やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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西住殿のキャラがブレていますが、あくまでもこの世界の西住殿はガルパンの西住殿ではなく、この作品世界の西住殿で容姿も名前も同じながらも異なる人物だと思っていただければ幸いです。


108話

 

 

夏休みの最中、横須賀女子ではRat事件の影響でカリキュラムが遅れた晴風クラスは、小島にてオリエンテーリングが行われ、校舎の方ではドイツから搬入された新型の自走式気球の操縦実習が行われ、ドイツからの留学生組、横須賀女子に所属する飛行船支援艦のクラスメイト、そしてそれ以外のクラスの自由参加者たちが受講していた。

 

飛行機がない世界なので、この世界の人たちは空への興味があまり強くないので、自由参加者の参加人数は少ない。

 

参加者もせいぜい、ライセンスとして持っておこうと言うレベルだ。

 

その自由参加者の中に、もえかや明乃の先輩である高校二年生の西住みほと秋山優花里の二人もこの実習に参加した。

 

秋山はみほのお供みたいな感じで今回の実習に参加したが、みほは何か目的があってこの実習に参加していた。

 

それは、ただ自走式気球のライセンスを得る為ではなかった感じだった。

 

実習は、最初は座学が行われ次に自走式気球の組み立て方からの教官らが実習参加者を後部座席に乗せての実演、最後は実習参加者による操縦実習となる。

 

勿論、その際は後ろに教官を乗せての操縦となる。

 

ゴンドラの後部にあるプロペラが勢い良く回り、機体はふわりとフォン・リヒトフォーヘンの甲板から浮き上がると、徐々に速度を上げ、高度を上げていく。

 

巨大な筈のフォン・リヒトフォーヘンの姿はみるみるうちに小さくなっていく。

 

その姿は海に浮かぶ米粒みたいだ。

 

高度を上げていくと、気温も下がっていく。

 

甲板に居た時は暑いと感じたのにこうして空へと上がると飛行服が分厚いのも頷ける。

 

(意外とスピードは出るモノだな‥‥)

 

(バイクやスキッパーとは違うスピード感だ‥‥)

 

後部座席に座りながらそう思うシュテル。

 

気球と言うことから、あまり速度は出ないと思ったが、やはりプロペラが着いている事、陸上や海ではなく空である事もあってか、バイクやスキッパーよりも早く感じる。

 

勿論、海上艦と比べるべくもなく、この自走式気球の方が断然早い。

 

もっともいくら早いと言っても飛行機やヘリコプターよりは当然速度は劣るが、この世界ではその両者はなく、シュテルが八幡だった頃、彼は飛行機にもヘリコプターにも乗ったことはないので、前世を含めて三十四年の人生の中で今回は初めての空体験であった。

 

飛行船支援艦のクラスメイトは飛行船に乗り慣れているので、特に緊張した様子はなかったが、それ以外の参加者はやはり、緊張した面持ちで操縦実習に臨んでいた。

 

「飛行船乗り以外の生徒諸君にとっては、初めての空の経験になるかもしれないが、上がってしまえばどうって事無い!!自転車だってそうだろう!?一度乗ったらコツは一生忘れないものだ!!」

 

と、担当教官のハンナ・ルーデルはそう言っていた。

 

確かに初めてのスキッパーの運転も高等部に進学して学生艦で、学生のみで海に出た時も緊張していた。

 

今回の実習もそれと同じようなモノだろう。

 

そして今日の実習が終わり、実習参加者たちは身に纏っていた飛行服から制服へと着替える為、更衣室へと向かう。

 

「ふぅ~あっつぅ~‥‥」

 

シュテルは飛行帽を脱ぎ、飛行服のチャックを緩め、首に巻いた白いスカーフを取る。

 

そしてシャツに関して、シュテルは身体に残る銃痕を他の生徒に見られないように素早く着替える。

 

(明日の事も考えて、急いで、ランドリーに入れて洗濯しないとなぁ~‥‥)

 

空を飛んでいたとは言え、今日一日ずっと空に居た訳ではなく、甲板で真夏の太陽を浴びて、汗もかいているので次の日の事を考えると、やはり汗臭い飛行服よりも洗濯洗剤・柔軟剤の香りがする方が良い。

 

飛行帽はさすがに洗濯機で洗濯できなかったので、ファ〇リーズをかけて消臭する。

 

シュテルはランドリーにある洗濯機の中に洗剤、柔軟剤と洗濯物である飛行服やスカーフ、シャツを入れ、洗濯機のスイッチを入れる。

 

現在、夏休みの為、寮にある洗濯機の数は十分に用意されており、実習参加者分は存在するので洗濯機の取り合いになることはなかった。

 

(夕食の後ぐらいには終わるかな?)

