KBSF   作:月見荘

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装飾と誕生日男、あと無茶

 輿水さんのお願いに了解を返して五十嵐さん達の会話に戻ってもらい、自分は考えに耽る。とにかくお祝いの飾り付けをやることが決まったのはいいんだけど、困ったことに問題点がいくつかある。まず初めに五十嵐さんが時間が無いから飾り付けは時間が無いから出来ないと言ったこと。

 そりゃあ当然さっき聞いたみたいだし逆に完璧に出来てますとか言われても、え?どうやったの?って話になる。まさにそれが最初の問題で、きっと自分がやったとしても同じ話になってしまい最悪自身の力がバレる事態になりかねない。

 疑問を持たれるのはどうやったって回避出来ないからそれはもう諦めるにしても、追及に関してはされないように上手い言い訳を考えなきゃだめだろう。

 

 次に、飾り付けをするのは輿水さんと自分だけが担当しなければいけないということ。二人で作業することにさっきの疑問が更に深まってしまうのはこの際仕方がない。なにせ飾り付けには力を使うんだから見られる訳にはいかない。ちなみに輿水さんには監督を務めてもらうつもりだ。自分にはセンスが無いからね。

 

 あとはまぁ紙の都合だけど、これは多分どうとでもなるだろう。いざとなったら美城さんに都合してもらえばいいし。他にも細かい問題点があるけどもうそれについてはもう基本無視で行くことにしよう。"疑問は持たれても力はバレないように"これさえ守れていれば最悪あとは何でもいいってことで。

 

 そうして自分が無い頭をぐるんぐるん回しているとどうやら向こうの四人の話し合いが纏まったらしく響子さんが意気揚々と声を上げた。

 

「それじゃあ皆でお祝い用の買い出しに行こっか!本当は発案した私だけで行くべきなんだけど・・・」

 

「そんなことあらへんよ。響子はん一人で荷物持たせんのも心苦しいしなぁ」

 

「そうそう!荷物は皆で持つものだよ!」

 

 申し訳なさそうにする五十嵐さんに対して小早川さんと姫川さんは優しくフォローする。輿水さんも何か言いたそうにしてるけど自分が残らなければいけないのを理解してくれているんだろう、結局黙ったままだった。

 とにかく飾り付けを提案をするなら今しかないだろう。自分は輿水さんにアイコンタクトを送った。どうやらそれがきちんと伝わったようで、一度こちらに頷いてから輿水さんは存在をアピールするように手を挙げた。

 

「すいません、ちょっといいでしょうか」

 

「どうかしたの、幸子ちゃん?」

 

「はい。ボクとしてはせっかくのCDデビューなので、盛大にお祝いするべきだと思うんです」

 

「それはええ案やけど、どうするん?」

 

「あ、分かった!ケーキ豪華にするとか?」

 

「それもいいですけど、やっぱり飾り付けをするべきだとボクは思うんです!」

 

 突然の提案に驚いた顔になる三人。そりゃそうだろうさっきの会話から時間が無いって聞いてるはずなのにこの発言だ。

 

「う~ん、でもそんな時間無いよ?」

 

「フフーン、分かっています。ですが、ボクにいい案があります。それは・・・」

 

 驚き顔から次いで困り顔になった五十嵐さんを制し、輿水さんはドヤ顔を見せた後自分の方に視線を移した。正直さっきから頭を捻りまくってるのに良い言い訳が思い浮かんできてないんだけど、しょうがない。自分は覚悟を決めて輿水さんからの紹介を待った。

 

「このミスター・バースデーこと神直君が飾り付けを行うことです!」

 

「え?ミスター・・・バースデー?」

 

 そ・・・れはちょっと予想外だよ輿水さん。ほら、姫川さんも小早川さんも微妙な視線をこっちに向けてるよ。あと五十嵐さんにいたっては誰この子と言わんばかりだよ。まぁお互い自己紹介してないから当たり前なんだけど。

 

「はい。実は神直君は飾り付けがすごく上手いんです!それで友達からの誕生日会などに引っ張りだこで、結果このあだ名が付きました!」

 

「え!?本当に!?」

 

 友達も居なければ誕生日会とか一回も呼ばれたことないけどね。あと姫川さん、そんなキラキラした目で見ないでください。なんか自分が騙してる気分になる。

 

「あの、この子は・・・?」

 

「初めまして、自分は神直御堂って言います。輿水さんのクラスメイトで、ここには親戚の仕事を見に来ました」

 

「あ、これはどうもご丁寧に!私は五十嵐響子です、よろしくね!」

 

 意味不明なあだ名を持ったやつにもきちんと笑顔で挨拶を返してくれるあたりは流石アイドルと言ったところだろうか。もしくはこの人の性格が良いか。

 

「それで、あの飾り付けのことで・・・」

 

「あ、大丈夫です。さっきのことは本当ですから」

 

 こうなった以上は仕方ない。どの道どうやっても似たり寄ったりな状況になるんだし、ここはこの流れに乗るべきだろう。恥ずかしくないかはどうかは置いておいてね!

