「おはよう輿水さん」
「あれ、神直君?風邪はもう大丈夫なんですか?」
「うん、おかげさまで」
次の日、無事に快復した自分はいつも通りに登校して、既に席に着いていた輿水さんへ挨拶をする。こちらを気にかける言葉が返されたけど、風邪で休んでいた訳じゃないから一日安静にしてれば治ったので心配はいらない。
あれ、でもよく考えたらご飯食べずに寝てばっかりだったら治らなかった可能性がある?だとしたら輿水さんには何かお礼しないと。
でもあれだ、女の人に何を送ればいいかなんて全然分かんないな。CDデビューのお祝いも考えてないし、いっそ何が欲しいか直接聞いた方が早いかな。うん、せっかくだし聞いとこう。
「あ、そうだ輿水さんって何か欲しいものある?」
「え?どうしたんですか、突然」
「あ、いや、ごめん悪い癖が出た。訂正させて」
自分の席に着いてすぐに出た言葉に自己嫌悪する。聞くのはいいけど聞き方ってもんがあるでしょうよ。出会って数日の友達に突然欲しいもの聞かれても困るに決まってるだろうに。
「昨日のお礼と一昨日のお祝いをしたいからさ、何か欲しいものとかは無いかなって」
「なるほど、そういうことでしたか」
自分がそう説明すると輿水さんは納得したように頷いた。ではと自分が聞く体勢に入ると、なぜか輿水さんはやれやれと今度は呆れたように首を振った。
「まったく、乙女心が分かっていませんね神直君。お祝いに何か贈り物をする時はサプライズでするべきですよ」
「えーっと?つまり自分で考えてやれと?」
「そういうことです。ボクの事をよく知って、ボクの気に入るものをプレゼントしてください」
え、何その無理難題。この世にあるかどうかは別にしてまだ具体的な品を注文してる分かぐや姫の方がまだましなんじゃないかと思えてくる。
「あ、ですが昨日のお礼に関しては気にしなくていいですよ。それは飾り付けをやってくれたこちらからのお礼ということなので」
「うーん、どーするか・・・」
「って、聞いてませんね・・・」
輿水さんが何か言っているみたいだけどサプライズという言葉が自分の中でグルグルと回っていて耳には入るけど頭には入らない。しかしサプライズ、サプライズかぁ・・・あ、そうだ。
「輿水さん、ちょっといい?」
「何でしょう?」
一旦周りを見渡してまだ登校しているクラスメイトが少ないのを確認してから、ちょいちょいと手招きをして輿水さんに椅子ごと近くまで寄って来てもらう。それから自分はカバンの中から数学のノートの最後とその前のページを破って、それをまとめて両手でくしゃくしゃに丸めて出来るだけ周囲に見られないように自分の机の下に両手を持って行ってそこでギュっと紙を強めに握りこんだ。
「その紙をどうするつもりなんですか?」
「まぁ見てて」
輿水さんには自分が力を使ったのが分かったみたいだけど本番はここからだ。頭に浮かんだ完成図のイメージを紙に反映させるためにちょっとの間集中する。
そうしてある程度できた完成品を両手で隠したまま輿水さんの目の前に持っていって、出来上がったそれを着色しつつ形を整えて両手を開いた。
「これは・・・宝箱、ですか?」
手の中で作っていたのは手のひらサイズの小さい宝箱。細かい装飾まで覚えていないから赤と金縁だけになってしまったけど、形のモデルはド〇クエに出てくるやつにした。
「開けてみて」
「む、虫とか入ってないですよね?ねぇ?」
「入ってないよ!?そもそも今の一瞬じゃ用意してない限り無理だから」
何でだろう、予想外にすごい怖がられた。過去に宝箱を開けたら虫が飛び出してきた、とか普通に生きてきてしないような経験でもしたことがあるのかな?
