また今回はアイドル一人も出てきません。
許されざる4話
「おはようございます」
輿水さんに事情を説明をした翌日の日曜日。時刻は朝7時と平日と変わりない時間に起きた自分は顔を洗い、普段着に着替えて手早く朝ごはんを済ませ朝の挨拶を本堂へ向けて行った。昨日は帰りの挨拶ができなかった分だけ頭を下げるのはいつもより長めだ。
(それにしても、昨日は楽しかったな)
頭を上げ物置へと向かい竹ぼうきを取り出し昨日のことを思い出しながら境内の掃除を始める。あのあと輿水さんの予定が特に無いとのことだったので、じゃあせっかくなので一緒に遊びましょうかとの提案をいただいたのでじゃあゲームでもしようかとS〇itchを引っ張り出し某配管工のレーシングゲームを楽しんだ。
初めてやるとのことだったのでNPCの強さを最低値にして自分も手加減して挑んだのだけど、思いの他輿水さんはゲームのセンスが無かった。初心者でもそこはコースアウトしないだろって所を平気でコースアウトするし、レースが終わるころには必ず下から数えた方が早い順位になっている。
で、それで楽しめたのかと聞かれるとゲーム自体は張り合いがなかったからそうでもなかったように思う。じゃあ何が楽しかったかというと輿水さんの反応だったと言わせてもらいたい。
何せ輿水さん、コースアウトすれば必ずと言っていいほど悲鳴のようなものを上げるし最下位になろうものなら本気で落ちこみはじめる。それでも自分が最下位からアイテムを駆使して輿水さんを1位に押し上げたら。
「や、やりましたよ!見てください!これがボクの実力です!」
と調子に乗り始めるんだから笑いを堪えるのに必死だった。
これ以上やると遅くなるからここまでにしようと言ってそのままゲームの電源を切ったのは昨日一番のファインプレーだったように思う。
(また今度忙しくなければ遊びたいな)
友達というものがおおよそ出来たことのない自分だったけど、昨日のことで友達って良いものだって思えた。まぁ輿水さんがちょっと特別だった気がしないでもないし、何より自分の力を知ってもらえているのが大きい。力がばれちゃだめだって人付き合いを避けてる部分も少なからずあったしね。
あれ、でも待てよ・・・もしかして友達って思ってるのは自分だけじゃ・・・
(いやいや!考えるな自分!とにかく今は境内の掃除を終わらせて、残りの今日を全部でゲームで過そう!)
昨日は昨日、今日は今日。日曜日というゲームで潰すために存在する日を楽しもう!
境内を掃くスピードを上げて早めに境内の掃除を終わらせ竹ぼうきを物置に直す。さて、後は手を洗って早速ゲームをやるかと意気込んでいると我が家の電話が着信を知らせてくれた。
「・・・こんな朝っぱらから誰だろう」
朝から電話何て・・・というか家に電話なんてちょっと珍しいなと思いながら自分は受話器を上げた。
「もしもし、神直ですけど」
『もしもし、美城だが、
「美城・・・あぁ!あの美城さんですか!」
電話の向こうに居たのはどこぞの会社のお偉いさんの美城さんだった。神直の事情を知る人の一人で度々先代に紙の修繕やデザインを頼んでいた覚えがある。
「でも珍しいですね、家に直接電話をかけてくるなんて。いつも先代の電話かパソコンにメールしてましたよね?」
『あぁ、ちょっとした事情があって今回はそちらに直接かけさせてもらった』
「事情ですか?どんな?」
『先代から頼まれていてな。当代のことだからきっと家に引きこもっているだろうから引っ張り出してくれとな』
「えぇ・・・」
余計なお世話すぎる。今日一日引きこもってゲームをする予定だったのは確かだけど正直放っといて欲しい。と言いたいところだけど、先代が絡んでるならそうは言ってられない。先代の言いつけを破れば後々更に面倒なことになるのを自分は知ってるからだ。
「引っ張り出すって・・・まぁそれはいいですけど、自分はどこまで引っ張り出されるんですか?」