 

洗濯機の洗濯時間を見て夕飯を食べ終わる頃には洗濯が終わるだろうと判断した。

 

(ん?でも、まだ夕食には時間があるな‥‥)

 

夕食まで時間もあり、洗濯にも時間がある。

 

(ん?綺麗な夕陽だ‥‥)

 

(時間もあるし、ちょっと夕涼みでもするかな)

 

ふと、窓の外を見ると太陽が水平線に沈もうとしていたが、夕日があまりにも綺麗だったので、シュテルは夕陽を見に行った。

 

「あっ、あの人は‥‥」

 

そんなシュテルの行動をある女子生徒が見つけ、密かにシュテルの後を追いかけた‥‥

 

 

横須賀女子の校舎内‥‥学生艦が停泊している港湾地区の一角でシュテルは腰を下ろし、夕陽と海を見ながら時間を潰した。

 

すると、シュテルは背後に人の気配を感じた。

 

「‥‥」

 

チラッと見ると、同年代で髪の色も今の自分と同じ茶色でボブカットの女子生徒が一人腰を下ろして座っている。

 

実習中に自分の事をジッと見ていたモジャモジャ髪の女子生徒ではないが、彼女とも特に面識はない。

 

ただ、後ろに座っている女子生徒も今、自分が受けている実習に参加しているのは見たが、こちらから話しかけてはいないし、反対に彼女からも話しかけられたことはない。

 

「‥‥」

 

そして彼女はこの場でも自分に声をかけることなく、ただジッと自分の後ろに座っている。

 

(き、気まずい……誰か座った!? なんで!?誰!? なんで!?無言なの!?わざわざ後ろに座って!?)

 

(ここは俺から声をかけるべきなのか? いや、でもどうして?)

 

(誰か分からないしこんな状況で気の利いたセリフなんて言えないよぉ……)

 

この場に気まずさを感じているシュテル。

 

一方、シュテルの後ろに座った女子生徒の方も、

 

(うぅ~‥‥あの人の後を追って後ろに座ったけど、話題が‥‥)

 

彼女も気まずさを感じていた。

 

 

ザバーン‥‥

 

 

互いに気まずさを関している中、波の音だけがまるで二人に催促するかのように音を立てる。

 

(『海がきれいですね』‥‥いやいやいや、そんなありきたりな台詞このシチュエーションには…っていうか、この辺の海なんて毎日見ているし‥‥)

 

シュテルは後ろの女子生徒とどう話題を切るか頭を抱えていた。

 

(もしかしてこの状況、海に面して黄昏ている女子高生に声をかけるどこか文学的なシチュエーション!)

 

(多分この人、ロマンチックで非現実的なやり取りを期待しているんじゃあ……)

 

シュテルがチラッと背後の女子生徒を見ると、

 

「‥‥」 ソワソワソワ

 

彼女は何かを言いたげにソワソワしている。

 

(そんな感じっぽい‥‥となると何か最初の一言が肝心なんだけど‥‥)

 

繋がりの無い人とどうやって話しかければいいのか分からない。

 

それは後ろにいる女子生徒も同じみたいだ。

 

ただシュテルはソワソワしている女子高生の事を少しだけ勘違いしていた。

 

 

明乃ともえかとの初邂逅の時は、明乃の方から話しかけてきた。

 

テアの時は、交換留学で机を並べて共に勉強する間柄と言う事、シュペーとビスマルクとのやり取りを見て、その行動に感銘した事から、話しかけたが、今は自分の後ろに居る女生徒は同じ、実習を受けているとはいえ、やはり交流がないし、どんな人なのかも知らない。

 

しかし、テアの時の様にこうして同じ実習を受け、同じ学び舎に通っているのだから、やはり、ここは自分から彼女に話しかけた方が良いだろうと、思いつつ、話題を考えるシュテルだった。

 

(ともかく、彼女の期待を裏切るわけにはいかない‥‥い、いくぞ、渾身の一言!)

