やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

118 / 161
今回も明乃たちの旅行編で、彼女たちが怪談話をしています。


117話

残り僅かな夏休みを利用して、明乃たちは千葉県の房総へプチ旅行に来ていた。

 

日中は海水浴に地元の温泉、夜はホテルの温泉に夕食とバカンスを楽しんだ明乃たち。

 

そして、夜となり入浴を済ませ夕食も食べ終わった頃、西崎が怖い話をしようと提案する。

 

ホラーやオカルトの類が苦手な真白と鈴は反対するもその他のメンバーが乗る気だったので、夜の残りの時間が怪談話となり、最初は言いだしっぺの西崎が怖い話をすることになった。

 

「‥‥これはとある海辺の町で起きた出来事なんだけど‥‥」

 

 

 

 

サラリーマンAの趣味は釣りだった。

 

彼は海、川、湖どこでも場所を問わず幅広く釣りを楽しんでいた。

 

そんな彼が一番好きな釣りは船で海の沖合まで行く沖釣りだった。

 

彼は、長期連休を目前にして心は居ても立っても居られない状態だった。

 

というのも、その長期連休を利用して釣り仲間と旅行がてら海釣りを堪能するという企画を立ち上げ、首を長くして待ちわびていたのだ。

 

日中は一日中ほぼ釣り三昧。

 

夜は自分たちが釣った海の恵みを肴にして地元の名酒を嗜む。

 

それを想像するだけで心が踊る。

 

そして連休初日、彼は仲間二人の計三人で車に乗り込み、馴染みの港町へと向かいまずは旅館でチェックインを済ませた。

 

彼らの住んでいる所からこの港町までは少し遠かったので、初日は温泉と旅館の食事を楽しみ、翌日から休みが明けるまで釣り三昧の予定だった。

 

深夜に目を覚ますと彼らはテキパキと着替えと釣りの準備して、日が出る前には宿を後にした。

 

釣り人の朝は物凄く早いのだ。

 

乗せてもらう船の船長とはもう長い付き合いで、地元でもベテランの漁師であり、海の事は知り尽くしたという知識と経験に彼らは絶大な信頼感があった。

 

船に乗り早速沖へと向かう。

 

夜の海はどこまでも続く漆黒の闇で船の光が無ければ、自分の体すらはっきりとは見えない。

 

月が出ていればある程度は見えるが、見えると逆に広大な自然の中にポツンと置かれている状況が目に入り恐怖すら感じる。

 

船を止めて釣りを始めた頃にようやく空も段々と白み始めた。

 

船長がおすすめの穴場スポットは外れがなく、彼らは魚を釣りまくった。

 

彼らがある程度の釣果をあげた頃、Aはある音に気づいた。

 

 

ギィ…ギィ…

 

 

何かが軋むような音が、波の音の合間に確かに聞こえた。

 

当初彼は船が波で揺れた音かと思ったが、それなら釣りをしている間にも聞こえた筈だ。

 

突然聞こえ始めた音に仲間たちも「なんだろうね?」と首をかしげる。

 

どうやらこの音は他の仲間たちにも聞こえたみたいだ。

 

となると、やはり船が波で揺らいだ音なのだろうか?

 

Aたちが怪訝な顔をしていると、音を聞いた船長が突然、

 

「お客さんたち、すまんが潮が変わったみたいで今日は終わりだね。すまないね」

 

と、船を動かして港に引き返し始めた。

 

船長の態度に違和感を覚えるも船では船長の言葉は絶対であるし、『明日もあるしな』 と思い、その日は麓の町を観光することにした。

 

しかし、Aは陸に戻ってからも、あの音が気になって考えていた。

 

魚の食いは絶好調だったのになぜ船長は帰る選択をしたのか?

 

いつもなら船長の方が率先して粘り、魚が食いつくまで海に居る筈だったのに‥‥

 

あの音を聞いてまるで逃げるように戻った事から、あの音には何か秘密があると思ったのだ。

 

 

次の日、また日が昇る前の夜中から船に乗り込み、沖へと向かう。

 

スポットまでの移動中にAは何気なく船長に訊ねた。

 

「なぁ、船長、昨日聞いたあのギィギィっていた音はなんなんだ?」

 

すると船長は少し困ったような顔をして、

 

「まぁ、帰れっちゅう合図だわ」

 

と答える。

 

船長の答えに腑に落ちず、もう少し詳しく聞こうと思ったのだが、ポイントに到着したので彼らは釣りを始めた。

 

波はとても静かで、いわゆる凪の状態‥‥

 

海だけでなく彼らの竿も静かで、会話をすることもなく静寂な時間だけが過ぎていく‥‥

 

そんな中、

 

 

ギィ…ギィ…

 

 

昨日聞いたあの音が聞こえてきた。

 

この音は一体どこから聞こえてくるのだろうか?