 

「でも本当に時間が無いよ?」

 

「構いません。実はこんなこともあろうかと持って来てるんですよ、飾り付けを」

 

 自分はカバンのチャックを開けそこへ右手を突っ込み、いつも使っている授業用のノートを探した。ちょっと勿体ないけど授業用のノートか何かを輪っかと輪っかを繋げた形に成形して個別に着色すればいいだろう。

 と思っていたんだけど、カバンの底まで手を突っ込んでみても何の感触も無いことにはたと気づく。そうだ、今朝カバンからノートを全部取り出したんだったと。

 

 やばいやばい!紙が無い!あるのはゲーム機と財布だけじゃん!これじゃあの輪っかが作れ…あ、そういえば美城さんから貰ったお金は、確か封筒ごと貰ったはず!

 

 自分は封筒を引っ掴んで中身をカバンの中にぶちまけすぐさま力を使い、それを取り出した。大した長さのものは出来なかったものの、実物さえ見せれば多分大丈夫!と思う!

 

「ホ、ホントだ!」

 

「おぉー!凄い!」

 

「さすがはみすたー・ばーすでーさんやなぁ」

 

 三人共感心やら驚きやら入り混じった反応を返してくれたので、どうやら納得してくれたみたいだ。でも小早川さん、そう呼ぶのは止めてくれないかな。そんなおっとりした雰囲気からそんな苦笑必至なあだ名を呼ばれるとなんか余計ダメージが・・・

 

「ま、まぁそんな感じなんで、飾り付けは任せて下さい。ただ自分だけだと味気ないものになるし、悪いけど輿水さん、手伝ってもらっていいかな?」

 

「ボクなら構いませんよ。じゃあすぐに準備しましょうか。事務所はこっちです、着いてきて下さい」

 

「あ、ちょっと待って!二人で大丈夫?私も手伝おうか?」

 

 気を取り直しつつ、ついでに輿水さんを連れ出す算段をつけ自分たちはその場から離れようとするが、五十嵐さんから待ったがかかる。まぁそうなりますよね。

 でもこれは予想出来ていたことなので自分は五十嵐さんに向き直り、帽子を深く被りなおした。

 

「すいません、実は自分人見知りで、あまり知らない人と作業するのはちょっと・・・。なので皆さんは買い出しに行ってきてください」

 

「あ!ご、ごめんね、気が利かなくて!」

 

 心底申し訳なさそうにする五十嵐さんに良心をガリガリと削られるけど我慢、我慢だ。自分はごめんなさいの意味も込めて軽く頭を下げて、改めて輿水さんと一緒に事務所へ向かうことにした。 

 

 

―――――――――――

 

―――――――

 

――――

 

 

「はい、ここがボク達の事務所ですよ」

 

「お邪魔します」

 

 輿水さんに案内され事務所にたどり着いた自分は部屋の中へと足を踏み入れた。数人が座れるソファーがいくつかにそれに見合ったテーブルがある以外は特に目立った点が無い普通の事務所って感じだ。いや、普通の事務所がどんなもんか自分自身知らないけど、これが一般的な事務所のスタイルなんだろうな。

 

「そういえば自分がここに入る前に男の人が出てったけど、あの人は?」

 

「プロデューサーさんです。さすがはプロデューサーさんからの信頼厚いボクですね、ボクの一声で出て行ってもらいました!」

 

「へぇ、そうなんだ・・・」

 

 外から聞いていた分には輿水さんがちょっと用事があるので出てってくださいの一点張りでプロデューサーさんが渋々出てった感じがしたけど、それを言うのは野暮なんだろう。部屋から出て来たときの困惑した顔と自分を見たときの驚きの表情に同情を禁じ得なかったよ。

 

「とにかく始めますか。肝心の紙はある?」

 

「コピー用紙がありますが、これでも大丈夫ですか?」

 

「大丈夫大丈夫。それを使わせてもらおっか」

 

「それで、最初は何を作るんですか?」

 

「横断幕かな。輿水さんにも手伝ってもらわなくちゃならないことあるし」

 

 紙の確保が出来たので、スマホで横断幕のデザインの画像を検索し、帽子を外して準備に取りかかる。今回の主役は三人だしちょっと大きめに作るとして、まずはベースとなる横長の長方形の紙を作らないといけない。

 自分は輿水さんからコピー用紙を受け取ってそれを縦に4枚、横に7枚、事務所の床に隙間が無いように並べて紙同士の繋ぎ目に触れ、それらをくっつけた。

 

「破れてなくても紙をくっつけることは出来るんですね」

 

「正直やってることはどっちも同じだからね。それでデザインなんだけど、この中から選んで」

 

「この中からとなると・・・この風船がいっぱい飛んでるのがいいですね」

 

「了解」

 

 次にどんなデザインの横断幕にするかなんだけど今回は時間が無いから、検索結果で出てきた画像の中から輿水さんに選んでもらった。その選ばれた画像を参考にして自分は横断幕の外側に風船を力で書き写し、風船を個別に着色していった。

 それと同時に横断幕の中心より下の方に"CDデビューおめでとう!!"と自分なりに出来るだけポップな感じになるように文字を書いた。

 

「こんな感じでいい?」

 