 

シュテルは少しテンパりながらもゆっくりと口を開いた。

 

「今日は……風が騒がしいですね……」

 

夕陽が浮かぶ海を見ながら、シュテルは渾身の一言を言うが、

 

(あ、あれ?いや‥‥何か違う‥‥は、恥ずかしくなってきた‥‥)

 

(いや、恥ずかしいとかそういうのではなく……何かもう‥‥死にたい‥‥やっちゃったか‥‥) チラッ

 

シュテルはスベッてしまったかと思い、チラッと背後を見ると、

 

「‥‥」

 

やはり、背後の彼女は困惑しているみたいだった。

 

(あぁ~やっぱり、失敗したか‥‥さて、どう返す?)

 

シュテルはこの返答に彼女がどう返すのか、彼女の返答を待つ。

 

一方、彼女の方も、

 

(えっ?えっ?風が騒がしい?えっ?なんのこと?)

 

(で、でも、折角あの人が話しかけてくれたんだから、こっちも何か言わないと‥‥)

 

(えっと‥‥えっと‥‥)

 

(あぁ~もう!!こんな時、沙織さんや優花里さんなら何て言うかな?)

 

(ええい!!ままよ‥‥!!)

 

彼女は、顎に手を当て何か考え込んだのだが、意を決して口を開く。

 

「で、でも少し……こ、この風……な、泣いています‥‥」

 

「フヒュッ!?」

 

(や、やばっ、変に噴いちゃった‥‥ごめんなさい。すみません。勘弁してください。もう無理です)

 

彼女の返答を聞き、思わず少し噴いてしまうシュテル。

 

(でもね、残念ながら俺には空想力ってヤツはないみたいでどうやらこの空間に耐えられんようです。だから、救助隊を呼ばせてもらいました)

 

まさかの返答に今度はシュテルの方が困惑し、彼女には分からないようにスマホを操作してある人物にメールを送り、この場に来てもらった。

 

やがて、別の人の気配を感じ、

 

(来た!!早いな!?)

 

シュテルは、思ったよりも早くこの場に来たクリスに驚きつつも感謝した。

 

そして、その場に現れたクリスはシュテルを見て、

 

「急ぐよ、シュテルン。どうやら風が街によくないモノを運んできちまったようだ」

 

 

と、衝撃な一言を言い放つ。

 

「はぁ!?」

 

(なんで、今日に限って変なテンションなんだ!?)

 

シュテルは、クリスのあまりにも彼女らしくないこの一言に衝撃を受ける。

 

一方、衝撃的な一言を言い放ったクリスは、

 

(し、しまった!?さっきまで、別の世界に行っていたから、つい、そのままの勢いで変な事を言ってしまった!?)

 

クリスらしくないこの発言。

 

彼女には何か訳があってこのような発言をしたみたいだ。

 

「あっ‥‥」 カァァァァ‥‥

 

クリスはシュテルの他に別の女子生徒が居たことに気づき、顔を真っ赤にする。

 

「えっ?えっ?」

 

(わ、私はどう反応すればいいのかな?)

 

クリスの出現と衝撃な言葉に女子生徒はますます困惑している。

 

(やばっ、どんどんカオスな空気に‥‥早いとこ、現実世界に帰りましょうよ! 帰投しますよ!!現実世界に!!)

 

シュテルはその場から立ち上がり、

 

「ええ……急ぎましょう、風が止む前に……」

 

(あれ?何を言っているの!?俺は!?)

 

シュテルもこのカオスな空気に呑まれて、変な事を口走ってしまう。

 

「あっ、西住殿!!」

 

そこへ、新たな人物が登場する。

 

(誰!?)

 

彼女は実習前にシュテルをジッと見ていたモジャモジャの髪をしたあの女子生徒だった。

 

「優花里さん‥‥」

 

どうやら、モジャモジャ髪の女子生徒と茶髪の女子生徒は知り合いの様だ。

 

このモジャモジャ髪の女子生徒が何を言うのか?

