やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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103話

夏休みの初頭、晴風クラスは、Rat事件にて、他のクラスよりも講義のカリキュラムが遅れた影響を受け、座学の補習の他に特別実習がとある小島で行われた。

 

特別実習は、晴風クラスメイト全員を四つに分けて真っ白になっているこの小島に隠されているチェックポイントを探しながら島の地図を制作しながら制限時間内にゴールするオリエンテーリングだった。

 

オリエンテーリング中、明乃は山野を歩いている時、昔の出来事を思い出していた‥‥

 

あれは、小学生時代‥‥

 

自分と親友のもえかがまだ広島の呉にある児童養護施設で暮らしていた頃‥‥

 

この日、明乃ともえかが近くの山に出かけようとした時、山に行く前、二人は近くの駄菓子屋に来た。

 

そこで、二人は駄菓子屋の前にある自販機で、蒼い目の子と出会った。

 

その子は、自分たちが住んでいる施設の子でもなければ、近くの家の子でもなかった。

 

この頃のもえかは、意外と人見知りをする性格だったので、明乃の後ろに隠れて、様子を窺っている。

 

自販機の前に居る子もなんだか、自分たちの様子に戸惑っているようにも見えた。

しかし、この中で一番好奇心が強く、人懐っこい明乃は、

 

「こんにちは!!」

 

自販機の前に居た子に声をかけた。

 

「っ!?」

 

自販機の前に居た子は突然、明乃に声をかけられ、びっくりしている様子だった。

 

「貴女、どこの子?この辺じゃあ、見ないけど‥‥それに綺麗な目をしているね!!」

 

明乃は日本人離れしているその子の蒼い目に興味を持ったみたいだった。

 

「えっ?えっ?えっと‥‥」

 

明乃のテンションにその子は圧倒されて、困惑している。

 

「ミケちゃん、まずは落ち着いて、その子も困っているみたいだし‥‥」

 

もえかが明乃にまずは落ち着くように言って、彼女を宥めた。

それから、三人は互いに自己紹介しようと言うことで、駄菓子屋の前にあるベンチに座り、自己紹介をすることになった。

 

(なんだか、妙な展開になってきたな‥‥)

 

自分はただ、自販機で飲み物を買いに来ただけなのに、地元の子に突然興味を持たれて、こうして彼女たちと話しているのだから‥‥

 

蒼い目の子はあまりにも唐突な流れに困惑する。

 

「私、岬明乃」

 

「私は、知名もえか」

 

「わ、私は、シュテル‥‥シュテル・H(八幡)・ラングレー・碇」

 

「えっと‥‥随分変わった名前だね」

 

明乃はシュテルの名前を聞いて、変わった名前と言う印象を抱いた。

 

「もしかして、外国の人なんですか?」

 

もえかはシュテルの名前を聞いて、シュテルが日本人ではないことを見抜く。

 

まぁ、日本人の容姿とちょっと離れている。

 

特に目が‥‥

 

「お父さんは日本人だけど、お母さんはドイツ人と日本人のハーフ」

 

シュテルは、自分の父と母の事を二人に伝える。

 

「うーん‥‥長いから、『シューちゃん』でいい?」

 

明乃はシュテルのフルネームが長いから、シュテルの事を『シューちゃん』と言う仇名で呼ぶと言う。

 

「えっ?シューちゃん?」

 

ドイツではユーリやクリスからは 『シュテルン』 と呼ばれていたので、『シューちゃん』 と呼ばれたのは初めてだった。

 

「うん」

 

「ま、まぁ‥‥いいけど‥‥」

 

(出会ったばかりなのに、グイグイ来るな、この子‥‥)

 

まだ出会って五分も経っていないのに、すっかり顔馴染みの仲の様に振る舞う明乃に戸惑うシュテル。

 

「その蒼い目も外国の血が入っているため?」

 

もえかが、名前の他にシュテルの蒼い目について聞いてくる。

 

「う、うん‥お母さんの目が蒼い目をしていて‥‥」

 

シュテルの母であるアスカはドイツ人3/4、日本人1/4の混血で、目が蒼い。

その母の血を受け継いでいるシュテルも母親同様目が蒼かった。

 

「シューちゃんは最近、引っ越して来たの?」

 

