KBSF   作:月見荘

18 / 20
恐怖と限界、あと寝ててもカワイイボク

「・・・暗いね」

 

「・・・暗いですね」

 

 幸子の提案で始まった、より大きい悲鳴を上げた方がお昼ご飯を奢るという勝負の最終戦はお化け屋敷へと舞台を変えたのだが、初っ端から二人して後悔していた。試しに神直が探索用にと渡されたペンライトを点けて進行方向を照らしてみると幸子から、うわぁ・・・というドン引きした声が漏れた。

 このお化け屋敷は廃病院の体を為しているのだが、どこからか漂ってくる薬品の匂いやら、本物の病院さながらの内装(荒れてる)や各種医療器具(ボロボロ)が揃えられているので臨場感とか恐怖感が半端じゃないことになっていた。

 

 そのせいか幸子も神直も開始付近から一歩も動けないでいるばかりか、何なら今すぐにでも踵を返して入口を出口にしてしまいそうな勢いである。とは言えいつまでもここに居ては次の順番の人達の邪魔になるだけなので、神直は鉛のような重苦しい溜息を吐いた後一歩幸子の前へと出た。

 

「輿水さん、悪いけどちょっと怖いから自分の背中掴んどいてもらっていい?」

 

「フ、フフーン。し、仕方ありませんねぇ。それでは背中はボクに任せておいてください!」

 

「ありがとう。じゃ、進むよ」

 

 神直は幸子に背中掴ませるとノロノロと前進を始めた。中は非常に暗いのでペンライトで前を照らさないとまともには進めない仕様になっているのだが、二人がとある部屋に足を踏み入れると何故か一室だけ淡い緑色に照らされている空間が現れた。

 チラリと幸子が左へ、神直が右へと視線を向けるとそこには患者が利用するベットでも中にあるのだろう、長方形に区切られた真っ黒なカーテンがその部屋の入口から出口までにびっしりと並べられていた。これでお化けが出なかったら笑うレベルである。幸子は神直の服を引っ張って振り向かせた後、怖さと真剣さが同居したような顔で口を開いた。

 

「さ、先に行っておきますけど、ボクを置いて逃げたら一生恨みますからね!」

 

「それはある意味こっちの台詞なんだけどね・・・」

 

 基本的に引きこもりがちな神直に対して幸子はアイドルとして体を鍛えているため確実に神直より足が速く体力もあるので、彼女がその気になれば前に居る神直を押しのけて走り去ることくらいは出来るだろう。ただ、もし置いて行ったら置いて行ったでこの後一人でこの怖い空間をうろつく羽目になるので、最終的には多少怖い思いをしても一緒に逃げた方が良かったりする。

 二人は同時に頷き合って、無言でお互いを見捨てないことを約束すると、幸子は背中を掴む手に力を込め、神直はペンライトを確りと握り直してゆっくりと前へと歩き始めた。

 

 部屋の5分の1まで歩いたが、お化けは出ない。

 

 部屋の5分の2まで歩いたが、まだお化けは出ない。

 

 そして二人が部屋の真ん中辺りまで来た時のことだった。突然全てのカーテンが激しく揺れ始めたと同時に、各所からガタガタガタガタと、けたたましい音が鳴り始めた。まるでベットに押さえつけられている患者が激しく暴れているかのように。

 

「ひぃ!!」

 

「うおぉ・・・!」

 

 そんな突然発生したビックリギミックにピタリと足を止めてビビリまくる二人だったが、それが大きな間違いだった。二人の居る場所のすぐ後ろからブチッという何かが千切れるような音が鳴ったかと思うと、そこから何かが飛び出して来た。

 二人が慌てて振り返ると、そこには両腕に千切れた拘束具を付けた血塗れの入院患者と思しきお化けがフラフラな状態で、けれども目だけは確りと恨めしそうに幸子を睨んで佇んでいた。

 

「う"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

「・・・・・・・!!!きゅぅ・・・・」

 

「うああああああああああ!・・・ってうおおおおおおおい!」

 

 まるで地獄の底から響いてくるような声をお化けが発した途端、幸子の恐怖心が限界値を超えてしまい声にならない悲鳴を上げた後、彼女は意識を手放してフラリと後ろの方へと倒れ込んだ。