 

シュテルたちは黙ってこのモジャモジャ髪の女子生徒が何を言うのか待つ。

 

そして、彼女は口を開いた。

 

「‥‥西住殿!!大変です!!今日、食堂でフライドポテトの量が二倍みたいです!!急ぎましょう!!」

 

(空気読めよ、アンタ!!‥‥いや、読んでいるけどさ‥‥)

 

このカオスな場の空気に、優花里さんと呼ばれた女子生徒は、現実的な一言であったが、

 

「もう!!優花里さんったら!!」

 

優花里さんとらやの発言が気に食わなかったのか、その女子生徒は怒った様子でその場から去って行った。

 

「あっ、待ってください!!西住殿ぉ~!!」

 

西住殿が怒ってその場から去ってしまい、優花里さんとやらも急いで彼女の後を追って行った。

 

「な、なんだったんだ?」

 

このカオスな空気が支配していたが、西住殿がその場から去って行き、カオスな空気は収まった。

 

カオスな空気が収まりシュテルは西住殿が一体自分に何の用があったのか、少し気になった。

 

「‥‥クリス」

 

「な、何かな?シュテルン」

 

カオスな空気は収まったが、シュテルはクリスに気になることがあり、彼女に訊ねてみた。

 

「なんで?今日‥‥実習が終わった後なのに、テンションが高かったの?」

 

「‥‥」

 

シュテルの質問にクリスは気まずそうに視線を逸らす、

 

「そ、それは‥‥」

 

「それは?」

 

「それは‥‥フライドポテトの量が二倍だったから‥‥」

 

「ああ、そう‥‥」

 

クリスの返答に何か釈然としないモノを感じつつも、とりあえずこの場は納得した。

 

それから、夕食の時間となり、シュテルは席に着いて夕食を食べようとしていた。

確かに優花里さんとやらの情報通り、食堂で販売されているフライドポテトの量が二倍となっていた。

 

ドイツからの留学生組は、このサービスに感激してほとんどの留学生が注文している。

 

ジャガイモ料理の国=ドイツなイメージがあり、チラッと見ると、テアとミーナのテーブルにも山盛りのフライドポテトが置いてあり、ミーナがテアにフライドポテトを食べさせている。

 

(さっきの西住殿や優花里さんも頼んでいるのかな?)

 

周りの留学組の生徒を見つつ、先程の西住殿と優花里さんのやり取りを思い出し、夕食を食べようとしていたら、

 

「へ、へい、彼女いっしょに夕飯‥ど、どう?」

 

ギャルっぽい口調の声がしたので、顔を上げてみるとそこには先程、夕日を一緒に見た西住殿が居た。

 

ただ、彼女の顔は引き攣った笑みを浮かべていた。

 

先程の彼女の言葉‥‥どうやら、さっきのギャルっぽい口調は西住殿のキャラではなく、無理にキャラ作りをして声をかけてきたみたいだ。

 

(さ、沙織さんのマネをしてみて声をかけてみたけど‥だ、大丈夫かな?大丈夫だよね‥‥)

 

西住殿‥‥もとい、みほは、横須賀女子入学当初、沙織から昼食に誘われた時と同じ、ギャル口調でシュテルと夕食を摂ろうと声をかけたのだ。

 

彼女にしてみれば、かなり勇敢な行動を取っただろう。

 

「えっと‥‥それは相席ってことでいいのかな?」

 

シュテルは、みほに相席したいのかと訊ねると、

 

「う、うん‥‥い、いいかな?」

 

「ええ、どうぞ」

 

シュテルが居る席は四人掛けのテーブルで、今はシュテルだけしか座っていない。

 

クリスもユーリもヒンデンブルクの他のクラスメイトと夕食を共にしており、今日は珍しく一人だったのだ。

 

そこで、シュテルはみほの相席を了承した。

 

「で、では、失礼して‥‥」

 

みほはシュテルの向かい側に座る。

 

「「‥‥」」

 

その後、夕食を摂るが、シュテルもみほも互いに話す事無く、無言のまま夕食を食べている。

 

((き、気まずい‥‥))

