やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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今回の話の中で、真白、納沙、立石、西崎の四人に女子高生らしからぬ行為があります。

四人のファンの方には申し訳ございません。



99話

 

 

横須賀女子海洋学校は、他国の海洋学校からの留学生を受け入れているのは勿論の事、日本全国からも沢山の学生たちが受験してくる。

 

そして見事、横須賀女子に受かった学生たちは、入学後は基本的に学校が設置した学生寮に入寮する。

 

その理由は、学生艦による海上生活では、集団生活・集団行動が基本となるからだ。

ただ、休日や長期休暇の際には家が近い生徒は実家に帰省したりしている。

 

実家が横須賀にある真白も平日は基本的に学校の学生寮に居り、休日には実家に帰ったりしている。

 

しかし、この日‥‥シュテルがららぽーとでカナデと共に由比ヶ浜に絡まれている頃、真白は実家には帰らずに学生寮に残っていた。

 

そして、真白は学生寮にある明乃の部屋で屯していた‥‥と言うよりも宿題を明乃に教えていた。

 

やはり、四月に起きたRat事件の影響でカリキュラムに大きな影響を与え、事件後の課題の量も多かったのだ。

 

真白と明乃が宿題をしていると、

 

「艦長、居ますか?」

 

「あっ、ココちゃん。どうしたの?」

 

納沙が明乃の部屋を訪れた。

 

「実は宿題について‥‥あっ、シロちゃんも居たんですか!?」

 

「納沙さんも宿題でどこか分からなかったのか?」

 

「はい!!あっ、折角ですから、私もご一緒していいですか?」

 

「うん、勿論だよ」

 

すると、明乃に何か用があったのか、納沙も部屋に来て二人と共に宿題をすることにした。

 

真白の教えもあり、明乃も納沙も宿題を何とか無事に終えることが出来た。

 

「流石、優等生のシロちゃん!!あっという間に終わっちゃいましたね!!」

 

「うん、シロちゃん教え方も分かりやすかったから助かったよ」

 

「シロちゃん、教職の才能があるんじゃないですか?」

 

「私はあくまでもブルーマーメイドを目指しているから、教官職になるつもりは‥‥」

 

未来のブルーマーメイドたちの育成を担う教官職も立派な職業であるが、やはり真白は教官職ではなく、ブルーマーメイドの隊員になりたかった。

 

「あっ、宿題も終わったし、お茶会しない?シロちゃんには宿題を教えてもらったし、そのお礼も兼ねて‥どうかな?」

 

「いいですねぇ~」

 

「ま、まぁ、頭を使って少し疲れましたし‥‥」

 

宿題を終え、明乃がお礼としてお菓子とお茶を二人にご馳走し、お茶会が始まる。

お茶会が始まりしばらくして‥‥

 

「‥‥あっ、そう言えば以前、どぶ板通りの食堂で、知床さんが勝田さん、山下さん、内田さんたちと一緒に食事をしていた所を見たんですよ」

 

真白が思い出したかのように話題を振る。

 

「へぇ~」

 

航海科の鈴が同じ航海科のクラスメイトと一緒に食事をするのは、別に変ではない。

 

入学したばかりの頃では、互いに同じ科でも、他県、他校からの入学生ばかりで人見知りなところがある鈴はきっと一人で食事を摂っていただろうが、あの航海を経験した鈴はクラスメイトたちとは平気でコミュニケーションを取れるまで成長していた。

 

「それで、鈴ちゃんがどうしたの?」

 

「ええ、その時、知床さんは、魚系の定食を食べていました‥‥」

 

真白が言うには、鈴は航海科メンバーと食事をしていた時、魚の定食を食べていたと言う。

 

「この時、私はうどんを食べていました」

 

鈴は魚の定食を食べていたが、真白はうどんを食べていたと明乃と納沙に教える。

 

「いえ、別にその情報はいらない様な‥‥あっ、でもシロちゃんとのお食事でしたら、一向に構いませんよ」

 