 

耳を澄ませてみると、その音は海の彼方から聞こえる。

 

そして目を凝らしてみると、水平線の彼方に何かが居る事に気がつく。

 

それは小さな木造船のようで、誰かが船上に立ち艪を動かしていた。

 

その木造船はゆっくりと確実に自分たちに近づいてきた。

 

「船長、木造の艪漕ぎの船がこっちにちかづいているみたいですけど‥‥」

 

Aが船長にそう伝えると、

 

「本当か!?」

 

船長は大声を出して次に、

 

「漕いでいる人は何人いる!?」

 

と、訊ねてきた。

 

Aたちが木造船には二、三人居ると答えると船長は急に船を動かした。

 

「荒っぽくてすまんが、急いで戻るぞ!!」

 

船長のただならぬ雰囲気に彼らにも緊張が走る。

 

一体あの木造船は何なのだろうか?と思っていると、船のエンジン音に混じってまたギィギィと櫂を漕ぐ音が聞こえてきた。

 

Aがまさかと思い後ろを振り返ると、あの木造船がだんだんと近づいてくる。

 

手漕ぎの船がエンジン付きの船に追いつくなんて有り得ない。

 

一体あの船は何なのかとジッと見つめているとAは見てしまった‥‥

 

船に乗り櫂を漕いでいたのはミイラだった。

 

骨と皮だけになって、とても生きているとは思えない人が、それでも手を動かして櫂を漕ぎ向かってくる。

 

「船長、近づいてくる!」

 

Aは恐怖から思わず声をあげるが、船長は反応すらせず操縦に夢中だった。

 

その様子はまるで一心不乱にあの船から逃げているみたいだ。

 

「ありゃ一体、何なんだ…。」

 

見える仲間と呆然としていると陸が見え始め、追ってくる船は次第に離れてやがて見えなくなった。

 

陸に上がると船長は、

 

「今日は宿ではなく、神社に泊まらなければならない」

 

と言って、Aたちを地元の神社に案内した。

 

神社に着くと船長は神主に、

 

「このお客さんたちが 『かじこ』 を見ちまったんだ」

 

と、訳を話していた。

 

船長から訳を聞いた神主はAたちを強引に宿泊させた。

 

Aは先程船長の口から洩れた『かじこ』の正体を神主に訊ねた。

 

すると、神主はAたちに『かじこ』について教えてくれた。

 

 

明治初期の頃‥‥この地域では漁業が主な仕事であり、家族総出で海へ出て生活を支えるのが日常だった。

 

当時は学校なんてものも普及していなかったので、端もいかぬ子供も貴重な労働力であった。

 

ところが漁獲量の増加と人出不足が相まって、どこからか労働力を調達しなければ収入が減り、他所に追い抜かれる。

 

そこで白羽の矢が立ったのが、生活苦によって売りに出されたり、身寄りが無く行き場を失った子供たちだった。

 

今では信じられない事であるが、子供が貴重な労働力として人身売買や奴隷、強制労働の犠牲となっていた時代が日本にもあった。

 

しかし、子供が働くのが当たり前な時代‥労働基準法なんて法律はなく、櫂を漕ぐ役目の子供たち‥‥『かじこ』の扱いは非人道的なモノもあり、子供たちは単なる労働力か船の部品の一部としか見なされず、朝から晩まで働きっぱなしで、逃げ出したり、反抗しようものなら凄惨な仕打ちを受けて亡くなる場合も多くあった。

 

『かじこ』の子供たちが一体どれだけ過労死、病死、事故死、自殺したのか正確な人数は分からない。

 

そんな時代が続いて、いつからかこの港町では、『かじこの亡霊を見た』 いう話が出始めた。

 

船に乗っている『かじこ』の数は見た人によって異なり、多く見えるほど近いうちに死ぬ確率が高まるそうだ。

 

おおむね四人以上だと、一週間もしないうちに何らかの理由で死亡するらしい。

 

