やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

124 / 161
お待たせしました。

劇場版編スタートです。

今回は明乃、真白の視点ですが次回はなるべくシュテル視点で描きます。


123話

九月某日‥‥

 

空は快晴でカモメが飛び交っている神奈川県横須賀の沖合には、横須賀女子海洋学校に所属している学生艦が停泊していた。

 

そして、その海域に向かってくる多数の学生艦の姿があった。

 

それは横須賀以外に日本に存在する呉、舞鶴、佐世保の各海洋女子学校の学生艦だった。

 

他校の学生艦群はある程度の距離に到達すると全艦停止する。

 

「両舷停止!!内火艇を降ろせ!!」

 

そして各校の旗艦となる尾張級の学生艦から内火艇が降ろされる。

 

呉代表として、宮里十海、能村進愛 

 

佐世保代表として、千葉沙千帆、野際啓子

 

舞鶴代表として、阿部亜澄、河野燕

 

が、各艦に搭載されている内火艇にて横須賀に近づいてくる。

 

「いよいよですね‥‥」

 

その様子を横須賀女子の一室で横須賀女子校長の真雪と教頭ら教員はかたずをのんで見ている。

 

内火艇の進路先にある二つのケーソンには明乃たち晴風クラスの学生の姿があった。

 

彼女たちはケーソンの上にある信号灯の影から海上の様子を窺い、他校の内火艇の距離を見計らっている。

 

その彼女たちの手にはロープが握られている。

 

それはまるで、接近してくる内火艇を罠にかけようとしているみたいにも見える。

 

「よーい‥‥」

 

明乃がタイミングを見計らいクラスメイトたちにロープを引くように指示を出す。

 

クラスメイトたちは思いっきりロープを引くとケーソンとケーソンの間の海から横断幕が姿を現す。

 

その横断幕には、筆文字で、

 

『 歓迎!呉・舞鶴・佐世保海洋女子学校の皆様 横須賀女子海洋学校一同 』

 

と、書かれていた。

 

明乃たちは罠を仕掛けていた訳ではなく、他校を出迎える歓迎役としてケーソンの上に待機していたのだ。

 

横断幕を見て他校の生徒たちからは歓声が上がる。

 

『ようこそ!!横須賀へ!!』

 

他校の生徒たちがあつまり、九月のメインイベントである遊戯祭が始まった。

 

 

横須賀、呉、舞鶴、佐世保、留学生組、ブルーマーメイドの隊員一同は海上スタジアムに集合し、オープニングセレモニーが始まる。

 

「おはようございます」

 

まずは今回遊戯祭の会場である横須賀女子の校長である真雪が挨拶をする。

 

『おはようございます!』

 

「遠路はるばる集まってくれた生徒の皆さん、まずはご苦労様でした」

 

真雪は横須賀に集まった他校の生徒らの苦労を労う。

 

真雪のスピーチが始まる中、ブルーマーメイドのテントでは真霜、真雪、平賀、岸間、志度、寒川、福内の姿があるのだが、真冬は机に突っ伏して寝ており、真霜は彼女の体を揺すり起こそうとしているのだが、前日まで仕事があったのか、真冬は起きる気配がなく、真霜は呆れてそのまま放置した。

 

「皆さんは日頃、別々の学校で学んでいますが、是非この機会に交流を深めてください。また、明日の共闘遊戯会では、皆さんの頑張る姿を見せてもらえることを楽しみにしています。そしてもう一つ‥‥」

 

真雪が横に設置されている大スクリーンに顔を向けると、学生たちもスクリーンを見る。

 

「ブルーマーメイドに導入される予定の超甲巡、『あずま』がドックで最終整備を行っております。来賓の方々はぜひこの機会にご覧ください」

 

真雪は今度、ブルーマーメイドに導入される新型艦である『あずま』のプロフィール画像を見せる。

 

真冬はいつの間にか起きており、新型艦の姿を見て目を輝かせていた。

 

当然この場にはキール校からの留学生であるシュテルもいたのだが、スクリーンに映る『あずま』の姿を見て、

 

(新型艦なのは良いが、設計が随分と前時代的じゃないか?)