 

夕方の防波堤と同じ様に何となく気まずい空気の中、夕食を食べている二人。

 

「あ、あの‥‥」

 

沈黙を破ったのは、シュテルの方だった。

 

「ん?な、なんでしょう?」

 

「あの‥‥さっき、防波堤に一緒に来た優花里さん?は、一緒じゃないの?」

 

シュテルはあの時、みほの事を迎えに来た優花里さん‥もとい、秋山は一緒じゃないのかを訊ねる。

 

「えっ?ああ、優花里さんは別の人と夕食を食べているよ」

 

「へ、へぇ~‥‥」

 

秋山もクリス、ユーリ同様、他のクラスメイトと夕食を食べているらしい。

 

(あのフライドポテト二倍宣言で、この人が機嫌を悪くしたんじゃないのかな?)

 

シュテルは、あの防波堤で秋山が発したフライドポテト二倍宣言でみほの機嫌が悪く、今日は一緒に夕食を食べたくはないからではないかと思った。

 

「あっ、自己紹介がまだだったね、私はシュテル・H(八幡)・ラングレー・碇。ドイツからの留学生です」

 

シュテルはみほに自らの名を名乗る。

 

「あっ、わ、私は西住みほです」

 

シュテルから名を名乗られ、みほもシュテルに自らの名前をシュテルに告げる。

 

互いに名を名乗り、そのまま二人は夕食を食べていると、

 

「あ、あの‥‥」

 

みほが、恐る恐るシュテルに話しかけてきた。

 

その後、みほはシュテルのこれまでの実績をインタビューする記者の様に訊ねてきた。

 

「実績と言うか、ただ巻き込まれてきただけだよ‥‥まるで、毎度の事、事件に巻き込まれる名探偵の孫や、出かけた先々で事件に巻き込まれる見た目は子供、頭脳は大人なバーロー探偵みたいにね‥‥」

 

「?」

 

シュテルの例えにみほは首を傾げる。

 

どうやらシュテルの例えは分からなかったみたいだ。

 

「イギリスのダートマスでの出来事は私の中では、嫌な事件だった‥‥」

 

「確か切り裂き魔を捕まえた事件でしたよね?」

 

「ええ‥‥ただ、あのサイコパスを捕まえるまでに大勢の女性が殺された‥‥その中にはダートマス校の生徒も居た‥‥グレニアは助けることが出来たけど、私はあの子を助けられなかった‥‥」

 

あの時の状況下では、外に出ていない限り、助けることが出来なかったが、タッチの差、目と鼻の先で、人を助けられなかった事を未だに悔やんでいるシュテルだった。

 

みほとすれば、秋山が調べてきた書類上のシュテルの実績だが、事件に巻き込まれた本人に関してみれば、犯人と対峙した時の恐怖と不安と戦ってきたのだから、『凄いの』一言では片付けられない。

 

もし、自分がシュテルと同じ状況下の時、シュテルと同じような行動がとれるだろうか?

 

シュテルに直に話を聞いて、みほは自問自答する。

 

シュテルとみほの二人の様子を見ていた別のテーブル席に居た女子生徒は‥‥

 

「うぅ~西住殿~‥‥そんなにドイツからの留学生が良いのですか?それともドイツ人ですか!?ドイツ人が良いのですか!?」

 

みほと夕食を食べているシュテルを羨ましがっていた。

 

 

「それに、実績って言うけど、女として大切なモノも失ったし‥‥」

 

「えっ?‥‥それって、もしかして‥‥」

 

みほは、シュテルが過去にイタリアで臓器密売をしているイタリアマフィアと対峙したことがあるし、切り裂き魔に一時的に拘束されたことから、マフィアか切り裂き魔に性的暴行を受けたのかと思った。

 

しかし、

 

「これまでの事件で、私の身体には銃痕が残っているし‥‥」

 

「あっ、そっちの方だったんだ‥‥」

 

「ん?そっち?」

 

「あっ、いや、何でもないよ」

 

みほの予想とシュテルの現実が異なっていたことにみほは少し慌てた様子で 『何でもない』 と取り繕う。

 

次の話題は互いの家柄になる。

 

(この人、私の事を随分と調べてあるな‥‥)

