨んでいたAR15だったが、糸が切れたようにフッと視線を外すと机にうずくまって嗚咽を漏らしだす。
「なんで…………なんでぇ…………ぐすっ」
「分かった、私も飲むの付き合うから。ね?」
45も流石に哀れに思ったのか、グラスに酒を注ぐとAR15の丸くなった背中を擦る。何だかんだ度が過ぎると反省はするらしい。
珍しく胡散臭さのない慈愛の視線を向けている45に一同も若干どよめきつつ、そんな場合ではない。
そうやって同時に躍り出たのはFALとトンプソンだ。FALはツンと断ったので仮装こそしていないが、トンプソンはとんがり帽子を被っている。
「指揮官の一挙一投足で妄想して勝手に一喜一憂だなんてナンセンスよ、出た目に従うのがスマートってものじゃないかしら」
「馬鹿言えFAL! 私はボスについていくんだぞ、姉御が誰かも重要だってえの! お前もそんな事言いながら足が勝手にボスの部屋に行ってるの気づいてんのか、え?」
FALが気恥ずかしそうに食堂の扉前から早歩きでトンプソンの前に戻ってくると、くわっと剣呑を変えてトンプソンに絡みだす。
「五月蝿いわよ私だって気になりますええそうですともなにか駄目かしら!?」
「正直になれって言ってんだこのナンセンス女! 大体テメエのセンスってなんだ、その見せブラか! え、ああん!?」
「言ったわね!?――――」
FALとトンプソンはいつもこんな感じなので一同は放置した。まあどうせ最後に何だかんだ何とかなっているし、実戦ではむしろ共闘のスコアが最も高いぐらいである。
さて。何故か蚊帳の外だったKarはずっと顔を覆うなりうろちょろうろちょろ、時々扉の方を見ると顔を真赤にしてまたうろうろ。と大変挙動不審だった。
見るに見かねた9がKarの肩を強めに叩く。
「まあまあ落ち着こうよ、Karちゃん!」
「そ、そうは言ってもですよ! 内容が内容ですし!」
「ダイジョーブダイジョーブ、指揮官多分優しくしてくれるって!」
「~~~~っ! そういう事ではありませんから!」
全くもって本題に触れてないのに勝手に想像したのはKarの完全敗北と言うべきだろう。
――そうしてこうして周りまでガヤガヤとし始めたタイミングで、食堂の扉がきしむ音がする。開くのはともかくとして、今此処には活動している人形のほぼ全員が居るはずだった。
入ってくるのは誰なのか。ピタリと静寂に呑まれた食堂にそれの足音が響く。
「あぁ~腹減った。おお、お前らどうした? 別に喋ればいいだろ、上司が来たらお静かになんてキャラかよ」
「件の人だ」
「例の大罪人だ」
「異教徒です」
「異教徒ってなんだよ異教徒って」
はいバトンタッチ。地の文疲れた。
――入ってくるなりこの言われよう。一体俺が何をしたというのか、色々した気がする。
妙なぐらいに集まった視線に思わず俺でも気圧されてしまう。
プレッシャーをかいくぐって奥の様子を見てみるが、何やら顔を真赤にして酒を煽るAR15だとか、死んだ顔の416とかが見える。45が…………待て、慰めてる? 嘘だ。
「…………というか本当になんだよ。お菓子欲しいなら部屋に来いよ」
「いや、えっちないたずらされそうだし嫌かな」
45が真顔でそんな事を言う。何、何なの俺のこのアウェー感。何時にも増してアウェーだなオイ。
訳が分からないまま豚骨醤油ラーメンを注文する。視線は一向に俺から外れる気配がない、これからもしかして魔女裁判で俺殺されるんだろうか。
意外と早く来たラーメンを机に置いて食事に入るがまだ俺はジロジロと見られている。気持ちわりぃの。
「え、何だ。お菓子要るなら持ってくるぞ…………違うのか、じゃあ何ですかね」
耐えかねて少し猫背になってしまった、だって空気が異様にも程があるし。
肩身の狭い食事が五分ほど続いていたが、碌に減らない伸び始めの麺に辟易としだした辺りでドン! とわーちゃんが俺の前でペペロンチーノを食べ始める。
こちらも俺に恨めしげな視線を送っている。そろそろやりすぎで人形に殺されるんだろうか俺…………まあそれはそれで仕方ないy
「ねえ! Karちゃんに、えっと、その…………え、えっちないたずらするってホント!?」
「は!? え、ああ――――――おお! そういう事ね成る程!」
Karのヤツめ、耐えきれずに周りに言いふらしたな? 他のやつに言うなよってちゃんと釘を差しておいたのに、全く。