 

と、思った。

 

新鋭艦ならば、ホワイトドルフィン、東舞鶴海洋学校で採用されている あきづき型 または各海洋女子学校、ブルーマーメイドで採用されている インディペンデンス級みたいな型の艦か、前世におけるイージス艦みたいなステルス性能を意識した艦影を想像していたのだが、あずま の姿は旧海軍から払い下げられた学生艦みたいな武骨な姿をしている艦だった。

 

シュテルは、今はこうして学生艦の艦長をしているが、けしてミリオタではなかったので知らないが、このあずまは、前世における旧日本海軍が計画した艦であった。

 

超甲巡、正式名称は「B65型超甲型巡洋艦」。

 

文字通り重巡を超える重巡として計画された艦であり、第五次海軍軍備充実計画(マル5計画)にて二隻の建造が計画されていた。

 

しかし、前世(史実)ではマル5計画から改マル5計画への見直しの際に航空母艦(空母)の重要さから、建造計画より削除され廃案となり二隻とも建造中止となった。

 

前世(史実)では生まれることのなかった艦がこの後世では、誕生する結果となった。

 

当然学生艦のように外見こそ、前時代的なデザインであるが、艦内の機能はレーダー、通信システム、射撃機能、機関性能、搭載コンピューターなど最新の機械を導入した艦になっているのだろう。

 

「この後は毎年恒例の歓迎祭です。町中で我が校の生徒が皆さまをおもてなしするので、お楽しみください」

 

オープニングセレモニーが終わり、各校の生徒たちは横須賀について記載されたパンフレットを持ち、町へと観光に出る。

 

もえかも自分のクラスの出し物の現場に向かおうとした時、

 

「その制服‥貴女が新しい駿河の艦長ね」

 

「はい」

 

もえかはふと誰かに話しかけられた。

 

もえかが振り向くとそこには宮里、千葉、阿部の三人が居た。

 

「突然、ごめんなさい。私たちはそれぞれ、尾張、三河、近江の艦長よ」

 

宮里がもえかに自分たちの事を紹介する。

 

「同じ尾張級の艦長として挨拶をさせてもらっていいかしら?」

 

「ようこそ横須賀へ、遠路お越しいただいた上、先輩方の方からありがとうございます。私は‥‥」

 

もえかが宮里たちに自己紹介をしようとした時、

 

「知名艦長!!」

 

「角田さん、どうしたの?」

 

クラスメイトの角田が血相を変えて走ってきた。

 

「すみません、ちょっとトラブルがあって‥‥すみませんが来ていただけますか?」

 

どうやら、クラスの出し物で何かトラブルが起きた様子だった。

 

「わかったわ。でも‥‥」

 

もえかはチラッと宮里たちの方を見る。

 

「行ってあげなさい、クレーム処理はスピードが命よ!」

 

(クレーム?)

 

阿部がなにか違った見方をしており、宮里は首を傾げる。

 

「こっちのことは気にするな、また後でな」

 

千葉も自分たちのことは気にせずに、トラブルの解消に向かえと言う。

 

「すみません先輩方、また改めてご挨拶に伺います」

 

「ええ、楽しみにしているわ」

 

もえかは宮里たちに一礼して角田と共に走って行った。

 

「何か‥‥思ったよりもほわっとした子ね」

 

走っていくもえかの後姿を見ながら阿部がもえかの印象を口にする。

 

「知名と呼ばれていたな‥‥どうやら宗谷ではなさそうだぞ」

 

宗谷家の三女‥‥真白が横須賀女子に入学している情報は既に知っていたのだが、どの艦に所属しているかまでは知らない宮里たち。

 

