やはり俺の転生生活は間違っていない。~転生先は蒼き人魚の世界~   作:ステルス兄貴

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128話

 

 

遊戯祭二日目の競闘遊戯会‥‥

 

各校の生徒たちは奮戦し、ポイントを競い合っていたが午前の部が終了し、昼休憩となり生徒たちは暫しの休息となる。

 

「ぬ~う~」

 

「ニャ~」

 

五十六、多聞丸の二匹の猫たちも伊良子と杵崎姉妹ら晴風クラスの炊事委員が作った心尽くしの弁当が乗っているビニールシートの上で日光浴をしながら、その弁当を食べている晴風クラスのメンバーを見ている。

 

「美味しい‥‥」

 

弁当箱からおかずの一つであるハンバーグを食べる美波。

 

「美波さん!ハンバーグまだ沢山有るよ!」

 

「肉じゃがも作ってきたから」

 

「どんどん食べてね!」

 

クラスメイトに昼ご飯の弁当を配る伊良子、杵崎姉妹、駿河、若狭の五人。

 

「楽しい‥‥これこそ和気あいあい」

 

「美波さん、飛び級でずっと忙しかったから、こんな風にご飯食べるのは初めてなのよね!」

 

「ああ、代えがたい喜びを感じる」

 

最初の航海が終わってからはほぼ毎日研究室にて缶詰状態で、こうして外でクラスメイトたちと和気藹々で昼食を摂るのはあの航海以来久しぶりだった。

 

しかも太陽の下の外で食べるなんて美波としては新鮮な経験であった。

 

飛び級した故に小学校で行われる運動会、遠足、修学旅行、職業体験などのイベントは美波とは無縁だった。

 

今回は、航海自体はないが、クラスメイト全員参加の遊戯祭だったので、美波も競技があるとはいえ、クラスメイトと過ごすこの時間を思いっきり満喫している様子だった。

 

「ねぇ、艦長‥‥この子、誰?」

 

若狭が気になった事を口にする。

 

明乃と真白が座っているシートにはスーの姿があり、彼女は晴風クラスの中に自然と溶け込んでいるかのように平然とシートに座っているが、やはり容姿と髪の毛の色から流石にバレる。

 

「あっ、スーちゃん?私とシロちゃん、シューちゃんの友達だよ!」

 

明乃はクラスメイトにスーを紹介する。

 

「OKー!じゃあ、一緒に食べよう」

 

駿河がスーに一緒に食べようと誘う。

 

「オオー、タベテイイノカ?はむっ‥‥はむっ‥‥はむっ‥‥」

 

スーはおにぎりを頬張るとあっという間に平らげてしまう。

 

その後も弁当をパクパクと食べる。

 

「凄い食欲ぞな!?」

 

勝田がスーの食欲に驚く。

 

「名前、スーちゃんって言うの?」

 

「ウン!!」

 

「何処から来たの?」

 

山下がスーに名前と出身地を訊ねる。

 

「外国!!」

 

スーは外国のどの国からは来たのかは言えなかったのか『外国』の一言で済ませる。

 

「私たちはね、海洋学校って言って、船乗りの勉強をする学校の生徒なの!」

 

内田は、自分たちの事をスーに紹介する。

 

「オー!!皆、船ノ学校ノ子カ!?」

 

内田から明乃たちが船乗り専門の学校に通う学生であることを知るスーは驚いている様子。

 

「そうだよ!で、私は艦のコックさん!」

 

「ハハッ!スーハ、コックサン大好キ!!」

 

伊良子の役職を聞いて目を輝かせるスー。

 

彼女は料理人志望なのだろうか?

 

「フフフ‥‥と言うか、食べるのが大好きなんじゃないの?」

 

和住から料理人志望ではなく、料理を食べることが好きなのではないかと訊ねる。

 

「ソウトモ言ウ!!」

 

どうやら和住の言う通り、スーは料理人志望ではなく、料理を食べる事が好きみたいだった。

 

『ハハハ‥‥!!』

 

スーの言動に笑いが起こる。

 

「スーハ船モ大好キ!!スーノ国デハ船ノ仕事シテイタ。サイトシーイングノゲストヲ乗セタリ大キイ船モ動カスヨ!」

 

スーは故郷での自分の仕事内容を明乃たちに話す。

 

彼女は自分たちとほぼ変わらない年齢か自分たちよりも年下な印象なのだが故郷では既に働いているみたいだ。

 