見える『かじこ』の人数は社会的な地位に密接な関係があるらしい。

 

例えば多くの部下がいる大きな会社の社長、世間では著名な有名人や地位、権力がある議員みたいな人、村長や町長、市長、または財を多く持っているような金持ちも『かじこ』を見ると死ぬ。

 

神主さん曰く、数えきれないほどの『かじこ』を見たという大会社の社長は、数日後に崖から転落して亡くなったらしい。

 

近年は非人道的な労働は無くなり、幽霊も時間が経って成仏していっているのか、『かじこ』を見たという人自体が珍しいと言っていた。

 

Aたちは決して金持ちでもなければ、社長でもないごくごく平凡なサラリーマンであり、『かじこ』を見ても死ぬことはないと言われ、ホッとした様子だった。

 

その夜、トイレに行くたくなり、Aは目を覚ましました。

 

歩くとギィギィ鳴る廊下に、思わず『かじこ』が漕ぐ櫂のギィギィと言う音が重なって背筋が寒く感じられる。

 

とっとと用を済ませて布団へ潜り込みたい。

 

焦る気持ちで用を済ませていると、音が聞こえてきた。

 

ギィ…ギィ…

 

近いような遠いような距離感で、確かにあの音が耳に入ってきた。

 

まさか『かじこ』が来た?!

 

Aは身動きせず、息を潜めて神経を集中させ様子を伺う。

 

音はいつまで経っても止まず、不気味に一定のリズムを刻み続け、Aはどうすべきか必死に考え続ける。

 

トイレで一晩中こうしてジッとするのか?

 

いや思い切ってトイレから脱出し、神主さんたちへ助けを求めるべきか?

 

まさか『かじこ』が、自分を迎えに来た?

 

冷や汗をにじませながらAが出した結論は、『トイレから出て助けを求める』 だった。

 

息を潜めて、なるべく音を立てないよう慎重に移動し、恐る恐る扉を開けて様子を確認する。

 

するとそれはそこに居た‥‥

 

子供くらいの身長のミイラが廊下に突っ立っていた。

 

目と口にはぽっかりとやたら大きい黒い穴がアンバランスに開いていて目の前に存在しているのは確かなのだが、目の前の信じられない現実にまるでゲームの映像を見ている様な印象を受ける。

 

Aは恐怖で大声を出そうとするが、声どころか身動き一つ出来ない。

 

彼は立ったままの状態で金縛りになったのだ。

 

『かじこ』もAもピクリとも動かなかったが、『かじこ』の黒い目をみているとそれがどんどん大きくなっていき、まるで吸い込まれるかのような感覚に陥った。

 

気が付くとAは布団の中で横になっていた。

 

傍らでは神主さんが祈祷を行っており、起きたAに気づくと目が覚めてホッとしたと胸をなでおろしていた。

 

その後、Aたちはこれといった異変はなく、無事に旅行から地元に帰った。

 

 

 

 

「‥‥どうだった?」

 

西崎が怖い話を終えると、鈴と真白が抱き合っていた。

 

「まぁ、出だしとしてはまずまずだな」

 

「うぃ」

 

美波と明乃、立石は特に怖がっている様子はなかった。

 

「じゃあ、次は私ね」

 

次は明乃が怖い話をすると言う。

 

「艦長、ちょっと待ってください」

 

そこへ、真白が『待った』をかける。

 

「ん?なに?シロちゃん」

 

「この前みたいに、冗談だったり、虫に関する話は止めてください」

 

「分かったよ」

 

以前、明乃が話したムカデの話で酷い目に遭った一同‥その被害者の一人である真白は明乃に対して釘を刺した。

 

明乃自身もウルスラにキツイお灸をすえられたので、今回は西崎が話したようにちゃんと普通の怖い話をすることにした。

 

「じゃあ、話すよ。これはねぇ、私が施設時代にその施設で働いていた人から聞いた話‥‥」

 

明乃は施設時代にお世話になった施設の職員から聞いた話をみんなに語りだした。

 

 

 

 

その施設の職員Bが高校生の頃‥‥

 

Bには年の離れた弟であるCがおり、Bが高校生当時、Cは小学生だった。

 

二人は仲のいい兄弟で、夏休みに二人は両親と共に祖父母の家に泊まりで遊びに行った。

 

祖父母の家は少し歩いたところに海があり、裏手には山が広がっている田舎であったが、自然のあるいいとこ取りの立地だった。

 