真白の姉である真霜と真冬は、横須賀女子時代には駿河の艦長を務めていたので、てっきり駿河の艦長は宗谷家の三女だと思っていたのだが、もえかの名字を角田から聞いてもえかが宗谷家の三女ではない事が分かった。

 

「‥‥もしかして受験に失敗したんでしょうか?」

 

宗谷家の三女が横須賀女子に入学したと言う情報は誤報だったのかと思う宮里。

 

「そこまで極端な事ではないだろう‥‥多分」

 

千葉はそんな宮里にツッコミを入れた。

 

 

「ちょっと、小耳に挟んだけどさ‥‥」

 

「なに?なに?どんな話?」

 

若狭が駿河にある情報を話す。

 

「この遊戯祭に来たブルマーの人ってさぁ、なんでもスカウトを兼ねているって話だよ」

 

「えっ?それって活躍したら卒業した時、お声がかかるってこと?」

 

要約すると真霜たちブルーマーメイドの隊員らが将来有望な人材の確保としてこの遊戯祭に顔を出しており、真霜たちのお眼鏡にかなうとほぼ顔パスで学校卒業後にはブルーマーメイドになれる可能性があるという事だ。

 

「ありそうな話ね」

 

広田が若狭の話を肯定するが、若狭が言うようにあくまでも噂なので、審議は不明である。

 

「噂話に夢中になっている暇はないわよ」

 

そんな三人を黒木がいさめる。

 

「そうね、すぐに歓迎祭が始まるわ」

 

「おうおう、ちゃっちゃっと行くぞ!!走れ走れ」

 

柳原が三人の背を押して持ち場へと向かう。

 

横須賀女子の生徒らは今回の遊戯祭では他校の生徒たちをもてなすホスト役なのだ。

 

審議が不明な噂話を鵜呑みにしている暇はない。

 

「はぁ~大丈夫か?ウチのクラスの出し物は‥‥」

 

そんな機関科のクラスメイトたち姿を見て真白は不安になる。

 

変なモノを見せればそれはクラスだけではなく、横須賀女子の威厳にも関わるのだ。

 

「何日も準備したし、きっと大丈夫だよ」

 

明乃はクラスメイトたちのことを信じているようで真白に大丈夫だと言う。

 

「骨が折れますが、全て視察して回らないと‥‥」

 

しかし、何事にも完璧・完全なんてことはないので一応、クラスの出し物を見て回り問題がないかチェックすることにした。

 

何せ晴風クラスの出し物は他のクラスと比べるとあまりにも多かったからだ。

 

明乃と真白がクラスの出し物の視察に向かうとその二人の後姿を見ながら古庄教官と真雪が何やら話をしていた。

 

「例の件、私が話すと言う事でよろしいですか?校長」

 

「ええ、任せるわ‥‥」

 

古庄教官は明乃か真白に何やら話すことがあるみたいだった。

 

横須賀の町はお祭りムード一色となっており、車道もほとんどが歩行者天国となっており、さまざまな屋台が出ていた。

 

展示品のスキッパーに乗る小学生を見て、

 

(あの子たちもブルーマーメイドを目指すのかな?)

 

「海の仲間は家族、今日は大家族だね」

 

「そうですね」

 

明乃と真白の二人が歩行者天国を歩いていると、

 

「パン粉!!パン粉!!」

 

等松がパン粉を両手で抱えながら走っていく。

 

「等松さん?」

 

何かあったのかと思い、二人は等松の後を追いかける。

 

「まさか、パン粉がきれるなんて‥‥こんなにお客さんが来るなんて予想外よ」

 

晴風クラスの主計科はとんかつ店の店舗を借りてとんかつを提供しており、美波はミニセグウェイに乗りながら、出来上がった料理をテーブルに運んでいた。

 

厨房は伊良子と杵崎姉妹が主力となり等松は三人の指示で動いていたのだが、厨房の床が濡れていて足を滑らせてしまい手に持っていた皿が宙を舞う。

 

「うわわわ」

 

「おっと」

 