近所では見ないシュテルに明乃は最近になって、呉に引っ越して来たのかを訊ねる。

 

「あっ、いや、観光‥‥かな?」

 

シュテルは自分の身の上を話す。

 

普段はドイツに住んでいるのだが、今はドイツの学校でも夏休み期間であり、自分の父方の祖父母が日本‥京都に住んでいるので、夏休みを利用して、飛行船でドイツから日本に来たのだが、祖父母は両者共に学者で、広島で学会があるとのことで、自分たちも広島へ観光に来たと言う。

 

しかし、今年は京都に居た幼馴染みであるカナデが千葉に引っ越してしまったので、広島で学会のある祖父母に着いてきて、自分たちは広島観光をしているのだ。

 

「へぇ~ドイツから来たんだ‥‥」

 

「飛行船って乗った事ないんだよねぇ~どんな乗り心地なの?雲よりも高く飛んでいるの?」

 

明乃ともえかは異国の地であるドイツやまだ乗ったことのない飛行船についてシュテルに色々訊ねてきた。

 

 

「そう言えば、二人はこの近所に住んでいるの?」

 

次にシュテルは、明乃ともえかの身の上を訊ねる。

 

「うん、この近くの施設に住んでいるの?」

 

「施設?」

 

「私たち、両親が事故で‥ね‥‥」

 

「あっ‥‥ご、ごめん」

 

明乃ともえかの身の上を理解したシュテルは二人に謝る。

 

「ううん、大丈夫だよ。そりゃあ、最初は悲しかったけど、今はもかちゃんや施設のみんなとも友達になれたし」

 

「私もミケちゃんと同じかな」

 

明乃ともえかも両親の死についてはもう割り切っていると言う。

 

「それで、広島に来て、何処に行ったの?」

 

明乃は話題を変えるようにシュテルに広島に来て何処を観光したのかを訊ねる。

 

「えっとね‥‥」

 

シュテルはポケットからデジカメを取り出し、明乃ともえかにこれまで広島に来て観光した場所の写真を見せる。

 

デジカメの画面には宮島口、フェリーから撮った厳島、厳島神社に神社の鳥居、ウサギの島とされる大久野島。

 

そこで、撮ったウサギたちの姿。

 

昼食や夕食で食べた料理の写真。

 

志賀直哉旧居、文学記念室、中村憲吉旧居、尾道市文学公園等の写真があった。

 

「でも、一番感動したのは此処かな」

 

そう言ってシュテルは明乃ともえかに一枚の写真を見せた。

 

「あれ?この建物って‥‥」

 

「広島市にある産業奨励館?」

 

「そう、私が知っているのは、廃墟みたいな状態の原爆ドームで、建物の中とか見れなかったから、こうして中を見ることが出来て物凄く感動した!!」

 

「ん?廃墟?」

 

「原爆ドーム?」

 

明乃ともえかの二人はシュテルの言っていることに首を傾げる。

 

シュテルがまだ八幡であった頃、広島県産業奨励館こと、原爆ドームは、第二次世界大戦の折、原爆の熱線・爆風により、レンガや鉄骨などを残すだけのボロボロの建物になった。

 

広島県産業奨励館の歴史は明治時代‥‥広島市は、日清戦争で大本営がおかれたことを契機に軍都として急速に発展していった。

 

広島は経済規模の拡大と共に広島県産の製品の販路開拓が急務となり、その拠点として計画された建物であり、最初の名称は、『広島県物産陳列館』 と命名され、1915年四月五日に竣工し、四か月後の同年八月五日に開館した。

 

この建物の設計にはチェコ人の建築家、ヤン・レッツェルが設計し、ドームの先端までの高さは約二十五メートルあり、ネオ・バロック的な骨格にゼツェシオン風の細部装飾を持つ混成様式の建物であった。

 

六年後の1921年に、『広島県物産陳列館』 は、名称を 『広島県立商品陳列所』 と改称し、1933年には 『広島県産業奨励館』 に改称された。

 

太平洋戦争中の1944年三月三十一日には産業奨励館は業務を停止し、内務省中国四国土木事務所・広島県地方木材株式会社・日本木材広島支社など、行政機関・統制組合の事務所として使用され、運命の日‥‥原爆投下の日を迎えた。

 