周りに人だかりが居なくて気づかなかったが、今でもKarはドラキュラ伯爵のコスプレをしたままらしい。潤んだ瞳の下には八重歯のチャーミングな口元が見える。コートも裾がギザギザで裏地が赤の、まあ至ってドラキュラだぞー! って感じのやつ。
そこは律儀なんだ、へえ。
では質問に答えようか。
「イエスと言ったら?」
「へ、ヘンタイ!?」
ビンタされた。椅子ごと倒れる。
「イテェなオイ!?」
「ケダモノ! バカアホドジ間抜けぇ!」
「え、ええ…………まあ流れ的に否定はしないけども」
それはわーちゃんじゃなくてヒッパーちゃんの台詞だと思うんですけど。
一同からの視線が怪訝からかなり混沌としたものになった。不審、絶望、期待、高揚。何だコイツラ楽しそうだな。
「Karちゃんさあ、こういうのは普通言いふらしちゃならんぞ? 怒らないけども」
「だってぇ…………だってぇ…………」
いや待って泣かれても俺が困るんだけど。
「でも来るんだ、こんばんわ」
「ノーとは言っていませんわ…………」
もじもじとして入ってこないKarを取り敢えず部屋に連れ込む。面倒くさい。
いつも強引な筈なのだが何やら俺の手付きが荒いとでも思ったのか、怯えてるのか照れてるのかよくわからない顔をする。
面白いけどもう終わりか。目をつむりっぱなしで何を期待していらっしゃられるのかカラビーナ嬢に話しかける。
「なあなあ、俺がさっき何て言ったか覚えてるか?」
「え?」
「いや、何て言ったか復唱してみ?」
目をパチクリとさせるKar。俺が急かすとおたおたと答える。
「えっと…………「今日の夜11時辺りにもう一回その格好で来てくれ」です」
「ああ、何か疑問は?」
「私で…………その、良いんですか?」
いやそんな大真面目に聞かれましてもですね。
「俺はえっちないたずらをするとは一言も言っていない」
「…………え?」
やっぱり分かってなかったか。というかそれも含めて敢えてそういう言い方をしておいたのだが、予想外の方向性で効力が発揮されたらしい。
先に言っておくが俺は何ら事実の把握は怠っていない。だからまあKarの想像していることも大体分かるし、何故そう思っているかも予想はついている。
「俺の部屋を見ろ。この狂った菓子の量を」
これを見れば分かると思ったんだがな。
――俺の部屋の半分が菓子の入ったダンボールで埋まっている。まあ内容は色々だが、これがそんな事をしようという男の部屋だろうか、ムードゼロ過ぎて失笑モノだわ。
ダンボールの量に呆気に取られたKarが口をパクパクしながら尋ねる。
「こ、これは?」
「今日の夜にゲリラ訪問して全員に配る菓子。文句は「お菓子を受け取らなきゃえっちないたずらししちゃうぞ!」だ」
「はい? え?」
説明がもう面倒になってきたので、取り敢えず席について包装作業に戻る。
「いやこれめっちゃ有るからさ、手伝ってもらおうと思って。ついでに配るのも」
「だからこの衣装?」
「そう」
それに見てて可愛いから目の保養になるし。この作業虚無だから癒やしがないと困るんだわホント。
自分がかなり面白い勘違いをしていたことに気づいたのか、赤かったKarの顔がりんごレベルにまで発火する。
まあそういう想定で触れ回るのまで考えてはいた。そのまま教えたらKarは抑えきれずに周りに言ってしまうし、それなら誤魔化すフェイクが有ったほうが良いとは考えては居たが――――――あんな視線を向けられるのはちょっと予想外だった。
面白そうなので抱き寄せて耳元で
「こういうのがお望みでしたか? お嬢さん」
と言ったらKarが何やらボソボソと言った後に倒れてしまった。ウッソだろ流石に笑ってくれよこれはサムいだろ。
――これは一周回って恥ずかしいな、と思いつつ作業に戻る。
もう最近は室内も肌寒い。Karをベッドまで運んでやるが、完全にショートしたのか起きる様子はまるでない。
寝顔は至って穏やかなものなので、まあ時間が経てば興奮気味に起き上がるだろう。結局一人の作業になってしまったが、叩き起こそうという気も起きない。
「全く、唯一の誓約人形がこれじゃあなあ?」
まあ指輪をつけてなきゃ誰も分からん訳だ。我が細君の明日を僅かに憂いつつ、俺はまた億劫な包装作業に戻った。
起きてから手伝ってもらおう。
急ぎ足で書いたから粗い。ド派手なタイトル詐欺とクソイケメンムーブがキツイ回でしたね…………。
これそろそろ完結させて次行きたい。何か一話目と書き方自体が違うし。