明乃と真白はダイビングキャッチをして落ちそうになった皿を掴む。

 

「ありがとう~助かったよぉ~」

 

皿を割らずに済み、等松は二人に礼を言う。

 

「我々も手伝った方がいいですね」

 

「だね」

 

二人は客の数が減るまで手伝い、ようやく一区切りつき、等松は晴風クラスが自主制作をした映画で野間が出る為、その映画を見に行く。

 

明乃と真白の二人も大丈夫だろうと判断し、とんかつ屋を出た。

 

そして二人は等松が見に行った晴風クラスの自主映画が上映される戦艦三笠の一室に来た。

 

「こっちは順調そうですね」

 

「そうだね」

 

客入りもあり、特に問題は無さそうで、晴風クラスの航海科のクラスメイトたちがもぎりや艦内の案内、飲み物、ポップコーンの販売をしていた。

 

ここまでは問題が無かったのだが、最後の最後で問題が起きた。

 

映画を映すスクリーンを降ろそうとしたら、鈴の力が思いのほか強かったのか、スクリーンを破ってしまった。

 

これでは映画を上映することが出来ない。

 

「ど、ど、ど、どうしよぉ~これじゃあ上映できないよぉ~私のせいで~」

 

当然、鈴はやらかしてしまった事態の大事に泣いている。

 

「鈴ちゃんが悪いんじゃないよ」

 

「そうぞな」

 

勝田と山下は鈴を慰めているが、空気は重い。

 

「スクリーンの代わりになる物があれば良いんだよね?」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「白くて大きいモノがあれば‥‥」

 

「あっ、分かりました。等松さん、一緒に来て」

 

「えぇぇ~また走るのぉ~でも、マッチのためなら」

 

すると真白は何か思いついたみたいで、等松を連れてどこか行く。

 

 

それから少しして、晴風クラスが制作した自主映画は上映される。

 

「模造紙って綺麗に映るんだね」

 

「上等なスクリーンぞな」

 

真白は模造紙をスクリーン代わりになることを思いつき、それを実行したのだ。

 

そして、スクリーンにはシュテルに抱きしめられている真白が写る場面となる。

 

「‥‥」

 

その場面を見て思わず赤面してしまう真白。

 

(あの時の碇艦長‥‥温かったな‥‥)

 

こうしてあの場面の映像を見ていると撮影とは言え、シュテルに思いっきりハグしてもらった時の事を思い出す。

 

「なんか、自分が映っている所を見ると恥ずかしいね」

 

「そ、そうですね」

 

明乃も自主映画には参加しており、自分が映し出されている場面を見て頬を赤く染めた。

 

 

歩行者天国の一角では通信科と応急員の和住、青木が同人誌を販売していた。

 

「新刊ありますよぉ~」

 

「立ち読み大歓迎です」

 

和住と宇田が客寄せをして、青木、八木、万里小路が店番をしている。

 

「ここは問題なさそうだな」

 

「ええ、絶好調ッス」

 

「私は問題なけど、売れてもいない」

 

「八木さんはどんな本を作ったの?」

 

「私もお手伝いしました」

 

しかし、八木と万里小路が書いた電波に関する本の売れ行きは今一つだった。

 

「これは‥‥人を選ぶ本だな‥‥」

 

顔を引きつらせて真白は八木と万里小路が制作した電波の本はその手のマニアックな人以外買わないと思った。

 

「副長、副長も本どうぞッス」

 

「いくらだ?」

 

「クラスの人には無料で献本しているッス。ネタを提供してもらっているんで‥‥」

 

青木は同じクラスメイトには無料で配布していたのだが、描かれていたのはGLの本らしく、中身を見た真白はまたもや赤面するが、明乃は内容があまり理解できなかったみたいで、

 

「ねぇ、シロちゃん、これナニしているの?」

 

と、聞いてくる始末だった。

 

 