納沙は別にその時、真白が何を食べていたのかはいらない情報だと言う。

そして、さりげなく真白と一緒に食事会をしたいとも言う。

 

「それで、どうしたの?」

 

明乃は話の先が気になる様子で真白に話の続きを求める。

 

「知床さんたちは私よりも先に来ていたので、私よりも早くに食べ終わり、席を立っていきました‥‥ただ‥‥」

 

「「ただ?」」

 

「‥‥ただ、綺麗に平らげられた知床さんの皿には‥‥」

 

「さ、皿には‥‥?」

 

「‥‥」

 

話のオチを待つ明乃と納沙は思わず生唾をゴクリと飲む。

 

「何故か箸が、三本置いてありました‥‥」

 

「「っ!?」」

 

真白の話のオチを聞いて、明乃と納沙は、ビクッとした反応をとる。

 

「シロちゃん、いきなり怖い話をしないで――――!!」

 

「まさか、シロちゃんが怖い話をしてくるなんて予想外です!!」

 

話しのオチを聞いた明乃と納沙は互いに抱き合いながら真白が話した鈴の話が怖い話だと言って騒ぐ。

 

「‥‥怖いか? この話?」

 

真白はこの話のどこに恐怖要素があったのか理解に苦しんでいる様子。

 

「私が体験した怖い話はですねぇ~……」

 

「いや、怖い話大会じゃないんだが‥‥」

 

真白に続き、納沙が怖い話をし始めた。

 

しかし、真白は決して怖い話をしたわけではなく、どうして鈴の皿には箸が三本あったのか、その意見を聞きたかったのだろう。

 

それ以前に、真白は怖い話が苦手で、初めての航海の時、納沙が夜、艦橋で怪談話をした際、ビビっていたが、今は夜ではなく、太陽が昇っているので、ビビってはいなかったのだ。

 

真白は鈴が残した箸の謎を明乃と納沙に意見を聞きたかったのに、納沙はそんな真白の心理を知る由もなく、話し始める。

 

「実は、先日お風呂場で洗顔フォームを使って、顔洗っていたんですけど‥その時、私は結構勢いよく両手で洗っていたんです‥‥」

 

回想の中で、納沙がお風呂場で、洗顔フォームを使って両手で顔を洗っていると、

 

「そしたら‥‥」

 

「「そうしたら?」」

 

「‥‥そしたら、『ザックン』って音が脳に響き渡りまして‥‥」

 

「「えっ?」」

 

脳内で回想中の納沙の右手の薬指が勢いよく鼻の穴の中へと挿入された。

納沙の話をここまで聞いて、明乃と真白の表情が一気に強張っていく‥‥

 

「うわぁ~……やっちゃったぁ~……って思って鼻血がポタポタと落ちてきたんですよ‥‥」

 

「「‥‥」」

 

「ところが‥‥二、三秒ほど血が流れたところでピタッと止まりました‥‥鼻の中にもう血はなく痛みもなく結局‥‥もう何も起こる事はありませんでした‥‥」

 

「‥‥」

 

「‥‥納沙さん、それって、怖い話じゃなくて、痛い話じゃあ‥‥」

 

明乃は納沙が言った事を想像してしまったのか、顔色が悪い。

 

そして、真白は納沙に対して、冷静にツッコム。

 

晴風の初航海の夜に、納沙は稲川〇二の様に艦橋員たちに怖い話を披露していたのに、今回は怖い話と言う趣旨を逸脱して、痛い話になった。

 

もしかしてあの時、怖い話をやり過ぎてネタが尽きたのだろうか?

 

しかし、明乃も真白も彼女の怖い話全てを聞いたわけではないのだが、納沙としては一度した話を再び話すのはプライドが許さなかったのだろうか?