夜になると大人たちは酒盛りをして盛り上がっていた。

 

まだ小学生だったCには退屈だったらしく、CはBに遊びたいとせがみ、Bは海辺に散歩でもしようと言って両親に一言声をかけ、Cと共に海辺に出かけた。

 

田舎の夜の海は同じ海辺でも都会の海辺と異なり明かりも少なく都会育ちの二人には何だか新鮮に感じる。

 

Cはパタパタと砂浜に続く階段を降りていく。

 

Bはゆっくりした足取りでCの後を歩いて行く。

 

すると、Cは海辺で人が集まっているのを見つける。

 

この時、二人は花火かお祭りでもしているのかと思った。

 

集まっている人たちは皆、白い衣装を身に纏っており、暗い浜辺でもぼんやり浮き上がっている様に見えた。

 

Cはその人たちのところに駆け寄っていく。

 

当然、BもCを追いかける。

 

するとCは、

 

「ねぇ、兄ちゃん、あの人たち拍手をしている。僕たちに『おいで』って言っているんじゃない?」

 

そう言ってCは嬉しそうにその人たちの所へと走っていく。

 

確かにBの耳にはパチパチパチと手を打ち鳴らす音が聞こえる。

 

この時、Bは妙な違和感を覚えた。

 

しかし、CはBの制止を無視してその人たちのところへと向かう。

 

「お、おい、待て!!」

 

Bは慌ててCを追いかける。

 

そして、集まっている人たちの顔を視認できる距離に近づいた時、全身に鳥肌が立った。

 

パチパチパチと言う音も聞いていて嫌悪感を覚えるし、本能的にあの人たちに近づきたくなくなってきた。

 

そこで、BはCの腕を掴み、『帰ろう』と言う。

 

しかし、CはBの声が聞こえないかの様にBの腕を振りほどいて拍手している白装束集団の下に駆け寄る。

 

そして、Cは白装束集団に声をかけるが誰も返事はせず、ただ拍手をしている。

 

白装束集団はBとCの方を向き、一心不乱に拍手しているだけ‥‥

 

その姿はまるで危険な宗教団体みたいで、なによりその人たちの顔色が青く、気味が悪い。

 

そこで、Bはあることに気づいた。

 

二人が来た時、時計の針は夜の10時を指しており、夜の浜辺で明かりも点けずに黙って拍手をしている白装束集団‥‥どう考えても不気味である。

 

Bは慌ててCに止まるように言うが、Cはその人たちに近づくが、ある程度の距離で止まり、

 

「兄ちゃん‥‥あの人たちの足‥‥」

 

「足?‥‥っ!?」

 

Cに言われ、白装束集団の足元を見ると、なんとその集団の人たちは全員、膝から下がなかった。

 

決して海に入っているとかではなく、太ももあたりから徐々に透けており、白装束集団は浜辺から数十cmほどの宙を浮いているのだ。

 

あの白装束集団は、この世の者ではないと判断したB。

 

「帰るぞ!!」

 

Bが急ぎ、Cを連れて帰ろうとした時、白装束のCと同い年くらいの男の子がCの腕を掴んでいた。

 

「おい、離せよ!!」

 

Bは男の子の腕を掴むが、男の子はがっしりとCの腕を掴み、しかも氷の様に冷たく、湿っていた。

 

やがて、男の子はCを海の方へと引きずる。

 

他の白装束集団はそれを祝福するかのように拍手している。

 

Bは男の子の顔に向かって砂浜の砂を投げつける。

 

すると、男の子は一瞬、怯むとBはCを抱きかかえて全力疾走で祖父母の家へと逃げ帰った。

 

チラッと浜辺をみると、白装束集団は狂ったように拍手をしている。

 

そして、よくよく見ると、その手は通常の拍手と異なり、手の平で拍手しているのではなく、手の甲を打ち鳴らしている。

 

あまりにも異様な光景にBは悲鳴を上げ、泣きながら祖父母の家へと逃げ込む。

 

家に戻ってきた時、既に日付は変わっていた。

 

Bは両親と祖父母に浜辺でのことを話すと、祖父から

 

「盆の期間中は水辺に行ってはいけない」

 

と、注意を受けた。

 

お盆の期間中は死者が現世に帰ってくる。

 

霊は水辺など湿った所に集まりやすい。

 