とにかく何であっても開けて貰わないと埒が明かないので自分はずずいと宝箱を更に近づけるように差し出した。
「分かりました。じゃあ開けますけど、何か飛び出したら恨みますからね!」
「あ、ちょっとま・・・」
「うにゃ!!」
やばいと思った時には遅くて、輿水さんは自分の手から宝箱を取って開けてしまった。虫こそ飛び出しはしないけど、宝箱の中からは圧縮されていた紙のバネが飛び出してそれと同時に小さく丸めた紙が発射されて輿水さんの額に直撃した。
「ちょっと!やっぱり何か仕掛けてたんじゃないですか!ボクのカワイイ顔が傷物になったらどうするつもりですか!」
「いや、でも紙だからそんなに痛く・・・いや、ごめんなさい」
紙が直撃した部分を擦って宣言通り恨めし気な顔をされる。さすがにこれは自分は悪くないと思いつつも謝っておく。だって虫じゃないからセーフだと思ったんだもん。
「それで、結局何だったんですか?」
「それそれ、地面に落ちてる紙」
「これですか?」
輿水さんの額に直撃した後に地面に落ちた丸まった紙を拾い上げてそれを広げてもらう。
「・・・何も書いてませんが?」
「そのまま端っこの方持っててね」
くしゃくしゃの紙を見て不思議そうにする輿水さんを制して自分は右手を横に倒して紙の上にかざし、輿水さんの左手の方から右手にかけてゆっくりと力を使いながらなぞっていく。
自分の手が通り過ぎた所から紙のしわが無くなっていき更に色が変わっていく。そして輿水さんの右手までたどり着いたらなぞった部分よりもより時間をかけて、頭に浮かんだそれを少しだけ変えて反映させ、自分は紙から手を離した。
「はい出来上がり」
薄いピンク色をベースに紫色の文字で"輿水さんCDデビューおめでとう!!"と書いて、対面に座る自分から見て紙の左上に笑顔を浮かべた輿水さんを自分なりにデフォルメにして絵を描いた。ちなみに顔だけしか書いてないよ。全身とか無理です。
正直に言って一昨日の横断幕の一人バージョンになっただけだけだし、自分にセンスが無いせいでシンプルなデザインになってしまったから出来で言えばそうでもない方だろう。いや、前と同じで風船でも入れようかなと思ったんだけどね。同じだと芸がないかなと。
「デとビが左右逆になってますね」
「ん?うわ、ごめん!すぐ直すから!」
自分自身に言い訳していると輿水さんから手痛い指摘を受けた。確かによく見るとデとビがあり得ない方向を向いていた。輿水さんからはちゃんと見えるように自分とは逆向きに書いたわけで、これが難しかった。
結構注意を払いながら文字を書いたんだけどミスをしたなら仕方ない。出来上がった後からの修正なんてちょっとかっこ悪いけど、直させて貰おうと思って手を伸ばすと、なぜか輿水さんは自分から紙を遠ざけた。
「あの、さすがに触れないと自分でも直すの無理なんですけども」
「このままでいいです」
「え?なんで?」
「なんでもです!いやー、人のミスを許すなんて、ボクの懐の深さと言ったら留まる所を知りませんね!」
「いや、そのミスを修正したいんだけど」
「ダメです」
そう言って手を伸ばすけどやっぱり遠ざけられる。なんでだろう、これが噂の乙女心とでも言うんだろうか。
「まぁ本人がいいならそれ以上どうもしないけど。それよりもこのサプライズはどうだった?」
「え?あー、そのー・・なんだか悔しいのでダメです」
なんでや。
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(うーん、分っかんないなー・・・)
放課後、今日一日答えの出なかった問題について再び頭を捻って考えてみる。今朝のあれが何がダメだったかそこを解決しないことには先に進まない。
まず一昨日の横断幕では重要な部分は手書きでやってたし、輿水さんの(多分)トラウマを刺激したし、何よりネタが使い回しっていうのが気に入らなかったんだろうか。
それにあの最後の致命的なミス、あれが一番ダメだったんじゃないだろうか。そう考えると直させて貰えなかった理由もなんとなく分かる。多分・・・
「どうせ後で破り捨てるので直す必要はありません!」
ってことに違いない。どうしよう、泣きそう。
そうして落ち込み具合を隠そうともしないで机に突っ伏していると、隣の席から声がかかった。
「何してるんですか?行きますよ」
「行くって、どこに?」
「どこにって、帰るに決まってるじゃないですか」
「あぁ、そういうこと」
自分は席から立ち上がって机の横に付いてあるフックからカバンの紐を取って肩にかけた。確かにここであれこれ考えてても仕方ないし、こういう時は帰ってお風呂に入ってスッキリしたほうが返って思いつくもんだろう。
そう考えてスタスタと教室から立ち去ろうとすると突然制服の襟を後ろから掴まれた。
「っんぐ・・・!」
「ちょっと、何勝手に一人で行こうとしてるんですか」
「だって帰るんでしょ?」
「まったく、鈍いですねぇ。ボクの下校をエスコートさせてあげると言ってるんです。ほら、行きますよ」
「あの、輿水さんと自分の帰り道って全然別方向だよね。そもそも出る門が全く別で・・・」
そう自分が抗議するも、輿水さんは聞く耳持たずに自分追い越して今度は袖を掴んで引っ張り始めた。なるほど、強制だねこれ。今日はちょっと帰るのが遅くなるな。
自分は諦めて歩く速度を速めて輿水さんの隣まで歩いてから歩幅を合わせて速度を緩めた。
(いや、これはある意味チャンスなのでは?)