 

「じゃあ、次は私だね」

 

真白、納沙が話したので、次は明乃の番となる。

 

「いや、だから怖い話じゃなくて‥‥」

 

真白が明乃にそもそもの発端である鈴の箸の意見を聞きたかったので、ツッコムが明乃はそれに気づかずに話始める。

 

「私が体験した怖い話はねぇ~‥‥この間のゴールデンウイークに、もかちゃんとシューちゃん、私の三人で、すき焼きを食べたの‥‥で、その時にシューちゃんがビールを持ってきて、みんなで飲んだんだ」

 

明乃は先日のすき焼きパーティーの時に起きた出来事を話す。

 

「えっ?ビール!?」

 

「艦長、アルコールを飲んだんですか!?」

 

「あっ、勿論、ノンアルコールビールだったよ」

 

『ビール』と言うアルコール飲料の単語を聞いて、ドキッとする真白と納沙。

そんな二人に明乃はアルコールではなく、ノンアルコールだとちゃんと説明する。

 

「って、言うか、碇艦長と一緒にすき焼きを食べたんですか!?」

 

明乃がシュテルと一緒にすき焼きを食べたと言う点に真白が食いつく。

 

「う、うん」

 

「どうして、私を誘ってくれなかったんですか!?」

 

「ご、ごめん。あの日は福引で当たったスポーツジムの体験に行ったから‥‥」

 

「それで、どうなったんですか?」

 

納沙が明乃に話の続きを促す。

 

「で、三人でノンアルコールビールとすき焼きを食べていたんだけど、もかちゃんが沢山お肉を食べちゃって、ご飯が終わった後、青い顔しちゃったの‥‥」

 

「きっと食べ過ぎでしょう」

 

「ノンアルとは言え、ビールなんて、慣れない飲み物を沢山飲んだせいでは?」

 

「うん、多分そうだと思う。シューちゃんが良いお肉を沢山買ってくれたからね。それに、もかちゃん、ノンアルビールもガブガブ飲んでいたし‥‥」

 

「えっ?艦長、なんで私を誘ってくれなかったんですか!?」

 

良い肉を使ったすき焼きと聞いて、納沙も真白同様、自分も食べたかったと不満をぶちまける。

 

「それで?知名艦長は大丈夫だったんですか?」

 

真白は、もえかは無事だったのかを訊ねる。

 

「私がお手洗いまで連れてって介抱したんだけど‥‥その時、もかちゃんの吐瀉物の中に何か動くモノがあってね‥‥」

 

「「えっ?」」

 

明乃が言い放った 『吐瀉物の中に居た動くモノ』 と言う単語にピキッと固まる真白と納沙。

 

「動くモノ‥‥?」

 

「一体何だったんですか?」

 

聞いてはいけないと思いつつも二人はその動くモノの正体が知りたくなり、明乃に訊ねる。

そして明乃はゆっくりと動くモノの正体を口にする。

 

「それがさぁ~‥‥なんと小さなムカデだったんだよ!!」

 

「「っ!?」」

 

一瞬にしてその場の空気が固まった。

明乃の言葉が真白と納沙の中で何かが崩れる音がした。

 

「あれって、人を怖がらないから寝ている時に口から中に入っちゃうんだって、昔、施設の人に聞いたことがあるんだよ。だから、みんなも夜寝る時には気をつけてね」

 

明乃は笑みを浮かべながら、養護施設の職員が話していたムカデの知識を真白と納沙に教える。

 

「はい、じゃあ、次はまたシロちゃんの番ね」

 

明乃が一周したので、次は再び真白の番であると真白に次の話を促すが、

 

「ちょっと待って‥‥」

 

「こ、この話はここまでにしてきましょうか‥‥?」

 

真白と納沙はスッと立ち上がる。

 

「えぇ~‥‥」

 

明乃は不満そうな声を上げる。

折角、盛り上がってきたのに、いきなり中断されて不完全燃焼なのだろう。

 

「私、ちょっとトイレ行ってきます」

 

「わ、私も‥‥」

 

二人は明乃の部屋を出てトイレに向かう。

 

ダートマス校の学生寮は部屋にトイレ、バスルームが完備されていたが、横須賀女子の学生寮はお風呂とトイレは部屋の外で共同となっていた。

 

「本当に‥‥?」

 

「マジですか‥‥?」

 

フラフラした足取りでトイレに向かい、トイレの扉を開けると、

 