1945年八月六日 午前八時十五分、アメリカ軍はB-29エノラ・ゲイより、原子爆弾 『リトルボーイ』 を広島に投下した。

 

この時、建物内で勤務していた内務省職員ら約三十人は、原爆の爆発にともなう大量の放射線被曝や熱線・爆風により全員即死した。

 

戦後、1954年四月一日に原爆ドーム周辺は、広島平和記念公園となり整備され、1996年十二月には、世界遺産条約に基づきユネスコの世界遺産一覧表に登録された。

 

しかし、この後世世界では、第二次世界大戦が起きておらず、当然広島・長崎に原爆は投下されていない。

 

日露戦争後の地盤沈下の際にも沈下されていない場所に建設されたおかげで、産業奨励館は原爆ドームと言う名称をつけられることなく、大正時代の歴史的建造物として今日まで残されており、前世とは違った形で広島の観光地となっている。

 

そして、前世では見ることのできなかった建物の内部も見学でき、広島市の街、経済・名物の歴史を展示している。

 

前世では外見の写真は多く残されているが、広島県産業奨励館の内部の写真はあまり存在していないので、こうして中を見ることが出来てシュテルにとっては興味深かった。

 

ただし、後世世界の広島県産業奨励館はユネスコの世界遺産にはまだ登録されていないが、いずれは歴史的建造物として、登録されるかもしれない。

 

明乃ともえかも当然、地元なので小学校の社会見学で行った事がある。

 

ドイツに住んでいるシュテルは広島には初めて来たみたいだから、こうして感動しているのも頷けると思う明乃ともえかだった。

 

話している内にシュテルも自然と明乃ともえかと話すようになっており、もえかもシュテルと平気に話していた。

 

それから、三人は一緒に野山を舞台に遊んだ。

 

前世ではインドア派なシュテルだったが、こうして、親しい人と身体を動かすのも悪くはないと思った。

 

そもそも、前世では両親と小町が旅行に行っても自分は連れて行ってもらえなかった。

 

その反動からか、シュテルはこうした旅行では気分が結構ハイになっていた。

 

シュテルは泊まっていたホテルから、明乃ともえかに初めて会った駄菓子屋で待ち合わせをして、この日も明乃ともえかと共に遊びに行く。

 

今日は海外演習を終えた大和が呉に帰還する日みたいで、前世では模型や絵画、CG映像等でしか見ること出来なかった大和級戦艦も見る事が出来ると言うことで、明乃ともえかと一緒に見に行くことにした。

 

駄菓子屋で、明乃ともえかに合流した三人は、大和を見ることが出来る絶景ポジションへと向かう。

 

そこは、山を抜けた小高い丘にあり、三人は山道を歩く。

 

そんな中、

 

「ん?」

 

山道を歩いていたシュテルは目の前の地面になんか良い感じの木の棒がぽつんと落ちていた。

 

シュテルがそれを拾った瞬間、背後には同じ様に木の棒を振り翳す明乃が居た。

 

「っ!?」

 

シュテルは木の棒で明乃の胸を胴打ちした。

 

勿論、思いっきりは叩きつけてはおらず、ソフトに撫でる程度だ。

 

シュテルからまさかの胴打ちをくらった明乃はそのまま崩れ落ちると、

 

「ば、バカな‥‥」

 

信じられない‥と言った声を出す。

 

「急に後ろから殴りかかって来ないでよ。危ないよ」

 

シュテルは棒を手に持ったまま倒れている明乃に注意する。

 

「こうして剣士シュテルの最強への道が始まったのである……」

 

すると突然、もえかが、どこぞのRPG風なナレーションを言い出す。

 

「いや、いや、もかちゃんや、いきなり何を言い出すの?それに始まらないし、やらないよ」

 

シュテルは冷静に棒を持ったまま言い放った。

 

なお、この頃にはシュテルも明乃の事をミケちゃん、もえかの事をもかちゃんと呼んでいた。

 

そして、シュテルは手に棒を持ったまま山道を進む。

 

「武器は装備しないと意味がありませんよ」

 

明乃が縋り付くようにシュテルに注意事項を言う。

 

「いや、何の事?」

 

ここで、こうして立ち止まっていると大和の入港の瞬間を見逃してしまうので、山道を歩きだす。

 

すると、

 