そうだ、この際輿水さんの趣味とか好きな物とかをそれとなく聞き出してそれをお祝いの品にするというのはどうだろうか。と、そこまで考えてこの案に重要な欠点があるのに気づいてしまった。
それとなく聞き出すのってどうやるの?
「それで、決まりましたか?ボクへの貢物は」
またしてもうんうんと悩んでいると輿水さんがそう尋ねてきた。なんかお祝いの表現が変わってる気がするけどここはスルーして普通に答えよう。
「決まってないよ。何かもうゼリーかタオルでいい?」
「お中元になってるじゃないですか!そんなのダメです、ボクのためにもっと真剣に考えてください!」
普通じゃなくてちょっと冗談を言ったら盛大にツッコまれてしまった。でも一応真剣には考えているんだよ?答えが全然でないけど。
「まぁ今すぐに結論を出せとは言いません。ボクのミニライブまでに間に合わせてくれたらそれで構わないですから」
「ちょっと待って、ミニライブって何?」
何やら聞きなれない単語が飛び出してきた。いや、意味は知ってるよ。あれでしょ?歌手とかバンドとかアイドルとかが大きい舞台でやるやつでしょ?武道館とかさ。
それにミニが付いてるってことは比較的小さい所でライブをやるってことになるんだろうか。どこでやるんだろう。
「あれ?知らなかったんですか?まぁいいです。ボク達のCDの発売に合わせて宣伝の一環として東京のデパートでライブをすることになったんです」
「へぇー、そうなんだ」
それは初耳だったけどまぁいいや、とりあえず場所が分かって良かった。後は日付が分かればその日は東京のデパートに近づかないようにしよう。と思っていると輿水さんが微妙な顔になった。
「なんかあんまり興味無さそうですね。もしかしてこのボクの晴れ舞台に来ないつもりですか?」
「いや、そういう場所に同級生が居るのって輿水さん的に恥ずかしいんじゃないかなって思ってたんだけど」
「そんなことないです。同級生だろうとボクのライブに来てくれた人は必ずファンになりますからね。ボクのカワイさを伝える人は一人でも多い方がいいに決まっています。だから・・・」
と、そこで輿水さんは一旦区切って、隣で歩いていた自分の方を見上げた。
「絶対に来てくださいよ。必ずですよ!」
「あ、はい。行かせていただきます」
まぁ本人が別に気にしないっていうなら自分も行くのはやぶさかじゃない。何だかんだで輿水さんがどんな曲を歌うのか気になるし。輿水さんの性格を考えたら何かネタ曲になりそうな予感がする。
「それでライブの日時ですが、忘れられても困りますし・・・ちょっとスマホ貸してください」
「いいけど、何するの?」
突然スマホを要求してきたけど、特に突っぱねる理由もないのでロックを外してから輿水さんに手渡した。それから何やらポチポチといじったかと思うと。
「す・・・少ないですね」
と、どうあがいてもマイナス要素しかない言葉を吐かれた。
「はい、これでオーケーです」
スマホを返してくれたのでそれを受け取って画面を見てみる。そこにはL〇NEのトーク画面が映っていて、前までは先代としか無かったトーク相手の下に"輿水幸子"が新しく追加されていた。
あぁ、少ないってそういう・・・
「ライブの日時は後でそこに送るので確認してください」
「うん、ありがとう」
「フフーン、それにしても神直君は運が良いですね。未来のトップアイドルの連絡先を知っているファンはプロデューサーさんを除いてあなた一人だけなんですから!」
「うん、ありがとう・・・」
ファンって言われると・・・そうでもない気がする。そもそも輿水さんのアイドル活動をまだ見たことが無い。
「では、ボクはこの辺で失礼しますね」
「え、あぁ、家の前まで来てたんだ」
何か終始振り回されっぱなしで全然気づかなかったけど、どうやらいつの間にか輿水さんの家まで歩いてきていたようだ。輿水さんは門を開けて手持ちの鍵をドアに差し込みロックを外して玄関を開けて中に消えていった。
と、思ったらまたドアを開けて体半分だけ外に出して声をかけてきた。
「今日の神直君のエスコートは全然ダメダメでした。なので完璧になるまで明日からもボクが特訓してあげますので、そのつもりでいてください。それでは」
一方的にそう言うと今度こそ輿水さんは家の中に消えていった。つまり何だ、明日からも一緒に下校しろってことですか。
本当に乙女心っていうのはよく分かんない。
神直御堂① 絵が上手?
幸子「意外でした。神直君って絵が上手だったんですね」
御堂「・・・輿水さん。頭で思うのと、それを手で描くのとでは全く別物なんだよ」