 幸いにも後ろに倒れ掛かったおかげで神直が受け止めて地面に頭を打ち付けることだけは回避できたのだが、彼は彼でお化けに驚いたり突然幸子が気絶したりで精神的に大忙しだった。

 

 ちなみに、もし幸子がここにロケか何か仕事で来ていたのであれば持ち前のプロ根性で気絶することは無かったのだが、残念ながら今はプライベートで来ているためどれだけ情けない姿を晒そうがお茶の間に流れることは無いので耐えられなかったようだ。

 

「ちょ・・・輿水さん!いっそ置いてっていいから、せめて自分の足で立って!!」

 

 抱き留めた幸子に神直が普段出さないような大声で呼びかけるが反応は無かった。このままじゃヤバイと思った神直がお化けの方に視線を向けると、やべぇよやり過ぎたよ、みたいな顔になっていた。そのある意味お化けだって人間なんだと思わせてくれる表情に神直は幾分か冷静さを取り戻すと即座に手に持っていたペンライトを咥えて幸子の体を反転させ、彼女を背負って全速力で逃げ出した。

 ここでもう少し冷静になっておけばお化け役の人に助けを求めてリタイアすることも出来たのだが、流石にそこまで考える程の余裕は戻ってはいなかった。唯一不幸中の幸いだったのは幸子の体重がかなり軽かったため、力の無い神直であっても比較的容易に背負えた事だろうか。それが無ければ多分見捨ててたかもしれない。

 

 そうして少しの間逃げ続けていた神直だったが、体力が尽きたと同時に幸子をその場に降ろして自身も座り込んでしまった。

 

「はぁ・・・はぁ・・・きっつ・・・」

 

 ガクリと頭を下げて、息を荒くする神直。その拍子に咥えていたペンライトが地面に落ちて甲高い音が辺りに響いてしまうが、それを気にする余裕は今の彼にはなかった。

 息を整えるついでに何の気無しに神直が幸子の方へ視線を向けると、恐怖のあまりに気絶した割には妙に安らかな表情で寝ているのが目に入った。何ならスヤァ…っていう擬音語を幸子の真上に書き足してあげてもいいくらいだ。

 

 そんな安らか幸子を神直は引っ張たきたくなるもこれを我慢して、ある程度体力が戻った所で再び幸子を背負って立ち上がった。と、同時にペンライトを落としてしまっていた事に気付いた神直は視線を地面へと向けてペンライトを探し始めた。

 幸いにもペンライトは落とした拍子にスイッチがオフになっていたものの、あまり転がることなく神直のすぐ前に落ちてあったので彼は良かったと思いながらそれを拾おうとした。だが、神直はこれに強い違和感を覚えた。

 

 このお化け屋敷は道中ペンライト等の明かりが無くては前が見えない程に暗いはずだ。なのにどうして今スイッチの切れていたペンライトが見えている?どうしてこの場所だけは淡い緑色で照らされている?

 その疑問に神直が虚ろな目をしてしばしの間思考していると、地面に落ちていた筈のペンライトが彼の方へと差し出されていた。

 

「あの、これ、落としたよ?」

 

「ん?・・・あぁ、すいません、ありが・・・」

 

 突如差し出されたペンライトに神直は意識を戻してそれを受け取ろうとしたが、何かがおかしい気付いた。幸子は気絶しているし、今日は他に同行者は居ない。神直が視線で差し出されている手を辿っていくと、そこには自分より背の低い片目を髪で隠した血塗れの少女が心配そうに彼を見つめていた。

 

「・・・!!!」

 

 神直も幸子と同様に声にならない悲鳴を上げたが、気絶することもなければ幸子を手放して逃走することも無かった。正直な所ギリギリだったが、目の前の少女が本気で心配そうにしていたので何とか耐えることが出来た。多分これが無ければ最悪神直は立ったまま死んでた可能性がある。

 

「大丈夫?すごく、顔が青いよ?」

 

「・・・あ、はい。大丈夫です」

 

 そんな神直のある意味人生の瀬戸際に気付く事無く尚も心配そうな顔する少女の様子に彼はようやく精神を立て直して、差し出されていたペンライトを受け取るとそのままポケットの中へと仕舞った。いかに彼女が軽かろうが両手で支えていないとキツイようだ。