町の一角に警察の取り調べ室を模したセットがあり、そこでは西崎と立石が漫才をしていたのだが、セットが設置されている場所があまりにも人気のない所だったため、二人の漫才を見ているのはほんの数人だけだった。

 

それでも二人は漫才を続けているがしらけている感じだった。

 

反対に二人以外の砲雷科のクラスメイトがやっている焼き鳥の屋台は主計科のとんかつ屋同様、お客の入りが多く長蛇の列となっている。

 

「こちらでーす」

 

「ガツンとお客が来ちゃったねぇ~」

 

「全然さばききれないし‥‥」

 

人員も限られているので、上手く客をさばき切れていない様子。

 

「押さないでください~」

 

「順番にご案内します~」

 

「うわっ、ズキュンと火傷しちゃったよぉ~」

 

油がはねて日置が手を火傷してしまう。

 

 

「これは何とかしないと‥‥」

 

何とかしたいところだがいいアイデア浮かばない真白。

 

「並んでいる間、退屈にしなければ良いんじゃないかな?」

 

「なるほど、わかりました」

 

すると、明乃は西崎と立石を連れてきて、並んでいる間の暇つぶしという事で焼き鳥屋の屋台の隣に取り調べ室のセットを移動させ二人に漫才をさせた。

 

並んでいるお客も退屈しのぎができ、西崎と立石は大勢の客に自分たちの漫才を見てもらいwin-winな展開となった。

 

 

機関科のクラスメイトたちは柳原の伝手で手に入れた船のボイラーで銭湯をやっていた。

 

銭湯の造りは学生が出した出し物にしては結構立派で大きな簡易テントには脱衣所が設置されており、浴室には湯船の他にシャワーも完備されていた。

 

柳原の勧めで銭湯に入る明乃と真白。

 

洗い場には通常の銭湯と同じ様にシャンプーとボディーソープもあり、湯船である程度温まった二人は同じタイミングで湯船を出て同じタイミングでバスチェアーに座り、同じタイミングでスポンジにボディーソープをかけ、同じタイミングで同じ部位を洗う。

 

そんな二人の様子を湯船から、

 

「なんなんですかね?あの動きの一致率は‥‥?」

 

「よっぽど息があっているのかしら?」

 

時津風艦長の榊原つむぎと副長の長澤君江は明乃と真白のシンクロした動きを見ていた。

 

「艦長、私たちもうちの子にアレをしたら受けますよ」

 

長澤は自分たちも明乃と真白のようにシンクロしながら体を洗えば同じクラスメイトたちから受けを取れると進言するが、

 

「なんで?クラスメイトから笑いをとらないといけないの?」

 

と、長澤の提案を却下した。

 

 

あらかたクラスの出し物の視察を終え、帰ろうかとしている中、

 

「あっ、テアちゃん」

 

明乃はドイツの民族衣装であるディアンドルを見に纏ったテアの姿を見つけて声をかける。

 

「ちゃん付けはマズいのでは?」

 

テアはこう見えても自分たちよりも一個上の学年‥‥つまり、先輩なのだが、その先輩相手にちゃん付けは流石にマズいと思う真白であるが、テアは気にしている様子はなかった。

 

「ああ、晴風の艦長に副長」

 

「うわぁ、テアちゃんの衣装かわいい~」

 

明乃はディアンドル姿のテアを褒める。

 

「あ、ありがとう」

 

「確かドイツからの留学組は合同で出し物をしているんでしたっけ?」

 

真白がテアにドイツの留学組の出し物を確認するように訊ねる。

 

「ああ、そこのステージ付きの店舗でドイツ料理とノンアルコールのビールを提供している。それにシュテルの生演奏もあるぞ」

 

「い、碇艦長の演奏‥‥」

 

テアの口からシュテルの名前が出てドキッとする真白。

 

「ああ、シュテルのヴァイオリンの腕はなかなかのモノだぞ‥‥はぁ~同じ音楽家の家系なのにどうして私には才能がなかったんだ‥‥」

 