それもアルバイトのような感じではない。

 

昨日、スーは海辺の近くでテントを張る際、海が大好きだと言っていたが、その理由は彼女の職業からくるものだったみたいだ。

 

「まだ小さいのに大したものだ」

 

美波がスーを褒めるが、彼女自身も飛び級して博士号を習得している事から美波自身も十分に凄い。

 

すると突然、スーが美波の元に来て、

 

「スーノ方ガ大キイ!」

 

スーは自分と美波の身長では、スーの方が大きいと言う。

 

確かに並んでみるとスーの方がわずかながらもスーの方が高かった。

 

「ぐ、ぐぬぬ‥‥」

 

その事実に美波はショックを受ける。

 

美波は3㎝差とは言え、年上のテアにも勝っていた。

 

もし、この場にテアが居ればかなりのショックを受けていたかもしれない。

 

『ハハハ‥‥!!』

 

スーと美波の行動とリアクションで再び笑いが起こる。

 

「スーちゃんの方がちょっと高いね」

 

「こ、これは誤差という‥‥」

 

美波は自分とスーの身長は誤差の範囲であると言う。

 

なお、美波の身長は143㎝、スーの身長は145㎝‥‥

 

僅か2㎝の差であった。

 

この差を彼女たちがどのように判断するのかは彼女たちにしか分からない。

 

しかし、スーは外国生まれで美波は日本人‥‥

 

今後、もしかしたらスーと美波の身長差が著しくなる可能性もあるが、テアと言う前例があるので、何とも言えない。

 

 

そんな中、真白はスッとその場から立ち上がり何処かへと向かう。

 

明乃はソレに気づき、途中まで真白を追いかけたが、明乃は真白に声をかけることなく、立ち止まり不安そうな顔で真白の背中を見つめていた。

 

「ミケ、何デ行カナイ?」

 

「えっ?何でって‥‥」

 

スーが明乃に声をかけ、真白を追いかけないのか訊ねてくる。

 

明乃はスーの言葉に上手く返答できない。

 

「ミケはシロと一緒ガイインジャナイノ?」

 

「私は‥‥」

 

「ん?」

 

「‥‥私は今、やりたい事をやれている‥‥シロちゃんや皆のおかげで‥‥だからシロちゃんにもやりたい事をやって欲しい‥‥」

 

真白に比叡艦長への移籍話が来ている事は晴風クラスの中では明乃と真白しか知らず、真白自身があの時、即答しなかったことから真白が移籍か残留か悩んでいる事は明乃でも分かる。

 

「ソレがミケの気持チ‥‥ダッタラ、気持ちの通リニスレバイイ」

 

「うん‥‥そうだね‥‥」

 

明乃は真白が比叡に移籍するも晴風に残留するもそれはきっと真白が悩んで、悩んで、悩みぬいた答えの結果なのだから真白の決断を尊重するつもりだった。

 

 

その頃、シュテルはもえかと行動を共にしていた。

 

昼食を摂ろうとした時、もえかからメールが入ったのだ。

 

メールの内容は、『ちょっと話したいことがあるので、一緒にお昼ごはんを食べない?』と言うお誘いだった。

 

「ごめん、ちょっと私、別の人とお昼を摂る。昼休憩中には戻るから」

 

「ん?また晴風の所?」

 

「いや、駿河の艦長の所」

 

「えっ?駿河の艦長?」

 

シュテルがもえかにお誘いを受けた事に驚いている間にシュテルはもえかとの待ち合わせ場所へと向かってしまう。

 

「むぅ~‥‥」

 

ユーリは訝しむようにシュテルの背中を見ていた。

 

 

「お待たせ、もかちゃん」

 

「ううん、私も今来たところだよ」

 

それからシュテルはもえかと合流し、昼食を摂る。

 

食事の最中、シュテルはもえかからある話題を振られた。

 

「えっ?宗谷さんが?」

 

「うん‥‥最初の競技の後に『貴女にとって艦長とは何ですか?』って、真剣な顔で‥‥」

 

もえかは最初の競技の後、真白から艦長とは何ぞや?と言う質問を受けた事をシュテルに相談した。

 

横須賀女子の役職は入学試験の結果から判断される。

 

一度決まった役職が変わるのは稀な事で病欠による休学、素行不良による停学または退学、一身上の都合による転校などで役職の欠員が出た時ぐらいである。

 

