やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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今回はシュテル視点の話です。


118話

 

 

明乃たちが千葉の房総へプチ旅行に出かけた日、シュテルは夕方、千葉みなとでカナデと共に花火大会に行くことになったのだが、日中は特に予定がなかったのだが、クリスから、

 

「シュテルン、今日は確か千葉みなとに行くんだよね?」

 

「うん‥夕方からだけど‥‥」

 

「じゃあ、昼間は特に予定が有る訳じゃないんだよね?」

 

「えっ?まぁ‥そうなるかな‥‥」

 

「じゃあさ、今日の昼頃は体空けといてくれるかな?」

 

「えっ?まぁ、いいけど‥‥」

 

「それじゃあ、ちょっとユーリと一緒に昼頃まで時間潰してきて」

 

「えっ?」

 

シュテルは何故かユーリと共に昼頃まで時間を潰すように言われた。

 

「一体何なんだろうね?」

 

「さあ?私もクリスから昼頃まで適当に時間を潰すように言われてから‥‥」

 

ユーリもシュテルと同じ様に昼頃まで適当に時間を潰してきてくれと言われていた。

 

シュテルもユーリも何故、クリスが昼頃まで時間を潰してくるように言ってきたのかその理由を知らなかったし、クリスも言わなかった。

 

 

二人は横須賀の繁華街に出ると、

 

「さてと、どこに行こうか?」

 

「昼までそんなに時間が有る訳じゃないから、適当にゲーセンにでも行こうか?」

 

昼時までそこまで時間が有る訳ではないので、二人は近くのゲーセンで時間を潰すことにした。

 

ゲーセンに入るとユーリは射撃ゲームをプレイする。

 

「ユーリ、私はちょっとクレーンゲームの所に行ってくるから」

 

「うん‥分かった」

 

相変わらず射撃が上手いユーリはミスプレイをせずにゲームシナリオを進めていくのでこれではいつ終わるか分からない。

 

もしかしたら、クリアーするまでミスはしないかもしれない。

 

そこでシュテルはゲーセン内の中にあるクレーンゲームのコーナーへと足を運んだ。

 

(ゲーセンか‥‥前世で由比ヶ浜の誕生日プレゼントを雪ノ下の奴と一緒に買いに来た時の事を思い出すなぁ‥‥)

 

(あの頃は雪ノ下の罵倒はあったけど、あの二人となら、もしかしたら‥‥なんて思っていたけど、最初から間違っていたんだよなぁ‥‥)

 

(元々、初対面の人間を罵倒したり、人の事を口癖の様に『キモイ!!』と連呼してくる恩知らずな奴と信頼関係なんて築けるはずがなかったんだ‥‥ホント、前世の俺はどうかしていたな‥‥)

 

クレーンゲームのコーナーを歩いていると、前世で由比ヶ浜の誕生日プレゼントを買いに行く雪ノ下に付き合って、彼女の為にパンさん人形を取ってあげた時の事を思い出す。

 

シュテルが前世の思い出に浸りながらクレーンゲームのコーナーを歩いていると、

 

「ん?ま〇マ〇プレミアムフィギュア‥‥」

 

某魔法少女アニメキャラのフィギュアが目に入った。

 

「へぇ~なかなかの出来じゃん‥‥よしっ、やってみるか‥‥」

 

シュテルはポケットから財布を取り出し、フィギュアのクレーンゲームの硬貨投入口に100円玉を入れた‥‥

 

そして、それをもう数十回も繰り返した。

 

「今度こそ‥‥うっ‥‥くっ‥‥よしっ!!行け!!」

 

クレーンがフィギュアの箱の上部を挟むが、フィギュアの箱は持ちあがらず、空のまま排出口に向かい開く。

 

「び、微動だにしねぇ‥‥くっ、クレーンゲームは貯金箱か!?」

 

(ま、マズイ‥‥これ以上、フィギュアに時間をかけるのは非常にマズイ‥‥)

 

(何がマズイのかと言うと、恥ずかしいんだ!!『そうまでしてフィギュアが欲しいのか?』と思われるのが、たまらなく嫌なんだ!!)

 

シュテルは若干焦りながら、景品のフィギュアを見る。

 

一応、今の自分は男ではなく女なので、そこまで怪しまれることはないのだが、つい癖で周囲を見渡してしまう。

 

(で、でもこれは違う!!決してフィギュアが欲しいんじゃない!!難易度の高いゲームに勝利したと言う達成感が欲しいんだ!!)