そして、海は無縁仏や海で死んだ亡者が集まっており、Bが見た変わった拍手‥‥手の甲を打ち鳴らすあの拍手‥‥あれは裏拍手と言われるモノで、死者が生者を誘う為の拍手なのだと言う。

 

 

「‥‥だから、みんなもお盆の時には海とか水辺には近づかないようにね。それと生きている人と死んでいる人の世界は裏表みたいになっていて、死んだ人は裏拍手と同じ様に着ている服も裏地を表にして、生きている人とは逆の服装をしているみたい‥‥それに靴も左右逆に履いているみたいだから、もしそんな奇妙な服装をしている人に会ったら気をつけてね」

 

明乃の話を聞いて、美波以外は怖がっている。

 

もし、この場にクリスが居たら、もう少し生者と死者の世界について詳しく教えてくれたかもしれない。

 

その次は真白となったのだが、真白は番町皿屋敷のお菊さんの話をして、ちょっと滑った感があった。

 

「じゃあ、次は鈴ちゃんね」

 

「えっ?わ、私!?」

 

次に指名された鈴は驚いたような声をあげる。

 

「鈴ちゃんの実家は神社だから不思議な体験とか怖い話には困らないんじゃない?」

 

「うぅ~私自身、そんな体験はないけど‥‥こ、これは、知り合いの人から聞いた話なんだけど‥‥」

 

鈴は恐る恐る語りだした‥‥

 

 

 

 

鈴の知り合いの人、Dの祖母の姉であるEが亡くなったので、一家総出で葬式に参列した。

 

葬儀場で一族が集まる中、Dの一個上のFと言う従兄弟が居たのだが、彼は葬式には参列していなかった。

 

この時ふと、小学生の頃に同じように親戚の葬式があってその葬式が終わってからFと遊んだ時に怖い目に遭った事を思い出した‥‥

 

ある冬の日、Eの旦那さんが亡くなり、一族が葬式の為にEの家に集まった。

 

まだ小学生だったDは葬式云々よりもFと出会い、一緒に遊べるってことしか頭になかった。

 

通夜の夜、食事の最中に「何でこんな日に亡くなるかねえ」とか親戚がボソっと口にした。

 

翌朝起きたら家の前に何か木で編んだ小さな籠みたいなものがぶら下がっていた。

 

他にも繋げ字で書かれたお札の様な短冊みたいなものも家の壁に貼られていた。

 

家中のドアや窓のあるところ全部に吊してあり、紐一本でぶら下がっているから、Dはついつい気になって手で叩いて遊んでいたら、父親に思いっきり叱られた。

 

なんでこんなモノを家に吊るすのか?

 

Dはこの地域に伝わるおまじないの類かとこの時はそう思った。

 

告別式が終わり、近場に住んでいる親戚たちは急いで帰っていくが、DとFの家はここから遠くにあるので、今日もEの家に泊まることになった。

 

Dが家の中でFと遊んでいたら「静かにせぇ」って怒られた。

 

夕方にいつも見ているテレビ番組が見たくて「テレビ見たい」って言っても怒られた。

 

「とにかく静かにしとけぇ」って言われた。

 

あんまりにも暇だからFと話して「海見にいこう」ってことになった。

 

玄関で靴を履いていたら、Eが血相変えて走ってきて、服掴んでリビングの方まで引っ張っていかれた。

 

「今日は絶対に出たちゃいかん!二階にいとき!」

 

と、真剣な顔して言われた。

 

そのままほとんど喋ることなく、Fとボードゲームか何かして遊んで、気が付いたら寝ていた。

 

どれくらい寝ていたのかは分からないけど、尿意を感じて目が覚め、トイレに行こうとした。

 

すると、海の臭い‥‥潮の様な磯の様な臭いがしてきた。

 

用を足して二階に戻ろうとした時、

 

「あんね、夜に外に誰か来るんだって」

 

Fと出会い、彼のその言葉を聞いて妙な好奇心が湧き、小学生の自分たちでも背が届くトイレの窓から外を覗くことにした。

 

音を立てないように静かに窓をずらして、海の方を見た。

 

Eの家は海辺のすぐそばにあり、トイレの窓からは海が良く見える立地になっていた。

 

「ほんまにおるん?」

 

「いるって、Eが言っていたもん」

 

やがて、

 

ギィギィ

 

木が軋むような音が聞こえた後に、

 

トス‥トス‥‥

 

砂浜を歩く音が聞こえる。

 