テアもシュテル同様、音楽家の一族なのだが、テアの唯一の苦手教科が音楽だった。

 

もし、自分もシュテル同様音楽の才能があれば一緒にセッションが出来た筈だった。

 

しかし、自分には音楽の才能がなかったので、諦めざるを得なかった。

 

「へぇ~シューちゃんのヴァイオリンか‥‥」

 

「良ければ、聴いてみてあげてくれ」

 

テアは明乃と真白にドイツからの留学組が出し物をしている場所が書かれているチラシを手渡した。

 

「どうしますか?」

 

クラスの出し物の視察はあらかた終わっており、時間はたっぷりある。

 

真白は本音を言えば行きたかった。

 

しかし、それを口には出さずに明乃に訊ねる。

 

「折角だし行ってみようか?」

 

明乃はやはり友人が居るクラスの出し物に興味があったのか、行ってみることにした。

 

それにクラスの出し物を視察して自分たちはまだお昼ご飯を食べていなかった。

 

昼食を食べるついでに行こうと明乃は真白を誘った。

 

「はい!!」

 

二人はドイツからの留学組の出し物がある場所へと向かった。

 

そこは、普段はレストラン&バーとして使用されている店舗でステージにはピアノが置いてあり、ピアノの演奏とお酒、料理が楽しめるちょっと夜の大人な雰囲気なお店だった。

 

バー機能があるとはいえ、今は学生が貸してもらっているのでアルコール飲料は取り扱っていないが、代わりにノンアルコールビールが提供されているので雰囲気は壊されてはいない。

 

「ほぇ~‥‥」

 

明乃は当然、このような大人の雰囲気なお店はこれまでの人生で来たことはないので、お店の雰囲気にのまれているのか唖然とした顔で店内を見ている。

 

「お母さんや真霜姉さんなら似合いそう‥‥」

 

真白も明乃ほどではないが、お店の雰囲気にのまれかかりつつも自身の母である真雪や姉の真霜ならば、着飾ってカウンターの席でグラスを傾けている姿が想像できた。

 

真冬はどちらかと言うとお堅いイメージの店よりも居酒屋みたいな大衆食堂が似合いそうだと思う真白。

 

「どうぞ、こちらへ」

 

「あっ、はい」

 

店内を見渡していると、テア同様ディアンドル姿の学生から声をかけられ席に案内される明乃と真白。

 

なお、ミーナは自主映画に関係しているので、こちらではなく三笠にて映画の方を手伝っている。

 

「どうぞ、メニューです」

 

席に着くとメニュー表を手渡され、メニューを見る二人。

 

「うーん、何にしようかな?」

 

「赤道祭の時にちょっとだけ食べましたが、ソーセージは美味しかったです」

 

「じゃあ、メインはソーセージを使った料理にしよう。後は‥‥」

 

二人は燻製肉とザワークラウトの煮込みとジャガイモのパンケーキ、マッシュルームスープを注文した。

 

「お飲み物はいかがいたしましょうか?」

 

「私はオレンジジュースをください」

 

真白は無難にオレンジジュースを注文し、

 

「私はノンアルコールの黒ビール」

 

明乃はノンアルコールの黒ビールを注文した。

 

「か、艦長!?お、お酒は‥‥」

 

「大丈夫だよ、ノンアルコールだから」

 

「は、はぁ‥‥」

 

「ソーセージの種類はいかがなさいますか?」

 

「ソーセージにも種類があるんですか?」

 

「はい。ご注文いただいた煮込み料理ですと、ドイツではレバーソーセージが合いますが、独特の風味があるので、苦手な方もいらっしゃいますので、フランクフルトソーセージへの変更もできます」

 

「レバー‥‥」

 

赤道祭の時に出されたソーセージはフランクフルトソーセージだった。

 

そして、レバー‥‥血で出来ているソーセージを真白は想像してちょっと顔を顰める。

 

