KBSF   作:月見荘

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昼食とスケジュール、あと券

「おはようございます。神直君は今日も朝からなんだか冴えない顔をしてますね」

 

 なんだか・・・

 

「神直君、さっき返って来た小テストどうでした?え・・・96点、ですか?へ、へぇ~。ま、まぁ神直君にしては良く出来た方じゃないですか?え、ボクですか?ボクの点数はどうでもいいじゃないですか!全く、デリカシーの無い人ですね!」

 

 今日は・・・

 

「フフーン、やはり神直君ではボクの足元にも及びませんね!」

 

 輿水さんのテンションが・・・

 

「今日も一人でお昼ご飯ですか?寂しい人ですね。仕方がありませんからこのボクがご一緒してあげましょう!」

 

 異様に高い・・・。自分は机の弁当箱を包んでいた風呂敷を解く手を止めて、机を挟んで自分の正面に立つ輿水さんを見上げてそう思った。

 そうでもなければ、朝一番自分に毒を吐き、テストの点数を自慢しに来ようとしたり(未遂)、体育の授業で行われた卓球で自分をボコボコにしたり、普段一緒に食べないのに何故か得意気な顔で弁当箱を引っ提げて来て自分の机の上に置いたりはしないだろう。

 

 自分は風呂敷にかけていた手を再び動かして、とりあえず一番気になった事を口にした。

 

「それはありがたいんだけど、大木さんの椅子を勝手に借りちゃってもいいの?」

 

 輿水さんと自分の席は隣同士なので机を横にくっつけ合うという手もあるんだけど、二人で食べるのにそれはそれでおかしな話だ。となれば自分の前の席の人の椅子を借りなきゃいけない訳で、つまり大木さんの席を拝借しないといけないんだけど、今は居ないとは言え勝手に借りるのはどうなんだろう。

 自分はそう思っていたんだけど、輿水さんは特に気にするような素振りも無く椅子を自分の机の方へ向けてそのまま腰かけた。

 

「体育の時間中に許可を取っておいたので大丈夫です」

 

 いつの間に・・・。いや、自分的には体育の授業の開始から終了までひたすら輿水さんと卓球の試合をやっては勝利数を重ねて自分にドヤ顔を向けてきたことしか覚えしかないのだけど。あ、でもそういえば自分の敗北数が3を数えた辺りで自分が休憩を申し出た事があったので多分その時にでも頼んだんだろうか?

 

「ならいいんだけど、じゃあその時から自分とお昼ご飯を食べるつもりだったんだ。それはまたなんで?」

 

「ま、まぁ気分というか、そう、ファンサービスですよ!いやー、些細な所でも積み重ねて行くボクはまさにアイドルの鑑ですね!」

 

「えぇ・・・」

 

 何故か輿水さんドヤァ。自分困惑。いや、昨日のライブも無事に成功に終わってある種プレッシャーから解放された気分になるのは分かるけど、それにしたって本当に今日はテンション高いなこの子。

 

「というか、そんなのはどうでもいいんじゃないですか。神直君はただお弁当のおかずと一緒にボクのご相伴に与れる喜びも噛み締めて下さい!」

 

 そう言っていただきますと弁当を食べ始めた輿水さん。自分は微妙に納得がいかないながらも同様に弁当に箸をつけた。ただまぁせっかく二人で食べるのに会話が無いと結局一人で食べているのと変わりは無いと思うし、何か話題提供でもした方がいいのかな。

 そう思って自分は弁当に入っていた卵焼きを箸でつまみながら視線を輿水さんの方へと向けた。

 

「そういえばもうそろそろ夏休みだけど、輿水さんは何か予定があるの?」

 

 特に何か意図があって問いかけたわけじゃなく、ただ強いて言えば輿水さんの予定が無い時にでも遊ぼうかなと思ってそう聞いただけなんだけど、輿水さんの方はそうじゃなかったみたいで、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに左手に持っていた箸を弁当箱の上に置いてまで頬に手を添えて口を開いた。

 

「まぁ、ボクくらいのアイドルになれば夏休みのスケジュールなんてすぐに埋ってしまうでしょうね!」

 

「それはつまり予定が出来る予定はあるってこと?」

 

「その通りです!」

 

「あ~、そうなんだ」

 

 自分としてはCDデビューやミニライブが3ヶ月も前から決まっていたこともあったし、てっきり輿水さんの予定は既に決まっているものだとばかり思っていた。とは言えよく考えてみれば、どれほどとは知らないけど、CDの発売やライブがアイドルとしての知名度を上げるのは確かだし、だとすればこれから歌系の仕事が増えてきたっておかしくは無いか。

 それにそのアイドルが夏休みを迎えてネックとなる学校が無いとなれば尚更だろう。自分は輿水さんの返答にほんの少しガッカリしつつ箸でつまんでいた卵焼きを口の中に放り込んだ。

 

「それで、神直君はどうなんですか?」

 

「ん?」

 

「だから、そちらの夏休みの予定はどうなんですか?」

 

 あぁ、まぁ自分から聞いたんだからそりゃあ当然聞き返されるか。自分は口の中の物を素早く飲み込んでから答えた。

 

「紙関係の仕事をちょっとだけ回してもらったり、遠出することはあるにはあるけど基本的に予定は無いみたいなもんかな」

 

