やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~ 作:ステルス兄貴
シュテル、ユーリ、クリスの三人がキャンプから戻ってから数日後、先日受験したキール海洋学校の合否結果が通達された。
勿論、三人共無事にキール校海洋学校に合格した。
近年の海上交通の発達により多くの人々が船に乗り海を往来する様になった。
それは旅客飛行船以上の旅客人数である。
だが、人の往来が増えたと言う事は海での気象・海象が原因の自然による遭難事故、海賊やテロリストによる襲撃事件も近年増加傾向にある。
そんな海の交通網の安全を守る乙女たち、それがブルーマーメイド。
海洋国家、日本から生まれた世界中の少女達の憧れの職業は日本から離れた遥かヨーロッパの地である此処ドイツでも芽吹いていた。
日本にブルーマーメイドを始めとする海洋従事者を育成する海洋学校が多数存在する様にドイツでも海洋学校は存在していた。
ドイツの海洋学校は大きく分けて二つ。
北海に面したヴィルヘルムスハーフェン校とバルト海に面したキール校の二校だ。
ドイツでは日本と少し教育方針が異なり、中等教育は10歳から始まり、ヴィルヘルムスハーフェン校、キール校は共に成績上位者しか入れないドイツ国内最大の海洋学校である。
入学者は此処で五年の間、海に関する知識を叩き込み、ある者は海洋従事者として働く者、またあるものはブルーマーメイド、海軍軍人、上級海洋従事者として高等部へと進学する者。
そして高等部へ進学後し卒業した後に、ブルーマーメイド、海軍軍人、海運会社へ就職する者もいれば、大学へと進学し、更なる知識の幅を増強する者も当然いる。
そんな海洋職業のまず第一歩である海洋学校の中等部への入学を果たしたシュテル達であったが、ただ、シュテルにとって大きな誤算‥‥
それは‥‥
「くそっ、なんで私が入学式のスピーチなんてしなければならないんだ?」
「いや、それはシュテルンが主席で入学するからでしょう?」
キールへ向かう汽車のコンパートメントでシュテルは原稿用紙とにらめっこをしていた。
そんなシュテルをユーリが駅の売店で買ったお菓子を食べながら『なに当たり前の事を言っているんだ?』とでも言いたげな顔で、シュテルがスピーチをする理由を語る。
シュテルが何故、入学式のスピーチの内容を考えているのか?
それは入学式でシュテルがスピーチをするからなのであるが、その理由はユーリが言う通りシュテルがキール海洋学校の入試において主席合格をしたからである。
(確かに入試の時、解答用紙は全部埋めた‥でも、それがほとんど合っているなんてあまりにも予想外だ。こんなこと、前世では絶対にありえない事だったし‥雪ノ下や葉山あたりが聞いたら、カンニングだと騒いでいたな‥‥)
学者肌の祖父母に同じく学者である母親の子供であるシュテルは転生特典とは異なり、自然とその優秀な頭脳は受け継いでいた。
それに元々、前世でも数学以外の成績がよかったのも作用していたのだろう。
「私はてっきり、クリスが主席だと思っていたんだけどね‥‥」
シュテルは視線を原稿用紙から同じコンパートメントに居るクリスをチラッと見る。
「そんな事ないって、全てはシュテルンの実力だよ」
「‥‥まさかと思うが、クリス、入試の時、手を抜いたりしてないよね?」
シュテルはもしかしたら、クリスが手を抜いたせいで自分が主席になり、入学式でスピーチなんて面倒くさい事をしなければならなくなったのではないかと勘繰る。
「嫌だな、大事な入試に手を抜くわけがないじゃない。キール海洋学校の主席合格なんだから、それは十分に誇っていいと思うよ、シュテルン」
しかし、クリスは主席合格したのはあくまでもシュテルの実力であり、それは十分に誇っていいとカラカラと笑いながら言うが、シュテルとしては入学式でスピーチをしなければならない事と目立つことに面倒くささがあったのだ。
(スピーチね‥‥)
シュテルは視線をクリスから再び原稿用紙へと戻すと、スピーチの内容を書き始めた。
諸君 私は戦争が好きだ。
諸君 私は戦争が好きだ。
諸君 私は戦争が大好きだ!!