 神直は一瞬片手を離したことで体勢の悪くなった幸子を背負い直して、目の前の少女に一つ疑問を投げかけた。

 

「心配してくれるのは嬉しいんですが、自分達を驚かさなくて良かったんですか?」

 

「うん。前のお化け役の人から、気絶した子を背負った男の子がそっちに行くから保護してあげてって連絡が来てたから」

 

「そうだったんですか」

 

 少女の返答に神直は安堵の息を吐いて、さっきのお化けに心の中で大いに感謝した。

 

「それで、すいませんが出口の方はどちらですか?」

 

「すぐそこにあるよ」

 

 少女が指さした方を見てみると確かに非常口の文字が。ただしその文字も読めない程では無いが掠れているので絶妙にこの場の雰囲気を壊していない。神直は非常口の前まで歩いていき、非常口のドアを開けて振り返った。

 

「助かりました、ありがとうございます」

 

「ううん、これもお仕事だから。それにしても、仲良しなんだね」

 

「・・・?」

 

「えへへ、何でもないよ。じゃあまた来てね」

 

 フワリと笑って長すぎる袖に隠れた手を振って見送ってくれた少女だったが、神直は彼女が言った一言に首を捻った。ただまぁ仲の良い友人同士で遊園地に来るくらいだからそんなことも言われるかと心の中で勝手に納得して非常口から外へと出た。

 

「まぶし・・・」

 

 中の暗さに目が慣れていたせいか外の明るさに目を細めた神直だったが、片手を離して目に影を作ろうにもそろそろと腕に限界が来ていたため今離すと確実に幸子を落としてしまう。仕方無しに神直はとりあえず眩しいのを我慢してベンチ等の幸子を降ろせる場所を探し始めた。

 だが、そのすぐ後幸子の意識が戻ったらしく彼の耳元で唸るような声が聞こえたかと思うと薄っすらと目を開いた。

 

「うぅん・・・。あれ?ここは・・・?」

 

「あ、起きた?」

 

「へ?」

 

 どうやら気絶したことを覚えていないらしく辺りをキョロキョロと見渡す幸子だったが、神直が顔を少しだけ捩って彼女の方へと向けると、とりあえず現状だけは理解できたらしく顔を真っ赤に染めて彼の髪を引っ張り始めた。

 

「な、何で神直君がボクを背負ってるんですか!?セクハラですか!?」

 

「違う違う、違うから!説明するから落ち着いて!あと髪を引っ張るのだけは本当に止めて!」

 

 暴れる幸子を取り合えず落ち着かせて彼女を降ろすと、神直はここまでの経緯を簡潔に語った。お化けに限界を超えてビビッて気絶した幸子をここまで運んできた。後お化け屋敷自体は途中でリタイアしたと。さすがの幸子もこれを聞いて文句を言う程に我儘では無いので、普段とはかけ離れたしおらしい態度を見せて素直に謝った。

 

「その、すみませんでした。ボクをここまで背負って来てくれたのに髪を引っ張ちゃって・・・」

 

「起き掛けだったしね、仕方ないよ。それよりお腹減ったからそろそろお昼にしようか」

 

「じゃあここはご迷惑をかけたお詫びとしてボクが奢ってあげますよ」

 

「え、良いの?じゃあ、ありがたく奢られようかな」

 

「フフーン、何でも頼んでください!」

 

「あんまり何でもとか言わない方が良いと思うけど・・・」

 

「心配ありません、持ち合わせは十分にありますから!」

 

(そう言う事じゃないんだけどなぁ・・・)

 

 微妙に調子に乗り始めた幸子に神直は苦笑いを浮かべながらそう言ったが、幸子は自信満々にポシェットを軽く揺らして答えると、遊園地内の飲食店に向けて足を動かした。神直も何だか幸子の将来に不安を覚えながらもそれに続いた。




※お詫び(興味の無い方は読み飛ばしてください)
前話の前書きで二つに分けるとか言っておきながらそれ以上に分かれるような構成になってしまいました、本当にすいません。

ちなみに言い訳しますとお化け屋敷の描写は本来空白を除いて十行くらいのダイジェストでお送りするつもりでしたが、お化け屋敷と言えばあのアイドルだろ、とちょい出ししたくなった結果一話分の文字数になってしまったのが原因です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。