その他に将来、ブルーマーメイドになり艦長職に就きたいと言うのであるならば、真白からの質問内容も分からない訳ではないが、いくら真面目な真白でも彼女たちは五ヵ月前に横須賀女子へ入ったばかりの新入生‥‥

 

真白が将来、ブルーマーメイドの艦長職になりたいと思っていてもあまりにも早すぎる。

 

将来についての質問であるならば、母親の真雪と現役ブルーマーメイドの艦長職に就いている真冬が居るので、二人から聞けばいい。

 

なにも自分の同級生のもえかから聞く必要はない筈だ。

 

「宗谷さん、なんでそんな質問をしたのかな?って思って‥‥」

 

当然、横須賀女子の生徒であるもえかも役職の交代の場合のケースは知っている。

 

「確かに‥‥将来、艦長職をめざすにしてもまだ早すぎる‥‥宗谷さんに移籍話でも来たのかな?」

 

シュテルの予測はまさに当たっていた。

 

「もし、移籍話が来ていたとしたら、きっと宗谷さんはいの一番に晴風艦長であるミケちゃんに話しているだろうけど、もかちゃんはミケちゃんからそう言った話とか聞いていない?」

 

もし、真白に移籍話が来ていたのであれば、真白はきっと明乃に話、真白から移籍話を聞いた明乃はもえかにどうすればいいのか話していそうである。

 

「ううん、ミケちゃんからは聞いてないかな」

 

しかし、もえかの下にはそのような話はきていないと言う。

 

もえかに真白の移籍話が来ていないのであれば、真白の移籍話はまだ不確定の域の話だ。

 

「それで、もかちゃんは宗谷さんの質問に何て答えたの?」

 

シュテルはもえかに真白に何と答えたのかを訊ねる。

 

もえかが抱く艦長像と言うのがどんな姿なのかが気になったのだ。

 

「私は、『皆のお姉さんになれたら』って答えたよ」

 

「お姉さんか‥‥」

 

「ん?」

 

「確かに、もかちゃんは頼りになるってところがあるからね」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん‥‥でも、いくら頼りになると言っても一人でなんでもかんでも溜め込んじゃダメだよ。もかちゃんだって一人の人間なんだし、海の仲間は家族‥ちゃんと周りの人を頼るんだよ」

 

「う、うん‥‥あっ、シューちゃん」

 

「ん?」

 

「もし、シューちゃんが宗谷さんに同じ質問をされたらなんて答える?」

 

もえかはシュテルの答えも気になり、訊ねる。

 

「私?うーん‥‥そうだな‥‥」

 

シュテルが描く艦長像‥‥

 

「ちょっとズレているかもしれないけど、頼られたいってところもあるけど、皆とは本物の関係を築けるほどの大きな人物になりたいかな?」

 

「本物の関係?」

 

「うん‥‥人は簡単に他者を裏切る‥‥自分の保身のため、自分の昇進のため‥‥例え全員からでなくてもいい‥‥一人だけでもいい‥‥心から腹を割って話せる人が傍に居て欲しい‥‥そんな人間関係を築けるような人徳者になりたいなって‥‥」

 

シュテルはもえかに自分が理想とする艦長像を話した。

 

「‥‥」

 

もえかはそんなシュテルの理想とする艦長像を黙って聞いていた。

 

「あまりにも壮大で現実味の無い理想だったかな?」

 

「ううん、そんなことはないよ。シューちゃんは私から見ても立派な艦長さんだもん。シューちゃんがクラスの皆を纏めていてくれたから私たちはすぐに助かったんだもん」

 

「‥‥ありがとう」

 

もえかの言葉に感謝するシュテルだった。

 

「シューちゃんは頼られたい大きな存在になりたいって言うけど、なんだかお母さんって感じもするよね」

 

「えっ?お母さん?」

 

「うん」

 

もえかはシュテルの艦長像に対するイメージを口にする。

 

「そ、そう‥‥」

 

シュテルにとって母親と言われて真っ先に思い浮かんだのは今の自分の母親であるアスカであり、前世の母親の姿はいまや顔さえも覚えていない忘却の存在だった。

 

 

生徒たちが昼食を摂り午後の競技に向けて英気を養っている時、教員・ゲストで呼ばれたブルーマーメイドの隊員たちも昼休憩をとっていた。

 

本部テントの下で真霜が昼食の弁当を食べていると、弁当の隣に置いてあるスマホがある着信を知らせる。

 

