幸子の出番はまだ増えません。次回こそは・・・
輿水さんの家から逃走してから少しして自分は住宅地よりやや離れた山に建てられた神社へと向かっていた。というのも、なんでこの遅い時間に神社なんかに向かってるかと言うと我が家は何を隠そうその神社なのだから仕方が無い。
神社へと続く長い階段を登り切り紅色よりも少しくすんだ鳥居をくぐる。そこで姿勢を正し真正面に見える小さめに本堂に腰を45度曲げきちんと礼をした。
「ただいま帰りました」
自分の寝泊まりする所、いわゆる母屋には本堂を迂回しなければならないが自分はいつもここで帰りの挨拶と行きの挨拶を済ませる。
神様を敬うべきではある。だからと言って神様は遠くに居ないし、いつだって身近に居るから挨拶を怠るな、とは自分を育ててくれた人の言い分である。
ちなみに、神社の神様って普通本殿に居るものじゃないですか?っと当時覚えたての知識を披露した今よりも幼少のころの自分はその育ててくれた人にぶっ飛ばされた。
自分は挨拶を済ませると本堂を迂回し母屋へと向かいその玄関の引き戸を開けた。
「ただいまー」
「お帰り。今日は遅かったな」
ビール缶を口にあてながら出迎えてくれたのは幼少の頃の自分をぶっ飛ばしてくれたことのある自分の育ての母親、通称先代である。
「うん、ちょっと風邪を引いた同級生にプリントを届けてたら遅くなった」
「え?マジで?お前友達居たっけ?」
「居ないけど!その・・・色々あったんだよ!」
母親代わりの人についムキになって反論してしまうが、事実とは言え最高に失礼なことを言われたのでセーフ。先代はどちらかというと母親というより姉のようなものなので、よく自分をからかって遊ぶ。
「ま、別にいいけど、これからは遅くなるなら連絡入れな。心配でアタシ死んじゃう所だったぞ」
「あ、ごめん、次から気を付ける」
そういえばと自身のスマホを取り出してみれば、そこにはL〇NEの通知が十数件ほど溜まっていた。どれもこれも先代の自分を心配する文章だ。これは悪いことしちゃったな・・・
「良し、じゃあさっさと部屋行って着替えて来な。晩ご飯あっためといてやるから」
「うん、ありがとう」
先代はそう言って居間に引っ込んだ。自分もささっと着替えてご飯を食べよう。
「あ、そういやちょっといいか?」
「ん?何?」
私服に着替え先代の作った晩御飯を居間で頂いていたら、テレビを見ていた先代が思い出したようにこちらにやや赤い顔をこっちに向けた。しかし、スローペースだからそこまで多く飲んでないけどそろそろ酒をやめといたほうがいいんじゃないだろうか。いや、先代が酔っ払った所なんて見たことないから大丈夫なんだろうけども。
「明日から一週間ほど旅行行くんだけど、留守番頼んでいい?」
「いきなりだね・・・もしかして旦那さんと?」
「おう」
「へぇ、良いじゃん良いじゃん行ってきなよ」
照れくさそうにはにかみながら答える先代。旦那さんとは仲が良いとのことなのできっと楽しみなんだろう。
いくら先代の神直が当代の神直の世話をしないといけないとはいえ仲のいい人との旅行くらいはいいだろうし、自分も料理以外の家事は一通り出来るし断る理由もないので自分は快く答えた。
「あー、それと仕事の方は・・・」
「やっとくよ。紙の修繕とか復元なら自分でも出来るし」
「いやー、当代の神直は優秀で助かるね!」
「ちょ、髪をぐしゃぐしゃにするな!精度が落ちても知らないよ!」
神直の性を拝命された人は少なからず紙に関する力を得る。状態の悪くなった紙を新品の状態に戻したり、破れた紙をくっつけたり、形を変えることもできれば、紙に書かれている字ですら変化させることができる。
ただ残念・・・と言っていいのかは微妙だけど、紙に与える影響は本人の髪質に比例したりする。ギャグかよと思うかもしれないけど、そんな言葉遊びも以外と馬鹿にならないのが不思議なところだ。
そのためなのかどうかは謎だけど神直家の人間は例外なく髪の毛がサラッサラのツヤツヤで長い。これが女の人なら歓喜ものだろうけどイケメンじゃない男にとっては迷惑でしかない。