 

(って、事を周囲に説明するのは不可能なので、もう良いです!!‥‥好きです!!美少女フィギュア!!でも、此処で引いたら、後悔しか残らない‥‥それだけは絶対に避けたい‥‥何としても持って帰るぞ!!)

 

其れっぽい言い訳を心の中で呟き、フィギュアゲットに意欲を燃やすシュテル。

 

そこへ、

 

「あの~‥‥」

 

「ん?」

 

シュテルは後ろから声をかけられ、振り向くと其処には、ゲームセンターの制服を着た女性従業員が居た。

 

「っ!?」

 

店員の姿を見たシュテルはビクッとする。

 

しかし、そんなシュテルにお構いなしに店員は話しかける。

 

「ずらしましょうか?位置?」

 

店員は、クレーンゲームのケース内にある景品のフィギュアの位置をずらそうかと提案してくる。

 

(もしかして見られていたのか!?店員さんに‥‥フィギュアに大金をつぎ込む姿を‥‥は、恥ずかしい~。でも、違うんだ!!フィギュアが欲しいんじゃなくて!!クレーンゲームが好きなだけ‥それを分かってくれ!!下手な言い訳に聞こえるかもしれないけど、此処は甘えてみるしかない‥‥)

 

「ずらす?えっ?いや、まぁ、別にそこまで‥なんでまた?」

 

必死に体裁を整えようとするが、声が少し震えているシュテル。

 

しかし、シュテルは明らかに動揺している。

 

シュテルは、何故店員がクレーンゲームのケース内の商品をずらそうとするのか、その訳を訊ねてみると、

 

「物凄く執着なさっている様子だったので」

 

店員は営業スマイルを浮かべて、シュテルに言い放つ。

 

(はっきり言った!!この人、はっきり言ったよ!!)

 

店員の一言にこれまで、必死にひた隠そうとしていたシュテルの苦労が水の泡となった。

 

(何より厄介なのが、店員さんの綺麗な目!!あの目は決して憐れんでいるのではない!!純粋に接客しているのが伝わってくる!!)

 

そして、シュテルは店員さんの顔をまじまじと見る。

 

前世の腐った目の八幡の容姿だったら、きっと店員さんにドン引きされていたかもしれないと思う。

 

いや、それ以前にきっと店員さんは話しかけてこないだろう。

 

「お‥おね‥‥お願いします‥‥」

 

まるで油の切れた機械人形みたいにギギギと音を立てるかの様に店員さんに一礼してケース内の景品の位置をずらしてもらうシュテル。

 

「はい」

 

(これで完全にフィギュアに執着しているオタク女になってしまった‥‥)

 

店員さんは鍵を使い一度ケースを開けると景品のフィギュアの位置を取り出し口の近くへとずらしてくれた。

 

そしてシュテルはクレーンゲームを再開するのだが‥‥

 

(後ろで見ているよ‥‥スッゴイ見ているよ!!この人!!)

 

(えっ!?なんで?どうして?後ろで見ているの!?)

 

(他の仕事はないの!?)

 

何故か店員さんは景品の位置をずらした後、その場に留まりシュテルの背後からジッと見ている。

 

シュテルはどうして店員さんが自分の後ろにジッと見ているのか理解できなかった。

 

そして位置をずらしたのが功を奏したのか、そのワンゲームで景品のフィギュアをゲット出来た。

 

(よしっ、やった!!)

 

フィギュアをゲットしたシュテルは心の中でガッツポーズをする。

 

「フィギュアゲット、おめでとうございます!!」

 

(ちょっ、おまっ!?)

 

店員さんは、シュテルの片手を高々に上げて、大声でフィギュアをゲットしたシュテルを褒め称えた。

 

近くにいた客はドン引きしていた。

 

「また来てくださいね~」

 

店員さんは、明るい声でそう言うが公開処刑をくらったシュテルは、

 

「二度と来るか!!」

 

と、大声で店員に言い放った。

 

 

ゲットしたフィギュアを手にユーリと合流するシュテル。

 

時間的にもそろそろ良い頃合いだった。

 

「どうしたの?シュテルン、あんな大声を上げちゃって‥‥」

 

シュテルの叫びをユーリにも聞こえていたみたいで、どうして叫んだのかを聞いてくる。

 

「ごめん‥‥それは聞かないで‥‥」

 

シュテルとしてはある意味この世界での黒歴史になってしまったので、ユーリに聞かないでくれと頼んだ。

 