「あっ‥‥」

 

真霜が箸を置いてスマホをタップして、内容を確認すると彼女の顔が険しくなる。

 

真霜は席を立つと今スマホに入ったばかりの情報を真雪に耳打ちする。

 

真霜に入った情報は他のブルーマーメイドの隊員たちにも通達されたのか福内と平賀も真剣な表情で真霜の傍に駆け寄る。

 

 

もえかと昼食を終えたシュテルがクラスメイトの下へ戻ろうとする中、反対側から真霜、福内、平賀とすれ違う。

 

もえかとシュテルは脇に寄り敬礼するも三人は険しい表情のまま通り過ぎる。

 

「随分と険しい顔をしていたけど、何かあったのかな?」

 

シュテルは真霜たちの表情から何かトラブルが起きたのかと思った。

 

真霜と前世におけるあの魔王‥‥もとい、雪ノ下の姉である陽乃の声が似ていることもあるが、真冬ほどではないが、真霜とシュテルは一応、顔を何度も合わせている。

 

その真霜がシュテルに声をかけずに険しい顔をしているのであれば、何かトラブルが起きたのではないかと予想が出来た。

 

 

その頃、明乃たちが居る場から人知れず去った真白は一人校舎の入り口前に立っていた。

 

真白はこの遊戯祭の最中で移籍か残留かの決断を迫られており、その決断が下せないまま注意散漫になってしまった最初の競技の事を未だに引きづっており、決断を下せない事も彼女の心を乱していた。

 

そんな時、

 

「シロ!」

 

「えっ?」

 

真白は背後から声をかけられた。

 

振り向くとそこにスーが立っていた。

 

「トイレ何処?」

 

スーは真白にトイレの場所を訊ねる。

 

「ああ、中に入って右だ」

 

真白はスーにトイレの場所を教えるが、何故かスーはトイレに向かわず真白の事をジッと見ている。

 

「何だ?トイレに行くんじゃないのか?」

 

真白はスーにトイレに行くんじゃないのかと問う。

 

するとスーは、

 

「シロは‥‥此処二何ヲシニ来タ?」

 

と、真白に何の目的・目標があって横須賀女子に入学したのかを問いてきた。

 

「此処に‥私は‥‥何をしに来たのか‥‥」

 

入学当初ならば、真白は迷わず、『母や姉たちと同じく将来ブルーマーメイドになるためだ』 と答えていただろう。

 

しかし、今の真白にはその言葉が出てこない。

 

それは自分でも本当に不思議なくらいで、自分が横須賀女子に入学した目標でさえ失いかけているかのような感じだった。

 

「シロは、何ガシタイ?」

 

「何がしたいのか決めないとな‥‥」

 

比叡クラスに移籍するか、

 

それともこのまま晴風クラスに残留するか、

 

この話にも早々に決断を下さなければならない。

 

でも、迷いに迷っている今の不安定な自分の心では下した決断が本当に最良の答えなのか自信がない。

 

そんな迷っている真白に対してスーは、

 

「ミケは、シロのヤリタイ事分カッテイルミタイ!」

 

先程、明乃とのやり取りの中で、明乃が口にした彼女の心情を真白に伝える。

 

「えっ?」

 

スーの言葉に唖然とする。

 

「シロがヤリタイ事ヤッテホシイッテ言ッテイタ」

 

「そうか‥‥」

 

スーから明乃の気持ちを聞いて、ましろは、少し安心した。

 

明乃は真白が下した決断を尊重し、例え比叡クラスに移籍してもそれは真白がやりたいことであるのだから自分は邪魔をしないし、止めもしない。

 

比叡クラスの移籍の話が来たからって何も別の学校に転校する訳ではないし、同じ学校の敷地内にいるのだから会いに行こうと思えば実習中以外ならば会いに行ける。

 

そう思うとモヤモヤした気持ちが少し晴れたように感じた。

 

「スーは、やけに私たちの事気にかけてくれるんだな?」

 

明乃の気持ちを伝えてくれたスーに真白はどうして昨日会ったばかりの他人である自分たちの世話を焼いてくれるのかを訊ねる。

 

「当タリ前!ダッテ一緒ニゴ飯食ベタシ、寝ル時モ一緒ニイテクレタ!もうファミリーと同ジ!」

 

たった一晩の一宿一飯をしただけなのにスーにとってはその行為はとても大事なことのようで、スーにとって自分たちは大切な家族の一部だと思っていた。

 

だからこそ、スーは自分たちの世話を焼いてくれるのだと言う。

 

彼女の今の言葉は明乃があの航海でよく口にした 『海の仲間は家族』 に通ずるモノがあり、スーと明乃の姿が被って見えた。

 

「フフフ‥‥そうか‥スーのお父さんも早く見つかると良いな。家族は一緒にいるのが‥‥」

 

「モウ直グ見ツカル」

 

スーは、既に自分の父親を見つけた様な顔をする。

 

(父親から連絡でも来たのだろうか?)