「「おええええええええええええええぇぇ―――――!」」

 

個室の中で誰かが吐いている声が聞こえた。

 

「タマ、居た?」

 

「‥‥いな‥い」

 

声からしてトイレの中で吐いているのは西崎と立石みたいだった。

 

「砲術長と水雷長‥‥」

 

「どうやら二人も聞いていたみたですね」

 

西崎と立石も明乃のムカデの話を扉越しに聞いていたみたいだ。

だからこそ、二人はトイレで吐いているのだろう。

 

「シロちゃん、私たちも確かめますよ」

 

「あ、ああ‥‥」

 

真白と納沙の二人もトイレの個室に入ると、

 

「「おええええええええええええええぇぇ―――――!」」

 

指を喉の奥に突っ込んで、無理矢理吐き始める。

そして、それを影から見つめる明乃の姿があった。

 

「今更作り話とは言いづらいなぁ~‥‥」

 

明乃が真白と納沙の二人に話したムカデの話は嘘だった。

 

そもそも、あのすき焼きパーティーの時、もえかは気分を悪くしていない。

 

しかし、その真相を知るのは明乃とシュテル、そしてもえかの三人だけ‥‥

 

真白、納沙、西崎、立石の四人が明乃の話を信じるのも無理はなかった。

 

「いた?」

 

「いや、いない!」

 

「タマは?出た?」

 

「でな‥い‥‥」

 

「「「「おええええええええええええええぇぇ――――!!」」」」

 

四人は居もしないムカデを探す為、胃の中のモノを吐き続けていた。

 

明乃自身も四人があそこまで自分の話を信じるとは思ってもみなかったので、トイレで吐いている彼女たちに真実を教えることが出来なかった。

 

 

 

 

真白、納沙、西崎、立石の四人が明乃の話を信じ、居もしないムカデをトイレで吐きながら探している頃、千葉県の南船橋にあるららぽーとにカナデと共に訪れていたシュテルは‥‥

 

総武高校二年生であり、奉仕部の部員である由比ヶ浜結衣に絡まれると言うイレギュラーな出来事があったが、彼女があまりにも店内でギャーギャーうるさく騒ぐ為、警備員に連れていかれると言う自業自得な結果となった。

 

それから、二人はカナデの目的であったシュテルのヴァイオリンとのセッションをすることが出来た。

 

ただ、二人にとって予想外だったのは二人の演奏を聴いて沢山の人が集まった事だった。

 

つまり、二人の演奏はそれほど沢山の人たちを魅了していたのだ。

 

セッションを終えた二人は、まだ時間があるので帰ることなく、ららぽーとのテナントを見て回ることにした。

 

なお、この時シュテルの服装はあの服屋で買った服装で、最初に着ていた服は服屋の店員が綺麗に折りたたんで大きめの袋の中に入っている。

 

ヴァイオリンと服を持って歩くのは文字通り、荷が重いのでシュテルは服が入った袋とヴァイオリンはコインロッカーに入れて、手ぶらの状態でカナデとららぽーとの店内を見ている。

 

昼食は、シュテルのリクエストでららぽーとの中にあるサイゼリアに入った。

 

 

「なぁ、カナデ」

 

店内を歩いている時、不意にシュテルはカナデに話しかける。

 

「ん?なに?」

 

「服屋で騒いでいたあの女には注意しろ」

 

そして、カナデに由比ヶ浜に注意するように警告する。

 

「えっ?」

 

すると、カナデはキョトンとする。

 

「あの女の話を聞くと、以前お前さんがあの女の犬を助けたみたいだが‥‥」

 

「えっ?ああ‥随分前に車道に飛び出した犬を助けたことがあったけど‥‥あの人の話を聞いて思い出したよ」

 

カナデは由比ヶ浜との出会いを思い出す。

 

「あの女は、愛犬を助けたお前さんの事を運命の人‥‥白馬の王子様だと思い込んでいるみたいだ‥‥だが、アイツは自分の都合のいい事しか聞こえていない‥‥」

 