「それで、シュテルン」

 

「ん?」

 

「‥‥その‥この前のブルーマーメイドフェスタで失恋してたけど、大丈夫?」

 

「あっ‥うん‥‥まぁ、失恋何て生きていく内に最低一度は経験することだし‥‥」

 

前世では中学生時代に折本を相手に‥‥

 

そして、後世では高校二年で戸塚相手に失恋したシュテル。

 

しかし、いつまでも引きづっていても戸塚と自分が結ばれる可能性は極めて低い。

 

だからと言って簡単に忘れる事も出来なかった。

 

シュテルにとって戸塚はそれほどまでの存在だったのだ。

 

前世では同性同士だったけど後世では異性同士なので恋仲になれるはずだった。

 

しかし、シュテルが日本に来る前に戸塚は三浦と恋仲になっていた。

 

何故、自分は日本ではなくドイツに生まれてしまったのかと当初はそう思った。

 

ドイツに生まれてしまった自分を憎んだ。

 

ドイツに生まれていなかったら、身体に銃痕を残すことはなかっただろう。

 

だが、ドイツに生まれたからこそ、今の関係がある。

 

確かに日本に生まれていたら、戸塚と恋仲になれた可能性はあったかもしれない。

 

しかし、今の関係は当然築けなかった。

 

ユーリとこうしてゲーセンに来ることはなかった。

 

グレニアはもしかしたら、あの通り魔に殺されていたかもしれない。

 

IFの可能性だが、今の関係ともし前世同様、千葉に生まれていたらと言う可能性を考えると複雑だった。

 

「さて、そろそろ良い頃合いだし、戻ろう」

 

「う、うん‥‥」

 

ユーリはシュテルのメンタルを心配しつつ戻った。

 

横須賀女子の敷地内に戻ると、メイリンが二人をヒンデンブルクの食堂へと案内した。

 

何故、わざわざ艦内で昼食にとるのかと思ったが、食堂に入ると食堂は飾りつけが施されており二人が入ると、パン、パン、と、クラッカーが鳴り、

 

『艦長!!砲雷長!!お誕生日おめでとうございます!!』

 

「「えっ?」」

 

ヒンデンブルクのクラスメイトたちは、シュテルとユーリの誕生日を祝ってくれた。

 

当初、シュテルとユーリの二人は、クラスメイトたちが何を言っているのか理解できなかったが、飾りつけが施された食堂とクラスメイトたちの言葉を聞いて段々と思考が追い付くと、現状を理解した二人。

 

「あ、ありがとう、みんな‥‥」

 

「ありがとう‥‥」

 

「本当は誕生日当日にやりたかったんだけど、補習や実習が入ってなかなか時間が取れなかったから、こうして時間がとれて二人一緒に誕生会をやろうってことになったの」

 

クリスがシュテルとユーリの二人にしばらく時間を潰してきてくれと頼んだのは、二人の誕生会の準備があったからだった。

 

クラスメイトたちにはソフトドリンク、ノンアルコールビールの入ったグラスが配られ、

 

「では、艦長と砲雷長の誕生日を祝して‥乾杯!!」

 

『乾杯!!』

 

クリスが乾杯の音頭をとり、クラスメイトたちはグラスを掲げた。

 

「艦長、コレ誕生日プレゼントです。受け取ってください」

 

「砲雷長も受け取ってください」

 

シュテルとユーリはクラスメイトたちから誕生日プレゼントを渡されて、ソレを受け取る。

 

「あ、ありがとう」

 

「ありがとう、みんな」

 

前世では自身の誕生日なんて祝ってもらえなかったシュテルであったが、後世では両親からちゃんと祝ってもらっており、今はこうしてクラスメイトたちから誕生日を祝ってもらっている。

 

(そう言えば、前世でも奉仕部の奴らからは誕生日を祝ってもらったことがなかったなぁ‥‥)

 

由比ヶ浜の誕生日は祝ったことはあったが、雪ノ下と由比ヶ浜から自分の誕生日を祝ってもらった覚えがない。

 

まぁ、夏休み期間だったという事もあるが、夏休み明けの二学期になっても、二人からは 「おめでとう」 の一言もなかった。

 

当然、家族からも祝ってもらっていない。

 

去年はイギリスのダートマス校の体験入学に参加していたので、高校になって今回初、クラスメイトたちから誕生日を祝ってもらったシュテルだった。

 