艦隊戦が好きだ
砲撃戦が好きだ。
雷撃戦が好きだ。
殲滅戦が好きだ。
打撃戦が好きだ。
防衛戦が好きだ。
包囲戦が好きだ。
突破戦が好きだ。
退却戦が好きだ。
掃討戦が好きだ。
撤退戦が好きだ。
夜戦が好きだ。
河川で、海上で、
海中で、海峡で、
バルト海で、北海で、
大西洋で、インド洋で、
太平洋で、カリブ海で、
この海上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きだ。
戦列をならべた戦艦の一斉発射が轟音と共に敵の港湾施設を吹き飛ばすのが好きだ。
海上へ放り投げられた敵兵が効力射でばらばらになった時など心がおどる。
砲術兵の操る戦艦の主砲が敵艦を撃破するのが好きだ。
悲鳴を上げて燃えさかる艦から海へ飛びこんできた敵兵を20mm機銃でなぎ倒した時など胸がすくような気持ちだった。
魚雷発射管を揃えた駆逐戦隊が魚雷で敵の戦列を蹂躙するのが好きだ。
知らぬ間に魚雷に接近され慌てふためき恐慌状態の敵兵が叫んでいる姿は感動さえ覚える。
敗北主義の水兵達をマスト上に吊るし上げていく様などはもうたまらない。
甲板上で泣き叫ぶ慮兵達が私の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げるシュマイザーにばたばたと薙ぎ倒されるのも最高だ。
哀れなテロリスト達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのをビスマルクの38cm砲弾が艦ごと木端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える。
‥‥海賊やテロリストに滅茶苦茶にされるのが好きだ。
必死に守るはずだった商船隊が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ。
抗えない気象・海象に押し潰されて遭難するのが好きだ。
鮫共に襲われイワシの様に追いかけまわされ、その身を食いちぎられるのは屈辱の極みだ。
諸君 私は戦争を‥‥地獄の様な戦争を望んでいる。
諸君 私に付き従うキール海洋学校生徒諸君。
君達は一体何を望んでいる?
更なる戦争を望むか?
情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?
鉄風雷火の限りを尽くし三千世界の鴉を殺す‥嵐の様な闘争を望むか?
我々は渾身の力をこめて今まさに振り降ろさんとする握り拳だ
だがこの暗い闇の底で半世紀もの間堪え続けてきた我々にただの戦争ではもはや足りない!!
大戦争を!!
一心不乱の大戦争を!!
我らはわずかに一学年、千人に満たぬ学生に過ぎない
だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している。
ならば我らは諸君と私で総兵力100万と1人の軍集団となる。
我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう。
髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう。
連中に恐怖の味を思い出させてやる。
連中に我々の軍靴の音を思い出させてやる。
天と地のはざまには奴らの哲学では思いもよらない事があることを思い出させてやる。
一千人の学生たちの戦闘団(カンプグルッペ)で 世界を燃やし尽くしてやる。
さぁ 諸君‥‥
地 獄 を 創 る ぞ‥‥
(よしっ、こんなもんで良いかな?)
「‥‥ん?」
シュテルがスピーチを書き終え、原稿用紙から視線をクリスとユーリに向けると、二人は何故かドン引きしていた。
「シュテルン‥‥」
「なに?その中二病みたいなスピーチ‥‥」
「えっ?もしかして、私、今のスピーチの内容、口に出していた?」
「「うん」」
「‥‥」
(こ、こんな中二病内容のスピーチを二人に聞かれた‥‥は、恥ずかしい~)
シュテルは恥ずかしさのあまり、顔を赤くして俯く。
「流石に今のスピーチは止めておきなよ」
「シュテルンが危ない人だと思われちゃうよ」
「そ、そうだね‥‥」
シュテルは今書いたスピーチの原稿を破棄して、新たに入学式用のスピーチの原稿内容を考えた。