前世での由比ヶ浜との経験から、カナデに彼女の人となりをカナデに教える。

 

「お前さんの事を運命の人なんて言っているが‥‥まぁ、お前さんは顔が良いからかもしれないが、本質は恋に浮かれている自分に恋しているナルシストな部分もある」

 

「随分とあの人に詳しいようだけどシュテルは、もしかして、あの人と知り合いなの?」

 

カナデはシュテルが由比ヶ浜と知り合いなのかと問う。

まさか、前世では同級生で部活仲間だったと言ったところで、信じる筈がない。

 

「私と服屋の店員、そしてあの女のやり取りを見ていただろう?」

 

「あ、ああ‥‥」

 

シュテルにそう言われると、確かに由比ヶ浜は一方的に喚き散らし、店員が止めるもそれを無視し、最終的に警備員に連れていかれた。

 

由比ヶ浜の言動とシュテルからの警告から、シュテルの言う通り、由比ヶ浜は危ない人なのだろうと思った。

 

もともと、彼女は自分のコンサートやコンクールでも観客席で何度も見ている。

自分の下に送られてくる下着や黒焦げた何かを送ってくるのもきっと、彼女だろうと確信した。

 

「もし、あの女が本格的なストーカー化したら、遠慮なく、そして躊躇なく警察に相談しろ‥‥お前さんは昔から、優しい所があるが、ああいう輩は優しくするとつけあがるからな。現にカナデがアイツの犬を助けたことがきっかけで、あの状態になっているから‥‥」

 

「う、うん」

 

「それで、もし警察が真面目に取り合ってくれなかったら、私に言え‥‥その時は私が持てる人脈を使って、お前さんを助けてやるから‥‥」

 

「えっ?あっ、うん‥ありがとう。頼りにしているよ」

 

「ああ、任せておけ」

 

日本に来て、ブルーマーメイドに顔が利く宗谷家の人とコネクションが築けたのは正直ありがたかった。

 

もし、由比ヶ浜がカナデに何かするようであれば、例え自分の力ではなくとも、カナデを由比ヶ浜から救うつもりだった。

 

由比ヶ浜のバックには雪ノ下が居り、その雪ノ下家は、この後世世界では千葉において絶大な権力を持っているが、流石の雪ノ下家でも国際組織であるブルーマーメイドに喧嘩を吹っかけることはしないはずだ。

 

そしてある程度、店内を見終えると二人は外に出て、ららぽーと近くのサンビーチエリアへと来た。

 

前世とは地形が異なるこの後世世界‥‥

 

ららぽーとの近くには、海水浴場があり、夏には海水浴客や潮干狩り客で賑わう。

 

「まだ、夏じゃないからそこまで混んではいないな‥‥」

 

しかし、今の時期はまだ、海開き前であり、海水浴客はおらず、自分たちのように散歩している人たちがちらほら居る。

 

「海に入るわけじゃないけど‥‥」

 

シュテルは靴と靴下を脱ぐと、波打ち際に裸足で海水に浸かる。

今、シュテルが身に着けているのはズボンではなく、スカートなので裾が海水に浸ることはない。

 

「ちょっと、冷たいかな?」

 

海水は思ったより冷たかった。

海にかかわる学業故なのか、こうして海水に浸かったり、潮の香りに包まれていると、なんだが、テンションが上がる。

シュテルはまるで水溜まりではしゃいでいる子供のように海水と戯れている。

 

「おーい、カナデも来ないか?」

 

シュテルはカナデにもこうして一緒に海水と戯れないかと訊ねる。

 

「ん?それじゃあ‥‥」

 

そう言って、カナデも靴下と靴を脱ぎ、ズボンの裾を上げ、波打ち際に来る。

 

「シュテルの言う通り、ちょっと冷たいね」

 

カナデが「ハハハ‥‥」と笑みを浮かべながら、海水に足を浸ける。

すると、カナデがシュテルの後ろに回ると、

 

ヒョイ!!