なお、誕生日にはそのイギリスからカレンとグレニアから、お祝いのメッセージが届いた。

 

 

そして時間が経ち、千葉みなとに出かける為に私服へと着替えるが、花火大会‥人混みが予想される場所へと行くので動きやすい服装という事で普段から着慣れているズボンとTシャツ姿となる。

 

カナデはまた呆れるかがっかりするだろうけど、動きやすさを重視すると浴衣よりもこっちの服装の方が動きやすい。

 

そもそも、シュテルは浴衣を日本に持ってきていない。

 

レンタルもあるのだが、わざわざお金を払うモノでもないだろうと思ったのだ。

 

シュテルの予想通り、千葉みなとに近づくにつれ水上バスの乗客は増えていく。

 

乗ってくる人は浴衣を着ている人がちらほらと居るので、千葉みなとの花火大会に行くのが一目で分かる。

 

それを見ているとやはり動きやすいズボンで正解だったと思うシュテル。

 

「さて、待ち合わせ場所は‥‥」

 

水上バスの千葉みなとの停留所に到着し降りると自分以外に花火見物の観客がごった返している。

 

カナデとはこうした混雑を予想して、予め待ち合わせ場所を決めていた。

 

「ん?あっ、いた、いた‥‥ん?」

 

シュテルは探し人であるカナデを見つけたのだが、カナデの傍には女子が数人居た。

 

しかもその女子は‥‥

 

(ん?あれは相模!?)

 

カナデの傍に居た女子は前世で同じクラスだった相模とその取り巻き連中だった。

 

(そう言えば、前世でも相模はこの花火大会に来ていたな‥‥)

 

前世で由比ヶ浜とこの花火大会に来た時、屋台の区画を歩いている時、相模とその取り巻きと出会った。

 

あの時、相模は自分の事を小馬鹿にした様な目つきで見てきた。

 

その後、二学期にて相模と自分は悪評が着くきっかけとなった文化祭実行委員会になった。

 

当然この後世世界では、自分と相模はクラスメイトではなく今回が初対面だ。

 

その相模は当然、今回の花火大会に葉山を誘った。

 

しかし、葉山は千葉村での一件で両親にお説教を受け、当分の間部活以外での外出を制限されており、相模からの誘いを断っていた。

 

渋々相模は他の知り合いを連れて今回の花火大会に来ていた。

 

本音を言うと、この花火大会で葉山に告って、あわよくば葉山と男女の仲の関係まで進展させようと画策していた相模の計画は頓挫してしまった。

 

折角、葉山と男女の関係まで発展させようとしていた相模の前に葉山とは別のイケメンが居た。

 

見たところ誰かと待ち合わせをしているみたいだが、その相手はまだ来ていない様子‥‥

 

イケメンの彼を待たせるなんて、どうせろくでもない奴だろうと判断した相模はそのイケメンな男子に声をかけた。

 

更に相模としてはもし、葉山が自分になびかなかった場合、このイケメン男子を自分の彼氏にしようという打算があった。

 

つまり、相模はカナデを保険として確保しようとしていたのだ。

 

由比ヶ浜が知れば激怒しそうな案件である。

 

相模はカナデにしつこく声をかけており、カナデは結構迷惑そうだった。

 

心の中ではきっと、

 

(シュテル、早く来てくれ!!)

 

と、思っているに違いない。

 

カナデとしては待ち合わせ場所を決めて有る訳で、この場から動くに動けないし、待ち合わせ場所を変えようとして移動しても相模は着いてきそうだ。

 

(由比ヶ浜も迷惑な奴だが、相模も相模で厄介な奴だ‥‥カナデの奴、前世の俺並みに女難の相があるのか?)

 

由比ヶ浜にしろ、相模にしろ、カナデは厄介な女を引き寄せる女難の相でもあるのだろうか?と思うシュテル。

 

しかし、いつまでもカナデと相模のやり取りを見ている訳にもいかない。

 

相模はカナデの腕を掴んで強引に連れて行こうとさえしている。

 

「おーい!!カナデー!!待った!?」

 

シュテルはカナデと相模に聞こえる様に大声を出しながら、手を振り、カナデに近づく。

 

「あっ、シュテル!!」

 

相模のグイグイ押しに困惑していたカナデの顔がパァっと花が咲いたような顔になる。

 

「えっ?誰!?あの人!?」

 

相模としてはカナデに近づくシュテルを睨む。

 

「だから言っただろう?僕は待ち合わせ中なんだって‥‥それじゃあ、待ち人も来たことだし、これで失礼させてもらうよ」

 