自分の髪は肩よりも少し長いくらいだけど、その髪を後ろで縛ることでようやくまだマシなレベルで見れるけどそれを解いたときなんてもう失笑を誘うレベルだろう。実際先代にも――――
「中の下。見れなくはないし悪いとも言わない。けどまぁ、強く生きろ」
と、非常にありがたい評価を頂いた。そして更に迷惑なことに髪の手入れを怠ると力の精度が落ちるから本当に困りものだ。
「じゃ、明日からヨロシク!明日はどこぞの武将が妻に送った恋文の修繕の仕事が入ってるから!」
「いきなりクソ面倒なの持ってくるなよ」
もういいや、何でも・・・ご飯食べて風呂入ってさっさと明日に備えて寝よう。
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「おはようございます」
翌日の朝起きて自分の部屋から居間へと行くとそこに先代の姿は無く、テーブルの上にはビリビリに破られた紙があった。回りくどいことするなぁっとちょっとげんなりしつつ、その紙屑を全て手のひらに集め反対の手で覆うように重ねグッと握る。
次に手を開けた時には破れたことなんて無かったかのように皴一つない紙が現れた。その紙にはただ一言、行ってきます!!とだけ書かれていた。
「いや、要る?これ・・・」
朝から無駄な労力を割かれたが気にしないようにして学校に行こう。こんなのに気力を持っていかれたらこの後の学校で身なんか持つわけがない。で、それはなぜかと言うと・・・
「おはよう」
「・・・おはようございます」
そう、風邪を一日で治して学校に来た輿水さんの存在にある。元々は自分のせいとはいえ風邪を引いたならぶり返さないようにもう一日だけ様子を見ようよ、今日は土曜日で明日は休みなんだから連休みたいで得じゃない?と心のなかで文句を言っておく。
ちなみに自分の通ってる学校は私立のせいか土曜日でも午前中だけ授業があったりする。
それにしても輿水さんの視線の刺さること刺さること。昨日のことを疑問に思うのも分かるけどそんな見られると辛い、っていうかせめて自分に気付かれないようにして。
「皆さんおはようございます。さっそくですが授業を始めましょう。号令をお願いします」
「はい。起立!礼!着席!」
いい加減居心地の悪さに耐えられなくなったころ、一時間目の国語の授業を受け持つ先生が入って来たことによって輿水さんの視線は一旦切れた。
とはいえこれはきっと一時的なものに過ぎないだろう。どうせ次の休み時間にまた復活する。そうなると次の授業が始まって視線が切れる、休み時間に突入して視線が復活するのループだ。
時間割りにも限界があるから無限ではないものの遂には放課後に尾行なんかされたら、もうなんていうかストレスでハゲる。
となるとまさかの神直家最大の危機到来である。いや、それはちょっと極端なんだけど嫌なものは嫌だ。
きっとこの状況を解決する方法はいくつかあつんだろうけど、もうこの方法しか考えられなかった自分は間髪開けずに手を挙げた。
「すいません先生、教科書を忘れてしまったので隣の子のを見せてもらってもいいでしょうか」
「あら、そうなんですか。輿水さん、神直君に教科書を見せてあげてもらってもいいかしら?」
「はい、ボクは別に構いませんよ」
「ありがとう。じゃあ悪いけど、机をくっつけさせてもらうね」
自分の席は場所的に端のほうなので隣の席と言えば輿水さんだけだ。後は輿水さんが許可してくれるかどうかだったけどそれも案外すんなり通った。
当然ながら教科書を忘れてなんかない。我ながら大胆なことしたなぁと思いながら輿水さんの机に自分の机をくっつけた。
すると意外にも輿水さんから声をかけてきた。
「ボクと同じ教科書を見れるなんて、神直くんはラッキーですね。もしかしてわざと忘れました?」
本当にブレないなこの子は!もういっそ尊敬するよ!
「あぁ、いや、うん。ちょっと見て欲しいものがあるんだ」
輿水さんの勢いに押されながらも自分は開きっぱなしの国語の教科書に手を添えた。
すると国語の教科書に印刷していた文字はすっかり消え失せ、代わりに"今日の放課後に説明するから待っていて下さい"という文章が浮かび上がった。
うん、いっそもうばらしちゃえばいいじゃん。