「じゃあ、私はレバーソーセージで」

 

しかし明乃はレバーソーセージにチャレンジしてみる様だったが、

 

(変なチャレンジをすると私の経験則から失敗するからな、ここは無難に‥‥)

 

「私はフランクフルトソーセージでお願いします」

 

「かしこまりました」

 

真白は無難に赤道祭の時に食べたフランクフルトソーセージにした。

 

藪を突っついて蛇を出して不幸になるよりは無難な選択をして安全策をとる。

 

真白のこれまでの経験則だった。

 

 

それから少しして‥‥

 

「お待たせしました。ご注文の燻製肉とザワークラウトの煮込みとジャガイモのパンケーキ、マッシュルームスープです」

 

注文した料理が届いた。

 

「ジャガイモのパンケーキにはこちらのアップルソースをかけてください。では、ごゆっくり」

 

「外国には変わった料理がいっぱいあるね」

 

「そうですね。デザートメニューの所には玉ねぎのパイなんてありました」

 

「玉ねぎのパイ?それは確かに変わっているね」

 

通常、パイと聞くとリンゴやレモン等の果実を使用したパイを想像するが、海外では玉ねぎやニシンを使用したパイもある。

 

海に出れば‥‥ブルーマーメイドになれば外国への渡航も当たり前のように増える。

 

そうなれば、人々の出会いの他にこうした食との出会いもあるだろう。

 

食事が進んで行く中、明乃は例のレバーソーセージを食べている。

 

ノンアルコールとは言え黒ビールも美味しそうに飲んでいる。

 

真白としてはフランクフルトソーセージも美味しいのであるが、レバーソーセージの味も気になった。

 

「艦長、レバーソーセージの味ってどんな味ですか?」

 

「やっぱ、レバーって言うくらいだから、ちょっと鉄みたいな味もするけど、ソーセージだから、皮や背脂の触感もあってなかなか美味しいよ‥‥でも、これは確かに食べる人を選ぶかも」

 

明乃は、レバーソーセージは好みが分かれると言うが彼女自身は、レバーソーセージは大丈夫みたいだ。

 

「あ、あの‥艦長‥‥」

 

そう言われるとレバーソーセージの味が気になる。

 

「ん?シロちゃんも食べてみる?」

 

「‥‥は、はい」

 

明乃は真白の空気を察して自分のレバーソーセージを一本あげることにしたのだが、

 

「はい、シロちゃん、あーん」

 

「えっ?」

 

明乃は真白にレバーソーセージを『あーん』で食べさせようとする。

 

「か、艦長」

 

「あーん」

 

「‥‥」

 

「あーん」

 

明乃が結構頑固と言うか、一度決めた事をなかなか曲げない事はあの航海で真白自身がよく知っている。

 

故に明乃が引き下がることはないだろう。

 

このままではレバーソーセージを食べることは出来ない。

 

幸い周りにクラスメイトの姿は無い。

 

そこで、真白は

 

「あ、あーん‥‥」

 

妥協してレバーソーセージを明乃に食べさせてもらった。

 

「どう?美味しい?」

 

「もぐもぐ‥‥」

 

レバーソーセージの味は確かに明乃が言う通り、濃厚なレバーのような味がしたが、今しがた自分が食べたフランクフルトソーセージよりもやわらかく、ねっとりとしてコクがある味だった。

 

「普通のソーセージとは確かに違った味ですが、これはこれでなかなかのモノですね」

 

真白もレバーソーセージは大丈夫だった。

 

二人が食事をしていると、

 

「皆様、これより、ヒンデンブルク有志の生演奏をお聴きください」

 

明乃と真白がステージに目をやると、シックな黒いワンピースを身に纏い手にはヴァイオリンを持ったシュテルの姿があった。

 




最初に劇場版を見た時、冒頭で真雪が説明していた超甲巡の『あずま』が強奪されるのかと思いましたが、何の関係もなかったことにちょっと残念な思いもありました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。