シュテルの姿を確認したカナデは引っ付いている相模の腕を振りほどき、シュテルの下へと駆け寄っていく。

 

「すまない、人混みをかきわけるので、遅れてしまって‥‥そのせいで、随分としつこいナンパに掴まっていたみたいで‥‥」

 

「いや、ギリギリのところで来てくれたから大丈夫だよ」

 

合流した二人は足早にその場から去る。

 

後ろから相模の嫉妬めいた視線を感じた。

 

これ以上あの場に居たら相模が自分たちにネチネチと絡んでくるか、一緒に着いてきそうだったからだ。

 

「まぁ、間に合ってよかったよ。ああ、先に言っておくが、この服装に関しては、文句はなしだ。ここから先は人混みが予想されるからな、この服装の方が動きやすいんだよ。そもそも、私は浴衣を持っていない」

 

「それに関しては仕方ないと思っているよ」

 

カナデもシュテルが今回、ボーイッシュな服装をしているのは納得した。

 

 

「おおー!賑わっているなぁ~」

 

花火が打ちあがるまでまだ少々時間があったので、二人は屋台が並んでいる区画を歩いている。

 

浴衣を着ている人、家族連れの人、彼女を連れたリア充など色んな人々が屋台を回っている。

 

(そう言えば、前世でも由比ヶ浜の奴が俺を誘ってきたんだよな‥‥ここでも会わないといいんだけどなぁ‥‥)

 

前世でこの花火大会で由比ヶ浜と共に来て相模に出会った。

 

そして、この後世でもついさっき相模と出会った。

 

もしかしたら由比ヶ浜にまた会うかもしれない。

 

彼女に見つかればまたうるさく絡んでくるに違いない。

 

屋台の区画を歩いている時、シュテルは周りに注意を払いながら歩いて行く。

 

「ねぇ、シュテル」

 

「ん?」

 

「‥‥何かあった?」

 

「えっ?」

 

相模からある程度、距離を取り、彼女が追いかけて来ていないことを確認した後、カナデはシュテルに対して意味深な質問をしてきた。

 

カナデの質問にシュテルは周りの音が遠く聞こえ様に思えた。

 

「‥‥どうしてそう思う?」

 

シュテルは緊張した様にカナデに質問を返す。

 

「その‥‥なんか、シュテルが無理をしているように見えて‥‥もしかして、どこか体調が悪かった?」

 

「‥‥いや、そう言う訳じゃない‥‥体調には問題ないから心配するな」

 

やはり、ブルーマーメイドフェスタでの失恋を引いているシュテルであったが、カナデはそんな僅かなシュテルの変化に気づいていた。

 

シュテルはカナデに心配かけないようにそれを否定する。

 

今日はカナデのコンクール優勝の祝いを兼ねているので、自分のせいでカナデまで沈んだ気分にさせる訳にはいかない。

 

「さあ、辛気臭い話は止めよう。まだ花火まで時間があるから、屋台でも覗こう」

 

「あ、ああ‥‥」

 

シュテルに対して違和感を覚えつつもその本人がこの話題を取りやめたので、カナデはそれ以上の事は言わずに、シュテルと共に屋台を見る。

 

「さて、どうする?」

 

「んー、とりあえず片っ端から見ていこうよ。そんで興味が出た店に片っ端から寄っていく」

 

(どんだけ見るつもりなんだよ?お前は‥‥ピアノの練習でストレスでも溜まっているのか?)

 

カナデの言葉に内心ちょっと引いたシュテルだった。

 

その後、二人は屋台区画を歩く。

 

タコ焼きを買って二人で食べている構図はシュテルがかつて嫌ったリア充に見えた。

 

「そういえば、外国の人ってタコを嫌うって聞いたけど、シュテルは平気で食べるね」

 

「まぁ、私はお父さんが日本人だし、よく日本に来ているからね。でも、嫌いな人は食べないなぁ‥‥実際にイギリスへ行った時、タコを使った料理は見たことがなかったし」

 

「へぇ~」

 

タコ焼き食べた後、二人は再び屋台を見て歩く。

 

「ん?」

 

数ある屋台の内、シュテルはある屋台を見て立ち止まる。

 

それは 『宝釣り』 と呼ばれる屋台で、紐が数え切れないほどある中、一本の紐を選んで引っ張り、その紐に繋がっている商品を貰えるという仕組みのものだ。

 

