KBSF   作:月見荘

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今更ながら力に使われる紙の枚数は適当に設定しています。そんなんじゃ足りねぇよとか、むしろ多いわと思うことがあると思いますが、そこはスルーしてやってください。



柴又と買い出し、あと散歩集団

「はぁ~、なかなか決まらないもんだなー」

 

 PCの画面に映し出された"女性 プレゼント"の検索結果を一通りクリックし終えた自分は溜息を吐いた。服にアクセサリー、スイーツとか化粧品やら花束などグー〇ル先生は実に多くの事を教えてくれたけど、どれ一つとしてしっくりくるものは見つからなかった。

 というのも例え自分がこれが良いんじゃないかと思ったものが見つかっても、でも輿水さんの気に入るものじゃなかったら・・・と足踏みしてしまうからだ。

 

 それでも何とかしようと思って一番無難そうな花束を中心に色々と調べてみたけどやっぱり同じ結論になってしまう。だけどそのおかげって訳じゃないけど花言葉の知識だけは無駄に増えた。

 薔薇って贈る本数とか色で花言葉変わるのね。驚きだわ。

 

「輿水さんのライブは三ヶ月後・・・それまでに何とかしないと」

 

 座っていた椅子の背もたれに体重をかけて壁に貼ってあるカレンダーに視線を移す。輿水さんから連絡先を貰った日から既に一週間が過ぎていた。まだ日にちに余裕があるけど、だからって悠長にしていると最後の方に後悔するのが目に見えている。

 自分はちょっとだけ疲れた両目を指でほぐしてからPCに表示されている時間を確認した。

 

(こんな時間か、お風呂入んなきゃ)

 

 自分は席を立って自室を後にして脱衣所へと向かい洗面台の前に立って自分専用の櫛を手に取って髪を梳かした。習慣化したとはいえお風呂に入る前にブラッシングなんてよくもまぁやるもんだなぁ、と今でもそう思いながら鏡に映った自分を見ているとふと手に持っている櫛が目に入った。

 髪を梳く手を止めて櫛を目の前に持ってくる。これ、いいんじゃないか?

 

「先代!せんだーい!」

 

「なに?」

 

 既に旅行から帰ってきている先代に大声で呼びかけると近くに居たのかすぐに脱衣所に入ってきた。

 

「この櫛ってかなり高かったよね」

 

「まぁ、つげ櫛だからそれなりにな。でも何だ突然」

 

「いや、櫛って女の人に贈るものとしてはどうなのかと思って」

 

 自分がそう聞くと先代は一瞬ポカンとした後に口が吊り上がるくらいニヤニヤし始めた。

 

「いいんじゃねぇか?それ買った場所を後で携帯に送ってやるよ。金も置いとくから、今度の日曜にでも買いに行きな」

 

「いや、ちが、別にそういうんじゃ・・・」

 

 見透かされたのが恥ずかしくて否定しようとしたけど先代はさっさと脱衣所を出て行った。本当にあの人は気の利いて腹立つ人だな・・・

 

 

―――――――――――――

 

―――――――

 

――――

 

 と言うわけでやって来ました、東京の柴又帝釈天参道。まさか先週の日曜に続いて今週の日曜と2週続いて東京に来るなんて思いもしなかった。

 まぁ今回は自分の都合で来たので特に文句は無いんだけど、この混み具合だけはいかがなものかと思う。自分はスマホで目的の店の場所を確認してから参道を歩いた。

 

「あった。ここか」

 

 歩き始めて僅か2分で目的地である櫛を専門に扱うお店に辿り着いた。それにしても周りが食べ物関係の店ばっかりなのによくここに建てようと思ったな。匂いとか気にならないんだろうか。

 自分は多少不安に思いながらお店の暖簾をくぐったけど、中は意外にも無臭というかスッキリとした空気が流れていた。なにか芳香剤でも使ってるんだろうか?

 

 自分がクンクンキョロキョロと傍から見たらキモイことをしていると店の奥から気の良さそうなおじいさんが出てきた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「あ、どうも」

 

 いくら自分が客だと言っても目上の人には挨拶は返しておくべきだろうと思って、被っていた帽子を取って軽く会釈した。するとおじいさんはおやと呟いた後自分の髪を興味深そうに見てきた。

 

「もしかして神直様ですかな?」

 

「はい、そうです。ご存知なんですね」

 

「それはもう、神直様には代々ご贔屓にさせていただいておりますから。そちらの菖蒲(あやめ)の花は初代様がそのお力で作ったと聞いておりますよ」

 

 おじいさんは店の隅に飾ってあるショーケースを指さしてそう言った。店に入った時から見えてはいたんだけど、まさかあれが紙製の花だとは思わなかった。菖蒲の花は見たことが無いから分からないけど本物となんら遜色ないように思う。

 自分がショーケースに近寄って感心しながらその花を見ているとおじいさんは、はははと笑った。

 

「おや、櫛屋に来て花をご覧になられるとは。私の腕もまだまだと言う事ですな」

 

「あ、すいません!そんなつもりは!」

 

「構いません構いません。ただの冗談ですよ」

 

 そう言ってまたおじいさんは笑った。けどそうだ、自分はここにお祝いの品を買いに来たんだから早いところ選んでしまおう。そう考えて自分は店内を回って櫛を見回っていると突然ジリリリリと黒電話の着信音と思われる音が響いた。

 おじいさんはそれを受けて特に誰も聞いていないのに、今出ますよーと言って店の奥に引っ込んで行った。まぁ自分には関係ないことだと店の奥に遣っていた視線を再び櫛へと移した。

 

(花柄のやつか蝶柄のやつか。木そのままの色か黒色のやつか。長いのか短いのか。何か一杯あるな)

 

 数ある櫛を手に取って見比べていく。櫛の善し悪し自体は正直言って分からないけどどれもきっと良いものなんだろう。値段的にね。

 そうしてどの櫛にしようかと悩んでいると店の奥からおじいさんがこっちに戻ってきた。けど何かどことなくそわそわしている。どうしたんだろう?