「シュテルは五のダメージを受けた」

 

もえかはRPGのテロップに出て来るようなセリフを言う。

 

「メニュー画面を開いて武器を装備してください」

 

更に明乃もRPGの警告テロップみたいなセリフを言う。

 

「ミケちゃん!? 君までどうしたの!?」

 

「いや、何となくノリで‥‥」

 

「しかし、なかなかいい棒だな‥‥」

 

シュテルは木の棒を手で愛でる。

 

「シュテルは五のダメージを受けた」

 

二人の言葉を華麗にスルーしてシュテルは棒を見つめる。

 

「シュテルは五の‥‥」

 

「なんでさっきから、私ダメージ受けているの!?」

 

いい加減しつこいので、どうして自分はダメージを受けているのかを問う。

 

「えっ?だって、シューちゃんが、ちゃんと装備しないから」

 

「じゃあ、何?私、剣の刃の部分を握っていた訳!?設定細かいな!?」

 

シュテルは自分が何故ダメージを受けていたのか、その真相を知り思わず、二人にツッコムを入れる。

 

すると、明乃が木に寄りかかりながら、

 

「貴女、西の町へ行くの?だったら私を連れていくといいよ!!」

 

ビシッと親指で自分を指さす明乃。

 

「誰だ!?アンタ!?」

 

「私の名前はセイラ!!聖者であるエルフの少女であり、この世界の覇権をめぐって争う魔王に対抗すべく勇者となれる素質を持った人間を探しているの!!」

 

明乃は自分の役名をシュテルに伝える。

 

「無駄に壮大な話にしないで!!これ、大和が来る前までに着くのかな?」

 

シュテルは大和が来るまでに絶景スポットに到着できるのだろうかと少し不安になる。

こうして勇者シュテルは明乃こと、エルフの少女セイラと共に旅立つことになった。

 

「さあ、行きなさい!!勇者シュテルよ!!」

 

「もかちゃん、貴女は何の役なの?」

 

「私はこの世界を守る女神です」

 

「ええぇぇぇーっ!!神ってなんか規模がでかくない!?」

 

「ちゃーらーらーらー、ちゃーらーらーらーちゃーらーらーらー、ちゃーらーらーらー、ちゃんちゃららららちゃんららららちゃーんちゃーん~♪」

 

明乃が、いきなりBGMらしき音声を口にする。

 

「‥‥セイラが仲間になった」

 

「長いよ!?何!?今の音!?」

 

「ほらRPGとかで仲間になると流れるBGMがあるじゃない?」

 

もえかが、先程明乃が口にしていた音声の説明をする。

 

「いや、わざわざ説明をしなくてもいいから!!」

 

「それじゃ行くよ!!」

 

明乃は駆け出すが、

 

「セイラは五のダメージを受けた」

 

「ちゃんと武器は装備しなさい」

 

もえかがダメージの説明をして、シュテルが明乃に警告する。

 

「それで、何処に行くの?」

 

「当然、まずは王様のところだよ!!」

 

明乃とシュテルは王様のところ‥‥もとい、大和を見ることが出来る絶景スポットを目指して行くと、

 

「モンスターが現れた」

 

某RPGにいそうなモンスターの立ち絵ポーズをしたもえかが二人の前に立ち塞がる。

ついでに説明のセリフも‥‥

女神役の他にモンスターの役もこなすもえか。

 

「モンスターだって、どうする?」

 

シュテルは明乃にモンスター役のもえかの対処を訊ねる。

 

「‥‥無視する」

 

「えっ!?無視!?それで、いいの!?」

 

RPGでは、モンスターとの戦闘を繰り返して経験値とお金を稼いでレベルを上げて物語を進めていくのに、明乃はいきなりモンスターとの戦闘で 『にげる』 のコマンドを選択した。

 

明乃に言われるがままに、シュテルはもえかの横を素通りしていく彼女の後ろを着いていく。

 

「着いたよ!!ここが王様の城だよ!!」

 

まだ大和を見ることが出来る絶景スポットではないのだが、明乃曰く、ここが王様の城らしい。

 

「よくぞ来た勇者よ」

 

すると、そこにはさっきのモンスターと同じポージングをしたもえかが立っていた。

 

「なんで、みんなそのポーズなんだ!?」

 