 

真白は自分たちがスーと別れた後、父親から何らかのコンタクトが来たのかと思った。

 

真白が真相を訪ねようとした時、

 

「間もなく午後の部を開始します!学生の皆さんは会場に集合して下さい!」

 

午後の競技を開始するアナウンスが響く。

 

「スーは行ク!」

 

「えっ?」

 

「シロ、バイバイ!」

 

「あっ‥‥あ‥‥トイレじゃなかったのか?」

 

スーは何故かトイレとは逆方向に歩いて行く。

 

自分にトイレの場所を聞いてきたのにトイレに行かなかったスーの後姿を呆然と見る真白がそこに居た。

 

そして、そんな真白の後姿を黒木は茂みからジッと心配そうに見ていた。

 

 

「午後は図上演習の競技を行います!個人競技なので参加希望者は本部に申し出て下さい!」

 

午後の部は会場を海から校舎内の大講堂に移り、図上演習の競技となる。

 

図上演習とは、艦隊戦を想定した模擬演習の事で、兵棋演習とも言う。

 

各海洋学校における航海科の入学試験でもそれはあり、海図の上に船の駒を置いて航海法やどのような針路をとるのかを教官に説明する。

 

今回は、入学試験ではないので海図と駒を使用するのではなく、コンピューターによる艦隊シミュレーションバトルとなっている。

 

「やはり暗黙の了解で、どのクラスも艦長がエントリーするみたいですね!」

 

「毎年そうらしいわね!指揮能力がモロに出る競技だし」

 

エントリーの名前を見ると各校に所属する学生艦の艦長たちが名乗りをあげている。

 

その中には呉の宮里、能村 佐世保の千葉、野際 舞鶴の阿部、河野らが当然のようにエントリーしている。

 

ただ個人競技なのでクラスメイトの参加者が多ければ多いほど、勝つメンバーも増え、クラスに入るポイントを増やすこともできる。

 

「個人競技だし、シュテルンは参加しないの?艦長なんだし」

 

ユーリがシュテルに参加しないのかと訊ねる。

 

「いや、私はいい」

 

しかし、シュテルは参加せず観客側に回ると言う。

 

「えっ?どうして?」

 

「ちょっと気になることがあって、すぐにでも動けるようにしておきたくてね」

 

「気になる事?」

 

「ああ‥‥」

 

「それって、晴風クラスの子?それともお昼ご飯を一緒に食べた駿河の艦長?」

 

ユーリがハイライトオフのジト目で見ながら聞いてくる。

 

「ちょっ、ユーリ怖いよ‥‥」

 

午前中にテアのビキニ姿に対してヤンデレ発言をしてユーリからドン引きされたシュテルだが、今は反対にハイライトオフの目をしたユーリにドン引きしている。

 

「それで、どの子が気になっているのかな?‥‥かな?」

 

「だから、違うって!!なんでそんな結論になるの!?」

 

ユーリの誤解を解くのに必死になるシュテルだった。

 

シュテルがユーリに誤解を解くため奔走している中、晴風クラスでは、

 

「艦長!」

 

「んっ?」

 

真白が意を決したように真剣な表情、真剣な声で明乃に声をかける。

 

「艦長、お願いがあります!」

 

「‥‥」

 

そして、真白は明乃にある願い事をする。

 

「私は図上演習競技に出ます!」

 

『えっ?』

 

真白の宣言に明乃をはじめとして晴風クラスのクラスメイトがギョッとする。

 

そんなクラスメイトを尻目に真白はなおも続ける。

 

「艦長も出て下さい!出て、私と勝負して下さい!」

 

『ええ!?』

 

真白の願いを聞いて納沙たちは驚愕する。

 

「うん、分かった!」

 

明乃は真白の願いを聞き入れる。

 

この時、明乃は真白が比叡クラスへの移籍を決め、真白自身が自分の力を試そうと思っていた。

 

(シロちゃん、比叡クラスに行くことに決めたんだね‥‥)

 

(いいよ!私はシロちゃんがそう決めたのなら何も言わない‥‥今はシロちゃんの相手を私の全力をもって相手になるだけだよ!!)