その頃、三人の目的地であるキール海洋学校の教官室では、
「今度入って来る中等部の主席は純血なアーリア人ではなく極東人との混血らしいですね」
「それにあのクロイツェル家の令嬢はやはりヴィルヘルムスハーフェン校に入るらしい」
「やはり、此処は立地条件が悪いですからな。貴族の子弟はほとんどヴィルヘルムスハーフェンの方に入ってしまう」
キール海洋学校の教官達がこれから入って来る新入生達について話をしていた。
だが、主席合格したのが純血なドイツ人でない事やドイツでは有名な海軍大将、ブルーマーメイド隊員であるクロイツェル家の娘を始めとして多くの貴族の子弟がヴィルヘルムスハーフェンに入る事にやや不満な様子。
例え形だけの貴族でもブランド名として学校の名前を売るには利用価値があり、その貴族の子弟が将来、ブルーマーメイドになり功績を立てれば、卒業校である学校の名前もさらに売れ、それは入学希望者の向上にもつながる。
今年はそれがあまり見込めないと思った教官達が不満と愚痴を零す中、
「そうでしょうか?」
一人の教官は異を唱える。
「ん?ヴィルケ教官?」
「担当教官として、私はむしろ期待をしています。例え平民や下級貴族出身でも、血統が混血でもそれが新しい風を送り込むきっかけになるんじゃないでしょうか‥‥?」
その教官は口元を優しく緩め、笑みをこぼした。
キール海洋学校の敷地内は今日、入学する新入生達でごった返していた。
皆、これから始まる学校生活に期待をしているのかソワソワと落ち着かない様子だ。
また、近場に家がある者は家族も一緒に来ており、娘の晴れ姿をカメラで記録を残す家族もいる。
シュテルも父親のシンジは海外公演で見送りには来れなかったが、母親のアスカ、ユーリの両親は駅までわざわざ見送りに来てくれた。
しかし、クリスの両親は来なかった。
(そう言えば、クリスの両親って会った事が無いな‥‥)
シュテルはこれまで何度かクリスの家に行ったことはあるが、彼女の両親と出会ったことがない。
それに下級とは言え、貴族の家なのにクリスの家には執事もメイドも居ない。
もしかして、クリスは前世の自分のように両親から育児放棄を受けているのではないかとシュテルは家族連れで来て居る新入生達を見ながらそう思った。
「えっと‥‥入学式の会場ってどこだっけ?」
「港湾地区だってさ」
「迷って遅れるのは恥ずかしいから先に行って待っていよう」
「そうだね」
シュテル、ユーリ、クリスの三人はまだ開場前であるが、先に入学式の会場へと向かう。
入学式の会場である港湾地区はその名の通り、キール海洋学校の港であり、そこにはキール海洋学校が所有している教育艦が多数停泊している。
「あそこに泊まっているのが‥‥」
「ああ、五年後、私らが乗るかもしれない艦だ」
「すごいね、シャルンホルストにプリンツ・オイゲン‥グラーフ・ツェッペリンにUボートまでいる」
「通常潜水艦は男の世界だけど、此処は世界でも少ない、女子の潜水艦乗りの育成もしているからね」
「まぁ、中等部の間は、あっちの教育艦で頑張ろう」
港湾地区に停泊する艦船の中で前時代的な姿の戦艦が泊っている。
それは中等部での教育で使用する中等部合同教育艦であった。
中等教育中はこの艦でそれぞれの適性を見極め、高等部ではその成績と適性で乗艦する学生艦が決まる。
やがて、入学式の時間となると港湾地区には新入生と教官達が集まり、入学式が始まる。
式は学長の話を始めとし、地元の名手の祝辞、生徒会長の言葉と式の流れはどの学校でもお決まりの流れだった。
「学長、ありがとうございました。では、続きまして新入生代表の挨拶です」
そして等々シュテルがスピーチをする番となった。
壇上に上がったシュテルは緊張でコチコチになっている。
(こんな時、雪ノ下さんや雪ノ下みたいな鋼鉄の精神が羨ましい‥‥文化祭の時の相模もこんな気持ちだったのかな?)
普段から人の上に立つことに慣れている陽乃や人の上に立ちたがっている雪ノ下はこういう時は平然と挨拶を出来たかもしれないが、今のシュテルは前世において文化祭の開会式で緊張のあまり下手な挨拶をした相模の事を思い出していた。
あの時の相模もきっとこんな気分だったのだろうと‥‥
シュテルは一度深呼吸をした後、
(よし、いくぞ!!)