「貴女が中ボスね!?」

 

明乃が宣言するように言いながら、もえかをビシッと指さす。

 

「いや、中ボスじゃないでしょう!?」

 

シュテルは同じポージングから、中ボスではなく、モンスターだろうと言うが、

 

「よく見破ったな、私が中ボスだ!!」

 

「中ボスかよ!?」

 

明乃が言ったように目の前に居るもえかはモンスターではなく、中ボスらしい。

しかしそんなのも一瞬、明乃が中ボス(もえか)の首をチョップした瞬間、

 

「うわっ!?やーらーれーたー!!」

 

棒読みなセリフと共に、その場に倒れるもえか。

 

「展開早いよ!!」

 

シュテルは中ボスが一発で倒されている展開にも思わずツッコム。

 

「くっ、なんとか魔王の一人を倒せた‥‥」

 

「今のが、魔王なの!?しかも一人ってことはまだ他にも魔王が居るって事!?」

 

中ボスなのにそれが魔王であり、しかも魔王はこの一人ではなく、まだ他にも居る気配をにおわせる明乃。

 

絶景スポットに到着するまでこの寸劇が続くのかと思いきや、

 

ボォォォォォォー!!

 

山の向こうから船の汽笛らしき音が聴こえてきた。

 

「あっ!?アレって、大和の汽笛じゃない!?」

 

「ええぇぇぇーっ!!」

 

「早く行かないと、大和を見逃しちゃう!!」

 

三人は寸劇を止め、急ぎ山道を駆け出す。

 

「はっ‥‥はっ‥‥はっ‥‥」

 

「もかちゃん、早く!!」

 

「う、うん」

 

「もうすぐ通るよ!!」

 

三人は山野を駆け抜け、海が見える岬に向かって走っていた。

 

やがて、岬に着くと水平線の向こうには、ボォォォ~と船の汽笛が聴こえ、一隻の軍艦が三人の横を通り港に入ろうとしていた。

 

「来たぁ!!」

 

「凄い!!本物の大和だ!!」

 

「ホント、凄いね!!ミケちゃん、シューちゃん!!」

 

眼前を悠々と航行する大和の姿に感動する三人。

 

シュテルは大和の雄姿をデジカメに収める。

 

手を振ると、艦首に居た大和の乗員の一人が気づいてくれたのか、帽子を振ってくれた。

 

「あっ、気づいてくれた!!」

 

「うん、手を振ってくれた!!」

 

大和を見ることが出来、しかもその乗員が自分たちに気づいてくれ、手を振り返してくれたことにテンションが高い三人だった。

 

大和を見た後、三人はシュテルのデジカメで岬をバックに代わる代わる、ツーショット写真を撮った。

 

その後も、三人は主に野山を駆け抜けながら遊んだ。

 

明乃が木に登ったまま降りられなくなった子猫を助ける為、彼女自身が木に登り、子猫を助けに行った時、シュテルも、もえかも、ハラハラしながらその様子を見たこともあった。

 

海や川へ釣りにも行った。

 

僅かな間であったが、シュテル、明乃、もえかはこのひと時を楽しんだ。

 

やがて、広島での学会が終わり、シュテルが広島を離れる時、明乃も、もえかも別れを悲しんだ。

 

それは、シュテル自身も例外ではなく、珍しく二人の別れの際、涙を流した。

 

 

その後、明乃ともえかは、小学校卒業後、施設を出て、明乃は横須賀に住んでいる遠縁の親戚に、もえかは長野に住んでいる遠縁の親戚にそれぞれ引き取られていった‥‥

 

 

 

 

「フフッ‥‥」

 

「ん?艦長、どうしたの?」

 

山道を歩きながら、明乃は昔の事を思い出し、思わず笑みが零れる。

和住が明乃に訊ねると、

 

「あっ、こうして山道を歩いているとね、昔の事を思い出して‥‥」

 

「昔の事‥‥ですか?」

 

「うん‥‥小学生の頃は、もかちゃん、シューちゃんと一緒にこうして野山で遊んだから、懐かしいと思って」

 

「へぇ~」

 

明乃の話を聞いて和住は何やら納得している様子だった。

 

こうして、明乃たちはオリエンテーリングに必要なチェックポイントを探しながら、山道を歩いていった。

 

 