 

(今のシロちゃんの実力がどれくらいなのか見せてもらうよ!!)

 

『えええっー!?』

 

真白の挑戦を受けた明乃に晴風クラスのクラスメイトたちはまたも驚愕する。

 

こうして、明乃と真白の二人は図上演習にエントリーした。

 

「‥‥」

 

駿河クラスの観客席では、もえかが何か険しい顔をしていた。

 

「艦長!エントリーされないんですか?」

 

角田がもえかに図上演習競技に参加しないのかを訊ねる。

 

「私はパスするから出たい子は自由に出て」

 

もえかはシュテル同様、図上演習に参加しない事を伝える。

 

「えっ!?よろしいんですか?艦長なら優勝が狙えると思うのですが‥‥」

 

角田の言う通り、もえかの実力ならば優勝‥‥とまではいかなくても上位の成績に上り詰めることは出来そうである。

 

「ごめん、ちょっと気になることがあってね‥‥」

 

「は、はぁ‥‥」

 

角田としてはなんか煮え切らない思いがありつつも個人競技なので無理強いは出来ない。

 

もえかはスマホのメール機能を作動させ、誰かにメールを素早く打つと席を立ち、その場から去って行く。

 

「‥艦長、どうしたんだろう?」

 

エントリーメンバーの中にはあの晴風の艦長もあったので、普段のもえかならば、真白同様、明乃と試合出来ると言って喜んでエントリーしそうだったにもかかわらず、今のもえかが逆に険しい表情をしてエントリーせずに何処かへと行ってしまったのだから、角田は違和感を覚えずにはいられなかった。

 

 

「だ、だから、ユーリ、落ち着いて‥ねっ?」

 

「私はいたって冷静だよ‥‥それはもう、大西洋の凪の海の如くにね」

 

「目が冷静じゃないよ!!怖いよ!!嵐の前の静けさだよ!!それにジリジリとにじり寄っているし!!」

 

シュテルの前にはユーリがジリジリとにじり寄っており、シュテルの背後は壁‥‥

 

既に退路が断たれている。

 

ドン!!

 

「っ!?」

 

シュテルはユーリに壁ドンされる。

 

「だから、本当に何でもないって!!それに私の取り越し苦労かもしれないし‥‥」

 

追い詰められながらもシュテルはユーリに事情を説明していると、

 

ブブ‥‥ブブ‥‥

 

マナーモードにしていたシュテルのスマホが振動する。

 

「あっ、ちょ、ちょっとゴメン」

 

これ幸いにとシュテルはユーリの壁ドン体勢から抜け出て、スマホを取り出すと、もえかからのメールが受信されていた。

 

「誤解?何でもない?取り越し苦労?」

 

「っ!?」

 

ユーリがシュテルのスマホを覗き込んでいた。

 

「メール‥‥駿河の艦長じゃない‥‥競技に参加しなかったのも、競技中に密会して二人でしっぽりなの?」

 

(もかちゃん、タイミングが悪いよ!!)

 

ユーリの壁ドンから抜け出せた事は幸いだったのだが、これがせめて広告等のメールならこのままうやむやに出来たのだが、メールの送り主がもえかだったのはタイミング的に最悪であった。

 

「そんな訳ないでしょう!?第一、もかちゃんは女の子だよ!?と、兎に角、用が出来たからゴメン!!」

 

(うわっ、これは完全に誤解されたかな?)

 

誤解を招く行動をとってしまったは、今はそんな悠長な事を言ってもられずシュテルはもえかの下へと向かった。

 

当然この後の出来事によりユーリへの誤解はとけることになるのだか、この時はまだシュテルもユーリも知る由がなかった。

 

 

その頃、桟橋ではスーがどこから調達してきたのかエンジン付きのゴムボートを両手で担ぎ上げ、海へと降ろし、ボートに乗るとエンジンを起動させる。

 

故郷でガイドや水先案内人をしているだけあってスーは手慣れた動きだ。

 

そして、そのまま海の上を進んで行く。

 

彼女の進行方向さきには先程の内火艇を使用しての障害物航走の競技に使っていた廃棄フロートがあった。

 

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