 遠出と言っても2日もしたら帰ってくるし、紙関係の仕事に至っては自分に回される大半が1日とかからないものなので実質無いのと一緒。ちなみにゲームを予定に含んでいいなら自分もいくらでも埋められるんだけどね。

 そんな感じで夏休み中は暇だと言うことを伝えたら何故か輿水さんの口角がみるみる上がっていき、何とも言えない表情になった。

 

「へぇ~、そうなんですか!真っ黒なボクと違って、神直君は真っ白なんですか!へぇ~!」

 

「う、うん、そうだけど」

 

 スケジュールが真っ黒って言いたかったんだろうね。その言い回しだと何だか輿水さんが腹黒みたいだよ、だとか輿水さんの予定はまだ未定じゃんというツッコミをかろうじて飲み込んで自分は頷いた。

 

「ま、まぁ?そんなに暇でしたら、ボクとしては神直君がどうしてもと言うなら予定を空けてあげますけど?」

 

 決まってない予定をどう空けるというんだろうというのは置いといて、これは要するに暇な時間を作ってあげるからお前と遊んでやるよってことでいいんだろうか?だとしたらどう答えたもんだろう。

 自分としては当然遊びたいと思っているけど、これから忙しくなるであろう輿水さんのアイドル活動を考えてみれば予定を空けられた日は休んでもらった方が良いに決まっている。自分本位か他人優先か悩み所ではあるけど返事が遅くなるのも悪いので、自分は一瞬だけ考えて口を開いた。

 

「じゃあ、どうしても輿水さんと遊びたいから予定を空けといて貰ってもいい?」

 

 当然自分が輿水さんと遊びたいと思ってるのもあるけど、以前東京で買った櫛を渡す機会が欲しかったっていうのもあるので結局は自分のしたい通りにすることにした。ただそれが輿水さんの期待した通りの返答だったようでムフンと鼻を一つ鳴らして自慢気に上体をやや後ろに反らせた。

 

「全く、仕方ありませんねぇ!そこまでお願いされたなら、ボクとしてもやぶさかじゃありません!」

 

「うん、ありがとうね」

 

 自分よりも優位に立っているからだろうか?何にせよ輿水さんの機嫌が良さそうで何よりだ。

 

「じゃあ予定が決まったら連絡して。8月の10日から12日じゃなかったら自分は暇してるだろうから」

 

「それには及びません。もう既に予定を空ける日は決まっていますので」

 

 そう言って輿水さんはポケットの中から長方形の紙を2枚取り出してその内の1枚を自分に渡してきた。それを受け取って見てみるとその紙には夏休み初日の日付が記載されていて、その他にもこの紙の値段と思われる数値やデカデカとフリーパスと書かれた文字に、極めつけは絶叫系とお化け屋敷のアトラクションが有名な施設の名前がローマ字で書かれていた。

 誰がどう見たって遊園地のフリーパスです、本当にありがとうございました。

 

「これ買ったの?」

 

「いえ、少し前に友紀さんから友達と行ってきたらと言われて貰いました」

 

「へぇ~、そうなんだ。じゃあまた姫川さんにお礼言っとかないとね」

 

 その一緒に行く友達に自分が選ばれたことに内心嬉しく思いつつ渡された券を改めて眺めていると輿水さんがニヤニヤとこっちを見ていることに気が付いた。

 

「遊園地でそんなに喜ぶなんて、案外神直君にも子供っぽいところもあるんですね」

 

 どうやら嬉しさが顔に出ていたらしく、からかい口調で輿水さんがそう言ってきた。実際には喜んだ場所が違うんだけど、だからと言って素直に言える訳も無いので自分はフリーパスを返しながらお礼を言った。

 

「あぁ、うん、そう。嬉しいよ、凄い嬉しい!ありがとうね、輿水さん!」

 

「フフーン、もっとボクと有紀さんに感謝してください!何ならボクをカワイイと褒めて下さい!」

 

「いや、さすがにそれは・・・」

 

「ちょっと、何でそこで引くんですか!?」

 

 流石に正面切ってカワイイというのは未だに抵抗があるし、何より周りの目もある。というかさっきから会話する音量もそこそこに大きいので微妙に視線を集めてることを輿水さんは気付いて無いんだろうか。でもまぁ輿水さんだったら気が付いても見られているなら見られているで構わないとか言って気にし無さそうだし関係無いか。

 とりあえず自分はアハハと愛想笑いだけ返してジト目を向けてくる輿水さんをスルーしつつ会話を続けることにした。

 

「それは一旦置いといて、じゃあ夏休みの初日に遊園地に行くってことでいいの?」

 

「随分強引に話題を戻しましたね・・・。でもまぁそういうことですね。その日はプロデューサーさんにお仕事を入れないでおいて下さいと昨日言っておいたので、その日はボクも暇になるはずですから」

 

 そう言って未だに不満気な顔をこちらに向けつつ輿水さんは箸を手に持って昼食を再開した。今にして思えば輿水さんが自分とお昼ご飯を一緒に食べようと言い出したのは、もしかして最初から自分の夏休みの予定を聞いて遊園地に誘う口実だったのかな?

 だとしたらかなり嬉しいんだけど、きっとそれを輿水さんに聞いても素直に答えないだろうし、そもそも聞くのも何だか野暮な気がしたのでそれは自分に都合の良い妄想として置いておくことにした。

 

 さて、7月のカレンダーに付く×印と〇印の量がまた増えるなと考えながら自分も輿水さんと同じように昼食を再開した。

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