 

過去の実績の他に自分の家について、訊ねながらも当てはまっていることから、みほは事前に自分の事を色々調べてきたみたいだ。

 

何故、みほが自分の事を調べているのか分からないが悪意みたいなモノは感じないので特に言及はしなかった。

 

「へぇ~西住さんの家って名家なんですか‥‥」

 

「う、うん‥‥」

 

みほは恥ずかしそうに肯く。

 

話を聞くと、みほの家は真白の家同様この横須賀でも名家であり、尚且つ資産家でもあるらしい。

 

(確かミケちゃんのクラスにも華族の人が居るみたいだけど、この人もそうなのか‥‥何だか、私の周りには前世でもこの世界でも金持ちがいるな‥‥)

 

前世では雪ノ下家、後世ではクリスもドイツの貴族で、みほも日本版貴族の華族である。

 

「家が大きいとそれなりに付き合いがあって、大変でしょう?」

 

「えっ?ええ、まぁ‥‥」

 

付き合いの事を言われ、みほが引き攣った顔をする。

 

それを見ると本当に大変そうだ。

 

「そう言えば、去年の事なんだけど‥‥」

 

みほは、去年、自分が高校に入学した直後に開かれたパーティーで、分家の同い年の女子高校生とシミュレーションをすることになり、シミュレーションバトルをして、自分はその分家の子に勝ったのだが、その子は自分が負けたことが悔しかったのか、いちゃもんをつけて、その後何度かシミュレーションバトルを行う羽目になった。

 

(金持ちの家の子って変にプライドが高いからなぁ~‥‥あっ、でも、テアやブリジットさん、目の前の西住さんはそうでもなさそうだけど‥‥)

 

雪ノ下やクローナを見てきて、家柄が高い家の子は変にプライドが高い部分もあり、みほとシミュレーションで戦ったその分家の子も雪ノ下タイプの子なのだと思ったシュテル。

 

まさか、その分家の子が雪ノ下本人であると言うことを知るのは、もう少し先のことになる。

 

ただ、この夕食にて、シュテルとみほは、互いに交流を深める一因となった。

 

 

 

 

ここで、視点を横須賀から千葉へと移る。

 

 

 

イギリスのダートマス校への体験入学の道が閉ざされてしまった雪ノ下は、平塚先生に千葉村でのボランティア活動に参加する旨を伝えた。

 

そして、雪ノ下は、次に由比ヶ浜に連絡を入れた。

 

「由比ヶ浜さん」

 

「あっ、ゆきのん、どうしたの?」

 

「千葉村でのボランティア活動、私も参加することになったわ」

 

「えっ?イギリス行きはどうなったの?」

 

由比ヶ浜は、あれだけ夏休みはイギリスに行くと息巻いていた雪ノ下のイギリス行きが中止になった事に驚いた様子だった。

 

「イギリスは‥‥ちょっとした理由で無理だったわ‥‥」

 

詳しい内容を由比ヶ浜に伝えはしなかったが、雪ノ下は、由比ヶ浜にイギリスのダートマス校への体験入学が出来なかったことを伝えた。

 

「そうなんだ‥‥でも、ゆきのんが来てくれるなら、心強いよ。この世界の留美ちゃん、一緒に助けようね」

 

「え、ええ‥そうね‥‥」

 

由比ヶ浜としては、前世で八幡が留美のいじめ問題を解決した方法を知って、この世界でも留美のいじめ問題は起きているだろうと思い、奉仕部としては、川崎の時の様に、留美のいじめ問題を前世と同じ方法で解決するつもりだった。

 

そんな中、雪ノ下がイギリスへ行き、千葉村でのボランティア活動には不参加だと言われた時、由比ヶ浜には 「ちゃんと出来るかな?」 という不安要素があった。

 

しかし、雪ノ下のイギリス行きが無くなったことに由比ヶ浜は正直安堵していた。

 

反対に雪ノ下の方は、やはり屈辱を感じていた。

 

 

こうして、シュテルの方は、自走式気球の実習、そして後世奉仕部は、前世同様、千葉村へのボランティア活動に参加することになった。

 

転生者組がそれぞれ転生者だと気づく 気づかない

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