「はい、結構いい感じになりましたね。さすがはボクのセンスで選んだだけはあります!しかし、本当に一瞬で出来てしまいましたね・・・」

 

「これくらいなら神直なら誰でも出来るよ。それで後はこの文字の上に誰々の名前を書けばいいんだけど、それは輿水さんの手書きでお願い」

 

「ボクの手書きでもいいんですか?」

 

「むしろそうじゃないとダメなもんなんじゃないの?よく分かんないけどさ、こういうやつって気持ちが大事って言うし、輿水さんへはともかく、他二人には特にお祝いの気持ちが籠ってない自分が全部やると味気無くない?」

 

 たまに先代の仕事、取り分け手紙の修繕を手伝う時によく言われている。こういうのはただ紙を直してるわけじゃない、手紙送った人の気持ちを直しているんだって。

 今回の場合はちょっと状況は違うけど、それに通じるものがあるのでそうかと思ったんだけど違ったかな?なんか輿水さんもキョトンとした顔をしてるし。

 

「・・・ま、まぁ神直君がそういうなら仕方ないですね!このボクが二人のために名前を書いてあげましょう!」

 

「そ、そう?じゃあお願い。あ、それと別に黒ペンで書いてもいいよ。色を変えたかったら後で自分が変えるから」

 

 何か輿水さんが急にやる気になった。もしかして違ってなかった?

 

「それで、ボクの名前は神直君が書いてくれるんですよね?」

 

「うん。自分で良ければだけど」

 

「ではボクの名前はお任せます。ボクの名前にはご利益があるので、きっと神直君には幸運が舞い降りますよ!」

 

「あはは・・・」

 

 あぁ、名前に"幸"って付くからね。自分は曖昧な笑顔でそれを返して、コピー用紙を輪っかの飾りを繋げたやつに変える作業に取り掛かった。

 そして何個かの飾りを作り終えた時に、一瞬めまいが起こりふらついてしまった。

 

「・・・とと」

 

「あの、神直君、大丈夫ですか?」

 

「え?あぁうん大丈夫、何でもないよ!」

 

 どうやらふらついた所を輿水さんに見られてしまったようだ。危ない危ない、さっきから倦怠感が重くなって来たし、もうそろそろ限界っぽい。とにかく早く済ませよう。

 自分は疲労を押して輪っかの飾りを急ピッチで作り上げてそれを天井と壁に事務所にあったセロハンテープで貼り付け、横断幕以外の飾り付けを終わらせた。

 

「はぁ・・・。あとは横断幕だけだけど、そっちはどう?書けた?」

 

「書けましたよ。後は色変えとボクの名前をお願いします」

 

「そっか。じゃあペン貸してちょうだい」

 

「あれ?力で書かないんですか?」

 

「気持ちについて偉そうに語っちゃったからね。真心込めて書かせていただきます」

 

 自分は冗談めかしてそう言ってペンを受け取って、微妙に揺れる視界を抑えて出来るだけ丁寧に輿水さんのフルネームを書き上げた。

 その後輿水さんの指示通りに文字の色を変えて、最初に書いた"CDデビューおめでとう!!"の文字を多少手直しして完成した横断幕を壁に貼り付けた。

 

「完成です!うんうん、やっぱり飾り付けがあると無いとでは大違いですね!神直君、本当にありがとうございます!」

 

「どういたしまして。じゃあ自分は皆が戻ってくる前に帰るよ」

 

 輿水さんからお礼の言葉ももらったしもうここに用は無くなったので帽子を被って、カバンの紐を肩にかけて退室しようとすると、ひどく驚いた声が自分にかかった。

 

「え!?ボク達のお祝いに参加しないんですか!?」

 

「うん、あの三人だけじゃなくて他にもいっぱい来るんでしょ?それはちょっと居辛いというか。ごめんね、じゃあ」

 

「あ、ちょっと待・・・!?」

 

 強引に話を切り上げて事務所を退室しドアを閉めて静止の声をシャットアウトする。輿水さんには非常に申し訳ないけど、こっちも本気でやばくなってきたので帰らせてもらうことにしよう。

 

(というか、これはちょっと本当にまずいかも・・・)

 

 作業を終えて気が緩んだのか倦怠感がグッと重くなった気がする。いつだかインフルエンザに罹った時みたいだ。いや、それよりももうちょっと酷いかもしれない。

 

(とにかく、美城さんの所に行こう。帰ることを伝えとかないと)

 

 重い体に鞭を打って、人とすれ違わないように祈りながら壁を支えにしながら美城さんの元へと歩き出した。




※お祝い後、片付けの最中の一幕

響子「でも本当にビックリしたよね。私たちが帰ってくるまでに飾り付け全部終わらせちゃうんだもん」

友紀「だよね!あのあだ名は伊達じゃないってことかー」

みりあ「なになに、何の話?」

友紀「あ、みりあちゃん。実はね・・・」

みりあ「わー!この輪っかの飾り、のりで繋げた跡が無いよ!どうやって作ったの?」

響子「あれ?確かに。これ、一体どうやって・・・」

 神直痛恨のミス&事務所七不思議入り

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