 

「うわっ!?」

 

カナデがシュテルを抱っこした。

しかも、両膝の裏と脇に手を当てての抱っこ‥‥所謂お姫様抱っこと言うやつだ。

 

「ハハ、シュテルは軽いなぁ~」

 

「ちょっ、カナデ、ハズイから降ろして」

 

「いいじゃないか、お互い中々会えないんだし、こうして、シュテルの顔を間近で見たいし、それに匂いだって‥‥」

 

「変態だな、お前‥‥」

 

カナデは楽しそうにゆっくりとシュテルを左右に揺らしながら歩き、抱えられているシュテルは少し恥ずかしそうにしながらも、同じく楽しそうな様子を浮かべていた。

カナデが突然、シュテルを抱えたままダンスするかのように回り始めた。

 

「ちょっ、カナデ」

 

カナデはいたずらっ子のように笑みを浮かべながら回り、シュテルは突然のことに慌てた表情を浮かべる。

 

すると、何回転かすると急にカナデはバランスを崩したのか、千鳥足のようにふらふらとなり、そのまま波が届いていない砂浜にシュテルを抱えたまま尻餅を着いた。

 

さすがにシュテルもカナデも慌てた様子で、尻餅を着いた時にお互いを見ながらポカーンと呆然としたが、

 

「「ハハハハハ‥‥」」

 

すぐに笑みを浮かべこの失敗を互いに笑い合っていた。

 

「まったく、無茶をする奴だな~ハハハハハ‥‥」

 

「ハハハハハ‥‥でも、たまにはこうして子供みたいにはしゃぐのもいいもんだろう?」

 

「ハハ、まあな」

 

その後も二人は波打ち際ではしゃいだ。

 

二人の姿はまさに八幡がよく言っていたリア充の姿そのものであった。

 

事実、シュテルとカナデの事を羨んでいる者、睨みながら嫉妬めいた視線を送っている者が居たが二人は気づかなかった。

 

はしゃいだ後、海の家の水道で砂を洗い落とし、靴下と靴を履きなおす。

 

時間も良い頃合いで、

 

 

「今日は色々あったけど、楽しかったよ」

 

「私も楽しかった。じゃあ、元気で‥‥」

 

シュテルとカナデはハグをして、それぞれの帰路についた。

 

横須賀行きの水上バスの車内で、シュテルは、

 

(由比ヶ浜、お前の我儘にカナデを巻き込ませないぞ‥‥)

 

シュテルとしては、前世の経験から、由比ヶ浜の様な女に大切な身内であるカナデと関係を持たせるわけにはいかない。

 

それに由比ヶ浜が絡むとなると、雪ノ下や葉山の二人も絡んでくる可能性がある。

 

雪ノ下の性格から、一目惚れ、恋愛なんて無縁だろうが、葉山の奴は、変に勘繰って、カナデが雪ノ下に惚れたと思ったら、葉山の奴はカナデにも牙を向ける可能性がある。

 

カナデ自身は、シュテルからの警告を受け由比ヶ浜に危険性を抱き始め、更に由比ヶ浜とカナデは通っている学校が異なるが、それでも油断は出来なかった。

 

 

その由比ヶ浜本人はと言うと‥‥

 

愛犬であるサブレを迎えに行き忘れ、ららぽーとに二度も行く羽目になった。

 

その後、彼女は自宅の自分の部屋で人知れず荒れていた。

 

「なんなの!?あの女!?カナカナは私だけのモノなのに!?」

 

由比ヶ浜はシュテルに対して激しい怒りを抱いていたが、彼女はシュテルがカナデと親戚だと言うことを知らないし、シュテルが何処の誰なのかさえも知らない。

 

「ヒッキーなんかと違って、カナカナは私の運命の人なんだから‥‥邪魔させない‥‥あんな、泥棒猫なんかにカナカナは絶対に渡さない‥‥」

 

由比ヶ浜はブツブツと親指の爪を噛みながら、不気味に呟いていた。

 

そんな由比ヶ浜の姿に愛犬であるサブレも彼女には近寄りがたいのか「うぅ~‥‥」と唸っていた。

 