 

「申し訳ありません、神直様。ちょっとよろしいでしょうか」

 

「・・・え?はい、なんでしょう」

 

 まさか声をかけられるとは思っていなくて一瞬反応が遅れてしまった。

 

「実は今日ここにテレビの取材が来ることをすっかり失念していまして・・・」

 

「そうなんですか?じゃあ自分は一旦退散した方がいいですか?」

 

「いえ、先方からはお客様が既におられるのであれば、それも合わせて撮らせていただきたいと伺っております。なので店内が少しだけ騒々しくなりますが、神直様が良ければゆっくりご覧になって行ってください」

 

 そう言われて自分は少し考える。テレビに出るのは自分的にはそんなに好ましいことではないとはいえ、どうせ端っこに映るだけだろうし、外の人混みを考えたら店内に居た方が快適だろう。

 自分は別に構わないですとおじいさんに言ってからまた櫛選びに戻ろうとしたけど、何となくテレビのことが気になったのでおじいさんに質問してみた。

 

「何て番組の所が来るか聞いてます?」

 

「ふむ、なんと言いましたかな。何とかという番組の・・・けーびーわいでぃー散歩?という一団が伺いますと聞いておりますな」

 

「KBYD散歩?・・・聞いたことないですね」

 

 頭の中でその単語を検索するもヒット無し。そもそも自分はあんまりテレビを見ないから当然と言えば当然だ。

 

「なんでも新しく出来たコーナーだとか。けーびーわいでぃーの意味はかなり珍妙だったので覚えていますよ」

 

「どんな意味だったんですか?」

 

「それが、カワイイボクと野球どすえだとか。随分変わっておりますでしょう?」

 

「んんんんんんんん!?」

 

 おじいさんはまたしてもあははと笑ったけど、自分はそれどころでは無かった。後半二つは正直意味が分からないけど前半のそれは心当たりがある。というかあり過ぎた。

 いや、そんな・・・たまたま似通っちゃっただけだよね?嘘だよね?

 

 そんなまさかと思うけど思えば思う程不安が心の中に広がって行く。いや、まさか本当に・・・?

 

「・・・ちなみに、テレビの人達が来るのはいつになります?」

 

「先程の電話では近くまで来ていると言っていましたので、もうそろそろ着くと思いますよ」

 

 それを聞いた自分は手に持っていた櫛を元あった所に置いて無言で店の外に顔をだけ出して目を皿のようにして周囲を確認した。右・・・それらしい影は無し。左・・・二軒程先の店の前に妙な三人組を発見。

 その三人組はバスガイドさんみたいな水色の服を着ていて、その頭にはちょこんと小さい帽子(?)みたいな物を乗っけていた。意味あるのかそれ。

 

 いや、この際格好なんてどうでもいい。問題はその三人組そのものだ。

 まずこちらから見て右の人、元気そうなお姉さんですね。次に左の人、着物が似合いそうな方ですね。そしてその二人に挟まれた真ん中の人、どう見ても輿水さんだあれ。

 

 自分は頭を店の中に引っ込めてその場でうずくまった。

 

(いやいやいやいや!嘘でしょ!?そんな偶然があるか!)

 

 確かに先週から輿水さんとよく学校とか帰り道で喋ったりはしていたし、その内容に次の日曜(今日)にテレビでロケをやるとも聞いていた。だからってこれは無いんじゃないか!?

 自分は人生で初めて神様を恨んだ。

 

(とにかく、今からでも店を出るか!?いや、遅すぎる!もう目と鼻の先まで来てたし、いくら帽子を被って分かりにくいとはいえ輿水さんにはバレる可能性もある!だったら・・・)

 

 自分は即座に駅前で無駄に貰った物と先代に持たされたポケットティッシュ計8個をカバンから取り出し一塊ずつ握りこんで店に置いてあった小さめの棚と全く同じデザインになるように着色して、出来上がったそれらを一つに繋げた。

 そうして自分をスッポリと隠して余るほどの大きい紙を作った自分は店の壁に寄りかかってその紙を自分の前に広げた。その間も力を発動し続け紙がヘニャらないように形を維持してあたかもそこにもう一つ棚があるかのように偽装した。

 

「ほぉ、何かよく分かりませんがお見事ですな」

 

 おじいさんから困惑した様子が伺えるも賛辞の言葉を頂戴した。でもよく考えるとこんなもの作らなくても店の奥に避難させてもらえば良かったんじゃ・・・

 と、自分が無駄なことをしたと後悔している内にさっきの一団が店の中に入ってきた。

 

「こんにちはー!」

 

「ここが今から取材させてもらう櫛屋さん?なんやえらい落ち着く雰囲気やな~」

 

「フフーン、このボクが完璧に、かつカワイくリポートしてみせますよ!」

 

 ここから自分史上最悪の30分が幕を開けた。

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