気持ちを落ち着けた後、壇上へと上がる。
新入生、教官らの視線が壇上の上に立つシュテルに集中する。
「クリス、シュテルン大丈夫かな?」
「流石にあの中二病内容なスピーチはしないと思うけど‥‥」
ユーリとクリスは行きの汽車の中でシュテルが口走った中二病全開のスピーチにはドン引きしたので、流石に大勢の人が見ている入学式では、あんな内容を言う訳が無いと思っていた。
そして、シュテルがマイクの前に立ち、口を開く。
「新入生代表のシュテル・H・ラングレー・碇だ。入学にあたり、いまさら改めて何も言うことはない。中等教育の中で各員がそれぞれの適性を見極め、それを将来の為に役立ててもらいたい。以上」
シュテルは一礼し、壇上から降りた。
「ふぅ~」
壇上から降りたシュテルはもう一度、深呼吸をして息を整えた。
(あぁ~緊張した~長々と言葉を述べるよりもさっさと終わらせたが、あれで大丈夫かな?)
そして、先程のスピーチが大丈夫かと今更心配した。
入学式が終わり、それぞれの教室に入ると、ユーリとクリスもシュテルと同じクラスだった。
やがて、教室に一人の女性教官が入って来た。
「皆さん、改めて入学おめでとう」
教官は優しい笑みと優しそうな声で新入生の入学を祝う。
(なんだろう?この人、一見優しそうだけど、怒らせたらジャンクにされそうな気がする‥‥)
シュテルは教官の声を聞いてちょっと身震いする。
「皆さんは今朝、家を出る時、当然玄関から出てきたと思います。ですが、今朝皆さんがくぐってきた学校の校門は正門ではありません。通用門です」
教官の言葉にあの校門以外に別の入り口があったのかと思う新入生達。
「では、正門はどこにあるのか?答えは窓の外よ」
教官から言われ、皆は窓の外を見る。
「此処からは皆さんが先程までいた港湾地区‥そこから桟橋が見えるわね?あそこが正門よ。海洋学校の正門は常に世界の海へと向けて開かれているわ。もちろん、門が常に開かれているからと言っても生半可なことでくぐらせる訳にはいかないの。中等部、そして高等部卒業までに一人前の若い人魚になってもらうからそのつもりで‥‥あっ、自己紹介が遅れたわね。私は貴女達の担当教官になったミーナ・ディートリンデ・ヴィルケよ。キール海洋学校へようこそ、私達教官一同、貴女達を歓迎するわ。でも、あまりおいたがすぎると‥‥ジャンクにするわよ」
やはりミーナ教官の笑みは優しそうな反面、物凄く怖かった。
教室に居る皆は絶対にミーナ教官を怒らせまいと心の中で誓った。
入学式当日は式のみで授業は明日から本格的に始まる。
シュテルとクリスは陸にある学生寮へと向かう為、学校の敷地内を歩いていた。
ユーリは購買部を除きに行き、どんな食べ物が売っているのかを見に行った。
(やっぱりあの教官、ただ者じゃなかった‥‥雪ノ下さんや怒らせたクリス並みの危険人物だった‥‥)
シュテルは自分達の担当教官‥ミーナについて思っていた。
あの人は怒らせたクリス、前世の魔王こと、雪ノ下陽乃と同じ部類の人間だ。
教師でも感情を表に露わにして拳を振って来る独神こと、平塚先生よりもおっかない人だ。
「シュテルン、なにか失礼な事を考えていなかった?」
すると、クリスが笑みを浮かべながら訊ねてきた。
「い、いや、何も‥‥」
学生寮は主席と次席が同じ部屋であり、シュテルとクリスは同室となった。
ユーリとは別々になってしまったが、クラスは同じだし、部屋に行ってはいけないと言う校則はないので、いつでも会う事は出来る。
部屋にある寝具はシングルベッドが二つではなく、二段ベッドであり、話し合いの結果、上がクリス、下がシュテルとなった。
シュテルがベッドの下を選んだのは、梯子を登る手間が省けるからだと言う理由からだった。
「ねぇ、シュテルン」
「ん?」
「此処から先は決して楽しいことばかりじゃないかもしれないけど、私はシュテルンの味方だからね‥‥それはきっとユーリも同じだと思うよ」
「えっ?あっ、うん‥ありがとう」
学生寮の窓から差し込む夕日に照らされたクリスの笑顔は、今は同性となっているシュテルでも思わず見初める程輝いて見えた。
今回のゲストはストライクウィッチーズのミーナ中佐であり、彼女はこの世界では、キール海洋学校の教官となっています。