遠くの方に何かボロボロの布のような物が宙を舞っていた。

 

よくわからないが青白い布の塊みたいな物が少しずつ陸地に向かってくる。

 

「戻ろう!」

 

Dはそれをほんの少し見て、怖くなり窓を閉めてFに部屋に戻ろうと言う。

 

しかし、Fは、

 

「僕も見る。ちょっとだけだから」

 

Fは窓を開けて外の様子を見た。

 

「ねぇ、もう戻ろうよ!!」

 

「‥‥」

 

DはFに戻ろうと言うがFは無反応。

 

やがて、Fは外を覗き込んだまま「ヒッ ヒッ、」と引きつったような声を出した。

 

Fの豹変した様子を見て何がなんだか分からなくなってDがオロオロしていると後ろで物音がした。

 

「お前ら何している!?」

 

Fの父親がものすごい形相で後ろに立っており、DとFはトイレから引きずり出された。

 

「お前見たんかい?見たんかい!?」

 

大声を聞きつけてEもやってくると、Dに窓の外を見たのかと聞いてきた。

 

「外見たけど、何か暗くてよく分からんかったから、すぐ見るのをやめた」

 

Dはそう答えるが、Fは笑っていた。

 

「ヒッ ヒッ、」としゃっくりのような声だけど、顔は笑っているような、泣いているような、突っ張った表情をしている。

 

「Fは夜が明けたら、〇〇さんのとこ連れていくで!!」

 

夜明けにFはどこかに連れて行かれるみたいだった。

 

Dは部屋に戻され親の監視の下で寝ることになった。

 

別の部屋からはお経の様なモノも聞こえた。

 

翌朝、Dが起きると家の中にFの姿はなかった。

 

Eに訊ねると、

 

「熱が出たから病院にいった」

 

とだけ聞かされた。

 

 

朝食の時、Eから「お前ら本当に馬鹿なことをしたよ」みたいなことを言われた。

 

親は帰り支度を済ませていたみたいで、ご飯を食べてすぐに帰ることになった。

 

翌年の以降、自分はEの家には連れていって貰えなかった。

 

中学2年の夏に一度だけEの家に行った。

 

その時も親戚が集まっていたけど、その中にFの姿はなかった。

 

「塾の夏期講習が休めなくてねぇ」

 

と、Fの母親はそう言っていた。

 

でも、その年のEの葬式の時、親戚の人が、

 

「F君、やっぱり変になってしまったみたいよ」

 

と言っていたのを聞いた。

 

あの時、Fが何を見たのかは分からないし、自分が何を見たのかははっきり分かってない。

 

父親にあの時の話を聞いたら、

 

「Fが見たのは『海難法師』と呼ばれる怨霊だろう。昔、悪代官に嵌められて亡くなった村人の悪霊だと言われている。海難法師が海から上がってくるあの日には魔除けを施す風習が残っているんだがまさか、こんなことになるなんてなぁ‥‥」

 

と、父親は顔を渋くさせながら『あの日』の事をDに教えた。

 

親戚の中にぽっかりと開いた空席を見つめながら当時の出来事ともう二度と正気には戻らないであろうFの事を思い出すと、あの時、自分もアレを直視していたらと思うと背筋が凍るような心持になるDだった。

 

 

 

 

「‥‥って話です」

 

『‥‥』

 

鈴が話を終えると、明乃たちは互いに身を寄せ合っていた。

 

「『あの日』っていつなの!?一体いつなの!?」

 

「う、うぃ‥‥」

 

西崎が鈴に『海難法師』が出る日を聞いてくる。

 

「さ、さあ‥‥私もその日までは詳しく聞いてなくて‥‥」

 

「じゃあ、明日の朝にその人に電話して聞いておいて!!」

 

「は、はい‥‥」

 

西崎の勢いに押されて頷く鈴だった。

 

怖いものが苦手の筈の鈴が平然と怖い話して、さらにその内容も恐かったことにより、すっかり油断していた西崎たちであった。

 

 

あれだけ怖がったのに、その後もローテーションで怪談話を行い彼女たちの夜は更けていった‥‥

 

ただ翌日、明乃たちが寝坊したのは言うまでもなかった。

 




あと一ヶ月後にはいふり劇場版の円盤が発売。

dストアーでは既に配信されているみたいですが‥‥

さらに円盤の発売前にコミックとスピンオフ小説の販売もあるみたいなので、来月が楽しみです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。