由比ヶ浜に恨まれたシュテル自身、カナデがシュテルに好意を持っている事も知らなかった。

 

更にお互いに同じ世界出身の転生者であることも‥‥

 

 

シュテルが横須賀女子の学生寮に到着すると、クリスやユーリはシュテルの格好を見て驚いていた。

 

「シュテルンどうしたの!?その恰好!?」

 

「えっ?」

 

「シュテルンがスカートを履くなんて、明日は大嵐じゃない!?」

 

「そこまで言う?」

 

ジト目でユーリとクリスを見るシュテル。

 

三人で学生寮の通路を歩いていると、ロビーの片隅で、明乃、真白、納沙、西崎、立石が何故か床に正座して、ウルスラに怒られていた。

 

「あれ?ミケちゃんたちだ‥‥何かあったの?ウルスラが随分と怒っているみたいだけど‥‥」

 

「ああ、あれね‥‥」

 

ユーリとクリスは何故、明乃たちがウルスラに怒られているのかを話した。

 

何でも、真白、納沙、西崎、立石がトイレで吐いているのが目撃され、もしかして食中毒、またはRat事件の事もあり、何か未知のウィルスに感染したのかと思い医務長であるウルスラが急いで現場のトイレに向かうと、トイレの便器に一心不乱に吐いて、何かを探している四人の姿があった。

 

事情を聞いてみると、明乃が話したムカデが自分の胃の中に居るかもしれないと言うことで確認の為、吐いていたらしい。

 

そこで、ウルスラが明乃の話は嘘だと言ってムカデの話をした明乃を含め四人にお説教しているのだと言う。

 

「で?そのムカデ騒動はいつ頃あったの?」

 

明乃たちが、足をムズムズさせているので、彼女たちの足が痺れて相当ヤバいのだろう。

 

「うーん‥‥お昼過ぎかな?」

 

「えっ?お昼過ぎ!?」

 

ユーリの話を聞いて驚くシュテル。

明乃たちはもう数時間、ずっとウルスラのお説教を正座して聞いていることになる。

 

(あ、足が‥‥)

 

(しび‥れる‥‥)

 

(なんか、足の感覚がなくなってきました‥‥)

 

(うぅ~ついてない‥‥)

 

「う、ウルスラ、もうそれぐらいでいいんじゃないかな?」

 

シュテルがウルスラに明乃たちも十分反省しているのだから、そろそろ解放してやれと言う。

 

「あら?艦長、珍しいですね。スカートを履くなんて‥‥」

 

シュテルに気づいてウルスラはシュテルがスカートを履いていることに珍しがる。

 

「あっ、ちょっと訳があってね‥‥それで、そろそろ解放してもいいんじゃないかな?」

 

「あっ、もうこんな時間ですか‥‥」

 

ウルスラはロビーの時計を見て、もう夕方であることを知ると、

 

「いいですか?今後はあの様な事はしてはダメですよ」

 

「「「「「は、はい」」」」」

 

力なく、返答する明乃たち‥‥

 

顔もなんだか憔悴しきっているようにも見える。

 

ただ、ウルスラからのお説教が終わっても彼女たちは足が痺れて上手く立てなかった。

 

そこで、シュテルはユーリとクリスの他に、ジークとメイリンを呼び、足が痺れて動けない明乃たちに肩を貸し、部屋まで送り届けた。

 

ただ、シュテルに肩を貸され、部屋に運ばれる明乃の姿を見て、真白はなんだか羨ましそうに見ていた。

 




この作品の主人公である転生した八幡こと、シュテルの容姿が見てみたいと言う意見があり、彼女のイラストを描いてみました。

しかし、手描きの為、出来の良しあしについては責任が持てないので、閲覧に関しては自己責任でお願いします。


【挿絵表示】


伊達眼鏡バージョン


【挿絵表示】


シュテルはその名前の通り、なのはシリーズのシュテルをイメージしております。

イメージCV 田〇ゆ〇り さんです。

転生者組がそれぞれ転生者だと気づく 気づかない

  • 気づく
  • 気づかない

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