「ん?どうしたの?シュテル‥‥ん?宝釣り?‥‥これをやりたいの?」

 

「いや、これってさ、本当に景品に繋がっているのかな?‥って思って‥‥」

 

「うーん‥‥どうなんだろう?‥‥でも、本当にヒモが景品につながっていたらお店的には赤字だろうし‥‥」

 

景品には最新のゲーム機やらデジカメ、腕時計、家電などがある。

 

それが実際に数百円で持っていかれたら、赤字も赤字、大赤字だ。

 

ならば、お店がするのは当たりのヒモの数を減らすか、考えたくはないが、当たりのヒモを無くすかだ‥‥

 

当然、当りのヒモがあるか分からないゲーム何てする筈がない。

 

二人はそのまま宝釣りの屋台をスルーした。

 

次に二人の目に入ったのは金魚すくいだった。

 

「あっ、私、やりまーす!」

 

シュテルは金魚すくいにチャレンジした。

 

「あいよ、一回300円ね」

 

シュテルは財布から100円玉を三つ取り出し、金魚すくいの店主に渡し、100円玉と引き換えに網を貰う。

 

「金魚すくいって意外と難しいんだよね」

 

「ああ、上手い人だと一つの網で何十匹と捕まえられるらしいけど‥‥」

 

水槽の中の金魚を見ながら、金魚すくいの達人ではこの一枚の脆い網でも金魚を何十匹取る動画を見たことがあるが、自分は達人ではないので、一匹でも捕まえられれば良い方だろう。

 

タイミングを見計らい金魚に向かって網を振り下ろすが、

 

ベリッ

 

物凄くいいタイミングで別の金魚が網に突進して、網には大きな穴が開く。

 

「嘘!?」

 

「あ、ははは‥‥」

 

あまりにも良いタイミングであり、更にその出来事がギャグ漫画みたいな出来事が目の前で起きたことに啞然とするシュテル。

 

動画に撮っていれば、面白ビデオ大賞にでも遅れそうな出来事だった。

 

唖然とするシュテルの隣でカナデは苦笑していた。

 

「お嬢ちゃん、もう一回やってみるかい?」

 

「いえ、大丈夫です。考えてみると、捕れても育てる環境がなかったですし‥‥」

 

((じゃあ、なんでやったんだ?))

 

カナデと店主は心の中でハモった。

 

 

次に縁日の屋台では定番である綿あめを買う。

 

「縁日の定番で、こういう空気だからこそ、なんだか美味しく感じるんだけど、口がベトベトになるのが綿あめの欠点だな」

 

はむっ、と綿あめに口をつけるシュテル。

 

「だったら、手でちょっとずつ取って食べたら?」

 

カナデのアドバイスを受け、綿あめを手でちぎって食べるが、

 

「でも今度は、指がベトベトになるな」

 

ザラメでベトベトになった指を舐めるシュテル。

 

「‥‥」

 

なんかその仕草が妙に色っぽく、カナデはその姿をジッと凝視していた。

 

そこからりんごあめと射的を楽しみ、次に目にしたのはラムネだった。

 

「そう言えば、ドイツじゃあビールが有名だけど、シュテルは飲んだことあるの?」

 

「ああ、ノンアルビールをね‥‥」

 

(つい最近、自棄酒したからな‥‥)

 

「炭酸飲料と似た感じなのかい?」

 

「炭酸と同じようなシュワシュワ感はあるけど、あとはのどごしが炭酸飲料とは違うかな」

 

「ふーん‥‥あっ、そろそろ時間だ」

 

「じゃあ、見物席に行くか」

 

花火の時間となり、二人は見物席へと向かう。

 

ド―‐ン!!

 

「「おおー」」

 

見物席に着くと丁度花火が始まり、千葉みなとの夜空に大輪が咲く。

 

「桜と同じく、花火も綺麗なんだが、あっという間に消えちゃうな‥‥」

 

「そこがネックだよね」

 

「今年の夏はどうだった?」

 

「ん?」

 

「この花火‥なんか夏休みの締めくくりって感じだからな‥‥時期的に‥‥カナデはどうよ?」

 

「いい締めくくりだったよ。コンクールも優勝できたし、こうしてシュテルと花火も見れたし」

 

「そうか‥‥」

 

(俺にとっては失恋した忘れられない夏だったけどな‥‥)

 

それぞれの面子には、様々な出来事があった夏となった。

 

もうすぐ夏休みは終わろうとしていた‥‥

 

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