『そうだな、ちょうどこちらに仕事があるから事務所まで来てくれないか?』
「美城さんの仕事場までですか?場所的にはどこになるんでしょうか?」
『東京だな』
「ぶ・・・!?ごほ、ごほ・・・!!と、東京ですか!?」
まさかの東京に思わず咽てしまった。というかいくらなんでも引きこもりを外に出すとはいえ県外は無いと思う。ここ山梨ですよ?その辺分かって言っているんだろうか?いや、分かってて言ってるんだろうな・・・
『詳しい場所は先代のPCに送っておくから確認してくれ。まぁこれも将来お前が就く仕事のためと思って励んでくれ。以上だ』
「ちょ・・・美城さん!?美城さーん!!」
必死の呼びかけも虚しく、受話器の向こうから聞こえてきたのはガシャっという電話を切る音だけだった。
それからしばらくの間ツーツーと鳴る電話を持ちながら呆然としていたけど、徐々に戻ってくる現実感と同時に自分は深い溜息をついた。こうなったらもう仕方ない、非常に面倒なのは確かだけどこうなった以上は気持ちを切り替えて行くほうがいいだろう。ただし先代には旅行から帰ってきたら自分の
そんなわけでまずは先代の部屋へ向かいテーブルの上にあるPCを起動する。パスワードロックをかけていない不用心さはこの際目をつむることにしよう。
メールアプリを起動し未読の項目を確認すると一番上には"詳細場所"と太字で書かれたシンプルなタイトルが目に入ったのでこれをクリックする。するとタイトルのシンプルさとは裏腹に、どの時間のどの電車に乗ればいつ東京に着くのかとか、到着駅からどの出口から出てどこに向かえばいいのかなんて丁寧にマーカーを引いた地図に分かりずらそうな場所は現地の写真を使ってまで迷わないようにしてくれている、正直こっちが罪悪感を覚えてしまうくらいの手の込んだ画像が複数添付されていた。
こっちとしては目的地さえ分かれば後はスマホの地図アプリか何かでどうにかしようと思ってたんだけどこの様子じゃ必要無さそうだ。
自分はPCに繋ぎっぱなしのUSBケーブルから手の込んだ画像をスマホに転送してPCの電源を落とした。後は出かけるための準備をするだけなので、自分の部屋に向かい髪を極力隠すための帽子を被り通学用のエナメルのカバンから財布以外の荷物を取り出し、せめてもの抵抗に3〇Sをカバンの中に収める。
さて、これで準備は出来た。送られて来た画像に従って電車に乗るなら今から出れば十分に間に合うだろう。電車賃は途中でコンビニのATMで引き落とせばいいし、他に忘れ物はないか一度確認してから自分は我が家を出発した。
「行ってきます」
本堂にも忘れずに挨拶しておく。面倒9割、残り1割楽しみとネガティブな感情にほぼ支配されながら自分は神社の階段を下り駅へと向かった
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「えーっと、346プロ・・・さんびゃくよんじゅうろくプロ?変な名前だな。っと、ここかな?」
目の前に広がる広大な敷地に立つし・・・城?みたいなものを見上げる。地図アプリの指し示す場所もここだと告げているので間違いなさそうだ。しかしまぁ美城さんが送ってくれた地図とその他一式のおかげで一度も迷うことなく来れたのでその辺は素直に感謝だ。まさか東京の駅があんなに複雑だとは思わなかった。
「えーっと、勝手に入っていいのかな?」
妙に重苦しそうなドアを開けて中に入り辺りを見渡すが受付の人どころか人が一人も居ない。正面にはどこぞのお姫様か王子様が優雅に降りてくるのにちょうど良さそうな階段。左右の壁には何か美人さんのポスターがでかでかと貼り出されているだけだ。
これはもしかして来る時間が悪かった?いやいや、美城さんが例に出した電車の時間に合わせたんだから来る時間はある程度予想出来るはずだし、これは一体どうすれば・・・?