横須賀女子の晴風クラスで、こうした補習と特別実習が行われているように、Rat事件の影響を受け、周辺の海洋学校も今学期のカリキュラムの変更や補習が行われていた。

 

それは、総武高校の海洋学科も例外ではなかった。

 

普通科、国際教養科は、海洋学科と異なり、横須賀女子のRat事件の影響は受けておらず、補習はなかった。

 

由比ヶ浜は普通に夏休みを迎えることが出来る普通科と国際教養科の生徒たちを羨んでいた。

 

雪ノ下、由比ヶ浜、葉山はそれぞれ乗艦する艦が異なる。

 

専門である横須賀女子と異なり、総武高校の海洋学科は、まず、男女別となり、複数のクラスの女子同士、男子同士が一隻の学生艦に乗艦している。

 

雪ノ下は首席合格したので、この総武高校海洋学科の学生艦の中で、総旗艦を務めるコロラド級戦艦の総武の艦長を務めている。

 

由比ヶ浜は自分以外にもいくつかのクラスの女子と共に香取級軽巡洋艦一番艦である香取に乗艦した。

 

葉山は、由比ヶ浜と同じく自分のクラスの男子と他のいくつかのクラスの男子と共に、アラスカ級巡洋戦艦六番艦、和泉の艦長となった。

 

ただ、実際に艦に乗る実習の前に行われているシミュレーション講義にて、雪ノ下が同じクラスメイトに対する上から目線の毒舌から、総武の乗員は嫌そうな顔をしていた。

 

彼女たちの予想は案の定、的中し、航海中の演習で雪ノ下はクラスメイトたちの動きが遅い、射撃で百発百中しなければ、ダメだとか、ほんの些細なミスで毒を吐く。

その一番被害に遭ったのは艦のナンバー2である副長だった。

 

貴女には副長の自覚はあるのか?

 

副長の貴女がどんくさいから、他のクラスメイトもなかなか成長しないのではないか?

 

とにかく、総武のミスは全て副長の所為と言う認識であり、他のクラスメイトは副長が毒を吐かれているのを何度も見て、可哀そうだと思いつつ、そこで口を挟むと自分にも雪ノ下の毒が飛び火するので、副長を助けるに助けられなかった。

 

副長の生徒はいつも、いつも、部屋で悔しさから枕を濡らしていた。

 

教師に雪ノ下がしていることはれっきとしたモラハラであると提言しても成績と雪ノ下家と言う千葉で幅を利かせている家柄から、生徒たちの訴えは却下された。

 

反対に雪ノ下からの訴え‥‥クラスメイトの動きがどんくさい、些細なミスをする、射撃が下手、などの訴えから、雪ノ下以外の総武のクラスメイトには教師から厳しいノルマや説教、罰課題が下された。

 

勿論、雪ノ下は自分のクラスメイトたちが自分に対して不満を抱いている事に関しては、優秀な自分に対して嫉妬しているのだと思い込んでいた。

 

海上生活では信頼関係が第一にもかかわらず、雪ノ下には艦長なのに、その信頼関係が全く構築できていなかった。

 

反対に雪ノ下以外のクラスメイトには団結力が出来ていた。

 

クラスメイトたちには、雪ノ下は共通の『敵』と認識されていた。

 

しかし、雪ノ下家の権力から彼女本人に手を出すことが出来ない現状に対して益々雪ノ下への不満は募るばかりであった。

 

総武では雪ノ下に対する不満が募る一方、葉山が艦長を務める和泉では、そこまで不満は募ることはなかった。

 

一応、表面上のカリスマ性では、葉山の方が雪ノ下よりも上だったのかもしれないが、一番の要素は実習中に問題が起きなかったことだった。

 

由比ヶ浜も長い物には巻かれろ、周りの空気に流されているだけなので、基本的に権力者である雪ノ下と葉山の二人が居なければ、由比ヶ浜は何もできなかった。

 

それどころか、同じ葉山グループに所属している相模からネチネチと嫌味を言われる始末であり、彼女は彼女なりに肩身の狭い実習となった。

 




明乃がRPGごっこの際に名乗ったセイラは明乃の中の人ネタです。

ついでにもえかの女神役も中の人ネタです。

転生者組がそれぞれ転生者だと気づく 気づかない

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