「あの・・・どうかしましたか?」
「へ?」
挙動不審気味に辺りをキョロキョロしていると誰かから声をかけられたので間抜けな声と一緒に顔を向けてみるとそこには・・・何だろう、言っては失礼だけど薄目の幸薄そうな男の人が立っていた。
とにかく、見た感じスーツを着ているのできっとここの社員さんで間違いないだろう。それにもしかしたら美城さんが気を利かせて自分に迎えを送ってくれたのかもしれないし、この人に要件を伝えてみよう。
「時間通りに来ました!」
「え・・・えっと・・・?」
違った。あと学習能力の"が"の字も無い自分が好きでもないし嫌いだよ?
「す、すみません間違えました!えっと、ここに美城さんと言う方はいますか?」
「もしかして美城常務に御用・・・ですか?」
なんか要件を伝えたらすごく目を見開かれた。あぁ、そういえば美城さんって確かお偉いさんって話だったね。そんな人にこんな帽子被った中学生が訪ねてきたらそりゃ驚くか。っていうか常務ってなに?美城さんの下の名前?
「はい、ちょっとお仕事のことで呼ばれていまして」
「・・・分かりました。ちょっと聞いてみるので少々お待ちください」
ちょっとばかりの疑念の目を向けて男の人はポケットからスマホを取り出して(多分)美城さんに連絡を取ってくれた。しばらくするとまたちょっと目を見開いて数度スマホの向こうの(多分)美城さんとやり取りを行ったあと電話を切った。
「確認が取れました。では、案内するので着いてきてください」
「本当ですか!わざわざありがとうございます」
結局この男の人が案内してくれるみたいなのでこの人の後を着いていくことに。
ちょっと残念だったけど正面の階段を無視して脇に備え付けてあるエレベータに乗り込み、男の人は最上階のボタンを押した。自分的には会社の偉い人は上の方に居るという印象だったので美城さんはどうやら自分が思っていたよりも相当に偉い人だったみたいだ。
その後は男の人と他愛無い会話をしてる内に最上階に到着。そのまま美城さんがいる部屋まで案内してもらった。
「失礼します」
「こんにち・・・えっと、おはようございます」
これまた妙に重苦しそうな木製のドアを開けて中に入るとそこには研いだ刀っていう印象が非常に強い女の人・・・美城さんが立っていた。こういう感じの人って何て言うんだっけ・・・キャリアウーマン?
「ご苦労。君はもう下がっていいぞ」
「では失礼いたします」
幸薄そうな薄目の男の人が部屋から出ていく。と、そういえばお互いに自己紹介してなかったなと何故かこのタイミングで思い出すけど時既に遅し。まぁいいか、とにかく今は仕事に集中しよう。
「改めまして神直御堂です。若輩者ながら当代の神直を務めてさせていただいています。この度は・・・えっと、お仕事って何ですか?」
「おい、そこで諦めるな」
自分にできる限りのお仕事モードでやったけどこれが限界なんですよ、謙譲語と尊敬語の違いが分かっていないくらいだし。とりあえずせめて帽子を取って深く頭を下げておく。
「で、仕事ってなんですか?」
「見た目の割に随分強引に話を進めるな。まぁいい、やってもらいたいのはただのシュレッダーにかけられた紙の修繕だ。ただのと言っていいかどうかは微妙な所だがな」
そりゃあ切れた紙の修繕をその場で出来るのは神直くらいだろうしね、と心の中で苦笑してると透明の袋を美城さんから渡された。いや、袋は別にいい。けど中身が問題だった。
確かにシュレッダーにかけられた紙の修繕と言ってたけどまさか袋の中にパンパンに詰まった短冊状の紙の束を手渡されるとは思ってなかった。
「あの、これをもしかして全部・・・?」
「安心しろ、きちんと報酬は出す。何なら今日のお昼は下にあるカフェで取っていくといい。私が出してやる」
マジですか・・・・